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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1234196
審判番号 不服2007-34258  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-20 
確定日 2011-03-22 
事件の表示 特願2004-379107「飲料用脱気水の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日出願公開、特開2006-181507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年12月28日の出願であって、平成19年5月23日付けで拒絶理由が起案され、平成19年7月27日に意見書並びに特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正書が提出され、平成19年8月20日付けで最後の拒絶理由が起案され、平成19年10月22日に意見書が提出され、平成19年11月8日付けで拒絶査定が起案され、平成19年12月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成20年1月21日に明細書に係る手続補正書が提出されたものである。その後、平成22年8月10日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋を通知し、期間を指定して請求人の意見を求めたところ、請求人からの回答書の提出が無かったものである。
よって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年7月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】
ケーシングの一方から送水し、他方側から脱気水を排出する脱気水製造装置を用いて製造され、
前記脱気水製造装置は、ケーシング内に、中空糸モジュールが送水方向と平行に設置され、且つ前記ケーシングの外周壁面に脱気開口部を備えた排気管を設けると共に、該排気管は真空ポンプに連結されると共に、前記ケーシングの上流側には、脱塩素フィルターを配設して形成され、
更に、前記真空ポンプの到達真空度約-0.1MPa、ケーシングの長さ300mm、径30mm、ケーシング内に送水する送水圧力3Kg/cm^(2)、中空糸モジュールの全体の長さ250mm、径25mmに設定された脱気水製造装置を用いて、飲料水中に溶け込んでいる酸素を、減圧脱気処理して水中の溶存酸素濃度を1?4ppmまで脱気することを特徴とする飲料用脱気水の製造方法。

2.引用文献の記載事項
2-1.原査定の拒絶の理由に引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-258304号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「食品加工水のための給水ライン(1)中に溶存酸素濃度を3ppm以下とする膜式脱酸素装置(2)及び、活性炭濾過装置(3)を挿入したことを特徴とする食品加工水製造装置。」(特許請求の範囲)
(イ)「一方、食品加工水として水道水を用いる場合は、その臭気が問題となり、とりわけ都心部においてはカビ臭、土臭、カルキ臭等の成分が強いことから、脱気水を用いると、臭気が酸化分解されにくく、却ってそれが強くなる傾向がある。」(第1頁右欄9?13行)
(ウ)「この発明によれば、膜式脱酸素装置により原水(食品加工水)中の溶存酸素濃度を3ppm以下とし、さらに、活性炭濾過装置により臭気を除去することができ、食品加工水を供給する一連の系路を通して最適の水を連続供給することができる。」(第2頁左上欄2?6行)
(エ)「以下、この発明の好ましい実施例を図面に基づいて説明する。
図中(1)は、食品加工水を供給するための給水ラインで、このライン中には、プレフィルター(4)、膜式脱酸素装置(2)及び活性炭濾過装置(3)を挿入してある。前記プレフィルター(4)は、原水中の砂や浮遊物を除去するためのものであり、前記膜式脱酸素装置(2)及び活性炭濾過装置(3)の上流位置に設けたものを使用する。
前記膜式脱酸素装置(2)は、例えば中空糸状気体透過膜(5)を用い、その外周を真空ポンプ(6)で真空状態にして、膜中を流れる原水中の溶存酸素が該層を通して、3ppm以下になるように構成してある。(7)は減圧弁、(8)は定流量弁、(9)、(10)は電磁弁、(11)はフロースイッチを示す。これらのうち、フロースイッチ(11)は、その出力信号により、真空ポンプ(6)の稼動及び電磁弁(9)、(10)の開閉を制御するように働く。即ち、該脱酸素装置内を原水が流れると、該フロースイッチが作動して、真空ポンプ(6)をONにするとともに、2つの電磁弁(9)、(10)を開状態にするようになっている。尚、活性炭濾過装置(3)は、臭気物質、例えばカルキ臭の素となる塩素等を除去するためのものである。
尚、活性炭濾過装置(3)は、膜式脱酸素装置(2)の下流位置に設けるのが望ましい。即ち、膜式脱酸素装置(2)内での雑菌の繁殖を防止する為に、殺菌効果のある原水中の塩素成分の除去は、膜式脱酸素装置通過後が良い。」(第2頁左上欄8行?同頁右上欄15行)として、第3頁左上欄には、「この発明の一実施例を示す系統図」である第1図及び「この発明における膜式脱酸素装置の一実施例を示す系統図」である第2図が記載されている。
(オ)「上述の製造装置による食品加工水の用途としては、各種農産物、畜産物及び水産物の浸漬、水煮等がある他、野菜・豆類・穀類の浸漬や煮炊き、海草類の水もどし、乾燥物の水もどし、或いはダシの製造(例:鰹節による)にもそれを効果的に適用することができる。この発明は、各種飲料水(コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶等)の抽出や希釈、薬草からの薬効成分の抽出、汁物の調理などにも用いることができ、醤油や酒類(日本酒、ワイン等)を製造する際にも利用することが可能である。」(第2頁右上欄16行?同頁左下欄6行)
(カ)「第3図、第4図の表に、コーヒーの抽出及び魚の煮炊きについて、この発明の食品加工水製造装置を用いた場合とそうでない場合を比較して示す。」(第2頁左下欄7?9行)として、第3頁右上欄には、「(1)コーヒーの抽出」について水質が「水道水」、「水道水を脱酸素したもの」、「水道水を活性炭濾過したもの」、「水道水を脱酸素・活性炭濾過したもの」のそれぞれについて、塩素臭と風味を評価した結果を示す第3図が記載されている。

