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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01D
管理番号 1235315
審判番号 不服2009-1762  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-22 
確定日 2011-04-07 
事件の表示 平成10年特許願第337245号「増幅回路及びそれを用いた位置検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月19日出願公開、特開平11-287668〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成10年11月27日(優先日:平成10年2月4日)の出願であって、平成20年4月7日付けで拒絶理由が通知され、平成20年6月9日付けで手続補正(以下「補正1」という。)がされ、平成20年7月9日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成20年9月12日付けで手続補正(以下「補正2」という。)がされたが、平成20年12月17日付けで補正2について補正の却下の決定がされるとともに、同日付け(送達日:平成20年12月24日)で拒絶査定がされたのに対して、平成21年1月22日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、平成21年2月18日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正で特許請求の範囲についてする補正は、特許請求の範囲を次のように補正しようとするものである。

(本件補正前、即ち、補正1による補正後)
「 【請求項1】 温度特性を有する磁気検出素子からの信号を入力するオペアンプと、
前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗と、
前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗と、
を備えた増幅回路において、
前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗は不純物拡散抵抗により構成されるとともに互いに異なる温度特性を有し、かつ、前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗のみによって規定されるゲインの温度特性が前記磁気検出素子の温度特性を相殺するものとしたことを特徴とする増幅回路。
【請求項2】 前記磁気検出素子は、ロータの回転に伴う磁気ベクトルの変化を電気信号に変換して取り出すための磁気抵抗素子である請求項1に記載の増幅回路。
【請求項3】 前記ゲイン決定用入力抵抗と前記ゲイン決定用帰還抵抗の温度特性が共に正である請求項1に記載の増幅回路。
【請求項4】 前記オペアンプはMOS工程素子にて構成され、前記ゲイン決定用入力抵抗と前記ゲイン決定用帰還抵抗とはそれぞれ、P+領域とPウエル領域により構成されたものである請求項1に記載の増幅回路。
【請求項5】 前記ゲイン決定用入力抵抗と前記ゲイン決定用帰還抵抗は半導体基板内において隣り合う素子である請求項4に記載の増幅回路。
【請求項6】?【請求項9】 (省略)」

(本件補正後)
「 【請求項1】 温度特性を有する磁気検出素子からの信号を入力するオペアンプと、
前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗と、
前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗と、
を備えた増幅回路において、
前記ゲイン決定用入力抵抗はN型半導体基板にP+領域として形成された不純物拡散抵抗からなるとともに、前記ゲイン決定用帰還抵抗はN型半導体基板にPウエル領域として前記P+領域よりも広くかつ深い領域を有して形成された不純物拡散抵抗からなるものであり、前記ゲイン決定用入力抵抗の抵抗値をR1、前記ゲイン決定用帰還抵抗の抵抗値をR2とするとき、それら各抵抗の温度特性を利用した当該増幅回路のゲイン(R2/R1)によって前記磁気検出素子の温度特性を相殺するようにしたことを特徴とする増幅回路。
【請求項2】 前記磁気検出素子は、ロータの回転に伴う磁気ベクトルの変化を電気信号に変換して取り出すための磁気抵抗素子である請求項1に記載の増幅回路。
【請求項3】 前記ゲイン決定用入力抵抗と前記ゲイン決定用帰還抵抗の温度特性が共に正である請求項2に記載の増幅回路。
【請求項4】 前記ゲイン決定用入力抵抗と前記ゲイン決定用帰還抵抗とは前記N型半導体基板内において隣り合う素子である請求項1?3のいずれか1項に記載の増幅回路。
【請求項5】?【請求項8】 (省略)」
(下線は、補正箇所を明示するために請求人が付したものである。)

