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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A41D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41D
管理番号 1234160
審判番号 不服2010-9119  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-28 
確定日 2011-03-16 
事件の表示 特願2005-145837「スポーツウェア」拒絶査定不服審判事件〔平成18年6月8日出願公開、特開2006-144210〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年5月18日(優先権主張平成16年10月19日)の出願であって、平成22年1月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年4月28日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に同日付けの手続補正がなされたものである。

2 平成22年4月28日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
本件手続補正を却下する。
〔理由〕
(1)補正後の本願発明
本件手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】人体の皮膚面に対し滑りの良い素材を用いて人体に密着する衣服体を構成し、この衣服体の内面に、人体の皮膚面に対し衣服体より摩擦抵抗が大きく滑りにくい素材を用いて抵抗ライン部を形成し、この抵抗ライン部は、編み組織により表面に凹凸を形成してこの表面の凹凸により人体の皮膚面との摩擦抵抗を高める構成として、この抵抗ライン部の人体の皮膚面に対する密着位置が、衣服体の他の密着する内面よりも変動しにくい構成とすると共に、この抵抗ライン部よりも人体の皮膚面に対する摩擦抵抗が小さい前記衣服体の他の密着する内面は、皮膚面に密着するが皮膚面に対して滑り易い構成とし、前記衣服体と前記抵抗ライン部とは、伸縮性を有する構成とすると共に、この抵抗ライン部の伸縮性を、衣服体の伸縮性よりも小さく設定し、この抵抗ライン部は、人体にテープを巻き、筋肉,関節等の動きを規制して挫傷,打撲,肉離れ,捻挫,骨折等を防止するテーピング効果と同様な効果を生じ得る方向に形成したことを特徴とするスポーツウェア。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である、抵抗ライン部を形成する素材の摩擦抵抗について、「衣服体より」との限定事項を付加し、同請求項1に記載された発明を特定する事項である「抵抗ライン部」について、「この抵抗ライン部は、編み組織により表面に凹凸を形成してこの表面の凹凸により人体の皮膚面との摩擦抵抗を高める構成として」との限定事項を付加し、同請求項1に記載された発明を特定する事項である「衣服体」について、「この抵抗ライン部よりも人体の皮膚面に対する摩擦抵抗が小さい」との限定事項及び「衣服体の他の密着する内面は、皮膚面に密着するが皮膚面に対して滑り易い構成とし」との限定事項を付加するものであり、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2000-328305号公報(以下、「引用例」という。)には、次の記載がある。
「【0008】この発明は…安価で簡単に製造可能で、身体の各部位に適した形状で適切な強さでサポートすることができる運動用被服…を提供することを目的とする。」
「【0009】【課題を解決するための手段】この発明は、体表面に密着して着用される伸縮性素材によって構成されている運動用被服で、高い伸縮性を有する生地で形成されている伸縮部と、上記伸縮部とは異なる素材構造又は異なる素材構成を持ちかつ上記伸縮部より緊締力に富む伸縮性を有する生地で形成されている緊締部が設けられ、上記緊締部は、上記伸縮部から連続して一体に所定の形状に設けられ、身体の所望の部位に当接しその部位をサポートする運動用被服である。」
「【0015】【発明の実施の形態】…図1?図3はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態の運動用被服は、ウエストラインから踝に達するスパッツ10である。スパッツ10の表面で一番広い面積を占め、高い伸縮性を有する生地で形成されている伸縮部12は組織Aで形成され、組織Aは地糸(2本)で編まれた横編み、平編み(プレーン編み)により形成されている。伸縮部12以外の部分は、その他の編み組織B,C,D,Eで形成された緊締部として設けられ、これらは緊締力の強い横編み、タック編みの変形組織により形成する。…」
「【0018】膝下緊締部14の上方には、膝下緊締部14の膝外側に位置する上端部から連続して帯状に設けられ、膝の外側から膝蓋の上方を通って大腿部内側に達する長内転筋緊締部16が設けられている。長内転筋緊締部16は、外側側副靱帯から外側広筋や大腿直筋の下端部付近をサポートし、さらに内側広筋と長内転筋に沿ってサポートする。長内転筋緊締部16の作用は、膝及び膝周辺のサポートによる下肢の安定、膝のねじれ防止を行う。
【0019】長内転筋緊締部16は組織Bで設けられ、地糸(2本)で編まれ、タック編みを使った変化組織である。組織としては、組織Cの次に張力、厚みがあり、組織Cに次いで強いサポート力を有している。特に、縦方向の伸びが必要な部分等のサポートに使用されている。
【0020】さらに、膝下緊締部14の上方には、膝下緊締部14の膝内側に位置する上端部から連続して帯状に設けられ、膝の内側から膝蓋の上方を通って長内転筋緊締部16と交差し、さらに大腿部の外側を通って大転子に達する外側広筋緊締部18が設けられている。外側広筋緊締部18は、内側足幅靱帯から内側広筋や大腿直筋の下端部付近をサポートし、さらに外側広筋に沿ってサポートする。外側広筋緊締部18の作用は長内転筋緊締部16と同様に膝及び膝周辺のサポートによる下肢の安定、膝のねじれ防止を行う。そして、外側広筋緊締部18は、組織Bで設けられている。」
「【0023】そして、膝の側方から脚上部にかけて、膝下緊締部14の膝外側に位置する部分から連続して帯状に設けられ、外側広筋緊締部18の外側に沿って大腿二頭筋緊締部20の下端部に達し、さらに大腿二頭筋緊締部20の内側に沿って腰付近へ達する腸脛靱帯緊締部24が設けられている。腸脛靱帯緊締部24は、膝外側より大腿筋膜張筋にかけて腸脛靱帯をサポートし、その作用は腿の上げ下げ、膝の曲げ伸ばしの補助、支持脚の補助を行う。そして、腸脛靱帯緊締部24は組織Dで設けられ、組織Dは地糸(2本)で編まれ、タック編みを使った変化組織である。組織としては、組織Bの次に張力があり、組織Aより厚みがある。そして縦方向の伸びが必要な部分等のサポートに使用され、組織Bより弱めにサポートする。」
「【0030】…タック編みは平編み組織と比べて組織の凹凸があり、組織の凹凸は身体の縦方向にすじ状に現れるためそれが人体と衣服との摩擦抵抗を増加させ、運動用被服の位置ずれ、特に横方向の位置ずれを防ぐ効果がある。」
「【0037】【発明の効果】この発明の運動用被服は、着用するだけで人体の各部分を最適な状態でサポートするテーピング機能が得られるものである。…」
以上の記載及び図1ないし図3によれば、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。
「体表面に密着して着用される運動用被服であって、高い伸縮性を有する平編み組織の生地で形成されている伸縮部と、伸縮部より緊締力に富み伸縮性を有するタック編みの変化組織の生地で形成されている帯状の緊締部とが設けられ、緊締部が身体の所望の部位に当接しその部位をサポートするテーピング機能が得られる運動用被服。」

