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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F |
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管理番号 | 1235148 |
審判番号 | 不服2007-30560 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-12 |
確定日 | 2011-04-06 |
事件の表示 | 特願2003-556874「柔軟な隔膜式電磁感応発生装置を有する電子白板」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月10日国際公開、WO03/56417、平成17年 5月12日国内公表、特表2005-513669〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2002年8月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年12月29日、中国)を国際出願日とする出願であって、平成18年8月7日付けの拒絶の理由の通知に対して、同年11月13日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、平成19年8月9日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し同年11月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年12月11日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成19年12月11日付けの手続補正についての却下の決定 [結論] 平成19年12月11日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願発明 平成19年12月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、平成18年11月13日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1(以下「補正前の請求項1」という。)は、平成19年12月11日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1(以下「補正後の請求項1」という。)に補正された。 補正前の請求項1及び補正後の請求項1は、以下のとおりであると認める。 補正前の請求項1 「表面になる書写層と、該書写層の内側に設置された入力感応領域、識別制御回路、及び信号出力装置と、周りに枠が設置された電子白板本体と、無線信号発生装置を有する書写入力ペンとを含み、上記入力感応領域は被覆層と電磁感応発生層及び底部支持層により構成され、上記電磁感応発生層の基礎層は絶縁されている柔軟な隔膜であり、該隔膜がフォリン(菲林)材質からなり、該隔膜表面には電磁感応アンテナ群が付設され、該電磁感応アンテナ群はX軸方向とY軸方向に沿って配設された銀或いは銀とカーボンの混合材質で作られた感応アンテナ素子でなり、柔軟な隔膜式電磁感応発生層を構成し、該層の出力端子は識別制御回路に接続され、上記書写入力ペンは無線信号発生装置を備えていることを特徴とする柔軟な隔膜式電磁感応発生装置を有する電子白板。」 補正後の請求項1 「表面になる書写層と、該書写層の内側に設置された入力感応領域、識別制御回路、及び信号出力装置と、周りに枠が設置された電子白板本体と、無線信号発生装置を有する書写入力ペンとを含み、上記入力感応領域は被覆層と電磁感応発生層及び底部支持層により構成され、上記電磁感応発生層の基礎層は絶縁されている柔軟な隔膜であり、該隔膜がフォリン(菲林)材質からなり、該隔膜表面には電磁感応アンテナ群が付設され、該電磁感応アンテナ群はX軸方向とY軸方向に沿って配設された銀とカーボンの混合材質で作られた感応アンテナ素子でなり、柔軟な隔膜式電磁感応発生層を構成し、該層の出力端子は識別制御回路に接続され、上記書写入力ペンは無線信号発生装置を備え、上記信号出力装置が、RF発射/受信器である無線データ交換装置であり、上記書写入力ペンの無線信号発生装置がRF発生或いは受信装置を有し、其れと対応する電子白板本体にはRF受信或いは発生装置が設置されている、ことを特徴とする柔軟な隔膜式電磁感応発生装置を有する電子白板。」 なお、補正前の請求項1及び補正後の請求項1の「感応領域」及び「制御識別回路」は、「入力感応領域」及び「識別制御回路」の誤記と認め、また、補正後の請求項1の「白板本体」は、「電子白板本体」の誤記と認め、補正前の請求項1及び補正後の請求項1を上記のように認定した。 