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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1236261
審判番号 不服2008-17427  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-07 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 平成9年特許願第71688号「シール形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年1月13日出願公開、特開平10-8020〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成9年3月25日(パリ条約による優先権主張1996年3月26日、米国)の出願であって、平成19年11月29日付けの拒絶理由通知に対して平成20年3月3日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同年4月2日付けで拒絶査定がされ、同年7月7日にその拒絶査定に対する審判請求がされ、同年8月4日に手続補正書が提出され、平成22年3月26日付けで審尋がされたものである。

第2 平成20年8月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年8月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成20年8月4日付けの補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を、
(補正前)
「次のことを含む少なくとも2つの内燃機関の部品の間にシールを形成する方法:
(I)オキシモケイ素化合物を、室温加硫性シリコーンシーラント組成物に加えること;
ここで、前記オキシモケイ素化合物は前記室温加硫性シリコーンシーラント組成物の全重量を基準として0.5?3wt%であり、
前記オキシモケイ素化合物はオキシモシラン又は複数のオキシモシランの混合物であって前記オキシモシランは一般式R_(x)Si(OX)_(y)(OR^(1))_(z)(ここに、Rはメチル、エチル、ビニル、又はフェニルであり、R^(1) はメチル又はエチルであり、OXはアルキルメチルケトキシモであり、但しこのアルキル基は炭素原子数1?5であり、xは平均値が0?2であり、yは平均値が2?4であり、zは平均値が0?2であり、x、y及びzの合計は4である)で示され、前記オキシモシランの混合物は1分子あたり2又はそれより多くのアルキルメチルケトキシモ基を有するオキシモシラン分子を少なくとも80%有するものであり、
前記室温加硫性シリコーンシーラント組成物は、
少なくとも2個のケイ素に結合したアルコキシ基又はアルコキシアルコキシ基(ここに、前記アルコキシはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、又はブトキシであり、アルコキシアルコキシはメトキシメトキシ、メトキシエトキシ、エトキシメトキシ、又はエトキシエトキシである)を有するケイ素原子を有する末端基を有するポリジオルガノシロキサン;
1分子あたり少なくとも3つのケイ素に結合したアルコキシ基を有する架橋剤(ここに、前記アルコキシ基はメトキシ又はエトキシである);
充填材;
前記シリコーンシーラント組成物の室温硬化を促進するためのチタン触媒;
並びに前記シーラント組成物の調製の間に形成されるメタノール又はエタノール副生物を含む;
(II)(I)で得られたシリコーンシーラント組成物を少なくとも1つの前記部品に塗布し、この未硬化のシリコーンシーラント組成物が前記部品を少なくとも1つの他の前記部品に接合してなる組み立て体を形成すること;
(III)この組み立て体を、40℃を超える温度の下に置くこと;並びに
(IV)前記シリコーンシーラント組成物を完全に硬化させ、これによって少なくとも2つの前記部品が本質的に致命的な泡のない硬化したシリコーンシーラントで接合されてなる組み立て体を作ること。」
であったものから、次のように補正しようとするものである。
(補正後)
「次のことを含む少なくとも2つの内燃機関の部品の間にシールを形成する方法:
(I)オキシモケイ素化合物を、室温加硫性シリコーンシーラント組成物に加えること;
