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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1232120
審判番号 不服2008-25783  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-07 
確定日 2011-02-07 
事件の表示 特願2001-194754「廃液処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月26日出願公開、特開2002- 86135〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成13年6月27日(優先日、平成12年7月10日)の出願であって、平成13年7月9日付けで明細書に係る手続補正書が提出され、平成20年6月11日付けで拒絶理由通知がなされ、平成20年7月3日付けで意見書及び明細書に係る手続補正書が提出されたが、平成20年9月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年10月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成20年10月31日付けで審判請求書に係る手続補正書及び明細書に係る手続補正書が提出されたものである。

2.平成20年10月31日付けの明細書に係る手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月31日付けの明細書に係る手続補正を却下する。
[理由]
(1)平成20年10月31日付けの明細書に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1を、本件補正前の
「【請求項1】
廃液が導入される廃液処理部と、この廃液処理部の廃液に陥没状態に設けた低温蒸気導入用の静置コイルと、前記廃液処理部の上側に連設した蒸気部と、前記静置コイルの内側に設けた下方羽根、及び前記廃液の上方に設けた上方羽根と、この複数枚の下方羽根及び上方羽根を支持する軸と、この軸を駆動する駆動部とで構成される廃液処理装置であって、
前記下方羽根を介して、前記廃液に上下方向への旋回流を付与し、この旋回流を介して廃液の濃度の均一化と、蒸発促進を可能とし、また上方羽根を介して、前記廃液上に生成する泡をきり、この泡の拡大を抑制可能とする構成としたことを特徴とする廃液処理装置。」から
「【請求項1】
廃液が導入される廃液処理部と、この廃液処理部の廃液に陥没状態に設けた低温蒸気導入用の静置コイルと、前記廃液処理部の上側に連設した蒸気部と、前記静置コイルの内側に設け、廃液処理部内の廃液を強制撹拌と加熱し、かつ廃液に旋回流を付与する下方羽根、及び前記廃液の上方に設けた前記廃液面(液面)に発生する泡をカットする上方羽根と、この複数枚の下方羽根及び上方羽根を支持する軸と、この軸を駆動する駆動部とで構成される廃液処理装置であって、
前記静置コイルとの熱交換で生成された蒸気は、前記蒸気部を経由し、比重分離した後に、この廃液処理装置外へと蒸発するとともに、下方羽根を介して、前記廃液に上下方向への旋回流を付与し、この旋回流を介して廃液の濃度の均一化と、蒸発促進を可能とし、また上方羽根を介して、前記廃液上に生成する泡をきり、この泡の拡大を抑制可能とする構成としたことを特徴とする廃液処理装置。」に補正するものである。
(2)本件補正は、本件補正前の請求項1に記載の「前記静置コイルの内側に設けた下方羽根」を「前記静置コイルの内側に設け、廃液処理部内の廃液を強制撹拌と加熱し、かつ廃液に旋回流を付与する下方羽根」とする補正事項(以下、「補正事項1」という。)を含むものであるところ、この補正事項1によれば、本件補正後の請求項1に記載の「下方羽根」は、それ自体が「廃液」の「強制撹拌」と「加熱」をするものと解される。
ここで、「下方羽根」が廃液の「強制撹拌」をすることは、自明のことであるから、「下方羽根」が廃液の「加熱」をすることについて、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の記載をみてみると、段落【0010】に「この静置コイル内の一方羽根(一例として、下方羽根)を介して廃液の旋回流を促し、強制撹拌と加熱とを利用して、液面蒸発の効率化を図り」との記載があり、段落【0024】に「廃液に設けた静置コイル内の下方羽根を介して廃液の旋回流を促し、この旋回流による強制撹拌、及び効率的な加熱を利用して」との記載がある。
そして、これらの記載中の「静置コイル」に関し、段落【0010】に「静置コイルの伝熱面」との記載があり、段落【0019】に「この静置コイル4との熱交換で生成された蒸気」との記載があることから、該「静置コイル」は伝熱面を有する熱交換器であり、段落【0014】に「この廃液は、廃液処理部に装備されている静置コイルに接触して蒸発される」との記載があることも考慮すれば、該「静置コイル」は熱交換により廃液の「加熱」をするものであることは明らかである。
