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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A47K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47K
管理番号 1235979
審判番号 不服2010-5473  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-11 
確定日 2011-04-25 
事件の表示 特願2005-254187「トイレットロール」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月15日出願公開、特開2007- 61510〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年9月1日の出願であって,平成21年12月3日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年3月11日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされ,
その後,同年9月7日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年11月9日付けで回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成22年3月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容・目的
平成22年3月11日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする補正事項を含むものである。
(補正前,平成21年7月14日付けの手続補正書参照。)
「【請求項1】
2枚以上の原紙シートが重ねられたシート製品であって、
少なくとも一枚の原紙シートにエンボス加工が施され、このエンボスが付与された原紙シートのエンボス凸部頭頂部に付与された接着剤によって当該原紙シートと他の原紙シートとが接着されており、
前記原紙シートのJIS P 8149に基づく不透明度が、30?80%であり、
前記原紙シート相互を接着するための接着剤が顔料により着色されたものであり、染料を含まないものであって、シート製品の表裏面から視認可能とされ、
前記着色接着剤および前記エンボスによって図案が形成され、
かつ、前記着色接着剤を付与する総面積がシート製品1m^(2)当り0.5?30%であり、接着剤の糊の塗布量が0.01?0.18g/m^(2)である、
ことを特徴とするトイレットロール。」
を,
(補正後)
「【請求項1】
3枚の原紙シートが重ねられているシート製品であって、
そのシート製品はトイレットロールであり、
前記原紙シートは1枚当たりのJIS P 8124に基づく坪量が10?25g/cm^(2)であるトイレットペーパーであり、
2枚の前記原紙シートにマクロエンボス加工が施され、そのマクロエンボスが付与された原紙シートのエンボス凸部頭頂部に付与された接着剤によって当該原紙シートと他のマクロエンボスが付与されていない1枚の原紙シートとが接着され、
各原紙シートのJIS P 8149に基づく不透明度が30?80%であり、
各原紙シート相互を接着するための接着剤が顔料により着色されたものであって染料を含まないものであり、
前記着色接着剤が付与された部分の総面積がシート製品1m^(2)当り0.5?30%であり、かつ接着剤の糊の塗布量が0.01?0.18g/m^(2)であり、
前記着色接着剤が付与された部分は、シート製品の表裏面から視認可能とされ、その着色接着剤付与部分による色彩と前記エンボスとによってそれらが同調した図案が形成され、
かつ、ロールの外面側が前記2枚のマクロエンボスが付与された原紙シートとされ、内面側が前記マクロエンボスの付与されていない1枚の原紙シートとされている、
ことを特徴とするトイレットロール。」
とする。

上記補正事項は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「原紙シート」を「3枚」に限定し,かつ,エンボスの付与について「ロールの外面側が2枚のマクロエンボスが付与された原紙シートとされ,内面側がマクロエンボスの付与されていない1枚の原紙シートとされている」ものに限定するとともに,「1枚当たりのJIS P 8124に基づく坪量が10?25g/cm^(2)」に限定し,「着色接着剤およびエンボス」とによって形成される図案が「同調した図案」であるものに限定するものであるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,上記本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。
なお,上記「坪量が10?25g/cm^(2)である」は,明細書の段落【0054】,【0062】を参照して,「坪量が10?25g/m^(2)である」の誤記と認め,以下,「坪量が10?25g/m^(2)である」として検討する。

