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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1234740
審判番号 不服2009-11939  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-30 
確定日 2011-03-31 
事件の表示 特願2003-171773「直下型バックライト用光拡散板の輝度ムラを低減させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月26日出願公開、特開2004-240392〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年6月17日(優先権主張平成14年12月13日)の出願であって、平成20年9月2日付けで通知された拒絶理由に対し、同年11月5日に手続補正がなされたが、平成21年4月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月30日付けで審判請求がされるとともに、手続補正がなされ、その後、当審から送付した審尋に対し、平成22年9月29日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成21年6月30日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年6月30日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正事項
平成21年6月30付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、本件補正前の平成20年11月5日付け手続補正により補正された、

「【請求項1】 直下型バックライト用光拡散板の輝度ムラを低減させる方法であって、光拡散板として、
(i)ポリカーボネート樹脂99.8?80重量部および平均粒径1?30μmの透明微粒子0.2?20重量部の合計100重量部からなるポリカーボネート樹脂組成物より形成され、
(ii)厚み0.3?3.0mmであり、
(iii)光拡散板の表面に貼り付けた際の初期粘着力xと80℃で24時間加熱処理後の粘着力yが下記式(1)を満たす傷つき防止用保護フィルムが少なくとも一面に貼り付けられた、
光拡散板を用いることを特徴とする方法。
0.9x≦y≦3x (1)
【請求項2】 傷つき防止用保護フィルムの初期粘着力xが0.03?0.3N/cmの範囲である請求項1記載の方法。
【請求項3】 傷つき防止用保護フィルムは、厚みが10?100μmであり、剥離後の保護フィルムの寸法の伸びが剥離前と比較して0?20%である請求項1記載の方法。
【請求項4】 光拡散板の表面の中心線平均粗さが0.15?15μmである請求項1記載の方法。」

から、

「【請求項1】 直下型バックライト用光拡散板の輝度ムラを低減させる方法であって、光拡散板として、
(i)ポリカーボネート樹脂99.8?80重量部および平均粒径1?30μmの透明微粒子0.2?20重量部の合計100重量部からなるポリカーボネート樹脂組成物より形成され、
(ii)厚み0.3?3.0mmであり、
(iii)光拡散板の表面の中心線平均粗さが2.5?15μmであり、
(iv)光拡散板の表面に貼り付けた際の初期粘着力xと80℃で24時間加熱処理後の粘着力yが下記式(1)を満たす傷つき防止用保護フィルムが少なくとも一面に貼り付けられた、
光拡散板を用いることを特徴とする方法。
0.9x≦y≦3x (1)
【請求項2】 傷つき防止用保護フィルムの初期粘着力xが0.03?0.3N/cmの範囲である請求項1記載の方法。
【請求項3】 傷つき防止用保護フィルムは、厚みが10?100μmであり、剥離後の保護フィルムの寸法の伸びが剥離前と比較して0?20%である請求項1記載の方法。
【請求項4】 傷つき防止用保護フィルムの光拡散板と貼り合せる薄層が、ポリエチレンオリゴマーまたはエチレン-酢酸ビニルの素材からなる層である請求項1記載の方法。」

に補正された。

(2)補正の適否について
上記補正は、補正前の請求項1を削除して、補正前の請求項4を補正後の請求項1に繰り上げ、補正後の請求項1に記載した発明を特定するための事項である「光拡散板の表面の中心線平均粗さ」の範囲を、「0.15?15μm」から「2.5?15μm」へと限定し、さらに、補正後の請求項4として、補正前の請求項4に対して「傷つき防止用保護フィルムの光拡散板と貼り合せる薄層が、ポリエチレンオリゴマーまたはエチレン-酢酸ビニルの素材からなる層である」という限定を付加したものである。
したがって、これらの補正事項は、全体として平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(3)引用刊行物
(3-1)引用刊行物1
本願の優先日前に頒布された特開平6-32973号公報(原査定の拒絶理由における引用文献1、以下、「引用刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、下記の成分からなる非架橋性モノマー(イ)100重量部に架橋モノマー(ロ)0.5?10重量部を配合して懸濁重合して得られる平均粒子径1?20μmのビーズ状架橋アクリル樹脂(B)を1?30重量部配合して得られる光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
(イ)非架橋性モノマーの配合割合
アクリル系モノマー 50?100重量%
芳香族ビニルモノマー 0? 50重量%
その他のビニルモノマー 0? 20重量%」

