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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1232250
審判番号 不服2008-17294  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-07 
確定日 2011-02-16 
事件の表示 平成10年特許願第356343号「電力配電システム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月17日出願公開、特開平11-252821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年12月15日(パリ条約による優先権主張1997年12月29日、スペイン)の出願であって、平成20年4月1日付けで拒絶査定がなされ、同年7月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同年7月31日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年7月31日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理 由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「交流配電網から少なくとも一つの電気手段(5)と一つのエネルギー貯蔵手段(4)とに電力を供給する電力配電システムであって、
前記交流配電網に接続され、出力端子を介して整流正弦波電圧を供給する整流手段(1)と、
前記整流正弦波電圧を充電手段(3)と前記少なくとも1つの電気手段(5)に分配する、前記整流手段(1)の前記出力端子に接続された電力リード線(2)と、
前記整流正弦波電圧を直流電圧に変換し、前記エネルギー貯蔵手段(4)に前記直流電圧を供給する前記充電手段(3)とを備え、
前記電気手段(5)が、それぞれ少なくとも一つの負荷に接続された複数の変換手段(61、…、6i、…、6n)を備え、各変換手段(6i)が、前記整流正弦波電圧を受けるために前記電力リード線(2)に接続され、少なくとも1つの負荷に直流電圧を供給するために前記整流正弦波電圧を前記直流電圧に変換することを特徴とする電力配電システム。」と補正された。


本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「電力リード線」に関し、「整流正弦波電圧を充電手段(3)と少なくとも1つの電気手段(5)に分配する」と限定し、「充電手段」に関し、「整流正弦波電圧を直流電圧に変換し、」エネルギー貯蔵手段(4)に「前記」直流電圧を供給する「前記」充電手段と限定し、「各変換手段」に関し、「前記整流正弦波電圧を受けるために」前記電力「リード」線(2)に接続され「、少なくとも1つの負荷に直流電圧を供給するために前記整流正弦波電圧を前記直流電圧に変換する」と限定するものであって、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-197047号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「C従来の技術
無停電電源装置として浮動充電方式のものと、直流スイッチ方式のものとがあることはよく知られている所である。後者の直流スイッチ方式を示したのが第4図であり、交流電源1よりスイッチ2を介してダイオードを順ブリッチ接続した順変換器部3で交流より直流に変換し、リアクトルL1とコンデンサC1よりなる直流フィルター回路5で平滑し、サイリスタを順ブリッチ接続した逆変換器部6で直流から交流に変換して、リアクトルL2とコンデンサC2よりなる交流フィルタ回路7を介して負荷11に交流電力を供給している。
一方別電源12よりスイッチ13を介して絶縁トランス14で降圧された交流は充電器15でバッテリー10を充電している。交流電源1が停電した時には直流スイッチ回路8が閉路して無瞬断でバッテリー10のエネルギーを逆変換器部6を介して負荷11に交流電力を供給するようにしている。」(第1頁右下欄第18行から第2頁左上欄第16行)

・「F実施例
以下第1図、第2図、第3図に基いて本発明の実施例を詳述する。 なお第4図と同一のものは同一の符号を付しその説明は省略する。
第1図で順変換器部3と直流スイッチ回路8の間にはスイッチSと図示極性のダイオードDの並列接続したスイッチ回路4を接続し、前記スイッチSは図示しない電圧検出装置の信号によって交流電源1の電圧が正常時は閉路し、交流電源1の電圧が基準電圧より低下及び停電時には開路するようになっている。
充電回路9の入力端は順変換器部3の直流出力端に接続され、この充電回路9の出力端はバッテリー10の正極端に接続されている。
第2図は前記直流スイッチ回路8のよく知られた構成であり、主サイリスタ81-補助サイリスタ82-転流リアクトル83-転流コンデンサ84-転流ダイオード85-充電電流抑制抵抗86-逆流防止用ダイオード87とで構成され、交流電源1の停電時及び電圧低下時には図示しない電圧検出装置の信号を直流スイッチ回路8の制御部88に入力して、この制御部88からの指令により直流スイッチ回路8が制御される。
第3図は、充電回路9の構成を示し、スイッチング素子91、92はベースドライブ制御部96で制御される。直流入力電圧はスイッチング素子91のON-OFF周期を制御することによって任意の直流出力電圧に降圧される。且つ、スイッチング素子91をON状態でスイッチング素子94のON-OFF周期を制御することによって任意の直流出力電圧に昇圧される機能を持った充電回路である。」(第3頁左上欄第1行から第3頁右上欄第12行)

