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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1235608
審判番号 不服2007-20092  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-19 
確定日 2011-04-18 
事件の表示 特願2001-345077「プロピレン系樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年5月21日出願公開、特開2003-147156〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年11月9日に特許出願され、平成18年2月28日付けで拒絶理由が通知され、同年5月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年6月6日付けで拒絶査定がされた。これに対して、同年7月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月13日に手続補正書が提出され、同年10月9日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成20年3月7日付けで前置報告がなされ、平成21年6月25日付けで当審より審尋がなされ、同年8月25日に回答書が提出され、平成22年4月22日付けで当審において、平成19年8月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同年6月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.本願発明の認定
本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年6月28日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?4に係る発明を、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)
【請求項1】(a)下記の一般式(Ia)で表される遷移化合物成分を含有するメタロセン触媒を用いて、プロピレン重合体成分(PP)を製造する前段工程及び重合の定常状態において供給する原料組成を、生成してくるプロピレン-エチレン共重合体成分(EP)の組成と等しくなるようにする、プロピレン-エチレン共重合体成分(EP)を製造する後段工程によって得られ、下記の要件(1)?(6)を満たすプロピレン系ブロック共重合体100重量部に対して、(b)リン系酸化防止剤を0.01?1重量部、(c)ヒンダードアミン系耐候剤及び/または飽和ジアルキルヒドロキシルアミン系化合物を0.005?1重量部含有してなることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体組成物。
(1)メルトフローレート(MFR)が、0.1?150g/10分である。
(2)100℃のオルトジクロルベンゼンに不溶、かつ140℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な成分のプロピレン含有量が、99.5重量%以上である。
(3)プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン-エチレン共重合体成分(EP)の含有量が、5?50重量%である。
(4)EPのエチレン含有量(G)が、10?90重量%である。
(5)EPのエチレン含有量(G)と、EPのうちW_(40)×A_(40)/B_(40)で表示される成分(ここで、W_(40)は40℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な部分(重量%)、A_(40)はW_(40)部分の平均エチレン含有量(重量%)、B_(40)はW_(40)部分のEPのエチレン含有量(重量%)である)のエチレン含有量(E)との間に、関係式(I)が成り立つ。
G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0 (I)
(6)当該ブロック共重合体の融点が157℃以上である。
【化1】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(4)、R^(5)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?10の炭化水素基、炭素数1?12のケイ素含有炭化水素基または炭素数1?12のハロゲン化炭化水素基を示す。R^(3)及びR^(6)は、それぞれ独立して、それが結合する五員環に対して縮合環を形成する炭素数3?10の飽和または不飽和の2価の炭化水素基を示す。R^(7)およびR^(8)はそれぞれ独立して、炭素数6?20のアリール基、炭素数6?20のハロゲンまたはハロゲン化炭化水素置換アリール基を示す。Qは2つの共役五員環配位子を任意の位置で架橋する結合性基を示し、Mは周期律表4?6族から選ばれる金属原子を示し、X及びYは水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アミノ基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示す。m及びnはそれぞれ置換基R^(7)、R^(8)が副環に置換されている個数を意味し、それぞれ独立に0?20の整数を示す。)
【請求項2】射出成形品、射出圧縮成形品、中空成形品、及び押出成形品からなる群から選ばれる成形品であって、請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物により構成されていることを特徴とするプロピレン系樹脂成形品。
【請求項3】請求項2に記載の成形品を、放射線、高エネルギー光、高温蒸気または反応性気体により処理をしてなる滅菌処理成形品。
【請求項4】請求項2に記載の成形品を、放射線、高エネルギー光、高温蒸気または反応性気体により処理をしてなる接着性成形品。


第3.当審が通知した拒絶の理由の概要
当審が、平成22年4月22日付けで通知した拒絶理由1の概要は、以下のとおりである。
「◎本願発明の認定
本件拒絶理由通知書と同日付の補正の却下の決定により、平成19年8月13日付けの手続補正は決定をもって却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明(以下、「本願発明1?4」という。)は、平成18年5月25日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