(1b)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高い光拡散性を有し、且つ高い光線透過率をも兼ね備えた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。本発明の組成物を使用する事によって得られた光拡散性ポリカーボネート樹脂成形体は、後ろに設けられた光源の像を点滅に関係なく見えなくし、かつ光源から発せられる光を一様な明るさに拡散透過させるため、看板、照明具、表示灯などの保護カバー、液晶用バックライト拡散板や表示パネル等の光学用途等に好適に用いられる。」

(1c)「【0005】
【課題を解決するための手段】発明者らは、光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物について鋭意検討した結果、アクリル樹脂の透明性と両樹脂間の屈折率の差に着目し、ポリカーボネート樹脂にビーズ状の架橋構造を有するアクリル樹脂を配合して、その樹脂組成物を成形することによって上記課題を解決し得る事を見い出し、本発明に到達した。
(以下略)」

(1d)「【0014】架橋アクリル樹脂は、基材樹脂としておポリカーボネート樹脂100重量部に対して、1?30重量部の割合で配合される。架橋アクリル樹脂の配合割合が上記1重量部より少ないと十分な光拡散効果が得られず、一方、上記30重量部を超えて配合しても光拡散性能等を特に向上させるものでなく、光線透過率、外観、物性低下、経済性等により不都合を生ずる。」

(1e)「【0017】実施例1
ポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学(株)製、商品名:ユーピロンE-2000F)100重量部に対し、光拡散剤として平均粒子径13μmの架橋アクリル樹脂(綜研化学(株)製、MR-13G)5重量部をミキサーで混合攪拌し、ベント押出機にてTダイスを通して押出し、三本ロールにより厚さ1.0mmの押出板に加工した。この押出板の全光線透過率は80%、曇価は92%、拡散率は46%、分散度は28゜であった。また、成形物の後方に光源を置いて、目視で光拡散性を観察したが、光源の像は認められなかった。評価結果を表1にまとめて示す。」

段落【0001】の「後ろに設けられた光源の像を点滅に関係なく見えなくし、・・・液晶用バックライト拡散板」の記載から、光源が「拡散板」の「後ろに」設けられていることが把握できるから、引用刊行物1に記載の光源は、直下型であるものといえる。
これらを踏まえると、引用刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「直下型液晶用バックライト拡散板を用いる方法であって、拡散板として、
ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、平均粒径13μmの架橋アクリル樹脂を1?30重量部を融合してなるポリカーボネート樹脂組成物より形成され、
厚さが1.0mmである
光拡散板を用いる方法。」

(3-2)引用刊行物2
同じく本願の優先日前に頒布された特開2001-33624号公報(原査定の拒絶理由における引用文献2、以下、「引用刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 光学部材の表面を接着被覆する保護フィルムであり、300mm/分の剥離速度による180度ピールに基づく光学部材に対する常温での接着力において、80℃雰囲気に放置した後のそれが常温放置物の1.3倍以内であることを特徴とする表面保護フィルム。」

(2b)「【0002】
【発明の背景】液晶パネルの形成などに用いられる偏光板や位相差板、それらを積層した楕円偏光板等の光学部材は、通例その表面が損傷されないように表面保護フィルムで接着被覆した状態でパネルの組立等に供され、その保護フィルムは加熱によるエージング処理にて光学部材と液晶セルの接着状態を安定化させた後に剥離除去される。
【0003】しかしながら従来の表面保護フィルムにあっては、前記したエージング時の加熱で接着力が大きく上昇して光学部材の損傷や液晶セルよりの剥離なしに保護フィルムを光学部材より分離除去することが困難な問題点があった。
【0004】
【発明の技術的課題】本発明は、温度や湿度等の環境変化で光学部材より剥離せず、かつ剥離時には糊残りなく光学部材より剥離分離できる基本的性能を満足させつつ、エージング等の加熱処理後においても光学部材の損傷や液晶セルよりの剥離なしに手や機械を介し容易に剥離分離できる表面保護フィルムの開発を課題とする。」

(2c)「【0009】一般には透視性による光学部材の管理などの点より例えば、ポリエステル系樹脂やアセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂やポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂やポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂やアクリル系樹脂の如き透明なポリマーからなるフィルムやゴムシート、それらのラミネート体などよりなる保護基材が用いられる。保護基材の厚さは、強度等に応じて適宜に決定でき、一般には500μm以下、就中5?300μm、特に10?200μmとされる。」