2 本件補正の適否
(1)本件補正の目的
本件補正で特許請求の範囲についてする補正のうち、請求項1を対象とする補正は、実質的に、次の事項からなるものである。
ア 本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「ゲイン決定用入力抵抗」を構成する「不純物拡散抵抗」について、「N型半導体基板にP+領域として形成された不純物拡散抵抗」と限定する事項。
イ 本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「ゲイン決定用帰還抵抗」を構成する「不純物拡散抵抗」について、「N型半導体基板にPウエル領域として前記P+型領域よりも広くかつ深い領域を有して形成された不純物拡散抵抗」と限定する事項。
ウ 本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である増幅回路の「ゲイン」について、「前記ゲイン決定用入力抵抗の抵抗値をR1、前記ゲイン決定用帰還抵抗の抵抗値をR2とするとき、それら各抵抗の温度特性を利用した当該増幅回路のゲイン(R2/R1)」と限定する事項。
そして、上記ア?ウの事項はいずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

したがって、本件補正で特許請求の範囲についてする補正のうち、請求項1を対象とする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(2)独立特許要件
ア 本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「 温度特性を有する磁気検出素子からの信号を入力するオペアンプと、
前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗と、
前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗と、
を備えた増幅回路において、
前記ゲイン決定用入力抵抗はN型半導体基板にP+領域として形成された不純物拡散抵抗からなるとともに、前記ゲイン決定用帰還抵抗はN型半導体基板にPウエル領域として前記P+領域よりも広くかつ深い領域を有して形成された不純物拡散抵抗からなるものであり、前記ゲイン決定用入力抵抗の抵抗値をR1、前記ゲイン決定用帰還抵抗の抵抗値をR2とするとき、それら各抵抗の温度特性を利用した当該増幅回路のゲイン(R2/R1)によって前記磁気検出素子の温度特性を相殺するようにしたことを特徴とする増幅回路。」

イ 引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用され、この出願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-72755号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

<記載事項1>
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はセンサ等によるアナログな信号値がもつ温度依存性を補償するために集積回路装置に組み込むに適する温度依存性補償回路に関する。」

<記載事項2>
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の温度依存性補償回路によれば、信号値の温度依存性を補償すべき入力信号を比例増幅回路に入力抵抗を介して与え、その入力側と出力側との間に帰還抵抗を接続し、入力抵抗と帰還抵抗の少なくともいずれかの一部に抵抗値が温度依存性をもつ補償抵抗を組み込んで比例増幅回路の増幅率に所定の温度依存性をもたせ、比例増幅回路の出力側から入力信号の信号値の温度依存性が補償された出力信号を取り出すことにより上述の目的を達成する。
【0007】なお、上記の補償抵抗を除いた入力抵抗と帰還抵抗には抵抗値の温度依存性がごく少ないか同じものを用い、補償抵抗には抵抗値の温度依存性がそれと異なるものを用いるのが有利である。比例増幅回路としては通例のように演算増幅器を用いて入力信号を受けるその一方の入力側に入力抵抗と帰還抵抗を接続し、その他方の入力側には所定値の基準電圧を与えるのがよい。また、これに入力信号を電圧信号の形で与えて出力信号も電圧信号の形で取り出すのがよい。」

<記載事項3>
【0008】補償抵抗としては温度依存性が正な抵抗,集積回路装置の場合はいわゆる拡散抵抗を用いるのが便利であり、入力信号の信号値が負の温度依存性をもつ場合は補償抵抗を帰還抵抗に組み込んで比例増幅回路の増幅率の正の温度依存性によりそれを補償し、入力信号の信号値が正の温度依存性をもつ場合は補償抵抗を入力抵抗に組み込んで比例増幅回路の増幅率の負の温度依存性によりそれを補償するのが有利である。なお、上記の拡散抵抗の温度依存性は半導体表面から拡散する抵抗層の不純物濃度や不純物の種類により広範囲に調整できる。」