ここで、前記オキシモケイ素化合物は前記室温加硫性シリコーンシーラント組成物の全重量を基準として0.5?3wt%であり、
前記オキシモケイ素化合物はオキシモシラン又は複数のオキシモシランの混合物であって前記オキシモシランは一般式R_(x)Si(OX)_(y)(OR^(1))_(z)(ここに、Rはメチル、エチル、ビニル、又はフェニルであり、R^(1) はメチル又はエチルであり、OXはアルキルメチルケトキシモであり、但しこのアルキル基は炭素原子数1?5であり、xは平均値が0?2であり、yは平均値が2?4であり、zは平均値が0?2であり、x、y及びzの合計は4である)で示され、前記オキシモシランの混合物は1分子あたり2又はそれより多くのアルキルメチルケトキシモ基を有するオキシモシラン分子を少なくとも80%有するものであり、
前記室温加硫性シリコーンシーラント組成物は、
少なくとも2個のケイ素に結合したアルコキシ基又はアルコキシアルコキシ基(ここに、前記アルコキシはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、又はブトキシであり、アルコキシアルコキシはメトキシメトキシ、メトキシエトキシ、エトキシメトキシ、又はエトキシエトキシである)を有するケイ素原子を有する末端基を有するポリジオルガノシロキサン;
1分子あたり少なくとも3つのケイ素に結合したアルコキシ基を有する架橋剤(ここに、前記アルコキシ基はメトキシ又はエトキシである);
充填材;
前記シリコーンシーラント組成物の室温硬化を促進するためのチタン触媒;
並びに前記シーラント組成物の調製の間に形成されるメタノール又はエタノール副生物を含む;
(II)(I)で得られたシリコーンシーラント組成物を少なくとも1つの前記部品に塗布し、この未硬化のシリコーンシーラント組成物が前記部品を少なくとも1つの他の前記部品に接合してなる限られた形態を有する組み立て体を形成すること;
(III)この組み立て体を、40℃を超える温度の下に置くこと;並びに
(IV)前記シリコーンシーラント組成物を完全に硬化させ、これによって少なくとも2つの前記部品が本質的に致命的な泡のない硬化したシリコーンシーラントで接合されてなる組み立て体を作ること。」(審決注:下線は補正部分。)

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「組み立て体」を「限られた形態を有する組み立て体」に限定するものである。この「限られた形態」については、この出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0008】に、「本発明にとって、『限られた形態』とは、硬化中のシリコーンシーラント組成物が湿分含有雰囲気に曝された少なくとも1つの小さな表面を有するものである。例えば、ガスケットの表面は全体のガスケット及び全体のシーラント表面に較べれば小さく、大気に曝され、非多孔質基体に接触している暴露された端を有する。本発明組成物は大気中の湿分に曝されることにより硬化するから、大気への暴露が必要である。」と記載されているから、新規事項を追加するものではなく、また、上記補正は、特許請求の範囲を減縮するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の請求項の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

ア 刊行物
刊行物1:特開平2-284984号公報(原審における引用文献1)
刊行物2:特開平8-48967号公報(原審における引用文献3)

イ 刊行物の記載事項
刊行物1及び2には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(ア)刊行物1:特開平2-284984号公報
(1a)「1.(A)下式、
R R R
| | |
D SiO(SiO)_(x)Si D
| | |
R R R
〔上式中、各Rは脂肪族不飽和を含まず並びに1?18個の炭素原子を有する一価炭化水素、一価ハロ炭化水素及び一価シアノアルキル基からなる群より選ばれ、各Dはビニル基及び下式、
(R''O)_(3)Si Z
(上式中、各R''はメチル、エチル、プロピル又はブチルであり、Zは二価炭化水素基又は二価炭化水素基とシロキサン基の組み合せである)
