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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1232429
審判番号 不服2008-4758  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-28 
確定日 2011-02-14 
事件の表示 平成10年特許願第358864号「屋外の蚊の防除方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年6月27日出願公開、特開2000-178101〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成10年12月17日に出願したものであって、平成19年10月31日付けで拒絶理由が通知され、同年12月17日に意見書が提出されたが、平成20年1月25日付けで拒絶査定がされたところ、同年2月28日に拒絶査定に対する審判請求がされると共に、同年3月27日に手続補正書が提出され、平成22年8月17日付けで審尋がされ、同年10月15日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?3に係る発明は、平成20年3月27日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「20℃における蒸気圧が1×10^(-2)?1×10^(-8)mmHgである殺虫成分、溶剤、溶解補助剤、水、および噴射剤からなる水性エアゾール製剤を、噴射量を1.5ml/秒以上かつ噴霧粒子の平均粒子径が20?100μmとなるよう噴霧することを特徴とする屋外の蚊の防除方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定は、「この出願については、平成19年10月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであるところ、該理由は、
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項1-5/引用文献1
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平09-175905号公報」
というものであり、原査定は、請求項3に係る発明は、引用文献1(以下、「刊行物1」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、という理由を包含するものである。

なお、本願発明は、原査定時の請求項3に係る発明について、「エアゾール製剤」を「水性エアゾール製剤」と補正したものであるところ、該補正は水を含有する製剤であることを明りょう化したに過ぎないので、本願発明は、原査定時の請求項3に係る発明と実質的に同じである。

第4 刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
この出願の出願前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。

1a「少なくとも害虫防除成分を含む原液と噴射剤とを含み、害虫に向かって噴射させ害虫を防除するエアゾールにおいて、噴射後の害虫防除成分の気中濃度が噴射空間において少なくとも5分間減少しないような噴射物を与えるものであることを特徴とする害虫防除用エアゾール。」(請求項1)
1b「少なくとも害虫防除成分を含む原液に対して噴射剤を容積比で2倍以上配合してなり、かつスプレーによる噴射量が5秒間当たり5グラム以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の害虫防除用エアゾール。」(請求項3)
1c「本発明をモデル例を挙げてより判りやすく説明する。エアゾールを噴射した後、その噴射空間における害虫防除成分の気中濃度は、エアゾールから放出される害虫防除成分の量によって決定される。しかし、エアゾールからの噴射後形成される液滴が極めて微小であると、液滴が噴射直後に拡散してしまって目標の害虫に到達しなかったり、あるいはエアゾール噴射物から害虫防除成分が速やかに気化するが、噴射後直ちにその気中濃度が最大に達し、その拡散によりその気中濃度はその後逐次低下していく。逆に液滴の大きさが大きすぎると、噴射された液滴は、液滴からその成分が十分に放出される前に噴射空間から落下していき、噴射空間でのその気中濃度はあまり上昇せずに低下してしまう。従って、その液滴の大きさがある範囲にあると液滴が噴射空間に存在する時間が十分長くなり、液滴からのその成分の放出が十分になり、噴射空間での気中濃度は増大していき、ある時間後に低下に転ずる。このように気中濃度は上昇していく時間が長いと、噴射空間での防除成分の気中濃度が有効濃度に長く保たれ、害虫に有効に作用できる。本発明は、このような噴射物の状態が形成されることを目的としている。・・・」(段落【0009】)
1d「本発明のエアゾールは、少なくとも害虫防除成分を含んだ原液および噴射剤から主として成るものであり、必要に応じて界面活性剤、防錆剤、効力増強剤、芳香剤、消臭剤、保留剤などを配合することができる。
本発明において使用される害虫防除成分(有効成分)としては、殺虫剤、防虫剤、忌避剤、吸血阻害剤、昆虫成長調整剤(IGR)、抗幼虫ホルモン剤さらには殺ダニ剤、殺蟻剤、殺穿孔虫剤、共力剤などのいわゆる害虫に対して殺虫、防除さらには忌避効果を有するものであれば目的や必要に応じて1種もしくは2種以上を混合して用いることができる。
本発明において用いる害虫防除成分の1つとしてはピレスロイド系化合物が挙げられる。そのようなピレスロイド系化合物としては、例えば、・・・レスメトリン・・・、フタルスリン・・・およびこれらの化合物の異性体、誘導体および類縁体などが用いられ、これらピレスロイド系化合物より選択した1種以上の化合物を、害虫防除用エアゾールに配合できる。」(段落【0015】?【0017】)
1e「また水を溶剤とした場合には、上記の害虫防除成分は多くが難水溶性もしくは非水溶性であることから、界面活性剤や水及び油に相溶性の溶剤を用いることにより水中に乳化、分散さらには可溶化させる。・・・」(段落【0023】)
1f「ここで、下記表-1に本発明の害虫防除用エアゾールの処方例(300mlエアゾール)を示すが、本発明の内容がこれらに限定されるものではない。
【表1】

