ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04C |
---|---|
管理番号 | 1232134 |
審判番号 | 不服2009-14848 |
総通号数 | 136 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-08-17 |
確定日 | 2011-02-07 |
事件の表示 | 特願2003-520925「せっこうボードにおけるマイクロカプセルの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月27日国際公開、WO03/16650、平成17年 2月 3日国内公表、特表2005-503500〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯,本願発明 本願は,2002年8月7日(パリ条約による優先権主張2001年8月16日,ドイツ国)を国際出願日とする出願であって,平成21年4月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月17日に審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。 その後,平成22年2月23日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年6月28日に回答書が提出された。 本願の請求項1に係る発明は,平成21年8月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下,「本願発明」という。) 「【請求項1】両面に設けられたボード用原紙を有するせっこうコアからなり,カプセルコアとしての固/液相転移を-20?120℃の温度範囲内で有する親油性物質を有するマイクロカプセルを有するせっこうボードであって,マイクロカプセルのカプセル壁が, ・モノマーの全質量に対して,1つ又はそれ以上の,アクリル酸及び/又はメタクリル酸のC1?C24-アルキルエステル(モノマーI) 30?100質量% を含有しているモノマー混合物のラジカル重合により得ることができる,せっこうボード。」 2.刊行物に記載された発明 刊行物1:特開2000-289130号公報 刊行物2:国際出願公開99/24525号公報 (対応する日本国特許出願公表:特表2002-516913号公報) (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である,上記刊行物1には,以下の記載がある。 (1a)「【0009】 ・・・ 〔石膏ボード本体〕通常の石膏ボードと同様の材料および製造工程で製造される。 【0010】具体的には,焼石膏,水,骨材,必要に応じてその他の添加剤などを混練してスラリー状にし,この石膏スラリーを板状に成形し,脱水乾燥および水和硬化させることで石膏板層が構成される。石膏ボード用の原紙を,板状に成形された石膏スラリーの片面,両面あるいは外周全体を囲むように配置しておくことで,完成された石膏板層の表面に原紙層が積層されることになる。原紙層は,石膏スラリーを保護したり,石膏スラリーからの脱水を促進させる機能がある。したがって,原紙層の材料は,透水性の高い材料が用いられる。 【0011】石膏板層の厚みは,7?25mm程度に設定される。原紙層の厚みは,200?1000μm程度に設定される。石膏ボード本体は,予め製造されたものを供給してもよいし,上記した石膏スラリーの成形や原紙層の配置などの工程を一連のライン上で連続して行い,製造された石膏ボード本体を連続的に供給することもできる。」 上記記載事項(1a)及び図面の記載からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「石膏板の両面に石膏ボード用の原紙が積層された石膏用ボード本体であって,焼石膏,水,骨材,必要に応じて添加剤などを混練してスラリー状にし,この石膏スラリーを板状に成形し,脱水乾燥および水和硬化させることで石膏板層が構成される,石膏用ボード本体。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。) (2)刊行物2 同じく,上記刊行物2には,概略以下のことが記載されている。 (2a) 「このようにして得られたマイクロカプセルは,殊には鉱物質,ケイ酸塩質またはポリマー状結合剤を用いる結合建材中の潜熱蓄熱材料として好適である。その際,成形体と被覆材料とは区別する。すなわち,その耐加水分解性により,水性および多くの場合にアルカリ性水性材料に対して優れている。 鉱物質成形体としては,鉱物質結合剤,水,添加剤ならびに助剤から成る混合物から,成形により,鉱物質結合剤-水混合物が時間の関数として,場合により高い温度の作用下で硬化して生成した成形体と考える。鉱物質結合剤は,一般に公知である。これは,水と接触してその使用可能な形に転換される微細な無機物質,例えば石灰,石膏,粘土,ロームおよび/またはセメントであり,その際,後者はそれ自体を空気中または水中に放置すると,場合により高い温度作用下で時間の関数として石のように硬化する。