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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1230534
審判番号 不服2007-30898  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-15 
確定日 2011-01-13 
事件の表示 平成11年特許願第144128号「多結晶シリコンの製造方法及び多結晶シリコン製造用ルツボ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月28日出願公開、特開2000-327474〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成11年5月24日の出願であって、平成19年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、期間内の同年12月11日付けで手続補正書が提出されたものである。その後、平成22年4月5日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対する回答書が同年5月18日に提出された。

II.平成19年12月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年12月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1が、補正前の平成19年7月12日付けの手続補正書により補正された、
「【請求項1】 ルツボに収容したシリコン融液にルツボの内側底面から上方に正の温度勾配を付与して、該ルツボの内側底面から上方に前記シリコン融液を結晶化する多結晶シリコンの製造方法において、
前記ルツボの内側底面に複数の孔部を等距離間隔に配列し、冷却板によって前記ルツボの底面全面を均一に冷却して、当初該孔部内に結晶を形成し、その後該結晶を核として前記ルツボの内側底面から上方にシリコン融液を結晶化することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」から、
「【請求項1】 ルツボに収容したシリコン融液にルツボの内側底面から上方に正の温度勾配を付与して、該ルツボの内側底面から上方に前記シリコン融液を結晶化する多結晶シリコンの製造方法において、
前記ルツボの内側底面に複数の孔部を等距離間隔に配列し、冷却板によって前記ルツボの底面全面を均一に冷却して、当初該孔部内に結晶を形成して擬種結晶とすることで前記ルツボの内側底面に複数の前記擬種結晶を等距離間隔に配列し、その後前記擬種結晶を核として前記ルツボの内側底面から上方にシリコン融液を結晶化することにより、同程度の結晶粒径を有する結晶粒からなる多結晶シリコンを得ることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」と補正された。

2.上記補正については、
(1)補正前の請求項1における「当初該孔部内に結晶を形成し、その後該結晶を核として」を、「当初該孔部内に結晶を形成して擬種結晶とすることで前記ルツボの内側底面に複数の前記擬種結晶を等距離間隔に配列し、その後前記擬種結晶を核として」に補正し、
(2)補正前の請求項1における「結晶化すること」を、「結晶化することにより、同程度の結晶粒径を有する結晶粒からなる多結晶シリコンを得ること」に補正するものである。
上記(1)の補正事項は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「結晶」について、これを「擬種結晶」とし「前記ルツボの内側底面に複数の前記擬種結晶を等距離間隔に配列」することを限定し、上記(2)の補正事項は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「多結晶シリコン」を「同程度の結晶粒径である多結晶シリコン」に限定したものであり、これらの補正事項は、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものといえる。
そして、これらの補正事項は、願書に最初に添付した明細書の段落【0019】、【0012】に記載されており、新規事項を追加するものでもない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

