• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1231438
審判番号 不服2009-15422  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-24 
確定日 2011-02-04 
事件の表示 特願2001- 34900「モータブラシ保持構造」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月23日出願公開,特開2002-238204〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,平成13年2月13日の出願であって,平成21年5月19日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成21年8月24日に拒絶査定不服審判が請求されると共に,同日付けで手続補正書が提出されたものである。



2.平成21年8月24日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

本件補正を却下する。


[理由]

(1)補正後の本願の発明

本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「絶縁性基板の表面に断面略コ字型のブラシホルダーを門型にして突設し,該ブラシホルダーで包囲される略筒状の空間内にカーボンブラシを筒方向摺動自在に収容保持し,該カーボンブラシのコミュテータと接触する側の先端部を同ブラシホルダーの一方の開口端より突出させ,該ブラシホルダーの側壁部に同カーボンブラシより導出されたピグテールが挿通され筒方向移動自在に納められる筒方向に長いスリットを形成し,該スリットの一端を前記一方の開口端近傍にまで至らせてなるモータブラシ保持構造であって,
前記スリットの他端は,当該カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の開口端に開口させ,前記スリットが形成された金属製からなるブラシホルダーの側壁部を,前記スリットの一端が開口端近傍にまで至らせた方であってカーボンブラシの先端部が突出される方の開口端で外側方に延設して当該スリットのない折曲補強片部を形成してなるモータブラシ保持構造。」と補正された。

上記補正は,実質的に補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「折曲補強片部」について「スリットのない」との限定を付加する補正であるので,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(上記改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(2)引用例

原査定の拒絶の理由に引用された,実願昭60-138710号(実開昭62-48158号)のマイクロフィルム(以下,「引用例」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。

・「[産業上の利用分野]
本考案は電動機や発電機等の直流電機に使用されるブラシ装置に関するものである。
[従来の技術]
従来,直流電機に用いられるブラシ装置としては,次のような技術が知られている。
即ち,第7図及び第8図の如く,ブラシホルダー12は断面コの字状の真鍮等の金属からなり,ブラシホルダー12の側面の図示下方には爪7が一体に形成されている。上記爪7はフェノール樹脂等からなる平板状の絶縁板6に挿入され,爪7の先端は絶縁板6のブラシホルダー12と反対側の面と平行に折り曲げられて固定されている。また,ブラシホルダー12の内側には,角柱状のカーボン等からなるブラシ1が移動自在に挿入されている。
さらに,ブラシ1の先端面1aはコミュテータ8に摺接しており,ブラシ1の後端面1bは圧縮コイルバネ等のバネ部材4に当接してバネ部材4の弾性によりコミュテータ8側に押されている。・・・また,カーボンからなるブラシ1はコミュテータ8の回転によって徐々に摩耗することから,ブラシホルダー12には,ブラシ1の後端側に接続固定したリード線3のコミュテータ8方向への移動を許容するための長溝11も形成している。
上記リード線3の先端は,ブラシホルダー12の側面に形成された一方を開口した長溝11を通ってブラシホルダー12の外部に導出され,図示しない電源に接続されている。」(明細書1頁9行?2頁18行)

・「[実施例]
以下,本考案の実施例を第1図乃至第6図に基づいて説明し,第7図及び第8図と同符号は同一部品を示しその説明を省略する。」(同書4頁6行?9行)

・「また,第4図は,長溝9が形成された側面2aがブラシホルダー2の開口側に延設された平面2bにその一部まで長溝9が延設され,平面2bが側面2aに対して垂直外側に折り曲げられたブラシホルダー2の例である。本例では,長溝9の開口側9aを塞ぐ平板状部が補強リブ5となっている。」(同書5頁3行?8行)

・「[考案の効果]
後端側にリード線を接続固定した角柱状のブラシを移動自在に挿入したブラシホルダーの側面に長溝を形成し,上記長溝の開口側を塞ぐ補強リブを形成したことにより,ブラシホルダーの長溝の周辺部分が補強されて,長溝の周辺部分の変形を防止できる。・・・さらに,上記変形が防止できるために,長溝の長さ及びブラシの長さを長くすることができ,ブラシの寿命が長くなる等の効果を奏する。」(同書6頁3行?15行)