・「以上のように構成される本発明の動作を述べると、交流電源1が正常時は、従来例と同じく、交流電源1→スイッチ2→順変換器部3→スイッチ回路4のスイッチS→直流フィルタ回路5→逆変換器部6→交流フィルタ回路7→の経路を介して負荷11に良質の交流電力を供給している。これと並行して充電回路9は順変換器部3の出力端より直流電力を入力して、バッテリー10の電圧によって、浮動充電時は降圧機能で浮動充電を行い、均等充電の必要時は昇圧機能で昇圧した電圧で充電を行なうことによりバッテリー電圧を常に一定保持するように制御している。
交流電源1の停電時は図示しない電圧検出装置の信号によりスイッチSの開路と前記信号を第2図に示す制御部88が入力して直流スイッチ回路8を閉路するよう制御してバッテリー10のエネルギーを直流フィルター回路5を介して逆変換器部6に無瞬断で供給し続ける。そして、停電が長時間継続している場合はバッテリー10の放電末期電圧に達するまで電力を供給し、バッテリー10が放電末期電圧値に達すると図示しない検出装置で検出して、無停電電源装置を停止させる。また、バッテリー10の放電末期電圧値に達する以前に交流電源1が復電した場合は図示しない電圧検出装置の信号により直流スイッチ回路8は開路され無瞬断で交流側に切り変わり交流電源の正常時のルートで負荷11に交流電力を供給し続ける。
ここで、重要なのは、本発明の要旨である交流電源1の電圧が基準電圧より低下した場合である。この動作の制御方法は以下に述べる。
まずバッテリー10が一定電圧(略320V)に充電されているとすると、交流電源1が何らかの原因で基準電圧以下に低下したことを図示しない電圧検出装置の信号によって直流スイッチ回路8が閉路すると同時にスイッチ回路4のスイッチSが開路して、バッテリー10より一定電圧である320Vの直流電圧が逆変換器部6に供給するようにスイッチ回路4と直流スイッチ回路8を制御する。この状態で充電回路9は交流電源1の電圧が低下しているため順変換器部3の直流出力電圧も低下しているので、図示しない電圧検出信号で充電回路9の昇圧機能を動作させるように制御し直流電圧の低下に見合った分を昇圧した電圧でバッテリー10を充電する。このためバッテリー10の電圧は交流電源1の低下時でも一定電圧に保持される。
交流電源1の電圧低下時は、スイッチ回路4のダイオードDは負荷側電圧より順変換器部3の直流出力電圧が低くなるため逆流を防止するとともにスイッチSの開閉の時間遅れによる電力供給の瞬断を防止するためである。
以上のように本発明は制御されるため交流電源1が停電しない限り交流電源1の電圧変動を考慮せずバッテリー10の電圧を略320Vと云う一定電圧に保持する(注:「するつ」は「する」の誤記)ことにより、この無停電電源装置より負荷11に良質な交流電力を供給することが出来る。
G発明の効果
以上本発明によれば、充電回路の降圧機能と昇圧機能によってバッテリーを一定電圧に保持することにより、逆変換器部のサイリスタ素子を電圧動作債務の狭く且つ低耐圧の素子が使用出来るため安価となり、また逆変換器部からの交流出力に含まれる高調波成分が少なくなるため、交流フィルター回路も小型化し、且つ無停電電源装置に占める占有率の大きいバッテリーの設定電圧を低く出来るためバッテリーのセル数を減少させることが出来、無停電電源装置を安価で小型化が可能なると云う大きな効果を得ることが出来る。」(第3頁左下欄第13行から第4頁左下欄第1行)

