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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61B
管理番号 1231291
審判番号 無効2009-800184  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-08-27 
確定日 2011-02-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第1907623号発明「医療用器具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第1907623号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成2年12月29日に特許出願され、平成7年2月24日にその発明について特許の設定登録がなされた。
その後当審においてなされた手続の経緯は以下のとおりである。
無効審判請求 平成21年8月27日
参加申請(被請求人) 平成21年10月2日
答弁書(被請求人) 平成21年11月13日
参加許否の決定 平成21年12月11日
口頭審理陳述要領書(請求人)
平成22年2月22日
口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成22年2月22日
口頭審理 平成22年2月22日
上申書(請求人) 平成22年3月8日
上申書(被請求人) 平成22年3月8日
上申書(請求人) 平成22年5月21日
上申書(被請求人) 平成22年6月3日
(なお、本件は口頭審理がなされた後、書面審理に切り替えて審理されたものである。)

2.本件特許発明
特許第1907623号の請求項1ないし7にかかる発明(以下、「本件特許発明1ないし7」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 縫合糸挿入用穿刺針と、該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と、該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットと、前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材とからなり、前記スタイレットは、先端に弾性材料により形成され、前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており、さらに、該環状部材は、前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具。
【請求項2】 第1の縫合糸挿入用穿刺針と、該第1の縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた第1の縫合糸把持用穿刺針と、該第1の縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された第1のスタイレットと、第2の縫合糸挿入用穿刺針と、該第2の縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた第2の縫合糸把持用穿刺針と、該第2の縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された第2のスタイレットと、前記第1の縫合糸挿入用穿刺針、前記第1の縫合糸把持用穿刺針、前記第2の縫合糸挿入用穿刺針および前記第2の縫合糸把持用穿刺針のそれぞれの基端部が、四角形の頂点を形成するように固定する固定部材とからなり、前記第1のスタイレットは、先端に弾性材料により形成され、前記第1の縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な第1の環状部材を有しており、そして、該第1の環状部材は、前記第1の縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記第1の縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該第1の環状部材の内部を貫通するように該第1の縫合糸挿入用穿刺針方向に延び、さらに、前記第2のスタイレットは、先端に弾性材料により形成され、前記第2の縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な第2の環状部材を有しており、そして、該第2の環状部材は、前記第2の縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記第2の縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該第2の環状部材の内部を貫通するように該第2の縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具。
【請求項3】 前記医療用器具は、前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が、摺動可能に貫通された平板状部材を有している請求項1に記載の医療用器具。
【請求項4】 前記医療用器具は、前記第1の縫合糸挿入用穿刺針、前記第1の縫合糸把持用穿刺針、前記第2の縫合糸挿入用穿刺針および前記第2の縫合糸把持用穿刺針が、摺動可能に貫通された平板状部材を有している請求項2に記載の医療用器具。
【請求項5】 前記固定部材は、平板状となっている請求項1または2に記載の医療用器具。
【請求項6】 前記縫合糸把持用穿刺針の先端の刃面は、前記縫合糸挿入用穿刺針方向に向かって開口している請求項1ないし5のいずれかに記載の医療用器具。
【請求項7】 前記管状部材の先端部は、ほぼ先端を中心とするV字状、またはU字状の縫合糸把持部を有している請求項1ないし6のいずれかに記載の医療用器具。」

3.請求人の主張の概要
(3-1)無効理由(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1?7に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明および周知慣用技術に基づいて、または、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。

(3-2)証拠方法
請求人は、審判請求書とともに甲第1号証ないし甲第8号証を、口頭審理陳述要領書とともに甲第9号証ないし甲第13号証を、平成22年3月8日付け上申書とともに甲第14号証ないし甲第16号証を、平成22年5月21日付け上申書とともに甲第17号証を提出した。

各甲号証は以下のとおりである。
○甲第1号証:臨床整形外科 24巻7号 (1989年7月)医学書院 池内宏(東京逓信病院整形外科) 鏡視下半月板の手術 p.805-814
○甲第2号証:米国特許4586490号明細書
○甲第3号証:米国特許4779616号明細書
○甲第4号証:米国特許4669473号明細書
○甲第5号証:特開平3-4845号公報
○甲第6号証:米国特許4316469号明細書
○甲第7号証:平成20年(ワ)第19874号(特許権侵害差止等請求事件)の訴状
○甲第8号証:平成20年(ワ)第19874号(特許権侵害差止等請求事件)の原告準備書面(3)
○甲第9号証:GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY 日本消化器内視鏡学会雑誌 第31巻第8号 (平成元年8月20日) 社団法人日本消化器内視鏡学会 p.2314
○甲第10号証:特開昭63-23651号公報
○甲第11号証:特開昭54-154179号公報
○甲第12号証:特開昭64-20840号公報
○甲第13号証:実願昭62-75999号(実開昭63-186406号)のマイクロフィルム
○甲第14号証:機械を説明する英語 (2006年5月10日) 株式会社工業調査会 野澤義延 p.50-51
○甲第15号証:リーダーズ英和辞典第31刷 (1998年) 株式会社研究社 p.714
○甲第16号証:Oxford Advanced Learner's Dictionary of Current English Seventh edition OXFORD university press p.568
○甲第17号証:米国特許第4493323号明細書