本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「銀或いは銀とカーボンの混合材質」を「銀とカーボンの混合材質」に限定し、また、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「信号出力装置」、「無線信号発生装置」及び「電子白板本体」について、それぞれ「上記信号出力装置が、RF発射/受信器である無線データ交換装置であり」、「上記書写入力ペンの無線信号発生装置がRF発生或いは受信装置を有し」及び「其れと対応する電子白板本体にはRF受信或いは発生装置が設置されている」と限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用例の記載 原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-282443号公報(平成13年10月12日出願公開。以下「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 A.「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、座標入力手段から発生する交番磁界により、座標入力シートに敷設された導線に発生する信号に基づいて上記座標入力手段の位置座標を読み取る座標読取装置に関する。」(第2ページ第1欄第11?15行目) B.「【0007】 【発明の実施の形態】以下、この発明に係る座標読取装置の一実施形態について図を参照して説明する。なお、以下に述べる各実施形態では、この発明に係る座標読取装置として、座標入力シート上に描かれる手書き文字や図形などを電気的に読み取る、いわゆる電子黒板を例に挙げて説明する。 (第1実施形態) [主要構成]最初に、第1実施形態に係る電子黒板の主要構成について図1および図2を参照して説明する。図1は、電子黒板の主要構成を示す外観斜視説明図であり、図2は、図1に示す電子黒板にパーソナルコンピュータ(以下、PCと略称する)およびプリンタを接続した状態を示す説明図である。 【0008】電子黒板1には、筆記パネル10と、筆記面21aに筆記を行うための座標入力ペン60と、筆記された軌跡およびその軌跡を示すデータを消去するためのイレーサ40とが備えられている。筆記パネル10には、枠状のフレーム11が備えられており、そのフレーム11には、筆記パネル本体20が組み込まれている。フレーム11の前面下端には、その下端に沿って板状の台12が前面に張り出す形で取り付けられている。台12の上面には、座標入力ペン60を収容するための断面半円形状の凹部12aが形成されており、その凹部12aの右側には、イレーサ40などを置くための平面部12bが形成されている。 【0009】フレーム11の前面右側には、操作部30が設けられている。操作部30には、操作音や警告音などの音を再生するスピーカ31と、筆記面21aに筆記された内容を示すデータ(以下、筆記データと略称する)を記憶したページ数を7セグメントのLEDによって表示するページ数表示LED32と、押すごとに1ページずつ戻るページ戻りボタン33と、押すごとに1ページずつ送るページ送りボタン34と、記憶されている筆記データを押すごとに1ページずつ消去する消去ボタン35と、記憶されている筆記データをプリンタ200(図2)へ出力するために押すプリンタ出力ボタン36と、記憶されている筆記データをPC100(図2)へ出力するために押すPC出力ボタン37と、この電子黒板1を起動あるいは停止するために押す電源ボタン38とが設けられている。 【0010】フレーム11の前面下部には、この電子黒板1の電源となる単2乾電池14aを4本収容するバッテリケース14が設けられており、そのバッテリケース14の前面には、蓋14bが開閉可能に取付けられている。バッテリケース14の右側には、スピーカ31のボリュームを調節するボリューム調節つまみ13cが設けられており、その右側には、コネクタ13b、13aが設けられている。図2に示すように、コネクタ13bには、プリンタ200と接続された接続ケーブル201のプラグ202が接続され、コネクタ13aには、PC100と接続された接続ケーブル101のプラグ102が接続される。つまり、電子黒板1の筆記面21aに筆記された内容を示す筆記データをPC100へ出力し、PC100に備えられたモニタ100aにより、電子黒板1に筆記された内容を見ることができる。また、筆記データをプリンタ200へ出力し、電子黒板1に筆記された内容を印刷用紙203に印刷することもできる。 【0011】また、フレーム11の裏面上端の両端部には、この電子黒板1を壁に掛けるための金具15、15が取付けられている。なお、座標入力ペン60には、交番磁界を発生するためのコイル、発振回路および電池などが内蔵されている。この第1実施形態では、筆記面21aの高さH1は900mmであり、幅W1は600mmである。