してみると、段落【0010】及び段落【0024】の上記記載中の「加熱」は、いずれも「静置コイル」によるものと解するのが自然であるから、段落【0010】及び段落【0024】の上記記載によれば、「下方羽根」は、廃液の「強制撹拌」をすることで、「静置コイル」による廃液の「加熱」を効率化するにすぎないものと解さざるを得ず、「下方羽根」それ自体が「廃液」の「強制撹拌」と「加熱」をするものであると解することはできない。
なお、「下方羽根」が廃液の「強制撹拌」をすることにより廃液の温度が上昇することが一切ないとはいえないが、そのような温度の上昇は、廃液の粘度や「下方羽根」の回転数に左右されるものであり、当初明細書等の段落【0010】及び段落【0024】の上記記載から、「下方羽根」それ自体が積極的に廃液の「加熱」をしているとまでは読み取れない。
さらに、当初明細書等の他の記載をみても、「下方羽根」が廃液の「加熱」をすることについては記載されておらず、このことは、当初明細書等の記載から自明であるともいえない。
よって、本件補正前の請求項1に記載の「前記静置コイルの内側に設けた下方羽根」を「前記静置コイルの内側に設け、廃液処理部内の廃液を強制撹拌と加熱し、かつ廃液に旋回流を付与する下方羽根」とする補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものといえない。
したがって、補正事項1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下、「特許法第17条の2第3項」という。)に規定する要件を満たしていない。
(3)また、本件補正は、本件補正前の請求項1の記載に「前記静置コイルとの熱交換で生成された蒸気は、前記蒸気部を経由し、比重分離した後に、この廃液処理装置外へと蒸発する」という発明特定事項を追加する補正事項(以下、「補正事項2」という。)を含むものでもあるところ、この補正事項2によれば、「蒸気」は比重分離した後に「蒸発する」ことになると解される。
ここで、補正事項2の「蒸気」の「比重分離」について当初明細書等の記載をみてみると、段落【0019】に「この静置コイル4との熱交換で生成された蒸気は、蒸気部3を経由して、比重分離をした後、廃液処理装置1外に排気する構成である。」という記載があるから、「蒸気」が比重分離した後に「排気する」ことについては、当初明細書等に記載されているといえる。
しかしながら、「蒸発」とは、一般に「液体または固体がその表面において気化する現象。」(株式会社岩波書店 広辞苑第五版)を意味することから、補正事項2における「蒸発する」という事項は、当初明細書等の段落【0019】に記載の「排気する」という事項と意味が異なることは明らかである。また、当初明細書等の他の記載をみても、「蒸気」が比重分離した後に「蒸発する」ことについては記載されておらず、このことは、当初明細書等の記載から自明であるともいえない。
よって、本件補正前の請求項1の記載に「前記静置コイルとの熱交換で生成された蒸気は、前記蒸気部を経由し、比重分離した後に、この廃液処理装置外へと蒸発する」という発明特定事項を追加する補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものといえない。
したがって、補正事項2は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また、補正事項2は、「前記静置コイルとの熱交換で生成された蒸気は、前記蒸気部を経由し、比重分離した後に、この廃液処理装置外へと蒸発する」という発明特定事項を追加するものであることから、「前記静置コイルとの熱交換で生成された蒸気」に関し、「前記蒸気部を経由し、比重分離した後に、この廃液処理装置外へと蒸発する」という事項により新たに特定しようとするものといえる。
しかしながら、本件補正前の特許請求の範囲に記載の発明特定事項には、「前記静置コイルとの熱交換で生成された蒸気」という事項がないから、補正事項2は、本件補正前の発明特定事項を概念的により下位のものに限定するものでないことは明らかである。
よって、「前記静置コイルとの熱交換で生成された蒸気は、前記蒸気部を経由し、比重分離した後に、この廃液処理装置外へと蒸発する」という発明特定事項を追加する補正事項2は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下、「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、また、特許法第17条の2第4項第1号、第3号、第4号に掲げる請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しないから、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。
(4)以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たしておらず、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成20年10月31日付けの明細書に係る手続補正は上記「2.」のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年7月3日付けの明細書に係る手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認められる。