の基からなる群より選ばれ、xはポリマーが25℃において0.5?3000Pa・sの粘度を有するような値であり、Dのビニル基の量は総末端ブロック基Dの0?40パーセントである〕
のポリマーを100重量部、
(B)下式、
R'_(a)Si(OR'')_(4-a)
(上式中、R'はメチル又はフェニルであり、R''はメチル、エチル、プロピル又はブチルであり、aは0,1又は2である)
の架橋剤を0.1?14重量部、
(C)チタン触媒を0.2?6.0重量部、及び
(D)下式、
R^(3)
/
X(-O-N=C )_(n)
\
R^(4)
(上式中、Xは水素及びR^(5)_(p)Si_(4-p) からなる群より選ばれ、R^(3) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、R^(4) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、R^(5) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、nはXの原子価に等しく、pは1又は2である)
のオキシム化合物を0.5?4重量部、含んでなる中性硬化シリコーン組成物。
2.(D)がオキシム(Xは水素であり、R^(3) 及びR^(4) はメチル又はエチル基である)である、請求項1記載の組成物。
3.(D)が下式、
R^(3)
/
R^(5)_(p)Si(-O-N=C )_(n)
\
R^(4)
である、請求項1記載の組成物。
4.R^(3)、R^(4) 及びR^(5) がメチル又はエチルであり、pが1であり、nが3である、請求項3記載の組成物。
5.さらに充填剤が存在する、請求項1記載の組成物。」(特許請求の範囲の請求項1?5)
(1b)「架橋剤(B)を水分掃去剤として及びモジュラス調節剤として加える。これらのアルコキシシラン・・・架橋剤はシーラントの優れた保存寿命に寄与する点で有効である。」(3頁右下欄末行?4頁左上欄8行)
(1c)「チタン触媒は、アルコキシ含有シロキサンもしくはシランの水分誘導反応の触媒化に有効であると公知のあらゆるものであってよい。・・・好ましい触媒は、テトラブチルチタネート、・・・2,5-ジ-イソプロポキシ-ビスエチルアセトアセテートチタンを含む。」(4頁左上欄10行?右上欄6行)
(1d)「有効なシリコーンエラストマーシーラントは通常、成分の1つとして充填剤を含み製造される。この充填剤は工業上公知である。充填剤は硬化後シーラントの物理特性を調節するようポリマーを強化するため混合物に加えられる。強化充填剤、例えばヒュームドシリカ、沈殿シリカ及び珪藻土はシーラントに最も高い物理強度を与えるため用いられる。強化充填剤は通常約50?700m^(2)/gの表面積を有する微粉砕粒子であると認識される。この充填剤は表面を処理して又は処理せず用いられ、この処理はシーラント内のポリマー及び他の成分と反応するよう充填剤表面を改良するため用いられる。約20m^(2)/gの表面積を有し及び強化作用を与える、沈殿により形成される炭酸カルシウムが現在入手可能である。増量充填剤、例えば二酸化チタン、珪酸ジルコン、炭酸カルシウム、酸化鉄、石英粉末及びカーボンブラックも用いてよい。用いられる充填剤の量は用いる用途の広い範囲内で異ってよい。例えば、あるケースにおいて、シーラントは充填剤を含まず用いてよいが、物理特性はとても低い。強化充填剤は通常最も高い物理特性、例えば引張強さを与えるよう約5?60重量部の量で用いられる。増量充填剤は、平均粒度が約1?10μmであるよう微粉砕される。増量充填剤はシーラント特性を改良するため及びある場合不透明度を与えるため用いられる。増量充填剤は200重量部及びそれ以上の量で用いられる。」(4頁右上欄9行?左下欄15行)
(1e)「好ましいオキシムは・・・市販生成物であるメチルエチルケトキシムである。
他の好ましいオキシム化合物は・・・下式、
CH_(3)
/
CH_(3)Si(-O-N=C )_(3)
\
CH_(2)CH_(3)
のメチルトリオキシモシランである。
オキシム化合物の上式のpが2であり、R^(3) がメチル基であり、R^(4) がエチル基である場合、オキシム化合物は下式、
CH_(3)
/
(CH_(3))_(2)Si(-O-N=C )_(2)
\
CH_(2)CH_(3)
を有する。」(4頁右下欄11行?5頁左上欄8行)
