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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1230792
審判番号 不服2008-26111  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-09 
確定日 2011-01-20 
事件の表示 特願2002- 99266「二次電池の放充電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月17日出願公開、特開2003-297321〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年4月1日の出願であって、平成20年5月1日付けの拒絶理由通知に対して、同年7月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月5日付けで拒絶査定がなされ、同年10月9日付けで同拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに、同年11月10日付けで手続補正書が提出されて、明細書を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成22年6月22日付けで書面による審尋がなされたものである。

第2 平成20年11月10日付けの手続補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年11月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成20年11月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書の特許請求の範囲について、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年7月7日付けの手続補正書により補正された)次の(1)に示す請求項1?4の記載を、次の(2)に示す請求項1?3の記載とする補正事項を有するものである。
なお、下線は補正箇所を明示するためのものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
二次電池収容室を備え、該二次電池収容室に収容された二次電池の放電または充電を行う二次電池の放充電装置において、
前記二次電池からの有機ガス発生を検出する有機ガスセンサと、
前記二次電池収容室内の気体を外部に排気する排気手段と、
前記有機ガスセンサによって前記二次電池から有機ガスが発生したことが検出された場合に前記排気手段を駆動させる排気手段起動部とを備えていることを特徴とする二次電池の放充電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池の放充電装置において、前記排気手段は、前記二次電池収容室内のガス中の有機ガス濃度を爆発限界濃度以下に保つように、ガスを排気できる能力を備えていることを特徴とする二次電池の放充電装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二次電池の放充電装置において、前記排気手段として、前記二次電池収容室内のガス中の有機ガス濃度を爆発限界濃度以下に保つように、ガスを前記二次電池収容室内に送り込む装置を備えていることを特徴とする二次電池の放充電装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の二次電池の放充電装置において、前記排気手段は、防爆仕様の換気扇であることを特徴とする二次電池の放充電装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
二次電池収容室を備え、該二次電池収容室に収容された二次電池の放電または充電を行う二次電池の放充電装置において、
前記二次電池からの有機ガス発生を検出する有機ガスセンサと、
前記二次電池収容室内のガス中の有機ガス濃度を爆発限界濃度以下に保つように、ガスを排気できる能力を有し、前記二次電池収容室内の気体を外部に排気する排気手段と、
前記有機ガスセンサによって前記二次電池から有機ガスが発生したことが検出された場合に前記排気手段を駆動させる排気手段起動部と、を備え、
前記排気手段として、前記二次電池収容室内のガス中の有機ガス濃度を爆発限界濃度以下に保つように、ガスを前記二次電池収容室内に送り込む装置を備えていることを特徴とする二次電池の放充電装置。
【請求項2】
前記二次電池収容室内に送り込まれるガスは、空気、二酸化炭素、アルゴンのガスのうち、少なくとも1種類を用いていることを特徴とする請求項1に記載の二次電池の放充電装置。
【請求項3】
前記排気手段は、防爆仕様の換気扇であることを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池の放充電装置。」

そして、上記補正事項は、
a)本件補正前の請求項1及び2を削除するとともに、本件補正前の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項3(以下、「旧請求項3」という。)を、本件補正後の新たな請求項1(以下、「新請求項1」という。)とし、
b)新請求項1における「ガス」の内容を特定する、本件補正後の新たな請求項2(以下、「新請求項2」という。)を追加し、
c)旧請求項3を引用する本件補正前の請求項4を、本件補正後の新たな請求項3(以下、「新請求項3」という。)とするもの(以下、「補正事項a」?「補正事項c」という。)であり、次の補正A及びBを有するものである。
なお、下線は明りょう化のためのものである。

A)新請求項1を引用する新請求項2において、「二次電池収容室内に送り込まれるガス」が「空気、二酸化炭素、アルゴンのガスのうち、少なくとも1種類を用いていること」を発明特定事項とする。

B)新請求項1を引用する新請求項2をさらに引用する新請求項3において、「換気扇」が「空気、二酸化炭素、アルゴンのガスのうち、少なくとも1種類」を「二次電池収容室内に送り込む」ことを発明特定事項とする。

2.本件補正の適否
(1)新規事項について
上記補正事項の補正A及びBに関し、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0019】には、「供給ガスとしてはボンベから供給される不燃性ガス(アルゴンや窒素など)が望ましいが,爆発限界濃度以下を保つ供給量があれば,コンプレッサやボンベから供給される空気でも良い。」等と記載されているものの、不燃性ガスとして、特に「二酸化炭素」を用いること及び「換気扇」を用いて「二酸化炭素」又は「アルゴン」を「二次電池収容室内に送り込む」ことまでは、記載も示唆もされていない。
また、これらのことは、当初明細書等の記載から自明な技術的事項でもない。
してみると、上記補正事項は、当初明細書等に記載の技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)補正の目的について
上記補正事項のうちの補正事項a及びcは、請求項の削除を目的とする適法な補正である。
そして、そのうちの補正事項bに関し、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」について、その括弧書きの規定によれば、同号にいう「特許請求の範囲の減縮」は、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請されるものというべきであり、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係があるものでなければならないところ、旧請求項3と新請求項1とが同一であるから、新請求項1及び2については、旧請求項3を分割して、実質的に新しい請求項である新請求項2を追加したものと解され、このような補正は、いわゆる「増項補正」ということができる。
そうすると、上記補正事項のうちの補正事項bは、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえないし、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことも明らかである。

したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年11月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年7月7日付けの手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記第2[理由]1.(1)【請求項1】に記載したとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-234801号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「【請求項1】 車両に搭載されるバッテリと、
前記バッテリが発生するガスを車外へ排出する排気装置と、
前記バッテリの状態を監視して、ガスを発生する可能性のある電池異常状態を検出する電池異常監視手段と、
前記電池異常監視手段が電池異常状態を検出できない監視異常状態にあることを検出する監視異常検出手段と、
前記電池異常状態または前記監視異常状態のいずれかが検出されたときに前記排気装置を作動させる排気制御手段と、
を含むことを特徴とする車両用バッテリ装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

イ.「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態(以下、実施形態という)を図面を参照し説明する。図1は、本実施形態の車両用バッテリ装置を示している。駆動モータ2は、その出力によって電気自動車を走行させるものであり、バッテリにとっては負荷である。図示のように、多数のバッテリセルが直列に接続されており、バッテリセル列の両端は駆動モータ2に接続されている。各バッテリセルは、例えばニッケル水素バッテリや鉛バッテリである。本実施形態では、240個のバッテリセルが直列に接続されており、これらのバッテリセルは、20のバッテリブロック4・1?4・20に分けられており、各ブロックには12個のバッテリセルが含まれる。
【0009】駆動モータ2はバッテリの放電電力により回転し出力を発生する。また、回生制動時には、駆動モータ2が電力を発生し、この電力がバッテリに充電される。また図1のシステムがハイブリッド自動車に適用された場合には、図示しない発電機が内燃機関により駆動され、発電電力がバッテリに充電される。あるいは、駆動モータ2が発電機として機能し、内燃機関により駆動されて電力を発生し、この電力もバッテリに充電される。
…(中略)…
【0013】図1に戻り、電池ECU6は、換気ファン16および内外切換弁18へ制御信号を出力し、これらの構成を制御している。図3を参照すると、本実施形態では、車室とトランクの間に電池ケース20が設置されており、電池ケース20の中にバッテリセルが収納されている。電池ケース20の前面には換気ファン16が取り付けられている。また、電池ケース20の背面には、排気チューブ22が取り付けられており、排気チューブ22の中の排気通路が車外へ通じている。排気チューブ22の途中には、電池ケース20から排出された空気を車内へ導くための循環口24が設けられている。この循環口24の近傍に内外切換弁18が設けられている。この内外切換弁18は、排気チューブ22内の空気をそのまま車外へ排出するか、車内へ戻すかの切換を行う。
【0014】通常は、電池ECU6は、循環モードと排気モードを適宜使い分けている。循環モードでは、内外切換弁18が、図3に示される内ポジションに切り換えられ、排気通路がふさがれる。この状態で換気ファン16が作動すると、電池ケース20内の空気が循環口24を通って車内へ導かれる。一方、排気モードでは、内外切換弁18が外ポジションに切り換えられ、循環口24がふさがれる。この状態で換気ファン16が作動すると、電池ケース20内の空気が車外へ排出される。電池ECU6は、換気および排気の必要がなければ、換気ファン16を停止させる。
【0015】故障等により電池異常状態が発生すると、バッテリセルから水素等のガスが発生する可能性がある。例えば、鉛バッテリの場合、バッテリ電圧が所定の水素発生電圧を越えると、バッテリセルから水素ガスが発生する可能性がある。また、ニッケル-水素バッテリの場合、バッテリ電圧が異常に低下すると水素ガスが発生する。また例えば、バッテリセルの温度が所定の水素発生温度を越えた場合にも、ガス発生の可能性がある。そこで、電池ECU6は、電圧センサ8・1?8・20および温度センサ10・1?10・20の検出信号をもとに、電池異常状態の発生を検出する。電池異常状態が検出された場合には、電池ECU6は、内外切換弁18に制御信号を出力する。この制御信号に応えて、内外切換弁18が切換動作を行い、排気チューブ22の循環口24(図3)をふさぐ(外ポジション)。また、電池ECU6は、換気ファン16に制御信号を出力し、この信号に応えて換気ファン16が作動する。その結果、バッテリセルから発生するガスは、電池ケース20内の空気とともに、排気通路を通って車外へ速やかに排出される。」(段落【0008】?【0015】)

