• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1231073
審判番号 不服2009-9797  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-11 
確定日 2011-01-26 
事件の表示 特願2003-558344号「液圧増幅ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月17日国際公開、WO03/58065、平成17年5月19日国内公表、特表2005-514558号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年12月21日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年2月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成21年5月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

そして、本願の請求項1?13に係る発明は、平成20年11月20日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
クロマトグラフィシステムに溶剤を供給するための液圧増幅器システムであって、
前記クロマトグラフィシステムに第1の加圧溶剤を供給するための第1の液圧シリンダと、
前記第1の液圧シリンダを作動させるために実質的に一定の流量で加圧作動液を供給する第1のポンプと、
前記クロマトグラフィシステムに第2の加圧溶剤を供給するための第2の液圧シリンダと、
前記第2の液圧シリンダを作動させるために実質的に一定の流量で加圧作動液を供給する第2のポンプとを備えており、
前記第1および第2の液圧シリンダがそれぞれ、
作動液を受け入れおよび排出するための第1の作動液ポートおよび第2の作動液ポートを有する第1の室と、
クロマトグラフィの溶剤を受け取る溶剤入口とクロマトグラフィの溶剤を排出する溶剤出口とを有する第2の室と、
前記第1の室内に配設されており、前記第1の作動液ポートに入る作動液によって第1の方向へ、また、前記第2の作動液ポートに入る作動液によって第1の方向とは反対の方向へ、前記加圧作動液によって駆動される1次ピストンと、
前記第2の室内に配設されており、クロマトグラフィの溶剤を受け入れおよび排出するように前記1次ピストンによって作動される2次ピストンとを備えており、
前記1次ピストンの断面積が前記2次ピストンの断面積よりも大きいため、前記第2の室内の圧力は前記第1の室内の圧力よりも高く、前記第2の室を通って流れる流量は前記第1の室を通って流れる流量よりも少なく、
前記液圧増幅器システムがさらに、前記第1の作動液ポートおよび第2の作動液ポートを通る前記1次ピストンへの流れを調整することにより、前記1次ピストンをポンプモードおよび再充填モードのどちらか一方で作動するように制御する多重ポートバルブを備えている、前記液圧増幅器システム。」

2.原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項
特開昭50-119304号公報(以下、「引用例1」という。)には、「液体クロマトグラフィ装置とその分析方法」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、大文字を小文字で表記する等適宜修正した箇所がある。

