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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
管理番号 1234063
審判番号 不服2009-16696  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-09 
確定日 2011-03-17 
事件の表示 特願2004- 55042「データ記録装置およびデータ記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 8日出願公開、特開2005-240770〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成16年2月27日に特許出願されたものであって、平成21年2月20日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成21年4月23日付けで意見書が提出されたが、平成21年6月12日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対して平成21年9月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において平成22年9月16日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成22年11月22日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書並びに意見書がそれぞれ提出されたものである。

2.本願発明
本件出願の請求項1ないし9に係る発明は、平成22年11月22日付けで提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲、並びに、願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
車両に搭載された制御ユニットにおける制御パラメータを含む車両データを、外部システムがアクセス可能なデータ記録部に記録するデータ記録装置において、
記録対象となる車両データの種別を示す取得内容に基づいて、前記車両側から取得した時系列的な前記車両データをバッファに一時的に記憶するとともに、前記車両の不具合状態を特定するのに有効な前記車両データが得られるであろう条件を示す取得条件に従って、前記バッファから前記データ記録部に記録するデータ制御部と、
電源の遮断に先立ち行われるシャットダウン処理において、前記取得内容、前記取得条件および前記バッファの記録状態を含む前記データ制御部における現在の稼働状態を、稼働履歴として、前記データ記録部に記録するシャットダウン処理部と、
前記電源の投入後に行われる起動処理において、前記データ記録部に記録された前記稼働履歴を読み込むとともに、当該読み込まれた稼働履歴に基づいて、前記稼働状態の復元が必要な場合は、シャットダウン時における前記稼働状態と同様の状態を復元する起動処理部と
を有することを特徴とするデータ記録装置。」(なお、下線は平成22年11月22日付けで提出された手続補正書により補正された箇所を示す。また、平成22年11月22日付けで提出された手続補正書による補正を、以下単に「当該補正」と記載することもある。)

3.当審拒絶理由の概要
当審において平成22年9月16日付けで通知された拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、次のとおりである。

「 理 由

本件出願は、明細書及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号並びに同法同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。



1 請求項1における「シャットダウン処理部」が不明確である。
すなわち、「シャットダウン処理部」では、「取得内容」、「取得条件」及び「データ制御部における現在の稼働状態」を稼働履歴として記録する点が請求項1において特定されているが、「現在の稼働状態」とは具体的にはどのような状態のことを意味するのか、その定義が不明確であるため、結果として「シャットダウン処理部」がどのような情報を記録するのか、不明確である。
… …(中略)… …