・第1図乃至第6図には,ブラシホルダー2が断面コの字状であり,平板状の絶縁板6の表面に門型にして突設されている態様が示されている。

・上記引用例の従来技術に記載されたブラシホルダー12と,実施例に記載されたブラシホルダー2とは,その図面の符号が異なっているため,別の部品であるものと認められるが,ブラシホルダー2の材料は,ブラシホルダー12と異なる材料を用いる旨記載されておらず,また,第4図の平面2bが折り曲げられること(同書5頁3行?8行)から塑性変形可能な材料を用いていることは明らかである。
以上を考慮すると,ブラシホルダー2の材料は,ブラシホルダー12と同様の「真鍮等の金属」を用いているものと認められる。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には,次の事項からなる発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「平板状の絶縁板の表面に断面コの字状のブラシホルダーを門型にして突設し,該ブラシホルダーの内側にカーボン等からなるブラシを移動自在に挿入し,該カーボン等からなるブラシのコミュテータと接触する側の先端部を同ブラシホルダーの開口端より突出させ,該ブラシホルダーの側面に同カーボン等からなるブラシより導出されたリード線が挿通され筒方向移動自在に納められる筒方向に長い長溝を形成してなる直流電機に用いられるブラシの保持構造であって,
前記長溝が形成された金属製からなるブラシホルダーの側面を,カーボン等からなるブラシの先端部が突出される方の開口端で外側方に延設して垂直外側に折り曲げられた,補強リブを有する平面を形成してなる直流電機に用いられるブラシの保持構造。」


(3)対比

そこで,本願補正発明と引用発明とを比較すると,その機能・作用からみて,後者における「平板状の絶縁板」は前者の「絶縁性基板」に相当し,以下同様に,「断面コの字状」は「断面略コ字型」に,「カーボン等からなるブラシ」は「カーボンブラシ」に,「リード線」は「ピグテール」に,「長溝」は「スリット」に,「直流電機に用いられるブラシの保持構造」は「モータブラシ保持構造」に,「側面」は「側壁部」に,「垂直外側に折り曲げられた,補強リブを有する平面」は「折曲補強片部」に ,それぞれ相当している。
さらに,引用発明における「ブラシホルダーの内側にカーボン等からなるブラシを移動自在に挿入し」という態様は,本願補正発明の「ブラシホルダーで包囲される略筒状の空間内にカーボンブラシを筒方向摺動自在に収容保持し」という態様に相当する。

したがって,本願補正発明と引用発明とは,

「絶縁性基板の表面に断面略コ字型のブラシホルダーを門型にして突設し,該ブラシホルダーで包囲される略筒状の空間内にカーボンブラシを筒方向摺動自在に収容保持し,該カーボンブラシのコミュテータと接触する側の先端部を同ブラシホルダーの開口端より突出させ,該ブラシホルダーの側壁部に同カーボンブラシより導出されたピグテールが挿通され筒方向移動自在に納められる筒方向に長いスリットを形成してなるモータブラシ保持構造であって,
前記スリットが形成された金属製からなるブラシホルダーの側壁部を,カーボンブラシの先端部が突出される方の開口端で外側方に延設して折曲補強片部を形成してなるモータブラシ保持構造。」

の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
ブラシホルダーに関し,本願補正発明は,カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の端部が開口しているのに対し,引用発明は,カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の端部が開口していない点。

[相違点2]
スリットに関し,本願補正発明は,スリットの一端をカーボンブラシの先端部が突出される方の開口端近傍にまで至らせており,かつ,スリットの他端は,カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の開口端に開口させているのに対し,引用発明は,スリットの一端をカーボンブラシの先端部が突出される方の開口端にまで至らせており,かつ,スリットの他端は,当該カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の開口端に開口させていない点。