2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,国際公開第03/82559号パンフレット(2003)(以下,「刊行物1」という。)には,概略次の事項が記載されていると認められる。
(1a)「要約:接着により互いに保持しあう少なくとも2つのプライ(V1、V3)を含むエンボス加工ウェブ製品を製造するための方法であり、この方法において、前記プライの少なくとも第1をエンボス加工して、前記第1プライ上に、第2組の突出部(P10)、及び、前記第2組の突出部よりも高さが高い第1組の突出部(P9)を形成し、前記第1組の突出部に接着剤(C)を付与し、前記第1プライを前記第2プライ(V3)に接着する。前記第1プライの突出部(P9、P10)は前記ウェブ製品の内部にて前記第2プライ(V3)に向って突出している。前記第1組の突出部と前記第2組の突出部とは互いに組み合わされて複雑な装飾的パターン(D)を形成する。複雑な装飾的パターンの各々が、前記第1組の突出部の少なくとも1つと、前記第2組の突出部の少なくとも1つとにより形成される。
また、前記複雑な装飾的パターンは、2パターン/cm^(2)以下の密度で分布される。」(1頁の要約)
(1b)「技術分野 本発明は、接着加工により互いに接着された2つ以上のエンボス加工されたプライ(層)を含むタイプの、エンボス加工されたウェブ材料を製造するための方法及び装置に関する。
本発明は、また、接着加工により互いに接着された2つ以上のプライにより構成されたエンボス加工された積層製品に関する。」(2頁4行?9行)
(1c)「背景技術 家庭内での、及び類似の用途のための紙シート製品の製造において、紙ウェブ材料は、明らかにより厚いシートを得るためにしばしばエンボス加工されて、良好な流体吸収性、柔軟な触感及び装飾的効果を有する。
エンボス加工されたシートウェブ材料は、キッチンペーパ、トイレットテイッシュ、紙ナプキン、紙ハンカチーフなどを製造するために用いられる。一般に、このウェブ材料は、2層以上の薄葉紙(重量は、例えば10g?50g/m^(2))から構成されでいる。これらの層は、通常、互いに別々にエンボス加工され、次いで接着(通常は接着剤を用いて)される。こうして、高い流体吸収性を有する、特に柔軟で厚い積層製品が得られる。」(2頁10行?21行)
(1d)「以下の文書を読むことにより当業者に明らかになる、これら及び他の目的及び利点は、以下の方法により実質的に得られる。この方法において、接着されるべき2つのプライの一方に、接着剤が付与される高さがより高い第1組の突出部と、高さがより低い第2組の突出部とを設け、前記第1組の突出部と第2組の突出部とを組み合わせて複雑な装飾的パターンを形成し、これらの複雑な装飾的パターンの各々が、前記第1組の突出部の少なくとも1つと、前記第2組の突出部の少なくとも1つとにより形成され、前記複雑な装飾的パターンは、2パターン/cm^(2)以下の密度で分布される。従って、前記複雑な装飾的パターンは、より自由に形成され得る。なぜなら、前記パターンに対応するエンボス加工面全体に接着剤を付与する必要がないからである。むしろ、少なくとも2つの異なる高さの突出部により形成されることにより、接着剤は、複雑な装飾的パターンの各々を有するさまざまな面に、このパターンの寸法及び形態に関係なく付与され得る。」(5頁11行?26行)
(1e)「本発明に従う方法の特に有利な実施形熊に従えば、接着剤は着色され、従って、前記複雑な装飾的パターンに彩色効果をもたらし、これが、パターンの全体的な美的効果を増す。
こうして、限られた量の接着剤を用い、従って、高度の柔軟性及び屈曲性を維持する、特に柔軟な製品が得られる。同時に、エンボス加工による、高さの異なる突出部を用いることと、接着剤に色彩を含むことができることを組み合わせることにより、現在知られている方法では得られない美的効果及び装飾的効果を得ることができ、装飾における多様性が増大する。」(5頁27行?6頁4行)
(1f)「前記第1組の突出部と前記第2組の突出部との組合せにより前記第1のプライ上に構成される装飾的パターンは。400パターン?20000パターン/m^(2)の範囲の密度で分布され得る。さらに、前記第2組の突出部(高さがより高い突出部)(当審注:第1組の突出部の誤記と認められる。)が、前記ウェブ製品の全面積の0.3%?10%の範囲の割合を占め得る。こうして、一方では、プライの十分な相互接着が保証され、他方では、ウェブ材料の面のユニットあたりの接着剤の量が制限される。前記第1組の突出部と前記第2組の突出部の組合せにより構成される装飾的パターンは、前記ウェブ製品の全面積の1%?25%の範囲の割合を占める。」(7頁8行?15行)
(1g)「本発明は、また、シート製品に関し、このシート製品は、第2組の突出部、及び、前記第2組の突出部よりも高さが高い第1組の突出部を有するようにエンボス加工された第1のプライと、前記第1組の突出部の先端に付与された接着剤により前記第1プライに接着された第2のプライとを含み、前記突出部は前記第2のプライに面している。
特徴的なことに、本発明に従えば、前記第1組の突出部と前記第2組の突出部とが互いに組み合わされて複雑な装飾的パターンを形成し、複雑な装飾的パターンの各々が、前記第1組の突出部の少なくとも1つと、前記第2組の突出部の少なくとも1つとにより形成される。また、前記複雑な装飾的パターンは、2パターン/cm^(2)以下の密度で分布される。
本発明の特に有利な実施形態に従えば、接着剤が着色され、前記複雑な装飾的パターンに彩色効果をもたらす。
一般に、前記第2のプライは、滑らかであっても、又は、前記第1プライにおける装飾的パターンに類似した装飾的パターンを用いてティップトゥティップ接着により装飾されてもよく、或いは、背景パターンが高密度エンボス加工により設けられ、又は、より大きい寸法の幾何学的パターンにより設けられ、前記第1のプライの装飾的パターンに対応した部分には滑らかなゾーンが設けられてもよい。」(7頁16行?8頁4行)
(1h)図7には,エンボス加工により第1組の突出部(P9)と第2組の突出部(P10)とが組み合わされて装飾的パターンを形成した第1のプライV1とエンボスが付与されていない他方の層の薄葉紙(V3)とが,第1のプライV1の第1組の突出部(P9)の先端に着色された接着剤(C)により接着されていることが示され,図2には,第2組の突出部(P10)は花弁を,第1組の突出部(P9)は花芯を形成するように図案が形成されていることが示されている。
これらの記載事項及び図面の記載からみて,以下の発明が記載されているものと認められる。