4.被請求人の主張の概要
(4-1)無効理由に対して
本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないので、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当せず、無効とすべきではない。

(4-2)乙号証
被請求人は、口頭審理陳述要領書とともに乙第1号証および乙第2号証を、平成22年3月8日付け上申書とともに乙第3号証および乙第4号証を提出した。

各乙号証は以下のとおりである。
○乙第1号証:整形外科専門医になるための診療スタンダード 3下肢 (2008年6月5日) 株式会社 羊土社 5.半月板損傷 p.166-167
○乙第2号証: 関節鏡的診断と関節鏡視下手術<整形外科 MOOK No.44>(昭和61年6月30日) 金原出版株式会社 内側半月板の鏡視下手術 p.137-147 外側半月と外側円板状メニスクスの鏡視下手術 p.148-151
○乙第3号証:八光硬脊麻針H型カタログ 株式会社八光電機製作所 八光商事株式会社
○乙第4号証:医療シリコーン製品総合カタログ '85(抜粋) US対応穿刺針 クリエートメディック株式会社

5.当審の判断
(5-1)証拠方法の内容
(a)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載および図示がある。
(a-1)第813頁左欄下から第5行?第814頁左欄第14行
「3.外周縁部縫合術(図20)
半月板制動術から発展した半月板外縁と冠靱帯の縫合術である。外周縁部損傷に行う。鋭匙鉗子、ディスポの18ゲージ長針2本、2-0ナイロン糸数本、小コッヘルなどを使用する。まず鋭匙鉗子で損傷部の新鮮化を行う。18ゲージ長針の1本に2-0ナイロン糸を通し先端を出しておく。針の先端から約1cm位のところを約30度位に指で曲げる。鏡視下に刺入部を十分確認後、この針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し、冠靱帯のところで一度先端を出し、改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し、このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通してからループを静かに締め、最初の針をナイロン糸を残して抜去し、第2の針をループがゆるまないようおさえたまま抜去すると、半月板を貫通したナイロン糸を関節外に引き出すことができる。困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ、最初のナイロン糸をつかんで長針を抜去し、そのナイロン糸をコッヘルでつかんだまま関節外に引き出す。ついでループ状のナイロン糸も同様に関節外に出してから、初めの糸をループに関節外で通し、ループを引っぱることによって最初の糸を関節外に出すことができる。著者は先端を曲げた糸通しと小ペアンで行っていたが現在はこの方法を行っている。この方法は英国のDndyが早く行い、それとは関係なく片山、木村らによって行われた。後節の縫合は同側の後穿刺部に小皮切を加え、膝窩腔でsemiclosedの術式で冠靱帯と半月板を縫合する。同様に長針を曲げて使う。市販の縫合器を使わないのは半月板と冠靱帯を縫合する意義に対する配慮が足りないと思われるからである。またそれを後節の縫合に使って関節外の重要な血管、神経を損傷した例が外国にある。
術後、膝軽度屈曲位でギプス包帯をまく。」

(a-2)図20には、「膝関節内において、『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の先端から突出させたループでもって、『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』より所定距離離間した『ナイロン糸1本を通した針』の先端から突出させたナイロン糸を把持する」こと、および「『ナイロン糸1本を通した針』および『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』がほぼ平行になる」こと、「『ナイロン糸1本を通した針』の延長線が、ループの内部を貫通するように『ナイロン糸1本を通した針』方向に延びる」ことの図示がある。

上記(a-1)および(a-2)の記載事項および図示内容より、甲第1号証には、「『ナイロン糸1本を通した針』と、該『ナイロン糸1本を通した針』より所定距離離間して、ほぼ平行になった『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』と、『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の内部に摺動可能に挿入された『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』とからなり、『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』は、先端に形成され、『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の内部に収納可能なループを有しており、さらに、該ループは、前記『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の先端から突出させたとき、『ナイロン糸1本を通した針』の延長線が、該ループの内部を貫通するように該『ナイロン糸1本を通した針』方向に延びる、『半月板外縁と冠靱帯の縫合術用手術具』。」の発明が開示されている。

(b)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載および図示がある。
(b-1)第1欄下から第2行?第2欄第8行
「A needle insertion instrument means for interstitial radiotherapy which permits the simultaneous insertion in difficult areas of a plurality of spaced parallel needles in a single plane, and requires only one hand for its operation while permitting the other hand to remain free to support the area of the body being implanted for providing continuous bimanual stereotactic guidance of the needles as they are advanced into the body, would be of great advantage in allowing easier, more accurate, and faster insertion of such needles.」
『同一平面内に平行配置された複数の針を穿刺困難な部位に同時に穿刺することを可能にする放射線治療用穿刺器具であって、片手で操作でき、他方の手で穿刺領域を支持できるようにして、穿刺針を体内に向かって前進させていく段階においても、両手による定位誘導を継続できるようにした穿刺器具は、非常に有用であり、容易、正確かつ迅速な穿刺を実現することができる。』(『』内は請求人による訳。以下同じ。)