」(段落【0026】?【0027】)
1g「本発明における防除対象としては、屋内外に生息する害虫および屋内塵性ダニ類など全般に亘る。屋内外に生息する害虫としては衛生害虫あるいは生活害虫等が挙げられる。例えば衛生害虫としてはゴキブリ類(チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ等)、ハエ類(イエバエ、クロバエ、ニクバエ等)、カ類(イエカ、ヤブカ、シマカ等)、シラミ類、ノミ類等が挙げられ、更に生活害虫としてはシロアリ(羽アリ)、クロアリ、クモ、ハチ、ケムシ、ムカデ、ゲジゲジ、ヤスデ、シバンムシ、アリガタバチ、ユスリカ、チョウバエ、カメムシ、ヨコバイ、キクイムシ、ダンゴムシ、ワラジムシ、シミ、イガ、コイガ、カツオブシムシおよびヌカカ等が例示できる。」(段落【0029】)
1h「実施例1
上記表-1に示す処方No3のエアゾール、及び下記表-4に示す従来品aを噴射したときの有効成分(フタルスリン)の気中濃度を測定するため次の試験を行った。・・・本発明品の噴射量は約6g/5秒である。・・・
・・・図1に示すとおり、本発明品のフタルスリンの気中濃度は従来品aのそれに比べて、噴射直後は低いものの、噴射後7分まで上昇し、それ以後従来品に比べて高くなった。これは、噴射空間において、気中濃度が高い状態で長時間維持されていることを示し、殺虫効果を著しく向上させる。また、本発明品では噴射剤の割合が増加したことにより、噴射された有効成分が適度な粒子径となって、該成分の気中濃度、更には殺虫効果に著しく影響しているものと考えられる。
一方、上記本発明品(処方No3)を用いて、噴射された粒子の特性を測定したところ、噴射された粒子のうち、11μm以下の粒径の粒子が、32.3±5.8(%)含まれていた。」(段落【0032】?【0035】)
1i「実施例2
本発明の害虫防除用エアゾールに対して下記の効力試験を実施した。なお、本発明品の噴射量は約6g/5g(審決注:「約6g/5g」は、「約6g/5秒」の誤記と認める。)で、比較例として従来品aのエアゾールを用いた。
(方法及び結果)イエバエ(オス/メス=1:1)20匹の入ったステンレスゲージ(250mm×250mm×250mm)を天井から吊り下げ、ゲージの中心から水平距離で1m、1.5m、2.0mの位置より上記エアゾールを約1秒間噴射し、経時的にイエバエのノックダウン数及び24時間後の死亡率(%)を観察する試験を各2回行い、平均した。この結果を下記表-2に示す。・・・
表-2から明らかなとおり、本発明品は従来品aと比べて速攻性及び致死において優れた効果を示している。また、本発明品の害虫防除効果は、遠距離になっても維持されている。これは、本発明品の噴射された粒子の粒子特性が適正となり、噴射物がより遠方にまで到達したためと考えられる。」(段落【0036】?【0039】)

2 周知例
以下、周知例として挙げる文献の記載事項を摘示する。

(1)特開昭59-93001号公報(原査定で周知例として参照されたもの)(以下、「周知例1」という。)