◎拒絶理由1
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

○請求項1に係る発明について
本願出願時の技術常識を考慮しても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、請求項1に記載された要件(5)、すなわち、
『(5)EPのエチレン含有量(G)と、EPのうち結晶性を持たない成分のエチレン含有量(E)との間に、関係式(I)が成り立つ。
G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0(I)』
にまで拡張ないし一般化できるとはいえないので、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
○請求項2?4に係る発明について
請求項2?4に係る発明は、請求項1に係る発明を直接あるいは間接に引用するものであり、請求項1に係る発明と同じ記載不備が認められるから、請求項1について記載した理由と同様の理由により、請求項2?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」


第4.当審の判断
上記第2.において認定した本願発明1?4が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるか否か、すなわち、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしているか否かについて検討する。

1.本願発明1について
1-1.本願明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
ア.「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明のプロピレン系樹脂組成物(組成物I)は、プロピレン系ブロック共重合体と該プロピレン系ブロック共重合体への配合成分とからなる。
(i)プロピレン系ブロック共重合体の説明
本発明の(a)プロピレン系ブロック共重合体は、メタロセン触媒を用いて、プロピレン重合体成分(PP)を製造する前段工程及びプロピレン-エチレン共重合体成分(EP)を製造する後段工程によって得られ、下記の要件(1)?(6)を満たすものである。
(1)メルトフローレート(MFR)が、0.1?150g/10分である。
(2)100℃のオルトジクロルベンゼンに不溶、かつ140℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な成分のプロピレン含有量が、99.5重量%以上である。
(3)プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン-エチレン共重合体成分(EP)の含有量が、5?50重量%である。
(4)EPのエチレン含有量(G)が、10?90重量%である。
(5)EPのエチレン含有量(G)と、EPのうち結晶性を持たない成分のエチレン含有量(E)との間に、関係式(I)が成り立つ。
G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0 (I)
(6)当該ブロック共重合体の融点が157℃以上である。」(段落【0007】)

イ.「本発明者らはEPの諸物性について検討を重ねた結果、G値とE値の乖離を大きくしないこと、すなわち理論上のE値の上限値をプロットしたE=Gの直線にできるだけ近づけることが、本発明が課題とする物性の向上につながることを見出した。本発明で開示するプロピレン系ブロック共重合体は、EPのランダム性が極めて高いことにより、G値とE値の物性相関が、従来公知のブロック共重合体に比べて、理論上の上限線を示すE=Gにより近づいた物性を有するものである。
また、本発明において、10≦G≦90、好ましくは20≦G≦60、更に好ましくは25≦G≦50であるから、本発明主題のプロピレン系ブロック共重合体は、E-Gグラフ上における一定条件を満たす領域に属するものである。別の表現をすれば、G値とE値の差は、通常5重量%以内、好ましくは3重量%以内、特に2重量%以内である。特に、G値が20?50重量%の範囲でG値とE値の差が0?2重量%、更には0?1重量%のものがよい。」(段落【0018】)

ウ.「G値とE値が関係式(I)を満足しない場合には、EP中の非晶成分と結晶性成分の間の親和性の強さが臨界点まで達しないために、耐衝撃性と剛性のバランスが満足できる程度には向上しないものと推測される。また、G値とE値の関係が上記関係式(I)を満足しない場合、結晶部分であるPPと、ゴム部分であるEPの親和性が高まる結果、PP相中に分散するEP粒子の粒径が小さくなり、光沢が上昇して良好な外観を得られなくなる。物性、特に剛性と耐衝撃性のバランスが悪化する原因としては、ゴム中に存在するラメラのサイズが大きくなったり凝集したりすることにより同一のEP含有量であっても衝撃吸収能が変化することによるものと考えられる。また、分散EP粒子のサイズも同時に変化し、その結果光沢値が上昇してしまうという不都合も発生する。逆に、G値とE値が近接するにつれゴム中に分散するラメラが小さくなり、かつその凝集度合いが低下するために低い光沢値のまま良好な剛性/耐衝撃性バランスを保持することが可能となるものと考えられる。G値は、後段工程におけるエチレン/プロピレン原料組成比を変更することにより所望の値に収めることができる。また、E値は後述するように触媒と重合条件を適宜に選択することにより、本発明の要件(5)の関係式(I)を満足させることができる。」(段落【0019】)