(b-2)第2欄第11行?第26行
「Accordingly, a principal object of the invention is to provide a new and improved instrument means for inserting a plurality of parallel needles into the body for interstitial radiotherapy which overcomes deficiencies of devices previously employed.
Another object of the invention is to provide a new and improved instrument means for simultaneously inserting a plurality of parallel needles in the same plane into the body for interstitial radiotherapy.
A further object of the invention is to provide a new and improved instrument means for simultaneously inserting a plurality of parallel needles into the body for interstitial radiotherapy which may be moved in retrograde fashion along the implant needles which are being advanced into the body, for permitting long needles to be inserted without risk of bending.」
『したがって、本発明の主要な目的は、平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する、新規で改良された、従来の処置器具の欠点を解決する処置器具を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、同一平面内に平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する、新規で改良された処置器具を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する新規で改良された処置器具であって、体内に向かって前進する穿刺針に対して後退するように動かすことができるとともに、長い針でも曲がる危険性なしに挿入可能とする処置器具を提供することにある。』

(b-3)第2欄第35行?第38行
「A further object of the invention is to provide a new and improved instrument means for simultaneously inserting a plurality of parallel needles into the body for interstitial radiotherapy using one hand」
『発明の別の目的は、同一平面内に平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に片手で人体に穿刺する、新規で改良された処置器具を提供することにある。』

(b-4)第4欄第47行?第5欄第3行
「A needle retaining means 44 which is secured with the unit 12 slidably receives and retains a plurality of needles 46 for insertion into the tissue of a body 48 through its skin or surface 49. ・・・The needle retaining means 44 also includes a needle aligning device 66 of rectangular form having a pair of spaced vertical side elements 68, 70 extending downwardly from the end 58 of the elongated portion 56 and a bottom horizontal element 72 connecting the lower ends of the side elements 68, 70. The side element 68 has a plurality of vertically spaced openings 74 aligned with openings 76 of the side element 70 for slidably receiving through each pair of the aligned openings a respective one of the plurality of needles 46 and positioning them in parallel relation in the same plane.」
『針保持部44はユニット12に摺動可能なように固定されており、皮膚または体表面49から体の組織48へ穿刺するために複数の針46を保持する。・・・(中略)・・・針保持部44はまた、長方形の針整列部材66を有する。これは細長いパーツ56の前方端58から離れた位置で垂直方向に伸びた横板68,70と、横板68,70の端部と垂直に結合する板72を持つ。横板68は横板70の穴76と協調する複数の離れた垂直穴74を有し、位置の合わさった一組の穴を介して複数の針46のそれぞれが摺動可能に保持され、同一平面に平行に位置される。』

(b-5)第5欄第24行?第44行
「One side of the stop means 78 has a plane vertical surface 85 for engaging the rear ends 86 of each the needles 46 for aligning their front sharpened ends 88 to extend an equal distance beyond the clamping means 28 of the unit 12. The amount to which the needles 46 extend beyond the clamping means 28 may be adjusted by loosening the screw means 80 and sliding the stop means 78 along the slot 64 to the desired position and retightening the screw means 80. The side of the stop means 78 opposite its surface 85 is provided with a plurality of stepped vertical surfaces 90, which engage the ends 86 of the needles 46 when the stop means 78 is positioned as shown in FIG. 6 by loosening the screw means 80 and reversing the stop means 78. When so positioned the front pointed ends 88 of the needles extend different or unequal distances beyond the clamping means 28. This arrangement may be desirable when the needles 46 are to pierce skin or dense tissue requiring greater force to be concentrated on a single needle for easier insertion of each of the sharpened ends of the needles.」
『固定部材78の一面には、平坦な垂直面85が設けられている。垂直面85が設けられることにより、複数の針46の各基端86を固定し、各針46の尖った先端88を器具12のクランプ手段28から等間隔で離すことができる。クランプ手段28を超えた針46の長さはネジ80を緩め、固定部材78を穴64に沿って望みの位置に摺動させ再びネジ80を締めることで調節される。固定部材78の垂直面85と反対側には複数の段のある垂直面90を有し、これは固定部材78がFIG.6のように位置するときにネジ80を緩めて固定部材78を戻すことで針46の基端86と係合する。このように位置したとき、針の先端88はクランプ手段28を超えて異なった距離だけ伸びる。このような配置は針46がそれぞれの先端が容易に挿入できるように集中した大きな力を必要とする皮膚や深い組織を貫通する際に望ましい。』

(b-6)第5欄第46行?第49行
「the needles 46 are inserted through respective pairs of aligned opening 74,76 of the needle aligning device 66 with the needle back ends 86 engaging the stop means 78.」
『針整列部材66には、対となる孔74,76が設けられている。複数の針46は、各々孔74,76に通されており、基端86は固定部材78に係合している。』

(b-7)Fig.1およびFig.6には、「stop means78(固定部材)を用いて複数のneedle46(針46)の基端部を固定する」ことの図示があり、Fig.6およびFig.4には、「needle aligning device 66(針整列部材66)が、複数のneedle46の先端側を整列させると共に、opening74(孔74)を有する第1の平板状部材とopening76(孔76)を有する第2の平板状部材とを一体化したものである」ことの図示がある。

上記(b-1)ないし(b-7)の記載事項および図示内容より、甲第2号証には、「所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた複数の針46と、複数の針46の基端部が固定された針整列部材66とを有する、平行配置された複数の針を組織内放射線治療のために同時に人体に穿刺する処置器具。」の発明が開示されている。

(c)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。
(c-1)第1欄第29行?第32行
「The paths of needle travel in the procedural steps just described are generally parallel to one another in closely spaced relationship.」
『上記処置工程において針の通過した2つの跡は、通常、平行で近接した空間関係にある。』