また、フレーム11および台12は、ポリプロピレンなどの合成樹脂により軽量に形成されており、電子黒板1の総重量は10kg以下である。」(第2ページ第2欄第36行目?第3ページ第4欄第2行目) C.「【0014】[筆記パネル本体20の構造]次に、筆記パネル本体20の構造について、それを示す図4を参照して説明する。図4に示すように、筆記パネル本体20は、筆記面21aを有する筆記シート21と、板状のパネル22と、ループ状パターン23が印刷されたシート24と、板状の支持パネル25と、板状のバックパネル26とを順に積層一体化して構成されている。この実施形態では、筆記シート21は、貼り合わされたPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムにより厚さ0.1mmに形成されており、パネル22は、アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、PC(ポリカーボネート)などの非導電性材料により厚さ1.0mmに形成されている。また、シート24は、PETにより厚さ180μmに形成されており、支持パネル25は、発泡スチロールなどの発泡樹脂製材料により厚さ40mmに形成されている。さらに、バックパネル25は、アルミニウムなどの導電性材料により厚さ1.0mmに形成されている。 【0015】[ループ状パターン23の構成]次に、ループ状パターン23の構成について図5を参照して説明する。図5は、ループ状パターン23を構成するX座標検出用のループ状パターン(以下、Xループと略称する)23XおよびY座標検出用のループ状パターン(以下、Yループと略称する)23Yのうち、Xループの一部を省略して示す説明図である。なお、図5の中に数字のみを示すものの単位はmmである。図5に示すように、XループX2には、XループX1の右側の長辺部分およびXループX0の右側の長辺部分と、XループX3の左側の長辺部分およびXループX4の左側の長辺部分とが重ねられている。つまり、各Xループには、左側に隣接する2つのXループおよび右側に隣接する2つのXループが重ねられている。このように隣接するループを2つ重ねるのは、クロスポイントP(図6)を大きくする、つまり各ループから検出される電圧値を大きくすることにより、ノイズの影響を低減して位置座標の読取精度を高めるためである。また、各ループで検出可能な最大電圧の1/4以下の電圧(A/Dカウント値では、たとえば最大256に対する1/4(=約60))は、ノイズの影響が大きいため使用することは望ましくない。そこで、最大電圧を検出したループに隣接するループから検出可能な最大電圧が上記1/4以下となるように各ループを配置する。たとえば、その配置は図6に示すパターンとなる。図5では、Xループの短辺部分の最大幅は52mmであり、Xループの線幅は2mmである。また、各Xループの隣接する長辺部分の重ねしろは4mmであるため、各Xループの幅(内径)は、44mmとなっている。また、Xループの折り返し部分を含む長さは約1,820mmである。さらに、YループもXループと同じ配置構成であ、折り返し部分を含む長さは約1,220mmである。また、XループおよびYループの持つ抵抗値は、それぞれ50Ω以下にすることが望ましいが、スクリーン印刷によってループを形成した場合、Xループで45?60Ω、Yループで25?40Ωの範囲の値となった。この範囲であれば、後述するパネル22の厚さによりノイズを低レベルとすることができる。 【0016】[位置座標の検出手法]次に、筆記面21a上のペン60の位置座標を検出するための手法について図6を参照して説明する。図6(A)はXループX1?X3の一部を示す説明図であり、図6(B)は図6(A)に示すXループX1?X3に発生する電圧と幅方向の距離との関係を示すグラフであり、図6(C)は図6(A)に示すXループX1?X3の相互に隣接するループ間の電圧差を示すグラフである。 【0017】図6においてXループX1,X2,X3の中心線をそれぞれC1,C2,C3とし、XループX1,X2,X3に発生する電圧をそれぞれex1,ex2,ex3とする。図6(B)に示すように、電圧ex1?ex3は、それぞれ各ループの中心C1?C3において最大となり、長手方向の端部に近づくにつれて小さくなる単峰性を示す。なお、各ループは、自己のヌル点、すなわち電圧ex1?ex3がそれぞれ0となる点N1?N6が隣接するループの中心の外側となるようにP1/2で重ねられる。また、図6(C)に示すようにXループX1?X3の相互に隣接するループ間の電圧差は、ループの中心C1?C3上にそれぞれ最大値を有し、ループの中心とループの長辺部分との中間点、つまり隣接するループが重なった部分の中間点で零となるグラフとなる。 【0018】たとえば、図6(C)において(ex2-ex1)を示すグラフ(実線で示す部分)は、XループX2の中心線C2から、XループX1が重ねられた部分の中間点Q1までの距離と(ex2-ex1)との関係を示す。