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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200731056 審決 特許
不服20076728 審決 特許
不服200720710 審決 特許
不服200818981 審決 特許
不服200820741 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1232646
審判番号 不服2007-13448  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-09 
確定日 2011-02-25 
事件の表示 特願2001-219148「パーキンソン病の予防及び/又は治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月 2日出願公開、特開2002- 97137〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由

1.手続の経緯
本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成13年7月19日(優先日,平成12年7月19日)の出願であって,平成19年4月5日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年5月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年6月8日付けで明細書について手続補正がなされたものである。


2.平成19年6月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[結論]
平成19年6月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1) 平成19年6月8日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)の内容
本件補正は,以下の補正事項(1-1)?(1-2)を含むものである。

(1-1) 特許請求の範囲の記載を,補正前(本願出願当初)の明細書の
「 【請求項1】 下記式(I)
【化1】


(式中,R^(1)は水素原子または炭素数1?16の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基,R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立に,水素原子,炭素数1?16の直鎖状,分枝状または置換基を有してもよい環状のアシル基を表す。ただし,R^(1),R^(2),およびR^(3)が同時に水素原子になることはない。)
で表される,パーキンソン病の予防および/または治療用化合物。
【請求項2】 前記式(I)中,R^(1)が水素原子または炭素数1?16の直鎖状アルキル基であり,R^(2)およびR^(3)が水素原子である請求項1に記載のパーキンソン病の予防および/または治療用化合物。
【請求項3】 請求項1または2に記載の化合物の薬理学的に許容される塩。
【請求項4】 請求項1または2に記載の化合物または薬理学的に許容されるそれらの塩を有効成分とするパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項5】 経皮吸収製剤である請求項4に記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項6】 前記式(I)の化合物または薬理学的に許容されるそれらの塩と,基剤,吸収促進剤およびその他の助剤とを含有する,請求項5に記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項7】 前記式(I)の化合物または薬理学的に許容されるそれらの塩を含有する主剤含有シートと,基剤,吸収促進剤およびその他の助剤とを含有する基剤-吸収促進剤含有シートとを含む請求項5に記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項8】 前記主剤含有シートは,製剤の総重量に対して0.5?15重量%の主剤と,主剤を含有させるための紙または布帛である基材とからなるものである請求項7に記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項9】 前記基剤-吸収促進剤含有シートは,炭化水素,高級アルコール,高級脂肪酸,高級脂肪酸エステル,グリコール類,および脂肪油からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の油脂性基剤,またはカルボキシビニルポリマー,ヒドロキシプロピルセルロースおよびマクロゴールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の水溶性基剤と,炭素数2?5の多価アルコールとを含む基剤と,
モノテルペン,ジテルペンおよびセスキテルペンとからなる群から選ばれるテルペン類と,炭素数2または3のアルコールとからなる吸収促進剤と,
水と,基剤の酸性度に応じて炭素数4?8のジアルキルエタノールアミンまたは炭素数2?8のアジピン酸ジアルキルとを含む他の助剤と,
ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリエチエレン,ポリプロピレン,ポリエステル,アセテート,ポリカーボネート,ポリビニルアルコール,ポリメタクリル酸メチル,もしくはこれらを構成するモノマーの共重合体,シリコーン薄膜およびポリビニルピロリドン架橋物,キチン,キトサン,豚皮,および人工皮膚からなる群から選ばれる素材で形成されたシートまたは布帛とからなる群から選ばれる基材と,
からなるものである請求項7または8に記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項10】 前記基剤-吸収促進剤含有シートは,製剤の総重量に対して0.5?15重量%の水溶性基剤と,10?55重量%の吸収促進剤と,他の助剤を全体を100重量%とするに必要な量で含有してなる組成物が基材上に展延されてなる請求項7?9のいずれかに記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項11】 前記吸収促進剤は,製剤の総重量に対して1?5重量%のリモネンまたはl-メントールと,15?45重量%のエタノールとからなるものである請求項7?10のいずれかに記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項12】 前記他の助剤は,少なくともプロピレングリコールと水とを含み,基剤の酸性度に応じてジイソプロピルエタノールアミンとアジピン酸ジイソプロピルとを含む,請求項7?11のいずれかに記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項13】
製剤の総重量に対して1?10重量%の下記式(II)
【化2】


(式中,R^(1)は炭素数1?16の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基を表す。)で表される化合物を主剤として含有する主剤含有シートと,
0.5?15重量%の油脂性基剤または水溶性基剤と,16?49重量%の吸収促進剤と,26?72.5重量%の他の助剤とを含む基剤-吸収促進剤含有シート,とを含むパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項14】 前記基剤-吸収促進剤含有シートが,製剤の総重量に対して5?15重量%のヒドロキシプロピルセルロースおよびマクロゴールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の水溶性基剤と,前記吸収促進剤が製剤の総重量に対して1?4重量%のリモネンまたはl-メントールと製剤の総重量に対して15?45重量%のエタノールとからなるものであり,他の助剤が製剤の総重量に対して5?15重量%のプロピレングリコールと44?51重量%の水とからなる,請求項13に記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項15】 前記基剤-吸収促進剤含有シートが,製剤の総重量に対して0.5?2重量%のカルボキシビニルポリマーと,前記吸収促進剤が製剤の総重量の1?4重量%のリモネンまたはl-メントールと製剤の総重量の15?45重量%のエタノールとからなるものであり,他の助剤がプロピレングリコールと,47?58重量%の水と,0.5?2重量%のジイソプロピルエタノールアミンと1?4重量%のアジピン酸ジイソプロピルと含んでなる,請求項13に記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。
【請求項16】 ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリエチエレン,ポリプロピレン,ポリエステル,アセテート,ポリカーボネート,ポリビニルアルコール,ポリメタクリル酸メチル,もしくはこれらを構成するモノマーの共重合体,シリコーン薄膜およびポリビニルピロリドン架橋物,キチン,キトサン,豚皮,および人工皮膚からなる群から選ばれる素材で形成された被覆用シートをさらに含む請求項5?15のいずれかに記載のパーキンソン病の予防および/または治療剤。 」
(以下,「補正前請求項1?16」ということがある。)