・第1図には、それぞれ1つの直流フィルタ-回路5、逆変換器部6、交流フィルター回路7、及び、負荷11よりなる一つの電気手段が示されており、また、順変換器部3から供給される直流出力を充電回路9と電気手段に分配する、順変換器部3の出力端に接続された電力リード線が示されており、さらに、順変換器部3からの直流出力を直流フィルタ回路5により平滑することにより、方向だけでなく大きさも変化しない狭義の意味での直流である直流電圧に変換して逆変換器部6に供給する点が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「交流電源1から一つの電気手段と一つのバッテリー10とに電力を供給する無停電電源装置であって、
前記交流電源1に接続され、出力端を介して直流出力を供給する順変換器部3と、
前記直流出力を充電回路9と前記1つの電気手段に分配する、前記順変換器部3の前記出力端に接続された電力リード線と、
前記直流出力を降圧または昇圧し、前記バッテリー10に前記降圧または昇圧した電圧を供給する前記充電回路9とを備え、
前記電気手段が、一つの負荷に接続された直流フィルター回路5を備え、直流フィルター回路5が、前記直流出力を受けるためにスイッチ回路4を介して前記電力リード線に接続され、逆変換器部6により直流電圧が変換された交流電力を1つの負荷11に供給するために前記直流出力を直流電圧に変換する無停電電源装置。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

まず、本願補正発明で使用されている「整流正弦波電圧」及び「直流電圧」と引用発明に使用されている「直流出力」の意味を検討する。
フリー百科事典ウィキペディアには、「直流(ちょくりゅう;Direct Current;略称:DC)は、時間によって大きさが変化しても流れる方向(正負)が変化しない電流である。直流電流。同様に、時間によって方向が変化しない電圧を直流電圧という。狭義には、方向だけでなく大きさも変化しない電流、電圧のことを指し、流れる方向が一定で、電流・電圧の大きさが変化するもの(右図の下2つ)は脈流という。」とある。
一方、審判請求書の理由補充書の第5頁にあるように、本願補正発明の「整流正弦波電圧」は流れる方向が一定で、電流・電圧の大きさが変化するものであるので、「脈流」であるといえ、本願補正発明の「直流電圧」は方向だけでなく大きさも変化しない狭義の意味での直流であるといえる。
引用例の第1図の「順変換器部3」,「直流フィルター回路5」、「逆変換器部6」、及び、「交流フィルター回路7」の構成及び作用は、引用例の第3頁左上欄第3行から同欄第4行に「第4図と同一のものは同一の符号を付しその説明は省略する」と記載されているので、引用例の第2頁第1行から同欄第16行の「後者の直流スイッチ方式を示したのが第4図であり、交流電源1よりスイッチ2を介してダイオードを順ブリッチ接続した順変換器部3で交流より直流に変換し、リアクトルL1とコンデンサC1よりなる直流フィルター回路5で平滑し、サイリスタを順ブリッチ接続した逆変換器部6で直流から交流に変換して、リアクトルL2とコンデンサC2よりなる交流フィルタ回路7を介して負荷11に交流電力を供給している。」なる記載から検討することとなる。特に、「交流電源1よりスイッチ2を介してダイオードを順ブリッチ接続した順変換器部3で交流より直流に変換し、リアクトルL1とコンデンサC1よりなる直流フィルター回路5で平滑」すると記載されていることから、順変換器部3で交流より変換された直流は、直流フィルター回路5で平滑されることから、フリー百科事典ウィキペディアでいうところの方向だけでなく大きさも変化しない狭義の意味での直流ではなく、流れる方向が一定で、電流・電圧の大きさが変化するフリー百科事典ウィキペディアでいうところの脈流であると解することができる。現に、特開昭63-176187号公報の第2頁左下欄第7行から同欄第20行には、順ブリッジを使って整流した場合には、その第2図に(a),(b)に示されるような「極性の変化しない電流」である「直流電流波形」、すなわち、フリー百科事典ウィキペディアでいうところの脈流が得られることが示されているように、順ブリッジを使って整流した場合には脈流(本願補正発明の「整流正弦波電圧」に相当)が得られることは技術常識にすぎない。他にも特開昭63-167643号公報の第1図に示されるように、全波整流回路2により整流すれば、第2図に示されるような脈流となることが示されているので参照されたい。
してみると、前者の「整流正弦波電圧」は、後者の「直流出力」に相当するといえる。