3.独立特許要件について
3-1.引用文献の記載事項
(1)引用例1:特開平9-2897号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1)
(ア)「【請求項1】半導体に対して不活性な雰囲気下で、半導体の種結晶を底面に配置したるつぼ内に半導体材料を装入し、るつぼ内で半導体材料を加熱手段によって加熱融解し、るつぼ底部から熱を奪いながら底部の下面温度T1を半導体材料の融点以下に保ち、次いでるつぼを冷却し融解材料を凝固させる多結晶半導体の製造方法において、
るつぼを加熱昇温しながらるつぼ底部の下面温度T1を測定し、その温度の時間変化率ΔTが設定値以上になるとるつぼの加熱手段による加熱を停止し、実質的に種結晶を融解することなしに半導体材料のみを融解した後、融解材料を凝固させ種結晶から多結晶を成長させることを特徴とする多結晶半導体の製造方法。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「【請求項3】 前記種結晶がるつぼの底面全面を覆うように配置される請求項1記載の多結晶半導体の製造方法。
・・・
【請求項6】前記半導体材料がポリシリコンであり、多結晶半導体が多結晶シリコンである請求項1?6記載の多結晶半導体の製造方法。」(【特許請求の範囲】)
(ウ)「種結晶を用いるHEM法は、特公昭58-54115に開示されている。この方法では、材料(サファイア、ゲルマニウム等)融解時の温度検知を、目視と熱電対の絶対温度測定の両方で行っている。目視で行うとガラスのくもり等により結晶成長毎に変動があり再現性に乏しい。また一方熱電対を使用する方法でも本来熱電対の絶対温度は、高温使用(たとえば1400℃以上)のとき経時変化が著しくこれもまた再現性に乏しい。その結果、材料の融解温度検知はおおよその目安としてとらえ、ヘリウムガス等を流してるつぼ底部を冷却し、種結晶を溶解させないようにしている。しかしながら、ヘリウムガスは非常に高価であり工業的にこの方法を用いて結晶を製造することは実用的でない。また、種結晶を用いる結晶成長方法では、種結晶以外の材料をすべて融解させる必要があるが、このHEM法では種結晶周辺の材料は融解せずに残っている可能性があり、方法自体の制御性は信頼がおけないと考えられる。」(段落【0004】)
(エ)「半導体材料が融解するとき、融解熱を吸収するので、・・・るつぼ内の材料が融解するにつれて失われる融解熱が減少し、るつぼ、特にるつぼの底部の下面の温度が上昇する。したがって、このるつぼの底部の下面温度T2の変化は、るつぼ内の半導体材料の融解状態を反映していることになり該温度の時間変化率ΔTを測定し、これが設定値以上になると直ちにるつぼの加熱手段による加熱を停止する。そうすると、るつぼの底面にある種結晶の融解が阻止される。このままの状態で、るつぼの徐冷を開始し、融解した半導体材料が、溶融せずに残った種結晶を核として凝固し始め、るつぼ底面から上部に向けて方向性をもち多結晶半導体の結晶が成長する。」(段落【0009】)
(オ)「さらに、種結晶がるつぼの底面全面を覆うように配置すると、半導体結晶が均一の方向性をもって底面からるつぼ上部に向けて成長し、得られる多結晶半導体の品質が良くなる。」(段落【0011】)
(カ)「るつぼ9は密閉容器1中、その底部が支持台10によって支持されている。・・・支持台10はさらに台座11上に載置され、台座11は下方に連結する筒体12によって中央の長軸のまわりに回転できる。筒体12の回転は、台座11、支持台10を介してるつぼ9に伝わり、るつぼ9も筒体12の回転に従って回転する。るつぼ9に半導体材料が装入され、加熱炉4内でるつぼ9が加熱されるとき、この回転によってるつぼ9内の半導体材料の温度分布は均一となる。」(段落【0019】)
(キ)「また台座11は中空二重構造に成っており冷却部11aを備え、筒体12も同様に二重管状である。冷却媒体(たとえば冷却水)が両者内を強制循環され、台座11が支持する支持台10を冷却する。冷却媒体は、冷却媒体槽15から連続的に筒体12に供給される。この冷却機構は、結果的には支持台10が当接するるつぼの底部の下面と熱交換し底部を冷却する役割を果す。・・・」(段落【0020】)
(ク)「図3は、本発明に用いられるるつぼ9の一例を示す斜視図である。図中、るつぼ9の底面には半導体の種結晶がるつぼ底面を覆うように敷き詰めてある。」(段落【0023】)
(ケ)「実施例1 るつぼ(一辺55cm、高さ40cmの四角柱状)の底面中央部にシリコン種結晶(CZ(100)、直径5インチ、厚み10mm)を置いた。・・・」(段落【0033】)
(コ)「実施例2 実施例1で使用したのと同一のるつぼの底面全面にシリコン種結晶(CZ(100)、直径5インチ、厚み10mm)を4×4配列で16個載置した。図3参照。・・・得られたシリコン多結晶インゴットを切断してその断面を観察したところ、インゴットのるつぼ面に対応する周辺端部で1部種結晶の融解が見られた。これはるつぼ内部の温度分布がるつぼ壁部でるつぼ中央部より高くなるためであった。加熱炉内で加熱体とるつぼ側壁部との距離がるつぼ中央部より接近しているためにこのような温度分布がしばしば起こる。」(段落【0039】)
(サ)【図1】(第7頁)には、「るつぼ底面全面が支持台に当接している様子」が窺え、また、【図3】(第8頁)には「四角柱状のるつぼ底面に半導体材料種結晶が規則正しく配列された様子」が窺える。