(c-2)第2欄第30行?第33行
「In FIG. 4, the loop 14 is illustrated in its compressed state within an elongated cylindrical cannula 18. A cannula suitable for use with loop 14 is a conventional spinal needle.」
『図4に示すように、ループ14は円筒状カニューラ18の中で圧縮されている。カニューラは従来使用されている脊髄針を用いることができる。』

(c-3)第2欄第13行?第15行
「FIG. 4 is a sectional view of a portion of the device shown in FIG. 1 in operative relationship with a segment of a cylindrical needle.」
『図4は、図1に示された器具の、円筒状針との関係を示す部分断面図である。』

(c-4)第2欄第16行?第21行
「Referring to FIGS. 1-3, an elongated rod 10 has secured to one end thereof a handle 12 of any convenient configuration. Preferably, rod 10 and handle 12 are formed of stainless steel. An elongated elliptically-shaped loop 14 is secured to the end of rod 10 opposite handle 12.」
『図1?3を参照すると、長尺状のロッド10は一端がハンドル12に取り付けられている。ロッド10とハンドル12はステンレス鋼でできているのが好ましい。長楕円形状に形成されたループ14は、ハンドル12の反対側のロッド10の端に固定されている。』

(c-5)第2欄第26行?第29行
「Since loop 14 is formed of thin stranded lengths of wire, it is resilient whereby it can be compressed and then can return to its original configuration when the compression forces are released.」
『ループ14は撚り合わされた細いワイヤで形成されているため、弾力性を有しており、圧縮して折りたたむことが可能であり、また圧縮から開放されると元の形状に復帰できる。』

(c-6)第2欄第37行?第41行
「In a typical arthroscopic procedure, three incisions are made to receive, respectively: an optic system (arthroscope) for allowing the involved surgical area to be viewed on a television monitor; the instruments for performing the surgery; and an irrigation device.」
『典型的な関節鏡手術において、3つの切開が実施される。それぞれ、手術部位をテレビモニターで観察できる光学システム(関節鏡)挿入用切開、手術器具挿入用切開、そして洗浄挿入用切開である。』

(c-7)第2欄第45行?第47行
「In accordance with the present invention, a pair of cannulas 18 are inserted through the skin in closely spaced relationship. 」
『本発明によれば、ペアのカニューラ18が皮膚を通して近接した部位に挿入される。』

(c-7)第2欄第51行?第52行
「The surgeon then grasps the surgical device by handle 12 and passes loop 14 through one of the cannulas 18.」
『外科医は次にハンドル12で外科器具をつかみ、一本のカニューラ18の中にループ14を通す。』

(c-8)第2欄第54行?第3欄第2行
「The surgeon then inserts one end of a length of suture material through the incision provided for receiving the surgical instruments. Utilizing the television monitor for guidance, the end of the suture material is threaded through loop 14. The loop then is withdrawn through cannula 18. As the loop re-enters the distal end of the cannula, the suture material is snagged within the crimped portion 16 of the loop. This prevents the material from escaping the loop. When the loop completely exits the proximal end of cannula, the captured end of the suture material is removed from the loop. The surgeon then inserts the device through the second cannula 18, whereupon the procedure just described is repeated for the other end of the length of suture material.」
『次いで外科医は、縫合糸の一端を、外科器具挿入用に設けられた切開口から挿入する。ガイド用テレビモニターを利用しながら、縫合糸の端がループ14の中に通される。次いで、ループはカニューラ18内に引き戻される。ループが再びカニューラの先端に入り込むと、縫合糸は掴み部16に引っ掛かる。これにより、縫合糸がループから外れることが防止される。ループが完全にカニューラの基端部から取り出されると、掴まれた縫合糸の端はループから外される。外科医は次に第2のカニューラ18にデバイスを通し、縫合糸のもう一方の端に対して上記と同様な処置を行う。』

上記(c-1)ないし(c-8)の記載事項および図示内容より、甲第3号証には、「円筒状カニューラ18と、該円筒状カニューラ18の内部に挿入され、これの先端からループ14が取り出される『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』とを備え、前記『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』は、先端に設けられて弾力性を有し、前記円筒状カニューラ18の内部に挿入されるループ14を有する、処置具。」の発明が開示されている。

(d)甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載および図示がある。
(d-1)第6欄第65行?第7欄第8行(下線は請求人が付した。以下同じ。)
「FIG. 11 shows a tool 400 for deploying fastener 305. Tool 400 may be considered as comprising two of the tools 100 of FIG. 2 joined together. More specifically, tool 400 comprises a pair of parallel hollow sheaths or needles 405 and 406 and a pair of plungers or rams 410 and 411.
Sheath 405 is a cylindrical tube that terminates in a flat annular surface 415 at its front end and a flat surface 420 at its rear end. Front surface 415 is disposed at an inclined angle (approximately 30 degrees) relative to the longitudinal axis of sheath 405, so that the sheath is effectively sharply pointed at its front end.」
『図11は、ファスナー305を留置するための処置具400を示す。処置具400は、図2の処置具100が2つ連結されて構成されていると考えられる。処置具400は一対の平行な中空シース若しくは針405及び406と、一対のプランジャー若しくはピストン410及び411とから構成されている。
シース405は中空チューブであり、先端部で平らな輪状の表面415を有し、基端部では平らな面420を有している。先端部表面415は、シース405の軸線方向に対して約30度に斜めカットされている。こうすることで、シースは効率的に先端部において有効で鋭角な先端となる。』