<記載事項4>
「【0010】
【実施例】以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。図1は補償抵抗を帰還抵抗に組み込む実施例の回路図、図2は補償抵抗を入力抵抗に組み込む実施例の回路図であり、図1と図2の実施例は入力信号の信号値がそれぞれ負と正の温度依存性をもつ場合に適する。これらの実施例では比例増幅のために演算増幅器を用い, 抵抗類には拡散抵抗を集積回路装置に作り込むものとする。
【0011】図1に示すように実施例では比例増幅に2入力の演算増幅器10を用いるので、通例のようにその反転入力に入力信号Siを入力抵抗20を介して与え, その非反転入力に所定値の基準電圧Vrを与え, かつ演算増幅器10の反転入力と出力との間に帰還抵抗30を接続して出力側から出力信号Soを取り出す。周知のようにこの比例増幅回路は電圧増幅形であり、入力信号Siと出力信号Soの信号値である電圧値をそれぞれViとVoとする。なお、入力信号Siの電圧値Voは例えば-3x10^(-4)/度の負の温度依存性をもっており、その温度係数をαで表すこととする。
【0012】この比例増幅回路の増幅率ないしゲインをGとするとよく知られているように出力信号Soの電圧値VoはVo=Vr+G (Vi-Vr) で表され、かつ入力抵抗20と帰還抵抗30の抵抗値をそれぞれRiとRfとすると、
(1) G=Rf/Ri
が成立する。集積回路装置に組み込む場合にはこの増幅率Gが例えば数倍になるようにRiを数kΩ, Rfを十数kΩにそれぞれ設定するのがよい。」

<記載事項5>
「【0013】図1の実施例では帰還抵抗30の方に所定の温度依存性をもつ補償抵抗32を組み込むことにより、比例増幅回路の前述の増幅率Gに入力信号Siの電圧値Viの温度依存性をちょうど補償できる温度依存性をもたせる。この補償を正確にするにはまず入力抵抗20および帰還抵抗30内の補償抵抗32を除いた帰還抵抗部分31に同じ温度依存性をもたせておくのが有利であり、例えばこれらをp形のボロンを同時拡散した 130Ω程度のシート抵抗の拡散抵抗として温度係数βを+1x10^(-3)/度程度に揃えるのがよい。一方、補償抵抗32には不純物の濃度ないし種類が異なるシート抵抗が例えば3kΩの拡散抵抗を用い、その温度係数γを望ましくは上述の数倍以上の例えば+7x10^(-3)/度に設定するのがよい。」

(ア)記載事項1のとおり、引用文献には、センサによるアナログ信号値がもつ温度依存性を補償するための温度依存性補償回路が記載されている。

(イ)記載事項2のとおり、引用文献には、上記(ア)の温度依存性補償回路である比例増幅回路として、信号値の温度依存性を補償すべき入力信号を与えられる演算増幅器と、演算増幅器の入力側に配置された入力抵抗と、演算増幅器の入力側と出力側との間に接続された帰還抵抗と、を備えた比例増幅回路であって、帰還抵抗の一部に抵抗値が温度依存性をもつ補償抵抗を組込んで比例増幅回路の増幅率に所定の温度依存性をもたせ、比例増幅回路の出力側から入力信号の信号値の温度依存性が補償された出力信号を取り出す比例増幅回路が記載されている。換言すれば、引用文献の比例増幅回路は、温度依存性をもたせた比例増幅回路の増幅率(ゲイン)によってセンサによる入力信号の信号値の温度依存性を補償するようにした比例増幅回路であるといえる。

(ウ)記載事項3のとおり、引用文献には、補償抵抗には拡散抵抗を用い、拡散抵抗の温度依存性は半導体表面から拡散する抵抗層の不純物濃度や不純物の種類により広範囲に調整できることが記載されている。

(エ)記載事項4のとおり、引用文献には、上記(イ)の比例増幅回路の実施例として、演算増幅器10と、入力抵抗20と、帰還抵抗30とを備えたものが記載されている。また、同じく記載事項4のとおり、引用文献には、比例増幅回路のゲインをG、入力抵抗20の抵抗値をRi、帰還抵抗30の抵抗値をRfとすると、G=Rf/Riが成立すること、ゲインが数倍になるようにRi<Rfとすることが記載されている。