(2)引用例2:特開昭58-176194号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2)
(ア)「回折格子状の規則正しい微細な凹凸を設けた端面を有しかつ等径の側壁を有することを特徴とする単結晶成長用容器」(特許請求の範囲)
(イ)「本発明は種子結晶を用いずして、成長方位を制御し、かつ小傾角粒界の少ない高品質な単結晶の取得を可能にする単結晶成長用容器(るつぼ又はアンプル)に関するものである。」(第1頁左下欄9?12行)
(ウ)「従来、るつぼ又はアンプル中に単結晶を成長させるために、
(a)るつぼ底又はアンプル端に種子結晶を設置する方法[・・・]と、
(b)るつぼ底又はアンプル端を嘴状に尖がらせ、そこでの優先成長粒を用いる方法[・・・]が利用されてきた。
第1図に従来の種子結晶を用いる結晶育成方法の一例を示す。・・・
この結晶育成方法において、種子結晶4は通常温度勾配の大きいところに設置されるため(これは結晶成長速度を大きくとるために必要である。)種子結晶4を上部の未飽和溶液5に溶解させることなく、かつ単結晶成長に最適な温度でもって接触させることは極めて難しいという欠点があった。」(第1頁左下欄13行?同頁右下欄下から4行)
(エ)「第2図にるつぼ底に嘴状の尖端部をつけ、そこでの優先成長粒を種子結晶として用いる方法例を示す。・・・この方法では、前述のようにあらかじめ設置した種子結晶を用いる方法の欠点を除くために、第2図(a)に示したように、自然に発生かつ淘汰されて残った優先成長粒10を用いんとするものであるが、成長してくる単結晶8の方位が優先成長粒10で決定され、かつ単結晶成長持続に必要な優先成長粒の臨界大きさ尖端部9の形状に大きく依存するため、方位制御した単結晶を再現性よく取得することは不可能であった。特に、この方法では第2図(b)に示すように、尖端部9に連なるるつぼ底部の湾曲部分にそって結晶径を大きくする過程で、るつぼ壁が新たな核発生場所になり多結晶化が進行すること、・・・小傾角粒界が発生することなどが欠点であった。」(第1頁右下欄下から3行?第2頁左上欄下から3行)