2 請求項1における「起動処理部」が不明確である。
すなわち、「起動処理部」では、シャットダウン時における「稼働状態を復元する」点が請求項1において特定されているが、上記1のとおり、「稼働状態」が何を意味しているのかがそもそも不明確であり、また、「復元する」とは、どのような動作を特定しているのか不明確であるために、結果として「稼働状態を復元する」との技術的意味が不明確である。
また、「稼働状態」が上記1にて前述した、段落【0048】の記載における「記録装置1の稼働状態は、車両データの取得中、車両データの記録中、または、データ記録の完了の何れかの状態」を意味している場合、段落【0039】の記載によれば、3つの状態のうち、「データ記録の完了」の状態のときには、図5におけるステップ11において否定判定され、ステップ12において「稼働状態の初期設定」が行われるものであって、段落【0040】に記載の図5におけるステップ13における「稼働状態を復元する」ことが行われるものではない(稼働状態の復元が行われるのは、シャットダウン時の稼働状態が「車両データの取得中」と「車両データの記録中」のときのみである。)ため、請求項1に係る発明と発明の詳細な説明の記載とは整合しておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいい難い。
また、発明の詳細な説明においては、「復元」について、例えば段落【0017】には「読み込まれた稼働履歴に基づいて、シャットダウン時における稼働状態を復元する。」と記載され、また、段落【0040】には「稼働情報およびパラメータ情報を参照することにより、前回のシャットダウン時における稼働状態を復元するように、記録装置1の稼働状態の設定が行われる。」と記載されてはいるが、上記1で前述したように、「稼働状態」の定義が不明確であって、また、「復元」とはどのような動作を意図するのかも明確に記載されていないため、発明の詳細な説明の記載も、当業者が実施可能な程度に明確に記載されているとはいい難い。この点につき、本件請求人は、平成22年9月13日付けのファクシミリの「(2)本願発明の特徴」において、「稼働状態の復元」とは、「シャットダウン時におけるデータ制御部の状態と実質的に同じ状態を再現することを指します。」と主張するとともに、「(3)補正案の提示」として、シャットダウン処理において「前記バッファの記録状態を含む前記制御部に現在の稼働状態」をデータ記録部に記録し、起動処理において「シャットダウン時における前記稼働状態と同様の状態を復元する」と請求項1に係る発明を特定する案を示している。しかしながら、バッファ、すなわち、RAM8の記録状態をシャットダウン時と同じ状態に再現する(段落【0049】及び図7に記載のステップ21で、シャットダウン時に「未記録状態の車両データ」を「データ記録部9に記録」し、起動時に再度そのデータをデータ記録部9からRAM8に戻して、シャットダウン時と同じ状態を再現する。)とも解釈できる当該補正案は、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項とは認められない(例えば、段落【0051】における「稼働状態を再現させたとしても、それに要する時間は、モードファイルを読み出した場合のそれと比較して短くてすむ。」との記載から、復元のための作業は必要最低限であって、データ記録部9に記録したデータをRAM8に戻すことを意図していたとは、到底認められない。)。

3 … …(中略)… …

4 … …(中略)… …
また、段落【0051】には、「複数のサイクルに亘ってデータ記録を行うといった場合に有効である。」と記載されているが、なぜ有効であるのかが不明確である。この点につき、本件請求人は、平成22年9月13日付けのファクシミリにおいて「(1)「複数の運転サイクルに亘ってデータ記録を行う場合」の具体例」として「(a)エンジンの再始動不良」及び「(b)点火性の悪化に起因したエンジンの始動不良」を例に挙げて、「それ以前のエンジン停止時の状態もモニタリングする必要があります。」と主張する。しかしながら、明細書の段落【0023】における図3の説明として「一方、モードファイルBは、エンジン始動不良を不具合状態として想定したモードファイルであり、」と記載するように、「エンジン始動不良」に関するモードは「モードファイルB」に当てはまると解され、当該モードファイルBでは、取得条件はイグニッションスイッチ14のオンから10分間だけ車両データを記録するものであり、「それ以前のエンジン停止時の状態」についてはモニタリングできない条件となっているため、当該ファクシミリによる「それ以前のエンジン停止時の状態」の車両データも取得することを前提とした主張は、明細書に記載された実施の態様に対応しないものである。

5 … …(中略)… …

6 … …(中略)… …
また、「この稼働履歴には、前回のシャットダウン時における稼働状態と同様の状態に復元するために必要な最低限の内容しか記録されていない。そのため、これを読み出して稼働状態を再現させたとしても、それに要する時間は、モードファイルを読み出した場合のそれと比較して短くすむ。」と記載されているが、「稼働履歴」には、段落【0050】の記載によれば、「取得内容」、「RAM8の取得アドレス」、「取得条件」及び「状態情報」が含まれるのに対し、「モードファイル」は、段落【0021】の記載によれば、「取得内容」、「取得条件」及び「動作条件」のみで構成されるものであって、その「動作条件」自体も「ECU2の動作終了」(段落【0021】)、又は、「データ記録の完了」(段落【0022】)といった単純な情報であることから、なぜ、「モードファイルを読み出した場合のそれと比較して短くすむ。」のかが不明確である。」(以下、当審拒絶理由において、明細書及び特許請求の範囲の記載に不備があるとして指摘した上記1ないし6の点を、それぞれ「指摘事項1」ないし「指摘事項6」という。)