今、仮にペン60が点Q2に存在する場合、(ex2-ex1)を検出すれば中心線C2から点Q2までの距離ΔQ2Xを検出できるため、点Q2のX座標を求めることができる。たとえば、図6(C)において(ex2-ex1)の特性を示す部分(実線で描いた部分)を8bitまたは10bitなどのデジタルデータに変換し、それをテーブル形式に変換すると位置座標テーブルを得る。この位置座標テーブル58aは、ROM58(図7)などに記憶され、ペン60の位置座標の演算に用いられる。 【0019】[電子黒板1の主な電気的構成および制御内容]次に、電子黒板1の主な電気的構成および制御内容について図7および図8を参照して説明する。図7は電子黒板1の電気的構成をブロックで示す説明図であり、図8は図7に示すCPU56が実行する主な制御内容を示すフローチャートである。図7に示す制御装置50に備えられたCPU56は、電源ボタン38(図1)がONしたことを検出すると(ステップ(以下、Sと略す)100:Yes)、ROM58に記憶されている制御プログラムや位置座標テーブルをRAM59のワークエリアにロードするなどの初期設定を行い(S200)、座標読取処理を実行する(S300)。 【0020】[座標読取処理]ここで座標読取処理について図7を参照して説明する。CPU56は、XループX1?Xmを順に選択するループ選択信号を入出力回路(I/O)53を介してXループ切替え回路50aに出力することにより、XループX1?Xmのスキャンを行う。続いてペン60のコイルL1から発生した交番磁界と、いずれかのXループとの磁気結合によって発生した信号は、増幅器50cによって増幅され、その増幅信号は、バンドパスフィルタ(BPF)50dによって不要な帯域が濾波され、振幅検波回路51によって振幅検波される。続いてその振幅検波された信号は、A/D変換回路52によって振幅、つまり電圧値に対応したデジタル信号に変換され、入出力回路53を介してCPU56に入力される。 【0021】続いてCPU56は、ペン60を検出したと判定し、XループX1?Xmをスキャンして入力されたデジタル信号によって示される電圧値e1?emをXループのループ番号と対応付けてRAM59の電圧値記憶エリアに順次記憶して行く。続いてCPU56は、電圧値記憶エリアに記憶された各電圧値に基づいて以下の手順によってペン60のX座標を演算する。まず、電圧値記憶エリアに記憶されている電圧値e1?emの中で最大の電圧値emaxを選択し、その電圧値emaxを発生したXループのループ番号(以下、maxと称する)をRAM59に記憶する。そして、CPU56はemaxの両隣の電圧値emax±1のうち大きい方を決定し、その決定した電圧値を発生したXループのループ番号(以下、max2と称する)をRAM59に記憶する。 【0022】続いてCPU56は、RAM59に記憶されたループ番号maxおよびmax2を比較して、ループ番号max2はループ番号maxからX軸の+方向または-方向のどちらに存在しているかを判定する。そして、max2≧maxである場合は、変数SIDEを1に設定し、max2<maxである場合は、変数SIDEを-1に設定する。続いてCPU56は、 【0023】 DIFF=e(max)-e(max2)・・・(1) 【0024】を演算し、その演算されたDIFFに最も近い位置座標をROM58に記憶されている位置座標テーブル58aから読出し、それをOFFSETとする。続いてCPU56は、 【0025】 X1=(P1/2)×max+OFFSET×SIDE・・・(2) 【0026】を演算し、X座標X1を求める。ここで、(P1/2)×maxは、ループ番号maxの中心のX座標を示す。そしてCPU56は、各Yループのスキャンを実行し、各Yループから検出した電圧値をRAM59のYループ用の電圧値記憶エリアに記憶する。続いてCPU56は、前述のX座標の演算と同じ手法を用いてペン60のY座標を演算する。」(第3ページ第4欄第41行目?第5ページ第7欄第27行目) D.「【0029】(第2実施形態)次に、この発明に係る第2実施形態について図10および図11を参照して説明する。この第2実施形態に係る電子黒板は、アースによりノイズを逃がすことにより位置座標の読取精度を高めることができることを特徴とする。図10は、この実施形態に係る電子黒板を構成するシート24(図4)に印刷されたXループの配置間隔を示す説明図である。図11は、シート24をYループに沿って切断した横断面説明図である。なお、図4に示すシート24の構造以外は、前述の第1実施形態と同一であるため同一部分の説明を省略し、同一部分については同一の符号を用いる。また、図7における各層の厚さは、分かり易くするために実際の厚さよりも誇張して描かれている。 【0030】図11に示すように、シート24は、シート本体24a、Yループ23Y、レジスト層24b、Xループ23X、レジスト層24b、アースパターン24c、レジスト層24bを順に積層して一体化した構造である。