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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1234739
審判番号 不服2009-9352  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-30 
確定日 2011-03-31 
事件の表示 特願2006-236216「アルミダイカスト製品の製造方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月13日出願公開、特開2008- 55473〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成18年8月31日の出願であって、平成20年9月26日付けで拒絶理由が通知され、同年12月1日に手続補正書が提出されて手続補正がなされ、平成21年3月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年4月30日に審判請求がなされ、同年5月27日に手続補正書が提出されて手続補正がなされ、同年7月30日付けで前置報告がなされたものである。

第2 平成21年5月27日にした手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の結論]

平成21年5月27日にした手続補正(以下、「本件手続補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件手続補正の内容及び目的
本件手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
金型に加圧充填された溶湯が、凝固過程において凝固収縮することにより鋳造欠陥が生じ易い部位を、局部加圧ピンにより加圧してダイカスト鋳造するアルミダイカスト製品の製造方法において、
前記アルミダイカスト製品の最大肉厚箇所の肉厚を20mm、前記金型の表面温度を250℃±50℃、前記溶湯の温度を680℃±50℃としたダイカスト条件下、前記局部加圧ピンを、金型表面から最凝固遅れ部までの深さ(mm)/最凝固遅れ部の凝固完了時間(s)から予め算定される前記溶湯の凝固界面移動速度によって得られる凝固界面の移動に基づいて追随させるべく、前記局部加圧ピンによる加圧を、前記溶湯の充填完了時より0.4?1.4秒後に開始し、該局部加圧ピンの平均押し込み速度Vを、1.2mm/s<V<2.63mm/sとして押し込み、凝固完了時点まで押し込み続けることを特徴とするアルミダイカスト製品の製造方法。」
と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定する「局部加圧ピンにより加圧してダイカスト鋳造する」との事項について「前記アルミダイカスト製品の最大肉厚箇所の肉厚を20mm、前記金型の表面温度を250℃±50℃、前記溶湯の温度を680℃±50℃としたダイカスト条件下、」との事項及び「前記局部加圧ピンによる加圧を、前記溶湯の充填完了時より0.4?1.4秒後に開始し、該局部加圧ピンの平均押し込み速度Vを、1.2mm/s<V<2.63mm/sとして押し込み、」との事項を付加し、限定するものである。そして、補正後の請求項1に記載された発明と補正前の請求項1に記載された発明とで産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。

したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件手続補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2 引用刊行物
(1) 引用刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特開昭59-156560号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(1-a)「2.特許請求の範囲
(1).ダイカスト鋳造にて充填された溶湯が、半凝固状態にある時点に、鋳造欠陥を生じやすい部位に対し、所定の一定圧力で加圧して鋳造欠陥の発生を防止する局部加圧方法であって、
主型に組み込まれた油圧シリンダによって、鋳造欠陥を生じやすい鋳造製品部に近接したオーバーフロー部を個々に独立して加圧し、しかも、油圧シリンダによる加圧力を、溶湯の充填状態・温度等の条件を加味して制御しつつオーバーフロー部を加圧することを特徴としたダイカスト鋳造の局部加圧方法。」(第1ページ左下欄第4-15行)

(1-b)「3.発明の詳細な説明
本発明は、ダイカスト鋳造の局部加圧方法に関し、詳しくは、アルミダイカスト鋳造における鋳造欠陥防止のための局部加圧技術にかかる。
ダイカスト鋳造において、鋳造欠陥(内部鋳巣)を解消することは、鋳造製品品質を確保する上で重要な課題であり、・・・(中略)・・・まだ、十分な健全性をもった鋳造製品が得られていないのが実状である。」(第1ページ左下欄第16行-右下欄第7行)