2-3.原査定の拒絶の理由に引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-355667号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 塩素及び高分子有機物の吸着剤或いは該吸着剤と多孔質の中空糸膜からなる浄水器に、容器と該容器内に位置する複合中空糸膜と、該複合中空糸膜の端部を支持し、複合中空糸膜の中空部に連通する空間と複合中空糸膜の外表面に連通する空間とを隔離する隔壁とを有し、(1)複合中空糸膜の中空部に揮発性の有機物を含む水溶液を流すための導入口と導出口及び(2)複合中空糸膜の外表面と容器の内壁面とで構成される空間内のガスを排気する排気口と外部の空気を取り込む吸気口が設けられてなる水中溶存有機物除去装置を取り付けてなり、
前記複合中空糸膜が、均質膜(A)及び補強機能を受け持つ多孔質膜(B)からなる多層複合中空糸膜であって、均質膜(A)と多孔質膜(B)は交互に積層され、該多層複合中空糸膜の水溶液と接する側の層および水溶液と接しない側の層が、いずれも多孔質膜(B)である構造を有し、
複合中空糸膜の水と接する側と反対側の多孔質層(B)のガスを中空糸膜面積あたり3Nl/min/m^(2) 以上の換気速度で容器外部の空気と交換する吸気装置が設けられていることを特徴とする水中溶存有機物の除去システム。」(特許請求の範囲 請求項1)
(イ)「図1は、本発明の水中溶存有機物の除去システムの好適な一例を示す概念図である。揮発性有機物を含んだ水溶液は、水導入口2より除去システムに導入され、吸着剤或いは吸着剤と多孔膜を用いた浄水器Aに、浄水器Aの水導入口4より供給され浄水器Aの水導出口5より導出され、水中溶存有機物除去装置Bへ送水される。浄水器Aを通った水は、除去モジュールCの水導入口6より除去モジュールCへ供給される。
除去モジュールCを通った水は、除去モジュールCの水導出口7より除去システムの水導出口3へ導出され、除去システムの外の飲み口へ供給される。除去モジュールCの空隙内に存在するガスを換気するために減圧器(吸気ブロアー)10により除去モジュールC内を陰圧にし、除去システムに外気を吸い込む外気吸気口11より除去システム内に外気を吸い込むことにより、外気は除去モジュールCの外気吸気口8をとおりモジュールC内へ供給される。
除去モジュールCの複合中空糸膜外壁と容器20との間に形成される空隙に存在する揮発性有機ガスを含むガスは、除去モジュールCの排気口9より減圧器10により排気され、除去システムの排気口12より外気へ排気される。」(段落【0010】?【0012】)として、第5頁に「本発明の水中溶存有機物の除去システムの好適な一例を示す概念図」である【図1】が記載されている。
(ウ)「除去モジュールCの一例を図3に示す。除去モジュールCは、容器20と複合中空糸膜18及び接着剤からなる隔壁19により構成されるものである。水は、除去モジュールCの水導入口6より除去モジュールCへ供給され、複合中空糸膜18の中空部を通って除去モジュールCの水導出口7より導出される。外気は、除去モジュールCの外気吸気口8より除去モジュールCの複合中空糸膜18、接着剤からなる隔壁19及び容器20に囲まれた空隙に吸気され、除去モジュールCの排気口9より減圧器10で排気される。」(段落【0014】)として、第5頁に「本発明の水中溶存有機物の除去システムに使用する除去モジュールの一例を示す概念図」である【図3】が記載されている。
(エ)「本発明は、図1に示すように浄水器Aで処理された水を除去モジュールCで処理してもよいし、図4に示すように除去モジュールCで処理された水を浄水器Aで処理してもよい。」(段落【0025】)として、第5頁に「本発明の水中溶存有機物の除去システムの好適な他の例を示す概念図」である【図4】が記載されている。