つまり、Xループ23Xの上にレジスト層24bを介してアースパターン24cを印刷した構造である。Yループ23Y、レジスト層24b、Xループ23Xおよびアースパターン24cは、それぞれ印刷(たとえばスクリーン印刷)により形成されている。また、銀ペーストをスクリーン印刷することによって形成されたシートは、厚さ100μmのPETシート上に厚さ20μmの銀ペーストのパターンと、厚さ20μmのレジスト層とを交互に印刷して構成されている。さらに、シート24全体では、約230μmの厚さになっている。アースパターン24cの構成をXループ23Xに基づいて説明すると、図10に示すように、各Xループの幅(内径)を長辺部分に沿って2等分する方向にアースパターン24cが印刷されており、アースパターン24cは、制御回路50(図7)およびバックパネル26(図4)と同じ箇所に接地されている。 【0031】つまり、ペン60により筆記面21a(図1)に筆記する際に、ペン60を持つ手が筆記面21aに接触すると、ペン60を持つ手がアンテナの役割をしてノイズを誘導するおそれがある。そこで、アースパターン24cを印刷することにより、上記ノイズをアースパターン24cへ逃がすことができるため、ノイズによる位置座標の読取精度が低下するのを防止することができる。以上のように、第2実施形態の電子黒板を使用すれば、ノイズをアースパターン24cに逃がすことができるため、位置座標の読取精度を高めることができる。」(第5ページ第8欄第40行目?第6ページ第9欄第32行目) E.図1には、筆記パネル本体20の周りにフレーム11が設置されていることが記載されている。 以上の記載によれば、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「筆記パネル10と、 筆記面21aに筆記を行うための座標入力ペン60と、 枠状のフレーム11が備えられ、 筆記パネル本体20の周りにフレーム11が設置され、 フレーム11の前面下部には、コネクタ13b、13aが設けられ、 コネクタ13aには、PC100と接続された接続ケーブル101のプラグ102が接続され、 コネクタ13bには、プリンタ200と接続された接続ケーブル201のプラグ202が接続され、 座標入力ペン60には、交番磁界を発生するためのコイル、発振回路および電池などが内蔵され、 筆記パネル本体20は、筆記面21aを有する筆記シート21と、板状のパネル22と、シート24と、板状の支持パネル25と、板状のバックパネル26とを順に積層一体化して構成され、 シート24は、シート本体24a、Y座標検出用のループ状パターン(以下「Yループ」という。)23Y、レジスト層24b、X座標検出用のループ状パターン(以下「Xループ」という。)23X、レジスト層24b、アースパターン24c、レジスト層24bを順に積層して一体化した構造であり、 Yループ23Y、レジスト層24b、Xループ23Xおよびアースパターン24cは、それぞれ印刷(たとえばスクリーン印刷)により形成され、 銀ペーストをスクリーン印刷することによって形成されたシートは、厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタラート)シート上に厚さ20μmの銀ペーストのパターンと、厚さ20μmのレジスト層とを交互に印刷して構成され、 シート24全体では、約230μmの厚さになっており、 CPU56は、制御装置50に備えられ、 座標入力ペン60のコイルから発生した交番磁界と、Xループ23Xとの磁気結合によって発生した信号は、電圧値に対応したデジタル信号に変換され、CPU56に入力され、 CPU56は、X座標を求め、 CPU56は、X座標の演算と同じ手法を用いて座標入力ペン60のY座標を演算する 電子黒板1。」 (3)対比 本願補正発明と引用発明を対比する。 引用発明の「電子黒板」と本願補正発明の「電子白板」は、「電子板」である点で一致する。 引用発明において、筆記面21aを有する筆記シート21は、筆記を行う面であるから、表面になる層であることは明らかである。したがって、引用発明の筆記面21aを有する「筆記シート21」と本願補正発明の表面になる「書写層」は、表面になる「層」である点で一致する。 引用発明において、筆記パネル本体20は、筆記シート21と、板状のパネル22と、シート24と、板状の支持パネル25と、板状のバックパネル26とを順に積層一体化して構成されており、シート24は、Xループ23X及びYループ23Yが設けられ、座標入力ペン60から発生した交番磁界の入力に感応することは明らかであるから、引用発明の「パネル22」、「シート24」及び「支持パネル25」は、本願補正発明の「入力感応領域」に相当する。また、引用発明において、「パネル22」、「シート24」及び「支持パネル25」が、筆記シート21の内側に設置されていることは明らかである。 