【請求項1】
廃液が導入される廃液処理部と、この廃液処理部の廃液に陥没状態に設けた低温蒸気導入用の静置コイルと、前記廃液処理部の上側に連設した蒸気部と、前記静置コイルの内側に設けた下方羽根、及び前記廃液の上方に設けた上方羽根と、この複数枚の下方羽根及び上方羽根を支持する軸と、この軸を駆動する駆動部とで構成される廃液処理装置であって、
前記下方羽根を介して、前記廃液に上下方向への旋回流を付与し、この旋回流を介して廃液の濃度の均一化と、蒸発促進を可能とし、また上方羽根を介して、前記廃液上に生成する泡をきり、この泡の拡大を抑制可能とする構成としたことを特徴とする廃液処理装置。

4.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成20年6月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、平成20年6月11日付け拒絶理由通知書に記載の理由2は「この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。引用文献1:実願昭50-137242号(実開昭52-051331号)のマイクロフィルム、引用文献2:特許第166982号明細書、引用文献3:特開平08-243543号公報」というものである。

5.刊行物に記載された事項
(1)本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である実願昭50-137242号(実開昭52-051331号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「蒸発缶上部蓋より缶中心に回転軸を垂下し、その先端に液面と間隔を存して回転翼を設け、該回転翼は液面の大部分の区域に及び液面とほぼ平行に回転することを特徴とする蒸発装置における消泡装置。」(実用新案登録請求の範囲)
イ 「蒸発缶には各種のものがあるが、いずれの形式でも缶内液を加熱し、蒸発蒸気を缶上部より取出すが、適用液によつては加熱蒸発時泡沫が発生して缶内に充満し、」(第1頁下から3行?第2頁1行)
ウ 「以下本考案の一実施例について図面と共に説明すれば、(1)は蒸発缶、(2)は蒸発器、(3)は飛沫防止器、(4)は下部蓋、(5)は上部蓋を示す。
給油は入口(a)より注入され、蒸気は入口(b)より蒸発器(2)に導入されて熱交換され、凝縮水は出口(c)より、非凝縮ガスは出口(d)より缶外に排出される。この際に缶内に注入された液は蒸発し、蒸発蒸気は飛沫防止器(3)を経て、出口(e)より凝縮器(図示せず)に導出される。凝縮液は出口(f)より受液される。」(第3頁6?15行)
エ 「液面は蒸発器(2)を浸漬せしめる高さにあり、蒸発沸騰時の液面変動を考慮して決定される。」(第4頁1?2行)
オ 「適用液によつては一定温度に達すると泡沫が発生するが、・・・・本考案では液面上5?15糎上に回転翼(6)を設置して水平回転させ、水平面上の発生泡沫に回転翼により衝撃を与えて消泡させるものである。」(第4頁3?8行)
カ 「即ち、上部蓋(5)に対してモーター(7)を缶体中心に固着し、これに回転軸(8)を連結して中間軸受(9)により軸支し、その下端に回転翼(6)を固着せしめたものである。」(第4頁9?12行)
キ 「本考案に係る消泡装置の設置により液面の波動に拘らず、回転翼の高さ以上に泡沫の増加が見られず、」(第5頁7?9行)
ク 「本考案に係る消泡装置の説明図」(第5頁最下行)である図面には、蒸発缶(1)内の上部領域に飛沫防止器(3)が設けられ、飛沫防止器(3)から下方に連続する領域に回転翼(6)及び蒸発器(2)が設けられ、蒸発缶(1)の側壁に入口(a)並びに入口(b)及び出口(d)が設けられ、下部蓋(4)の中心付近でない外周付近に出口(c)が設けられていることが窺える。