(d-2)第7欄第55行?第64行
「Sheaths 405 and 406 are attached to one another to form a unitary tool. Such attachment may be achieved in any number of ways well known to one skilled in the art, but preferably this attachment is achieved by a rigid cross member 443 attached to both sheaths, with or without the use of additional support members. Sheaths 405 and 406 are attached together so that their front tips are aligned with one another, as are their rear surfaces 420 and 421, their slots 430 and 431, and their stops 445 and 446.」
『シース405と406とは、単一器具として形成されるようお互いに固定される。そのような固定は、当業者によく知られる多くの方法によって実現されるが、両方のシースに対し、補助手段とともに、または補助手段なしに、両方のシースに取り付けられた剛性横断手段443で固定することが好ましい。シース405と406は、一緒に固定されているため、先端部はお互いにそろっており、基端部表面420と421、溝430と431及びストップ445と446も同様である。』

(e)甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載および図示がある。
(e-1)特許請求の範囲
「体壁に挿入される挿入部が異形パイプで形成された外套管と、この外套管内に互いの軸線をほぼ平行にして挿入可能な円形断面の複数の導入補助針とからなることを特徴とする挿入補助具。」

(e-2)公報第2頁左上欄第12行?最下行
「上記課題を解決するためにこの発明は、体壁に挿入される挿入部が異形パイプで形成された外套管と、この外套管内に互いの軸線をほぼ平行にして挿入可能な円形断面の複数の導入補助針とから挿入補助具を構成する。
それによって、体壁に複数の補助針を並列に穿刺してから、これら補助針をガイドにして外套管を体壁に挿通する。」

(e-3)公報第3頁右上欄下から第2行?左下欄第3行
「第8図に示すようにガイド体47に穿設された一対の通孔48にそれぞれ第2の導入補助針46を挿通し、上記第2の導入補助針45と軸線をほぼ平行にして体壁Bに穿刺する。」

(e-4)第8図には、「ガイド体47に穿設された一対の通孔48にそれぞれ第2の導入補助針46を挿通し、上記第2の導入補助針45と軸線をほぼ平行にして体壁Bに穿刺する」ことの図示がある。

(f)甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載がある
(f-1)「ABSTRACT A surgical apparatus for suturing soft tissues with lengths of suturing material with spicules comprises at least one hollow needle, mounted in the apparatus body, with a bore to accommodate a length of suturing material, introduced into the tissue to be sutured together with the needle, as well as a stop situated inside the needle bore. The needle in adapted to move longitudinally over the stop so as to retain the length of suturing material in the tissue being sutured while the needle is being withdrawn therefrom, and provided with an actuator to impart the longitudinal movement thereto.」
『ABSTRACT 針状体を持った長い縫合材にて、軟組織を縫合する外科器具、器具本体に取り付けられた少なくとも1本の中空針、中空針と接合され組織に導入される長い縫合材に適応した孔、中空針の中に備えられた停止材で構成されている。中空針が引き抜かれると同時に、組織内に長い縫合材を保持するために、中空針は停止材上を長手方向に可動であり、長手方向の動きを伝えるアクチュエータが備わっている。』

(f-2)第4欄第12行?第26行
「The apparatus may contain a group of needles 2 with stops 6 arranged in parallel and having a common actuator intended for the simultaneous movement of the needles 2 relative to the stops 6. This apparatus has a body shaped like a yoke 15 (FIG. 3), rigidly connected with rods 16, which, in turn, are fastened with a bracket 17 by means of pins 18. The actuator, serving to move the hollow needles 2 relative to the stops 6, is formed by a brace 19 which has a handle 20 at one end and connected through a pin 21 (FIGS. 3 and 4) with a plate 22 and by a pin 23 (FIG. 3) with an attachment 24 (FIGS. 3 and 5). The plate 22 and attachment 24 form the slide of the actuator. Made in the attachment 24 are through holes 25 (FIG. 5), in which the rear ends of the needles 2 (FIG. 3) are fastened.」
『器具は、平行に配列された一連の中空針2と停止部材6を含み、停止部材6にリンクした中空針2の同時動作のための共通のアクチュエーターを持っている。この器具は、くびき(横木)15(図3)のような形状の本体を持ち、ロッド16と堅く連結され、同様にピン18にてブラケット17と堅く留められている。停止部材6にリンクして中空針2を動かすためのアクチュエーターは、一端にハンドル20を持ち、ピン21にてプレート22(図3、4)、ピン23(図3)にてアタッチメント24(図3、5)が連結されている締め具19で形成されている。プレート22とアタッチメント24は、アクチュエーターのスライドを形成する。アタッチメント24には孔25が形成されており(図5)、そこに中空針2(図3)の後端が固定されている。)』

(g)甲第9号証
甲第9号証には、以下の記載がある。
(g-1)第2314頁右欄第8行?第27行
「57 Pereutaneous Endoscopic Gastrostomy(PEG)の経験
・・・(中略)・・・切開を加え、モニターTV上確認しつつペアンで胃前壁を把握し腹壁と2カ所で縫合・固定する。・・・(中略)・・・合併症等は認められなかった。」