3.対比・判断
引用文献1には、記載事項(ア)に「食品加工水のための給水ライン(1)中に溶存酸素濃度を3ppm以下とする膜式脱酸素装置(2)及び、活性炭濾過装置(3)を挿入した」「食品加工水製造装置」が記載され、記載事項(ウ)には、記載事項(ア)に記載された装置が、「膜式脱酸素装置により原水(食品加工水)中の溶存酸素濃度を3ppm以下とし」、「活性炭濾過装置により臭気を除去」し、「食品加工水」を供給するものであることが記載されている。
そして、記載事項(エ)には、「膜式脱酸素装置(2)」について、「中空糸状気体透過膜(5)を用い、その外周を真空ポンプ(6)で真空状態にして、膜中を流れる原水中の溶存酸素が該層を通して、3ppm以下になるように構成し」たものであることが記載され、第2図には「膜式脱酸素装置(2)」の一方から原水を送水し、他方から処理水を排出することが図示されている。また、記載事項(エ)には、「活性炭濾過装置(3)」について、「塩素等を除去するためのもの」であり、「膜式脱酸素装置(2)の下流位置に設ける」ことが記載されている。
さらに、記載事項(オ)には、記載事項(ア)に記載された製造装置による食品加工水の用途が記載され、「各種飲料水(コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶等)の抽出や希釈」に用いることが記載されている。
そこで、上記記載を総合すると、引用文献1には、
「一方から原水を送水し、他方から処理水を排出する膜式脱酸素装置及び活性炭濾過装置を用いて製造され、前記膜式脱酸素装置は、中空糸状気体透過膜を用い、その外周を真空ポンプで真空状態にして、膜中を流れる原水中の溶存酸素が該層を通して、3ppm以下になるように構成したものであり、前記膜式脱酸素装置の下流位置に塩素等を除去するための前記活性炭濾過装置を設け、前記膜式脱酸素装置により原水中の溶存酸素濃度を3ppm以下とし、前記活性炭濾過装置により臭気を除去した各種飲料水(コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶等)の抽出や希釈に用いる食品加工水の製造方法。」
の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているものと認められる。

本願発明と引用1発明を対比すると、
引用1発明の「活性炭濾過装置」は、「塩素等を除去するための」ものであるから、本願発明の「脱塩素フィルター」に相当し、引用1発明の「膜式脱酸素装置」と「活性炭濾過装置」を併せたものが、本願発明の「脱気水製造装置」に相当する。
また、引用1発明の「膜式脱酸素装置」が「ケーシング」を備えたものであること、引用1発明の「中空糸状気体透過膜」が「中空糸モジュール」として「ケーシング」内に設置されること、「真空ポンプ」は「ケーシング」に連結されることは技術常識からみて明らかである。
そして、引用1発明の「原水」と本願発明の「飲料水」は、いずれも「被処理水」といえるものであり、引用1発明の「膜式脱酸素装置」は「膜中を流れる原水中の溶存酸素が該層を通して、3ppm以下になるように構成した」ものであるから、引用1発明の「処理水」、「食品加工水」は、いずれも「脱気水」といえるものである。
さらに、引用1発明も、「膜式脱酸素装置」を用いて、原水中に溶け込んでいる酸素を減圧脱気処理して水中の溶存酸素濃度が所定の範囲になるまで脱気していることは明らかであり、しかも、引用1発明と本願発明とはその溶存酸素濃度の範囲が「1?3ppm」の範囲で重複するから、引用1発明と本願発明は、「脱気水製造装置を用いて、被処理水中に溶け込んでいる酸素を、減圧脱気処理して水中の溶存酸素濃度を1?3ppmまで脱気する」点で共通する。
そして、引用1発明の「食品加工水」は、「各種飲料水(コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶等)の抽出や希釈に用いる」ものであるから「飲料用」であり、上述のとおり「脱気水」といえるものであるから、結局、「飲料用脱気水」といえるものである。
してみると、両者は、
「ケーシングの一方から送水し、他方側から脱気水を排出する脱気水製造装置を用いて製造され、前記脱気水製造装置は、ケーシング内に、中空糸モジュールが設置され、且つ前記ケーシングは真空ポンプに連結されると共に、脱塩素フィルターを配設して形成され、脱気水製造装置を用いて、被処理水中に溶け込んでいる酸素を、減圧脱気処理して水中の溶存酸素濃度を1?3ppmまで脱気する飲料用脱気水の製造方法」
で一致し、次の点で相違する。