(1-c)「上記のような構成のもとで、本発明にかかるダイカスト鋳造の局部加圧方法によれば、溶湯を鋳造方案部2から注湯して、型キャビティ内に充填され、溶湯が半凝固状態にある時点に、図示されないプレッシャースイッチ等により圧力(油圧)を検知して、タイマー等により、加圧ピン5を油圧シリンダ9によって作動させ、オーバーフロー部4を局部加圧するものである。
この油圧シリンダ9は、溶湯の充填の差及び温度の因子があるため、第1図に示す局部加圧部の個々に独立した油圧シリンダ9を用いタイマーセットを各々最適に行うことが望ましい。」(第2ページ右上欄第17行-左下欄第8行)

以上の記載事項(1-a)-(1-c)によれば、引用刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「鋳造欠陥が生じ易い部位を、加圧ピン5により加圧してダイカスト鋳造するアルミダイカスト製品の製造方法。」

(2) 引用刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特開平6-226417号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(2-a)「【請求項1】 加圧ピンの作動開始のタイミングを金型温度が所定値に降下した時点に設定し、作動を開始した後における各時間において、前記加圧ピンのストローク量を計測してこの計測値を予め設定したマスタデータと比較し、両者の差を零にする方向で、前記加圧ピンを作動するシリンダの作動圧力と作動油の流量を制御するとともに、前記加圧ピンの作動開始のタイミングよりも所定時間経過した時点で前記加圧ピンの冷却を開始することを特徴とする加圧ピンの制御方法。」(請求項1)

(2-b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ダイカスト鋳造における加圧ピンの制御方法に関する。」(段落【0001】)

(2-c)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ここで、キャビティ内の溶湯は時間の経過とともに徐々に凝固しており、加圧ピンの効果を最大限に発揮させるためにはこの溶湯の凝固スピードに合ったスピードで加圧ピンを作動させる必要がある。」(段落【0003】)

(2-d)「【0008】
【作用】上記方法によれば、加圧ピンの作動開始のタイミングは金型温度が所定値に達した時点に設定されるので、溶湯が適当な状態にまで凝固した時点で加圧ピンによる加圧が開始される。
【0009】そして、加圧が開始された以後における加圧ピンのストローク量は、この加圧ピンを作動するシリンダの作動油の圧力および流量を制御することで予め設定されたマスタデータに追従するよう制御される。ここに、このマスタデータは、時間の経過とともに変化する溶湯の凝固状態に合わせて各時間における最適なストローク量で設定されている。従って、加圧ピンのストローク量は、時間とともに変化する溶湯の凝固状態に合った最適な状態に制御される。」(段落【0008】-【0009】)

(2-e)「【0012】加圧ピン4は、このキャビティ3の厚肉部内に突き出し可能に、固定金型2に組み込まれている。この加圧ピン4は、複動型式の油圧シリンダ5のロッド先端に同軸に取付けられており、この油圧シリンダ5の作動によってキャビティ3内に突き出され、またキャビティ3内から退去するようになっている。」(段落【0012】)

(2-f)「【0020】次に、上記構成の制御システムにより加圧ピン4の作動および冷却開始のタイミングが以下のようにして制御される。先ず、予めCAEや実際の鋳造テストによって、最適の条件でダイカスト鋳造を行った場合の加圧ピン4の作動状態をマスタデータ(目標値)として求め、これをCPU12に記憶しておく。このマスタデータを図3において実線で示し、Mの符号を付した。また、同図中破線は、実際の鋳造における加圧ピンの作動状態の実測値を示している。」(段落【0020】)

また、引用刊行物2について、以下の事項を認定することができる。

(2-g)引用刊行物2に記載されたダイカスト鋳造によってダイカスト製品が製造されることは明らかである。

上記の記載事項(2-a)ないし(2-f)及び上記の認定事項(2-g)から、引用刊行物2には次の技術的事項が記載されていると認める。
「キャビティ3の厚肉部を、加圧ピン4により加圧してダイカスト鋳造するダイカスト製品の製造方法において、前記加圧ピン4を、溶湯の凝固スピードに合ったスピードで作動させる、ダイカスト製品の製造方法。」