4.当審の判断
(1)当審拒絶理由の指摘事項1について
(1)-1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の指摘事項1として、概ね、次の見解を示したところである。すなわち、請求項1における「シャットダウン処理部」について、「「シャットダウン処理部」では、「取得内容」、「取得条件」及び「データ制御部における現在の稼働状態」を稼働履歴として記録する点が請求項1において特定されているが、「現在の稼働状態」とは具体的にはどのような状態のことを意味するのか、その定義が不明確であるため、結果として「シャットダウン処理部」がどのような情報を記録するのか、不明確である。」

(1)-2 本件請求人の主張
これに対し、本件請求人は、平成22年11月22日付けで提出された手続補正書により、「現在の稼働状態」について「前記取得内容、前記取得条件および前記バッファの記録状態を含む前記データ制御部における現在の稼働状態」と補正するとともに、同日付けで提出された意見書において次のように主張する。
「(3-1)1.について
出願人は、請求項1を補正することによって、「現在の稼働状態」とは、取得内容、取得条件およびバッファの記録状態を含むデータ制御部における稼働状態であることを明確化するとともに(構成(A))、…(中略)…。すなわち、「現在の稼働状態」とは、起動処理部において、シャットダウン時における稼働状態と同様の状態を復元するために必要な情報であることを明確化した。具体的には、段落0038に記載されるように、稼働状態には、状態情報およびパラメータ情報が含まれる。ここで、状態情報は、記録装置の動作が継続した状態であったか、或いは、データ記録が完了した状態であったかを示す情報である。また、パラメータ情報は、取得内容、および取得条件等を示す情報である。…(後略)…。」

(1)-3 当審の判断
しかしながら、請求項1は「前記取得内容、前記取得条件および前記バッファの記録状態を含む前記データ制御部における現在の稼働状態」と特定されるものの、意見書にて主張する「状態情報は、記録装置の動作が継続した状態であったか、或いは、データ記録が完了した状態であったかを示す情報である。」との特定はなされておらず、単に「前記バッファの記録状態」と特定されるのみである。ここで、発明の詳細な説明の段落【0038】の記載をみるに、「記録装置の動作が継続した状態であったか、或いは、データ記録が完了した状態であったか」との状態は、「バッファ」すなわち「RAM8」の記録状態というよりは、「データ記録部9」にデータ記録が完了したか否かの状態であって、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対応関係が依然として不明確であるといわざるを得ない。
また、請求項1の「前記取得内容、前記取得条件および前記データ制御部における現在の稼働状態」との発明特定事項を「前記取得内容、前記取得条件および前記バッファの記録状態を含む前記データ制御部における現在の稼働状態」と補正した経緯からからみて、当該補正後の「前記取得内容、前記取得条件および前記バッファの記録状態を含む前記データ制御部における現在の稼働状態」との発明特定事項は、『「前記取得内容」、「前記取得条件」および「前記バッファの記録状態」を含む前記データ制御部における「現在の稼働状態」』と解釈するのか、『「前記取得内容」、「前記取得条件」および「前記バッファの記録状態を含む前記データ制御部における現在の稼働状態」』と解釈するのか、どちらを意図しているか明確であるとはいえず、結果として発明の技術的範囲が不明確である。

(2)当審拒絶理由の指摘事項2について
(2)-1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の指摘事項2として、概ね、次の見解を示したところである。すなわち、請求項1における「起動処理部」について、「シャットダウン時における「稼働状態を復元する」点が請求項1において特定されているが、上記1のとおり、「稼働状態」が何を意味しているのかがそもそも不明確であり、また、「復元する」とは、どのような動作を特定しているのか不明確であるために、結果として「稼働状態を復元する」との技術的意味が不明確である。」

