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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1230513
審判番号 不服2008-15082  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-16 
確定日 2010-08-17 
事件の表示 特願2002-555972「ブレージングシートおよびブレージング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月18日国際公開、WO02/55256、平成16年 7月29日国内公表、特表2004-522855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2002年1月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年1月16日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月15日付けで拒絶理由通知がなされ、同年11月28日付けで明細書等の手続補正がなされたが、平成20年3月10日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件審判は、この査定を不服として、同年6月16日付けで請求がなされたものである。


2.本願発明の認定

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年11月28日付けで手続補正がなされた特許請求の範囲で、請求項1に記載された次の事項により特定されるものと認められる。

【請求項1】4xxx系アルミニウム合金のクラッドブレージング材と、3xxx系アルミニウム合金の心材と、内部ライナーアルミニウム合金のクラッドライナー材とが順次三層からなり、かつ前記各合金がそれぞれ以下の成分(質量%)からなる、ブレージングシート。
【表1】



3.原査定の理由

原審の拒絶査定の理由の一つは、要するに、
「本願発明は、その優先権主張の基礎とされた出願前に日本国内において頒布された刊行物、
特開昭57-101640号公報 (以下、「引用例」という。)
に記載された発明に基いて、その優先権主張の基礎とされた出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものである。


4.引用例の記載

引用例には、次の記載がある。

摘記1(第1頁右欄第3行?第19行)
従来、一般に、例えば水道水で代表されるような淡水環境中、特にCuなどの重金属イオンを含有する苛酷な環境中で使用されるAl合金製熱交換器の水管には、Cu:0.05?0.20%、Mn:1.0?1.5%、Alおよび不可避不純物:残りからなる組成(以上重量%、以下%の表示はすべて重量%を意味する)をもつたAl合金(A.A.規格3003)などの芯材と、Zn:0.8?1.3%、Alおよび不可避不純物:残りからなる組成をもつたAl合金(同7072)などの皮材の2層クラツド材、さらに前記クラツド材の芯材側に、Si:7?15%を含有し、さらに必要に応じてMg:0.3?2.5%およびBi:0.01?0.3%のうちのいずれか、または両方を含有し、残りがAlと不可避不純物からなる組成をもつたAl?Si系合金のろう材をクラツドした3層クラツド材からなる複合ブレージングシートが使用されている。

摘記2(第2頁右上欄第6行?左下欄第19行)
そこで、本発明者等は、Al合金製熱交換器の製造に用いられる上記のような従来複合ブレージングシートのもつ問題点を解決すべく研究を行なつた結果、
(a) 皮材を構成するAl?Zn系合金にMn成分を含有させると、腐食量が著しく低下するようになると共に、局部腐食の発生が抑制されるようになること。
(b) 皮材を構成するAl?Zn系合金にMn成分を含有させると、その含有量に比例して電気化学的に貴になること。
(c) したがつて、上記(b)項にもとづいて、皮材のMn含有量を芯材のMn含有量より低くじておけば、Znを含有し、かつMn含有量の少ない皮材は芯材に比して電気化学的に卑になることから、上記(a)項の結果とも合まつて、万一皮材に局部腐食が生じても孔食への成長を著しく抑制することになり、さらに真空ろう付けの結果、上記のように皮材のMn濃度分布に不均一が生じても芯材と皮材におけるMn含有量の差によつて芯材が皮材に比して卑になることはないので、皮材のもつ犠牲陽極効果が十分発揮されること。
以上(a)?(c)に示される知見を得たのである。
この発明は上記知見にもとづいてなされたものであつて、芯材と皮材、あるいは芯材と皮材とAl?Si系合金のろう材のクラツド材からなる複合ブレージングシートにおいて、前記芯材を少なくともMn:0.3?1.5%を含有するAl?Mn系合金で、前記皮材を少なくともMn:0.1?1.3%およびZn:0.1?2.0%を含有するAl?Mn?Zn系合金で構成し、かつ前記芯材のMn含有量≧前記皮材のMn含有量+0.2%を満足する耐孔食性にすぐれたAl合金製熱交換器用複合ブレージングシートに特徴を有するものである。

摘記3(第3頁右上欄第2行?第19行)
実施例
通常の方法により第1表に示される最終成分組成をもつた芯材用Al合金A?D、皮材用Al合金1?8、およびろう材用Al合金a,bをそれぞれ溶製し、鋳造して鋳塊とし、均質化熱処理を施した。ついで前記鋳塊を通常の条件にて熱間圧延して板厚:8mmの熱延板とし、さらに皮材用およびろう材用熱延板に対しては冷間圧延を施して、板厚:1mmの冷延板とした。この状態で前記芯材用熱延板、皮材用冷延板、およびろう材用冷延板を第2表に示される組合せにしたがつて重ね合わせ、熱間圧延にてクラツドし、さらに冷間圧延を施して板厚:0.5mmとすることによつて本発明複合ブレージングシート(以下本発明複合シートという)1?9および比較複合ブレージングシート(以下比較複合シートという)1?4、さらに噴霧試験用複合ブレージングシート(以下試験用複合シートという)をそれぞれ製造した。