エ.「(3)以下の式に従い、EP含有量を求める。
EP含有量(重量%) =
W_(40)×A_(40)/B_(40)+W_(100)×A_(100)/100+W_(140)×A_(140)/100 (III)
つまり、(III)式右辺の第一項であるW_(40)×A_(40)/B_(40)は結晶性を持たないEP含有量(重量%)を示し、・・・」(段落【0027】、下線は審決において付与)

オ.「【実施例】
下記の実施例は、本発明をさらに具体的に説明するためのものである。・・・以下本発明における各物性値の測定方法および装置を以下に示す。
・・・
(3)EPのエチレン含有量(G)、EPの中の非晶部分のエチレン含有量(E)、・・・前記した方法に従って測定した。」(段落【0067】?【0068】、下線は審決において付与)

カ. 「

」(段落【0089】の【表1】)

1-2.判断
本願発明1は、プロピレン系ブロック共重合体組成物に係るものであり、該組成物の成分として、メタロセン触媒を用いて製造された、要件(1)?(6)を満たすプロピレン系ブロック共重合体を用いることを、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)として備えるものである。
したがって、この要件(5)、すなわち、
「(5)EPのエチレン含有量(G)と、EPのうちW_(40)×A_(40)/B_(40)で表示される成分(ここで、W_(40)は40℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な部分(重量%)、A_(40)はW_(40)部分の平均エチレン含有量(重量%)、B_(40)はW_(40)部分のEPのエチレン含有量(重量%)である)のエチレン含有量(E)との間に、関係式(I)が成り立つ。
G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0 (I)」
という発明特定事項が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるか否かについて、以下に検討する。

A.本願明細書の発明の詳細な説明における実施例の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、摘示(カ)の【表1】に記載されているように、プロピレン系ブロック共重合体の重合例として重合例1?4の4つの重合例が記載されているが、このうち、重合例3によって製造されたプロピレン系ブロック共重合体の融点は【表1】に記載されているように「152.5℃」であって、本願発明1の要件(6)を満足しないものである。また、重合例4によって製造されたプロピレン系ブロック共重合体は、本願明細書の段落【0081】?【0085】に記載されているように、「TiCl_(4)」、「トリエチルアルミニウム」などの成分から調製されるチーグラー触媒を用いて製造されたものであって、本願発明1のメタロセン触媒を用いて製造されたものではない。
このように、重合例3及び4は、本願発明1に係るプロピレン系ブロック共重合体の要件である、「メタロセン触媒を用いて製造された、要件(1)?(6)を満たす」という要件を満たさないものであるから、これらのプロピレン系ブロック共重合体のE値及びG値は、関係式(I)を導き出すために用いることはできない。
一方、重合例1及び2によって製造されたプロピレン系ブロック共重合体が「要件(1)?(6)を満たす」ことは、【表1】に記載された数値から明らかであり、また、これらの共重合体が「メタロセン触媒を用いて製造された」ものであることは、本願明細書の段落【0076】に、「ジメチルシリレンビス(2-エチル-4-(2-フルオロ-4-ビフェニル)-4H-アズレニル)ハフニウムジクロリド」、「トリエチルアルミニウム」及び「トリイソブチルアルミニウム」、並びに「モンモリロナイト」の成分を接触して調製した触媒を用いることが記載されていることからみて、明らかである。