3-2.対比・判断
引用例1には、摘記事項(ア)に「・・・半導体の種結晶を底面に配置したるつぼ内に半導体材料を装入し、るつぼ内で半導体材料を加熱手段によって加熱融解し、るつぼ底部から熱を奪いながら底部の下面温度T1を半導体材料の融点以下に保ち、次いでるつぼを冷却し融解材料を凝固させる多結晶半導体の製造方法において、
るつぼを加熱昇温しながらるつぼ底部の下面温度T1を測定し、その温度の時間変化率ΔTが設定値以上になるとるつぼの加熱手段による加熱を停止し、実質的に種結晶を融解することなしに半導体材料のみを融解した後、融解材料を凝固させ種結晶から多結晶を成長させる・・・多結晶半導体の製造方法。」が記載されている。この記載中の「半導体材料」及び「多結晶半導体」は、摘記事項(イ)の「半導体材料がポリシリコンであり、多結晶半導体が多結晶シリコンである」ことから、それぞれ「ポリシリコン」及び「多結晶シリコン」であるといえる。
また、上記記載の「種結晶を底面に配置したるつぼ」については、摘記事項(イ)、(オ)の「種結晶がるつぼの底面全面を覆うように配置される」との記載、摘記事項(コ)の「実施例2 ・・・るつぼの底面全面にシリコン種結晶(・・・直径5インチ・・・)を4×4配列で16個載置した」との記載から、るつぼ内には複数の種結晶が底面全面を覆うように載置されているといえる。
また、同様に上記記載の「るつぼ底部から熱を奪いながら底部の下面温度T1を半導体材料の融点以下に保ち、次いでるつぼを冷却し融解材料を凝固させる多結晶半導体の製造方法において、
るつぼを加熱昇温しながらるつぼ底部の下面温度T1を測定し、その温度の時間変化率ΔTが設定値以上になるとるつぼの加熱手段による加熱を停止し、実質的に種結晶を融解することなしに半導体材料のみを融解した後、融解材料を凝固させ種結晶から多結晶を成長させる」ことについては、摘記事項(カ)に「るつぼ9は密閉容器1中、その底部が支持台10によって支持されている」こと、及び「支持台10はさらに台座11上に載置され」ること、摘示事項(キ)に「台座11は中空二重構造に成っており冷却部11aを備え、・・・台座11が支持する支持台10を冷却する」ことが記載され、また、摘記事項(エ)に「るつぼの底面にある種結晶の融解が阻止される。このままの状態で、るつぼの徐冷を開始し、融解した半導体材料が、溶融せずに残った種結晶を核として凝固し始め、るつぼ底面から上部に向けて方向性をもち多結晶半導体の結晶が成長する」ことが記載され、摘示事項(サ)に「るつぼ底面全面が支持台に当接している」ことが窺えることからみると、「るつぼの底面全面と当接する冷却される支持台によりるつぼ底面全体を冷却して実質的に種結晶を融解することなしに半導体材料のみを融解した後、るつぼの徐冷を開始し、融解した半導体材料が、種結晶を核として凝固し始め、るつぼ底面から上部に向けて方向性をもって多結晶が成長する」ことが記載されているといえる。
以上の記載を本願補正発明の記載振りに則して整理すると、引用例1には、
「るつぼ底面全面を覆うように複数のシリコン種結晶を載置し、るつぼ内でポリシリコンを融解させ、るつぼの底面全面と当接する冷却される支持台によりるつぼ底面全体を冷却して実質的に種結晶を融解することなしに半導体材料のみを融解した後、るつぼの徐冷を開始し、融解したポリシリコンを種結晶を核として凝固し、るつぼ底面から上部に向けて方向性をもち多結晶半導体の結晶が成長する、多結晶シリコンの製造方法」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願補正発明と引用例1発明を対比すると、
引用例1発明の「るつぼ」、「冷却板」及び「融解したポリシリコン」は、本願補正発明の「ルツボ」、「冷却された支持台」及び「シリコン融液」に相当し、引用例1発明の「るつぼ底面全面を覆うように複数のシリコン種結晶を載置し、るつぼ内でポリシリコンを融解させ、るつぼの底面全面と当接する冷却される支持台によりるつぼ底面全体を冷却して実質的に種結晶を融解することなしに半導体材料のみを融解した後、るつぼの徐冷を開始し、融解したポリシリコンを種結晶を核として凝固し、るつぼ底面から上部に向けて方向性をもち多結晶半導体の結晶が成長する」は、本願補正発明の「前記ルツボの内側底面に複数の孔部を等距離間隔に配列し、冷却板によって前記ルツボの底面全面を均一に冷却して、当初該孔部内に結晶を形成して擬種結晶とすることで前記ルツボの内側底面に複数の前記擬種結晶を等距離間隔に配列し、その後前記擬種結晶を核として前記ルツボの内側底面から上方にシリコン融液を結晶化することにより、同程度の結晶粒径を有する結晶粒からなる多結晶シリコンを得る」ことと、「冷却板によってルツボの底面全面を冷却し、前記ルツボの内側底面に複数の種結晶を配列し、その後種結晶を核として前記ルツボの内側底面から上方にシリコン融液を結晶化することにより、多結晶シリコンを得る」ことで共通している。
そして、引用例1発明の「るつぼ底面から上部に向けて方向性をもち多結晶半導体の結晶が成長する、多結晶シリコンの製造方法」にあっては、るつぼ内でポリシリコンを融解させ、るつぼの底面全面と当接する冷却される支持台によりるつぼ底面全体を冷却して、るつぼの徐冷を開始していることからみて、るつぼ内ではつぼの底面から上方に正の温度勾配をもっていることは明らかである。

してみると、本願補正発明と引用例1発明とは、
「ルツボに収容したシリコン融液にルツボの内側底面から上方に正の温度勾配を付与して、該ルツボの内側底面から上方に前記シリコン融液を結晶化する多結晶シリコンの製造方法において、
冷却板によってルツボの底面全面を冷却し、前記ルツボの内側底面に複数の種結晶を配列し、その後種結晶を核として前記ルツボの内側底面から上方にシリコン融液を結晶化することにより、多結晶シリコンを得る多結晶シリコンの製造方法」である点で一致し、
以下の点で相違する。
(A)本願補正発明は、種結晶について、「ルツボの内側底面に複数の孔部を等距離間隔に配列し、冷却板によって前記ルツボの底面全面を均一に冷却して、当初該孔部内に結晶を形成して種結晶とする」及び「ルツボの内側底面に等距離間隔に配列した」とするのに対して、引用例1発明は、「るつぼの内側底面の全面を覆うように載置した」としている点。
(B)本願補正発明は、多結晶シリコンについて、「同程度の結晶粒径を有する結晶粒からなる多結晶シリコン」としているのに対し、引用例1発明は、結晶粒の結晶粒径について言及していない点。