「 【請求項1】
下記式(I)の化合物又は薬理学的に許容されるそれらの塩を主剤として,製剤の総重量の0.5?15重量%含有する主剤含有シートと,
【化1】


(式中,R^(1)は水素原子又は炭素数3?12の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基,R^(2)及びR^(3)はそれぞれ独立に,水素原子,炭素数1?16の直鎖状,分枝状又は置換基を有してもよい環状のアシル基を表す。ただし,R^(1),R^(2),及びR^(3)が同時に水素原子になることはない。)
製剤の総重量の0.5?11重量%の基剤と,42重量%の吸収促進剤と,32?56.5重量%の他の助剤とを含有する基剤-吸収促進剤含有シートとを含む,パーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項2】
前記主剤含有シートは,製剤の総重量に対して0.5?15重量%の前記式(I)の化合物又は薬理学的に許容されるそれらの塩である主剤と,前記主剤を含有させるための紙又は布帛である基材とからなるものであることを特徴とする,請求項1に記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項3】
前記基剤-吸収促進剤含有シートは,
炭化水素,高級アルコール,高級脂肪酸,高級脂肪酸エステル,グリコール類,及び脂肪油からなる群から選ばれる少なくとも1種の油脂性基剤と;
炭素数2?5の多価アルコールと,モノテルペン,ジテルペン及びセスキテルペンとからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のテルペンと,炭素数2又は3のアルコールと,からなる吸収促進剤と;
水からなる他の除剤と;
ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリエチエレン,ポリプロピレン,ポリエステル,アセテート,ポリカーボネート,ポリビニルアルコール,ポリメタクリル酸メチル,もしくはこれらを構成するモノマーの共重合体,シリコーン薄膜及びポリビニルピロリドン架橋物,キチン,キトサン,豚皮,及び人工皮膚からなる群から選ばれる素材で形成されたシート及び布帛とからなる群から選ばれる基材と;を含み,
前記脂溶性基剤の含有量は,製剤の総重量に対して0.5?15重量%であり,前記吸収促進剤の含有量は44.5?52重量%であり,前記他の助剤の含有量は全体を100重量%とするに必要な量である,ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項4】
前記基剤-吸収促進剤含有シートは,
カルボキシビニルポリマー,ヒドロキシプロピルセルロース及びマクロゴールからなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性基剤と;
炭素数2?5の多価アルコールと,モノテルペン,ジテルペン及びセスキテルペンとからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のテルペンと,炭素数2又は3のアルコールと,からなる吸収促進剤と;
基剤の酸性度に応じた,炭素数4?8のジアルキルエタノールアミンと炭素数2?8のアジピン酸ジアルキルと,水とからなる他の助剤と
ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリエチエレン,ポリプロピレン,ポリエステル,アセテート,ポリカーボネート,ポリビニルアルコール,ポリメタクリル酸メチル,もしくはこれらを構成するモノマーの共重合体,シリコーン薄膜及びポリビニルピロリドン架橋物,キチン,キトサン,豚皮,及び人工皮膚からなる群から選ばれる素材で形成されたシート及び布帛とからなる群から選ばれる基材と;を含み,
前記水溶性基剤の含有量は,製剤の総重量に対して0.5?15重量%であり,前記吸収促進剤の含有量は44.5?52重量%であり,他の助剤の含有量は全体を100重量%とするに必要な量である,ことを特徴とする,請求項1又は3に記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項5】
前記吸収促進剤は,製剤の総重量に対して,1?3重量%のリモネン又はl-メントールと,35?45量%のエタノールと,からなるものであり,
前記他の助剤は,5?12重量%のプロピレングリコールと,0?5重量%のジイソプロピルエタノールアミンとアジピン酸ジイソプロピルと,23?58.5重量%の水と,からなるものである,ことを特徴とする,請求項1,2及び4のいずれかに記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項6】
製剤の総重量に対して1?10重量%の下記式(II)
【化2】


(式中,R^(1)は炭素数3,4,8,12の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基を表す。)で表される化合物を主剤として含有する主剤含有シートと,
請求項3又は4に記載の基剤-吸収促進剤含有シート,とを重層してなる,パーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項7】
製剤の総重量に対して0.5?10重量%の下記式(II)
【化3】


(式中,R^(1)は炭素数3,4,8,12の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基を表す。)で表される化合物を主剤として含有する主剤含有シートと,
製剤の総重量に対して1重量%の請求項4に記載の水溶性基剤と,52重量%の吸収促進剤と,47重量%の他の助剤と,を含む基剤-吸収促進剤含有シート,とを重層してなる,パーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項8】
製剤の総重量に対して0.5?10重量%の下記式(II)
【化4】