「2層の薄葉紙(V1)(V3)から構成される,積層シート製品であるトイレットティッシュであって,
薄葉紙の重量は,例えば10?50g/m^(2)であり,
一方の層の薄葉紙(V1)には,エンボス加工により形成される,高さがより高い第1組の突出部(P9)と,高さがより低い第2組の突出部(P10)とを設け,
一方の層の薄葉紙(V1)の第1組の突出部(P9)の先端には着色された接着剤(C)を付与して,該接着剤(C)によって,エンボスが付与されていない他方の層の薄葉紙(V3)が接着され,
前記第1組の突出部(P9)は,製品の全面積の0.3?10%であり,
前記エンボス加工による突出部(P9)(P10)の装飾的パターンと接着剤(C)の色彩との組み合わせによってそれらが同調した図案が形成されているトイレットティッシュ。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

(2)対比
本件補正発明と上記刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の「薄葉紙」は,本件補正発明の「原紙シート」に相当し,以下,同様に
「エンボス加工により形成される,高さがより高い第1組の突出部(P9)と,高さがより低い第2組の突出部(P10)」は「マクロエンボス」に,
「第1組の突出部(P9)の先端」は「エンボス凸部頭頂部」に,
「エンボスが付与されていない他方の層の薄葉紙(V3)」は「マクロエンボスが付与されていない1枚の原紙シート」に相当する。
刊行物1記載の発明の「2枚の薄葉紙(V1)」と,本件補正発明の「3枚の原紙シート」とは,「複数枚の原紙シート」で共通し,
刊行物1記載の発明の「一方の層の薄葉紙(V1)」と,本件補正発明のマクロエンボスが形成された「2枚の原紙シート」とは,「少なくとも1枚の原紙シート」で共通し,刊行物1記載の発明の「トイレットティッシュ」と本件補正発明の「トイレットロール」とは,「トイレットペーパー」で共通する。
刊行物1記載の発明において,接着剤(C)の色彩が,シート製品の表裏面から視認できることは明らかである。
さらに,本件補正発明の「JIS P 8124に基づく坪量が10?25g/m^(2)」は,刊行物1記載の発明の「重量は,10?50g/m^(2)」の数値範囲に含まれ,かつ,トイレットペーパーの坪量として一般的な数値である。

