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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04L
管理番号 1232113
審判番号 不服2007-31710  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-22 
確定日 2011-02-07 
事件の表示 特願2002-590696「移動通信網における過負荷を防止するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月21日国際公開、WO02/93958、平成16年10月14日国内公表、特表2004-531964〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2002年5月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年5月14日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、当審において平成22年1月27日付けで拒絶理由通知がなされ、同年7月29日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年7月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものと認める。

「移動通信ネットワークのマルチポイントツーポイントチャネルを過負荷から保護する方法であって、
前記マルチポイントツーポイントチャネルは、複数の移動通信手段が前記移動通信ネットワークにアクセスすることを可能にするために、前記移動通信ネットワーク用の無線アクセスネットワークによって提供され、前記移動通信手段の各々は、前記マルチポイントツーポイントチャネルを通じて前記移動通信ネットワーク、特には前記移動通信ネットワークのパケット交換ノードに対し、少なくとも2つの異なる要求形式の処理要求を与えるために前記マルチポイントツーポイントチャネルへ属することが可能であり、
前記方法が、
-移動通信手段から第1の通信要求を受信するステップと、
-前記マルチポイントツーポイントチャネルに現在属している他の移動通信手段の数を計数するステップと、
-前記第1の通信要求が第1の通信要求形式であることを判定するステップと、
-前記計数した計数値が、前記第1の通信要求形式に適用される第1の閾値以下の場合に、前記第1の通信要求を受け付け、該第1の閾値よりも大きい場合に、前記第1の通信要求を受け付けないステップと、
-前記移動通信手段から第2の通信要求を受信するステップと、
-前記マルチポイントツーポイントチャネルに現在属している他の移動通信手段の数を計数するステップと、
-前記第2の通信要求が第2の通信要求形式であることを判定するステップと、
-前記第2の通信要求の受信後に計数した計数値が、前記第2の通信要求のタイプに適用される第2の閾値以下の場合に、前記第2の通信要求を受け付け、該第2の閾値よりも大きい場合に、前記第2の通信要求を受け付けないステップであって、前記第2の閾値は前記第1の閾値よりも大きい、ステップと、
を有することを特徴とする方法。」

なお、平成22年7月29日付け手続補正書に「現在現在」とあるのは、「現在」の誤記と判断して、上記のように認定した。

3.引用発明
当審の拒絶理由に引用された特表平10-510695号公報(以下、「引用例」という。)には、「符号分割多重アクセス・システムにおいて呼を制御する方法および装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「符号化通信信号を利用する通信システムは当技術において周知である。そうしたシステムの1つは、以下IS-95と称する米国電気通信工業会/電子工業会暫定規格95(TIA/EIA IS-95)が示すようなダイレクト・シーケンス符号分割多重アクセス(DS-CDMA)セルラ通信システムである。IS-95によると、DS-CDMAシステムに使われる符号化通信信号は、基地サイトのカバレッジ・エリアで交信している移動または携帯無線電話のような通信装置からシステムの基地サイトに対して共通の1.25MHz周波数帯で送信されるDS-CDMA信号によって構成される。各DS-CDMA信号は、とりわけ、特定の基地サイトに関連する擬似雑音(PN)シーケンスおよび交信する通信装置の識別番号を含む。
従来のCDMAシステムにおいては、多数の加入者がシステム上で呼を起こすと音声品質が低下する。したがって、CDMAシステムの所定のセルについて呼の数を制限することが望ましい。ある1つの提案された方法は、CDMAシステムの1セルにつき一定数の呼を許容するに過ぎない。しかしながらこの方法は、他のセル・サイトがシステム性能に及ぼす影響を無視する。」(第4頁第8?23行)

