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審決分類 |
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 C04B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C04B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C04B 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C04B |
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管理番号 | 1235291 |
審判番号 | 不服2008-2536 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-06 |
確定日 | 2011-04-07 |
事件の表示 | 特願2003-283618「セメント組成物及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月20日出願公開、特開2004-143037〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成15年7月31日(優先権主張平成14年10月2日)の出願であって、平成18年10月20日付けで拒絶理由を通知し、同年12月13日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成20年1月9日付けで拒絶査定された。 これに対し、平成20年2月6日に拒絶査定不服審判請求がなされ、同年2月20日に手続補正書が提出されたものであり、その後、平成22年8月10日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対する回答書が同年10月13日に提出されている。 2.平成20年2月20日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年2月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)本件補正の内容 本件補正は、補正前(平成18年12月13日付け手続補正書により補正されたもの)の特許請求の範囲を、以下のようにする補正を含むものである。 「 【請求項1】 セメント、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤、及び石炭灰を含有してなり、硬化促進剤が、セメント100部に対して、1?30部で、石炭灰が、セメント100部に対して、50?500部であることを特徴とするセメント組成物。 【請求項2】 アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンが、不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるポリマーエマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。 【請求項3】 アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンが、セメント100部に対して、固形分換算で0.1?2.5部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセメント組成物。 【請求項4】 セメント、石炭灰、及び水をあらかじめ混合してA液とし、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤と水とを混合してなる混合物と、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと水とを混合してなる混合物とを混合してB液とし、使用直前に、A液とB液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法。 【請求項5】 セメント、石炭灰、及び水をあらかじめ混合してA液とし、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤と水とを含有してなる混合物をB液とし、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと水とを含有してなる混合物をC液とし、使用直前に、A液、B液、及びC液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法。」 を、 「 【請求項1】 セメント、セメント100部に対して、50?500部の石炭灰、及び水をあらかじめ混合してA液とし、セメント100部に対して、1?30部の、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤と水とを混合してなる混合物と、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと水とを混合してなる混合物とを混合してB液とし、使用直前に、A液とB液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法。 【請求項2】 セメント、セメント100部に対して、50?500部の石炭灰、及び水をあらかじめ混合してA液とし、セメント100部に対して、1?30部の、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤と水とを含有してなる混合物をB液とし、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと水とを含有してなる混合物をC液とし、使用直前に、A液、B液、及びC液を混合することを特徴とするセメント組成物の使用方法。 