(2)-2 本件請求人の主張
これに対し、本件請求人は、平成22年11月22日付けで提出された手続補正書により、「稼働状態」については上記(1)のとおり補正するとともに、「起動処理部」について「前記電源の投入後に行われる起動処理において、前記データ記録部に記録された前記稼働履歴を読み込むとともに、当該読み込まれた稼働履歴に基づいて、前記稼働状態の復元が必要な場合は、シャットダウン時における前記稼働状態と同様の状態を復元する起動処理部」と補正し、同日付けで提出された意見書において次のように主張する。
「(3-2)2.について
出願人は、請求項1を補正することによって、「現在の稼働状態」とは、取得内容、取得条件およびバッファの記録状態を含むデータ制御部における稼働状態であることを明確化するとともに(構成(A))、起動処理部は、シャットダウン時における稼働状態と同様の状態を復元することを明確化した(構成(C))。したがって、「稼働状態を復元する」とは、取得内容、取得条件およびバッファの記録状態を含むデータ制御部における稼働状態を、シャットダウン時における稼働状態と同様の状態に復元することであることを明確化した。

また、出願人は、請求項1を補正することによって、起動処理部は、稼働履歴に基づいて、稼働状態の復元が必要な場合は、シャットダウン時における稼働状態と同様の状態を復元することを明確化した(構成(C))。したがって、請求項1に係る発明と、発明の詳細な説明の記載とは整合する。

さらに、「稼働状態」の定義は、(3-1)で述べたように明確に特定でき、「復元」とは、前述したようにシャットダウン時における稼働状態と同様の状態を復元することであるので、発明の詳細な説明は、当業者が実施可能な程度に明確に記載されている。具体的には、段落0017に記載された「読み込まれた稼働履歴」、換言すれば段落0040に記載された「状態情報およびパラメータ情報」に基づいて、前回のシャットダウン時における稼働状態を復元するように、データ記録装置の稼働状態の設定が行われる。

ここで、モードファイルは、段落0021に記載されているように、取得内容、取得条件および動作条件から構成されているデータファイルであり、CPUが実行可能なプログラムではない。このため、CPUは、このモードファイルの内容を解読し、その解読された内容に従って動作を行うようにプログラムの設定を変更する必要がある。これに対して、稼働状態の復元は、稼働履歴をデータ記録装置に書き戻すだけの処理である。したがって、段落0051における「稼働状態を再現させたとしても、それに要する時間は、モードファイルを読み出した場合のそれと比較して短くてすむ。」との記載は、これらの処理の時間的な相違を述べたものであり、バッファ、すなわちRAM8の記録状態をシャットダウン時と同じ状態に再現するとの解釈を妨げるものではない。そればかりか、本願発明の目的は、段落0004に記載されているように、データ記録装置の稼働状態に連続性を持たせることにあるから、このように解釈するのは自然である。」