また、本願補正発明で「電気手段」、又は、「負荷」の数を特定するために使用されている「少なくとも一つ」なる表現は、「一つ」のみの場合を含むことは自明であるので、これを踏まえて以下の対比を行う(なお、「すくなくとも1つ」も同様である。)。

(ア)後者の「交流電源1」が前者の「交流配電網」に相当し、同様に、
「バッテリー10」が「エネルギー貯蔵手段(4)」に、
「無停電電源装置」が「電力配電システム」に相当する。

(イ)後者の「出力端」が前者の「出力端子」に相当し、
同様に、「順変換器部3」が「整流手段(1)」に相当する。

(ウ)後者の「直流出力を充電回路9と1つの電気手段に分配する、順変換器部3の出力端に接続された電力リード線」が、
前者の「整流正弦波電圧を充電手段(3)と少なくとも1つの電気手段(5)に分配する、整流手段(1)の出力端子に接続された電力リード線(2)」に相当する。

(エ)後者の「直流出力を降圧または昇圧し」た態様と前者の「整流正弦波電圧を直流電圧に変換し」た態様とは、「整流正弦波電圧をエネルギー貯蔵手段の充電に適した電力に変換し」たとの概念で共通することから、
後者の「直流出力を降圧または昇圧し、バッテリー10に降圧または昇圧した電圧を供給する充電回路9」と
前者の「整流正弦波電圧を直流電圧に変換し、エネルギー貯蔵手段(4)に直流電圧を供給する充電手段(3)」とは、
「整流正弦波電圧をエネルギー貯蔵手段の充電に適した電力に変換し、前記エネルギー貯蔵手段に変換された電圧を供給する充電手段」なる概念で共通する。

(オ)共に負荷に供給される後者の「交流電力」と前者の「直流電圧」とは、「所定の電力」なる概念で共通することから、
後者の「一つの負荷」が前者の「少なくとも一つの負荷」に相当し、後者の「電気手段が、一つの負荷に接続された直流フィルター回路5を備え、直流フィルター回路5が、直流出力を受けるためにスイッチ回路4を介して電力リード線に接続され、逆変換器部6により直流電圧が変換された交流電力を1つの負荷11に供給するために前記直流出力を直流電圧に変換する」態様と
前者の「電気手段(5)が、それぞれ少なくとも一つの負荷に接続された複数の変換手段(61、…、6i、…、6n)を備え、各変換手段(6i)が、整流正弦波電圧を受けるために電力リード線(2)に接続され、少なくとも1つの負荷に直流電圧を供給するために前記整流正弦波電圧を直流電圧に変換する」態様とは、
「電気手段が、少なくとも一つの負荷に接続された変換手段を備え、変換手段が、整流正弦波電圧を受けるために電力リード線に接続され、少なくとも1つの負荷に所定の電力を供給するために前記整流正弦波電圧を直流電圧に変換する」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「交流配電網から少なくとも一つの電気手段と一つのエネルギー貯蔵手段とに電力を供給する電力配電システムであって、
前記交流配電網に接続され、出力端子を介して整流正弦波電圧を供給する整流手段と、
前記整流正弦波電圧を充電手段と前記少なくとも1つの電気手段に分配する、前記整流手段の前記出力端子に接続された電力リード線と、
前記整流正弦波電圧を前記エネルギー貯蔵手段の充電に適した電力に変換し、前記エネルギー貯蔵手段に前記変換された電圧を供給する前記充電手段とを備え、
前記電気手段が、少なくとも一つの負荷に接続された変換手段を備え、変換手段が、前記整流正弦波電圧を受けるために前記電力リード線に接続され、少なくとも1つの負荷に所定の電力を供給するために前記整流正弦波電圧を直流電圧に変換する電力配電システム。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
整流正弦波電圧を変換してエネルギー貯蔵手段に供給する際のエネルギー貯蔵手段の充電に適した電力に関し、本願補正発明では 「直流電圧」であるのに対し、引用発明では「直流出力を降圧または昇圧した電圧」である点。

