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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1234759
審判番号 不服2010-1768  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-27 
確定日 2011-03-31 
事件の表示 特願2008- 88596「光電変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月22日出願公開、特開2009-246031〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年3月28日の特許出願であって、拒絶理由の通知に応答して平成21年4月8日に手続補正がされたが、同年11月4日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成22年1月27日に拒絶査定不服審判が請求がされたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項に係る発明は、平成21年4月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。) は、次のとおりのものと認める。
「基板上に第1透明電極層と、発電層と、第2透明電極層と、裏面電極層とを備える光電変換装置であって、
前記第2透明電極層が、GaドープZnO膜とされ、
前記第2透明電極層の膜厚が80nm以上100nm以下であり、
波長600nm以上1000nm以下の領域における前記第2透明電極層の光吸収率が0.2%以下であることを特徴とする光電変換装置。」

第3 引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-150934号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに以下の1及び2の記載がある。
1 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光起電力素子及びその製造方法に関し、特に、光電変換層と反射金属層との間に設ける拡散防止層に関する。
【0002】
【従来の技術】図14は、従来の光起電力素子の構成図である。図14において、41はガラス製の透光性基板であり、透光性基板41上には、例えば酸化錫(SnO_(2) )からなる透明導電膜42、p型非晶質シリコン(a-Si)層43a,i型a-Si層43b及びn型a-Si層43cの積層体からなる光電変換層43、酸化亜鉛(ZnO)からなる拡散防止層44、並びに、銀(Ag)またはアルミニウム(Al)からなる反射金属層45が、この順に積層形成されている。
【0003】拡散防止層44は、光電変換層43と反射金属層45との間に生じる構成元素の相互拡散を防止するための層であり、この拡散防止層44の存在によって反射金属層45の合金化が抑制されて高反射性が損なわれず、高い光電変換効率を維持できる(特公昭60-41878号公報)。」

2 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】拡散防止層としてZnOを用いる場合、光電変換層との間で良好な接合を取り難いという問題があった。そこで、導電性を高めるためにAlまたはガリウム(Ga)の不純物を含んだZnOを拡散防止層に用いることが知られている。しかしながら、ZnOに不純物を含有させると、拡散防止層の光透過率が減少し、光電変換効率が劣化するという問題が発生する。このように、光電変換層との間での良好な接合と、高い光透過率とはトレードオフの関係にあり、両者を同時に実現することは困難であった。なお、この不純物を含有させたZnOからなる拡散防止層の組成は均一であった。」

上記1に記載された「光起電力素子」は、その「拡散防止層」として、上記2に記載された「Alまたはガリウム(Ga)の不純物を含んだZnO」を用いたものとして把握できるから、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。) が記載されていると認めることができる。
「透光性基板上に透明導電膜と、光電変換層と、拡散防止層と、反射金属層とを備え、
前記拡散防止層が、不純物としてGaを含むZnO層とされた、
光起電力素子。」

第4 対比
引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明の「透光性基板」、「透明導電膜」、「光電変換層」、「不純物としてGaを含むZnO層」及び「光起電力素子」は、それぞれ、本願発明の「基板」、「第1透明電極層」、「発電層」、「GaドープZnO膜」及び「光電変換装置」に相当する。

引用例の【0003】に「この拡散防止層44の存在によって反射金属層45の合金化が抑制されて高反射性が損なわれず、高い光電変換効率を維持できる」とあることから、引用発明において、拡散防止層を透過した光が反射金属層で反射されて再度光電変換層に入射し発電に寄与することにより光電変換効率を向上させていることは自明である。そして、拡散防止層が不透明であったのでは、拡散防止層を透過した光が反射金属層で反射されて再度光電変換層に入射できないから、拡散防止層は透明である。
また、引用例の【0004】には「光電変換層との間での良好な接合」とあり、引用発明が、光電変換層で発生した電流を拡散防止層を通じて反射金属層から取り出すことを前提としていることは自明であるから、拡散防止層は電極といえる。
よって、引用発明の「拡散防止層」は、透明でかつ電極であるから、本願発明の「第2透明電極層」に相当する。
そして、引用発明の「反射金属層」は、「拡散防止層」の裏面にあり、電流を取り出すものであるから、本願発明の「裏面電極層」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「基板上に第1透明電極層と、発電層と、第2透明電極層と、裏面電極層とを備える光電変換装置であって、
前記第2透明電極層が、GaドープZnO膜とされた、
光電変換装置。」

