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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1232112
審判番号 不服2007-30226  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-07 
確定日 2011-02-07 
事件の表示 特願2002- 71956「湿気硬化性ウレタン組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月25日出願公開、特開2003-268066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年3月15日の特許出願であって、平成19年6月4日付けで拒絶理由が通知され、同年8月1日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年10月3日付けで拒絶査定がなされ、同年11月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成20年2月2日付けで前置報告がなされ、当審で平成21年11月4日付けで審尋がなされ、同年12月4日に回答書が提出され、当審で平成22年8月26日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日に意見書が提出されたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1?2に係る発明は、平成19年11月7日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】(A)ポリオキシアルキレンポリオールを用いて得られ、且つ末端にイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマー、(B)ポリイソシアネート又はポリイソシアネートとポリオキシアルキレンポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマー(b1)とN-2-ヒドロキシアルキルオキサゾリジン(b2)とを反応させて得られるオキサゾリジン基含有ウレタン化合物、(C)ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素を1?15重量%含有する湿気硬化性ウレタン組成物。」



第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由となった平成19年6月4日付けの拒絶理由通知書に記載された理由4の概要は、本願発明1は、引用文献D(特開平11-310622号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものであり、平成19年10月3日付けの拒絶査定の備考欄には以下のとおり記載されている。
「出願人は、『引例(A?D)でご指摘される溶剤の記載は、いずれも芳香族系溶剤と脂肪族系溶剤とを同列に羅列するだけに止められているものです。よって、これらの記載が、すぐに本願発明で特定記載する溶剤と同一であるとは認められません。』と主張する。しかしながら、刊行物D段落番号【0029】?【0030】の記載によれば、溶剤を使用すること、溶剤として『ナフテン、パラフィン』を使用することも具体的に記載されていると認められ、斯かる主張を採用することができない。
また、本願明細書の実施例、比較例の記載によれば、溶剤として『ソルビッツ200』を使用した場合と比較して本願発明の特定の溶剤(『ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素』)を使用したものが良好な効果を奏することが認められたとしても、斯かる記載から、刊行物Dに具体的に記載されている溶剤の中で本願の特定の溶剤を使用した場合においてのみ当業者に予想外の格別顕著な効果を奏することを認めることはできない。」



第4 引用文献の記載事項

引用文献Dには、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】(A)末端にイソシアネ-ト基を2個以有するウレタンプレポリマ-、
(B)水により第1級及び/又は第2級アミノ基を生成するブロックアミン化合物、
(C)モルフォリン誘導体、
(D)水の存在により遊離酸を発生させる化合物、とからなることを特徴とする湿気硬化型ウレタン樹脂組成物。
【請求項2】ブロックアミン化合物(B)が、分子中に1個以上のオキサゾリジン環を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の湿気硬化性ウレタン樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1?2)

(イ)「この中で好ましく用いられるものはブロックアミン化合物(B)が、分子中にオキサゾリジン環を有する化合物であり、・・・ウレタンプレポリマーとオキサゾリジン化合物の反応等によって得られる。
さらに好ましくは末端にイソシアネート基2個以上有するウレタンプレポリマ-(A)とオキサゾリジン化合物(B)とを反応してなるウレタンオキサゾリジン化合物である。
又、N-2-ヒドロキシアルキルオキサゾリジンを(B)として用いる場合、ウレタンプレポリマー(A)とN-2-ヒドロキシアルキルオキサゾリジン(B)との反応比は、NCO/0H=0.95?3.00が好ましい。NCO/OH=0.95未満ではN-2-ヒドロキシアルキルオキサゾリジンが未反応のまま残存する傾向があり、貯蔵安定性に悪影響を与える。NCO/OH=3.00を越えると硬化速度の低下の問題がある。」(段落【0018】?【0020】)

(ウ)「本発明の湿気硬化型ウレタン樹脂組成物をそのまま利用するかさらに添加剤を加えて使用される。本発明の組成物は、コーティング材、シーリング材等に利用される。
その際に該組成物には、必要に応じて硬化促進剤、溶剤、少量のプロセスオイル、可塑剤、揺変剤、無機充填剤、耐侯性の維持、向上のための紫外線防止剤、安定剤等各種添加剤が加えられ、これら混合物が均一に混合でき、且つ保存安定性が確保できるのに十分なる混合、混練装置により製造することができる。
溶剤としては、トルエン、キシレン、ターペン、酢酸エチル、アセトン、ナフテン、パラフィン等の通常のウレタン用溶剤が使用できる。」(段落【0028】?【0030】)