(あ)「この発明は、一般的にクロマトグラフィの分野に関し、とくに液体クロマトグラフィの分野に関する。」(第2頁左下欄第15?17行)
(い)「すなわち絶対に搬送液体の流れを提供することが必要であり、そしてその搬送液体は所望の定流速でクロマトグラフコラムへ送出されかつ測定可能な圧力脈動のないものであることは理解されよう。」(第2頁右下欄第13?17行)
(う)「従来の定容積ポンプたとえばギヤポンプおよび同等品は不満足で、十分に液体クロマトグラフへ搬送液体を供給しない。」(第3頁左上欄第10?12行)
(え)「第2図に詳細に示されるように、パルスレスポンピング装置17は高圧出力部分を備え、その高圧出力部分は、実質的にパルスレスなかつ連続した搬送液体の流れを供給し、そして低圧入力部分を備え、その低圧入力部分は、制御水圧を利用してポンピング装置の出力部分を動作するようになっている。
その出口部分は、第1の増圧器31と第2の増圧器32とを備え、その第2の増圧器32は第1の増圧器31と同一に構成されている。第1の増圧器31で示されるように、その2つの増圧器はおのおの入力ピストン33を備え、その入力ピストン33は入力シリンダ34に往復自在に受容されかつ出力シリンダ36に受容された出力ピストン35と接続され、その結果その出力ピストン35は出力シリンダ36のなかで往復運動できるようになっている。そのように相互接続した入力ピストン33と出力ピストン35とはピストン組立体を構成し、そのピストン組立体は通常適当なバイアス装置たとえばスプリング37などで第2図に示す位置に保持されており、そしてその位置では出力シリンダ36の液体受容容積は最大となる。」(第5頁右上欄第2行?左下欄第4行)
(お)「ポンピング装置17の低圧入力部分は加圧した水圧動作液体源たとえば定容積の水圧ポンプ50または同等品よりなる。」(第5頁右下欄第7?9行)
(か)「その水圧動作液体が増圧器31と32とから流れ去ることができる帰路すなわち排水路は、バルブBとDとのほかに貯蔵容器64まで延長する戻りライン63を備え、その貯蔵容器64は水圧ポンプ50の液体入力へ接続されている。」(第7頁左上欄第1?6行)
(き)「バルブAが開路すると、水圧流体が、水圧ポンプ50から第1の増圧器31の入力シリンダ34へ流れるようになる。その第1の増圧器31の出力シリンダ36に存在する何等かの搬送液体は、出力ピストン35により変位され、そしてコンジット44aと1方向バルブ45aとを介して流れ、コンジット23へ入るようになる。バルブCの開路に際し第2の増圧器32も同じように動作し、その結果搬送液体がコンジット44bに沿って駆動され1方向バルブ45bを介してコンジット23に入るようになる。いづれの増幅器のピストン組立体も、そのピストン組立体がその行程の終端に達するかまたは対応するバルブAまたはCが閉路するかのいづれかまで(第2図に示すように)右方向に進行し続ける。そののち選択的にバルブBまたはDを開路することにより、水圧液体はそれぞれの入力シリンダから排水され、その結果スプリング37の効果によりピストン組立体が左方向に移動し、水圧動作液体を入力シリンダから外部へ変位し戻りライン63を介して貯蔵容器64へ復帰するようになる。」(第7頁左上欄第9行?右上欄第9行)
(く)「スプリング37により第1の増圧器31のピストン組立体が左方向に移動するに従って、搬送液体の新しい供給が貯蔵容器16から1方向バルブ46aを介して引かれそして出力シリンダ36へ入るようになる。第2の増圧器32の出力シリンダも同様に1方向バルブ46bを介する搬送液体で再び充満される。」(第7頁右上欄第12?18行)
(け)「第6図を参照すると、上記に記載した第1と第2との増圧器31と32とのほかに増圧器31’と32’とが提供されている。これらのすべての4個の増圧器は同一に動作することが好ましい。付加の増圧器31’の出力シリンダは1方向バルブ装置45a’と46a’とを介して接続され、一方付加の増圧器32’の出力シリンダは1方向バルブ装置45b’と46b’とを介して接続されている。1方向バルブ46a’と46b’との入口側部分は、第2の搬送液体貯蔵容器16’へ接続されている。便宜上その第2の貯蔵容器16’は”溶媒II”を備えるものと考える。増圧器31および32と関連する1方向バルブは、前と同様に第6図に示す貯蔵容器16へ接続され、そしてその貯蔵容器16は”溶媒I”を備えるものとする。」(第14頁左上欄第6?20行)
(こ)上記記載事項(か)?(け)及び図2,6などからみて、増圧器の入力シリンダ34は、水圧ポンプ50からの水圧動作液体を受け入れおよび排出するためのライン62a,62bに通じる通孔およびスプリング37を有することが看取される。同様に、増圧器の出力シリンダ36は、貯蔵容器16,16’からクロマトグラフィの溶媒を受け取る又はクロマトグラフィの溶媒をコンジット23に排出する通孔を有することが看取される。
(さ)図2,6からみて、入力ピストン33の断面積が出力ピストン35の断面積より大きいことは明らかである。また、入力ピストン33及び出力ピストン35は増圧器を構成するものであること及び技術常識を考慮すれば、出力シリンダ36の室内の圧力は入力シリンダ34の室内の圧力よりも高く、出力シリンダ36を通って流れる流量は入力シリンダ34を通って流れる流量よりも少ないことも明らかである。

したがって、引用例1には、図面(特に、図2,6を参照。)とともに、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