イ.「本発明は、第1ないし第3図への参照を以ってより詳しく説明される。第1図は、第1基地サイト101,第2基地サイト140および1つ以上の通信装置103,104,105を含む通信システム100を示す。通信システム100は、好ましくは、TIA/EIA IS-95に示されるような、ダイレクト・シーケンス符号分割多重アクセス(DS-CDMA)セルラ通信システムによって構成される。しかしながら本発明は、国内パーソナル通信システム(PCS)について提案されるような周波数ホッピング通信システム(frequency hopping communication system)に等しく適用できる。さらに当業者は、CDMAシステムを無線ローカル・ループ・システムとして使用できることを理解するだろう。セルラ通信システムにおいて、基地サイト101は移動交換センタ(MSC)113に結合され、次いで移動交換センタは公衆交換電話網(PSTN)115に既知の技術を用いて結合される。
基地サイト101は、基地サイト101の第1セル130によって定義されるカバレッジ・エリア内で通信装置103,104から符号化通信信号を受信し、第1セル130の中で通信装置103,104に符号化通信信号を送信する複数のトランシーバ120,122(2つのトランシーバのみ図示)を好ましくは含む。基地サイト101は、MSC 113,トランシーバ120,122およびアンテナ112の間の適切なインターフェイスをも含む。さらに基地サイト101は、MIPS R4400またはモトローラ社製68040型プロセッサのようなプログラム可能プロセッサを好ましくは含むコントローラ200を含む。通信装置103,104,105の各々は、移動または携帯無線電話,移動または携帯双方向無線機または無線周波(RF)の送受能力を有するコンピュータのような他の双方向通信装置によって好ましくは構成される。通信装置の各々にはアンテナ110が取り付けられる。基地サイト140は、基地サイト140が通信リンク142を経由してコントローラ201と交信することを除き、基地サイト101と実質的に同様である。これはコントローラ201が基地局コントローラ150内にあり、次いで基地局コントローラ150がMSC113に接続されるからである。基地サイト140はアンテナ114を有し、第2セル132によって定義されるカバレッジ・エリアを有する。
好適なDS-CDMAシステム100において、符号化通信信号は、各セル130,132内の各々のRFチャネルを通じて通信装置103,104,105および基地サイト101,140の間で伝送されるDS-CDMA通信信号107,108によって構成される。代替の周波数ホッピング通信システムにおいては、符号化通信信号は低速周波数ホッピング(SFH)通信信号(1ホップあたり複数の変調記号時間間隔)または高速周波数ホッピング(FFH)通信信号(1変調記号時間間隔あたり複数のホップ)によって構成されることもある。RFチャネルは、アップリンク(通信装置103,104から基地サイト101)とダウンリンク(基地サイト101から通信装置103,104)を含む。好適な実施例において、アップリンクは、基地サイト101に向けて複数の符号化通信信号107,108(本事例においてはDS-CDMA信号)を送信するために通信装置103,104によって集合的に使われる規定帯域幅(たとえばIS-95については1.25MHz)によって構成される。各DS-CDMA通信信号107,108は、とりわけ、基地サイト101に関連する擬似シーケンスと、特定の通信装置103,104の識別符号を含む。好適な実施例において、基地サイト101およびコントローラ200は、モトローラ社製Supercell9600基地局の部分である。あるいは、コントローラ200は、基地サイト101に接続される、モトローラ社製 EMX2500交換機のような移動交換機内に配置することもできる。」(第6頁第7行?第7頁最下行)

ウ.「第3図は、基地サイト101または140との交信でコントローラ200または201にプログラムできる呼遮断ルーチンの好適な実施例を示す。第3図または第4図の方法は基地サイト140およびコントローラ201に等しく適用できるが、説明のため、以下参照は基地サイト101およびコントローラ200に対してのみ行われる。
第3図を参照し、段階202にて、基地サイト101に対して実行される呼試行要求は、MSC113経由でPSTN115から、あるいは通信装置103,104のいずれか1つから受信される。段階204にて、基地サイト101のカバレッジ・エリアによって定義される目標セル130について、コントローラ200によって有効負荷が計算される。目標セル130の有効負荷を計算する好適な方法は、以下に詳しく説明される。意志決定段階214にて、呼試行が発呼元の呼試行とハンドオフ呼試行のどちらであるかが判定される。ハンドオフ呼試行は、通信装置105のような通信装置が非目標セル132から目標セル130内に移動するときに発生する。呼試行が発呼である場合は、意志決定段階206にて処理が続行し、そうでなければ、意志決定段階216にて処理が続行する。
計算された有効負荷は、意志決定段階206にて、発呼閾値と呼ばれる第1閾値と比較される。有効負荷が第1閾値を上回らない場合は、段階208にて呼試行は拒否され、基地サイト101は、MSC113経由でPSTN115、あるいは通信装置103,104のいずれかの発呼側に拒否メッセージを送出する。しかしながら、有効負荷が第1閾値を上回らない場合は、段階210にて呼が配信され、通常の呼処理が実行される。
計算された有効負荷は、意志決定段階216にて、ハンドオフ閾値と呼ばれる第2閾値と比較される。有効負荷が第2閾値を上回る場合は、段階218にてハンドオフ呼試行が拒否される。そうでない場合は、段階220にてハンドオフ呼が許可される。
有効負荷と閾値を計算する方法の好適な実施例をここで説明する。基地サイト101にとってのセル130のような目標セルの有効負荷は、コントローラ200において、隣接セルのような非目標セルにおける呼数の加重合計に、目標セルにおける呼数を加えることによって計算される。複数の隣接セルが存在し、セルが凡そ同一サイズである特定の実施例において、加重合計における重みの各々は、非目標セル干渉率を隣接セル数で割った数に等しく設定される。1つのセルにおける呼数は、そのセルとのソフト・ハンドオフにある呼を含むということを理解するべきである。非目標セル干渉率は、参考文献として本明細書に組み込まれるViterbi他による「Other-Cell Interference in Cellular Power-Controlled CDMA」(IEEE Transactions on Communications,Vol.42,No.2/3/4,p.1501-1504)(1994年発行)において説明される.55のような概算値によって計算できる。システムの各セルが最高18呼を支援し、伝搬法則指数が4である典型的システムにおいて、好適な発呼閾値の値は約25となり、好適なハンドオフ閾値の値は約28となる。」(第8頁第21行?第10頁第4行)