<相違点>
本願発明は「第2透明電極層の膜厚が80nm以上100nm以下であり、波長600nm以上1000nm以下の領域における前記第2透明電極層の光吸収率が0.2%以下である」と特定されているのに対し、引用発明は該特定を有しない点。

第5 判断
<相違点>について
1 第2透明電極層の膜厚を80nm以上100nm以下とする点について
引用例には以下の記載がある。
「【0044】なお、拡散防止層4はあまり薄いと、拡散防止という機能を果たせず、一方、それが厚すぎると、そこで光吸収が発生して光電変換効率が低下する。不純物としてガリウム(5重量%)を含有させ、その厚さを変化させた単層構成の拡散防止層4を有する複数の光起電力素子を製造して、それらの変換効率を測定した。その測定結果を図4に示す。なお、図4中の変換効率の数値は、拡散防止層4の厚さを500Åとした場合の光起電力素子の光電変換効率に対して規格化した値である。図4の結果から、厚さが500?1500Åである場合において光電変換効率が優れており、拡散防止層4の厚さは500Å以上1500Å以下であることが好ましい。」

上記記載より、引用発明の「拡散防止層」(第2透明電極層)の厚さに依存する拡散防止機能と光電変換効率を低下させる光吸収とはトレードオフの関係にあるから、該厚さは両者を勘案して定めるべき設計事項であるといえる。
そして、上記記載において、「厚さが500?1500Åである場合において光電変換効率が優れており、拡散防止層4の厚さは500Å以上1500Å以下であることが好ましい。」とされていること、及び「500Å以上1500Å以下」は「50nm以上150nm以下」であり、「80nm以上100nm以下」に含まれることに照らせば、引用発明の「拡散防止層」(第2透明電極層)の厚さを、80nm以上100nm以下とすることは、当業者が適宜採用し得たことである。

2 波長600nm以上1000nm以下の領域における第2透明電極層の光吸収率を所定値以下とする点について
「光起電力素子」(光電変換装置)は太陽電池として使われることが多く、太陽光の波長領域は「波長600nm以上1000nm以下の領域」を含んでいる(可視光は波長400nm以上800nm以下程度であり、可視光に続く赤外線は波長800nm以上1000nm以下程度である。)。
また、引用例の【0002】の「p型非晶質シリコン(a-Si)層43a,i型a-Si層43b及びn型a-Si層43cの積層体からなる光電変換層43」との記載より、引用発明の「光電変換層」(発電層)はアモルファスシリコンである場合を含み、アモルファスシリコンを用いる「光起電力素子」(光電変換装置)では、波長600nm以上1000nm以下の光は、入射光として通常対象とする光である。

引用例の【0004】に「ZnOに不純物を含有させると、拡散防止層の光透過率が減少し、光電変換効率が劣化するという問題が発生する。このように、光電変換層との間での良好な接合と、高い光透過率とはトレードオフの関係にあり、両者を同時に実現することは困難であった。」とあるとおり、拡散防止層に含ませる不純物濃度の大小に関して、光電変換層との間での良好な接合と、高い光透過率とはトレードオフの関係にあり、不純物濃度を小さくすれば、拡散防止層と光電変換層との間での接合の良好さは減少するものの、光透過率を高めて光電変換効率を向上させることができる。
そして、拡散防止層の光透過率を高めることは、拡散防止層の光吸収率を小さくすることに他ならない。
また、光電変換効率が高いことは、「光起電力素子」(光電変換装置)に一般的に望まれることである。