3 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「加圧ピン5」は、本件補正発明の「局部加圧ピン」に相当する。
また、上記記載事項(1-b)によれば、引用発明における「鋳造欠陥」は「内部鋳巣」であり、ダイカスト鋳造で生じる内部鋳巣が、金型に加圧充填された溶湯が凝固過程において凝固収縮することにより生じるものであることは技術常識である。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
「金型に加圧充填された溶湯が、凝固過程において凝固収縮することにより鋳造欠陥が生じ易い部位を、局部加圧ピンにより加圧してダイカスト鋳造するアルミダイカスト製品の製造方法。」

そして、以下の点で相違する。

<相違点>
局部加圧ピンにより加圧してダイカスト鋳造する点に関して、本件補正発明では、「前記アルミダイカスト製品の最大肉厚箇所の肉厚を20mm、前記金型の表面温度を250℃±50℃、前記溶湯の温度を680℃±50℃としたダイカスト条件下、前記局部加圧ピンを、金型表面から最凝固遅れ部までの深さ(mm)/最凝固遅れ部の凝固完了時間(s)から予め算定される前記溶湯の凝固界面移動速度によって得られる凝固界面の移動に基づいて追随させるべく、前記局部加圧ピンによる加圧を、前記溶湯の充填完了時より0.4?1.4秒後に開始し、該局部加圧ピンの平均押し込み速度Vを、1.2mm/s<V<2.63mm/sとして押し込み、凝固完了時点まで押し込み続ける」と特定しているのに対して、引用発明では、このような特定がなされていない点。

4 相違点の検討
そこで、上記相違点について検討する。

引用刊行物2に記載された技術的事項において、加圧ピンを溶湯の凝固スピードに合ったスピードで作動させることは、実質的に、加圧ピンを溶湯の凝固界面移動速度によって得られる溶湯の凝固界面の移動に基づいて追随させることに相当する。
そして、引用発明と引用刊行物2に記載された技術的事項とは、ダイカスト鋳造という技術分野が共通し、加圧ピンによって特定部位を加圧するという機能も共通しているから、引用発明に引用刊行物2に記載された技術的事項を適用し、加圧ピンを溶湯の凝固界面移動速度によって得られる溶湯の凝固界面の移動に基づいて追随させるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、加圧ピンを凝固完了時点まで押し込み続けることについて、引用刊行物1及び引用刊行物2にはその明示はないが、特定部位を加圧ピンによって加圧するダイカスト鋳造方法において、加圧ピンを凝固完了時点まで押し込み続けることは、下記周知文献1及び2に記載されているように、本件出願の出願日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。)である。そして、引用発明に引用刊行物2に記載された技術的事項を適用するに当たり、周知技術1を参酌して加圧ピンを凝固完了時点まで押し込み続ける構成とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。

・周知文献1;国際公開第80/01658号
「〔第3工程〕溶湯を充填させた後、湯口34部の溶湯が凝固してしまわないうちに、加圧プランジヤ36を移動させて加圧通路17内の溶湯を湯溜り部32側へ押し出し始める。」(第13ページ第20-23行)
「そして、・・・(中略)・・・所定の大きさの圧力で加圧通路17内の溶湯を押し湯しこの押し湯は少なくとも型空間30内の溶湯が凝固完了するまで、換言すれば湯口34より型空間30側が完全に凝固するまで維持する。」(第26ページ第6-11行)

・周知文献2;特開2005-334977号公報
「【0022】
スクイズされる溶湯4は凝固途中の段階であり、凝固が進むと加圧ピン11がそれ以上進まなくなって停止する。この停止時の加圧ピンストロークSaがストローク検出センサ14によって検出され、中央処理装置22において記憶装置23に記憶されている最適のストロークSoと比較し、検出されたストロークSaが最適ストロークSoの許容範囲So±α内にあるかどうかを判断する(ステップ7)。
・・・(中略)・・・
【0024】
検出ストロークSaが許容範囲になければ、発進タイミング時間Toを修正して次の射出工程をスタートする。・・・(中略)・・・
【0025】
すなわち、加圧ピン11のストロークSaが設定値Soの許容範囲So-αより小さい場合は、加圧ピン11が設定ストロークSoに到達する前に凝固が完了しているわけであるから、加圧ピン11を出すタイミングが早くなるように発進タイミング時間ToからΔTを減算する。
【0026】
一方、加圧ピン11のストロークSaが設定値の許容範囲So+αより大きい場合には、スクイズをかけたい部分が凝固しないうちにスクイズをかけているわけであるから、発進タイミング時間が遅くなるようにToにΔTを加算する。」(段落【0022】-【0026】)