相違点a:本願発明は、「脱気水製造装置」が、「中空糸モジュールが送水方向と平行に設置され、且つ前記ケーシングの外周壁面に脱気開口部を備えた排気管を設けると共に、該排気管は真空ポンプに連結され」たものであり、「更に、前記真空ポンプの到達真空度約-0.1MPa、ケーシングの長さ300mm、径30mm、ケーシング内に送水する送水圧力3Kg/cm^(2)、中空糸モジュールの全体の長さ250mm、径25mmに設定された」ものであるのに対し、引用1発明は、中空糸モジュールの設置の方向、ケーシングと真空ポンプの接続構造について特定がなく、更に、真空ポンプの到達真空度、ケーシングの長さ及び径、ケーシング内に送水する送水圧力、中空糸モジュールの全体の長さ及び径についても特定がない点
相違点b:本願発明は、「脱塩素フィルター」が、「前記ケーシングの上流側」に配設されているのに対し、引用1発明は、ケーシングの下流側に配設されている点
相違点c:本願発明は、「被処理水」が、「飲料水」であるのに対し、引用1発明は「原水」である点

そこで、相違点aについて検討する。
まず、ケーシング内における中空糸モジュールの設置方向について検討すると、引用1発明の「膜式脱酸素装置」は、「膜中を流れる原水中の溶存酸素が該層を通して、3ppm以下になるように構成したもの」であるから、中空糸内に被処理水を流して脱気処理を行うものである。よって、中空糸内へ被処理水がスムーズに流入するよう中空糸モジュールを送水方向と平行に設置することは、当業者が通常行うことである。
次に、ケーシングと真空ポンプの接続構造について検討すると、中空糸モジュールの外周を真空ポンプで真空状態にするために中空糸モジュールが設置されたケーシングと真空状態を連結するに際し、ケーシングの外周壁面に脱気開口部を備えた排気管を設け、この排気管を真空ポンプに連結することは、当業者が通常行うことに過ぎない。
さらに、真空ポンプの到達真空度、ケーシングの長さ及び径、ケーシング内に送水する送水圧力、中空糸モジュールの全体の長さ及び径についての特定について検討すると、そもそも、中空糸モジュールを用いて被処理水中に溶け込んでいる酸素を減圧脱気処理するに際し、脱気の程度が、中空糸を構成する膜の酸素透過性能、中空糸を構成する膜の膜面積、中空糸内を通る被処理水の流量、中空糸の外周の真空度、さらには被処理水の温度などにより決定されることは、当該技術分野における技術常識である。よって、中空糸モジュールを用いて被処理水中の溶存酸素量を所望の値にまで脱気するために、所望の酸素透過性能を有する中空糸膜を選択し、選択した中空糸膜に応じて、必要な膜面積が得られるよう、中空糸モジュールを構成する中空糸の径、長さ及び本数が適切な中空糸モジュールを選択すること、選択した中空糸モジュールを構成する中空糸の内径及び本数に応じて、中空糸内を通る被処理水の流量が所望の値になるよう、ケーシング内に送水する送水圧力を定めること、中空糸の外周の真空度を所望の値にするのに十分な性能を有する真空ポンプを選択することは、当業者が通常行うことである。
してみれば、引用1発明において、中空糸の外周の真空度を所望の値にするために十分な性能を有する真空ポンプとして到達真空度約-0.1MPaの真空ポンプを用い、必要な膜面積を備えた中空糸モジュールとして、中空糸モジュールの全体の長さ250mm、径25mmのものを用い、その中空糸モジュールを内部に配置するためにケーシングの長さを300mm、径を30mmに設定し、さらに中空糸内を通る被処理水の流量を所望の値とするためにケーシング内に送水する送水圧力を3Kg/cm^(2)に設定することは、選択した中空糸を構成する膜の酸素透過性能、中空糸モジュールを構成する中空糸の寸法などに応じて当業者が適宜定め得たことである。