(オ)記載事項5のとおり、引用文献には、上記(エ)の入力抵抗20及び帰還抵抗30について、帰還抵抗30は帰還抵抗部分31と補償抵抗32とからなり、入力抵抗20と帰還抵抗部分31とをp形のボロンを同時拡散した130Ω程度のシート抵抗の拡散抵抗として温度係数βを+1x10^(-3)/度程度に揃えたものとし、補償抵抗32は不純物の濃度ないし種類が異なるシート抵抗が3kΩの拡散抵抗を用い、その温度係数γを+7x10^(-3)/度にすることが記載されている。
また、上記(イ)のように増幅率(ゲイン)に所定の温度依存性をもたせるには、上記(エ)のG=Rf/Riという関係からみて、補償抵抗32は入力抵抗20と帰還抵抗30との温度依存性を異ならせるように調整されることは明らかである。
したがって、上記(イ)ないし(エ)の内容と併せてみれば、引用文献1には、補償抵抗32は入力抵抗20及び帰還抵抗部分31とは不純物の濃度ないし種類が異なる拡散抵抗として入力抵抗20と帰還抵抗30との温度依存性を異らせるように調整されることが記載されている。

したがって、記載事項1?記載事項5に基づけば、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「 温度依存性をもつセンサによる入力信号が与えられる演算増幅器10と、
前記演算増幅器の入力側に設置された入力抵抗20と、
前記演算増幅器の入力側と出力側との間に接続された帰還抵抗30と、
を備えた比例増幅回路において、
前記入力抵抗20はp形の拡散抵抗からなるとともに、前記帰還抵抗30は帰還抵抗部分31と補償抵抗32とからなり、帰還抵抗部分31はp形の拡散抵抗からなり、補償抵抗32は入力抵抗20及び帰還抵抗部分31とは不純物の濃度ないし種類が異なる拡散抵抗として入力抵抗20と帰還抵抗30との温度依存性を異らせるように調整され、かつ、前記入力抵抗20の抵抗値をRi、前記帰還抵抗30の抵抗値をRfとするとき、Ri<Rfであり、温度依存性をもたせた前記比例増幅回路のゲイン(Rf/Ri)によって前記センサによる入力信号の信号値の温度依存性を補償するようにした比例増幅回路。」

ウ 対比
本願補正発明と引用発明とを比較する。

(ア)引用発明の「センサ」と本願補正発明の「磁気検出素子」とは、「検出素子」の点で共通する。
また、引用発明の「温度依存性をもつ」は、本願補正発明の「温度特性を有する」に相当し、以下同様に、「入力信号」は「信号」に、「演算増幅器10」は「オペアンプ」に、それぞれ相当する。
したがって、引用発明の「温度依存性をもつセンサによる入力信号が与えられる演算増幅器10」と本願補正発明の「温度特性を有する磁気検出素子からの信号を入力するオペアンプ」とは、「温度特性を有する検出素子からの信号を入力するオペアンプ」の点で共通する。

(イ)引用発明の入力抵抗20と帰還抵抗30とはいずれも、演算増幅器を備えた比例増幅回路のゲインを決定するものであるから、引用発明の「前記演算増幅器の入力側に設置された入力抵抗20」は、本願補正発明の「前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗」に相当し、以下同様に、「前記演算増幅器の入力側と出力側との間に接続された帰還抵抗30」は「前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗」に、「比例増幅回路」は「増幅回路」に、それぞれ相当する。

(ウ)引用発明の「前記入力抵抗20はp形のボロンを拡散した拡散抵抗からなるとともに」と、本願補正発明の「前記ゲイン決定用入力抵抗はN型半導体基板にP+領域として形成された不純物拡散抵抗からなるとともに」とは、「前記ゲイン決定用入力抵抗はp形の不純物拡散抵抗からなるとともに」の点で共通する。

(エ)引用発明の「前記帰還抵抗30は帰還抵抗部分31と補償抵抗32とからなり、帰還抵抗部分31はp形の拡散抵抗からなり、補償抵抗32は入力抵抗20及び帰還抵抗部分31とは不純物の濃度ないし種類が異なる拡散抵抗として入力抵抗20と帰還抵抗30との温度依存性を異らせるように調整され」と、本願補正発明の「前記ゲイン決定用帰還抵抗はN型半導体基板にPウエル領域として前記P+領域よりも広くかつ深い領域を有して形成された不純物拡散抵抗からなるものであり」とは、「前記ゲイン決定用帰還抵抗は少なくとも一部がp形の不純物拡散抵抗からなるものであり」の点で共通する。