(2)本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された刊行物である特許第166982号明細書(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「缶胴(1)ヲ蒸発室(2)ト蒸気室(3)ト底室(4)トニ順次区画シ蒸気室(3)ニハ大径ノ降液管(5)ヲ中央ニ小径ノ加熱管(6)ヲ其ノ周囲ニ設ケテ蒸発室(2)ト底室(4)トヲ連通セシメ且蒸気ノ送入口(7)ト排出口(8)トヲ設ケ」(第1頁下欄7?10行)
イ 「濃縮スヘキ原溶液ノ適量ヲ缶胴(1)内ニ供給シ・・・・加熱管(6)ニヨリテ溶液ヲ加熱沸騰セシメ・・・・溶液ノ加熱ニヨリ発生スル蒸気ハ・・・・上昇シ」(第2頁上欄7?13行)
ウ 「缶胴(1)ノ中心部ニハ縦軸(17)ヲ挿通シ・・・・該軸ニハ底室(4)内ニ位置セシメテ適宜大ノ回転翼(18)ヲ固着スルト共ニ軸(19)ヲ嵌装シ該軸(19)ニハ蒸発室(2)ノ略々中央若ハ稍々上部ニ位置セシメテ回転翼(20)ヲ固着シ・・・・回転翼(18)ヲ低速ニ回転翼(20)ヲ高速ニ回転シ得ヘクナスモノニシテ・・・・」(第1頁下欄18行?第2頁上欄6行)
エ 「底室(4)内ニ設ケタル回転翼(18)ニヨリ溶液ノ循環ヲ良好ニ行ハシメテ加熱ヲ均等ナラシメ」(第2頁上欄15?17行)
オ 「本発明減圧蒸発缶ノ一実施例ヲ示ス縦断側面図」(第1頁 図面の略解)である図面には、液面より上方に蒸発室(2)と回転翼(20)があり、液面より下方に蒸気室(3)と底室(4)があることが窺える。

6.対比・判断
刊行物1には、記載アに「蒸発缶上部蓋より缶中心に回転軸を垂下し、その先端に液面と間隔を存して回転翼を設け、該回転翼は液面の大部分の区域に及び液面とほぼ平行に回転する・・・・蒸発装置における消泡装置。」が記載されている。
そして、上記記載中の「蒸発缶」に関し、記載クに、「蒸発缶(1)内の上部領域に飛沫防止器(3)が設けられ、飛沫防止器(3)から下方に連続する領域に回転翼(6)及び蒸発器(2)が設けられ、蒸発缶(1)の側壁に入口(a)・・・・が設けられ」ていることが記載されており、該「入口(a)」に関し、記載ウに、「給油は入口(a)より注入され」ることが記載され、該「蒸発器(2)」に関し、記載ウに、「蒸気は入口(b)より蒸発器(2)に導入されて熱交換され、・・・・缶内に注入された液は蒸発」することが記載され、記載エに、「液面は蒸発器(2)を浸漬せしめる高さにあ」ることが記載されている。
また、上記記載中の「回転翼」に関し、記載カによれば、回転翼はモーターに連結した回転軸の下端に固着せしめたものであり、記載オに、「液面上5?15糎上に回転翼(6)を設置して水平回転させ、水平面上の発生泡沫に回転翼により衝撃を与えて消泡させる」ことが記載され、記載キに、「回転翼の高さ以上に泡沫の増加が見られ」ないことが記載されている。なお、記載オの「水平面上の発生泡沫」とは、「液面上5?15糎上に回転翼(6)を設置して水平回転させ、水平面上の発生泡沫に回転翼により衝撃を与えて消泡させる」(記載オ)ことからみて、「液面上の発生泡沫」を意味していることは明らかである。
以上を踏まえ、これらの刊行物1の記載を本願発明の記載振りに則して整理すると、刊行物1には、
「液が注入される蒸発缶と、この蒸発缶の液面下に浸漬状態に設けた、蒸気が導入されて熱交換をする蒸発器と、前記蒸発缶の上部に設けられた飛沫防止器と、液面上5?15糎上に設置した回転翼と、この回転翼を固着せしめた回転軸と、この回転軸を回転させるモーターとで構成される蒸発装置であって、
回転翼を介して、液面上の発生泡沫に衝撃を与えて消泡し、回転翼の高さ以上に泡沫を増加させない構成とした蒸発装置。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されていると認められる。