第1表


第2表


5.引用発明の認定

引用例には、芯材と皮材とAl?Si系合金のろう材のクラツド材からなる複合ブレージングシート(摘記2参照)の実施例として、「本発明複合シート9」なる次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(摘記3参照)。

「 芯材と皮材とAl?Si系合金のろう材のクラツド材からなる複合ブレージングシートであって、複合シートの構成が、以下成分組成(重量%)の合金からなる複合ブレージングシート。

ろう材 芯材 皮材
(合金b) (合金C) (合金6)
Si 9.50 0.09 0.11
Fe 0.18 0.19 0.20
Cu 0.02 0.10 0.02
Mn 0.01 1.19 0.71
Mg 1.53 0.02 0.01
Zn 0.01 0.01 1.45
Bi 0.05 - -
Zr - 0.10 -
Al 残 残 残 」


6.発明の対比(一致点・相違点の認定)

本願発明と引用発明を対比する。

引用発明の「ろう材」「芯材」「皮材」は、それぞれ本願発明の「クラッドブレージング材」「心材」「クラッドライナー材」に相当する。また、本願発明の「4xxx系アルミニウム合金」「3xxx系アルミニウム合金」が、それぞれ「Al?Si系合金」「Al-Mn系合金」を意味することは、当業者に自明である。
してみると、本願発明のうち、
「4xxx系アルミニウム合金のクラッドブレージング材と、3xxx系アルミニウム合金の心材と、内部ライナーアルミニウム合金のクラッドライナー材とが順次三層からなり、かつ前記各合金がそれぞれ以下の成分(質量%)からなる、ブレージングシート。

4xxx系 3xxx系 内部ライナー
アルミニウム合金 アルミニウム合金 アルミニウム合金

Si 6.0?13% 最大0.6 最大0.4
Fe 最大0.30 最大0.7 最大0.7
Cu 最大0.10 0.1?0.7 0.01?0.4
Mn 最大0.10 0.8?1.7 0.7?1.5
Mg 最大1.8% 最大0.5
Zn 最大0.10 最大0.10 1.3?1.5
Ti 最大0.05 最大0.10 最大0.05
Al 残部 残部 残部 」
(審決注:ただし、「残部」とは、以下の相違点に係る添加成分を除く残部の意)
の点は引用発明と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1:
本願発明のクラッドブレージング材はBiを含まないのに対し、引用発明のろう材はBiを含む点。

相違点2:
本願発明の心材はMgを0.15?0.60%含むのに対し、引用発明の芯材はMgを0.02%とZrを0.10%含む点。


7.容易性の判断(相違点の検討)

各相違点について検討する。

相違点1について :
引用例には、引用発明の前提として、ろう材が、BiやMgを必要に応じ添加したAl-Si系合金であることが記載されている(摘記1参照)。そして、引用発明と同様の実施例には、Biを含まないAl-Si系合金「合金a」をろう材に使用することも記載されている(摘記3参照)。
してみると、引用発明のろう材で使用されたAl-Si系合金において、Biは任意添加成分と認められるから、これを不要にすること、すなわち、相違点1を解消することは、当業者が容易になし得た成分変更である。

相違点2について:
引用例には、引用発明において、芯材は、少なくともMn:0.3?1.5%を含有するAl?Mn系合金であることが記載されているが、その余の成分について特段の限定はない(摘記2参照)。そして、引用発明と同様の実施例には、Zrを含まないAl?Mn系合金「合金A」「合金B」や、Mgを0.31%含むAl?Mn系合金「合金D」を芯材に使用することも記載されている(摘記3参照)。
してみると、引用発明の芯材で使用されたAl-Mn系合金において、ZrやMgは任意添加成分と認められるから、Zrを不要にすると共にMgを0.15?0.60%含むものとすること、すなわち、相違点2を解消することは、当業者が容易になし得た成分変更である。

そして、引用発明において、前記相違点1,2を共に解消することに格別の困難性はなく、本願発明が、前記相違点1,2により、当業者が予期し得ない効果を奏するともいえない。


8.むすび

以上のとおり、本願発明は、その優先権主張の基礎とされた出願前に日本国内において頒布された引用例に記載された発明に基いて、その優先権主張の基礎とされた出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-08 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2002-555972(P2002-555972)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 孔一  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 大橋 賢一
植前 充司
発明の名称 ブレージングシートおよびブレージング方法  
代理人 太田 恵一  

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