(オ)引用発明の比例増幅回路のゲイン(Rf/Ri)は、入力抵抗20と帰還抵抗30との温度依存性を異なるようにして、温度依存性をもたせたものであるから、入力抵抗20及び帰還抵抗30の温度依存性を利用したものといえる。
また、引用発明の「前記センサによる入力信号の信号値の温度依存性を補償する」と本願補正発明の「前記磁気検出素子の温度特性を相殺する」とは、「前記検出素子の温度特性を相殺する」の点で共通することは明らかである。
したがって、引用発明の「前記入力抵抗20の抵抗値をRi、前記帰還抵抗30の抵抗値をRfとするとき、Ri<Rfであり、温度依存性をもたせた前記比例増幅回路のゲイン(Rf/Ri)によって前記センサによる入力信号の信号値の温度依存性を補償するようにした」と、本願補正発明の「前記ゲイン決定用入力抵抗の抵抗値をR1、前記ゲイン決定用帰還抵抗の抵抗値をR2とするとき、それら各抵抗の温度特性を利用した当該増幅回路のゲイン(R2/R1)によって前記磁気検出素子の温度特性を相殺するようにした」とは、「前記ゲイン決定用入力抵抗の抵抗値をR1、前記ゲイン決定用帰還抵抗の抵抗値をR2とするとき、それら各抵抗の温度特性を利用した当該増幅回路のゲイン(R2/R1)によって前記検出素子の温度特性を相殺するようにした」の点で共通する。

よって、本願補正発明と引用発明の両者は、
「 温度特性を有する検出素子からの信号を入力するオペアンプと、
前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗と、
前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗と、
を備えた増幅回路において、
前記ゲイン決定用入力抵抗はp形の不純物拡散抵抗からなるとともに、前記ゲイン決定用帰還抵抗は少なくとも一部がp形の不純物拡散抵抗からなるものであり、前記ゲイン決定用入力抵抗の抵抗値をR1、前記ゲイン決定用帰還抵抗の抵抗値をR2とするとき、それら各抵抗の温度特性を利用した当該増幅回路のゲイン(R2/R1)によって前記検出素子の温度特性を相殺するようにした増幅回路。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
検出素子について、本願補正発明は磁気検出素子であるのに対して、引用発明はセンサの種類が特定されていない点。

[相違点2]
ゲイン決定用入力抵抗及びゲイン決定用帰還抵抗のそれぞれを構成する不純物拡散抵抗について、本願補正発明は、ゲイン決定用入力抵抗はN型半導体基板にP+領域として形成された不純物拡散抵抗であり、ゲイン決定用帰還抵抗はN型半導体基板にPウエル領域として前記P+領域よりも広くかつ深い領域を有して形成された不純物拡散抵抗であるのに対して、引用発明は、入力抵抗はp形の拡散抵抗であり、帰還抵抗は帰還抵抗部分31と補償抵抗32とからなり、帰還抵抗部分31はp形の拡散抵抗であり、補償抵抗32は入力抵抗20及び帰還抵抗部分31とは不純物の濃度ないし種類が異なる拡散抵抗である点。

エ 相違点についての判断
上記相違点について検討する。

(ア)相違点1について
本願補正発明はオペアンプに入力される信号が磁気検出素子からの信号であることを特定するとともに、増幅回路が磁気検出素子の温度特性を相殺することを特定するものであるが、本願補正発明は、その特許請求の範囲に記載されているとおり「増幅回路」を対象とする発明であり、磁気検出素子自体は当該増幅回路の一部を構成する発明特定事項ではない。そして、本願補正発明の増幅回路と引用発明の比例増幅回路とを対比したとき、当該「磁気検出素子」との特定により、増幅回路自体の構成として実質的な構成上の相違を生じるものとも解されない。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