2a「・・・耐圧容器に殺虫有効成分と沸点範囲が160?260℃であるパラフィン系炭化水素溶剤からなる原液45?55容量%および主として液化石油ガスからなる噴射剤55?45容量%を充てんしたエヤゾール殺虫剤。」(特許請求の範囲)
2b「(粒子径試験)
前記各試料による粒子径を測定して粒子径分布(%)を算出した結果を第1表に示す。また粒子径の小さい方から累積させた累積百分率を第1図に示す。
第1表(注:省略)
(噴霧状態試験)
噴霧状態を20人に評価させた結果を第2表に示す。
第2表(注:省略)・・・
これらの結果を総合すると、確かに噴射原液の量と噴射剤の量との関係では噴射剤の割合が多いほど霧は細かくなる。・・・ところが、平均粒子径が小であれば噴霧状態が良好になるとは必ずしも言えない。すなわち、試料2と試料4では平均粒子径はそれぞれ57.8μ、55.2μとほとんど変わらないにもかかわらず、第2表に示すように噴霧状態に対する評価については・・・大幅に違う。・・・そこで改めて第1表により試料2、試料4・・・の粒子径分布をみてみると、粒子径が90ないし100μ以上の粒子の分布割合(%)がかなり違うことがわかる。・・・
以上の結果から、本発明者らは噴霧状態とは単に平均粒子径によって決まるのではなく、90ないし100μ以上の粒子径をもつ粒子の分布割合(%)にかなり影響され、しかも良好な噴霧状態は原液と噴射剤との比率のみによるのではなく特別な組合せの噴射装置を用いることによりえられることを発見し、これを確認した。」(2頁左下欄下から2行?3頁左下欄下から6行)

(2)日本農薬学会誌、1991年、16巻、533?543頁(以下、「周知例2」という。)

3a「エーロゾル製剤は耐圧容器中に充填された液体を噴射剤の圧力によって噴射する製剤であり,直径が数μmから数十μmの噴霧粒子を容易に得ることができるため,気相中に微小粒子を噴霧する目的に多用されている.特にハエや蚊等の飛翔する衛生害虫を防除するのに適しているため空間噴霧用殺虫製剤として最も汎用されている.」(533頁右欄下から4行?534頁左欄3行)
3b「噴霧粒子の気相中濃度に及ぼす粒子径の影響
各種の噴霧粒子径を与えるエーロゾル製剤を気相中に噴霧した後,噴霧粒子がどのような挙動を示すかを調べた.これらのエーロゾル製剤には殺虫有効成分としてtetramethrinとd-phenothrinを用い,気相中におけるtetramethrin濃度を分析することにより噴霧粒子濃度を求めた.・・・
したがって,空間噴霧用殺虫エーロゾル製剤においては初期噴霧粒子径が20?30μm以下の粒子を設計することが必要と考えられる.
一方,粒子の慣性力は飛翔する昆虫に対する衝突付着効率に影響を及ぼし,粒径が大きいほど大きくなる.したがって,気相中粒子濃度の維持と,昆虫に対する衝突付着効率の両面から効力的に最適な噴霧粒子径が決定されるはずである.・・・

エーロゾル製剤の噴霧粒子径と殺虫効力の関係
・・・これらの結果をまとめると以下の結論が得られた.
1) 噴霧粒子径が過大もしくは過小であるとき,初期ノックダウン効力は十分ではない.
2) 噴霧粒子径が小さいほど後期のノックダウン効力の“つめ”が良くなる.すなわち,飛翔する害虫を最終的には完全にノックダウンさせることができる.
上記の結果は,気相中粒子濃度の維持と,昆虫に対する衝突付着効率の両面から効力的に最適な噴霧粒子径が存在することを示唆している.そこで,各種の噴霧粒子径を与えるエーロゾル製剤を作成し,イエバエに対する殺虫効力を調べた.
・・・したがって,総合的な殺虫効力において,平均噴霧粒子径の最適値は約30μmであると結論された.なお,同様の試験をアカイエカに対しても行なったが,その結果はほぼ同様であり,半数ノックダウン時間(KT_(50))に対する平均噴霧粒子径の最適値は20から30μmであった.」(534頁右欄下から6行?538頁右欄5行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「少なくとも害虫防除成分を含む原液と噴射剤とを含み、害虫に向かって噴射させ害虫を防除するエアゾールにおいて、噴射後の害虫防除成分の気中濃度が噴射空間において少なくとも5分間減少しないような噴射物を与えるものであることを特徴とする害虫防除用エアゾール」(摘示1a)であって、「かつスプレーによる噴射量が5秒間当たり5グラム以上である」(摘示1b)ものが記載されており、そのためには、「液滴の大きさ」を「ある範囲」(摘示1c)とすることとしており、該エアゾールを噴霧する害虫の防除方法についても記載されているといえる。
また、該害虫防除用エアゾールの処方例(300mlエアゾール)の処方No.8として(摘示1f)、フタルスリン及びレスメトリンである害虫防除成分、1号灯油及び水からなる溶剤、ソルビタンモノラウリルエーテル、噴射剤(LPG)からなるエアゾールが記載されている。