(h)甲第10号証
甲第10号証には、以下の記載および図示がある。
(h-1)公報第5頁右上欄第4行?同左下欄第4行
「内蔵アンカーを利用した内蔵壁のモビライゼイション法すなわち孔あけ法を第3図乃至第7図に示す。第3図を参照すれば、前記方法の好適な実施例において、身体の外側から皮膚と内臓壁を貫いて内臓の内腔まで針を刺して通路すなわち道が形成されている。前記実施例において、カニュールすなわち16ゲージのプラスチック製シース40を上部に付着した長さ15cmの22ゲージの針39を針刺しに使用している。膨張した内臓内腔に突出針を入れると外側のカニュールすなわちシースはその上を前進し、シースがその場所に残って道を造る。シースが固定すると針は除かれる。第3図は身体の内側から腹壁41と内臓壁43と貫いて内臓42の内腔44にのびている道を形成するプラスチックのシース40を示している。
第4図はシース40によってできた道から内腔44の中にクロスバー11が挿入される方法の別の工程を示す。クロスバー11は挿入中に道の長手方向の軸線に沿って整列し、縫合線12,20がシース40の中を引きずられ、それらの非着端部18,21が体の外側に留まっている。」

(h-2)第3図および第4図には、「針39とプラスチック製シース40を一体にした状態で穿刺を行い、穿刺後、針39を抜き去り、その後、プラスチック製シース40の内部に、先端にクロスバー11の設けられた糸状部材を挿入して前進させ、クロスバー11を体内に導く」ことの図示がある。

(i)甲第11号証
甲第11号証には、以下の記載および図示がある。
(i-1)公報第1頁右下欄第10行?第12行
「本発明は、身体への当接面に少なくとも一列に多数の超音波変換素子を順次配置した超音波断層装置用超音波プローブに関する。」

(i-2)公報第3頁左上欄下から第4行?同右上欄第1行
「その後穿刺針11を前記アダプター5に備えられた前記導入ガイド52より前記案内スリット51に導入し、そこで、この案内スリット内部で所望の穿刺針11の身体への刺し込み方向を任意に選択し穿刺する。」

(i-3)第2図には、「穿刺針11を案内スリット51に導入して用いる超音波プローブの支持体1」が図示されている。

(j)甲第12号証
甲第12号証には、以下の記載および図示がある。
(j-1)公報第1頁左下欄第13行?第14行
「本発明は腹腔内等に穿刺針を穿刺する際等に用いられる体壁保持具に関する。」

(j-2)第1図には、「穿刺針を挿入する挿入口9および体壁固定部2を備える体壁保持具」が図示されている。

(j-3)第5図には、「体壁固定部2が体壁固定用の平板状部材として機能する」ことが図示されている。

(k)甲第13号証
甲第13号証には、以下の記載および図示がある。
(k-1)明細書第1頁第10行?第13行
「本考案は、超音波探触子に係り、特に、穿刺を行う超音波探触子において、穿刺を行う時のガイドマークに適用して有効な技術に関するものである。」

(k-2)第1図および第4図には、「穿刺ガイド板2」が図示されている。

(l)甲第14号証ないし甲第16号証
甲第14ないし16号証には、enngageという用語が、固定や係合という意味を持つことが示されている。

(m)甲第17号証
甲第17号証には、以下の記載および図示がある。
(m-1)第1欄第6行?第10行
「This invention relates to a suturing device and method for using same. The invention relates particularly to surgical techniques for use in knee surgery, although the invention may also be used in other types of surgery.」
『本件発明は、縫合器具およびその使用法に関する。本件発明は、ことに膝の外科手術にかかわるものであるが、本件発明は、他のタイプの外科手術に用いることもできる。』

(m-2)第4欄第6行?第7行
「The needles 68, 70 are placed within the receptacles 54, 56 as also shown in FIG.3.」
『図3に示されるとおり、針68,70は、レセプタクル54,56に収納される。』(請求人による注釈:原文中、needles 68,70とあるのは、FIG.3との関係から、needles68,69の誤記と考えられる。)

(m-3)第4欄第46行?第50行
「Prior to insertion of plunger 14 into sleeve 12, needles 68, 69 are inserted in receptacles 58, 60 and the thread 66 interconnecting needles 68, 69 is fitted within slot 48 of thumb pad 46 in the manner shown in FIG. 11.」
『図11に示されるように、スリーブ12にプランジャー14を挿入する前に、針68,69はレセプタクル58,60に挿入され、針68,69を接続するスレッド66は、サムパッド46のスロット48に納められる。』

(m-4)FIG.11、FIG.12およびFIG.13には、「半月板に2本の穿刺針を平行に配置して同時に穿刺する」ことの図示がある。

(5-2)無効理由(特許法第29条第2項)について
<本件特許発明1について>
上記(5-1)(a)で示したように、甲第1号証には、「『ナイロン糸1本を通した針』と、該『ナイロン糸1本を通した針』より所定距離離間して、ほぼ平行になった『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』と、『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の内部に摺動可能に挿入された『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』とからなり、『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』は、先端に形成され、『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の内部に収納可能なループを有しており、さらに、該ループは、前記『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の先端から突出させたとき、『ナイロン糸1本を通した針』の延長線が、該ループの内部を貫通するように該『ナイロン糸1本を通した針』方向に延びる、『半月板外縁と冠靱帯の縫合術用手術具』。」の発明が開示されている。