【請求項3】 アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンが、不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるポリマーエマルジョンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセメント組成物の使用方法。 【請求項4】 アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンが、セメント100部に対して、固形分換算で0.1?2.5部であることを特徴とする請求項1?請求項3のうちのいずれか一項に記載のセメント組成物の使用方法。」 とする。 (2)補正の目的について 上記補正は、下記補正事項A?Dに示す補正を行うものである。 ・補正事項A 補正前の請求項1?3を削除する。 ・補正事項B 上記補正事項Aに伴い、補正前の請求項4及び5を補正後の請求項1及び2とする。 ・補正事項C 補正後の請求項1及び2における「石炭灰」及び「アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤」を、それぞれ「セメント100部に対して、50?500部の石炭灰」及び「セメント100部に対して、1?30部の、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤」と補正する。 ・補正事項D 補正後の請求項1または2を引用する請求項3及び4を新たに追加する。 しかしながら、上記補正事項Dのように、新たに請求項を追加する補正は、いわゆる増項補正であって、「請求項の削除」を目的とするものに該当せず、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明りょうでない記載の釈明」のいずれにも該当しない。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明 平成20年2月20日付けの手続補正は、上記のとおり、却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成18年12月13日付けで補正された特許請求の範囲および明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。 「 【請求項1】 セメント、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤、及び石炭灰を含有してなり、硬化促進剤が、セメント100部に対して、1?30部で、石炭灰が、セメント100部に対して、50?500部であることを特徴とするセメント組成物。」 4.引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、特開2002-179453号公報(以下、「引用文献1」という。)、原査定において参考文献Aとして提示された、特開平11-92760号公報(以下、「引用文献2」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。 (1)引用文献1 (ア)「セメント、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン、硬化促進剤、及び粘土を含有してなるセメント組成物。」(特許請求の範囲【請求項1】) (イ)「硬化促進剤がアルミン酸塩及び/又は硫酸塩を含有してなる請求項1又は2記載のセメント組成物。」(特許請求の範囲【請求項3】) (ウ)「【従来の技術】トンネルの覆工においてはその背面に空洞が、施工時や施工後に発生する場合がある。このとき、空洞に裏込め材を充填してトンネルの安定化を図る必要があった。従来、裏込め材としてセメントベントナイトが用いられてきたが、次のような課題があった。 〔1〕流動性が大きすぎ、裏込め材が遠方まで不必要に逸流する。 〔2〕湧水があると裏込め材が流出する。 さらに、二重管ダブルパッカー工法では特殊スリーブ管と地山の隙間にシール材を充填する必要がある。従来、シール材としてセメントベントナイトが用いられてきたが、次のような課題があった。 〔3〕強度発現性が小さいため、一次注入や二次注入に移るまでに時間がかかる。 〔4〕粘性が小さく、材料分離しやすいため、特殊スリーブ管の上部と下部に強度差が生じやすい。」(段落【0002】?【0003】) (当審注:〔1〕?〔4〕はマル数字) (エ)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、いずれの方法も、粘度が上昇するまでに時間がかかる上、前者の方法は高吸水性樹脂が高価であり、後者の方法はpH値が13以上と高く、扱いづらいという課題があった。 本発明者らは、種々検討を重ねた結果、特定のセメント組成物を用いることにより、〔1〕急激な粘度上昇を示す、〔2〕強度の発現性に優れる、〔3〕水中不分離性がある、〔4〕pH値が水ガラスを用いた場合に比べ低い、〔5〕セメントから溶出する6価クロム量を低減できる等の知見を得て本発明を完成するに至った。」(段落【0005】?【0006】) (当審注:〔1〕?〔5〕はマル数字) (オ)「硬化促進剤の使用量は、セメント100部に対して、0.5?60部が好ましく、1?20部がより好ましい。0.5部未満だとpH値やフローが大きくなり、水中不分離性が悪くなり、強度発現性が小さくなり、セメントから溶出する6価クロムを低減できないおそれがあり、60部を越えると長期強度が小さくなるおそれがある。」(段落【0023】) (カ)「粘土の使用量は、粘土の種類や品質、セメント、粘土、及び水の練り混ぜ順序により変わるため規定することはできないが、一般的には、セメント100部に対して、5?500部が好ましく、50?200部がより好ましい。5部未満だと粘度が上昇せず、フローが大きくなり、水中不分離性が悪くなるおそれがあり、500部を越えると粘土の粘性が高くなり過ぎ、セメント組成物を混合できないおそれがある。」(段落【0027】) (キ)「本発明のセメント組成物に用いられるセメントは、特に限定されるものではなく、通常のセメントが使用可能である。セメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、及び耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメント、これら各種ポルトランドセメントに、シリカ、高炉スラグ、又はフライアッシュ等を混合した各種混合セメント、微粒子セメント、並びに、超微粒子セメント等が挙げられる。」(段落【0028】) (ク)「実験例1 粘土80部と水300部をミキサーで混練した後、セメント100部を混練してA剤を作製した。次に、セメント100部に対して、表1に示す量の硬化促進剤a3部、固形分で0.5部のアルカリ増粘型ポリマーエマルジョン、及び水5部を混合してB剤を作製した。A剤とB剤をミキサーに続けて投入し、30秒間混練した。混練物につき、フロー、水中不分離性、pH値、圧縮強度、及び6価クロム溶出量を測定した。水中不分離性は表2に基づいて評価した。結果を表1に併記した。」(段落【0038】) (ケ)「<使用材料> 粘土ア:ベントナイト、膨潤力24.0ml/2g、市販品 セメント:普通ポルトランドセメント、市販品 硬化促進剤a:アルミン酸塩(アルミン酸カルシウム、12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する熱処理物を急冷したもの、非晶質、ブレーン値6000cm^(2)/g)100部と硫酸塩(無水石膏、ブレーン値5400cm^(2)/g)100部からなる混合物 アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンα:固形分濃度30%、エチルアクリレート/メタクリル酸共重合ポリマーエマルジョン、ポリマー組成はエチルアクリレート:メタクリル酸=45:55(質量比)」(段落【0039】) (2)引用文献2 (コ)「【従来の技術】裏込め注入材は、・・・従来の裏込め注入材は、セメント、ベントナイト、凝結遅延材、水からなるセメントミルク(以下「A液」という)と水ガラス(以下「B液」という)とで構成される材料であり、材料の分離(ブリージング)を防止するためのベントナイトは必須のものである。・・・ 【発明が解決しようとする課題】現在、最も一般的な裏込め注入材の配合では、ベントナイトはブリージングを防止するための必須の成分である。しかし、その効果を十分に発揮させるためには、ベントナイトをセメントと混合する前に十分に水と混合し、膨潤させておく必要がある。これは、ベントナイトが膨潤する過程で、セメント中のカルシウムイオンがあるとイオン吸着能によってその膨潤作用が阻害されるためである。従って、実際の作業工程でも、まず水とベントナイトを混合し、その後セメントを投入してA液を製造しなければならないので、非常に手間がかかっていた。 また、ベントナイトはそのイオン吸着能からセメントの長期強度の発現に悪影響を与える。従って、裏込め注入材には、ベントナイトの配合量はできるだけ少ないか、全く配合しないことが望ましい。・・・本発明は、ベントナイトの代替材料を裏込め注入材の成分として用い、しかもブリージング性能を低下させないことを課題とするものである。」(段落【0002】?【0004】) (サ)「【課題を解決するための手段】本発明者等は、・・・流動性を改善するためにフライアッシュ系の材料を新たに検討した。その結果、本発明において、発明者等は粗粒分を除去し、最大粒径を概ね40μmに分級したフライアッシュとセメントを特定の割合で裏込め注入材A液を作成すると、ベントナイトを全く配合しなくてもブリージング性能に低下がないことを見いだした。・・・」(段落【0005】) (シ)「【作用】分級フライアッシュを裏込め注入材A液の配合成分として加えると、粉体が増加する分粘性が増し、結果的にブリージングが抑制される。しかも、粘度が増してもフライアッシュが元来持っている作用によって流動性については損なわれることがない。 ・・・・・・ 分級フライアッシュ量についても1m^(3)あたりの重量で 500kgを越えると粘度が大きくなりすぎ、流動性が悪くなる。また、200kgより少ない量の場合は希望するブリージング抑制効果が得られない。」(段落【0008】?【0010】) (ス)「実施例 実施例1?9として、表1に示すような配合で裏込め注入材を製造した。 」(段落【0012】?【0013】、【表1】) (セ)「比較例3として、表3に示すような配合で、一般的に用いられている裏込め注入材を製造した。 」(段落【0016】?【0017】、【表3】) 5.対比・判断 (a)引用文献1には、記載事項(ア)に、「セメント、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン、硬化促進剤、及び粘土を含有してなるセメント組成物。」が記載されている。 (b)上記「セメント」について、記載事項(キ)によれば、「フライアッシュ」を混合した混合セメントも使用できる点が記載されている。 (c)上記「硬化促進剤」について、記載事項(イ)に、「アルミン酸塩及び/又は硫酸塩を含有してなる」と記載され、記載事項(ケ)に、「硬化促進剤a:アルミン酸塩(アルミン酸カルシウム、12CaO・7Al_(2)O_(3)組成に対応する熱処理物を急冷したもの、非晶質、ブレーン値6000cm^(2)/g)100部と硫酸塩(無水石膏、ブレーン値5400cm^(2)/g)100部からなる混合物」と記載されている。 (d)また、上記「硬化促進剤」の使用量について、記載事項(オ)に、「セメント100部に対して、0.5?60部が好ましく、1?20部がより好ましい。」と記載されている。 (e)上記「粘土」について、記載事項(ケ)に「ベントナイト」を用いる点が記載されている。 これらの記載を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、 「セメント、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤、及びベントナイトを含有してなり、硬化促進剤が、セメント100部に対して、1?20部で、ベントナイトが、セメント100部に対して、5?500部であるセメント組成物。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 そこで本願発明と引用発明とを比較する。 (f)引用発明の「硬化促進剤」の含有量は、本願発明の含有量である「1?30部」と、「1?20部」で共通する。 上記(f)を踏まえると、両者は、 「セメント、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン、アルミン酸塩と硫酸塩を含有してなる硬化促進剤、を含有してなり、硬化促進剤が、セメント100部に対して、1?20部であるセメント組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点A 本願発明では「石炭灰」を含有し、「石炭灰」の含有量が「セメント100部に対して、50?500部」であるのに対し、引用発明では「ベントナイト」を含有し、「ベントナイト」の含有量が「セメント100部に対して、5?500部」である点。 上記相違点Aについて検討する。 引用発明が「ベントナイト」を含有することについて、引用文献1の記載事項(カ)に、「粘土の使用量は、・・・一般的には、セメント100部に対して、5?500部が好ましく、50?200部がより好ましい。5部未満だと粘度が上昇せず、フローが大きくなり、水中不分離性が悪くなるおそれがあり、」と記載されており、粘度を高めるとともに水中分離性を向上させるために「ベントナイト」を含有しているといえる。 一方、本願発明が「石炭灰」を含有することについて、本願明細書の段落【0017】に、「本発明で使用する石炭灰は、・・・一般的には、セメント100部に対して、50?500部が好ましく、100?300部がより好ましい。50部未満では粘度が上昇せず、フローが大きくなり、水中不分離性が悪くなる場合があり、」と記載されており、粘度を高めるとともに水中分離性を向上させるために「石炭灰」を含有しているといえる。 よって、両者は、粘度を高めるとともに水中分離性を向上させるために、本願発明では「石炭灰」を、引用発明では「ベントナイト」を含有しているといえる。 そこで、引用発明の「ベントナイト」を本願発明の「石炭灰」に置き換え、セメント100部に対して50?500部含有することを当業者が容易に想到し得るかどうか検討する。 引用文献2には、記載事項(コ)及び(サ)に、ベントナイトの代替材料としてフライアッシュを用いる点が記載され、記載事項(ス)において、各実施例のフライアッシュの含有量をセメント100部に対する含有量に換算すると、「セメント100部に対して57?160部」である点が記載されている。 また、引用文献2の記載事項(シ)には、「分級フライアッシュ量についても1m^(3)あたりの重量で 500kgを越えると粘度が大きくなりすぎ、流動性が悪くなる。また、200kgより少ない量の場合は希望するブリージング抑制効果が得られない。」と記載されており、本願発明と同様に、粘度を高めるとともに水中分離性を向上させるために「フライアッシュ」を含有させているといえる。 これらの記載から、引用文献2には、「ベントナイト」を「フライアッシュ」に置き換え、かつ、「フライアッシュ」の含有量が「セメント100部に対して57?160部」とすることで、「粘度を高めるとともに水中分離性を向上させる」点が記載されていると認められる。 引用発明と引用文献2に記載のものは、裏込め材に用いるセメント組成物という同一の技術分野に属し、かつ、粘度を高めるとともに水中不分離性を向上させるという課題も共通することから、引用発明の「ベントナイト」に代えて、引用文献2の「フライアッシュを、セメント100部に対して57?160部」含有させることで、相違点Aにかかる特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得ることであり、そのことを妨げる事情もない。 そして、「粘度を高めるとともに水中分離性を向上させる」という本願の作用効果も引用文献1及び2から、当業者が予測しうる程度のものである。 よって、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 6.回答書における主張について なお、請求人は、回答書の4-3.において、「膨潤性を有しない本願発明の石炭灰を使用した場合、水の使用量は150?200部がより好ましいのに対し(原明細書[0026])、膨潤性を有する引用文献1の粘土を使用した場合、水の使用量は250?500部がより好ましいものであります(引用文献1[0030])。本願発明のより好ましい水の使用量は、引用文献1のより好ましい水の使用量と重複せず、異なるものであります。 石炭灰を使用した本願発明は、粘土を使用した引用文献1と、膨潤性の有無と水の使用量が異なるものであります。引用文献1は、対比資料にはなりません。」と主張しているので一応検討する。 引用文献2には、記載事項(ス)に「フライアッシュ」を用いた実施例が記載され、記載事項(セ)に、「ベントナイト」を用いた比較例が記載されている。 前者においては、セメント100部に対して水の使用量が116?264部であるのに対し、後者においては、セメント100部に対して水の使用量が350部であることからみて、「ベントナイト」(粘土)を「フライアッシュ」(石炭灰)に置き換えると水の使用量が減少することは、当業者にとって自明の事項であると認められ、また、本願発明は、水の使用量を特定しておらず、請求項の記載に基づかない主張であるので、上記主張は採用できない。 7.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-02 |
結審通知日 | 2011-02-08 |
審決日 | 2011-02-21 |
出願番号 | 特願2003-283618(P2003-283618) |
審決分類 |
P
1
8・
574-
Z
(C04B)
P 1 8・ 572- Z (C04B) P 1 8・ 573- Z (C04B) P 1 8・ 121- Z (C04B) P 1 8・ 571- Z (C04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 塩見 篤史、永田 史泰 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
斉藤 信人 吉川 潤 |
発明の名称 | セメント組成物及びその使用方法 |