(エ)「【実施例】
次に、本発明を、実施例、比較例により詳細に説明するが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において部および%は特に断りのない限り、すべて重量基準であるものとする。
<(A)成分の合成>
(ウレタンプレポリマーの作製例1)
分子量3000、オキシエチレン鎖の含有量10%のポリエチレンプロピレンエーテルジオール900gと分子量3000のポリプロピレンエーテルトリオール100gを均一に溶解させた後、2,4-トリレンジイソシアネート174g、すなわちNCO/OHの当量比2.0にて窒素気流下で80℃にて25時間フラスコ中で攪拌しながら反応させNCO%が3.59%のウレタンプレポリマー(A-1)を得た。
(ウレタンプレポリマーの作製例2)
2,4-トリレンジイソシアネート174gをジフェニルメタンジイソシアネート250gに代えた以外は上記作製例1と同様に反応させNCO%が3.37%のウレタンプレポリマー(A-2)を得た。
<B成分の合成>
(ブロックアミン化合物の作製例1)
ウレタンプレポリマー(A-1)1000gと2ーイソプロピル3(2ヒドロキシエチル)1,3オキサゾリジン(以下H-OXZと略)149.6g、すなわちNCO/OHの当量比1.1にて窒素気流下で60℃にて48時間フラスコ中で攪拌しながら反応させ、ウレタンオキサゾリジンプレポリマー(B-1)を得た。本組成物のGPCを測定した結果、残存しているH-OXZの含有率は1%以下であることを確認した。
(ブロックアミン化合物の作製例2)
テトラメチレンジアミン100gとp-トルアルデヒド350gを蟻酸、トルエン存在下で95℃で水を留去しながら10時間反応後、残存した水、未反応のp-トルアルデヒド及びトルエンを加熱減圧除去し、アミン価380mgKOH/gのジアルジミン(B-2)を得た。
実施例(1?5) 比較例(1?6)[コンパウンドの配合]
表1、2に示す配合で、密閉型プラネタリーミキサー中に150℃で1時間乾燥し水分を0.05%以下に調整した炭酸カルシウム(日東粉化製品:NS-200)、120℃で2時間乾燥し、水分を0.1%以下に調整した脂肪酸処理炭酸カルシウム(白石カルシウム製品:ViscoliteーOS)、前記作製例で得られたウレタンプレポリマー(A-1またはA-2)、ブロックアミン化合物(B-1またはB-2)、(C)モルフォリン骨格を有するモルフォリン誘導体、(D)水の存在下で遊離酸を発生させる化合物または酸無水物をそれぞれ表1及び2のごとく、所定量加え均一に混合した後、有効成分100%の湿気硬化型ウレタンコンパウンドを得た。
下記の試験方法で評価し、表1、2に結果を示した。
[試験方法]
(粘度試験)
粘度は25℃に調整したサンプルの粘度をBH型回転粘度計で測定する。
(貯蔵安定性試験)
密閉容器に充填したサンプルを50℃雰囲気下に7日間保存した後、開封しサンプルの粘度を測定する 。
(増粘率)
増粘率(%)=(貯蔵安定性後の粘度)/(初期粘度)×100
(硬化性試験)
硬化性は四方を枠で囲い離型紙を貼ったガラス板(30*30cm)上に厚さ1.5mmの割合で試料を流し、常温(25℃×50%)、低温(5℃×50%)の条件下で放置し、指で触り塗膜の動きが無くなるまでの時間を測定した。
[実施例1?5]
何れにおいても、常温および低温硬化性、貯蔵安定性に優れる。」(段落【0035】?【0046】)

(オ)「 【表1】


」(段落【0049】の表1)

(カ)「 【表2】


」(段落【0050】の表2)