引用発明の「制御装置50」は、座標入力ペン60のXY座標を識別しているといえるから、本願補正発明の「識別制御回路」に相当する。 引用発明の「コネクタ13a」及び「コネクタ13b」は、PC100又はプリンタ200に信号を出力していることは明らかであるから、本願補正発明の「信号出力装置」に相当する。 引用発明の「フレーム11」は、枠状であるから、本願補正発明の「枠」に相当する。また、引用発明において、筆記パネル本体20の周りにフレーム11が設置されているから、引用発明の「筆記パネル本体20」と本願補正発明の周りに枠が設置された「電子白板本体」は、「電子板本体」である点で一致する。 引用発明において、座標入力ペン60のコイル及び発振回路は交番磁界を発生するから、無線信号を発生しているといえる。したがって、引用発明の「コイル及び発振回路」は、本願補正発明の「無線信号発生装置」に相当する。一方、この点については、次のようにも考えられる。本願の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項19を参照すると、無線信号発生装置が電磁波発生装置を含むことは明らかである。そして、引用発明において、座標入力ペン60のコイル及び発振回路は交番磁界を発生するから、電磁波を発生する装置であるといえる。したがって、引用発明の「コイル及び発振回路」は、本願補正発明の「無線信号発生装置」に相当する。さらに、引用発明の「座標入力ペン60」と本願補正発明の「書写入力ペン」は、「入力ペン」である点で一致する。 引用発明において、筆記パネル本体20は、筆記シート21と、板状のパネル22と、シート24と、板状の支持パネル25と、板状のバックパネル26とを順に積層一体化して構成されており、シート24は、Xループ23X及びYループ23Yが設けられ、座標入力ペン60のコイルから発生した交番磁界の入力に感応することは明らかであるから、引用発明の「パネル22」、「シート24」及び「支持パネル25」は、本願補正発明の「被覆層」、「電磁感応発生層」及び「底部支持層」に相当する。 本願補正発明の「絶縁されている・・・隔膜」とは、隔膜が絶縁性であることを意味していることは、本願明細書段落【0012】から明らかである。また、引用発明において、シート24は、シート本体24a、Yループ23Y、レジスト層24b、Xループ23X、レジスト層24b、アースパターン24c、レジスト層24bを順に積層して一体化した構造であり、Yループ23Y及びXループ23X間にあるレジスト層24b(以下「YXループ間のレジスト層24b」という。)は、Yループ23Y及びXループ23Xを電気的に隔てる絶縁性の膜であることは明らかである。さらに、引用発明の「YXループ間のレジスト層24b」は、シート24の層であるから、本願補正発明の電磁感応発生層の「基礎層」と、電磁感応発生層の「層」である点で一致する。 引用発明の「Xループ23X」及び「Yループ23Y」は、座標入力ペン60から発生した交番磁界に感応することは明らかであるから、本願補正発明の「電磁感応アンテナ群」に相当する。また、引用発明において、Xループ23X及びYループ23Yが、YXループ間のレジスト層24bの表面に付設されていることは明らかである。さらに、引用発明において、Xループ23X及びYループ23Yが、X軸方向とY軸方向に沿って配設された感応アンテナ素子でなることは明らかである。 引用発明の「シート24」は、隔膜であるYXループ間のレジスト層24b、並びに電磁感応を発生するXループ23X及びYループ23Yを含んでいるから、本願補正発明の「隔膜式電磁感応発生層」に相当する。 引用発明において、CPU56は、制御装置50に備えられ、座標入力ペン60のコイルから発生した交番磁界とXループ23X及びYループ23Yとの磁気結合によって発生した信号は、電圧値に対応したデジタル信号に変換され、CPU56に入力されることから、Xループ23X及びYループ23Yの出力端子が制御装置50に接続されていることは明らかである。 本願補正発明の「隔膜式電磁感応発生層」に相当する引用発明のシート24を含む、引用発明の「筆記パネル10」は、装置であるといえるから、本願補正発明の「隔膜式電磁感応発生装置」に相当する。 すると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「表面になる層と、該層の内側に設置された入力感応領域と、識別制御回路と、信号出力装置と、周りに枠が設置された電子板本体と、無線信号発生装置を有する入力ペンとを含み、上記入力感応領域は被覆層と電磁感応発生層及び底部支持層により構成され、上記電磁感応発生層の層は絶縁されている隔膜であり、該隔膜表面には電磁感応アンテナ群が付設され、該電磁感応アンテナ群はX軸方向とY軸方向に沿って配設された感応アンテナ素子でなり、隔膜式電磁感応発生層を構成し、該層の出力端子は識別制御回路に接続され、上記入力ペンは無線信号発生装置を備えることを特徴とする隔膜式電磁感応発生装置を有する電子板。」 