[相違点2]
電気手段に関し、本願補正発明では 「それぞれ」少なくとも一つの負荷に接続された「複数の」変換手段を備え、「各」変換手段が、整流正弦波電圧を受けるために電力リード線に接続され、少なくとも1つの負荷に「直流電圧」を供給するために前記整流正弦波電圧を直流電圧に変換するのに対し、引用発明では電気手段が、負荷11及び直流フィルター回路5がそれぞれ1つであり、複数のものではなく、さらに、少なくとも1つの逆変換器部6により直流電圧が変換された交流電力を負荷11に供給するために前記直流出力を直流電圧に変換する点。

(4)判断
[相違点1]について
本願補正発明に特定された「整流正弦波電圧を直流電圧に変換し」たとの構成は、審判請求時に新たに特許請求の範囲に限定された事項である。
本願補正発明において整流正弦波電圧を直流電圧に変換したことによる技術的な意義は出願当初の明細書には記載されていないが、出願当初の明細書の【0017】の「整流正弦波電圧は、貯蔵手段4に印加される前に直流電圧に変換されなければならない」なる記載からみると、脈流である整流正弦波電圧をエネルギー貯蔵手段に充電するためには、平滑化を行い直流電圧に変換することが必要であると解することが出来る。
一方、例えば特開平9-285037号公報(以下、「周知例」という。)の【0001】に、「本発明は、商用電源の異常対策として設置する無停電電源装置およびその電力供給方法、並びに負荷装置用電力変換装置に関するものである」と記載され、【0042】には、「充電回路7は、商用電源2から供給される交流電力をバッテリー充電に最適な直流電力に変換するものであり、交流電圧の整流平滑回路とスイッチング方式のDC-DCコンバータとで構成されている」と記載されているように、無停電電源装置において、エネルギー貯蔵手段の充電に最適な直流電力に変換するために交流電圧を整流後に平滑化を行って直流電圧に変換(「交流電圧の整流平滑回路」が相当)し、エネルギー貯蔵手段に直流電圧を供給する(「バッテリー充電に最適な直流電力に変換」が相当)充電手段(「充電回路7」が相当)は常套手段にすぎない。現に、出願当初の明細書の【0023】にも、充電手段3は従来技術ではよく知られているものであると記載されている。
そうすると、無停電電源装置においてエネルギー貯蔵手段の充電に最適な直流電力に変換するという一般的な課題を解決するために、引用発明に上記の常套手段を採用することにより相違点1に係る本願補正発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点2]について
引用発明も直流出力を充電回路9と少なくとも1つの電気手段に、直流出力を直接供給するものであるので、平成19年11月21日付けの意見書の第1頁下から2行目から第2頁第3行に記載「この構成により、直流ではなく交流である整流された正弦波電圧を整流手段(1)が出力し、この交流である整流された正弦波電圧が、各電気手段(5)の変換手段(6)と充電手段(3)に対して、電力リード線を介して、直接供給されるので、電力配電システムは効率が高く、コストが低く、全体として占有スペースが小さいという有利な効果を奏するものである」から把握される整流正弦波電圧(引用発明の「直流出力」が相当)が電気手段と充電手段(「充電回路」が相当)に直接供給するという機能を引用発明も達しているといえる。
一方、例えば、周知例の【0013】に「電源正常時には、商用電源2からの交流電圧を入力として整流器51により変換された直流電圧が直流母線54を介して複数台に分散した各々のDC-DCコンバータ551 、552 、553に出力される。一方、商用電源異常時には、チョッパ52を介して変換されたバッテリー53の直流電圧が、直流母線54を介して複数台に分散した各々のDC-DCコンバータ551 、552 、553に出力される。」と記載されているように、無停電電源装置において複数の負荷に直流を供給するために、それぞれ少なくとも一つの負荷に接続された複数の負荷に適した電力への変換を行う手段(図10にそれぞれ少なくとも一つの負荷に接続された複数のコンバータが図示されている。)を備え、各変換を行う手段が電力リード線に接続され(図10の「直流母線54」が整流器51に接続されていることが図示されている)、少なくとも1つの負荷に直流電圧を供給する構成を有する電力配電システムは周知慣用技術にすぎない。現に、この点については、審査官は平成19年5月25日付けの拒絶理由通知において、「例を挙げるまでもなく周知である」と示しており、これに対して審判請求人は何ら反論を行っていない。
そうすると、整流正弦波電圧を直流電圧に変換する「変換を行う手段」を有する引用発明において、上記周知慣用技術を採用すれば、整流正弦波電圧を受けるために電力リード線に接続され、少なくとも1つの負荷に直流電圧を供給するために整流正弦波電圧を直流電圧に変換するという構成、すなわち、整流正弦波電圧が各電気手段の変換手段に対して直接供給され、その後、負荷に直流電圧が供給されるという構成となることは明らかであるので、引用発明の上記の周知慣用技術を適用することにより相違点2に係る本願補正発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、上記周知慣用技術、及び、上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