したがって,両者は,次の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「複数枚の原紙シートが重ねられているシート製品であって,
前記原紙シートは1枚当たりのJIS P 8124に基づく坪量が10?25g/m^(2)であるトイレットペーパーであり,
少なくとも1枚の原紙シートにマクロエンボス加工が施され,そのマクロエンボスが付与された原紙シートのエンボス凸部頭頂部に付与された接着剤によって当該原紙シートと他のマクロエンボスが付与されていない1枚の原紙シートとが接着され,
各原紙シート相互を接着するための接着剤が着色されたものであり,
前記着色接着剤が付与された部分は、シート製品の表裏面から視認可能とされ、その着色接着剤付与部分による色彩と前記エンボスとによってそれらが同調した図案が形成される,トイレットペーパー。」
<相違点1>
シート製品及びトイレットペーパーが,本件補正発明では,3枚の原紙シートが重ねられたものであって,ロールの外面側が2枚のマクロエンボスが付与された原紙シート,内面側がマクロエンボスの付与されていない原紙シートとされているトイレットロールであるのに対し,刊行物1記載の発明では,2枚の原紙シートが重ねられたものであって,マクロエンボスが付与された原紙シートが1枚であり,ロール状のものではない点。
<相違点2>
本件補正発明では,各原紙シートのJIS P 8149に基づく不透明度が30?80%であるのに対し,刊行物1記載の発明では,不透明度が不明である点。
<相違点3>
接着剤の着色が,本件補正発明では,顔料により着色され,染料を含まないのに対し,刊行物1記載の発明では,顔料によるものか染料によるものか不明である点。
<相違点4>
本件補正発明では,着色接着剤が付与された部分の総面積がトイレットペーパー製品1m^(2)当り0.5?30%であり,接着剤の糊の塗布量が0.01?0.18g/m^(2)であるのに対し,刊行物1記載の発明では,着色接着剤が付与されたマクロエンボス(第1組の突出部)が,トイレットペーパー製品の全面積の0.3?10%であるものの,接着剤の糊の塗布量は不明な点。

(3)判断
各相違点について検討する。
<相違点1について>
本願補正発明において,「ロールの外面側が前記2枚のマクロエンボスが付与された原紙シートとされ、内面側が前記マクロエンボスの付与されていない1枚の原紙シートとされている」と記載されていることから,2枚のマクロエンボスが付与された原紙シートは,マクロエンボスの付与されていない1枚の原紙シートの片側に重ねられているものと認められる。
一方,トイレットペーパー製品等の衛生紙製品において,風合いや吸収性を考慮して原紙シートを3枚積層することは本願出願前周知であり,また,エンボス加工を施すシートを2枚重ねることで,嵩高さを維持し,エンボス加工の際のシートの損傷を防ぐことも審尋において周知例として提示した,特開昭59-116500号公報に記載されているように,従来から行われていることである。
そうすると,刊行物1記載の発明において,マクロエンボスを施すシートを2枚とし,全体を3枚の原紙シートからなる製品とすることは当業者が容易になしうることである。
さらに,トイレットティッシュをロール状にしてトイレットロールとすることは,従来から行われていることにすぎず,その際,嵩高性を印象付けるため,ロールの外面側をマクロエンボスが付与された原紙シート,内面側をマクロエンボスの付与されていない原紙シートとすることは,当業者が適宜なしうることである。

<相違点2について>
刊行物1記載の発明は,着色接着剤が付与された部分を,シート製品の表裏面から視認可能とするものであるから,各薄葉紙のJIS P 8149に基づく不透明度の数値を,接着剤の色がみえる程度とすることは当然であり,その数値を30?80%とすることは,原紙の厚さ,材質等に応じて当業者が適宜決めうることである。

<相違点3について>
トイレットペーパーの接着剤に顔料を用いることは,原査定時に周知例として提示した特開2004-236878号公報にも記載されているように,従来から行われていることであり,かつ,染料は,繊維内部にまで染みこむことにより着色するもので滲みやすく,一方顔料は,繊維の表面に付着することにより着色するもので滲みにくいという,染料,顔料のそれぞれの特性は,当業者には常識であるから,刊行物1記載の発明の接着剤を着色するのに,これらの特性を考慮し,鮮明な図案とする場合に顔料を選択することは,適宜なしうることである。