一方、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 本願補正発明は電子白板であり、その本体が電子白板本体であるのに対し、引用発明は電子黒板であり、その本体が筆記パネル本体20である点。 <相違点2> 本願補正発明では、書写層及び書写入力ペンであり、引用発明では、筆記シート21及び座標入力ペン60である点。 <相違点3> 本願補正発明では、識別制御回路及び信号出力装置が書写層の内側に設置されているのに対し、引用発明では、制御装置50、コネクタ13a及びコネクタ13bが、筆記シート21の内側に設置されているか明確な記載がない点。 <相違点4> 本願補正発明では、絶縁されている隔膜が電磁感応発生層の基礎層であるのに対し、引用発明では、YXループ間のレジスト層24bがシート24の基礎層であるか明確な記載がない点。 <相違点5> 本願補正発明では、柔軟な隔膜であるのに対し、引用発明では、YXループ間のレジスト層24bが柔軟であるのか明確な記載がない点。 <相違点6> 本願補正発明では、隔膜がフォリン(菲林)材質からなるのに対し、引用発明では、YXループ間のレジスト層24bの材質について明確な記載がない点。 <相違点7> 本願補正発明では、電磁感応アンテナ群は、銀とカーボンの混合材質で作られた感応アンテナ素子でなるのに対し、引用発明では、Xループ23X及びYループ23Yは、銀ペーストのパターンでなる点。 <相違点8> 本願補正発明では、信号出力装置が、RF発射/受信器である無線データ交換装置であるのに対し、引用発明では、接続ケーブルのプラグが接続されるコネクタ13a及びコネクタ13bである点。 <相違点9> 本願補正発明では、書写入力ペンの無線信号発生装置がRF発生或いは受信装置を有し、其れと対応する電子白板本体にはRF受信或いは発生装置が設置されているのに対し、引用発明では、これらの構成の記載がない点。 (4)当審の判断 上記相違点について検討する。 <相違点1についての検討> 本願補正発明の「電子白板」と引用発明の「電子黒板」を比較すると、用語が異なるのみで、技術的に実質的な差違はない。したがって、本相違点は実質的な相違点でない。 <相違点2についての検討> 本願補正発明の書写層及び書写入力ペンについて、「書写」とは「書き写すこと」を意味するから(三省堂大辞林第二版参照。)、書写層及び書写入力ペンは書き写すためのものである。また、引用発明の筆記シート21及び座標入力ペン60について、「筆記」とは「書き記すこと」を意味するから(三省堂大辞林第二版参照。)、筆記シート21及び座標入力ペン60は書き記すものである。しかしながら、両者を比較すると、両者とも書くためのものであって、技術的に実質的な差違はない。したがって、本相違点は実質的な相違点でない。 <相違点3についての検討> 制御装置50、コネクタ13a及びコネクタ13bを筆記シート21の内側に設置するか、外側に設置するかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項である。したがって、引用発明において、識別制御回路及び信号出力装置を書写層の内側に設置することは、当業者が適宜なし得ることである。 <相違点4についての検討> 電磁感応発生層の基礎層をどの層とするかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項である。したがって、引用発明において、YXループ間のレジスト層24bを基礎層とすることにより、電磁感応発生層の基礎層を絶縁されている隔膜と構成することは、当業者が適宜なし得ることである。 <相違点5についての検討> 隔膜であるレジスト層において、柔軟なレジスト層を用いる技術は、文献を示すまでもなく、本願優先日前周知である。したがって、引用発明において、当該周知技術を適用して、柔軟な隔膜とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 <相違点6についての検討> 「フォリン(菲林)」とは、「フィルム」を意味する中国語である(BitEx中国語のオンライン中国語辞書(http://bitex-cn.com/dic/)及びオンライン広東語辞書JCanExpress(http://www.cantonese.jp/pages/dic_.htm)参照。)。そして、本願明細書の段落【0012】の「そして、コストを安くして、容易に製造するため、隔膜41は普通のフォリン(菲林)材質が使える。」との記載を参酌すると、「フォリン(菲林)材質」とは、一般的なフィルムの材質を意味しているといえる。一方、引用発明のYXループ間のレジスト層24bは、厚さ20μmの絶縁性の膜であるから、フィルム形状であることは明らかである。