上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
・上記引用例の符号分割多重アクセス・システム(以下、「CDMAシステム」という。)は、通信装置103,104、基地サイト101,MSC113等から構成されており(摘記事項ア)、このようなシステムは移動通信ネットワークと言うことができ、
・複数の通信装置103,104から基地サイト101には規定帯域幅のRFチャネルを通してDS-CDMA信号が伝送されるが(摘記事項イ)、該RFチャネルは呼試行要求時にはアップリンクのマルチポイントツーポイントチャネルと言うことができ、また、このマルチポイントツーポイントチャネルを使う通信装置103,104は該チャネルに属することが可能であると言い得るものであり、
・上記通信装置103,104からの呼試行要求は、基地サイト101に対して実行され(摘記事項ウ)、
・上記呼試行要求には、通常の呼とハンドオフ呼という2つの異なる要求があり(摘記事項ウ)、これらは異なる要求形式の処理要求と言え、
・【図3】によれば、基地サイト101は通信装置103,104のいずれかから呼試行要求を受信し、
・基地サイト101が属する目標セル130の有効負荷を計算し、
・上記呼試行要求が通常の呼要求であることを判定すると、上記計算した有効負荷が発呼閾値以下の場合は呼を配信し、発呼閾値以上の場合は呼試行を拒否し、
・上記呼試行要求がハンドオフ呼要求であることを判定すると、上記計算した有効負荷がハンドオフ閾値以下の場合はハンドオフを許可し、ハンドオフ閾値以上の場合はハンドオフ呼試行を拒否するものであり、例えば、好適な閾値として、発呼閾値が25,ハンドオフ閾値が28とされており(摘記事項ウ)、ハンドオフ閾値は発呼閾値よりも大きいものであり、

以上を総合すれば、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「移動通信ネットワークのマルチポイントツーポイントチャネルを通した呼を制御する方法であって、
前記マルチポイントツーポイントチャネルは、複数の通信装置が前記移動通信ネットワークにアクセスすることを可能にするために、前記移動通信ネットワーク用の基地サイトによって提供され、前記通信装置の各々は、前記マルチポイントツーポイントチャネルを通じて前記移動通信ネットワーク、特には前記移動通信ネットワークの基地サイトに対し、少なくとも2つの異なる要求形式の処理要求を与えるために前記マルチポイントツーポイントチャネルに属することが可能であり、
前記方法が、
-通信装置から通常の呼要求を受信するステップと、
-前記基地サイトが属する目標セルの有効負荷を計算するステップと、
-前記通常の呼要求が通常の呼要求形式であることを判定するステップと、
-前記計算した有効負荷が、前記通常の呼要求形式に適用される発呼閾値以下の場合に、前記通常の呼要求を受け付け、該発呼閾値よりも大きい場合に、前記通常の呼要求を受け付けないステップと、
-前記通信装置からハンドオフ呼要求を受信するステップと、
-前記基地サイトが属する目標セルの有効負荷を計算するステップと、
-前記ハンドオフ呼要求がハンドオフ呼要求形式であることを判定するステップと、
-前記計算した有効負荷が、前記ハンドオフ呼要求形式に適用されるハンドオフ閾値以下の場合に、前記ハンドオフ呼要求を受け付け、該ハンドオフ閾値よりも大きい場合に、前記ハンドオフ呼要求を受け付けないステップであって、前記ハンドオフ閾値は前記発呼閾値よりも大きい、ステップと、
を有することを特徴とする方法。」