(第10頁第23行-41行,公表公報【0059】【0060】) (2b)「鉱物質結合建材の乾燥組成物は,典型的には,鉱物質結合剤の量に対して0.1?20重量%のマイクロカプセルを含む。本発明による鉱物質結合建材は,従来の建材に対して著しく良好な蓄熱能力を有する。」(第11頁第27-31行,公表公報【0064】) (2c)「以下の実施例は,本発明を詳細に説明するものである。実施例中のパーセントの記載は,重量%である。 実施例1 水相: 930g 水 263g pH9.8における水中のSiO_(2)の30%コロイド分散液(12nm,240m^(2)/g) 18.2g 2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸Na塩59%,アクリル酸20%,メタクリレート20%およびスチレン1%から成るポリマーの20%水溶液,K値:69 10.5g 2.5%二クロム酸カリウム水溶液 油相: 1100g C18?C20-アルカン(工業的蒸留製品) 129.5g メチルメタクリレート 57.4g ブタンジオールジアクリレート 1.9g エチルヘキシルチオグリコラート 2.3g t-ブチルペルピバラート 追加液1:2.73g t-ブチルヒドロペルオキシド,水中70% 追加液2:0.84g アスコルビン酸,0.061g NaOH,146g H_(2)O 室温において上記の水相を装入し,10%塩酸14gを用いてpH7に調整した。油相を加えた後,急速に回転する溶解攪拌機を用いて4200rpmで分散させ,pHを10%塩酸15gを用いてpH4に調整した。40分間の分散の後,直径2?8μmの粒度の安定なエマルションが得られた。エマルションを攪拌しながらアンカー型攪拌機を用いて4分間56℃に加熱し,さらに20分間58℃,さらに60分間71℃およびさらに60分間85℃に加熱した。生成したマイクロカプセル分散液を攪拌しながら70℃に冷却し,追加液1を加えた。追加液2を攪拌しながら70℃において80分間で計量添加した。引き続き冷却した。生成したマイクロカプセル分散液は,固体含有量45.7%および平均粒径D(4.3)=4.22μmを有していた。 分散液は,実験用乾燥器内で二物質ノズルおよびサイクロン分離を用い,加熱気体の入口温度130℃,噴霧塔からの粉末の出口温度70℃で問題なく乾燥できた。マイクロカプセル分散液および粉末は,示差熱量測定において加熱速度1K/分の加熱の場合に,融点26.5?29.5℃,転移エンタルピー130J/g(アルカン混合物)を示した。 マイクロカプセル分散液を,市販の粉体状製品モルタル用石膏〔クナウフ「ゴールドバンド製品モルタル」(Knauf:Goldband Fertigmoertel),DIN1168による製品モルタル石膏〕と種々の量割合で混合した。固体石膏粉末上の潜熱蓄熱物質としてのアルカンの重量割合10,20,30,40%を有する試料を秤量添加し,追加して水を用いて慣用の加工コンシステンシーに調整した。石膏試料は,層厚さ5mmで割れ目なく硬化し,著しく低い吸水性ならびに高い弾性を示した。硬化した石膏板内のマイクロカプセルは破損せず,かつ試料は,その石膏板内の含有量に相当してマイクロカプセル単独と同じ溶融熱を示した。」(第13頁第32行-第14頁46行,公表公報【0074】-【0078】) (2d)「1.核材料として,温度範囲-20?120℃内に固体/液体相転移を有する1種またはそれ以上の親油性物質,および殻として, -アクリル酸および/またはメタクリル酸の1種またはそれ以上のC1?C24-アルキルエステル(モノマーI)をモノマーの全重量に対して30?100重量%, -水に不溶性または難溶性である二官能性または多官能性モノマー(モノマーII)をモノマーの全重量に対して0?80重量%および -その他のモノマー(モノマーIII)をモノマーの全重量に対して0?40重量% を含むモノマー混合物のラジカル重合により得られるポリマーを有するマイクロカプセルIの潜熱蓄熱材料としての使用。 ・・・ 5.鉱物質成形体または被覆材料中における潜熱蓄熱材料としての請求項1から4までのいずれか1項記載のマイクロカプセルIの使用。 ・・・ 7.請求項1から5までのいずれか1項記載のマイクロカプセルならびにその他の鉱物質成形体中に慣用の添加物質を含む,鉱物質成形体。」(第19頁第4行-20頁第3行,公表公報【特許請求の範囲】特に請求項1,請求項5,請求項7) 3.対比・判断 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「石膏ボード用の原紙」,「石膏用ボード本体」は,本願発明の「ボード用原紙」,「せっこうボード」に相当する。 刊行物1記載の発明の「石膏板」は,両面に設けられたボード用原紙を有する石膏成形体であるから,本願発明の「せっこうコア」に相当する。 よって,両者は,以下の一致点,相違点を有する。 一致点 両面に設けられたボード用原紙を有するせっこうコアからなるせっこうボード。 