また、磁気検出素子の温度特性を増幅回路のゲインの温度特性を利用して補償することは、原査定でも引用された特開昭61-237062号公報(2頁左上欄9行?同左下欄7行の測定装置の増幅率の正の温度係数による温度依存性により、磁気抵抗性センサ部材のセンサ信号の低下が補償される旨の記載を参照。以下「周知例1」という。)にみられるように周知であり、引用発明の温度依存性をもつセンサとして磁気検出素子を採用することは当業者が容易になし得たことであるともいえる。

したがって、相違点1は、本願補正発明と引用発明との実質的な相違点ではなく、また、引用発明において上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるともいえる。

(イ)相違点2について
まず、増幅回路の入力抵抗をN型半導体基板に設けられたP+型領域で構成し、帰還抵抗をN型半導体基板に設けられたP型ウエル領域で構成することは、原査定と同日付け補正の却下の決定でも引用された特開昭56-45067号公報(1頁左下欄19行?同右下欄4行参照。以下「周知例2」という。)にみられるように周知技術であり、当該周知技術の入力抵抗及び帰還抵抗は、引用発明の入力抵抗20及び帰還抵抗の一部をなす補償抵抗32と同様に、それぞれ不純物の濃度が異なる拡散抵抗である。
また、引用発明は、帰還抵抗30を帰還抵抗部分31と補償抵抗32とにより構成するものであるが、入力信号の温度特性を増幅回路のゲインの温度特性を利用して補償するに際し、帰還抵抗の全体の温度特性を入力抵抗の温度特性と異ならせることによりゲインに温度特性をもたせることは、上記周知例1(3頁左下欄3行?同18行及び第3図参照。)にみられるように周知技術である。
そして、引用発明は、入力抵抗の抵抗値より帰還抵抗の抵抗値を大きくするとともに、不純物の濃度により拡散抵抗の温度依存性を調整するものであるから、上記2つの周知技術を勘案すれば、入力抵抗の不純物拡散抵抗をN型半導体基板にP+領域で構成し、帰還抵抗の不純物拡散抵抗をN型半導体基板にP型ウエル領域で構成することにより、入力抵抗の抵抗値より帰還抵抗の抵抗値を大きくするとともに、帰還抵抗の温度依存性を所望のゲインの温度特性が得られるように調整することは、当業者が容易になし得たことである。
その際に、帰還抵抗を構成する不純物拡散抵抗のPウエル領域を、入力抵抗を構成する不純物拡散抵抗のP+領域よりも広くかつ深い領域を有するものとする点は、この出願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても格別の技術上の意義は認められず、この点は当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。

したがって、引用発明において上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことである。

また、本願補正発明によってもたらされる効果についても、引用文献及び周知例1,2の記載から当業者が予測し得る範囲内のものである。

オ まとめ
よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)補正の却下の決定についてのまとめ
以上のとおり、本件補正で請求項1を対象とする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることになったから、この出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、補正1により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「 温度特性を有する磁気検出素子からの信号を入力するオペアンプと、
前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗と、
前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗と、
を備えた増幅回路において、
前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗は不純物拡散抵抗により構成されるとともに互いに異なる温度特性を有し、かつ、前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗のみによって規定されるゲインの温度特性が前記磁気検出素子の温度特性を相殺するものとしたことを特徴とする増幅回路。」

第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に頒布された特開昭61-237062号公報(上記周知例1)、特開平7-273287号公報、特開平9-72755号公報(上記引用文献)に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第5 当審の判断
1 引用文献に記載された発明
引用文献の記載事項及び引用発明については、上記第2 2(2)イに記載したとおりであり、引用発明を再掲すると次のとおりである。
「 温度依存性をもつセンサによる入力信号が与えられる演算増幅器10と、
前記演算増幅器の入力側に設置された入力抵抗20と、
前記演算増幅器の入力側と出力側との間に接続された帰還抵抗30と、
を備えた比例増幅回路において、
前記入力抵抗20はp形の拡散抵抗からなるとともに、前記帰還抵抗30は帰還抵抗部分31と補償抵抗32とからなり、帰還抵抗部分31はp形の拡散抵抗からなり、補償抵抗32は入力抵抗20及び帰還抵抗部分31とは不純物の濃度ないし種類が異なる拡散抵抗として入力抵抗20と帰還抵抗30との温度依存性を異らせるように調整され、かつ、前記入力抵抗20の抵抗値をRi、前記帰還抵抗30の抵抗値をRfとするとき、Ri<Rfであり、温度依存性をもたせた前記比例増幅回路のゲイン(Rf/Ri)によって前記センサによる入力信号の信号値の温度依存性を補償するようにした比例増幅回路。」