周知文献2の上記記載事項によれば、加圧ピン11のストロークSaが設定値Soの許容範囲内の場合には、凝固が進むことによって加圧ピン11がそれ以上進まなくなって停止するのであり、また、その場合は、加圧ピン11のストロークSaが設定値の許容範囲So+αより大きい場合ではないので、加圧ピン11はストロークエンドまで押し込まれていないのであるから、加圧ピンを凝固完了時点まで押し込み続ける構成になっていることは明らかである。

次に、溶湯の凝固界面移動速度を「金型表面から最凝固遅れ部までの深さ(mm)/最凝固遅れ部の凝固完了時間(s)」で予め算定することについては、凝固界面移動速度が、「溶湯の凝固界面の移動距離/その移動時間」で算定されること、すなわち、「溶湯が凝固した部位の深さ/その部位の凝固完了時間」で算定されることは、当業者にとって自明な事項であり、上記のように加圧ピンを凝固完了時点まで押し込み続けると共に、最凝固遅れ部の深さ及び凝固完了時間を基に凝固界面移動速度を算定することは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。

また、ダイカスト条件、局部加圧ピンによる加圧の開始のタイミング、及び局部加圧ピンの平均押し込み速度について検討すると、ダイカスト鋳造でのダイカスト条件は、鋳造製品の種類、形状、及びサイズ等の各種条件に応じて決定すべき事項であり、アルミダイカストにおいて、金型の表面温度が250℃±50℃で、溶湯の温度が680℃±50℃のものは、下記周知文献3及び4に記載されているように、通常のものである。したがって、引用発明に引用刊行物2に記載された技術的事項を適用するに当たり、アルミダイカスト製品の最大肉厚箇所の肉厚を20mmとし、ダイカスト条件として、金型の表面温度を250℃±50℃、溶湯の温度を680℃±50℃とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。

・周知文献3;特開平6-31425号公報
「【0008】
【実施例】・・・中略・・・図2において660?680℃のアルミニウム合金溶湯を射出すると分流子18を介しランナ18a,ゲート18bを通過し製品部に高速で流入する。・・・(中略)・・・1ショットごとに金型表面の高温部となるゲート部18b、ゲート部付近のキャビティ部16aに対し第1離型剤を3秒間スプレーし金型表面温度を250℃に降下させた後、第2離型剤を1秒間スプレーし金型表面に被膜を形成させた。また、金型表面温度が比較的低温となる湯流れ先端部16Cには第3離型剤を0.5 秒間スプレーし金型温度の低下を防止すると共に保温性を有する高分子剤により金型表面に形成される被膜が断熱効果をもたらし、金型温度の均一化を図ることが出来、金型表面の温度バランスが良くなり湯流れ性が向上し歩留りが向上した。」(段落【0008】)

・周知文献4;特開2001-47209号公報
「【0070】ここで、上記の一連の手順を繰り返し実行した場合、金属溶湯の温度が約700℃度前後であるため、・・・(中略)・・・しかしながら、本実施形態における粉体離型剤は、金型温度が300℃を超えるような高温においては、金型への付着性が低下することが本願の発明者の検討の結果明らかとなった。このため、図示されてはいないが、従来の金型と同様に可動型1及び固定型7の内部に複数の冷却管を形成し、この冷却管内に冷水を流通させることにより、金型を冷却している。
【0072】ここで、粉体離型剤が付着される金型のキャビティ40表面は、金属溶湯によって最も高温に加熱される部位である。このため、本実施形態では、このキャビティ40表面の温度が、粉体離型剤の供給される時点までに300℃以下まで低下できる冷却能力を有するように、複数の冷却管の本数、形成位置が決定されている。・・・(中略)・・・金属溶湯としては、アルミニウム溶湯やマグネシウム溶湯が使用される。」(段落【0070】-【0073】)