(1f)「本発明の中性硬化シリコーン組成物は、オキシム化合物が存在せず製造される対応する組成物より硬化が速い。この速く硬化する化合物を他の成分、例えば充填剤と混合し、硬く硬化するシーラントを与える。この硬く硬化するシーラントは通常考えられるそのような物質の用途すべてにおいて有効である。」(5頁左上欄13行?右上欄1行)
(1g)「本発明の組成物の好ましい製造方法は、ポリマー(A)を充填剤と混合し、架橋剤(B)、チタン触媒(C)及びオキシム化合物(D)の混合物を水分に暴露せず加えることである。架橋剤(B)、チタン触媒(C)及びオキシム化合物(D)を別々に加えてもよく、又は混合し混合物として加えてもよい。成分を撹拌し均質な混合物を与える。次いで均質な混合物を好ましくは脱気し、貯蔵容器、例えばシーラントチューブに密閉し、使用するまで貯蔵する。」(5頁右上欄2?11行)
(1h)「例 1
・・・トリメトキシシリルエチレン末端ブロックポリジメチルシロキサン100部(審決注:「トリメトキシシルエチレン」と記載されているが、「トリメトキシシリルエチレン」の誤記と認める。)、・・・トリメチルシリル末端ブロックポリジメチルシロキサン30部、及び・・・炭酸カルシウム充填剤175部を混合することによりベース組成物を製造した。このベースを混合し、次いで脱気しベースから空気及び水分を除去した。
このベース(100部)を水分の非存在下、メチルトリメトキシシラン架橋剤2部及びテトラブチルチタネート0.52部と混合し、水分の存在下硬化する組成物(1)を与えた。この組成物を水分の非存在下容器に貯蔵した。組成物の不粘着時間(TFT)を測定することにより硬化速度を測定した。不粘着時間は物質が硬化し非粘着性表面フィルムを形成するに必要な時間(分)と規定されている。サンプルを清潔で滑らかな表面に広げ時間を測定開始する。定時的に、ポリエチレンフィルムの清潔なストリップを表面にのせ、そこに1オンスの重量を加える。4秒後、荷重(審決注:「苛重」と記載されているが、「荷重」の誤記と認める。)を除き、ストリップを徐々に引きはがす。サンプルからストリップがきれいに除去できた時間を不粘着時間と記録する。結果を表Iに示す。
組成物(2)は、さらにメチルエチルケトキシムを0.52部加えることを除き、上記を繰り返すことにより製造した。・・・」(5頁右上欄14行?左下欄末行)
(1i)「例 3
用いたポリマーがビニル基及びトリメトキシシリルエチレン基の両方で末端ブロックされた(審決注:「トリメトキシシルエチレン」と記載されているが、「トリメトキシシリルエチレン」の誤記と認める。)一連の組成物を製造した。
・・・上記ポリマー100部を・・・ヒュームドシリカ8部、メチルトリメトキシシラン7部及び2,5-ジ-イソプロポキシ-ビス-エチルアセトアセテートチタン2部と混合することによりシーラントを製造し、比較サンプル9を与えた。
他のサンプル10は同様な方法で、しかしメチルトリオキシムシラン(MTO)を1部含んで製造した。各サンプルを硬化速度について測定し、結果を表IIIに示す。
表 III
組成物 ケトキシム 不粘着時間
部 分
9* 0.0 60
10 1.0 33
*比較例」(6頁左下欄下から7行?7頁左上欄7行)
(1j)「例 4
ポリマーが例3のポリマーとヒドロキシル末端ブロックポリジメチルシロキサンの混合物である組成物を製造した。
例3のポリマー90部、・・・ヒドロキシル末端ブロックポリジメチルシロキサン液体10部、・・・ヒュームドシリカ8部、メチルトリメトキシシラン8部並びに2,5-ジ-イソプロポキシ-ビス-エチルアセトアセテートチタン2部を混合することによりシーラントを製造し比較サンプル11を与えた。
他のサンプル12は同様に、しかしメチルトリオキシムシラン(MTO)1部を含んで製造された。各サンプルを硬化速度について測定し、結果を表IVに示す。
表 IV
組成物 ケトキシム 不粘着時間
部 分
11* 0.0 44
12 1.0 30
*比較例」(7頁左上欄8行?右上欄10行)

(イ)刊行物2:特開平8-48967号公報