したがって、引用発明において、フィルム形状であるYXループ間のレジスト層24bに対し一般的なフィルムの材質とする技術を適用して、隔膜をフォリン(菲林)材質とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 <相違点7についての検討> 電磁波に感応するアンテナにおいて、そのアンテナ素子が銀とカーボンの混合材質で作られる技術は、例えば、特開平11-31281号公報(特に、第4ページ【0019】参照。)及び特開平10-294592号公報(特に、第3ページ【0014】参照。)に記載されているように、本願優先日前周知である。したがって、引用発明において、当該周知技術を適用して、電磁感応アンテナ群は、銀とカーボンの混合材質で作られた感応アンテナ素子でなるように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。 <相違点8についての検討> 装置間インタフェースを有線で行うのか、無線で行うかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項である。また、無線の装置間インタフェースとしてRF発射/受信器である無線データ交換装置は、例えば、風間一幹、変復調の基礎から無線LAN/Bluetoothの回路技術まで ディジタル無線データ通信 第5章 全世界共通のワイヤレス通信規格 Bluetoothの概要とプロトコル、トランジスタ技術、CQ出版株式会社、平成13年7月1日、第38巻第7号、p.227-235(以下「非特許文献」という。)に記載されているBluetooth装置や無線LAN装置のように、本願優先日前周知である。したがって、引用発明において、当該周知技術を適用して、信号出力装置を、コネクタ13a及びコネクタ13bに代えて、RF発射/受信器である無線データ交換装置とすることは、当業者が適宜なし得ることである。 <相違点9についての検討> 無線の装置間インタフェースとして、RF発生或いは受信装置は、上記非特許文献に記載されているBluetooth装置や無線LAN装置のように、本願優先日前周知であり、また、どのような装置間にインタフェースを設けるかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるから、したがって、引用発明において、当該周知技術を適用して、書写入力ペンの無線信号発生装置がRF発生或いは受信装置を有し、其れと対応する電子白板本体にはRF受信或いは発生装置が設置されているように構成することは、当業者が適宜なし得ることである。なお、書写入力ペンの無線信号発生装置がRF発生或いは受信装置を有し、其れと対応する電子白板本体にはRF受信或いは発生装置が設置されているという構成は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載がないため、どのような課題を解決するための構成なのか不明である。 また、本願補正発明の構成によって生じる効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる程度のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 平成19年12月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、補正前の請求項1に記載された事項により特定される、前記2.(1)に記載したとおりのものであると認める。 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。 (2)当審の判断 本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「銀とカーボンの混合材質」とした限定を「銀或いは銀とカーボンの混合材質」に戻し、また、「上記信号出力装置が、RF発射/受信器である無線データ交換装置であり」、「上記書写入力ペンの無線信号発生装置がRF発生或いは受信装置を有し」及び「其れと対応する電子白板本体にはRF受信或いは発生装置が設置されている」との構成を省いたものである。そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-11-05 |
結審通知日 | 2010-11-09 |
審決日 | 2010-11-24 |
出願番号 | 特願2003-556874(P2003-556874) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 圓道 浩史 |
特許庁審判長 |
和田 志郎 |
特許庁審判官 |
稲葉 和生 中野 裕二 |
発明の名称 | 柔軟な隔膜式電磁感応発生装置を有する電子白板 |
代理人 | 山崎 宏 |
代理人 | 川端 純市 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 阿部 隆徳 |
代理人 | 石野 正弘 |