したがって、刊行物1には、
「フタルスリン及びレスメトリンである害虫防除成分、1号灯油及び水からなる溶剤、ソルビタンモノラウリルエーテル、噴射剤からなる害虫防除用エアゾールを、液滴の大きさをある範囲とし、噴射後の害虫防除成分の気中濃度が噴射空間において少なくとも5分間減少しないような噴射物を与え、かつ、スプレーによる噴射量が5秒間当たり5グラム以上であるように噴霧する害虫の防除方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

2 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「フタルスリン及びレスメトリンである害虫防除成分」は、摘示1dからみて、「ピレスロイド系化合物」にあたり、殺虫成分であるといえ、また、それぞれ20℃における蒸気圧が3.5×10^(-8)、3.5×10^(-6)であるから(例えば、国際公開第96/4786号パンフレットの12頁第1表等参照)、本願発明の「20℃における蒸気圧が1×10^(-2)?1×10^(-8)mmHgである殺虫成分」に相当し、引用発明の「1号灯油及び水からなる溶剤」は、本願発明の「溶剤、・・・水」に相当し、引用発明の「ソルビタンモノラウリルエーテル」は、摘示1eにおける「水中に乳化、分散さらには可溶化させる」ための「界面活性剤」であり、水への溶解を補助する剤であるといえ、他方、本願発明の「溶解補助剤」も、本願明細書の段落【0012】によれば、「界面活性剤」を包含するから、引用発明の「ソルビタンモノラウリルエーテル」は、本願発明の「溶解補助剤」に相当し、引用発明の「噴射剤(LPG)」は、本願発明の「噴射剤」に相当する。
また、引用発明の「害虫防除用エアゾール」は、水を含有するから水性であり、製剤であることも明らかであるから、本願発明の「水性エアゾール製剤」に相当する。
そして、引用発明の「害虫」も、本願発明の「屋外の蚊」も、共に、害虫であり、引用発明の「スプレーによる噴射量が5秒間当たり5グラム以上」も、本願発明の「噴射量を1.5ml/秒以上」も共に、噴射量を一定値以上と特定するものである。
また、本願発明の「噴霧粒子の平均粒子径が20?100μmとなるよう噴霧する」も、引用発明の「液滴の大きさをある範囲とし、噴射後の害虫防除成分の気中濃度が噴射空間において少なくとも5分間減少しないような噴射物を与え・・・噴霧する」も、液滴の大きさ、すなわち、噴霧粒子の大きさが一定範囲となるよう噴霧することであるといえる。

よって、両者は、
「20℃における蒸気圧が1×10^(-2)?1×10^(-8)mmHgである殺虫成分、溶剤、溶解補助剤、水、および噴射剤からなる水性エアゾール製剤を、噴射量を一定値以上かつ噴霧粒子の大きさが一定範囲となるよう噴霧することを特徴とする害虫の防除方法。」
である点で一致するが、以下の点で相違するということができる。

A 害虫が、本願発明においては、「屋外の蚊」であるのに対し、引用発明においては、そのような特定がない点
B 噴射量が、本願発明においては「1.5ml/秒以上」であるのに対し、引用発明においては、「5秒間当たり5グラム以上」である点
C 噴霧粒子の大きさが、本願発明においては、「平均粒子径が20?100μm」と特定されているのに対し、引用発明においては、「液滴の大きさをある範囲とし、噴射後の害虫防除成分の気中濃度が噴射空間において少なくとも5分間減少しないような噴射物を与え」るとしているものの、平均粒子径について特定されていない点
(以下、それぞれ「相違点A」?「相違点C」という。)

3 検討
(1)相違点Aについて
刊行物1には、「防除対象としては、屋内外に生息する害虫および屋内塵性ダニ類など全般に亘る。屋内外に生息する害虫としては衛生害虫あるいは生活害虫等が挙げられる。例えば・・・、カ類(イエカ、ヤブカ、シマカ等)、・・・等が挙げられ、」(摘示1g)と記載されているので、屋外に生息することが明らかなヤブカ、シマカを防除対象としており、屋外に生息するヤブカ、シマカを屋外で防除することも明らかであるから、引用発明の害虫の防除方法は、屋外の蚊の防除方法を包含する。
よって、相違点Aは実質的な相違点であるとはいえない。