そこで、重合例1及び2の重合例で得られたプロピレン系ブロック共重合体の「G値」、「E値」は、重合例1では、「G値」:25.6wt%、「E値」:25.2wt%であり、重合例2では、「G値」:36.9wt%、「E値」:36.3wt%である。
そして、本願明細書の摘示(エ)及び(オ)の記載から、上記【表1】の「G値」及び「E値」は、それぞれ、「EPのエチレン含有量(G)」及び「『EPの中の非晶部分のエチレン含有量(E)』、もしくは『W_(40)×A_(40)/B_(40)で示される、結晶性を持たない成分におけるエチレン含有量』」を意味するものであって、上記要件(5)における、「EPのエチレン含有量(G)」(以下、「G値」という。)、「EPのうちW_(40)×A_(40)/B_(40)で表示される成分(ここで、W_(40)は40℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な部分(重量%)、A_(40)はW_(40)部分の平均エチレン含有量(重量%)、B_(40)はW_(40)部分のEPのエチレン含有量(重量%)である)のエチレン含有量(E)」(以下、「E値」という。)にそれぞれ該当することは明らかである。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明における実施例には、上記要件(5)におけるG値及びE値が、25.6wt%及び25.2wt%のケース(重合例1)、36.9wt%及び36.3wt%のケース(重合例2)だけが記載されているといえる。
(なお、上記【表1】には、「G値」、「E値」以外に、「EP含有量」、「結晶性を持たないEP含有量(W_(40)×A_(40)/B_(40))」、「結晶性を持つEP含有量(W_(100)×A_(100)/100+W_(140)×A_(140)/100)」の数値が記載されているが、これらの数値は、本願明細書の段落【0025】?【0027】に記載されているように、プロピレン系ブロック共重合体(PP及びEPを含む)における各種EPの含有量を示しているものであって、EPにおける各種エチレンの含有量を規定する上記要件(5)とは、直接関係のないものである。)

B.本願明細書の発明の詳細な説明における実施例以外の記載事項
発明の詳細な説明には、実施例以外にも、
*「G値とE値の乖離を大きくしないことが本発明が課題とする物性の向上につながる」旨の記載(摘示イ)、
*「G値とE値が関係式(I)を満足しない場合には、耐衝撃性と剛性のバランスが満足できる程度には向上せず、光沢が上昇して良好な外観を得られない」旨の記載(摘示ウ)及び
*「関係式(I)が、EP中の非晶成分と結晶性成分の間の親和性、PP相中に分散するEP粒子の粒径、ゴム中に存在するラメラのサイズ・凝集度合いと関係し、それらが、耐衝撃性と剛性のバランス、光沢値などの物性に影響する」旨の記載(摘示ウ)
などの、プロピレン系ブロック共重合体のG値及びE値に関する一般的な事項が記載されている。

本願明細書の発明の詳細な説明には、上記A.及びB.で挙げた事項が記載されているが、本願発明1に係る、「メタロセン触媒を用いて製造された、要件(1)?(6)を満たす」という要件を満足するプロピレン系ブロック共重合体は、『重合例1』のメタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン系ブロック共重合体(E値:25.6wt%、G値:25.2wt%)、及び『重合例2』のメタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン系ブロック共重合体(E値:36.9wt%、G値:36.3wt%)だけであって、これらの2組のE値及びG値からは、平面上でこの2点を通過する曲線は無数に描けるのであるから、関係式(I)が導き出せるとは到底いうことはできない。
したがって、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、E値とG値との関係を、本願発明1の成分である、プロピレン系ブロック共重合体が備える、
「(5)EPのエチレン含有量(G)と、EPのうちW_(40)×A_(40)/B_(40)で表示される成分(ここで、W_(40)は40℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な部分(重量%)、A_(40)はW_(40)部分の平均エチレン含有量(重量%)、B_(40)はW_(40)部分のEPのエチレン含有量(重量%)である)のエチレン含有量(E)との間に、関係式(I)が成り立つ。
G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0 (I)」
との発明特定事項にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

2.本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1を直接あるいは間接に引用するものであり、本願発明1と同じく、
「(5)EPのエチレン含有量(G)と、EPのうちW_(40)×A_(40)/B_(40)で表示される成分(ここで、W_(40)は40℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な部分(重量%)、A_(40)はW_(40)部分の平均エチレン含有量(重量%)、B_(40)はW_(40)部分のEPのエチレン含有量(重量%)である)のエチレン含有量(E)との間に、関係式(I)が成り立つ。
G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0 (I)」
との発明特定事項を備える、プロピレン系ブロック共重合体を用いるものである。
したがって、本願発明1について、上記第4.1.の項で説示した理由と同じ理由で、本願発明2?4は本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