これらの相違点について検討する。
まず、相違点(A)についてみてみると、
引用例2には、摘記事項(ウ)に「従来、るつぼ又はアンプル中に単結晶を成長させるために、(a)るつぼ底又はアンプル端に種子結晶を設置する方法[・・・]と、(b)るつぼ底又はアンプル端を嘴状に尖らせ、そこでの優先成長粒を用いる方法[・・・]が利用され」ることが記載され、摘記事項(エ)に「るつぼ底に嘴状の尖端部をつけ、そこでの優先成長粒を種子結晶として用いる方法」が記載されている。これらの記載によれば、るつぼ底に嘴状の尖端部をつけ、そこでの優先成長粒を種子結晶として用いることや、るつぼ底又はアンプル端に種子結晶を設置することがるつぼ中に単結晶を成長させる方法として従来から知られていたといえる。
そして、引用例1及び引用例2をみれば、るつぼの中で単結晶であれ、多結晶であれ、結晶を成長させる手段として、種結晶を用いることは、いずれもよく知られたものであること、引用例2の摘記事項(ウ)に「この結晶育成方法において、種子結晶4は通常温度勾配の大きいところに設置されるため(これは結晶成長速度を大きくとるために必要である。)種子結晶4を上部の未飽和溶液5に溶解させることなく、かつ単結晶成長に最適な温度でもって接触させることは極めて難しいという欠点があった」と種結晶を用いることの問題点が記載される一方、引用例1に「この方法では、材料(サファイア、ゲルマニウム等)融解時の温度検知を、目視と熱電対の絶対温度測定の両方で行っている。目視で行うとガラスのくもり等により結晶成長毎に変動があり再現性に乏しい。また一方熱電対を使用する方法でも本来熱電対の絶対温度は、高温使用(たとえば1400℃以上)のとき経時変化が著しくこれもまた再現性に乏しい。その結果、材料の融解温度検知はおおよその目安としてとらえ、ヘリウムガス等を流してるつぼ底部を冷却し、種結晶を溶解させないようにしている。しかしながら、ヘリウムガスは非常に高価であり工業的にこの方法を用いて結晶を製造することは実用的でない。また、種結晶を用いる結晶成長方法では、種結晶以外の材料をすべて融解させる必要があるが、このHEM法では種結晶周辺の材料は融解せずに残っている可能性があり、方法自体の制御性は信頼がおけないと考えられる。」(摘記事項(ウ))という種結晶の課題が記載されていることから、引用例1及び引用例2の結晶成長の技術において従来、その温度制御の困難さがあったという課題の共通性があること、に鑑みれば、引用例1発明における成長の核となる種結晶として、種結晶を設置する方法に代えて、引用例2に開示される、るつぼの底の種結晶の位置に対応させて尖端部を形成して、そこで種結晶を形成させることは、当業者に容易に想起できることといえる。
また、引用例1発明の「るつぼの内側底面の全面を覆うように載置した」ことについては、摘記事項(エ)の「種結晶がるつぼの底面全面を覆うように配置すると、半導体結晶が均一の方向性をもって底面からるつぼ上部に向けて成長し、得られる多結晶半導体の品質が良くなる」と記載されている。この記載によれば、引用例1発明は、結晶の成長が均一の方向性でなされ、品質の良いもの多結晶シリコンが得られているといえる。また、摘記事項(コ)の「実施例2 実施例1で使用したのと同一のるつぼの底面全面にシリコン種結晶(CZ(100)、直径5インチ、厚み10mm)を4×4配列で16個載置した」ことや、摘記事項(サ)には、「四角柱状のるつぼ底面に半導体材料種結晶が規則正しく配列された様子」が窺える。これらの記載によれば、引用例1発明の「種結晶」はるつぼ内に半導体結晶が均一の方向性をもって底面からるつぼ上部に向けて成長するように、同一の種結晶を規則正しく配置されていたものといえる。
以上のことから、引用例1発明において、上記したように種結晶を設置する方法に代えて、種結晶の位置に対応して尖端部を形成して、そこで種結晶を形成させることに伴って、この尖端部をるつぼの内側底面の全面に同じものを規則正しく設けること、並びにるつぼ内に半導体結晶が均一の方向性をもって底面からるつぼ上部に向けて成長するように、尖端部を規則正しく設けるに際して、るつぼの内に均等に等距離で配置することは当業者であれば容易に行い得るものといえる。
してみると、引用例1発明において、引用例2に基づいて、るつぼの底の種結晶の位置に対応した部分に尖端部を形成し、冷却板によってルツボの底面全面を均一に冷却して、尖端部内に種結晶を形成することによって、本願補正発明の相違点(A)に係る構成を構築することは、当業者が容易に想起できることといえる。