<相違点4について>
刊行物1には,先端に接着剤が付与される第1組の突出部(P9)が,製品の全面積の0.3?10%の割合を占めるようにすることで充分な相互接着が保証されること,接着剤の付与面積を限定することで柔軟性と屈曲性を維持することが記載されているように(記載事項(1e)参照),接着性とトイレットペーパーとして必須要件である柔軟性を考慮して,接着剤の付与面積の割合及び塗布量を決めることは当然であり,接着剤が付与された部分の総面積をトイレットペーパー製品1m^(2)当り0.5?30%,接着剤の糊の塗布量を0.01?0.18g/m^(2)とすることは,これらを考慮して,当業者が適宜決めうることである。

そして,本願補正発明の作用効果は刊行物1及び上記周知技術から当業者が予測しうる程度のことである。
したがって,本件補正発明は,刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明
1 本願発明
平成22年3月11日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1ないし6に係る発明は,平成21年7月14日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明は,上記「第2 1」(補正前)に記載されたとおりのものである(以下,請求項1に係る発明を,「本願発明」という。)。

2 引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された特開2005-168582号公報(以下、「刊行物2」という。)には,以下の記載が認められる。
(2a)「【請求項1】
少なくとも2枚の薄葉紙を重ねてなる水解性衛生紙であって、
当該水解性衛生紙の表裏各面を構成する表薄葉紙及び裏薄葉紙には、対向する薄葉紙側に入り込むように、複数の第一のエンボス凹部と、これら第一のエンボス凹部よりも小さい形状の複数の第二のエンボス凹部とが設けられ、
前記表薄葉紙に設けられる前記第一のエンボス凹部及び前記第二のエンボス凹部は、前記裏薄葉紙に設けられる前記第一のエンボス凹部及び前記第二のエンボス凹部と相対的にずれた位置に配設され、
前記表薄葉紙及び前記裏薄葉紙のうち、一方の薄葉紙に設けられる前記第一のエンボス凹部と他方の薄葉紙に設けられる前記第一のエンボス凹部との間に、前記第二のエンボス凹部が配置されていることを特徴とする水解性衛生紙。
【請求項2】?【請求項6】(記載省略)
【請求項7】
当該水解性衛生紙、前記表薄葉紙及び前記裏薄葉紙を2枚重ねてなり、
前記表薄葉紙及び前記裏薄葉紙は、少なくとも一方の薄葉紙の前記第一のエンボス凹部の底面部と他方の薄葉紙の前記底面部に対向する部分とが接着剤により接着されてなることを特徴とする請求項1?6の何れか一項に記載の水解性衛生紙。
【請求項8】
前記接着剤は、前記薄葉紙と異なる色であることを特徴とする請求項7に記載の水解性衛生紙。」
(2b)「【0033】
図1?図3に示すように、トイレットペーパー(水解性衛生紙)100は、当該トイレットペーパー100の表面を構成する表薄葉紙11と当該トイレットペーパー100の裏面を構成する裏薄葉紙12とが貼り合わされてロール芯3を軸としてロール状に巻回されている。
【0034】
各薄葉紙1の各々の坪量は、13?25g/m^(2)となるのが好ましい。下限を13g/m^(2)と規定したのは、13g/m^(2)を下回ると、トイレットペーパー100の柔らかさの向上の観点からは好ましいがトイレットペーパー100としての強度を適正に確保することができないためである。また、上限を25g/m^(2)と規定したのは、25g/m^(2)を上回ると、トイレットペーパー100が硬くなりすぎて、トイレットペーパー100の肌触りが悪化するためである。
ここで、坪量の測定方法としては、例えば、JIS P8124に準じた方法等が挙げられる。
【0035】