5.審判請求人の主張について
(1)主張の内容
審判請求人は、平成22年6月28日に提出した意見書において、概略次のように主張している。
「*式(I)の「G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0 (I)」は、理論的に導き出された理論式ではなく、実験的に導き出された実験式である。
*実施例(重合例1,2)と比較例(重合例3,4)は、本願の関連出願である特願2001-344249(特開2003-147035)の実施例1,2(段落0071,0073)及び比較例3,6(段落0080,0083)と全く同じ重合内容であり、対応する、「EPのエチレン含有量(G)」及び「EPのうち結晶性を持たない成分のエチレン含有量(E)」も全く一致している。本願の請求項1に規定されるプロピレン系ブロック共重合体と当関連出願の請求項1に規定されるプロピレン系ブロック共重合体は全く同一の規定ぶりで全く同一の共重合体であり、上記のとおり、実施例と比較例の一部も全く一致しているから、本願において、当関連出願における他の実施例と他の比較例を、当関連出願と同様に式(I)の実験的導出の参考データに使用しても少しも不合理ではないと思料される。
*そして、これらの実測データ値である、G値とE値の各実験値をグラフ図にプロットすると、上記の関連出願の図4(本願の当拒絶理由通知書における第7頁に掲載された図4であり、その図を以下に掲載する。)と同様になる。


(2)上記主張についての検討
上記「第4.当審の判断」において説示したように、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、E値とG値との関係を、本願発明1?4の成分である、プロピレン系ブロック共重合体が備える
「(5)EPのエチレン含有量(G)と、EPのうちW_(40)×A_(40)/B_(40)で表示される成分(ここで、W_(40)は40℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な部分(重量%)、A_(40)はW_(40)部分の平均エチレン含有量(重量%)、B_(40)はW_(40)部分のEPのエチレン含有量(重量%)である)のエチレン含有量(E)との間に、関係式(I)が成り立つ。
G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0 (I)」
との発明特定事項にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。

審判請求人は、本願の関連出願である特願2001-344249(特開2003-147035)に記載されたG値とE値の各実験値をグラフ図にプロットすると、E値とG値との関係を、本願発明1?4の成分である、プロピレン系ブロック共重合体が備える
「(5)EPのエチレン含有量(G)と、EPのうちW_(40)×A_(40)/B_(40)で表示される成分(ここで、W_(40)は40℃のオルトジクロルベンゼンに可溶な部分(重量%)、A_(40)はW_(40)部分の平均エチレン含有量(重量%)、B_(40)はW_(40)部分のEPのエチレン含有量(重量%)である)のエチレン含有量(E)との間に、関係式(I)が成り立つ。
G≧E≧-4.5×10^(-3)×G^(2)+1.3×G-7.0 (I)」
との発明特定事項にまで拡張ないし一般化できるとしている。
しかしながら、いくら類似出願のデータとはいえ、本願明細書に何ら記載も示唆もされていない新たなデータを補完することによって、本願発明1?4の発明特定事項である、パラメータの関係式(I)にまで拡張ないし一般化できるとすることは、先願主義の下では認められるものではない。
しかも、本願明細書の発明の詳細な説明における実施例では、「メタロセン触媒を用いて製造された、要件(1)?(6)を満たす」という要件を満足するプロピレン系ブロック共重合体のE値及びG値は2組しか記載されていないにもかかわらず、関連出願により補完されるE値及びG値の新たなデータはこの数倍に及ぶことからみても、このような新たなデータを補完することによって、本願発明1?4の発明特定事項である、パラメータの関係式(I)がにまで拡張ないし一般化できるとすることは、到底認められるものではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1?4の記載について、当審において通知した平成22年4月22日付け拒絶理由通知書の拒絶理由1は妥当なものであり、本願は、この理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-18 
結審通知日 2011-02-24 
審決日 2011-03-08 
出願番号 特願2001-345077(P2001-345077)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08L)
P 1 8・ 113- WZ (C08L)
P 1 8・ 121- WZ (C08L)
P 1 8・ 161- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智橋本 栄和  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 小野寺 務
内田 靖恵
発明の名称 プロピレン系樹脂組成物  
代理人 小島 隆  
代理人 特許業務法人志成特許事務所  

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