(2a)「【請求項1】縮合性末端基を有するポリジオルガノシロキサン、1アルコキシ基あたり炭素原子数1?2個のケイ素に結合した1分子あたり少なくとも3個のアルコキシ基を有する架橋剤、充填材、及びシリコーンシーラント組成物の室温硬化を促進するチタン触媒からなる調製された室温加硫性シリコーンシーラントに、前記シリコーンシーラントの全重量を基準として0.5?2wt%のオキシモケイ素化合物であって、単一のオキシモシラン又は複数のオキシモシランの混合物であって、前記オキシモケイ素化合物は一般式R_(x)Si(O_(x))_(y)(OR')_(z)(ここに、Rはメチル、エチル、ビニル又はフェニルであり、R'はメチル又はエチルであり、O_(x)はエチルメチルケトキシモであり、xは平均値0?2であり、yは平均値2?4であり、zは平均値0?2であり、x、y及びzの合計は4である)で示され、複数のオキシモシランの混合物は、1分子あたり2又はそれ以上のエチルメチルケトキシモ基を有するシラン分子を少なくとも80%有するもの、を加えることにより得られる生成物を含む熱い多孔性表面で加硫性のシリコーンシーラント組成物。
【請求項2】(I)請求項1のシリコーンシーラント組成物を調製し;(II)少なくとも40℃の熱い多孔性基体の表面に、(I)で得られた組成物を接触させ;(III)(II)の生成物を大気条件に曝して(I)の組成物を硬化させ、これによって熱い多孔性基体の表面に接合したシリコーンシーラントを得ることを含む、熱い多孔性基体にシリコーンシーラントを接合する方法。」(特許請求の範囲)
(2b)「【0005】本発明方法は、室温加硫性(room temperature vulcanizable)(以下、「RTV」と記載する)シリコーンシーラント組成物を、これに前記シリコーンシーラント組成物の全重量を基準として0.5?2wt%のオキシモケイ素化合物を混合して変性し、得られた生成物を熱い、好ましくは少なくとも40℃の多孔性基体の表面に接触させ、次いでこの基体とシーラント組成物の組み合わせを大気の水蒸気に曝し、これによって熱い多孔性基体に結合したシリコーンシーラントを得ることを含む。このオキシモケイ素化合物を使用する方法は、オキシモケイ素化合物を添加しない他は同じシリコーンシーラントと較べて泡の数の減った熱い多孔性基体に結合したシリコーンシーラントをもたらす。形成される泡の数が減ることに加えて、形成される泡はサイズが小さい。」
(2c)「【0007】・・・オキシモケイ素化合物は・・・オキシモシラン類の例を挙げれば、メチルトリ(エチルメチルケトキシモ)シラン・・・がある。・・・」
(2d)「【0009】縮合性末端基を有するポリジオルガノシロキサンは・・・次式で示される。
R_((3-n)) R R_((3-n))
| | |
(R'O)_(n)SiO(R_(2)SiO)_(p)SiO(R_(2)SiO)_(p')Si(OR')_(n) (B)
及び
(HO)_(q)(R_(r)SiO_((4-r)/2))_(m)H (C)
ここに・・・nは2又は3であり・・・縮合性の末端基は、ケイ素に結合した水酸基又はケイ素に結合したアルコキシ基、特にメトキシ及びエトキシの意味である。・・・」
(2e)「【0010】RTVシリコーンシーラント組成物の架橋剤は・・・好ましくは・・・メチルトリメトキシシラン・・・である。アルコキシシラン架橋剤の量は好ましくはRTVシリコーンシーラント組成物の合計重量を基準として1?10wt%であり、より好ましくは3?8wt%である。」
(2f)「【0011】・・・充填材の例としては・・・強化用シリカ、例えばヒュームドシリカ・・・がある。充填材の量は、好ましくはRTVシリコーンシーラント組成物の全重量を基準として5?50wt%である。」
(2g)「【0012】・・・チタン触媒は、上記特許に例示されている。・・・チタン触媒の例を挙げれば・・・テトラブチルチタネート、・・・2,5-ジイソプロピル-ビス-エチルアセト-アセテートチタン・・・があり、・・・チタン触媒の量は、RTVシリコーンシーラント組成物の硬化のための触媒量であり、好ましくはRTVシリコーンシーラント組成物の全重量を基準として0.1?5wt%である。」
(2h)「【0015】この変性されたRTVシリコーンシーラント組成物は、それを熱い多孔性基体、例えば石、大理石、レンガ、コンクリート、セメント又は他のセメント質の基体の表面に接合するために調製される。この変性されたRTVシリコーンシーラント組成物は、熱い多孔性表面同志の接合だけでなく、これと他の従来の建築材料、例えばガラス及びアルミニウムとの接合にも用いられる。この変性されたRTVシリコーンシーラント組成物は、熱い多孔性表面に、押し出し、塗布、射出(injection)、ナイフ塗り及びロール塗りのような従来法により接触させる。この多孔性基体の表面は好ましくは少なくとも40℃である。40℃より低い温度の多孔性表面はいくらかの気泡を形成するかも知れないが、本発明方法を用いたとき、40℃又はそれ以上の温度で、気泡の減少が顕著である。変性されたRTVシリコーンシーラント組成物を熱い多孔性基体に塗った後、これを大気の水蒸気に曝して硬化させ、熱い多孔性基体表面に接合したシリコーンシーラントにする。この場合、オキシモケイ素化合物を使用しない場合に較べて硬化したシリコーンシーラント中の気泡の数と大きさが減る。望ましくない気泡は熱い多孔性基体と硬化したシリコーン表面との境界に主に形成される。この変性されたRTVシリコーンシーラント組成物は、オキシモケイ素化合物を含まないシーラント組成物に較べて多くの製作時間を取る。本発明組成物の他の利点は、硬化生成物のモジュラスがオキシモケイ素化合物の使用によって増大しないことである。」