(2)-3 当審の判断
しかしながら、請求項1における「現在の稼働状態」との発明特定事項は上記(1)において記載したように依然として不明確である。また、「同様の状態を復元する」との記載のみでは、復元の程度が不明確である。すなわち、「復元」とは、(i)単に「車両データの取得」又は「車両データの記録」を再開する(例えば、「車両データの取得中」でシャットダウンされた場合、起動後の車両データの取得を単純に再開し、「車両データの記録中」でシャットダウンされた場合、起動後の車両データの取得を単純に再開して、そのままデータ記録部9に記録する)ことを意図しているのか、(ii)「RAM8」及び「データ記録部9」におけるデータの記録状態をも再現する(例えば、「車両データの取得中」でシャットダウンされた場合、RAM8に記憶された車両データを一時的にどこかに退避し、起動時に一時退避した車両データをRAM8に戻すことで、RAM8における車両データの記憶状態を前回運転時のシャットダウン時と同じ状態へと再現する)ことを意図しているのか、さらには、(iii)車両の運転状態(例えば、エンジン回転数やエンジン冷却水温等)をもシャットダウン時と同じ状態に復元して車両データをRAM8にて取得する状態またはデータ記録部9に記録する状態を完璧に再現することを意図しているのか、単に「同様の状態を復元する」と特定するのみでは、依然として「復元」の程度が不明確であり、結果として本願発明の技術的範囲が明確であるとはいい難い。
また、「前記稼働状態の復元が必要な場合は、」との発明特定事項を追加したが、具体的にどのような場合に稼働状態の復元が必要となるのか、請求項1においては依然として明確に特定されておらず、「前記稼働状態の復元が必要な場合は、」と特定する本願発明は、発明の詳細な説明に記載された、「車両データの取得中」及び「車両データの記録中」のときには「復元」がなされ「車両データの記録の完了」のときには「復元」を要しないとした技術的事項を超えて、それ以外の態様をも発明の範囲に含むかのように特許を請求するものであるといわざるを得ない。
さらに、発明の詳細な説明についてみても、本件請求人が意見書において主張する「段落0017に記載された「読み込まれた稼働履歴」、換言すれば段落0040に記載された「状態情報およびパラメータ情報」に基づいて、前回のシャットダウン時における稼働状態を復元するように、データ記録装置の稼働状態の設定が行われる。」とは記載されているものの、それ以上の記載がされているとはいえず、結果としてどの程度まで稼働状態を「復元」すれば発明の詳細な説明に記載された作用ないし効果が得られるのか、発明の詳細な説明においても明確に記載されているとはいえない。
なお、本件請求人が意見書において「モードファイルは、段落0021に記載されているように、取得内容、取得条件および動作条件から構成されているデータファイルであり、CPUが実行可能なプログラムではない。…(中略)…。これに対して、稼働状態の復元は、稼働履歴をデータ記録装置に書き戻すだけの処理である。」と主張するが、「パラメータ情報」も「状態情報」も単なる情報であってモードファイルと同様にプログラムであるとは認められず、本件請求人が何を主張しようとしているのか不明である。よって、「したがって、段落0051における「稼働状態を再現させたとしても、それに要する時間は、モードファイルを読み出した場合のそれと比較して短くてすむ。」との記載は、これらの処理の時間的な相違を述べたものであり、バッファ、すなわちRAM8の記録状態をシャットダウン時と同じ状態に再現するとの解釈を妨げるものではない。」との主張の意味するところが不明である。さらに、「そればかりか、本願発明の目的は、段落0004に記載されているように、データ記録装置の稼働状態に連続性を持たせることにあるから、このように解釈するのは自然である。」との主張から、「復元」とは、上述の「(ii)「RAM8」及び「データ記録部9」におけるデータの記録状態をも再現する(例えば、「車両データの取得中」でシャットダウンされた場合、RAM8に記憶された車両データを一時的にどこかに退避し、起動時に一時退避した車両データをRAM8に戻すことで、RAM8における車両データの記憶状態を前回運転時のシャットダウン時と同じ状態へと再現する)ことを意図している」かのようにも解されるが、発明の詳細な説明の段落【0049】には、「車両データの取得中の場合には、車両データの取得が中止され、車両データの記録中の場合には、車両データの取得が中止されるとともに、未記録状態の車両データがデータ記録部9に記録される。」と記載されているところからみて、「車両データの取得中」の場合には、車両データの何のバックアップもすることなくシャットダウン処理を行っているとも解され、意見書における主張と当該記載とが整合しているとも認められない。

(3)当審拒絶理由の指摘事項4について
(3)-1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の指摘事項4として、概ね、次の見解を示したところである。すなわち、本願発明が奏する効果に関連して、「複数のサイクルに亘ってデータ記録を行うといった場合に…なぜ有効であるのかが不明確である。」

(3)-2 本件請求人の主張
これに対し、本件請求人は、平成22年11月22日付けで提出された意見書において次のように主張する。
「さらに、段落0051に記載の「複数の運転サイクルに亘ってデータ記録を行うといった場合」の具体例としては、平成22年9月13日付けのファクシミリに記載したように、以下のエンジンの始動不良(a),(b)を例示することができる。

(a)エンジンの再始動不良
エンジンの停止から再始動までの時間が短い場合には、エンジンが完全には冷え切っていない状態で始動が行われる。このような再始動において不良が生じた場合には、エンジン始動時の状態以外に、それ以前のエンジン停止時の状態もモニタリングする必要がある。なぜなら、エンジン停止時の状態や車両の放置状況によっては、エンジン吸気管内にインジェクタ部から霧化したガソリンが流入し、これが再始動性の悪化を招くことがあるからである。