4.対比・判断
本願発明と引用発明を対比すると、
・引用発明のようなCDMAシステムにおいても、呼の数がマルチポイントツーポイントチャネルにとっての負荷であることは当然のことであるから、本願発明の「移動通信ネットワークのマルチポイントツーポイントチャネルを通した呼を制御する方法」と本願発明の「移動通信ネットワークのマルチポイントツーポイントチャネルを過負荷から保護する方法」は、いずれも「移動通信ネットワークのマルチポイントツーポイントチャネルの負荷を制御する方法」である点で共通しており、
・引用発明の「通信装置」は移動または携帯無線電話であるから(摘記事項ア)、本願発明の「移動通信手段」に相当し、
・引用発明の「通常の呼要求」、「ハンドオフ呼要求」、「発呼閾値」、「ハンドオフ閾値」をそれぞれ「第1の通信要求」、「第2の通信要求」、「第1の閾値」、「第2の閾値」と称することは任意であり、
・引用発明の「基地サイト」は移動通信ネットワークの無線アクセスネットワークの一部を構成するものと認められるから、本願発明の「無線アクセスネットワーク」に含まれるものであり、
・引用発明の「基地サイト」と本願発明の「パケット交換ノード」はいずれも移動通信ネットワークのノードである点で共通しており、
・引用発明の「基地サイトが属する目標セルの有効負荷」は当該目標セルのマルチポイントツーポイントチャネルに現在属する呼数に基づき計算される負荷であり(摘記事項ウ)、この負荷は、マルチポイントツーポイントチャネルの現在の負荷と言うことができるから、引用発明の「基地サイトが属する目標セルの有効負荷を計算するステップ」と本願発明の「マルチポイントツーポイントチャネルに現在属している他の移動通信手段の数を計数するステップ」とは「マルチポイントツーポイントチャネルの現在の負荷を計算するステップ」である点で共通しており、
さらに、「計数」は「計算」の一種であると言えるから、引用発明の「計算した負荷」と本願発明の「計数した計数値」はいずれも「計算した負荷」である点で共通しており、

結局、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「移動通信ネットワークのマルチポイントツーポイントチャネルの負荷を制御する方法であって、
前記マルチポイントツーポイントチャネルは、複数の移動通信手段が前記移動通信ネットワークにアクセスすることを可能にするために、前記移動通信ネットワーク用の無線アクセスネットワークによって提供され、前記移動通信手段の各々は、前記マルチポイントツーポイントチャネルを通じて前記移動通信ネットワーク、特には前記移動通信ネットワークのノードに対し、少なくとも2つの異なる要求形式の処理要求を与えるために前記マルチポイントツーポイントチャネルへ属することが可能であり、
前記方法が、
-移動通信手段から第1の通信要求を受信するステップと、
-前記マルチポイントツーポイントチャネルの現在の負荷を計算するステップと、
-前記第1の通信要求が第1の通信要求形式であることを判定するステップと、
-前記計算した負荷が、前記第1の通信要求形式に適用される第1の閾値以下の場合に、前記第1の通信要求を受け付け、該第1の閾値よりも大きい場合に、前記第1の通信要求を受け付けないステップと、
-前記移動通信手段から第2の通信要求を受信するステップと、
-前記マルチポイントツーポイントチャネルの現在の負荷を計算するステップと、
-前記第2の通信要求が第2の通信要求形式であることを判定するステップと、
-前記計算した負荷が、前記第2の通信要求のタイプに適用される第2の閾値以下の場合に、前記第2の通信要求を受け付け、該第2の閾値よりも大きい場合に、前記第2の通信要求を受け付けないステップであって、前記第2の閾値は前記第1の閾値よりも大きい、ステップと、
を有することを特徴とする方法。」