第5 引用発明

引用文献Dには、「(A)末端にイソシアネ-ト基を2個以有するウレタンプレポリマ-、
(B)水により第1級及び/又は第2級アミノ基を生成するブロックアミン化合物、
(C)モルフォリン誘導体、
(D)水の存在により遊離酸を発生させる化合物、とからなることを特徴とする湿気硬化型ウレタン樹脂組成物。」(摘示(ア))が記載されており、「ブロックアミン化合物(B)が、分子中に1個以上のオキサゾリジン環を有する化合物であること」(摘示(イ))も記載されている。そして、当該ブロックアミン化合物(B)として、末端にイソシアネート基2個以上有するウレタンプレポリマ-(A)とN-2-ヒドロキシアルキルオキサゾリジンとを反応してなるウレタンオキサゾリジン化合物が記載されている(摘示(イ)及び(エ))。
また、「(A)末端にイソシアネ-ト基を2個以有するウレタンプレポリマ-」が「(A)末端にイソシアネ-ト基を2個以上有するウレタンプレポリマ-」の誤記であることは、摘示(イ)からも明らかであって、ウレタンプレポリマー(A-1)ないし(A-2)がポリエチレンプロピレンエーテルジオールとポリプロピレンエーテルトリオールとを用いてジイソシアネートと反応させることにより得られたものであること、及び、ウレタンオキサゾリジンプレポリマー(B-1)がウレタンプレポリマー(A-1)と2ーイソプロピル3(2ヒドロキシエチル)1,3オキサゾリジンとを反応して得られたものであることも記載されている(摘示(エ))。
そして、引用文献Dには、湿気硬化型ウレタン樹脂組成物にさらに添加される成分として溶剤が記載されており、「溶剤としては、トルエン、キシレン、ターペン、酢酸エチル、アセトン、ナフテン、パラフィン等の通常のウレタン用溶剤が使用できる」(摘示(ウ))とも記載されている。加えて、引用文献Dの実施例においては、「キシレン」を配合することが記載されており(摘示(オ)及び(カ))、これは上記の記載から溶剤として添加されている成分であると認められる。
そうすると、引用文献Dには、「(A)ポリエチレンプロピレンエーテルジオールとポリプロピレンエーテルトリオールとを用いて得られ、且つ末端にイソシアネ-ト基を2個以上有するウレタンプレポリマ-、
(B)ポリエチレンプロピレンエーテルジオールとポリプロピレンエーテルトリオールとを用いてジイソシアネートと反応させることにより得られ、且つ末端にイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマ-(A)とN-2-ヒドロキシアルキルオキサゾリジンとを反応してなるウレタンオキサゾリジン化合物、
(C)モルフォリン誘導体、
(D)水の存在により遊離酸を発生させる化合物、とからなり、溶剤として、トルエン、キシレン、ターペン、酢酸エチル、アセトン、ナフテン、パラフィン等の通常のウレタン用溶剤を配合した、湿気硬化型ウレタン樹脂組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。



第6 本願発明1と引用発明との対比

引用発明の「ポリエチレンプロピレンエーテルジオールとポリプロピレンエーテルトリオール」、「ジイソシアネート」、「ウレタンオキサゾリジン化合物」及び「湿気硬化型ウレタン樹脂組成物」は、本願発明1の「ポリオキシアルキレンポリオール」、「ポリイソシアネート」、「オキサゾリジン基含有ウレタン化合物」及び「湿気硬化性ウレタン組成物」に、それぞれ相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明とは、「(A)ポリオキシアルキレンポリオールを用いて得られ、且つ末端にイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマー、(B)ポリイソシアネート又はポリイソシアネートとポリオキシアルキレンポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマー(b1)とN-2-ヒドロキシアルキルオキサゾリジン(b2)とを反応させて得られるオキサゾリジン基含有ウレタン化合物、及び溶剤を含有する湿気硬化性ウレタン組成物。」の点で一致し、次の相違点1で一応相違する。

<相違点1>
湿気硬化性ウレタン組成物に配合される溶剤として、本願発明1では、「(C)ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素を1?15重量%含有する」のに対し、引用発明では、「トルエン、キシレン、ターペン、酢酸エチル、アセトン、ナフテン、パラフィン等の通常のウレタン用溶剤」である点。



第7 相違点に対する判断

引用発明における「ナフテン、パラフィン等の通常のウレタン用溶剤」については、ナフテン、パラフィンの数平均分子量が150以上であることは本件出願時の技術常識であるので、本願発明1における「(C)ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素」に相当することは明らかである。
さらに、溶剤の含有量についても、引用文献Dの実施例において、「キシレン」が10重量部配合されていることから(摘示(オ)及び(カ))、含有量の点においても、本願発明1における「1?15重量%」と差異は見あたらない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。
よって、本願発明1は、引用発明と同一である。