さらに、本件補正発明における局部加圧ピンによる加圧の開始を「溶湯の充填完了時より0.4?1.4秒後」とすることの技術的意義は、本件出願の明細書の段落【0032】等を参照すれば、加圧開始が早すぎると凝固開始前のために押し込み速度が大きくなり過ぎて凝固完了時点まで局部加圧ピンを押し続けることが困難になり、加圧開始が遅すぎると凝固が進んでいるため局部加圧ピンの押し込み深さが浅くなり欠陥の潰され方が不十分となる、というものである。一方、引用刊行物2には、「金型温度が所定値に達した時点」であって「溶湯が適当な状態にまで凝固した時」(上記記載事項(2-d)参照。)、すなわち、凝固開始後であって、かつ、凝固が過度に進む前に、加圧ピンによる加圧を開始する点が示唆されている。また、ダイカスト鋳造において、局部加圧ピンによる加圧の開始を、「溶湯の充填完了時より0.4?1.4秒後」との数値範囲に含まれる、溶湯の充填完了時より0.5秒後とすることは、下記周知文献5及び6に記載されているように、本件出願の出願日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。)である。したがって、引用発明に引用刊行物2に記載された技術的事項を適用するに当たり、周知技術2を参酌して、加圧ピンによる加圧の開始を、溶湯の充填完了時より0.4?1.4秒後とすることは、鋳造製品の種類、形状、及びサイズ等やダイカスト条件等の各種条件に応じて、当業者が適宜なし得た設計的事項である。

・周知文献5;特開2001-246452号公報
「【0029】・・・(中略)・・・この加圧ピン9は、押し込みが溶湯金属の凝固が進行しすぎた状態で行われると、加圧ピン9は所定の深さまで押し込まれず、適切なスクイズ効果が得られない。また、加圧ピン9の押し込みのタイミングが金属の凝固が未だ進行していない状態で行われると、加圧ピン9は所定の深さ以上に押し込まれるが、溶融した金属に塑性流動が発生せず、適切なスクイズ効果が得られない。良好な鋳造品を得るためには、加圧ピン9の押し込みのタイミングを最適化する必要がある。」(段落【0029】)
「【0044】加圧ピン押込タイミングは、加圧ピン9の押し込みのタイミングを規定している。すなわち、加圧ピン押込タイミングの基準条件値は、プランジャ8によって金型のキャビティ6に金属溶湯を充填した時点から、たとえば、0.5s後に加圧ピン9を押し込むことを意味している。」(段落【0044】)

・周知文献6;特開昭51-104429号公報
「圧入プランジヤ9が作動して鋳造金属Mを湯口2bを通してキヤビテイ2内へ噴射すると、キヤビテイ2及び透孔4の入口に鋳造金属Mを充満する事になる。」(第2ページ左下欄第2-5行)
「結 果
イ)は鋳造金属圧入指令と同時に加圧ラム5に加圧指令を送るので、ラム5は直ちにそのストローク限度まで入込み停止した所へ溶湯が到着したものと見え、第4図イ,イ’の写真のように、その内部欠陥はラム5を作動しないホ,ホ’の写真と変りない。
ロ)圧入プランジヤ9より1秒遅れてラム5が作動すると、溶湯が0.5秒で充填完了したとして充填完了直後の鋳造金属をラム5が加圧した事になり、写真ロ,ロ’に示すように欠陥が著しく圧縮されている。
ハ)圧入プランジヤ9より2秒遅れてラム5が作動した場合は写真ハ,ハ’に示すように1秒遅れのものと大差ない。」(第3ページ右上欄第2-16行)