表薄葉紙11及び裏薄葉紙12の各々には、図2に示すように、各薄葉紙1に対向する薄葉紙1側、即ち、表薄葉紙11の場合には裏薄葉紙12側に、また、裏薄葉紙12の場合には表薄葉紙11側に入り込むように、複数のマクロエンボス(第一のエンボス凹部)4と、これらマクロエンボス4よりも小さい形状の複数のマイクロエンボス(第二のエンボス凹部)5とが設けられている。
なお、図2には、表薄葉紙11に形成されたマクロエンボス4を実線で示し、裏薄葉紙12に形成されたマクロエンボス4を破線で示している。
【0036】
マクロエンボス4は、図2及び図3に示すように、略円錐台形状に形成されており、さらに、図2に示すように、表薄葉紙11及び裏薄葉紙12の各々に、所定数のマクロエンボス4によって所定の模様が形成されるように配置されている。具体的には、表薄葉紙11及び裏薄葉紙12には、例えば、略円弧状、略円形状、略直線状等の所定の形状に配置された所定数のマクロエンボス4が組み合わさって所定の模様が形成されている。これにより、トイレットペーパー100のデザイン性を向上させることができる。」
(2c)「【0042】
また、上記構成の表薄葉紙11及び裏薄葉紙12とは、表薄葉紙11のマクロエンボス4の底面部41に対応する部分に塗布された接着剤Gにより、当該底面部41に対応する部分と裏薄葉紙12の底面部41に対向する部分とが接着されている。これにより、接着剤Gによって接着されてない部分には、表薄葉紙11と裏薄葉紙12との間に空気の層が形成された状態となり、トイレットペーパー100の厚み感や柔らかさの向上を図ることができる。
ここで、表薄葉紙11と裏薄葉紙12との剥離強度[N]は、例えば、0.05?0.4であることが好ましい。下限を0.05と規定したのは、0.05を下回ると、薄葉紙1どうしの貼り合わせを適正に行うことができないためである。また、上限を0.4と規定したのは、0.4を上回ると、トイレットペーパー100が硬くなりすぎて肌触りが悪化するためである。・・・」
(2d)「【0044】
ここで、接着剤Gは、薄葉紙1と異なる色であっても良い。即ち、本発明によれば、トイレットペーパー100の厚み感及び吸水性を確保しつつマクロエンボス4の配置の自由度を向上させることができるので、マクロエンボス4の底面部41を例えば花柄等の模様に形成したり、所定数のマクロエンボス4で所定の図形を形成して、これら模様や図形を形成するマクロエンボス4の部分に、薄葉紙1と異なる色を有する接着剤Gを塗布することによって、トイレットペーパー100のデザイン性を向上させることが可能となる。
【0045】
・・・接着剤Gに着色する色は、・・・白色と異なる色であれば如何なる色であっても良いが、清潔感等の向上を図る上で、例えば、ピンク色等が好ましい。なお、着色剤は、水溶性であり、人体に害のない染料、顔料であれば如何なるものであっても良く、例えば、アゾ染料等が好ましい。」

上記記載においてトイレットペーパーをロール状に巻回したものは「トイレットロール」といえるから,上記記載事項及び図面の記載からみて,刊行物2には,以下の発明が記載されていると認められる(以下,「刊行物2記載の発明」という。)。
「2枚以上の薄葉紙を重ねてなるトイレットペーパー(水解性衛生紙)100をロール状に巻回したトイレットロールであって,
当該トイレットペーパーの表裏各面を構成する表薄葉紙11及び裏薄葉紙12には,対向する薄葉紙側に入り込むように,例えば花柄等の模様や図形を形成する複数のマクロエンボス(第一のエンボス凹部)4と,これらマクロエンボス4よりも小さい形状の複数のマイクロエンボス(第二のエンボス凹部)5とが設けられ,
前記表薄葉紙11及び前記裏薄葉紙12とは,表薄葉紙11のマクロエンボス4の底面部41に対応する部分に塗布された染料や顔料からなる着色剤で着色した接着剤Gにより,当該底面部41に対応する部分と裏薄葉紙12の底面部41に対向する部分とが接着されていて,これら模様や図形を形成するマクロエンボス4の部分に,薄葉紙1と異なる色を有する接着剤Gを塗布することによって,トイレットペーパー100のデザイン性を向上させるトイレットロール。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物1には,「第2 2(1)」に記載したとおりの発明が記載されているものと認められる。