次に(B)について検討すると、
引用例1発明の多結晶シリコンの「結晶粒」が「同程度の結晶粒径を有する結晶粒からなる」ことについては引用例1には特段記載は見当たらないが、引用例1発明の多結晶シリコンは、上記相違点(A)についててで述べたとおり、結晶の成長を均一の方向性で行い、品質の良いものあるから、得られる多結晶シリコンが均一な結晶粒径を有する結晶粒からなっているものとみることができ、引用例1発明の種結晶に変えて、引用例2の、尖端部で形成された種結晶を用いるときでも、そうした「結晶の成長を均一の方向性で行う」ことが指向されることから、引用例1発明において、種結晶を設置する方法に代えて、種結晶の位置に対応して尖端部を形成して、そこで種結晶を形成させることに伴って、この尖端部をるつぼの内側底面の全面に同じものを規則正しく設けること、並びにるつぼ内に半導体結晶が均一の方向性をもって底面からるつぼ上部に向けて成長するように、尖端部を規則正しく設けるに際して、るつぼの内に均等に等距離で配置することで形成された多結晶シリコンの結晶粒として「同程度の結晶粒径を有する結晶粒からなる」ことを特定することは、当業者が引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に想起できるものである。

そして、これらの相違点に係る本願補正発明の構成を採用することによる本願明細書に記載の効果についても、引用例1及び引用例2から予測される効果であり、格別のものとすることができない。
以上のとおりであるから、本願補正発明は、本出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-3.むすび
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、その余の事項について検討するまでもなく、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
平成19年12月11日付けの手続補正書によりなされた補正が上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成19年7月12日付けで提出された手続補正書により補正された本願明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
【請求項1】 ルツボに収容したシリコン融液にルツボの内側底面から上方に正の温度勾配を付与して、該ルツボの内側底面から上方に前記シリコン融液を結晶化する多結晶シリコンの製造方法において、
前記ルツボの内側底面に複数の孔部を等距離間隔に配列し、冷却板によって前記ルツボの底面全面を均一に冷却して、当初該孔部内に結晶を形成してその後該結晶を核として前記ルツボの内側底面から上方にシリコン融液を結晶化することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。

V.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、2は、上記「II.3」の引用例1、2と同じであり、それらの記載事項は、「II.3.3-1.(1)、(2)」に記載したとおりである。そして、引用例1発明は、「II.3.3-2.」に記載したとおり、「るつぼ底面全面を覆うように複数のシリコン種結晶を載置し、るつぼ内でポリシリコンを融解させ、るつぼの底面全面と当接する冷却される支持台によりるつぼ底面全体を冷却して、るつぼの徐冷を開始し、融解したポリシリコンを種結晶を核として凝固し、るつぼ底面から上部に向けて方向性をもち多結晶半導体の結晶が成長する、多結晶シリコンの製造方法」というものである。

VI.対比・判断
本願発明1は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「当初該孔部内に結晶を形成して擬種結晶とすることで前記ルツボの内側底面に複数の前記擬種結晶を等距離間隔に配列し、その後前記擬種結晶を核として」及び「同程度の結晶粒径を有する結晶粒からなる多結晶シリコンを得ること」が特定されていない点に違いがあるが、他の構成は、本願補正発明と同じである。
してみると、本願発明1は、本願補正発明の特定事項を実質的に全て含むものであるから、本願補正発明と同様に、前記「II.3.3-2.」でみた理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、念のため、回答書で提示の補正案についてみておくと、
補正案は、本願補正発明における「等距離間隔」について、さらに、「互いに間隔を開けて、かつ、るつぼ側壁部と間隔を開けて」の限定を付したものであるが、このことは、上記「3-2.」の「相違点(A)について」で述べたように、同一直径のシリコン種結晶を複数個用いて均一の方向性の結晶成長を得るという前提において、その際、隙間を有する場合として、種結晶間及びルツボの側壁部分との間に隙間を設けて等距離に配置することが、ルツボ及び種結晶の熱膨張、種結晶の充填の作業性、各種結晶の成長の均一性からみて好ましいことは自明であり、そうすることに格別の困難性もないことから、限定後の補正案に記載された請求項1の発明においても、前記引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことに変わりがない。
したがって、補正案に基づく主張は認められない。

VII.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願の出願日前に頒布された引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-09 
結審通知日 2010-11-16 
審決日 2010-11-29 
出願番号 特願平11-144128
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
P 1 8・ 575- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 中澤 登
深草 祐一
発明の名称 多結晶シリコンの製造方法及び多結晶シリコン製造用ルツボ  
代理人 高橋 詔男  
代理人 村山 靖彦  
代理人 柳井 則子  
代理人 志賀 正武  

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