周知文献6の上記記載事項における「ロ)」の場合は、溶湯の充填完了から0.5秒後にラム5が作動されると解釈することができる。

また、本件補正発明における局部加圧ピンの平均押し込み速度を「1.2mm/s<V<2.63mm/s」とすることの技術的意義は、本件出願の明細書の段落【0033】等を参照すれば、これが2.63mm/sを越えると、凝固界面移動速度に対して局部加圧ピンの押し込み速度が速すぎ、引け巣が発生する前に局部加圧ピンがストロークエンドまで押し込まれてしまうおそれがあり、1.2mm/s以下になると、凝固が進行して押し込み抵抗が過大となり、局部加圧ピンを十分な深さまで押し込むことができなくなるおそれがある、というものである。一方、引用刊行物2に記載された技術的事項においては、加圧ピンを溶湯の凝固スピードに合ったスピードで作動させているが、その際に、加圧ピンの押し込み速度を、溶湯の凝固スピードを基に、加圧ピンの押し込みによる作用効果を奏し得る範囲内で適宜決定することは、当業者における通常の創作能力の発揮である。したがって、引用発明に引用刊行物2に記載された技術的事項を適用するに当たり、鋳造製品の種類等やダイカスト条件等の各種条件に応じて得られる溶湯の凝固スピードを基に、加圧ピンの平均押し込み速度を1.2mm/s<V<2.63mm/sとすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。

以上検討したとおり、引用発明に引用刊行物2に記載された技術的事項を適用し、さらに周知技術1及び2を参酌して、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本件補正発明を全体としてみても、本件補正発明のようにしたことにより奏するとされる効果は、引用発明、引用刊行物2に記載された技術的事項、周知技術1及び2から当業者が予測できたものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用刊行物2に記載された技術的事項、周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり、本件手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について

1 本件発明
上記のとおり、本件手続補正は却下されたので、本件の請求項1-7に係る発明は、平成20年12月1日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】
金型に加圧充填された溶湯が、凝固過程において凝固収縮することにより鋳造欠陥が生じ易い部位を、局部加圧ピンにより加圧してダイカスト鋳造するアルミダイカスト製品の製造方法において、
前記局部加圧ピンを、金型表面から最凝固遅れ部までの深さ(mm)/最凝固遅れ部の凝固完了時間(s)から予め算定される前記溶湯の凝固界面移動速度によって得られる凝固界面の移動に基づいて追随させ、凝固完了時点まで押し込み続けることを特徴とするアルミダイカスト製品の製造方法。」
(以下、請求項1に係る発明を、「本件発明」という。)

2 引用刊行物
引用刊行物及びその記載事項は、上記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・検討
本件発明は、上記「第2 1ないし5」で検討した本件補正発明から、「局部加圧ピンにより加圧してダイカスト鋳造する」との事項について限定する「前記アルミダイカスト製品の最大肉厚箇所の肉厚を20mm、前記金型の表面温度を250℃±50℃、前記溶湯の温度を680℃±50℃としたダイカスト条件下、」との事項及び「前記局部加圧ピンによる加圧を、前記溶湯の充填完了時より0.4?1.4秒後に開始し、該局部加圧ピンの平均押し込み速度Vを、1.2mm/s<V<2.63mm/sとして押し込み、」との事項を省いたものである。
そうすると、本件発明を特定する事項を実質的に全て含み、さらに他の事項を付加して限定したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 4」に記載したとおり、引用発明、引用刊行物2に記載された技術的事項、周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用発明、引用刊行物2に記載された技術的事項、周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-26 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-15 
出願番号 特願2006-236216(P2006-236216)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池ノ谷 秀行  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 鈴木 正紀
田村 耕作
発明の名称 アルミダイカスト製品の製造方法および装置  
代理人 藤田 考晴  
代理人 上田 邦生  

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