(2d)「【0017】表面保護フィルムによる接着被覆対象の光学部材は、例えば偏光板や位相差板、それらを積層した楕円偏光板や防眩シート等の液晶パネルの形成などに用いられる適宜な光学素材からなるものであってよい。前記楕円偏光板の如き積層タイプの光学素材の場合、その積層は粘着層等の適宜な接着手段を介し行われたものであってよい。」

(2e)「【0035】評価試験
実施例、比較例で得た表面保護フィルムをその粘着層を介し2kgのゴムロールを一往復させる方式で市販の偏光板に接着し、それを50mm×150mmのサイズにカットして試験片を形成し、それを23℃(常温物)又は80℃(加熱物)の雰囲気に2時間放置した後、引張試験機を介し300mm/分の剥離速度による180度ピール値を測定して23℃における偏光板に対する表面保護フィルムの接着力を調べた。
【0036】前記の結果を次表に示した。
実施例1 比較例1 比較例2
常温物(gf/50mm) 35 42 33
加熱物(gf/50mm) 38 164 53
加熱物/常温物 1.09 3.90 1.61」

これらを踏まえると、引用刊行物2には、次の事項(以下「引用刊行物2に記載の事項」という。」が記載されているものと認められる。

「液晶パネルの形成に用いられるポリカーボネート系樹脂等から形成される光学部材に用いられる表面保護フィルムにおいて、加熱による接着力の上昇によって保護フィルムを光学部材より分離除去することが困難であるという問題点を解決し、剥離時には糊残りなく光学部材より剥離分離するため、80℃の雰囲気に2時間放置した後の粘着力が、常温での粘着力の1.3倍以内、具体的には1.09倍とした表面保護フィルム。」

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「液晶用バックライト」、「拡散板」は、それぞれ本願補正発明の「バックライト」、「光拡散板」に相当する。
また、引用発明の「架橋アクリル樹脂」は、引用刊行物1の段落【0005】の「アクリル樹脂の透明性」という記載を参酌すると、本願補正発明の「透明微粒子」に相当するといえる。
さらに、引用発明の「ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、・・・架橋アクリル樹脂を1?30重量部からなる」は、両者の合計が100重量部になるように換算すると、「ポリカーボネート樹脂99.0?76.9重量部に対して、・・・架橋アクリル樹脂を1.0?23.1重量部からなる」こととなるから、かかる範囲と、本願補正発明の「ポリカーボネート樹脂99.8?80重量部および・・・透明微粒子0.2?20重量部の合計100重量部からなる」は、「ポリカーボネート樹脂99.0?80重量部および透明微粒子1.0?20重量部の合計100重量部からなる」範囲で共通している。
また、引用発明の架橋アクリル樹脂の平均粒径「13μm」と、本願補正発明の透明微粒子の平均粒径「1?30μm」は、「13μm」の点で共通しており、同様に引用発明の拡散板の厚さ「1.0mm」と、本願補正発明の光拡散板の厚み「0.3?3.0mm」とは、厚み「1.0mm」の点で共通している。

してみると、両者は、
「直下型バックライト用光拡散板を用いる方法であって、光拡散板として、
ポリカーボネート樹脂99.0?80重量部および平均粒径13μmの透明微粒子1.0?20重量部の合計100重量部からなるポリカーボネート樹脂組成物より形成され、
厚さが1.0mmである
光拡散板を用いる方法。」の点で一致し、

以下の点で相違する。

・相違点1
本願補正発明は、光拡散板を用いた「輝度ムラを低減させる方法」であるのに対し、引用発明は、光拡散板を用いた方法ではあるものの、それによって輝度ムラを低減させているのか否か不明である点。

・相違点2
光拡散板の表面の中心線平均粗さが、本願補正発明では「2.5?15μm」であるのに対し、引用発明ではその値が不明である点。

・相違点3
本願補正発明では、「光拡散板の表面に貼り付けた際の初期粘着力xと80℃で24時間加熱処理後の粘着力yが下記式(1)を満たす傷つき防止用保護フィルムが少なくとも一面に貼り付けられ、
0.9x≦y≦3x (1)」ているのに対し、引用発明では、初期粘着力と80℃で24時間加熱処理後の粘着力との関係が不明である点。