(式中,R^(1)は炭素数3,4,8,12の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基を表す。)で表される化合物を主剤として含有する主剤含有シートと,
製剤の総重量に対して10重量%の水溶性基剤と,43重量%の吸収促進剤と,47重量%の他の助剤と,を含む基剤-吸収促進剤含有シート,とを重層してなる,パーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項9】
前記基剤-吸収促進剤含有シートは,製剤の総重量に対して5?10重量%のヒドロキシプロピルセルロースと,製剤の総重量に対して1?3重量%のリモネン又はl-メントールと製剤の総重量に対して15?45重量%のエタノールとからなる前記吸収促進剤と,製剤の総重量に対して5?15重量%のプロピレングリコールと44?51重量%の水とからなる他の助剤と含むことを特徴とする,請求項8に記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項10】
前記基剤-吸収促進剤含有シートは,製剤の総重量に対して8?12重量%のヒドロキシプロピルセルロースと,製剤の総重量に対して2?3重量%のリモネン又はl-メントールと製剤の総重量に対して30?40重量%のエタノールとからなる前記吸収促進剤と,製剤の総重量に対して8?12重量%のプロピレングリコールと46?49重量%の水とからなる他の助剤と含むことを特徴とする,請求項9に記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項11】
前記基剤-吸収促進剤含有シートは,製剤の総重量に対して10重量%のヒドロキシプロピルセルロースと,製剤の総重量に対して2.5重量%のリモネン又はl-メントールと製剤の総重量に対して40重量%のエタノールとからなる前記吸収促進剤と,製剤の総重量に対して10重量%のプロピレングリコールと47.5重量%の水とからなる他の助剤と含むことを特徴とする,請求項9又は10に記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項12】
前記基剤-吸収促進剤含有シートは,製剤の総重量に対して8?12重量%のマクロゴールと,製剤の総重量に対して2?3重量%のリモネン又はl-メントールと製剤の総重量に対して25?35重量%のエタノールとからなる前記吸収促進剤と,製剤の総重量に対して8?12重量%のプロピレングリコールと46?49重量%の水とを含むことを特徴とする,請求項9に記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項13】
前記基剤-吸収促進剤含有シートは,製剤の総重量に対して10重量%のマクロゴールと,製剤の総重量に対して2重量%のリモネン又はl-メントールと製剤の総重量に対して40重量%のエタノールとからなる前記吸収促進剤と,製剤の総重量に対して10重量%のプロピレングリコールと48重量%の水とを含むことを特徴とする,請求項9又は12に記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項14】
前記基剤-吸収促進剤含有シートは,製剤の総重量に対して0.5?2重量%のカルボキシビニルポリマーと,製剤の総重量の1?4重量%のリモネン又はl-メントールと製剤の総重量の15?45重量%のエタノールとからなる前記吸収促進剤と,製剤の総重量に対して47?58重量%の水と,0.5?2重量%のジイソプロピルエタノールアミンと1?4重量%のアジピン酸ジイソプロピルとからなる他の助剤と含むことを特徴とする,請求項9?13のいずれかに記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。
【請求項15】
ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリエチエレン,ポリプロピレン,ポリエステル,アセテート,ポリカーボネート,ポリビニルアルコール,ポリメタクリル酸メチル,もしくはこれらを構成するモノマーの共重合体,シリコーン薄膜及びポリビニルピロリドン架橋物,キチン,キトサン,豚皮,及び人工皮膚からなる群から選ばれる素材で形成された被覆用シートをさらに含むことを特徴とする,請求項1又は2のいずれかに記載のパーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤。 」
(以下,「補正後請求項1?15」ということがある。)
と変更する。

(1-2) 発明の詳細な説明の段落【0099】における【表4】を,補正前(本願出願当初)の
「 【表4】



(以下,「補正前表4」ということがある。)
から




(以下,「補正後表4」ということがある。)
に変更する。

(2)補正の適否(新規事項の追加について)
そこで,本件補正が,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項におりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満たすものか否か,について以下に検討する。

(2-1) 補正後請求項1に係る補正事項について

(i) 補正後請求項1に係る補正は,同項の製剤中の「主剤含有シート」における「主剤」の含有量,ならびに,「基剤-吸収促進剤含有シート」中の「基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の各成分の含有量につき,以下の(a)?(d)を同時に満たすように規定する補正を含むものである。
(a) 「主剤」 ・・・「製剤の総重量の 0.5?15重量%」
(b) 「基剤」 ・・・「製剤の総重量の 0.5?11重量%」
(c) 「吸収促進剤」・・・「製剤の総重量の 42重量%」
(d) 「他の助剤」 ・・・「製剤の総重量の32?56.5重量%」
しかしながら,「製剤の総重量」に対する上記四成分の含有量を上の(a)?(d)を同時に満たすように規定することについては,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,「当初明細書等」という。)のどこにも具体的に記載されていないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。
特に,「基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」については,それぞれ個別にも上記(b)?(d)に規定する量とすることについては当初明細書等に記載されていないし,また当初明細書等の記載から自明なものとも言えない。
たとえ,明細書の段落【0028】?【0029】の
「 【0028】 経皮吸収製剤とする場合には,主剤,基剤,吸収促進剤,および他の助剤(以下,「基剤等」ともいう。)を・・・ 【0029】(主剤) 本発明のパーキンソン病の予防および/または治療剤は,・・・ 本発明の二層型製剤の主剤含有シートは,製剤の総重量に対して0.5?15重量%の主剤と,主剤を含有させるための紙または布帛とからなるものであることが好ましい。ここで「製剤の総重量」とは,基剤等の重量および主剤の重量の合計をいう。・・・」 (下線は当審による。)
との記載を前提として勘案しても,同様である。

(ii) ところで,このような(a)?(d)の規定に係る補正について,請求人は本件補正に係る手続補正書と同日付けで提出された手続補正書(審判請求の理由補充書。以下単に理由補充書という。)の【請求の理由】6.(3-1)において,次のように述べている。
「 ・・・主剤の含有量の限定は,本願明細書[0029]に「(主剤)…主剤含有シートは,製剤の総重量に対して0.5?15重量%の主剤と,主剤を含有させるための紙または布帛とからなるものであることが好ましい。」という記載に基づくものです。
さらに,基剤の含有量を「製剤の総重量の0.5?11重量%,吸収促進剤の含有量を42重量%,他の助剤の含有量を,全体を100重量%とするに必要な量」とする限定は,補正前の請求項10の記載,本願明細書[0099]の表4の記載に基づくものです。」 (下線は当審による。)

しかしながら,請求人が上で引用している段落【0029】には,「主剤」の含有量について確かに「製剤の総重量の 0.5?15重量%」とすることが記載されているものの,その他の「基剤」,「吸収促進剤」,「他の助剤」の各含有量については,具体的な数値範囲を伴う記載すらみられない。
また,補正前請求項10の「・・・製剤の総重量に対して0.5?15重量%の水溶性基剤と,10?55重量%の吸収促進剤と,他の助剤を全体を100重量%とするに必要な量で含有してなる組成物・・・」をみても,「基剤」,「他の助剤」の含有量の各上限値?下限値を上の(b),(d)のようにするとともに,「吸収促進剤」の含有量を特定の「42重量%」とすることについて,その具体的な根拠となる記載箇所を見出すことができない。
さらに,段落【0099】の表4については,補正後表4を意図するものとして同表の数値で示される組成を勘案し,また,(i)で引用した段落【0028】?【0029】の記載を前提として参酌したとしても,当該表4を含む実施例4(1)の記載から,「基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の含有量を,順に「製剤の総重量」(即ち,「0.5?15重量%の主剤」,「基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の合計重量)の「0.5?11重量%」,「42重量%」及び「32?56.5重量%」とすることについて,具体的に読み取れるものではない。補正前表4の記載を参酌したとしても同様である。