ここで、本願発明と刊行1発明とを対比すると、本願発明の「低温蒸気導入用の静置コイル」は、本願明細書の「この静置コイル4との熱交換で生成された蒸気」(段落【0017】)との記載からみて、熱交換器であるといえるから、本願発明の「この廃液処理部の廃液に陥没状態に設けた低温蒸気導入用の静置コイル」と刊行1発明の「この蒸発缶の液面下に浸漬状態に設けた、蒸気が導入されて熱交換をする蒸発器」は、「液に陥没状態に設けた、蒸気が導入される熱交換器」である点で共通する。
また、刊行1発明の「飛沫防止器」は、記載ウによれば、蒸発蒸気が通過するところであるから、「蒸気部」であるとみることができ、刊行1発明の「蒸発缶」のうち「飛沫防止器」から下方に連続する領域は、記載クによれば、回転翼(6)及び蒸発器(2)並びに入口(a)が設けられ、記載ウ及び記載オによれば、該入口(a)から液が注入され、缶内に注入された液を加熱蒸発させ、液面上の発生泡沫に回転翼により衝撃を与えて消泡させるところであるから、「液処理部」であるとみることができる。
また、刊行1発明の「液面上5?15糎上に設置した回転翼」と本願発明の「前記廃液の上方に設けた上方羽根」とは、「液の上方に設けた上方羽根」である点で共通し、刊行1発明の「この回転翼を固着せしめた回転軸」と本願発明の「この複数枚の下方羽根及び上方羽根を支持する軸」とは、「上方羽根を支持する軸」である点で共通し、刊行1発明の「この回転軸を回転させるモーター」と本願発明の「この軸を駆動する駆動部」とは、「軸を駆動する駆動部」である点で共通している。
また、刊行1発明の「発生泡沫に衝撃を与えて消泡し、回転翼の高さ以上に泡沫を増加させない」ことは、本願発明の「生成する泡をきり、この泡の拡大を抑制可能とする」ことに相当する。
してみると、本願発明と刊行1発明とは、「液が導入される液処理部と、この液処理部の液に陥没状態に設けた、蒸気が導入される熱交換器と、前記液処理部の上側に連設した蒸気部と、前記液の上方に設けた上方羽根と、この上方羽根を支持する軸と、この軸を駆動する駆動部とで構成される液処理装置であって、
上方羽根を介して、前記液上に生成する泡をきり、この泡の拡大を抑制可能とする構成としたことを特徴とする液処理装置。」で一致し、次の点で相違する。

相違点(一):本願発明は、「廃液」を処理するものであるのに対し、刊行1発明は、「廃液」を処理するものに特定されていない点
相違点(二):熱交換器として、本願発明は、「低温蒸気導入用の静置コイル」を用いるのに対し、刊行1発明は、「蒸気が導入されて熱交換をする蒸発器」を用いる点
相違点(三):本願発明は、「前記静置コイルの内側に設けた下方羽根、及び前記廃液の上方に設けた上方羽根と、この複数枚の下方羽根及び上方羽根を支持する軸と、この軸を駆動する駆動部」を有し、「前記下方羽根を介して、前記廃液に上下方向への旋回流を付与し、この旋回流を介して廃液の濃度の均一化と、蒸発促進を可能と」しているのに対し、刊行1発明は、「液面上5?15糎上に設置した回転翼と、この回転翼を固着せしめた回転軸と、この回転軸を回転させるモーター」を有する点

以下、これら相違点について検討する。
(1)相違点(一)について
被処理液を加熱して蒸発させる技術として、特開平3-213187号公報(以下、「周知例1」という。)に、「帯色廃液を予備濃縮し、・・・・帯色廃液の高度処理システム」(特許請求の範囲第1項)及び「帯色廃液を蒸気加熱等により予備濃縮し、分離については蒸発しクリーン蒸気として大気に逸散させ」(第2頁右下欄2?10行)と記載され、また、特開平3-242281号公報(以下、「周知例2」という。)に、「写真処理廃液の減圧蒸発濃縮装置」(特許請求の範囲)及び「写真処理廃液を加熱する如くし、・・・・加熱蒸発を繰り返し、効率よく急速に濃縮化を行なう」(第3頁右下欄10?17行)と記載されているように、「廃液」を加熱して蒸発させることは、本願の優先日前、周知の技術であるといえる。
かかる周知技術に照らしてみれば、被処理液を加熱して蒸発させる刊行1発明において、被処理液を「廃液」に特定することは、格別困難なことではなく、当業者であれば容易に想到し得ることといえる。