(5)判断
上記相違点について検討する。

・相違点3について
まず相違点3について検討する。
引用発明と引用刊行物2に記載の事項は、いずれも液晶パネルに用いられるポリカーボネート系樹脂を用いた光学部材である点で共通しており、光を透過させる光学部材において、余計な異物が残余することは、光の透過にあたって、程度の差はあってもなんらかの不具合を生じることは、当然想定されることであるから、引用発明における光学部材である直下型バックライト用光拡散板において、引用刊行物2に記載の事項のように、使用前に余計な塵埃等が付着しないように保護フィルムを設け、次に加熱環境下における粘着力が高くなりすぎて、剥離の際にきちんと剥がれないことを防止するために、加熱環境下における粘着力の値を所定の値以下とするようにすることは、当業者が適宜容易になし得ることである。またその際には、引用刊行物2に記載の事項においては、80℃の雰囲気に2時間放置した後の粘着力と、常温での粘着力の値との比較の値のみ記載されているが、加熱状態に長時間放置すれば、さらに粘着力が上がるとはいえるものの、引用刊行物2に記載の事項が、2時間加熱処理後の粘着力が初期粘着力の1.09倍にすぎないことを考慮すると、80℃で24時間加熱処理後の粘着力の上限として、初期粘着力の3倍程度とすることに、困難性は認められない。

・相違点1について
次に、上記相違点3の検討を踏まえて、相違点1について検討する。
まず、本願の明細書における「輝度ムラ」についての記載としては、以下の記載がある。
「【0008】
ポリカーボネート樹脂製光拡散板は、所望する大きさに打ち抜き加工して使用されているがその際、拡散板表面を保護するために使用している保護フィルムの角部が剥れる場合があり、少しでも剥れた部分が発生すると拡散板表面に塵埃が付着してしまい、局所的に輝度ムラが生じてしまう問題がある。
【0009】
また、銘板用途で使用される透明なポリカーボネート樹脂シートは打ち抜いて使用される際、シート表面が鏡面であり表面凹凸が小さいために保護フィルムの粘着力が小さいものでも、該シートの角部が剥れる可能性は少なく、たとえ剥がれたとしても品質的に大きな影響を及ぼすものではない。一方、光拡散板の表面は、微粒子を含まないポリカーボネート樹脂に比べ表面凹凸が大きいために、保護フィルムとの接触面積が小さくなるために、粘着力の高い保護フィルムの使用が必要とされるが、加熱環境条件下に置かれると光拡散板に貼り合せている面の粘着力がさらに高まるため、製品として使用する際に保護フィルムは剥がしにくくなり、粘着力が著しく高くなると保護フィルムが裂けて一部だけ剥れてしまい取り扱いにくく、さらに剥離時に塵埃が付着しやすくなる。光拡散板は少しの塵埃の付着でもその影響は大きく、塵埃の付着により輝度ムラが発生してしまうという問題が生じていた。」

これらの記載から、ポリカーボネート樹脂製光拡散板における輝度ムラの発生要因としては、以下の2つがあることが把握できる。
・要因1
打ち抜き加工する際に、保護フィルムの角部が剥れて、拡散板表面に塵埃が付着して、局地的に輝度ムラが生じる。
・要因2
加熱環境条件下に置かれたときに、光拡散板に貼り合わせている面の粘着力が高まるため、製品として使用する際に保護フィルムが剥がしにくくなり、保護フィルムが裂けて一部だけ剥がれてしまい、剥離時に塵埃が付着することによって輝度ムラが生じる。
これらの2つの要因のうち、要因1については、打ち抜き加工する際の絶対的な粘着力の大きさに関係し、要因2については、加熱環境条件下に置かれたときの粘着力の大きさに関係してくることは明らかである。
ここで、本件補正後の特許請求の範囲では、請求項2において、初期粘着力の値について規定しているものの、請求項1においては、粘着力に関する規定として、初期粘着力と80℃で24時間加熱処理後の粘着力との関係のみ規定している。
このことから、本件補正後の請求項1に係る発明である本願補正発明における「輝度ムラを低減させる方法」においては、上記の要因のうちの要因2のみを考慮しているものといえる。