第8 請求人の主張に対する検討

請求人は、平成19年11月7日に提出した審判請求書において、「原審の審査官殿が、『しかしながら、刊行物D段落番号[0029]?[0030]の記載によれば、溶剤を使用すること、溶剤として『ナフテン、パラフィン』を使用することも具体的に記載されていると認められ、斯かる主張を採用することができない。
本願明細書の実施例、比較例の記載によれば、溶剤として『ソルビッツ(段落[0041]から正確にはソルベッソ)200』を使用した場合と比較して本願発明の特定の溶剤(『ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素』)を使用したものが良好な効果を奏することが認められたとしても、斯かる記載から、刊行物Dに具体的に記載されている溶剤の中で本願の特定の溶剤を使用した場合においてのみ当業者に予想外の格別顕著な効果を奏することを認めることはできない。』(拒絶査定謄本)との認定された点には承服できません。
なぜなら、本願発明は、刊行物Dの選択発明であるからであります。
原審の審査官殿が指摘される刊行物Dの[0029][0030]には、次の記載しかないのであります。
『[0029]その際に該組成物には、必要に応じて硬化促進剤、溶剤、少量のプロセスオイル、可塑剤、揺変剤、無機充填剤、耐侯性の維持、向上のための紫外線防止剤、安定剤等各種添加剤が加えられ、これら混合物が均一に混合でき、且つ保存安定性が確保できるのに十分なる混合、混練装置により製造することができる。
[0030]溶剤としては、トルエン、キシレン、ターペン、酢酸エチル、アセトン、ナフテン、パラフィン等の通常のウレタン用溶剤が使用できる。プロセスオイルとしては石油精製で得られる通常の高沸点オイル等が使用できる。』
この記載内容は、『溶剤等を必要に応じて添加できる』旨を記載したものとしか読むことができないものです。
即ち、この記載は、
(i)『ナフテン、パラフィンを選択し、かつ数平均分子量150以上の炭化水素を選択することについて示唆していない。』、
(ii)『ターペン(拒絶理由で認定された芳香族系石油溶剤)やキシレンがナフテン、パラフィンと同列に羅列されているだけ』、
のものなのであります。
よって、原審の審査官殿が、刊行物Dに本願発明の『ナフテン、パラフィン』を選択することが示唆されているとの認定は誤りであり、不当な認定であると考えます。」と主張している。
しかしながら、上記第7で述べたとおり、引用文献Dにおいては、「キシレン」ではあるものの現に溶剤を配合している実施例が記載されていると認められるし、「ナフテン、パラフィン等の通常のウレタン用溶剤」は、本願発明1における「(C)ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素」に相当することは明らかであることから、相違点1を実質的な相違点であるとすることはできない。