(2)相違点(二)について
まず、本願発明の「低温蒸気導入用の静置コイル」における「低温蒸気」について本願明細書の記載をみてみると、「低温蒸気」の「低温」に関し、具体的な数値の記載はないものの、段落【0021】に「低温蒸気は、配管21を介して静置コイル4に供給される。」と記載され、この記載中の「静置コイル」に関し、段落【0012】に「この廃液は、廃液処理部に装備されている静置コイルに接触して蒸発される」と記載され、段落【0017】に「この静置コイル4との熱交換で生成された蒸気」と記載されていることからみて、本願発明の「低温蒸気導入用の静置コイル」における「低温蒸気」とは、廃液を蒸発させ、蒸気が生成する程度に廃液を熱交換により加熱する加熱用蒸気であると解される。
一方、刊行1発明の「蒸気が導入されて熱交換をする蒸発器」における「蒸気」とは、記載イの「缶内液を加熱し」との記載、及び、記載ウの「給油は入口(a)より注入され、蒸気は入口(b)より蒸発器(2)に導入されて熱交換され、・・・・この際に缶内に注入された液は蒸発し」との記載からみて、缶内に注入された液を蒸発させ、蒸気が生成する程度に液を熱交換により加熱する加熱用蒸気であるといえる。
してみると、本願発明の「低温蒸気導入用の静置コイル」の「低温蒸気」と刊行1発明における「蒸気が導入されて熱交換をする蒸発器」における「蒸気」とは、液を蒸発させ、蒸気が生成する程度に液を熱交換により加熱する加熱用蒸気である点で共通し、該加熱用蒸気を「低温蒸気」とあえて特定することに格別の困難性を見いだせない。
ただ、刊行1発明の「蒸気が導入されて熱交換をする蒸発器」は、記載ウの「蒸気は入口(b)より蒸発器(2)に導入されて熱交換され、凝縮水は出口(c)より、非凝縮ガスは出口(d)より缶外に排出される。」との記載、及び、記載クの「蒸発缶(1)の側壁に・・・・入口(b)及び出口(d)が設けられ、下部蓋(4)の中心付近でない外周付近に出口(c)が設けられている」との記載からみて、静置式のものであるといえるところ、これが「コイル」であるとまではいえない。
しかしながら、この「コイル」について検討すると、先に提示した周知例1の第1図に、ボイラー17からの高温加熱蒸気18の流路が予備濃縮槽14内及び帯色廃液槽10内でコイル形状にされていることが、また、先に提示した周知例2の第1図に、加熱手段2を冷却手段8と連結させるとともにコイル形状にしてカラム1内の液に接触させていることが窺われ、これらのことからみれば、容器内に貯留する液を熱交換により加熱する際に「コイル」を用いることは、本願の優先日前、周知の技術であるといえる。
かかる周知の技術に照らしてみれば、蒸気が導入されて熱交換をする静置式の蒸発器を用いる刊行1発明において、相違点(二)に係る本願発明の「低温蒸気導入用の静置コイル」を採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることといえる。

(3)相違点(三)について
本願発明の「下方羽根」は「静置コイルの内側に設けた」ものであり、該「静置コイル」が「廃液に陥没状態に設けた」ものであることから、本願発明の「下方羽根」は廃液に陥没状態に設けられたもの、すなわち、液面より下方に設けられたものであることは明らかである。
そして、本願発明の「下方羽根」については、刊行物2に、「減圧蒸発缶」(記載オ)において、「缶胴(1)ヲ蒸発室(2)ト蒸気室(3)ト底室(4)トニ順次区画シ蒸気室(3)ニハ大径ノ降液管(5)ヲ中央ニ小径ノ加熱管(6)ヲ其ノ周囲ニ設ケテ蒸発室(2)ト底室(4)トヲ連通セシメ且蒸気ノ送入口(7)ト排出口(8)トヲ設ケ」(記載ア)ること、「濃縮スヘキ原溶液ノ適量ヲ缶胴(1)内ニ供給シ・・・・加熱管(6)ニヨリテ溶液ヲ加熱沸騰セシメ・・・・溶液ノ加熱ニヨリ発生スル蒸気ハ・・・・上昇」(記載イ)すること、「缶胴(1)ノ中心部ニハ縦軸(17)ヲ挿通シ・・・・該軸ニハ底室(4)内ニ位置セシメテ適宜大ノ回転翼(18)ヲ固着スルト共ニ・・・・回転翼(18)ヲ・・・・回転シ得ヘクナス」(記載ウ)こと、「底室(4)内ニ設ケタル回転翼(18)ニヨリ溶液ノ循環ヲ良好ニ行ハシメテ加熱ヲ均等ナラシメ」(記載エ)ること、及び、「液面より下方に蒸気室(3)と底室(4)があること」(記載オ)が記載されている。かかる記載ア及びイによれば、缶胴(1)内の溶液は降液管(5)内を降下するとともに加熱管(6)内を上昇し、加熱管(6)内の溶液は蒸気室(3)内で加熱管(6)外の蒸気との熱交換により加熱されることは明らかであるから、刊行物2には、減圧蒸発缶において、缶胴(1)を蒸発室(2)と蒸気室(3)と底室(4)とに順次区画し、蒸気室(3)と底室(4)が液面より下方に位置するように缶胴(1)内に溶液を供給し、該溶液を蒸気室(3)に送入した蒸気との熱交換により加熱して蒸気を発生させ、底室(4)内に設けた回転翼(18)により溶液の循環を良好に行わしめて加熱を均等ならしめることが記載されているといえる。
そして、刊行物2の上記記載の他、実公昭33-6051号公報(以下、「周知例3」という。)の記載もみれば、蒸発缶において、缶内の液面より下方に、缶内の液を加熱する加熱部とともに缶内の液を循環させる回転翼を設けることは、本願の優先日前、周知の技術であると認められる。
かかる周知の技術に照らしてみれば、回転翼が羽根を有することは自明であるから、蒸発缶内の液面下に蒸発缶内の液を加熱する蒸発器を設けた刊行1発明において、缶内の液面より下方に缶内の液を循環させる回転翼、すなわち下方羽根を設けることは、当業者であれば容易に想到し得ることといえる。