これらを踏まえると、上記相違点3について検討したように、引用発明において、加熱処理後の粘着力の値を初期粘着力との関係で所定の範囲として、剥離時に糊等が残ることなくきれいに剥離させることが、当業者が適宜容易になし得ることであるから、そのことから、上記要因2による輝度ムラについては、解消するものと考えられる。
してみると、引用発明に引用刊行物2に記載の事項を適用した、光拡散板を用いる方法は、光拡散板の輝度ムラを解消する方法であるものといえる。

・相違点2について
液晶表示装置に用いる光学部材の光拡散板の表面の中心線平均粗さを2.5?15μmの範囲内とすることは、周知(必要であれば、特開2002-139608号公報の段落【0004】、【0010】、【0029】、特開2000-221307号公報の段落【0021】等参照)であり、引用発明における光拡散板の表面の中心線平均粗さを、周知の粗さの範囲とすることは、当業者が適宜容易になし得ることである。

また、効果についても、本願補正発明の効果は、引用発明、引用刊行物2に記載の事項及び周知技術から予測し得る程度のものにすぎない。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6)審判請求人の主張について
審判請求人は、審尋に対する平成22年9月29日付けの回答書において、以下の主張をしている。
「しかしながら、本願発明においては、光拡散板の表面を中心線平均粗さが2.5?15μmとなるように、光拡散板の表面をある程度荒らすことにより、他の要件と組み合わせて、直下型バックライト用光拡散板として使用したときに、輝度ムラを効果的に低減させるという効果を見出したものである。
上記特開2002-139608号公報には、流延法により直接的に製造された表面の粗い光学フィルムが記載されているに過ぎない。
上記特開2000-221307号公報には、エッジ型バックライト方式のバックライトユニットに使用されるレンチキュラーレンズ上に配置される光等方拡散性層において、その光等方拡散性層の表面を荒らしたものが記載されているに過ぎない。」

しかしながら、本願の明細書の実施例及び比較例においては、表面粗さRaとして、4.0,2.5,2.8,2.5,2.5,3.7,2.5μmと、実施例、比較例とも本願補正発明において規定されている範囲のものしか挙げられておらず、またその他の表面粗さに関する記載としては、段落【0041】に、
「【0041】
また、本発明のポリカーボネート樹脂製直下型バックライト用光拡散板は、透明微粒子が配合されており、その表面の中心線平均粗さが0.15?15μmであることが好ましい。」と記載されているのみであるから、審判請求人が主張している「他の要件と組み合わせて、直下型バックライト用光拡散板として使用したときに、輝度ムラを効果的に低減させるという効果を見出したものである。」という事項は、本願明細書の記載に基づかない主張である。
また、周知例として挙げた文献の記載についても、特開2002-139608号公報には、段落【0004】に液晶表示装置に用いられる光散乱板についての記載があり、特開2000-221307号公報にも、段落【0021】に光拡散層についての記載がある。
以上のことから、上記審判請求人の主張はいずれも採用できない。

(7)補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成21年6月30日付けの手続補正は上述のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の平成20年11月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】 直下型バックライト用光拡散板の輝度ムラを低減させる方法であって、光拡散板として、
(i)ポリカーボネート樹脂99.8?80重量部および平均粒径1?30μmの透明微粒子0.2?20重量部の合計100重量部からなるポリカーボネート樹脂組成物より形成され、
(ii)厚み0.3?3.0mmであり、
(iii)光拡散板の表面に貼り付けた際の初期粘着力xと80℃で24時間加熱処理後の粘着力yが下記式(1)を満たす傷つき防止用保護フィルムが少なくとも一面に貼り付けられた、
光拡散板を用いることを特徴とする方法。」

(2)引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-32973号公報、特開2001-33624号公報の記載事項は、前記2.(3)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、実質的に本願補正発明の「光拡散板の表面の中心線平均粗さ」の数値限定を省いたものに相当する。
してみると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(5)に記載したとおり、引用刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、さらに前記2.(5)の相違点の検討において、光拡散板の表面の中心線平均粗さの数値限定以外については、引用刊行物1記載された発明及び引用刊行物2に記載の事項から、当業者が適宜容易になし得ることであるとしたことを考慮すると、本願発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-28 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-16 
出願番号 特願2003-171773(P2003-171773)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 住田 秀弘
一宮 誠
発明の名称 直下型バックライト用光拡散板の輝度ムラを低減させる方法  
代理人 三原 秀子  

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