また、仮に相違点Aが実質的な相違点であるとしても、本願明細書の段落【0002】にも記載されているように、室内用として市販されている蚊防除用の殺虫エアゾールを屋外で使用することは当業者にとって通常行う手段であるから、刊行物1に防除対象として記載されている、屋外の「ヤブカ、シマカ」を防除するために、屋外で使用する、つまり、引用発明の害虫防除方法を、「屋外の蚊の防除方法」とすることは、当業者が容易に想到し得ることに過ぎない。

(2)相違点Bについて
引用発明の「スプレーによる噴射量が5秒間当たり5グラム以上」、すなわち、「1g/1秒以上」を、「体積(ml)/秒」の単位に変換する。
処方例No.8は、以下の組成である。
「フタルスリン 225mg、レスメトリン 30mg、
1号灯油 15ml、水 45ml、
ソルビタンモノラウリルエーテル 3000mg、
LPG 240ml」
1号灯油、水の比重は、それぞれ約0.8、1であるので、質量は、12g、45gとなる。
LPGはプロパン(比重0.54)とブタン(比重0.60)の配合比により異なるが、例えば、1:1で含有する場合、比重が約0.57となるので、質量は、136.8gとなる。
そうすると、処方例No.8の合計質量は約197gとなり、エアゾールの容積が300mlであるので、処方例No.8の製剤の比重は、約0.65となる。
よって、噴射量が最も小さい1g/1秒である場合の噴射量は、1.54ml/秒となり、「1.5ml/秒以上」に該当する。
そして、LPGの比重によって、処方例No.8における1g/1秒であるときの噴射量が1.5ml/秒を多少下回る場合があったとしても、引用発明は、例えば、実施例1及び2の「約6g/5秒」(摘示1h、1i)のように「1g/1秒以上」であるので、「1.5ml/秒以上」の範囲と大部分重複するといえる。
したがって、相違点Bは実質的な相違点であるとはいえない。

(3)相違点Cについて
刊行物1の摘示1cには、「エアゾールからの噴射後形成される液滴が極めて微小であると、液滴が噴射直後に拡散してしまって目標の害虫に到達しなかったり、・・・。逆に液滴の大きさが大きすぎると、噴射された液滴は、液滴からその成分が十分に放出される前に噴射空間から落下していき、噴射空間でのその気中濃度はあまり上昇せずに低下してしまう。」と記載されているので、上記1でも述べたように、引用発明において、「液滴の大きさがある範囲」(摘示1c)にあることは、「噴射後の害虫防除成分の気中濃度が噴射空間において少なくとも5分間減少しないような噴射物を与え」るための主要な要因の一つである。
また、実施例1には、「噴射された有効成分が適度な粒子径となって、該成分の気中濃度、更には殺虫効果に著しく影響しているものと考えられる。」(摘示1h)と記載され、実施例2には、「本発明品の害虫防除効果は、遠距離になっても維持されている。これは、本発明品の噴射された粒子の粒子特性が適正となり、噴射物がより遠方にまで到達したためと考えられる」(摘示1i)と記載されていることからも、特定の適度な粒径範囲を有していることが明らかであり、その粒子径は、実施例1においては、「一方、上記本発明品(処方No3)を用いて、噴射された粒子の特性を測定したところ、噴射された粒子のうち、11μm以下の粒径の粒子が、32.3±5.8(%)含まれていた」(摘示1h)ことから、11μm以上の粒径の粒子は、約67.7%含まれていることになるので、平均粒子径が、11μmより大きいいずれかの値であるといえる。
ところで、周知例1及び2からみて、エアゾール製剤による蚊等の害虫の防除においては、「気相中粒子濃度の維持と、昆虫に対する衝突付着効率の両面から効力的に最適な噴霧粒子径が存在すること」(摘示3b)、つまり、100μm以上といった大きな粒子は、噴霧状態を悪化させる一方(摘示2b)、噴霧粒子径が過大であっても過小であっても、初期ノックダウン効力は十分ではない(摘示3b)ので、適度な噴霧粒子径が存在することは周知であり、例えば、アカイエカの場合、「半数ノックダウン時間(KT_(50))に対する平均噴霧粒子径の最適値は20から30μm」(摘示3b)であることも周知であるといえる。
そうすると、引用発明において、気中濃度が維持され、害虫防除効果が、遠距離になっても維持される適正な粒子径であって、11μmより大きい平均粒子径とは、20μm?100μm程度である蓋然性が高く、また、11μmより大きい平均粒子径の中で、上記周知例1及び2を考慮して、平均粒子径を20μm?100μmの範囲とすることは当業者が適宜設定し得ることに過ぎない。
よって、引用発明において、「噴霧粒子の平均粒子径が20?100μm」と特定することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(4)本願発明の効果について
ア 本願発明は、本願明細書の段落【0034】に記載されるように、
「(i)植物に害を与えない水性エアゾールであり、
(ii)噴射量を1.5ml/秒以上かつ噴霧粒子の平均粒子径を20?100μmとすることにより、風の影響を受けることなく茂みや物陰のすき間まで薬剤が届き付着するので、屋外で活動する場合にその周辺の蚊の潜んでいそうな場所に処理するだけで、蚊の生息数を激減させることができる。
(iii)また、殺虫成分として20℃における蒸気圧が1×10^(-2)?1×10^(-8)mmHgである各種殺虫剤を用いることにより、茂みや物陰のすき間まで届いた薬剤が自然蒸散し、蚊取り線香や忌避剤を使用することなく、長期間にわたって蚊に刺されることのない屋外空間を維持することが可能となる。」という効果を奏するものである。