[相違点3]
折曲補強片部に関し,本願補正発明は,スリットのないものであるのに対し,引用発明は,スリットのあるものである点。


(4)判断

上記相違点について,以下検討する。

・相違点1及び2について

ブラシホルダーの,カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の端部に開口を設け,さらに,スリットの一端をカーボンブラシの先端部が突出される方の開口端近傍にまで至らせつつ,当該スリットの他端を,カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の開口端に開口させているブラシ保持構造は,周知技術である(例えば,特開2000-228849号公報(特に,第5図),特開平11-196553号公報(特に,第5図),特開平10-84659号公報(特に,第1図,第2図)参照)。
ここで,引用発明においても,カーボンブラシをブラシホルダーへ挿入する際の容易性等を考慮してブラシホルダーの開口位置やスリットの形状を適宜選択することは,当業者が必要に応じてなし得ることであり,上記周知技術に基づき,引用発明におけるブラシホルダーの,カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の端部にも開口を設け,かつ,引用発明におけるスリットの一端をカーボンブラシの先端部が突出される方の開口端近傍にまで至らせつつ,当該スリットの他端を,カーボンブラシのコミュテータと接触する側とは反対の開口端に開口させることは,当業者が容易になし得ることである。
なお,その際に,スリットの一端が近傍まで至った開口端においても,その強度が脆弱であることは,当業者にとって自明な事項であり,当該端部であるカーボンブラシの先端部が突出される方の開口端に折曲補強片部を設けたままとしておくことは,当業者が通常なし得ることである。

よって,引用発明において,上記相違点1及び2に係る本願補正発明の構成とすることは,上記周知技術に基づき当業者が容易になし得たものである。

・相違点3について

引用発明において,折曲補強片部(垂直外側に折り曲げられた,補強リブを有する平面)にスリットを設ける点に,特に格別の機能・作用は認められず,また,当該スリットを設けない方が強度が増すことは,当業者にとって自明な事項である。

よって,引用発明における折曲補強片部をスリットのないものとし,上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が適宜なし得ることである。

なお,審判請求人は,平成21年8月24日付けの審判請求書の4頁7行?10行において「審査官殿が引用された各文献には,「スリットのない折曲補強部」との構成がないので,本願のような,カーボンブラシの熱を素早く放熱でき,振動や衝撃等に耐え得る機械的強度を有するという顕著な効果を達成し得ないものである。」との主張をし,また,平成22年4月15日付け回答書の5頁26行?6頁4行において「本願発明の重要な特徴点として説明した「スリットの一端を前記一方の開口端近傍にまで至らせて,この一方の開口端で側壁部を外側方に延設してスリットのない折曲補強片部を形成しており,折曲補強片部近傍にまでスリットを形成しつつ,折曲補強片部にはスリットを形成していない。そして,このように折曲補強片部にスリットがないために放熱面積が広くなり,カーボンブラシの熱を素早く放熱できると共に,コミュテータから伝わる振動や衝撃にも耐え得る機械的強度を有する」という技術思想には想到し得ないものであります。」と主張するが,カーボンブラシとコミュテータとが接触する部分で高温となり,その熱的影響を緩和するという課題は,文献を挙げるまでもなく周知であり,上記のとおり折曲補強片部をスリットのないものとすることにより,放熱性が増すことは,当業者が予測し得ることであるから,審判請求人の上記主張は,採用することができない。

そして,本願補正発明の全体構成によって奏される効果は,引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。


したがって,本願補正発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(5)むすび

以上のとおり,本件補正は,改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



2.本願の発明について

本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成21年2月16日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載によれば,以下のとおりのものと認められる。

「絶縁性基板の表面に断面略コ字型で金属製のブラシホルダーを門型にして突設し,該ブラシホルダーで包囲される略筒状の空間内にカーボンブラシを筒方向摺動自在に収容保持し,該カーボンブラシのコミュテータと接触する側の先端部を同ブラシホルダーの一方の開口端より突出させ,該ブラシホルダーの側壁部に同カーボンブラシより導出されたピグテールが挿通され筒方向移動自在に納められる筒方向に長いスリットを形成し,該スリットの一端を前記一方の開口端近傍にまで至らせると共に他端を他方の開口端に開口させてなるモータブラシ保持構造であって,前記スリットが形成されるブラシホルダーの側壁部を前記スリットの一端が開口端近傍にまで至らせた方であってカーボンブラシの先端部が突出される方の開口端で外側方に延設して折曲補強片部を形成してなるモータブラシ保持構造。」


(1)引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及び,その記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。


(2)対比・判断

本願発明は,実質的に前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「折曲補強片部」について「スリットのない」との限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに一部の構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が,前記「2.(4)」に記載したとおり,引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


(3)むすび

以上のとおりであるから,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-24 
結審通知日 2010-11-30 
審決日 2010-12-13 
出願番号 特願2001-34900(P2001-34900)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 倉橋 紀夫
槙原 進
発明の名称 モータブラシ保持構造  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