なお、審判請求人は、平成22年3月23日に提出した回答書において、以下の主張を行っている。
主張1:「引用例には、順変換器部3をダイオード整流器としていると記載されていますが、ダイオードブリッジを順ブリッジ接続したものであること以外には、その他の実際の構成がどのようになっているのかの説明は記載されていません。」
主張2:「前置報告書で指摘されている、順変換器部3の出力が、「平滑される前の信号」であるということは、引用文献1には具体的に記載されておらず、順変換器部3の出力が、「平滑される前の信号」であるとの根拠は、「リアクトルL1とコンデンサC1よりなる直流フィルタ回路5で平滑し(第2頁左上欄第4行?第6行)」との記載があり、仮に、引用文献1の順変換器部3の出力信号が、出願人が審判請求書の参照図1に記載したような「直流電圧」であるとすると、「直流フィルタ回路5」は必要ないものとなるという間接的なことであります。」
主張3:「引用文献1に記載のリアクトルL1とコンデンサC1よりなる直流フィルタ回路5は、スイッチングによる直流出力の高周波成分を除去するのに必要な、高周波成分除去フィルタであると思料いたします。逆変換器部6の交流出力にも、リアクトルL2とコンデンサC2よりなる同様の構成の、高周波成分除去フィルタ配置されています。これらのフィルタの目的はスイッチングによる寄生的な高周波信号を除去するために信号を平滑化するものであると思料いたします。よって、順変換器部3の出力が直流電圧であることと、逆変換器部6の入力にリアクトルL1とコンデンサC1よりなる直流フィルタ回路5が配置されていることは、何ら矛盾するものではないと思料いたします。」
主張4:「従って、引用例の順変換器部3は、本願の請求1に記載の発明のように整流手段を有するとともに、本願の請求1に記載の発明とは対照的に、審判請求書に記載のように、整流手段だけではなく、周期的な信号であるダイオード整流器部の内部の整流された正弦波電圧から、電源周波数のような低周波数を除去し、直流電圧に変換するLCフィルタのような何らかの手段も有しており、引用例に明確に記載のように、直流電圧を出力する構成であるものと思料いたします。」
そこで、審判請求人の上記の各主張について検討する。
主張1について:上記の「2.(3)対比」に示したように、特開昭63-176187号公報の第2頁左下欄第7行から同欄第20行には、順ブリッジを使って整流した場合には、その第2図に(a),(b)に示されるような「極性の変化しない電流」である「直流電流波形」、すなわち、フリー百科事典ウィキペディアでいうところの脈流が得られることが示されているように、順ブリッジを使って整流した場合には脈流(本願補正発明の「整流正弦波電圧」に相当)が得られることは技術常識にすぎないことから、技術常識を踏まえれば、引用例の「順ブリッジ接続」の作用がどのようなものであるのかは当業者にとって明りょうであるといえる。また、順ブリッヂによる整流については、全波もしくは半波整流を行うようなダイオードの接続であれば特開昭63-176187号公報の第2図(a),(b)の波形となることは明らかであるので、その実際の構成についても当業者にとって技術常識にすぎないといえる。
主張2について:引用例には、「ダイオードを順ブリッチ接続した順変換器部3で交流より直流に変換し」たと記載されているので、順変換部3がダイオードのみから構成された整流のみの機能を有しており、したがって、後段に「リアクトルL1とコンデンサC1よりなる直流フィルター回路5で平滑」することが必要となることと整合しているといえることから、引用例に直接的に記載されており、審判請求人の主張するような間接的な記載であるとは認められない。
主張3について:引用例には、「リアクトルL1とコンデンサC1よりなる直流フィルター回路5で平滑」する点と、「リアクトルL2とコンデンサC2よりなる交流フィルタ回路7」である点が共に記載されており、平滑機能を有する直流フィルター回路5と交流フィルタ回路7の機能の違いは明確に区別されていることから、「直流フィルタ回路5は、スイッチングによる直流出力の高周波成分を除去するのに必要な、高周波成分除去フィルタであると思料いたします」との審判請求人の主張を採用することができない。