3.引用発明
引用文献には、上記ア.のとおり、「車両に搭載されるバッテリと、前記バッテリが発生するガスを車外へ排出する排気装置と、前記バッテリの状態を監視して、ガスを発生する可能性のある電池異常状態を検出する電池異常監視手段と、…(中略)…前記電池異常状態…(中略)…が検出されたときに前記排気装置を作動させる排気制御手段と、を含む…(中略)…車両用バッテリ装置。」の発明が記載されている。
そして、本発明の実施形態として、上記イ.のとおり、「図1は、本実施形態の車両用バッテリ装置を示している。駆動モータ2は、その出力によって電気自動車を走行させるものであり、バッテリにとっては負荷である。…(中略)…駆動モータ2はバッテリの放電電力により回転し出力を発生する。また、回生制動時には、駆動モータ2が電力を発生し、この電力がバッテリに充電される。…(中略)…本実施形態では、車室とトランクの間に電池ケース20が設置されており、電池ケース20の中にバッテリセルが収納されている。…(中略)…排気モードでは、…(中略)…電池ケース20内の空気が車外へ排出される。…(中略)…電池異常状態が検出された場合には、…(中略)…バッテリセルから発生するガスは、電池ケース20内の空気とともに、排気通路を通って車外へ速やかに排出される。」と記載されている。

これらを総合して、本願発明の記載振りに則って整理すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「電池ケースを備え、該電池ケースに収納されたバッテリの放電または充電を行う車両において、
前記バッテリからガスを発生する可能性のある電池異常状態を検出する電池異常監視手段と、
前記電池ケース内のガスと空気を車外に排出する排気装置と、
前記電池異常監視手段によって前記バッテリからガスを発生する可能性のある電池異常状態が検出された場合に前記排気装置を作動させる排気制御手段とを備えている車両。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「バッテリ」は、本願発明における「二次電池」に相当し、以下同様に、「電池ケースに収納されたバッテリ」は「二次電池収容室に収容された二次電池」に、「バッテリの放電または充電を行う車両」は「二次電池の放電または充電を行う二次電池の放充電装置」に、「電池ケース内のガスと空気を車外に排出する排気装置」は「二次電池収容室内の気体を外部に排気する排気手段」に、「排気装置を作動させる排気制御手段」は「排気手段を駆動させる排気手段駆動部」に、それぞれ相当する。

よって本願発明と引用発明とは、
「二次電池収容室を備え、該二次電池収容室に収容された二次電池の放電または充電を行う二次電池の放充電装置において、
前記二次電池収容室内の気体を外部に排気する排気手段と、
前記排気手段を駆動させる排気手段駆動部とを備えている二次電池の放充電装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明では、「二次電池からの有機ガス発生を検出する有機ガスセンサ」を備え、「前記有機ガスセンサによって前記二次電池から有機ガスが発生したことが検出された場合」に排気手段を駆動させるのに対して、
引用発明では、「バッテリからガスを発生する可能性のある電池異常状態を検出する電池異常監視手段」を備え、「前記電池異常監視手段によって前記バッテリからガスを発生する可能性のある電池異常状態が検出された場合」に排気手段を駆動させる点(以下、「相違点」という。)。

5.当審の判断
上記相違点について、以下に検討する。

引用文献の上記イ.の段落【0015】の記載によると、引用発明は、例えば、鉛バッテリやニッケル-水素バッテリの電池異常状態においては、水素ガスが発生することを踏まえて、各種バッテリの電池異常状態における、水素等のガスが発生する場合に対処するものといえる。
そして、車両に搭載するバッテリとして、リチウム二次電池が検討されていることは、本願出願前において、当業者に広く知られたこと(必要であれば、特開平7-211356号公報の請求項1、特開平11-18203号公報の請求項6又は特開平11-332023号公報の請求項2等参照。)であって、リチウム二次電池の電池異常状態においては、有機ガスが発生することから、「リチウム二次電池からの有機ガス発生を検出する有機ガスセンサ」を備え、「前記有機ガスセンサによって前記二次電池から有機ガスが発生したことが検出された場合」に前記有機ガスの発生に対処することは、周知技術(必要であれば、原査定において例示した特開2000-188135号公報の請求項1,6,8及び段落【0001】,【0003】,【0017】,【0018】等参照。)である。
そうすると、引用発明における車両用バッテリとしてリチウム二次電池を想定するとともに、その電池異常状態における有機ガスが発生する場合に対処するために、上記周知技術を適用し、引用発明における「電池異常監視手段」を「有機ガスセンサ」として、上記相違点を解消することは、当業者が容易に想到し得たものである。

また、本願発明を全体としてみても、引用文献及び周知技術から予測できない顕著な作用効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、原査定の拒絶理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-17 
結審通知日 2010-11-24 
審決日 2010-12-07 
出願番号 特願2002-99266(P2002-99266)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國島 明弘藤本 充千  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 志水 裕司
山田 靖
発明の名称 二次電池の放充電装置  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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