(iii) そして,そもそも上の「基剤」,「吸収促進剤」,「他の助剤」については,それらに該当する各成分の範囲自体不明確であるが,それら「基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」のあらゆる種類の組み合わせにおいて上述の(b)?(d)の含有量に係る規定を同時に満たす組成のものを採用する,という事項についてはなおのこと,請求人が理由補充書で摘記した上述の段落【0029】等,ならびにその他の当初明細書等全体をみても,具体的に記載されている箇所を見出せないし,当初明細書等から自明な事項であるとも言えない。

(2-2) 補正後請求項3に係る補正事項について
(2-2-1)
補正後請求項3は,その化合物成分に係る規定が一部重複していることからみて,補正前請求項9を補正したと認められるものであって,以下の補正事項[1],[2]を含むものである。

[1] 「炭素数2?5の多価アルコール」を「基剤」の構成成分の一から「吸収促進剤」の構成成分の一に変更する。
[2] 請求項の製剤中の「基剤-吸収促進剤含有シート」中の「油脂性基剤」(なお,補正後請求項3後段における「・・・前記脂溶性基剤の・・・」の「脂溶性基剤」は,その前段に規定される「油脂性基剤」に相当するものと認める。以下統一して「油脂性基剤」という。),「吸収促進剤」及び「他の除剤」(「他の助剤」の誤記と認める。以下統一して「他の助剤」という。)の各成分の含有量につき,以下の(b)'?(d)'を同時に満たすように規定する。
(b)' 「油脂性基剤」・・・「製剤の総重量の 0.5?15重量%」
(c)' 「吸収促進剤」・・・「製剤の総重量の44.5?52重量%」
(d)' 「他の助剤」 ・・・「全体を100重量%とするに必要な量」
(ここでいう「全体」とは「製剤の総重量」に相当するものと認められる。)

以下,補正事項[1],[2]について検討する。

(2-2-2) 補正事項[1]について
(i) 「炭素数2?5の多価アルコール」を「吸収促進剤」として「基剤-吸収促進剤含有シート」に含有せしめることは,補正前請求項9に記載されていないのみならず,当初明細書等のどこにも記載されていないし,当初明細書等の記載から当業者にとり自明な事項であったとも言えない。

(ii) 即ち,「炭素数2?5の多価アルコール」については,上記補正前請求項9の他,当初明細書等の段落【0013】に
「 【0013】二層型の経皮吸収製剤である場合には,上記の主剤含有シートは,製剤の総重量に対して0.5?15重量%の主剤と,主剤を含有させるための紙または布帛である基材とからなるものであることが好ましい。また,上記の基剤-吸収促進剤含有シートは,炭化水素,高級アルコール,高級脂肪酸,高級脂肪酸エステル,グリコール類,および脂肪油からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の油脂性基剤,またはカルボキシビニルポリマー,ヒドロキシプロピルセルロースおよびマクロゴールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の水溶性基剤と炭素数2?5の多価アルコールとを含む基剤と;」 (下線は当審による。)
と記載されており,また,段落【0047】において
「 【0047】本発明においては,上述した油脂性基剤または水溶性基剤に,炭素数2?5の多価アルコールを加えたものを基剤として使用する。こうした炭素数2?5の多価アルコールとしては,エチレングリコール,プロピレングリコール等の2価のアルコール,グリセリン等の3価のアルコール等を例示することができる。これらの多価アルコールは,単独で使用してもよく,2種以上を適宜組み合わせて使用してもよいが,プロピレングリコールを使用することが好ましい。プロピレングリコールは,・・・軟膏基剤として好適に使用することができることによる。」 (下線は当審による。)
と記載されているとおり,「基剤」の成分として使用し得る旨読み取れるものの,少なくとも「吸収促進剤」の構成成分として使用し得るものと解される記載は見出せない。

(iii) なお,上記段落【0047】で「炭素数2?5の多価アルコール」の好ましい例として挙げられている「プロピレングリコール」については,「他の助剤」の構成成分として用いられることも記載されている一方(例えば補正前請求項12,14,15,ならびに段落【0015】,【0017】,【0018】のプロピレングリコールについての記載を参照のこと。),補正前表4では「吸収促進剤」としてプロピレングリコールが挙げられているが,補正後表4ではプロピレングリコールは「助剤」(「他の助剤」に相当するものと認められる。)に分類されていることからみて,請求人自身,「プロピレングリコール」を「吸収促進剤」として用いることを出願当初の明細書中で意図していたとは認められない。
仮に,補正前表4の記載からみて「プロピレングリコール」が「吸収促進剤」として用いられることが当初明細書等から読み取れる事項であったとしても,上記(ii)で記載したように,当初明細書の他の箇所においては,「炭素数2?5の多価アルコール」については一貫して「基剤」として記載されていたものであるから,当該「プロピレングリコール」に係る事項のみから,それ以外のあらゆる「炭素数2?5の多価アルコール」も「吸収促進剤」として採用され得ることまで読み取れるものとは到底認められない。

また,アルコール類のうち「吸収促進剤」として採用され得ることが当初明細書中に記載されているのは,例えば段落【0052】に記載された「炭素数2または3のアルコール」であるが,当該「アルコール」として同段落中に具体的に挙げられているのは「エタノール,n-プロパノール,イソプロパノール等」といった一価のアルコールのみであって,任意の「炭素数2?5の多価アルコール」を使用し得ることまで読み取れるものでもない。

(2-2-3) 補正事項[2]について
(i) 補正後請求項3は補正後請求項1又は2の従属項であるから,製剤中の「主剤含有シート」における「主剤」の含有量は当該請求項1又は2に規定されるとおり「製剤の総重量の 0.5?15重量%」であるものと認められるが,当該規定を満たすとともに,「製剤の総重量」に対する「油脂性基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の三成分の含有量を上の(b)'?(d)'を同時に満たすように規定することについては,当初明細書等のどこにも具体的に記載されていないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。
特に,「吸収促進剤」については,個別にも上記(c)'に規定する量とすることについては当初明細書等に記載されていないし,また当初明細書等の記載から自明なものとも言えない。
(2-1)(i)で摘示した明細書の段落【0028】?【0029】の「製剤の総重量」に係る記載を前提としても同様である。