3 対比・判断
本願発明と上記刊行物2記載の発明とを対比する。
刊行物2記載の発明の「薄葉紙」は,本願発明の「原紙シート」に相当し,刊行物2記載の発明の「トイレットロール」は「シート製品」ということができる。
また,刊行物2記載の発明において「模様や図形を形成するマクロエンボス4の部分に,薄葉紙1と異なる色を有する接着剤Gを塗布することによって,トイレットペーパー100のデザイン性を向上させる」ことは,本願発明における「着色接着剤およびエンボスによって図案が形成され」ることに相当し,接着剤Gの色が,シート製品の表裏面から視認できることは明らかである。

したがって,両者は次の一致点及び相違点を有する。
「2枚以上の原紙シートが重ねられたシート製品であって,
少なくとも一枚の原紙シートにエンボス加工が施され,このエンボスが付与された原紙シートのエンボス凸部頭頂部に付与された接着剤によって当該原紙シートと他の原紙シートとが接着されており,
前記原紙シート相互を接着するための接着剤が着色されたものであり,シート製品の表裏面から視認可能とされ、
前記着色接着剤および前記エンボスによって図案が形成される,トイレットロール。」
<相違点A>
本願発明は,各原紙シートのJIS P 8149に基づく不透明度が30?80%であるのに対し,刊行物2記載の発明では,不透明度が不明である点。
<相違点B>
接着剤の着色が,本願発明では,顔料により着色され,染料を含まないのに対し,刊行物2記載の発明では,染料,顔料いずれでもよいものである点。
<相違点C>
本願発明では,着色接着剤が付与された部分の総面積がシート製品1m^(2)当り0.5?30%であり,接着剤の糊の塗布量が0.01?0.18g/m^(2)であるのに対し,刊行物2記載の発明では,接着剤が付与された部分の面積の割合及び接着剤の糊の塗布量が不明な点。

4 判断
上記各相違点について検討する。
<相違点Aについて>
刊行物2記載の発明は,接着剤の色をシート製品の表裏面から視認するものであるから,各薄葉紙のJIS P 8149に基づく不透明度の数値を,接着剤の色がみえる程度とすることは当然であり,その数値を30?80%とすることは,原紙の厚さ,材質等に応じて当業者が適宜決めうることである。
<相違点Bについて>
刊行物2記載の発明では,着色剤は染料,顔料いずれでもよいものであり,前記「第2 2(3)」の<相違点4について>で検討したと同様に,鮮明な図案とする場合に顔料を選択することは,適宜なしうることである。
<相違点Cについて>
刊行物2記載の発明は,接着剤により必要な剥離強度を持たせ,接着されてない部分により厚み感や柔らかさの向上を図るものであるから,接着性と厚み感や柔らかさとを考慮して,接着剤の付与面積の割合及び塗布量を決めることは当然であり,また,刊行物1には,同様の目的で接着剤の付与面積を全面積の0.3?10%とすることが記載されており,接着剤が付与された部分の総面積をシート製品1m^(2)当り0.5?30%,接着剤の糊の塗布量を0.01?0.18g/m^(2)とすることは,上記の点を考慮し,かつ刊行物1の記載を参照して,当業者が適宜なしうることである。

また,本願発明の作用効果は,刊行物2及び1記載の発明から予測できる程度のものである。
したがって,本願発明は,刊行物2及び1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお,請求人は,平成22年11月9日付けの回答書において,補正案を提示しているが,補正案の請求項1に係る発明は,実質的に本願補正発明と同じであり,上記「第2 補正の却下の決定」の理由と同じ理由により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-02 
結審通知日 2011-03-04 
審決日 2011-03-15 
出願番号 特願2005-254187(P2005-254187)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47K)
P 1 8・ 575- Z (A47K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 昌哉鈴木 秀幹  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 山本 忠博
伊波 猛
発明の名称 トイレットロール  
代理人 永井 義久  

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