そして、本願発明1が引用文献Dの選択発明であるとの請求人の主張について検討すると、当審において通知した平成22年8月26日付け拒絶理由通知において、「請求人も、平成19年11月7日に提出した審判請求書において、本願発明は、刊行物Dの選択発明であると主張している。
そうすると、上記した『(C)ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素を1?15重量%含有する』という要件を特定したことにより、上記した目的を達成したという本願発明の技術上の意義が明らかであるというためには、少なくとも、『(C)ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素を1?15重量%含有する』場合とナフテン、パラフィン以外の上記した良く知られた溶剤(特に、刊行物Dの実施例で用いられている『キシレン』)を使用した場合との各々における、粘度、硬化性及び収縮率(特に収縮率)の各差異が、明細書において明らかにされる必要がある。
しかしながら、本願の明細書には、実施例としては実施例1及び2という2つが記載されているのみであり、比較例1として、稀釈剤として芳香族系炭化水素である『ソルベッソ200(商品名)』を使用した場合、比較例2として、オキサゾリジン化合物を用いない場合において、所望の非発泡性及び収縮率の値が達成されないことを示した例が記載されているのみであり、さらに、平成21年12月4日に提出した回答書においても、比較例3及び4として、(C)成分の量が多く本願発明の数値範囲を外れる場合、比較例5として、(C)成分を使用しない場合において、所望の粘度及び収縮率の値が達成されないことを示した例が記載されているのみであり、比較例として、『ソルベッソ200』を使用した場合以外に、ナフテン、パラフィン以外の上記した良く知られた溶剤を1?15重量%含有する場合は、一切記載されていない。
そうすると、本願の明細書の記載をもってしては、(硬化時に炭酸ガスによる発泡がなく、硬化性、耐水性に優れ、)塗膜の収縮性の少ない湿気硬化性ウレタン組成物を提供するという本願発明の課題とその解決手段である上記『(C)ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素を1?15重量%含有する』との関係を理解することができず、本願発明の技術的意義は不明であるから、本願の明細書の記載は、委任省令要件を満足しない。」と指摘したところ、請求人は、平成22年10月26日に提出した意見書において、「本願発明は、『キシレン』等の労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則の劇物を使用しないことを前提になされた発明であり、ご指摘のキシレンとの比較が必要のないものと思料致します。
しかしながら、前記表の比較例6として『キシレン』を使用したもの、比較例1として『芳香族系炭化水素』を使用したものを挙げて本願発明との相違点を、『溶液重量変化率』及び『臭気強度』の項目を挙げて説明します。
前記表の比較例6から解かりますように、従来のキシレンでは粘度、硬化性、収縮率、常態の物性、耐水後の物性で大差が見られませんが、『溶液重量変化率』及び『臭気強度』項目が予想通り悪いものであることが分かります。
更に、比較例1は、芳香族系炭化水素(プロセスオイル)であることから、キシレンよりも、『溶液重量変化率』及び『臭気強度』が改善されますが、予想に反して収縮率が悪いものとなっています。
即ち、本願発明が、労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則の劇物を使用しないことを前提になされた発明であることからすれば、刊行物Dに羅列された溶剤から、劇物・臭気に問題の有る『キシレン』より『溶液重量変化率』及び『臭気強度』で優れるだろうと考えられるプロセスオイル(ソルベッソ200)、ナフテン系炭化水素、パラフィン系炭化水素を当業者ならば選択して検討するはずのものであります。
本願発明では、予想外にソルベッソ200が悪かった結果比較例1とし、本願発明に至ったものであり、引例Dから目的に合致するであろうと思われる溶剤を選択して検討された発明である(選択発明)と理解できるものであります。
よって、ご指摘の点は承服できませんし、選択発明としての要件を具備しているものと考えます。また、こうした選択は、刊行物Dには開示・示唆の記載がありません。
したがって、本願発明は、引例Dから当業者が容易に為し得たものでもないと考えます。」と主張している。
しかしながら、平成22年10月26日に提出された意見書において追加された評価項目である「溶液重量変化率」及び「臭気強度」は、何れも本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には一切記載されていない項目であることから、かかる新たに追加された評価項目をもってして本願発明1の効果とすることはできないし、仮に、これらを評価項目としても、有機溶剤を用いる塗料等において、臭気の少ないものを用いることは、その発明の技術分野に属する通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば当然に選択することにすぎないものであるから、このことをもってして選択発明であるということはできない。また、当初明細書に記載された他の評価項目の結果をもってしても、実施例1が「キシレン」を使用してなる比較例6と比較して格別に顕著な効果を奏するものであるということもできない。(この点は、請求人も上記意見書において、「前記表の比較例6から解かりますように、従来のキシレンでは粘度、硬化性、収縮率、常態の物性、耐水後の物性で大差が見られません」と認めているところである。)
そうすると、引用発明に通常のウレタン用溶剤として挙げられた「トルエン、キシレン、ターペン、酢酸エチル、アセトン、ナフテン、パラフィン等」から、本願発明1の「(C)ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の少なくとも1種からなる数平均分子量150以上の炭化水素」を選択したことにより、異質な効果あるいは同質であるが際だって優れた効果を有し、これらが本願出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないということもできない以上、本願発明1が引用発明の選択発明であるとする請求人の主張は採用することができない。



第9 むすび

以上のとおり、本願発明1は、引用文献Dに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について、更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-01 
結審通知日 2010-12-02 
審決日 2010-12-14 
出願番号 特願2002-71956(P2002-71956)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 湿気硬化性ウレタン組成物  
代理人 河野 通洋  

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