(ii) ところで,補正事項[2]について,請求人は理由補充書の【請求の理由】6.(3-2)前段において,補正後請求項4についてと共に,次のように述べている。
「 補正後の請求項3及び4は,補正前の請求項9を,脂溶性の基剤と水溶性の基剤とに分け,さらに補正前の請求項10の要件を加えて,基剤,吸収促進剤及び他の助剤の含有量を限定したものです。この限定は,補正前の請求項10の記載,本願明細書[0099]の表4の記載に基づくものです。・・・」 (下線は当審による。)

しかしながら,補正後請求項1における(2-1)(i)の(a)?(d)の補正事項について(2-1)(ii)の第二段落以降で述べたと同様,請求人が引用する上の補正前請求項10,ならびに補正後表4(又は補正前表4)を参酌しても,「主剤」の含有量を「製剤の総重量の 0.5?15重量%」とするとともに,「油脂性基剤」,「吸収促進剤」,「他の助剤」の含有量を上の(b)'?(d)'を同時に満たすようにすることについて,具体的に読み取れるものではない。

(iii) そして,そもそも補正後請求項3に規定される
・「炭化水素,高級アルコール,高級脂肪酸,高級脂肪酸エステル,グリコール類,及び脂肪油からなる群から選ばれる少なくとも1種の」「油脂性基剤」,
・「炭素数2?5の多価アルコールと,モノテルペン,ジテルペン及びセスキテルペンとからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のテルペンと,炭素数2又は3のアルコールと,からなる」「吸収促進剤」,
及び
・「水からなる」「他の助剤」
の三者のあらゆる組み合わせにおいて,上述の(b)'?(d)'の含有量に係る規定を同時に満たす組成のものを採用する,という事項についてはなおのこと,請求人が理由補充書で摘記した上述の補正前請求項10等,ならびにその他の当初明細書等の記載全体をみても,具体的に記載されている箇所を見出せないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。

(2-3) 補正後請求項4に係る補正事項について
(2-3-1)
補正後請求項4は,補正後請求項3と同様,補正前請求項9を補正したと認められるものであって,以下の補正事項[1]',[2]'を含むものである。

[1]' 「炭素数2?5の多価アルコール」を「基剤」の構成成分の一から「吸収促進剤」の構成成分の一に変更する。
[2]' 請求項の製剤中の「基剤-吸収促進剤含有シート」中の「水溶性基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の各成分の含有量につき,以下の(b)''?(d)''を同時に満たすように規定する。
(b)'' 「水溶性基剤」・・・「製剤の総重量の 0.5?15重量%」
(c)'' 「吸収促進剤」・・・「製剤の総重量の44.5?52重量%」
(d)'' 「他の助剤」 ・・・「全体を100重量%とするに必要な量」
(ここでいう「全体」とは「製剤の総重量」に相当するものと認められる。)

以下,補正事項[1]',[2]'について検討する。

(2-3-2) 補正事項[1]'について
「炭素数2?5の多価アルコール」を「吸収促進剤」として「基剤-吸収促進剤含有シート」に含有せしめることが,補正前請求項9に記載されていないのみならず,当初明細書等のどこにも記載されていないし,当初明細書等の記載から当業者にとり自明な事項であるとも言えないことは,補正後請求項3の補正事項[1]について(2-2-2)で述べたと同様である。

(2-3-3) 補正事項[2]'について
(i) 補正後請求項4は「請求項1又は3に記載の」とされているから,補正後請求項1又は3の従属項と認められ,よって製剤中の「主剤含有シート」における「主剤」の含有量は,当該請求項1又は3に規定されるとおり「製剤の総重量の 0.5?15重量%」であるものと認められるが,補正後請求項3の補正事項[2]について(2-2-3)で述べたと同様,前記「主剤」の含有量に係る規定を満たすと共に,「製剤の総重量」に対する「水溶性基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の三成分の含有量を上の(b)''?(d)''を同時に満たすように規定することについては,当初明細書等のどこにも具体的に記載されていないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。
特に,「吸収促進剤」については,個別にも上記(c)''に規定する量とすることについては当初明細書等に記載されていないし,また当初明細書等の記載から自明なものとも言えない。
(2-1)(i)で摘示した明細書の段落【0028】?【0029】の「製剤の総重量」に係る記載を前提としても,また,理由補充書の【請求の理由】6.(3-2)前段で請求人が引用する補正前請求項10,ならびに補正後表4(又は補正前表4)を参酌しても,同様である。

(ii) そして,そもそも補正後請求項4に規定される
・「カルボキシビニルポリマー,ヒドロキシプロピルセルロース及びマクロゴールからなる群から選ばれる少なくとも1種の」「水溶性基剤」,
・「炭素数2?5の多価アルコールと,モノテルペン,ジテルペン及びセスキテルペンとからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のテルペンと,炭素数2又は3のアルコールと,からなる」「吸収促進剤」,
及び
・「基剤の酸性度に応じた,炭素数4?8のジアルキルエタノールアミンと炭素数2?8のアジピン酸ジアルキルと,水とからなる」「他の助剤」
の三者のあらゆる組み合わせにおいて,上述の(b)''?(d)''の含有量に係る規定を同時に満たす組成のものを採用する,という事項についてはなおのこと,請求人が理由補充書で摘記した上述の補正前請求項10等,ならびにその他の当初明細書等の記載をみても,具体的に記載されている箇所を見出せないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。

(2-4) 補正後請求項5に係る補正事項について
(i) 補正後請求項5は,請求項1,2及び4のいずれかの従属項と認められることから,製剤中の「主剤含有シート」における「主剤」の含有量は,当該請求項1,2又は4に規定されるとおり「製剤の総重量の 0.5?15重量%」であるものと認められる。そして,前記「主剤」の含有量に係る規定ならびに当該請求項1,2又は4に規定される「基剤」もしくは「水溶性基剤」の含有量に係る規定を満たすとともに,
・「製剤の総重量に対して,1?3重量%のリモネン又はl-メントールと,35?45量%のエタノールと,からなる」「吸収促進剤」,
及び
・「5?12重量%のプロピレングリコールと,0?5重量%のジイソプロピルエタノールアミンとアジピン酸ジイソプロピルと,23?58.5重量%の水と,からなるものである」「他の助剤」
を組み合わせて用いる旨の規定を補正事項として含むものであるが,そのような事項についてもまた,補正後請求項3,4の補正事項[2],[2]'について(2-2-3),(2-3-3)で述べたと同様,当初明細書等のどこにも具体的に記載されていないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。
(2-1)(i)で摘示した明細書の段落【0028】?【0029】の「製剤の総重量」に係る記載を前提としても同様である。