2 対比
本願発明と引用発明とを比較する。

(ア)上記第2 2(2)ウ(ア)ないし(イ)に記載したのと同様の理由により、引用発明の「温度依存性をもつセンサによる入力信号が与えられる演算増幅器10と、前記演算増幅器の入力側に設置された入力抵抗20と、前記演算増幅器の入力側と出力側との間に接続された帰還抵抗30と、を備えた比例増幅回路において」と、本願発明の「温度特性を有する磁気検出素子からの信号を入力するオペアンプと、前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗と、前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗と、を備えた増幅回路において」とは、「温度特性を有する検出素子からの信号を入力するオペアンプと、前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗と、前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗と、を備えた増幅回路において」の点で共通する。

(イ)引用発明の「前記入力抵抗20はp形の拡散抵抗からなるとともに、前記帰還抵抗30は帰還抵抗部分31と補償抵抗32とからなり、帰還抵抗部分31はp形の拡散抵抗からなり、補償抵抗32は入力抵抗20及び帰還抵抗部分31とは不純物の濃度ないし種類が異なる拡散抵抗として入力抵抗20と帰還抵抗30との温度依存性を異らせるように調整され」は、本願発明の「前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗は不純物拡散抵抗により構成されるとともに互いに異なる温度特性を有し」に相当する。

(ウ)引用発明のゲイン(Rf/Ri)は、入力抵抗20の抵抗値Riと帰還抵抗30の抵抗値Rfのみによって規定されるものである。
また、引用発明の「温度依存性をもたせた前記比例増幅回路のゲイン(Rf/Ri)によって前記センサによる入力信号の信号値の温度依存性を補償するようにした」と、本願発明の「ゲインの温度特性が前記磁気検出素子の温度特性を相殺するものとした」とは、「ゲインの温度特性が前記検出素子の温度特性を相殺するものとした」の点で共通することは明らかである。
よって、引用発明の「前記入力抵抗20の抵抗値をRi、前記帰還抵抗30の抵抗値をRfとするとき、Ri<Rfであり、温度依存性をもたせた前記比例増幅回路のゲイン(Rf/Ri)によって前記センサによる入力信号の信号値の温度依存性を補償するようにした」と、本願発明の「前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗のみによって規定されるゲインの温度特性が前記磁気検出素子の温度特性を相殺するものとした」とは、「前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗のみによって規定されるゲインの温度特性が前記検出素子の温度特性を相殺するものとした」の点で共通する。

よって、本願発明と引用発明の両者は、
「 温度特性を有する検出素子からの信号を入力するオペアンプと、
前記オペアンプにおける入力端子に配置されたゲイン決定用入力抵抗と、
前記オペアンプの出力端子から入力端子への帰還経路に配置されたゲイン決定用帰還抵抗と、
を備えた増幅回路において、
前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗は不純物拡散抵抗により構成されるとともに互いに異なる温度特性を有し、かつ、前記ゲイン決定用入力抵抗および前記ゲイン決定用帰還抵抗のみによって規定されるゲインの温度特性が前記磁気検出素子の温度特性を相殺するものとした増幅回路。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
検出素子について、本願発明は磁気検出素子であるのに対して、引用発明はセンサの種類が特定されていない点。

3 相違点についての判断
上記相違点について検討する。

上記第2 2(2)エ(ア)で検討したのと同様の理由により、上記相違点は実質的な相違点ではなく、また、引用発明において上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項であるともいえる。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-01 
結審通知日 2011-02-08 
審決日 2011-02-21 
出願番号 特願平10-337245
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵岡田 卓弥  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 波多江 進
下中 義之
発明の名称 増幅回路及びそれを用いた位置検出装置  
代理人 永井 聡  
代理人 加藤 大登  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  

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