本件特許発明1と甲第1号証記載の発明とを対比する。
○甲第1号証記載の発明の「『ナイロン糸1本を通した針』」、「『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』」、「『半月板外縁と冠靱帯の縫合術用手術具』」は、本件特許発明1の「縫合糸挿入用穿刺針」、「縫合糸把持用穿刺針」、「医療用器具」にそれぞれ相当する。

○甲第1号証記載の発明の「『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』」と本件特許発明1の「スタイレット」は、縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されると共に、先端に形成されて縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有する「挿入具」という点で共通する。

○甲第1号証記載の発明の「ループ」は、縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能なものであることから、ある程度の弾性を有するものである、つまり、「弾性材料により」形成された「ループ(環状部材)」であるということができるので、本件特許発明1の「弾性材料により」形成された「環状部材」に相当する。

○甲第1号証記載の発明の「ほぼ平行になった」と、本件特許発明1の「ほぼ平行に設けられた」は、「所望の位置関係の」という点で共通する。

上記より、甲第1号証記載の発明は、「縫合糸挿入用穿刺針と、該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、所望の位置関係の縫合糸把持用穿刺針と、該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された挿入具とからなり、前記挿入具は、先端に弾性材料により形成され、前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており、さらに、該環状部材は、前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる、医療用器具。」に相当し、この点において両者は一致し、以下の点で相違している。

◇相違点1
本件特許発明1では、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針であり、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を有しているのに対して、
甲第1号証記載の発明では、「ほぼ平行になった」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針であり、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を有していない点。

◇相違点2
本件特許発明1では、挿入具について、これが「スタイレット」であるのに対して、甲第1号証記載の発明では、「『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』」である点。

上記両相違点について検討する。
◆相違点1について
甲第1号証には、上記(5-1)(a)(a-1)で示した「・・・半月板制動術から発展した半月板外縁と冠靱帯の縫合術である。・・・18ゲージ長針の1本に2-0ナイロン糸を通し先端を出しておく。針の先端から約1cm位のところを約30度位に指で曲げる。鏡視下に刺入部を十分確認後、この針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し、冠靱帯のところで一度先端を出し、改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し、このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通してからループを静かに締め、最初の針をナイロン糸を残して抜去し、第2の針をループがゆるまないようおさえたまま抜去すると、半月板を貫通したナイロン糸を関節外に引き出すことができる。困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ、最初のナイロン糸をつかんで長針を抜去し、そのナイロン糸をコッヘルでつかんだまま関節外に引き出す。ついでループ状のナイロン糸も同様に関節外に出してから、初めの糸をループに関節外で通し、ループを引っぱることによって最初の糸を関節外に出すことができる・・・」との記載からして、半月板外縁と冠靱帯の縫合に際して、「針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し、冠靱帯のところで一度先端を出し、改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し、このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通して」といった複雑な操作を行う必要があると共に、操作が困難なときもあることが示されており、これは、膝関節内の構造が単純でないと共に個々の術例(症例)が一様でないことに依っていると解することができ、これからして、縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針を一定の位置関係に固定して同時に穿刺すること自体、現実的ではないということができるので、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針を一定の位置関係に固定しない」ことが記載されているに等しいということができる。
そうすると、甲第1号証記載の発明は、半月板外縁と冠靱帯の縫合に際して、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることをそもそも想定するものではないので、甲第2ないし17号証記載の事項および周知慣用技術にかかわらず、甲第1号証記載の発明において、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることは、出願前に当業者が容易に想到し得ることではない。

ところで、請求人は、陳述要領書の第11頁下から第8行?同第12頁第13行において、「また、甲第1号証には、ループを用いた縫合糸の受け渡しを行う技術が開示されているが、当業者であれば、この縫合糸受け渡しの技術は、半月板外周縁部の施術にしか適用できないというものではなく種々の施術に適用可能なものとして理解する。
たとえば、胃瘻造設の分野においては、甲第9号証の第2314頁右欄『57 Percutaneous Endoscopic Gastrostomy (PEG)の経験』に記載されているように、鉗子を用いた縫合が行われていた。また、甲第10号証に記載されているように、内臓アンカーを用いた施術が行われていた。鉗子を用いた縫合では、鉗子を導入するために対象箇所を切開しなければならず、患者の侵襲、治癒が遅れる、施術が煩雑になるという問題があった。また、内臓アンカーを用いた施術では、クロスバーが胃内に残留することがあり胃壁等を損傷するという問題があった。この点は本件特許明細書の【0004】欄にも記載されているとおりである。
また、甲第1号証記載の半月板外周縁部の縫合固定も胃瘻造設における縫合固定も、以下の点で共通する。
甲第1号証記載の半月板外周縁部の縫合固定は、半月板外周縁と靱帯とを縫合するものであり、胃瘻造設では胃壁と腹壁とを縫合するものであり、人体の2つの部分を縫合する施術である点で共通する。また、縫合対象よりも人体内側に、縫合糸を受け渡す空間が存在する点においても共通する。また、両者は、関節鏡や内視鏡で観察しながら施術する点も共通する。
以上のことから、当業者は、甲第1号証に記載されている縫合糸受け渡しの技術を、半月板外周縁部の縫合固定以外の種々の施術に適用可能なものとして理解する。」との主張をおこなっていることから、甲第1号証記載の発明の医療用器具を、仮に、腹壁と胃壁の縫合に用いる場合について、以下、検討する。