イ しかしながら、(i)については、引用発明も水を含有する水性エアゾールである点で差異はないから、同等の効果を有するということができ、(iii)については、引用発明も、殺虫成分の蒸気圧が本願発明の所定範囲内にある点で差異はないから、同等の長期間にわたる維持効果を有するということができるので、いずれも当業者の予測を超える格別顕著な効果であるとはいえない。
また、(ii)については、上記(2)で述べたとおり、引用発明も噴射量については差異がなく、上記(3)で述べたとおり、引用発明の平均粒子径もほぼ同様といえ、また、引用発明は、気中濃度が維持され、害虫防除効果が、遠距離になっても維持されるのであるから(摘示1h、1i)、風の影響を受けることなく薬剤が届き付着し、蚊の生息数を激減できるという効果も、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるとはいえない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 請求人の主張について
ア 請求人は、平成22年10月15日付けの回答書において、以下の主張をしている。
(ア)「本願の請求項1?3に係る発明は、当該技術分野で従来存在しなかった全く新しい製品開発に関連しており、その新しい製品を実質保護しようとする特許出願であります。すなわち、本願の請求項1?3に係る発明は、屋外の蚊の防除方法であって、屋外使用専用という当該技術分野で初めて提案したところに先ずその特徴があります。・・・
・・・引用文献1の段落0029には、『本発明における防除対象として、屋内外に生息する害虫および屋内塵性ダニ類など全般に亘る。』との記載のみであり、これは対象害虫が何であるのかを示すに留まり、屋外での使用、すなわち、本願の請求項1?3に係る発明における屋外使用専用という屋外の蚊の防除方法については、一切記載されていないし、これを示唆する記載もありません。要するに、引用文献1に記載の発明は、本願の請求項1?3に係る発明の屋外使用専用という屋外の蚊の防除方法とは全く異なるものであります。」(回答書1.)
「屋内用に設計された成分を屋外で使用することと、それが屋外使用に適しているかは全く別の問題であります。」(回答書3.)
(イ)「『本願発明において特定される、殺虫成分の蒸気圧、エアゾール製剤の噴射量、噴霧粒子の平均粒子径は、いずれも従来のエアゾール剤に広く知られた範囲内であるから(引用文献1?3)』自体も、前記本願発明と引用文献の対称表からわかるように『広く知られた範囲内』(この広くとはどのような意味で使用しているのかも問題ですが)でも何でもなく、噴射量は高々引用文献1に記載されているにすぎませんし、蒸気圧にいたってはいずれにも記載されておらず、唯一平均粒子径は引用文献2及び3の記載されているものの、いずれも溶媒はアルコール系のものであって、水性の場合にこのデータが即適用できるか、更に、引用文献3のようにリモネンの専用の使用の事例が他のケースに当てはまると言えるのかは疑問で、ともかく『広く知られた範囲内』といえる事項ではありません。」(回答書3.)
(ウ)「『引用文献1記載のエアゾール剤は噴射粒子が遠方まで到達し、有効量の気中濃度が長時間維持できるという効果を奏するものであるから、本願発明の効果は当業者に予測し得たものである。』は、出願人の見る限りは、『引用文献1記載のエアゾール剤は噴射粒子が遠方まで到達し、』という記載は存在しません。むしろ、濡れについての試験(0040)では20cmで行っているし、ノックダウン試験では75cmで行っていることからみて、本願発明が1?3mの試験を行っていることと比較すれば、明らかに両発明の意図している目的がことなることが明白であります。」(回答書3.)