次に、相違点bについて検討する。
引用文献2の記載事項(ア)には、「塩素及び高分子有機物の吸着剤・・・からなる浄水器」に、「水中溶存有機物除去装置」を取り付けてなる「水中溶存有機物の除去システム」が記載されている。このシステムについて、記載事項(イ)には、「揮発性有機物を含んだ水溶液は、・・・除去システムに導入され、吸着剤・・・を用いた浄水器Aに、・・・供給され・・・、水中溶存有機物除去装置Bへ送水される」こと、「浄水器Aを通った水は、除去モジュールC・・・へ供給され」、「除去モジュールCを通った水は、・・・、除去システムの外の飲み口へ供給される」ことが記載され、記載事項(エ)には、「本発明は、図1に示すように浄水器Aで処理された水を除去モジュールCで処理してもよいし、図4に示すように除去モジュールCで処理された水を浄水器Aで処理してもよい」ことが記載されている。
引用文献2の記載事項(ウ)の記載からみて、「除去モジュールC」は、本願発明の「ケーシング」に相当する「容器20」内に「複合中空糸膜18」のモジュールが設置されたものであると認められるから、引用文献2には、中空糸モジュールと塩素の吸着剤とで被処理水を処理して飲料水を製造する装置において、塩素の吸着剤を、中空糸モジュールの下流側に配設することと、中空糸モジュールの上流側に配設することが共に記載されているといえる。
一方、引用文献1には、記載事項(エ)に「活性炭濾過装置(3)は、膜式脱酸素装置(2)の下流位置に設けるのが望ましい。即ち、膜式脱酸素装置(2)内での雑菌の繁殖を防止する為に、殺菌効果のある原水中の塩素成分の除去は、膜式脱酸素装置通過後が良い。」との記載がある。そして、引用文献1の記載を検討しても、「活性炭濾過装置(3)」と「膜式脱酸素装置(2)」の位置関係が「活性炭濾過装置(3)」の塩素等を除去する機能及び「膜式脱酸素装置(2)」の脱酸素機能に影響を及ぼすことについて記載も示唆もないことからみて、引用1発明では、中空糸モジュール内での雑菌の繁殖を防止する為だけに、脱塩素フィルターをケーシングの下流側に設けているものと認められる。
してみれば、中空糸モジュール内での雑菌の繁殖が許容の範囲内であれば、引用1発明において、脱塩素フィルターをケーシングの上流側に配設するようにすることは、当業者が必要に応じて適宜為し得たことであると認められる。

最後に、相違点cについて検討する。
引用文献1の記載事項(イ)には、「食品加工水として水道水を用いる場合は、その臭気が問題となり、とりわけ都心部においてはカビ臭、土臭、カルキ臭等の成分が強いことから、脱気水を用いると、臭気が酸化分解されにくく、却ってそれが強くなる傾向がある。」との記載がある。また、引用文献1の記載事項(カ)には、コーヒーの抽出に「水道水を脱酸素・活性炭濾過したもの」を用いた例が記載されている。
してみれば、引用1発明において「原水」が「水道水」を含んでいることは明らかであり、また、「水道水」が「飲料水」であることも明らかである。
よって、相違点cは実質的な相違点であるとは認められない。

そして、本願明細書及び図面の記載を検討しても、脱気水製造装置の真空ポンプの到達真空度を約-0.1MPaに特定し、ケーシングの長さを300mm、径を30mmに特定し、ケーシング内に送水する送水圧力を3Kg/cm^(2)に特定し、さらに中空糸モジュールの全体の長さを250mm、径を25mmに特定したことにより、また、脱気水製造装置の脱塩素フィルターの配設位置をケーシングの上流側としたことにより、この脱気水製造装置を用いて、飲料水中に溶け込んでいる酸素を減圧脱気処理して水中の溶存酸素濃度を1?4ppmまで脱気する飲料用脱気水の製造方法の発明である本願発明において、格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。