(ii) また,請求人が理由補充書の【請求の理由】6.(3-2)後段における
「・・・補正後の請求項5は,吸収促進剤中のリモネン又はl-メントールの含有量と,他の助剤を構成するジイソプロピルエタノールアミン,アジピン酸ジイソプロピルと,水との含有量,補正前の請求項13及び14に基づいて限定したものです。」
との主張を参酌しても,上の判断が影響されるものではない。
そもそも,当該補正後請求項5に規定される「主剤」である,補正後請求項1,2又は4の式(I)の化合物は,請求人が引用する上記「補正前の請求項13及び14」規定の「主剤」である式(II)の化合物以外の,より広範囲の化合物群を含むものであって,これら広範囲の化合物群を含むあらゆる式(I)の「主剤」,及び補正後請求項1,2又は4規定のあらゆる「基剤」もしくは「水溶性基剤」の組み合わせに対し,補正後請求項5に規定される任意の種類・含有量の「吸収促進剤」及び「他の助剤」の組み合わせてなる組成のものを採用し得る,という事項についてはなおのこと,当初明細書等で具体的に記載されている箇所を見出せないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。

(2-5) 補正後請求項7に係る補正事項について
補正後請求項7においても,「吸収促進剤」「他の助剤」に該当する各成分の範囲自体不明確であるが,少なくとも,それら「吸収促進剤」及び「他の助剤」のあらゆる種類の組み合わせにおいて,
・「主剤」を製剤の総重量に対して0.5?10重量%,
ならびに,各々製剤の総重量に対して
・「請求項4に記載の水溶性基剤」1重量%,
・「吸収促進剤」52重量%,
・「他の助剤」47重量%,
なる規定を同時に満たす組成のものを採用し得る,という事項については,請求人が理由補充書の【請求の理由】6.(3-3)後段で引用する補正前請求項10,13,補正前或いは補正後の表4,もしくはその他の箇所の当初明細書等の記載をみても,具体的に記載されている箇所を見出せないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。
特に,「吸収促進剤」及び「他の助剤」については,それぞれ個別にも上記の量とすることについては当初明細書等に記載されていないし,また当初明細書等の記載から自明なものとも言えない。
(2-1)(i)で摘示した明細書の段落【0028】?【0029】の「製剤の総重量」に係る記載を前提としても同様である。なお,かかる前提を踏まえるか否かによらず,そもそも補正後請求項7の上記規定によれば,「主剤」を含まない,「水溶性基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の三成分のみの総和で既に「製剤の総重量に対して」100重量%となるものであり,この点不合理でもある。

(2-6) 補正後請求項8に係る補正事項について
補正後請求項8においても,「水溶性基剤」,「吸収促進剤」,「他の助剤」に該当する各成分の範囲自体不明確であるが,少なくとも,それら「水溶性基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」のあらゆる種類の組み合わせにおいて,
・「主剤」を製剤の総重量に対して0.5?10重量%,
ならびに,各々製剤の総重量に対して
・「水溶性基剤」10重量%,
・「吸収促進剤」43重量%,
・「他の助剤」47重量%,
なる規定を同時に満たす組成のものを採用し得る,という事項については,請求人が理由補充書の【請求の理由】6.(3-3)後段で引用する補正前請求項10,13,補正前或いは補正後の表4,もしくはその他の箇所の当初明細書等の記載をみても,具体的に記載されている箇所を見出せないし,当明細書等の記載から自明であるとも言えない。
特に,「吸収促進剤」及び「他の助剤」については,それぞれ個別にも上述の量とすることについては当初明細書等に記載されていないし,また当初明細書等の記載から自明なものとも言えない。
(2-1)(i)で摘示した明細書の段落【0028】?【0029】の「製剤の総重量」に係る記載を前提としても同様である。なお,かかる前提を踏まえるか否かによらず,そもそも補正後請求項8の上記規定によれば,「主剤」を含まない,「水溶性基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の三成分のみの総和で既に「製剤の総重量に対して」100重量%となるものであり,この点,補正後請求項7について(2-5)で述べたと同様,不合理でもある。

(2-7) 補正後請求項9?13に係る補正事項について
(i) (2-2)?(2-6)で述べたと同様,「主剤含有シート」中の式(II)の化合物である「主剤」の含有量を0.5?10重量%とするとともに,「水溶性基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の種類及び含有量を補正後請求項9?13のように規定する点についても,当初明細書等中に何等その具体的根拠となる記載を見出すことはできないし,当初明細書等の記載から自明であるとも言えない。
なお,理由補充書の【請求の理由】6.(3-4)における以下の主張:
「 補正後の請求項10及び11は,水溶性基剤であるヒドロキシプロピルセルロースの含有量を限定したものであり,補正後の請求項12及び13は水溶性基剤であるマクロゴールの含有量を限定したものです。これらの限定は,いずれも本願明細書の[0046]の記載に基づくものです。」
を参酌しても同様である。

(ii) また,補正後請求項11では,「基剤-吸収促進剤含有シート」中に,製剤の総重量に対して
・ヒドロキシプロピルセルロース(「水溶性基剤」として規定されているものと認められる。)10重量%,
・「吸収促進剤」として,リモネン又はl-メントール2.5重量%とエタノール40重量%,
・「他の助剤」として,プロピレングリコール10重量%と水47.5重量%,
を含む旨規定されており,補正後請求項13でも,「基剤-吸収促進剤シート」中に,製剤の総重量に対して
・マクロゴール(「水溶性基剤」として規定されているものと認められる。)10重量%,
・「吸収促進剤」として,リモネン又はl-メントール2重量%とエタノール40重量%,
・プロピレングリコール10重量%と水48重量%,
を含む旨規定されているが,そもそも,各項における「主剤」を含まないこれら「基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の総重量はいずれも100重量%超(110重量%)となるものであるから,補正後請求項7,8について(2-5),(2-6)で述べたと同様,不合理でもある。