ここで、缶内の液面より下方に缶内の液を循環させる下方羽根を設ける際に、複数枚の下方羽根及び上方羽根を支持する軸を用いること、及び、上下方向への旋回流を付与することについては、先に提示した周知例3の記載(特に図面)からみて、格別の困難性を見いだせず、また、下方羽根を「静置コイル」の内側に設けることについても、先に提示した周知例1(第1図)及び周知例2(第2図(a))の記載からみて、格別なことといえない。さらに、蒸発缶内の液を循環させることにより、液の濃度が均一化され、蒸発促進が可能となることは、当業者には自明の事項であることを勘案すると、刊行1発明において、相違点(三)に係る本願発明の「前記静置コイルの内側に設けた下方羽根、及び前記廃液の上方に設けた上方羽根と、この複数枚の下方羽根及び上方羽根を支持する軸と、この軸を駆動する駆動部」を有し、「前記下方羽根を介して、前記廃液に上下方向への旋回流を付与し、この旋回流を介して廃液の濃度の均一化と、蒸発促進を可能と」することは、当業者であれば容易に想到し得ることと認められる。

そして、これら相違点(一)?(三)に係る本願発明の特定事項を採用することにより奏される本願明細書記載の効果も、刊行物1?2及び周知の技術から当業者であれば予測し得るものであり、格別顕著なものであるとはいえない。
なお、請求人は、平成20年10月31日付けの審判請求書に係る手続補正書において、「静置コイルの内側に、撹拌及び濃度の均一化を図る下方羽根を設けたことで、廃液濃度の均一化と、この静置コイルの伝熱面に、常時、新しい境膜が形成を図って、スケールの付着を少なくし、静置コイルの伝熱面のこげ付きを回避することが可能となる。そして、さらに、下記の効果も期待できる。液濃度が略一定に保持されること、回転式コイル方法に比べスケールの付着が非常に少ないこと、及びスケールの清掃パターンは、略1年周期でよいこと、コイルの伝熱面にこげ付が発生しないためスケール除去が容易であること、低温による蒸発操作が可能となること、新たに設けたセイボール、ミストセパレーター、蒸発ベーパーの質量速度をおさえた設計により、凝縮液の清澄度は高いことが挙げられる。」という主張をしている。
しかしながら、該主張に係る効果について本願明細書又は図面の記載をみても、該効果に関し、実験データ等の客観的な根拠が示されておらず、該効果を当業者が予測し得ない格別顕著なものと認めることができない。

7.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-10 
結審通知日 2010-12-13 
審決日 2010-12-24 
出願番号 特願2001-194754(P2001-194754)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (C02F)
P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 56- Z (C02F)
P 1 8・ 57- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 光子  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 豊永 茂弘
目代 博茂
発明の名称 廃液処理装置  
代理人 竹中 一宣  

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