イ 以下、上記主張について検討する。
(ア)主張(ア)について
請求人は、本願発明は「屋外使用専用」という新しい技術分野であると主張する。
ところで、屋内外で、防除対象とする害虫が全く異なる場合、屋内で用いていた方法が、屋外においては全く使えないことが明らかな場合等においては、「屋外使用専用」が新しい技術分野である、といえるかもしれない。
しかしながら、防除対象とする害虫として、本願発明も引用発明もヤブカ等を含むから、屋内外で防除対象とする害虫が異なるものではなく、また、従来より、室内用として市販されている殺虫エアゾールを屋外で使用することは、しばしば行われているから、屋内で用いていた方法が屋外においては全く使えないものであるともいえない。
そうすると、請求人の、本願発明は「屋外使用専用」という新しい技術分野である、という主張は採用できない。
また、請求人は、「引用文献1(審決注:「刊行物1」のこと)の段落0029には、『本発明における防除対象として、屋内外に生息する害虫および屋内塵性ダニ類など全般に亘る。』との記載のみであり、これは対象害虫が何であるのかを示すに留まり」、と主張する。
刊行物1には、対象害虫として、摘示1gにあるように、屋外に生息することが明らかなヤブカ等が挙げられているところ、このヤブカを防除するに際して、ヤブカが屋内に侵入してきてから屋内でエアゾールを用いる、ということが示されている、と解するより、ヤブカを防除できるエアゾールであるから、屋外にいるヤブカにも、屋内に侵入してきたヤブカにも適用できる、と解するのが自然である。
そうしてみると、刊行物1の上記箇所は、対象害虫が何であるのかを示すと同時に、その生息場所にも適用できることが示されている、といえるから、請求人の「対象害虫が何であるのかを示すに留まり」、という主張は採用できない。
さらに、請求人は、「屋内用に設計された成分を屋外で使用することと、それが屋外使用に適しているかは全く別の問題であります。」とも主張するが、屋内で使用できれば屋外でも使用できることは当然のことであって、屋内での使用と屋外での使用は密接に関連しているといえるから、請求人の「・・・全く別の問題であります。」という主張は採用できない。
(イ)主張(イ)について
請求人は、「殺虫成分の蒸気圧、エアゾール製剤の噴射量、噴霧粒子の平均粒子径」の全てを、引用文献との対比表として、違いを強調しようとしているが、蒸気圧に関しては、上記2のとおり、相違点とはなっておらず、噴射量についても、上記3(2)で検討したとおり、実質的な相違点ではない。
そして、噴霧粒子の平均粒子径については、上記3(3)で述べたとおり、当業者が容易に想到することができたものである。請求人は、原査定の周知例について、溶剤が水性でないことやリモネンを使用している特別な事例であることを挙げているが、20?100μmという平均粒子径が周知の範囲に過ぎないことは、周知例1だけでなく、周知例2からも支持されることであり、「気相中粒子濃度の維持と、昆虫に対する衝突付着効率の両面」(摘示3b)から最適な値が決定されているのであるから、特定の溶剤に限定された知見であるとはいえない。
(ウ)主張(ウ)について
刊行物1においても、実施例2(摘示1i)に示されるように、1?2.0mの位置から噴射し、「遠距離になっても維持」という結果を得られているのであるから、上記主張(ウ)は当を得たものではない。

よって、上記主張はいずれも採用することはできず、上記4の判断を左右するものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-13 
結審通知日 2010-12-15 
審決日 2010-12-28 
出願番号 特願平10-358864
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 松本 直子
木村 敏康
発明の名称 屋外の蚊の防除方法  
代理人 佐藤 嘉明  

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