(2-8) 小括
以上,本件補正は,(2-2)?(2-7)で検討した補正事項において,当初明細書等に記載のなかった新たな技術的事項を追加するものであって,当初明細書等に記載した事項の範囲でする補正ではない。

(3)補正の適否(補正の目的について)

(3-1) 補正後の十五の請求項は,いずれも「主剤含有シート」と「基剤-吸収促進剤含有シート」とを含む,パーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤に係る発明であるが,補正前請求項1?16のうち,「主剤含有シート」と「基剤-吸収促進剤含有シート」とを含む「パーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤」に係る発明の請求項数は,九(補正前請求項7?12,13?15)に過ぎない。
よって,本件補正は,「パーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤」の発明に係る請求項数を増加する補正を含むものでもある。

(3-2) ところで,この点に関し,請求人は理由補充書の【請求の理由】6.(3-1)において,補正後請求項1について以下のように主張している。
「 本願の出願人は,上記の手続補正書により,補正前の請求項1に,請求項7及び8の要件を織り込むとともに,本発明のパーキンソン病の予防および/または治療剤の主剤である化合物について,R1の炭素数を3?12に限定し,さらに,製剤中における主剤,基剤,吸収促進剤,その他の助剤の含有量をそれぞれ限定して,補正後の請求項1といたしました。補正前の請求項2?7は削除いたしました。 ・・・」 (下線は当審による。)
しかしながら,補正前請求項1に係る発明が「パーキンソン病の予防および/または治療用化合物」であるのに対し,補正後請求項1に係る発明は,当該化合物を主剤として含む「主剤含有シート」と「基剤-吸収促進剤含有シート」とを含む「パーキンソン病の予防及び/又は治療用経皮吸収製剤」であって,補正前請求項1とは全く異なる発明であるから,当該補正後請求項1が補正前請求項1を減縮するものとは言えない。
よって,補正後請求項1が補正前請求項1に基づくものであるとする,理由補充書における請求人の上記主張は認容できない。

(3-3) また,補正後請求項3,4については,(2-3)?(2-4)でも述べたとおり,いずれも補正前請求項9を補正したものと認められ,この点,理由補充書の【請求の理由】6.(3-2)前段においても
「 補正後の請求項3及び4は,補正前の請求項9を,脂溶性の基剤と水溶性の基剤とに分け,さらに補正前の請求項10の要件を加えて,基剤,吸収促進剤及び他の助剤の含有量を限定したものです。・・・」 (下線は当審による。)
と述べられているが,このような補正自体,請求項数を増加するものであることが明らかであるにもかかわらず,なぜ特許請求の範囲の減縮と言えるのか,について,請求人は理由補充書で何等かの合理的な釈明をしているわけでもない。平成22年7月16日付け回答書においても同様である。
( なお,補正後請求項3,4は,いずれも補正後請求項1の従属項として規定されているにもかかわらず,両請求項共に,「油脂性基剤」,「水溶性基剤」の各含有量に係る規定(いずれも「0.5?15重量%」)が補正後請求項1の「基剤」の含有量に係る規定(「0.5?11重量%」)に比して広範囲であるし,「吸収促進剤」の含有量についてもまた,補正後請求項3,4(いずれも「44.5?52重量%」)の方が補正後請求項1(「42重量%」)より広範囲に規定されており,不合理な規定ぶりとなってもいる。この点からみても,補正後請求項3,4に係る補正が適切な減縮を目的としたものであるとは理解できない。)

(3-4) そして,補正後請求項6?8についてもまた,請求人は理由補充書の【請求の理由】6.(3-3)において
「 請求項6は,補正前の請求項13を,基剤-吸収促進剤含有シートの記載を上述したとおり,補正後の請求項3及び4に分けたことに伴い,これらに対応させて書き直したものです。
また,補正後の請求項7及び8は,補正前の請求項10に補正前の請求項13の要件織り込んだ上で,水溶性基剤等の含有量をさらに限定したものです。・・・」
としているが,二つの補正前請求項10,13を三つの補正後請求項6?8へ変更することを意図する補正自体,請求項数を増加するものと認められるし,しかも補正後請求項6?8は各々全て独立項形式に変更されているにもかかわらず,このような補正がなぜ特許請求の範囲の減縮と言えるのか,についてもまた,請求人は理由補充書で何等かの合理的な釈明をしているわけでもない。平成22年7月16日付け回答書においても同様である。

(3-5) また,補正後請求項9?13については,(2-7)で摘記した【請求の理由】6.(3-4)における請求人の主張を参酌しても,一体補正前のどの請求項の減縮を目的としたものであるのか明確に把握できない。仮に,ヒドロキシプロピルセルロースやマクロゴールといった「水溶性基剤」成分について具体的に規定がみられた補正前請求項14に基づくものであるとしても,そのようなただ一つの補正前請求項14を複数の補正後請求項9?13に分けて規定すること自体,請求項数を増加するものと認められ,少なくとも特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは解され得ない。
( なお,補正後請求項9は補正後請求項8の従属項であり,補正後請求項10?13は補正後請求項9の従属項と認められるにもかかわらず,補正後請求項9?13のいずれにおいても,「水溶性基剤」,「吸収促進剤」及び「他の助剤」の含有量が補正後請求項8規定のそれ(順に,「10重量%」,「43重量%」及び「47重量%」)とは異なるか又はそれより広範囲に規定されているから,各成分の含有量に係る規定が不合理である。この点からみても,補正後請求項9?13に係る補正が適切な減縮を目的としたものであるとは直ちには理解できない。)

(3-6) さらに,上の(3-1)?(3-5)で挙げた補正事項を含む,このような請求項数の増加に係る補正が,補正前請求項1?16の誤記の訂正,或いは明りょうでない記載の釈明を目的とするものではないことも明らかである。

(4)むすび
以上,本件補正は,(2)で述べたとおり,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり,また,(3)で述べたとおり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明
平成19年6月8日付け手続補正書による手続補正は,上述のとおり却下されたので,本願の特許請求の範囲に記載された発明は,当初明細書の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下,「本願発明」ということがある。)。