【引用発明】
「クロマトグラフコラムに搬送液体である溶媒を供給するための増圧器を備えた液体クロマトグラフィ装置であって、
前記クロマトグラフコラムに溶媒Iを供給するための増圧器31,32と、
前記クロマトグラフコラムに溶媒IIを供給するための増圧器31’,32’と、
前記増圧器31,32,31’,32’を作動させるための水圧動作液体を供給する定容積の水圧ポンプ50とを備えており、
前記前記増圧器31,32,31’,32’がそれぞれ、
水圧動作液体を受け入れおよび排出するためのライン62a,62bに通じる通孔およびスプリング37を有する入力シリンダ34と、
貯蔵容器16,16’からクロマトグラフィの溶媒を受け取る又はクロマトグラフィの溶媒をコンジット23に排出する通孔を有する出力シリンダ36と、
前記入力シリンダ34の室内に配設されており、通孔に入る水圧動作液体によって右方向へ、また、スプリング37によって左方向へ、水圧動作液体によって駆動される入力ピストン33と、
前記出力シリンダ36の室内に配設されており、クロマトグラフィの溶媒を受け入れおよび排出するように前記入力ピストン33に接続された出力ピストン35とを備えており、
前記入力ピストン33の断面積が前記出力ピストン35の断面積より大きいため、前記出力シリンダ36の室内の圧力は前記入力シリンダ34の室内の圧力よりも高く、前記出力シリンダ36を通って流れる流量は前記入力シリンダ34を通って流れる流量よりも少なく、
前記増圧器を備えた液体クロマトグラフィ装置がさらに、前記通孔を通る前記入力ピストン33への流れを調整することにより、前記入力ピストン33を右方向へ移動させるか、スプリング37により前記入力ピストン33を左方向へ移動させるか制御するバルブA,B,C,Dを備えている、増圧器を備えた液体クロマトグラフィ装置。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能、構造などからみて、引用発明の「増圧器を備えた液体クロマトグラフィ装置」は本願発明の「液圧増幅器システム」に相当し、以下同様にして、「クロマトグラフコラム」は「クロマトグラフィシステム」に、「搬送液体である溶媒」又は「溶媒(I,II)」は「溶剤」又は「加圧溶剤」に、「溶媒I」は「第1の加圧溶剤」に、「増圧器31,32」は「第1の液圧シリンダ」に、「水圧動作液体を供給する定容積の(水圧ポンプ50)」は「実質的に一定の流量で加圧作動液を供給する(ポンプ)」に、「溶媒II」は「第2の加圧溶剤」に、「増圧器31’,32’」は「第2の液圧シリンダ」に、「(入力シリンダ34の)通孔」は「第1の作動液ポート」に、「水圧動作液体」は「加圧作動液」又は「作動液」に、「入力シリンダ34」は「第1の室」に、「出力シリンダ36」は「第2の室」に、「右方向」は「第1の方向」に、「左方向」は「第1の方向とは反対の方向」に、「入力ピストン33」は「1次ピストン」に、「入力ピストン33に接続された」は「1次ピストンによって作動される」に、「出力ピストン35」は「2次ピストン」に、「入力ピストン33を右方向へ移動させる」は「ポンプモード」に、「入力ピストン33を左方向へ移動させる」は「再充填モード」に、それぞれ実質的に相当する。また、本願発明における「水圧ポンプ50」と引用発明における「第1のポンプ」及び「第2のポンプ」とは少なくとも「ポンプ」である点では共通し、同様に、「スプリング37」と「第2の作動液ポート」又は「第2の作動液ポートに入る作動液」とは少なくとも「ピストン駆動手段」である点では共通し、「(出力シリンダ36の)通孔」と「溶剤入口」及び「溶剤出口」とは少なくとも「溶剤出入口」である点では共通し、「バルブA,B,C,D」と「多重ポートバルブ」とは少なくとも「バルブ」である点では共通している。
してみると、両者は下記の点で、一致又は相違する。

<一致点>
「クロマトグラフィシステムに溶剤を供給するための液圧増幅器システムであって、
前記クロマトグラフィシステムに第1の加圧溶剤を供給するための第1の液圧シリンダと、
前記クロマトグラフィシステムに第2の加圧溶剤を供給するための第2の液圧シリンダと、
前記第1の液圧シリンダ及び前記第2の液圧シリンダを作動させるために実質的に一定の流量で加圧作動液を供給するポンプとを備えており、
前記第1および第2の液圧シリンダがそれぞれ、
作動液を受け入れおよび排出するための第1の作動液ポートおよびピストン駆動手段を有する第1の室と、
クロマトグラフィの溶剤を受け取る又はクロマトグラフィの溶剤を排出する溶剤出入口を有する第2の室と、
前記第1の室内に配設されており、前記第1の作動液ポートに入る作動液によって第1の方向へ、また、前記ピストン駆動手段によって第1の方向とは反対の方向へ、前記加圧作動液によって駆動される1次ピストンと、
前記第2の室内に配設されており、クロマトグラフィの溶剤を受け入れおよび排出するように前記1次ピストンによって作動される2次ピストンとを備えており、
前記1次ピストンの断面積が前記2次ピストンの断面積よりも大きいため、前記第2の室内の圧力は前記第1の室内の圧力よりも高く、前記第2の室を通って流れる流量は前記第1の室を通って流れる流量よりも少なく、
前記液圧増幅器システムがさらに、前記1次ピストンをポンプモードおよび再充填モードのどちらか一方で作動するように制御するバルブを備えている、前記液圧増幅器システム。」