(3)対比
本願補正発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明の「運動用被服」は本願補正発明の「スポーツウェア」に相当し、両者は共に、面倒なテーピング作業を要せず単に人体に着用するだけでテーピングと同様の作用・効果が得られるスポーツウェアに関する(本願明細書段落【0010】、【0011】)、引用例の段落【0037】参照。)ものである。
本願補正発明の「人体の皮膚面に対し滑りの良い素材を用いて…衣服体を構成し」における「皮膚面に対し滑りの良い」は、本願明細書段落【0030】の「この衣服体2は、人体1の皮膚面に対し摩擦抵抗の小さい素材、即ち皮膚に対して滑りの良い素材を縫製して構成している」との記載に照らすと、皮膚面に対し摩擦抵抗の小さいことを意味するものと解される。
一方、引用例には、タック編みは平編み組織と比べて組織の凹凸があり、組織の凹凸が人体と衣服との摩擦抵抗を増加させ、運動用被服の位置ずれを防ぐ効果がある旨記載されており(段落【0030】参照)、引用例記載の発明における「平編み組織の生地」は、本願補正発明における「人体の皮膚面に対し滑りの良い素材」に相当し、引用例記載の発明における「タック編みの変化組織の生地」は、本願補正発明における「人体の皮膚面に対し摩擦抵抗が大きく滑りにくい素材」に相当するといえる。
引用例記載の発明では、タック編みの変化組織の生地で形成されている緊締部は、組織の凹凸があり、組織の凹凸が人体と衣服との摩擦抵抗を増加させ、運動用被服の位置ずれを防いでいる。すなわち、緊締部は、編み組織により形成された凹凸により人体の皮膚面との摩擦抵抗を高め、その人体の皮膚面に対する密着位置が、平編み組織の生地で形成されている皮膚面に対する摩擦抵抗が小さい伸縮部の内面よりも、ずれにくくなっている。
さらに、緊締部が身体の所望の部位に当接しその部位をサポートするテーピング機能が得られることから、緊締部はテーピング機能が得られる方向に形成されているものと認められ、引用例記載の発明の「帯状の緊締部」は、本願補正発明の「抵抗ライン部」に相当する。そして、引用例記載の発明の「伸縮部」は、本願補正発明の「衣服体」に相当する。
そうすると、両者は、
「人体の皮膚面に対し滑りの良い素材を用いて人体に密着する衣服体を構成し、この衣服体の内面に、人体の皮膚面に対し衣服体より摩擦抵抗が大きく滑りにくい素材を用いて抵抗ライン部を形成し、この抵抗ライン部は、編み組織により表面に凹凸を形成してこの表面の凹凸により人体の皮膚面との摩擦抵抗を高める構成として、この抵抗ライン部の人体の皮膚面に対する密着位置が、衣服体の他の密着する内面よりも変動しにくい構成とすると共に、この抵抗ライン部よりも人体の皮膚面に対する摩擦抵抗が小さい前記衣服体の他の密着する内面は、皮膚面に密着するが皮膚面に対して滑り易い構成とし、前記衣服体と前記抵抗ライン部とは、伸縮性を有する構成とすると共に、この抵抗ライン部は、人体にテープを巻き、筋肉,関節等の動きを規制して挫傷,打撲,肉離れ,捻挫,骨折等を防止するテーピング効果と同様な効果を生じ得る方向に形成したことを特徴とするスポーツウェア」
である点で一致し、次の点で相違する。
《相違点》
本願補正発明では、抵抗ライン部の伸縮性を、衣服体の伸縮性よりも小さく設定しているのに対して、引用例記載の発明では、そのように特定されていない点。