(相違点1)
「マルチポイントツーポイントチャネルの負荷を制御する方法」に関し、本願発明では「マルチポイントツーポイントチャネルを過負荷から保護する方法」であるのに対し、引用発明では「マルチポイントツーポイントチャネルを通した呼を制御する方法」である点。
(相違点2)
移動通信手段の各々から処理要求が与えられる「ノード」が、本願発明では「パケット交換ノード」であるのに対し、引用発明では「基地サイト」である点。
(相違点3)
「マルチポイントツーポイントチャネルの現在の負荷を計算するステップ」が、本願発明では「マルチポイントツーポイントチャネルに現在属している他の移動通信手段の数を計数するステップ」であるのに対し、引用発明では「基地サイトが属する目標セルの有効負荷を計算するステップ」である点。
(相違点4)
第1の閾値や第2の閾値と比較される「計算した負荷」が、本願発明では「計数した計数値」であるのに対し、引用発明では「計算した有効負荷」である点。
(相違点5)
第2の閾値と比較される「計算した負荷」が、本願発明では「第2の通信要求の受信後」に計数されるのに対し、引用発明ではそのような限定が無い点。

上記(相違点1)について検討する。
引用発明の「呼を制御する」こととは、具体的には呼数の増大による音声品質低下を防止するために呼数を閾値以下に制限することであり、これはマルチポイントツーポイントチャネルを過負荷から保護することに他ならないから、本願発明の「マルチポイントツーポイントチャネルを過負荷から保護する方法」と引用発明の「マルチポイントツーポイントチャネルを通した呼を制御する方法」とは実質的に相違しない。
次に、上記(相違点2)について検討する。
引用発明において、基地サイトに与えられる通信装置からの処理要求は、該基地サイトのコントローラにより処理されることは自明であるが、引用例には、「コントローラ200は、基地サイト101に接続される、モトローラ社製 EMX2500交換機のような移動交換機内に配置することもできる。」(摘記事項イ)と記載されているうえ、引用発明に記載されたIS-95のCDMAシステムがパケットモードをサポートすることに鑑みれば、引用発明の基地サイト内にあるコントローラの機能をパケット交換ノードに持たせることにより、移動通信手段の各々から処理要求が与えられる「ノード」を、引用発明の「基地サイト」に替え、本願発明のように「パケット交換ノード」とすることは上記引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められる。
次に、上記(相違点3)および(相違点4)についてまとめて検討する。
引用発明の「有効負荷」とは、具体的には、隣接セルのような非目標セルにおける呼数の加重合計に目標セルにおける呼数を加えることによって計算される(摘記事項ウ)ものであるが、これらの呼はいずれも目標セルの規定帯域幅のマルチポイントツーポイントチャネルを実質的に使用するものであるから、該マルチポイントツーポイントチャネルに現在属する呼と言い得るものである。
ここで、引用発明においては、マルチポイントツーポイントチャネルの負荷をより厳密に計算するために非目標セルにおける呼数については加重合計をとることによって有効負荷を計算しているが、負荷をどの程度の厳密さで計算するかは当業者が適宜判断すべきものであって、本願発明のように、各移動通信手段がマルチポイントツーポイントチャネルに与える負荷の軽重を考慮することなく、単にマルチポイントツーポイントチャネルに現在属している他の移動通信手段の数を計数することにより負荷を計算することは、当業者であれば適宜なし得たものと認められる。
そして、このように計算された負荷をマルチポイントツーポイントチャネルが過負荷状態にあるか否かの判定に用いて第1の閾値や第2の閾値と比較することも、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められる。
次に、上記(相違点5)について検討する。
引用例の【図3】に記載された呼遮断ルーチンでは、段階202で呼試行要求を受信し、段階204で有効負荷を計算しており、これは、引用発明のハンドオフ閾値と比較される有効負荷の計算は、ハンドオフ呼要求の受信後に行われることを示唆しているうえ、マルチポイントツーポイントチャネルが過負荷状態にあるか否かの判断は、最新の負荷の計算値に基づいて行われた方がより正確なものであることは言うまでもないことであるから、引用発明の有効負荷の計算を第2の通信要求であるハンドオフ呼試行要求を受信した後に行うよう限定することは、当業者であれば容易になし得るものと認められる。
したがって、上記相違点5に係る限定は格別なものと言うことはできない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる程度のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-06 
結審通知日 2010-09-10 
審決日 2010-09-24 
出願番号 特願2002-590696(P2002-590696)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 隆之  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 新川 圭二
猪瀬 隆広
発明の名称 移動通信網における過負荷を防止するための方法  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 高柳 司郎  
代理人 下山 治  

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