(b)点火性能悪化に起因したエンジンの始動不良
寒冷地などでエンジンを始動させて走行を始めてから、エンジンが完全に暖機される前に目的地に到着してエンジンを停止させた場合、点火プラグにカーボン(煤)が付着して、点火プラグの点火性能を悪化させてしまうことが知られている。このような始動において不良が生じた場合にもエンジン始動時の状態を単純にモニタリングするだけでは原因を特定できないので、それ以前のエンジン停止時の状態もモニタリングする必要がある。

ここで、段落0023には、「モードファイルBは、エンジン始動不良を不具合状態として想定したモードファイルであり」と記載されている。このモードファイルBでは、上記(a)についてのデータを取得することができる。すなわち、取得条件であるイグニションスイッチ14のオンから10分以内にエンジンの停止と、エンジンの再始動とを行うことによって、複数の運転サイクルに亘ってデータ記録を行うことができる。したがって、段落0051における「複数のサイクルに亘ってデータ記録を行うといった場合に有効である」との記載は明確であり、明細書に記載された実施の態様に対応するものである。」

(3)-3 当審の判断
しかしながら、本件請求人の主張は次のとおり失当である。すなわち、本件請求人は、「このモードファイルBでは、上記(a)についてのデータを取得することができる。すなわち、取得条件であるイグニションスイッチ14のオンから10分以内にエンジンの停止と、エンジンの再始動とを行うことによって、複数の運転サイクルに亘ってデータ記録を行うことができる。」と主張するが、上記(a)はエンジンの再始動不良を記録するための条件であって、「エンジンが完全には冷え切っていない状態で始動が行われる。」ことを前提とした条件である。してみれば、上記(a)の条件に基づく車両データを取得するために、「イグニションスイッチ14のオンから10分以内にエンジンの停止と、エンジンの再始動とを行う」というエンジンが完全には暖まっていない可能性もある特殊な条件が成立したことをもって当該車両データを取得・記録するとは考えがたく、当該(a)及び(b)の条件は、発明の詳細な説明に基づかない主張であると言わざるを得ない。
また、モードファイルAないしDのそれぞれに対応する車両データをRAM8に取得し、所定のトリガ条件によって取得した車両データをデータ記録部9に記録することにより、それぞれのモードごとに、「複数のサイクルに亘ってデータ記録を行うといった場合に有効である」理由についても依然として不明確である。

(4)当審拒絶理由の指摘事項6について
(4)-1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の指摘事項6として、概ね、次の見解を示したところである。すなわち、当審拒絶理由の指摘事項6において、「なぜ、「モードファイルを読み出した場合のそれと比較して短くすむ。」のかが不明確である。」

(4)-2 本件請求人の主張
これに対し、本件請求人は、平成22年11月22日付けで提出された意見書において次のように主張する。
「また、モードファイルは、段落0021に記載されているように、取得内容、取得条件および動作条件から構成されているデータファイルであり、CPUが実行可能なプログラムではない。このため、CPUは、このモードファイルの内容を解読し、その解読された内容に従って動作を行うようにプログラムの設定を変更する必要がある。これに対して、稼働状態の復元は、稼働履歴をデータ記録装置に書き戻すだけの処理である。したがって、段落0051における「稼働状態を再現させたとしても、それに要する時間は、モードファイルを読み出した場合のそれと比較して短くてすむ。」との記載は、これらの処理の時間的な相違を述べたものであり、明確である。」

(4)-3 当審の判断
しかしながら、本件請求人の主張は、上記(2)-3の最終段落で既に述べたとおり、失当である。

5.むすび
したがって、本件出願は、依然として、明細書及び特許請求の範囲の記載に不備が認められるため、特許法第36条第4項第1号並びに同法同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-13 
結審通知日 2011-01-18 
審決日 2011-02-02 
出願番号 特願2004-55042(P2004-55042)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F02D)
P 1 8・ 536- WZ (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松下 聡  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 加藤 友也
鈴木 貴雄
発明の名称 データ記録装置およびデータ記録方法  
代理人 久米川 正光  
代理人 福井 仁  

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