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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1236241
審判番号 不服2008-5363  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-05 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 平成 9年特許願第183683号「新規スリット様ポリペプチド」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月26日出願公開,特開平11- 18777〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本願は,平成9年7月9日の出願であって,その請求項1?7に係る発明の要旨は,平成19年4月20日に提出された手続補正書によって補正された明細書の記載からみて,その特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)の要旨は,次のとおりのものである。

「配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド。」

第2 原査定の拒絶理由
これに対し,原査定の拒絶理由(平成20年1月25日付け拒絶査定)は,請求項1に記載のポリペプチドはどのように使用できるか不明であり,本願発明は,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができず,また,本願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。

第3 当審の判断
一般に,化学物質の発明は,新規で,産業上利用できる化学物質(すなわち有用性のある化学物質)を提供することにその本質があると解されるが,その化学物質が遺伝子等の,元来,自然界に存在する物質である場合には,単に存在を明らかにした,確認したというだけでは発見にとどまるものであり,自然界に存在した状態から分離し,一定の加工を加えたとしても,物の発明としては,いまだ産業上利用できる化学物質を提供したとはいえないものというべきであり,その有用性が明らかにされ,従来技術にない新たな技術的視点が加えられることで,初めて産業上利用できる発明として成立したものと認められるものと解すべきである。
そして,遺伝子関連の化学物質発明においてその有用性が明らかにされる必要があることは,明細書の発明の詳細な説明の記載要領を規定した特許法第36条第4項実施可能要件についても同様である。なぜならば,当業者が,当該化学物質の発明を実施するためには,出願当時の技術常識に基づいて,その発明に係る物質を製造することができ,かつ,これを使用することができなければならないところ,発明の詳細な説明中に有用性が明らかにされていなければ,当該発明に係る物質を使用することはできず,したがって,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明に記載する必要があるからである。

本願発明は,配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド(以下,本願明細書と同じく「ヒトスリット2」という。)に関するものであるので,明細書中にその「有用性」が明らかにされ,使用できるように記載されているか検討する。

(1)本願明細書の記載
「本発明者らが明らかにした塩基配列を用いれば,ヒトスリット2の発現・機能に関して,近年の遺伝子操作技術,発生工学技術を応用した詳細な解析が可能である。」(段落0034),「これらの知見はヒトスリット2がヒトスリット1と異なる発現分布を示し,異なった作用を有することが示される。」(段落0035),「・・・病気との関連をさらに詳細に調べることが可能である。・・・詳細に脊椎動物のスリット2ホモログの発現・機能を解析することが可能である。・・・脊椎動物神経系の作用解析が可能である。」(段落0036),「その欠損もしくは変異は致死的もしくは先天性の障害,後天的な神経疾患の原因になることが推定される。」(段落0037),「昆虫類のはしご状神経と脊椎動物の脊髄は発生学的に共通性が高く,ショウジョウバエでの研究結果が,ヒトスリット2の機能推定に有用である。すなわち,ヒトスリット2の生理機能は脊髄での神経細胞間および神経細胞と筋肉系の細胞との相互作用を媒介していること,脊髄の形態形成,維持,再生に関与していることが考えられる。この作用から類推されるヒトスリット2の医薬への応用として,脊髄損傷や神経切断,各種自己免疫疾患,骨粗鬆症,脊椎変性症など,脊髄,末梢神経や筋肉系に関与するあらゆる疾患において,脊髄での神経細胞間および神経細胞と筋肉系の細胞との相互作用の障害で引き起こされる機能障害の治療や症状緩和に有用である。症状として例を挙げれば,痛み,しびれ,麻痺,震え,ひきつり,筋力の衰えなどが考え得る。」(段落0038),「これらのことから,ヒトスリット2は先天性および後天性の脳・神経疾患に関連している可能性がある。」とヒトスリット2の有用性に関する記載があるが,実際にスリット2の活性を調べ,その機能を明らかにしたことは記載されていない。

(2)判断
上記明細書の記載は,活性を確認したことによるものではなく,ショウジョウバエのスリット分子と,アミノ酸配列で約43%の相同性がある(段落0025)ことから予想される可能性を示すにとどまるものである。ヒトとショウジョウバエは,新口動物(後口動物)と旧口動物(前口動物)との違いがあり,何億年も別異に進化してきたものであるから,ヒトとショウジョウバエのタンパク質も,もとは同じタンパク質であったものが,機能が保たれるように進化している場合もあろうが,そうでない場合もあることが当然に予測される。そうであるから,ショウジョウバエのタンパク質で知られた機能が,相同性のあるヒトのタンパク質においても,同じ機能として保存されている可能性があるとはいえるが,推認できるほどのものではない。ヒトのスリットに関しても,ショウジョウバエでは1種類のものが,ヒトにおいては,進化の過程で3種類となっているのであり,ショウジョウバエの神経発生期において示される機能が,ヒトの3種類のスリットすべてに,同様に備えられているのかどうか,全く不明というべきものであり,スリット2の機能が,ショウジョウバエのスリットの機能から推認できるものとは到底いえない。
したがって,本願の明細書の記載と本願出願日における技術常識からは,ヒトスリット2の有用性が明らかにはなっておらず,本願発明が,産業上利用できる発明として成立したものとも,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明に記載がなされているものとも認められない。

なお,請求人は,平成19年4月20日付けの意見書において出願人は参考文献1(Cell, Vol.96, 771-784, March 19, 1999)を提示して,本発明のぺプチドであるスリット2が,神経において実際に機能を有することを立証しているものであり,審査基準 第VII部 第2章,生物関連発明の事例2から参酌すべきもである旨を主張しているが,該事例2は,ヒトと同じ哺乳類であるラット等いくつかの哺乳類でWW1因子が知られていることが前提のものであるのに対し,スリット2においては,哺乳類とは程遠いショウジョウバエにおいて,スリット(スリット2ではない)が知られているだけであるから,前提において異なるものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができないものであり,また,本願の発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
したがって,本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく,本出願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

第5 付記
原査定の拒絶の理由とはなっていないが,本願出願前に頒布された刊行物であるRothbergら, Gene Dev., 4 (1990) p.2169-2187には,ショウジョウバエのスリットについて記載され,その塩基配列も記載されている。このタンパク質に興味を持つ当業者であれば,ヒトにおいても同様のタンパク質があるかどうかに興味を抱き,その遺伝子をクローニングしてみようとする程度のことは容易に想到できることである。
そして,該刊行物に記載される配列などによりヒトESTデータベースを検索すれば,Genbank登録番号H10952やR78732のデータを容易に知ることができ,これを基にプローブやプライマーを設計して,容易にヒトスリット2の遺伝子をクローニングすることができるものである。
 
審理終結日 2011-03-03 
結審通知日 2011-03-08 
審決日 2011-03-22 
出願番号 特願平9-183683
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 14- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 内田 俊生
加々美 一恵
発明の名称 新規スリット様ポリペプチド  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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