相違点 本願発明は,カプセルコアとしての固/液相転移を-20?120℃の温度範囲内で有する親油性物質を有するマイクロカプセルを有するせっこうボードであって,マイクロカプセルのカプセル壁が, ・モノマーの全質量に対して,1つ又はそれ以上の,アクリル酸及び/又はメタクリル酸のC1?C24-アルキルエステル(モノマーI) 30?100質量% を含有しているモノマー混合物のラジカル重合により得ることができるものであるのに対し,刊行物1記載の発明は,せっこうボードがマイクロカプセルを有することが示されておらず,マイクロカプセルのカプセル壁についても示されていない点。 上記相違点について検討する。 せっこうボードがどのような状態でマイクロカプセルを有するかについて本願発明には明示されていないが,本願実施例はせっこうコアを形成するスラリーにマイクロカプセルを加えることにより,せっこうボードがマイクロカプセルを有するものとなっているものであるので,以下,せっこうスラリーにマイクロカプセルを混合して硬化させることによってマイクロカプセルを有するせっこうボードを刊行物1及び2から発明することが,当業者にとって容易であるか否かについて検討する。 刊行物2は,「核材料として,温度範囲-20?120℃内に固体/液体相転移を有する1種またはそれ以上の親油性物質,および殻として, アクリル酸および/またはメタクリル酸の1種またはそれ以上のC1?C24-アルキルエステル(モノマーI)をモノマーの全重量に対して30?100重量%を含むモノマー混合物のラジカル重合により得られるポリマーを有するマイクロカプセルを,鉱物質結合剤である石膏,水添加剤ならびに助剤から成る結合建材に混合した混合物であり,硬化すると石のように硬化する混合物」の発明を開示するものであり,また,このような混合物は,場合により高い温度の作用下で硬化することが示されている(記載事項(2a)(2d))。 そして,刊行物2には,マイクロカプセルを含有することにより,鉱物質結合建材が従来の建材に対して著しく良好な蓄熱能力を備えることが記載されており(記載事項(2b)),従来より建材として周知である刊行物1記載のようなせっこうボードのせっこうコアを,刊行物2記載の上記混合物を硬化させることにより形成して,マイクロカプセルを有するせっこうボードとすることは,当業者が容易になし得ることである。 本願発明の効果も刊行物1及び2記載の発明から当業者が予測し得る程度のものである。 審判請求人は,平成20年5月7日付け意見書,平成20年11月26日付け意見書,平成21年8月17日付け審判請求書及び平成22年6月28日付けの審尋に対する回答書にて,せっこうボードの製造に際し,140℃以上の温度で約45分間乾燥させる工程を経ることは当業者にとって技術常識であり,約170℃以上の温度で分解し始めるPMMAカプセル壁を有する刊行物2記載のマイクロカプセルを,上記のような乾燥工程を経て製造される刊行物1記載のせっこうボードに適用することは,当業者にとって容易ではない旨主張する。 しかし,刊行物2に,混合物は「場合により高い温度の作用下で硬化する」ことが記載されていることを考慮すれば,刊行物2記載の潜熱蓄熱性を持たせた石膏含有混合物ないしその成形体を,刊行物1記載の発明のような従来より周知のせっこうを用いた建材に対して適用しようと考えることは,当業者であれば当然想到することである。 そして,仮に,審判請求人が主張するように,刊行物1記載のようなせっこうボードが140℃以上の温度で約45分間乾燥させる工程を経て製造されることが当業者にとって技術常識であるとしても,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を組み合わせるにあたり,約170℃以上の温度で分解し始めるPMMAカプセル壁のその熱的性質を考慮して,乾燥工程の温度を低めに調整する等して熱による破壊を抑制するよう試みることは当業者が容易になし得ることであり,せっこうボードの製造に際し,140℃以上の温度で約45分間乾燥させる工程を経ることが当業者にとって技術常識であることをもって,刊行物1と刊行物2との組み合わせが当業者にとって容易でないとすることはできない。 以上より,審判請求人の主張は採用できない。 4.むすび したがって,本願発明は,刊行物1及び2記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-08-27 |
結審通知日 | 2010-09-03 |
審決日 | 2010-09-22 |
出願番号 | 特願2003-520925(P2003-520925) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E04C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 洋行、鉄 豊郎 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
宮崎 恭 土屋 真理子 |
発明の名称 | せっこうボードにおけるマイクロカプセルの使用 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | 山崎 利臣 |
代理人 | 杉本 博司 |
代理人 | 矢野 敏雄 |