主張4について:上記の「主張1について」ないし「主張3について」で検討したように、順ブリッジを使って整流した場合には脈流を出力するものであるので、審判請求人の「引用例の順変換器部3は、本願の請求1に記載の発明のように整流手段を有する」との主張及び「引用例に明確に記載のように、直流電圧を出力する構成である」との主張を採用することができない。
してみると、審判請求人の上記の各主張を採用することができない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、上記周知慣用技術、及び、上記常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の明細書及び図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「交流配電網から少なくとも一つの電気手段(5)と一つのエネルギー貯蔵手段(4)とに電力を供給する電力配電システムであって、
前記交流配電網に接続され、出力端子を介して整流正弦波電圧を供給する整流手段(1)と、
前記整流正弦波電圧を充電手段(3)と前記少なくとも1つの電気手段(5)に分配する、前記整流手段(1)の前記出力端子に接続された電力リード線(2)と、
前記整流正弦波電圧を直流電圧に変換し、前記エネルギー貯蔵手段(4)に前記直流電圧を供給する前記充電手段(3)とを備え、
前記電気手段(5)が、それぞれ少なくとも一つの負荷に接続された複数の変換手段(61、…、6i、…、6n)を備え、各変換手段(6i)が、前記整流正弦波電圧を受けるために前記電力リード線(2)に接続され、少なくとも1つの負荷に直流電圧を供給するために前記整流正弦波電圧を前記直流電圧に変換することを特徴とする電力配電システム。」

(1)引用例
引用例、及び、その記載内容は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・検討
本願発明は、「2.」で検討した本願補正発明から「電力リード線」に関し、「整流正弦波電圧を充電手段(3)と少なくとも1つの電気手段(5)に分配する」という限定を省き、「充電手段」に関し、「整流正弦波電圧を直流電圧に変換し、」エネルギー貯蔵手段(4)に「前記」直流電圧を供給する「前記」充電手段という限定を省き、「各変換手段」に関し、「前記整流正弦波電圧を受けるために」前記電力「リード」線(2)に接続され「、少なくとも1つの負荷に直流電圧を供給するために前記整流正弦波電圧を前記直流電圧に変換する」という限定を省いたものに相当する。
したがって、本願発明を構成する事項の全てを含み、更に他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が上記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、上記周知慣用技術、及び、上記常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により引用発明、上記周知慣用技術、及び、上記常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-17 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-10-04 
出願番号 特願平10-356343
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02J)
P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 秀一  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 冨江 耕太郎
大河原 裕
発明の名称 電力配電システム  
代理人 川口 義雄  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 坪倉 道明  
代理人 大崎 勝真  

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