[相違点1]
第1の液圧シリンダ及び第2の液圧シリンダ(増圧器31,32,31’,32’)を作動させるためのポンプに関して、本願発明は、「第1のポンプ」及び「第2のポンプ」とを備えているのに対し、引用発明は、1つの水圧ポンプ50を備えている点。
[相違点2]
第1の室(入力シリンダ34)に関して、本願発明は、「作動液を受け入れおよび排出するための第1の作動液ポートおよび第2の作動液ポート」を有し、1次ピストンが、「前記第1の室内に配設されており、前記第1の作動液ポートに入る作動液によって第1の方向へ、また、前記第2の作動液ポートに入る作動液によって第1の方向とは反対の方向へ、前記加圧作動液によって駆動される」のに対し、引用発明は、入力シリンダ34が、水圧動作液体を受け入れおよび排出するためのライン62a,62bに通じる通孔およびスプリング37を有し、入力ピストン33が、通孔に入る水圧動作液体によって右方向へ、また、スプリング37によって左方向へ駆動される点。
[相違点3]
第2の室(出力シリンダ36)の溶剤出入口に関して、本願発明は、「溶剤入口」と「溶剤出口」とを有しているのに対し、引用発明は、1つの通孔を有する点。
[相違点4]
1次ピストンをポンプモードおよび再充填モードのどちらか一方で作動するように制御する(入力ピストン33を右方向へ移動させるか左方向へ移動させるか制御する)ことに関して、本願発明は、「多重ポートバルブ」によって、「前記第1の作動液ポートおよび第2の作動液ポートを通る前記1次ピストンへの流れを調整することにより」1次ピストンをポンプモードおよび再充填モードのどちらか一方で作動するように制御しているのに対し、引用発明は、バルブA,B,C,Dによって、入力シリンダ34の通孔を通る入力ピストン33への流れを調整することにより、前記入力ピストン33を右方向へ移動させるか、スプリング37により前記入力ピストン33を左方向へ移動させるか制御している点。

各相違点について検討する。
[相違点1]について
複数の液圧シリンダ(増圧器)を作動させるために、複数のポンプを使用するか、1つのポンプを使用するかは、液圧シリンダの用途やポンプの容量等を考慮して、当業者が適宜選択する設計的事項である。

[相違点2]について
シリンダの技術分野において、シリンダ室内のピストンを挟んだ両側に流体を給排する流体給排部を設け、該ピストンを挟んだ両側への流体給排量を調整することで、シリンダ内のピストンを右方向又は左方向に駆動することは従来周知の技術(例えば、原査定の拒絶の理由において通知された特開平7-217551号公報の図2,4には、油圧シリンダ部10の室内のピストン13の両側に油圧を給排しピストン13を左右に駆動する態様が図示されている。また、原査定の拒絶の理由において通知された特開昭50-7105号公報の第4頁左下の図面には、低圧シリンダ11の室内のピストン14の両側に流体を給排するダクト10a,10bを設けピストン14を左右に駆動する態様が図示されている。)であるから、引用発明に該従来周知の技術を適用して、入力シリンダ34について、水圧動作液体の給排及びスプリング37を用いる構成に代えて、入力ピストン33を挟んだ両側に水圧動作液体を給排する給排部(ポート、配管等)を設けて、入力ピストン33を右方向又は左方向に駆動するよう構成することは、当業者が容易になし得たものである。

[相違点3]について
シリンダにおいて、流体を給排する際に、シリンダにいくつの流体の給排口を設けるかは、シリンダの用途、液体の給排効率、配管、弁の構成や配置等を考慮して当業者が適宜選択する設計的事項である。

[相違点4]について
引用発明において、入力シリンダ34の室内の入力ピストン33を右方向又は左方向に駆動する(本願発明における「1次ピストンをポンプモードおよび再充填モードのどちらか一方で作動するように制御する」に相当)ために、入力ピストン33を挟んだ両側に水圧動作液体を給排する給排部(ポート、配管等)を設けるよう構成することは当業者が容易になし得たものであることは上記「[相違点2]について」において述べたとおりであり、該入力シリンダ34の室内の入力ピストン33を挟んだ両側に、水圧ポンプ50からの水圧動作液体を給排するために、多重ポートバルブ等の適宜なバルブを採用することは、シリンダの用途、液体の給排効率、配管等を考慮して当業者が適宜選択する設計的事項にすぎない。