「 【請求項1】 下記式(I)
【化1】


(式中,R^(1)は水素原子または炭素数1?16の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基,R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立に,水素原子,炭素数1?16の直鎖状,分枝状または置換基を有してもよい環状のアシル基を表す。ただし,R^(1),R^(2),およびR^(3)が同時に水素原子になることはない。)
で表される,パーキンソン病の予防および/または治療用化合物。 」

4.刊行物の記載
これに対し,原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物A:特開平1-268633号公報 には,以下の事項が記載されている。

(A-1) 特許請求の範囲
「 1.構造式


[式中,R=アルキル(C_(1)?C_(20))・・・,置換されたおよび置換されないアラルキル(C_(7)?C_(20))]
で表されるL-ドーパのエステルおよび薬学的に使用し得る有機または無機対イオン塩の治療上有効な用量を包含している処方を投与することによってL-ドーパの直腸吸収を高める薬学組成物。
2,Rがメチル,エチル,プロピル,ブチル,ペンチル,テトラデシルおよびヘキサデシルからなる群から選択されるアルキル・・・である請求項1記載の組成物。
3,該アルキルがエチル,プロピルまたはブチルであ・・・る請求項2記載の組成物。
・・・ 」

(A-2) 第3頁左上欄第14行?右上欄第3行
「 本発明は,直腸内治療適用により吸収を高めるし一ドーパのエステル前駆体誘導体の組成物および使用方法に関する。さらに詳細には,本発明は,L-ドーパのアルキル・・・エステルおよびその薬学的に使用し得る対イオン塩に関する。・・・」

(A-3) 第4頁左下欄第15行?第5頁左上欄第10行
「・・・本発明のL-ドーパ前駆体エステル誘導体は以下の一般式


[式中,Rはメチル,エチル,プロピル,ブチル,ペンチル,テトラデシル,ヘキサデシルなどの直鎖または分枝鎖アルキル・・・である。]および薬学的に使用し得る有機または無機対イオン塩によって記載されるのが最善である。」

(A-4) 第5頁左上欄第11?17行
「 L-ドーパのエステルおよびその塩を製造する合成方法は当業界で公知であり,引例,即ち米国特許第3,891,696号および同第4,035,507号およびジャーナル オブ ファーマスーチ力ル サイエンシス,第62巻,510頁(1973年)を本明細書中に引用する。・・・」

(A-5) 第5頁左下欄?第6頁右上欄 実施例1?3
「 実施例 1 ・・・L-ドーパエチルエステルHCl・・・を含有する水性マイクロエネマ液・・・を調製した。・・・以下に示される結果は,L-ドーパエチルエステルHCl処方で得られたL-ドーパの著しく高い血漿レベルを示している。



a N.D.=検出不能
b 静脈注射により投与されたL-ドーパ2.0mg
に対して計算された生体有効性%

実施例 2 L-ドーパ代謝を低下させるために包含されるカルビドーパ・・・・をさらに各々の処方に含有させる以外は,実施例1の実験条件を繰り返した。以下に示される結果は,L-ドーパエチルエステルHCl処方(カルビドーパの存在下)での血漿L-ドーパレベルおよびL-ドーパ生体有効性の著しい増加を示している。



a N.D.=検出不能
b 静脈注射により投与されたし一ドーパ2.0mg
に対して計算された生体有効性の%

実施例 3 L-ドーパエチルエステルHCl66.5mg(L-ドーパ50mgに等価)を含有する水性処方・・・をビーグル犬に投与するために調製した。・・・本研究では,L-ドーパエチルエステルHCl処方でのし一ドーパの生体有効性は 34±25.4%,n=4であった。これは本適用に記載されるエステルの適用のために血漿薬剤レベルの増加が著しいことを示す。 」

(A-6) 第7頁右上欄?左下欄 実施例7
「実施例 7 ラットにおけるL-ドーパエステルの直腸投与後のL-ドーパ生物有効性 L-ドーパの種々のエステルを 体重1kg当りL-ドーパ2.0mg(ラット)あるいは体重1kg当りL-ドーパ等価物20mg(イヌ)に等価の服用量でラットおよびイヌに直腸投与した。血漿を集め,L-ドーパをHPLCによって定量し,L-ドーパの生物有効性を静脈投与に対して計算した。



a ラットはカルビドーパで前処理しなかった。
L-ドーパの静脈投与に対して計算した。
b イヌはカルビドーパを経口で前処理した
(25mg b.i.d X 3日間)。
カルビドーパ前処理したイヌでし-ドーパ静
脈投与に対して計算した。 」

上記(A-1)?(A-6)の各事項からみて,刊行物Aには
「 構造式


[式中,Rはメチル,エチル,プロピル,ブチル,ペンチル,テトラデシル又はヘキサデシルの直鎖または分枝鎖アルキル]で表される,パーキンソン病の治療に用いる化合物。」
の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

5.対比・判断
本願発明と引用発明を対比するに,引用発明のL-dopaメチルエステル,同エチルエステル,同プロピルエステル,同ブチルエステル,同ペンチルエステル,同テトラデシルエステル及び同ヘキサデシルエステルは,いずれも本願発明の式(I)において,R^(2)=R^(3)=Hであって,かつ,R^(1):直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基の炭素数が順に1,2,3,4,5,14及び16である化合物,に該当する。
そうすると,本願発明及び引用発明の上記エステル化合物は,いずれも,「下記式(I)


(式中,R^(1)は水素原子または炭素数1?16の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基,R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立に,水素原子,炭素数1?16の直鎖状,分枝状または置換基を有してもよい環状のアシル基を表す。ただし,R^(1),R^(2),およびR^(3)が同時に水素原子になることはない。)で表される,パーキンソン病の予防および/または治療用化合物。」
であるから,両者に差異はない。

6.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,刊行物Aに記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-16 
結審通知日 2010-12-22 
審決日 2011-01-05 
出願番号 特願2001-219148(P2001-219148)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 561- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今村 玲英子山田 拓  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 大久保 元浩
森井 隆信
発明の名称 パーキンソン病の予防及び/又は治療剤  
代理人 柴田 富士子  
代理人 柴田 五雄  

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