(i)甲第3号証には、「円筒状カニューラ18」(縫合糸把持用穿刺針)を用いて縫合を行うことが示されており、甲第9、10号証には、腹壁と胃壁を縫合することが示されており、甲第11ないし13号証には、穿刺針をガイドすることが示されており、甲第14ないし16号証には、engageという用語に固定ないし係合という意味のあることが示されているものの、甲第3、9ないし16号証には、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることが示されているとはいえない。

(ii)甲第17号証には、2つの穿刺針68、69を平行にして体内から体外に向けて穿刺して体外に出すことが示されており、ここで、仮に、2つの穿刺針の基端部を固定部材で固定した場合、この固定部材が2本の穿刺針を体外に出す際の障害になることは明らかであるので、甲第17号証には、2つの穿刺針が平行になることが示されているとしても、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることが示されているとはいえない。

(iii)甲第2号証記載の発明は、組織内放射線治療に関するものであり、甲第4号証記載の発明は、ファスナー305を体内留置することに関するものであり、甲第6号証記載の発明は、長い縫合材を組織に導入することに関するものであって、甲第2、4、6号証には、複数の穿刺針を同時に穿刺すると共に、複数の穿刺針の基端部を固定部材で固定することが示されている。
しかしながら、甲第2、4、6号証に記載されている穿刺針は、縫合糸挿入用穿刺針や縫合糸把持用穿刺針ではないので、甲第2、4、6号証には、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることが示されているとはいえない。

(iv)甲第5号証は、本件出願時において公知になっていない文献である。

(v)甲第7、8号証は、本件特許発明1ないし7にかかる侵害事件において被請求人(特許権者)が裁判所に提出した書面であって、公知技術を示すものではなく、また、本件特許発明1の技術的認定はあくまで本件特許明細書の記載に基いて行われるべきであって、上記侵害事件における特許権者(被請求人)の主張により左右されるものではない。

(vi)「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることが周知慣用技術であるということはできない。

上記(i)ないし(vi)からして、甲第1号証記載の発明において、腹壁と胃壁の縫合に際して、甲第2ないし17号証記載の事項および周知慣用技術を組み合わせたとしても、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることは、出願前に当業者が容易に想到し得ることではない。

したがって、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、甲第1号証に記載された発明および周知慣用技術に基いて、または、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易になし得ることではない。

◆相違点2について
上記(5-1)(c)で示したように、甲第3号証には、「円筒状カニューラ18と、該円筒状カニューラ18の内部に挿入され、これの先端からループ14が取り出される『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』とを備え、前記『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』は、先端に設けられて弾力性を有し、前記円筒状カニューラ18の内部に挿入されるループ14を有する、処置具。」の発明が開示されており、これからして、甲第3号証には、「円筒状カニューラ18(縫合糸把持用穿刺針)の内部に摺動可能に挿入され、先端に弾性材料により形成されて円筒状カニューラ18(縫合糸把持用穿刺針)の内部に収納可能なループ14(環状部材)を有する」「『ロッド10およびこれの先端に設けられたループ14』」(挿入具)(スタイレット)が示されているということができる。
そうすると、甲第1、3号証記載の発明の「挿入具」は共に、「縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入され、先端に弾性材料により形成されて縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有する」という点で共通していることから、甲第1号証記載の発明の「挿入具」を、甲第3号証記載の発明と同じく、「スタイレット」にすることは、出願前に当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易になし得ることである。

上記両相違点についての検討からして、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることは、甲第1号証に記載された発明および周知慣用技術に基いて、または、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易になし得ることではなく、また、本件特許発明1の「・・・この医療用器具を用いることにより、前腹壁と内臓壁、例えば、前腹壁と胃体部前壁とを容易、かつ短時間に、さらに安全かつ確実に固定することができ、この固定にともなう患者への侵襲も、穿刺針の穿刺という極めて少ないものであり、患者に与える負担も少ない。」(【0026】【発明の効果】)という効果は、特に、「ほぼ平行に設けられた」縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に、「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材」を設けることより生じるものであるので、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明および周知慣用技術に基いて、または、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

<本件特許発明2ないし7にかかる発明について>
本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1の上記相違点1にかかる発明特定事項を有するものであることから、本件特許発明1と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明および周知慣用技術に基いて、または、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5-3)まとめ
以上のとおりであるから、請求人が主張している無効理由によっては、本件特許発明1ないし7についての特許を無効とすることはできない。

6.むすび
したがって、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1ないし7にかかる発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-23 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願平2-416573
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 修大橋 賢一  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 豊永 茂弘
岩田 洋一
登録日 1995-02-24 
登録番号 特許第1907623号(P1907623)
発明の名称 医療用器具  
代理人 豊島 真  
代理人 増井 和夫  
代理人 速水 進治  
代理人 山田 徹  
代理人 工藤 敦子  
代理人 豊島 真  
代理人 菊池 毅  
代理人 田中 成志  
代理人 速水 進治  
代理人 森 修一郎  
代理人 菊池 毅  
代理人 森 修一郎  
代理人 工藤 敦子  
代理人 増井 和夫  
代理人 平出 貴和  
代理人 山田 徹  
代理人 平出 貴和  
代理人 田中 成志  

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