また、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明及び従来周知の技術の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由を補充する、平成21年7月30日付け手続補正書の「3.本願発明と引用発明との対比」の(1)において、「本願発明は、第1及び第2の液圧シリンダの各々が、第1の室内に配設された1次ピストンを、第1の作動液ポートに入る作動液によって第1の方向へ、又、第2の作動液ポートに入る作動液によって第1の方向とは反対の方向へ、加圧作動液によって駆動するように構成したものであるのに対し、引用文献1(審決注:本審決における「引用例1」)の発明は、増圧器を一方向にのみ水圧で動作させる、すなわち、増圧器のピストンは、水圧によって前方にのみ駆動され、帰路は、スプリングによって駆動されるものであって、このような構成は、水圧ポンプが、2次ピストン圧力のみならずスプリングに抗して動作しなければならない点で、明らかに相違している。」と主張しているが、その点は、上記「[相違点2]について」において判断したとおりである。
また、「引用文献2から5(審決注:引用文献4は上記特開平7-217551号公報、引用文献5は上記特開昭50-7105号公報)は、そもそも、クロマトグラフィ分野で使用される増圧器(液圧増幅器)の技術に向けられたものではなく、従って、当然に、上述したクロマトグラフィ分野に特有の要求、課題を考慮したものでも、これらを解決可能なものでも全くない。しかも、引用文献2から5には、本願発明のように、第1及び第2の二つの液圧シリンダを組み合わせたものは教示されておらず、よって、これらの引用文献から、複数の溶剤ラインを制御して、溶剤の組成を自動的かつ正確に変更すること等は、全然知り得ない。」とも主張しているが、上記特開平7-217551号公報及び上記特開昭50-7105号公報は、クロマトグラフィの技術分野に属する引用発明において、入力シリンダ34の室内の入力ピストン33を右方向又は左方向に駆動するために入力ピストン33を挟んだ両側に水圧動作液体を給排する給排部(ポート、配管等)を設けるよう構成することは当業者が容易になし得たものことを示すために、シリンダの技術分野において、シリンダ室内のピストンを挟んだ両側に流体を給排する流体給排部を設け、該ピストンを挟んだ両側への流体給排量を調整することで、シリンダ内のピストンを右方向又は左方向に駆動することは従来周知の技術であることを示す文献として例示したものにすぎないから、審判請求人の上記主張は採用できない。
さらに、「3.本願発明と引用発明との対比」の(2)において、「一つ目は、本願発明による液圧増幅器システムは、30,000psiを超える超高圧を発生することが可能なことである。しかも、このシステムによって発生される圧力及びこれに対応する流量は、クロマトグラフ分離の実行時間(ランタイム)の間、一定に維持することができる。このような一定の圧力及び流量は、非常に高性能なクロマトグラフ分離をもたらす。
二つ目は、超高圧及びこれに対応する流量は、1次ピストンに作用する圧力と液圧増幅器システムにおける1次ピストン及び2次ピストンの断面積との間の数学的関係により、正確に決定することができることである。従って、製造することが困難な(実施する場合は2次ピストン室に配置される)高圧を測定する圧力トランスデューサを省くことができ、又、圧力トランスデューサをシステムに連結するのに必要な配管を無くして、死空間を最小限にすることができる。
三つ目は、本願発明によるシステムが、複数の溶剤ラインを制御することができることである。溶剤の組成を、クロマトグラフ分離の過程の間、自動的に変更することができる。このことは、クロマトグラフ分離を、高い信頼性で、非常に効率的なものにする。
上で挙げた独特の特徴要素は、引用文献1から5のいずれにも、単独であれ組合せであれ、教示も示唆もなされておらず、動機づけするものでもない。」とも主張しているが、上記一つ目?二つ目の審判請求人の主張は、本願発明(特許請求の範囲の請求項1に記載された発明)に基づいてなされた主張とはいえず、採用できるものではない。具体的には、本願発明には、30,000psiを超える超高圧を発生することもそれに対応する流量も記載はなく、さらに1次ピストン及び2次ピストンの断面積との間の数学的関係やトランスデューサに関する記載もないものである。なお、仮に上記の点が本願発明に内在するものであるとしても、本願発明は、引用例1に記載された発明及び従来周知の技術にもとづいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの結論を左右するものではない。さらに、三つ目の審判請求人の主張に関しては、引用発明も複数の溶剤ライン(溶媒I、溶媒II)を制御することができるものであるから、やはり採用できるものではない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その優先日前日本国内において頒布された引用例1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項2?13に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-23 
結審通知日 2010-08-24 
審決日 2010-09-13 
出願番号 特願2003-558344(P2003-558344)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀之  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 大山 健
川上 溢喜
発明の名称 液圧増幅ポンプ  
代理人 川口 義雄  
代理人 坪倉 道明  
代理人 金山 賢教  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 渡邉 千尋  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