以上のことから、引用発明において、入射光として通常対象とする「波長600nm以上1000nm以下」の範囲における拡散防止層(第2透明電極層)の光吸収率を所定値以下とすることは、技術常識に基づいて、当業者が適宜採用し得たことである。

3 第2透明電極層の膜厚を80nm以上100nm以下とし、かつ波長600nm以上1000nm以下の領域における第2透明電極層の光吸収率を0.2%以下とする点について
以上の検討によれば、引用発明において、拡散防止層(第2透明電極層)の膜厚を当業者が適宜採用し得た(上記1参照。)数値範囲である「80nm以上100nm以下」とし、かつ技術常識に基づいて当業者が適宜採用し得たことであるところの(上記2参照。)「入射光として対象とする光を『波長600nm以上1000nm以下』とし、その際に、拡散防止層(第2透明電極層)の光吸収率を所定値以下とする」際に、該所定値を「0.2%以下」と定めることは、光吸収率が光電変換効率に影響すること等を考慮しつつ、当業者が適宜なし得たことである。

4 相違点に係る本願発明の構成を備えることによる効果について
以下、相違点に係る本願発明の構成を備えることによる効果を検討する。
本願明細書には以下の記載がある。
「【0062】
(第2透明電極層膜厚と太陽電池性能との関係)
ガラス基板上に第1透明電極層、発電層として、非晶質シリコンp層、非晶質シリコンi層及び結晶質シリコンn層、第2透明電極層、及び裏面電極層を順次形成し、アモルファスシリコン太陽電池セルを作製した。第1透明電極層の膜厚を700nm、非晶質シリコンp層の膜厚を10nm、非晶質シリコンi層の膜厚を200nm、結晶質シリコンn層の膜厚を30nmとした。第2透明電極層として、DCスパッタリング装置を用い、ターゲット:GaドープZnO焼結体、放電ガス:アルゴン及び酸素、酸素分圧:0.5%、基板温度:60℃にてGZO膜を製膜した。上記製膜条件において、波長600nm以上1000nm以下の領域における第2透明電極層の光吸収率は0.2%以下であった。裏面電極層として、DCスパッタリング装置を用い、ターゲット:Ag、放電ガス:アルゴン、基板温度:135℃で膜厚250nmの銀薄膜を製膜した。裏面電極層を形成後、窒素雰囲気にて温度
:160℃、処理時間:2時間のアニール処理を行った。
【0063】
図16に、第2透明電極層(GZO膜)の膜厚とアモルファスシリコン太陽電池セルの短絡電流との関係を表すグラフを示す。同図において、横軸は膜厚、縦軸は第2透明電極層膜厚40nmでの短絡電流を基準とした場合の短絡電流の相対値である。なお、短絡電流の値は、5cm角基板面内のセル15点、基板枚数5枚を測定した平均値である。
第2透明電極層の膜厚が40nm及び60nmのアモルファスシリコン太陽電池セルでは、短絡電流はほぼ同程度であったが、膜厚が80nm及び100nmで短絡電流が増大した。」

該記載によれば、「基板上に第1透明電極層と、発電層と、第2透明電極層と、裏面電極層とを備える光電変換装置であって、前記第2透明電極層が、GaドープZnO膜とされ、波長600nm以上1000nm以下の領域における前記第2透明電極層の光吸収率が0.2%以下である光電変換装置。」は、「第2透明電極層の膜厚が80nm以上100nm以下」で短絡電流が増大したとされていることが認められる。
しかしながら、該記載が参照する本願の図16は、光吸収率が0.2%以下(光吸収率の値は不明である。)の第2透明電極層を用いて、該層の膜厚が40nm、60nm、80nm、100nmのものについての短絡電流の相対値を示すものであって、同図から、相違点に係る本願発明の構成について、設計上適宜の範囲を定めた以上の、格別の臨界的意義を有するものとは認められず、本願発明が格別顕著な効果を奏するものとはいえない。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである

第6 むすび
本願発明は、引用発明及び引用例の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-31 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-15 
出願番号 特願2008-88596(P2008-88596)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 吉野 公夫
橿本 英吾
発明の名称 光電変換装置  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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