さらに、本願発明の方法により製造された脱気水の効果についても検討すると、本願明細書の段落【0029】?【0041】には、本願発明の製造方法により製造された溶存酸素濃度2ppmの脱気水と、浄水とを5人の被験者に飲用してもらい、それらの飲用が生体にどう影響するかを皮膚のインピーダンス変化を測定し求めた結果が記載されている。
しかし、この記載を検討しても、この脱気水を飲用した際の皮膚のインピーダンス変化は確認できるものの、浄水を飲用した際の皮膚のインピーダンス変化が確認できない。
即ち、【表6】?【表10】には、被験者それぞれについて、左から順に「飲用前」、「脱気水飲用直後」、「5分後」における「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」の値が記載されており、これらの値から本願発明の方法により製造された脱気水を飲用した際の皮膚のインピーダンス変化は一応確認できる。しかし、浄水を飲用した際の皮膚のインピーダンス変化について、【表6】?【表10】には、さらに「浄水飲用直後」、「5分後」における「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」の値は記載されているものの、浄水を飲用する前における「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」の値が明確でない。段落【0034】に「表7に結果をまとめた。BP平均値が・・・。浄水を飲んだ直後下降し、・・・。」との記載があるのに対し、【表7】の「浄水飲用直後」における「BP平均値」の値は「飲用前」における「BP平均値」の値より高いこと、段落【0036】の記載と【表8】の「BP平均値」の値の関係、段落【0038】の記載と【表9】の「BP平均値」の値の関係も同様であることからみて、【表6】?【表10】に記載された「飲用前」における「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」の値が、浄水を飲用する前における「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」の値であると解することはできない。よって、浄水を飲用する前における「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」の値が不明であるため、浄水を飲用することにより「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」がどの様に変化したのか、【表6】?【表10】の記載からは確認することはできない。
してみると、本願明細書の段落【0029】?【0041】の記載からは、本願発明の方法により製造された脱気水を飲用した際の皮膚のインピーダンス変化は確認できるものの、浄水を飲用した際の皮膚のインピーダンス変化が確認できないから、段落【0042】に記載された「浄水は、脱気水に比べBP平均値を下げ、気の流れを滞らせ、防衛機能を衰えさせる作用をする」ことは確認できず、また、本願発明の方法により製造された脱気水を飲んだ際には、浄水を飲んだ際と比較して、体液循環及び気の流れを表すとされる「BP平均値」がより高くなり、生体の防衛機能を表すとされる「IQ平均値」がより高くなることも全く確認できない。
仮に、【表6】?【表10】の「浄水飲用直後」欄の左側に記載された「5分後」における「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」の値が、浄水を飲用する前における「BP平均値」、「IQ平均値」、「AP平均値」の値であるとすると、被験者は、脱気水を飲用した5分後に浄水を飲用したことになり、被験者が脱気水を飲用する条件と浄水を飲用する条件が互いに異なることとなる。よって、この場合においても、本願明細書の段落【0029】?【0041】の記載から、本願発明の方法により製造された脱気水を飲んだ際には、浄水を飲んだ際と比較して、体液循環及び気の流れを表すとされる「BP平均値」がより高くなり、生体の防衛機能を表すとされる「IQ平均値」がより高くなることを確認することはできない。

そして、本願明細書及び図面の記載を検討しても、本願発明の方法により製造された脱気水を飲用することにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものは認められない。

よって、本願発明は、引用文献1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、従来、脱気水を飲用に供することはなかったとの前提の下、本願発明の進歩性を主張しているが、例えば、本願明細書に【特許文献1】として記載された特開2004-98046号公報、特開2003-230803号公報、特開平9-155333号公報、実願平3-94666号(実開平5-37384号)のCD-ROMに記載されているとおり、脱気水を飲用に供することは本願出願前既に行われていたことである。しかも、本願明細書及び図面の記載を検討しても、脱気の程度を水中の溶存酸素濃度が1?4ppm程度と限定したことにより当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとも認められない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-28 
結審通知日 2011-01-18 
審決日 2011-01-31 
出願番号 特願2004-379107(P2004-379107)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 光子  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 斉藤 信人
中澤 登
発明の名称 飲料用脱気水の製造方法  
代理人 後田 春紀  
代理人 後田 春紀  
代理人 後田 春紀  

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