(4)相違点の検討
そこで、上記相違点について検討する。
引用例記載の発明における伸縮部(本願補正発明の「衣服体」に相当。)と緊締部(本願補正発明の「緊締部」に相当。)の伸縮性について、引用例の段落【0009】には、「高い伸縮性を有する生地で形成されている伸縮部」、「伸縮部より緊締力に富む伸縮性を有する生地で形成されている緊締部」と記載されている。
引用例記載の発明では、緊締部が身体の所望の部位に当接し、その部位をサポートするテーピング機能が得られるが、「テーピング」は、本願明細書にも記載されているように、筋肉等を保護し、挫傷、打撲、肉離れ、捻挫、骨折等のスポーツ障害の予防、再発を防止するために、テープを貼った方向の関節や筋肉等の動きを規制して関節、筋肉等を補強し、或いはテープを巻き付けることでその部分に不必要な力が加わらないようにすること(段落【0036】参照)であるから、テーピング機能を有する緊締部は、関節や筋肉等の動きを規制する働きがあるといえる。
そして、本願補正発明における伸縮部と緊締部の伸縮性が、どのような測定方法によって比較されたものなのか明らかではないが、引用例記載の発明において、伸縮部と緊締部に一定の力をかけた場合、関節や筋肉等の動きを規制する働きがある緊締部の伸びる量は、高い伸縮性を有する伸縮部の伸びる量よりも少ないものと認められるから、引用例記載の発明において、伸縮部と緊締部の伸縮性について、相違点に係る本願補正発明のように特定することは、当業者であれば容易になし得たことである。
しかも、本願補正発明が奏する効果も、引用例記載の発明から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用例記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)まとめ
以上のとおり、本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件手続補正は却下されたので、本願の請求項1及び請求項2に係る発明は、平成19年3月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】人体の皮膚面に対し摩擦抵抗が小さく滑りの良い素材を用いて人体に密着する衣服体を構成し、この衣服体の内面に、人体の皮膚面に対し摩擦抵抗が大きく滑りにくい素材を用いて抵抗ライン部を形成して、この抵抗ライン部の人体の皮膚面に対する密着位置が、衣服体の他の密着する内面よりも変動しにくい構成とし、前記衣服体と前記抵抗ライン部とは、伸縮性を有する構成とすると共に、この抵抗ライン部の伸縮性を、衣服体の伸縮性よりも小さく設定し、この抵抗ライン部は、人体にテープを巻き、筋肉,関節等の動きを規制して挫傷,打撲,肉離れ,捻挫,骨折等を防止するテーピング効果と同様な効果を生じ得る方向に形成したことを特徴とするスポーツウェア。」
(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明1」という。)

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記2(2)に記載したとおりである。

(3)対比・検討
本願発明1は、上記2(1)で検討した本願補正発明から、抵抗ライン部を形成する素材の摩擦抵抗について限定する「衣服体より」との事項を省き、「抵抗ライン部」について限定する「この抵抗ライン部は、編み組織により表面に凹凸を形成してこの表面の凹凸により人体の皮膚面との摩擦抵抗を高める構成として」との事項を省き、「衣服体」について限定する「この抵抗ライン部よりも人体の皮膚面に対する摩擦抵抗が小さい」との事項及び「衣服体の他の密着する内面は、皮膚面に密着するが皮膚面に対して滑り易い構成とし」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明1を特定する事項を全て含み、さらに他の特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2(4)に記載したとおり、引用例記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、引用例記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-17 
結審通知日 2011-01-20 
審決日 2011-02-01 
出願番号 特願2005-145837(P2005-145837)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41D)
P 1 8・ 575- Z (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二ッ谷 裕子平田 信勝  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 豊島 ひろみ
鳥居 稔
発明の名称 スポーツウェア  
代理人 吉井 剛  
代理人 吉井 雅栄  

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