ウ 刊行物に記載された発明

(ア)刊行物1
刊行物1には、特許請求の範囲の請求項1に、特定の化学式で表されるポリマーと、特定の化学式で表される架橋剤と、チタン触媒と、特定の化学式で表されるオキシム化合物を、それぞれ特定量で含む、中性硬化シリコーン組成物の発明が記載され、その請求項3及び4には、請求項1の発明においてそのオキシム化合物が特定のケイ素含有化合物であるものが、また、請求項5には、請求項1の発明において充填剤をさらに存在させたものが、それぞれ記載されている(摘示(1a))。
そして、上記充填剤については、「工業上公知」のものであり(摘示(1d))、中性硬化シリコーン組成物の他の成分の種類により制限されるものとはされていない(摘示(1d))。また、例3及び例4(摘示(1i)(1j))は、オキシム化合物として「メチルトリオキシムシラン(MTO)」(審決注:摘示(1e)の下式の「メチルトリオキシモシラン」と同じ、以下そう呼ぶ:
CH_(3)
/
CH_(3)Si(-O-N=C )_(3)
\
CH_(2)CH_(3) )が使用されていて、これらは請求項3又は4に係る発明の実施例に相当するものであるところ、充填剤である「ヒュームドシリカ」も用いられていることからすると、刊行物1には、その請求項3又は4の発明又はオキシム化合物をさらに上記「メチルトリオキシモシラン」に限定した発明において、充填剤をさらに存在させた発明が、記載されているといえる。
そうすると、刊行物1には、
「(A)下式、
R R R
| | |
D SiO(SiO)_(x)Si D
| | |
R R R
〔上式中、各Rは脂肪族不飽和を含まず並びに1?18個の炭素原子を有する一価炭化水素、一価ハロ炭化水素及び一価シアノアルキル基からなる群より選ばれ、各Dはビニル基及び下式、
(R''O)_(3)Si Z
(上式中、各R''はメチル、エチル、プロピル又はブチルであり、Zは二価炭化水素基又は二価炭化水素基とシロキサン基の組み合せである)
の基からなる群より選ばれ、xはポリマーが25℃において0.5?3000Pa・sの粘度を有するような値であり、Dのビニル基の量は総末端ブロック基Dの0?40パーセントである〕
のポリマーを100重量部、
(B)下式、
R'_(a)Si(OR'')_(4-a)
(上式中、R'はメチル又はフェニルであり、R''はメチル、エチル、プロピル又はブチルであり、aは0,1又は2である)
の架橋剤を0.1?14重量部、
(C)チタン触媒を0.2?6.0重量部、及び
(D)下式、
R^(3)
/
R^(5)_(p)Si(-O-N=C )_(n)
\
R^(4)
(上式中、R^(3) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、R^(4) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、R^(5) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、pは1又は2である;
特に、R^(3)、R^(4) 及びR^(5) がメチル又はエチルであり、pが1であり、nが3である;
特に、式
CH_(3)
/
CH_(3)Si(-O-N=C )_(3)
\
CH_(2)CH_(3)
のメチルトリオキシモシランである)
のオキシム化合物を0.5?4重量部、含んでなり、
さらに充填剤が存在する中性硬化シリコーン組成物。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(イ)刊行物2
刊行物2には、特許請求の範囲の請求項1に、縮合性末端基を有するポリジオルガノシロキサンと、特定の架橋剤と、充填材と、シリコーンシーラント組成物の室温硬化を促進するチタン触媒と、特定の化学式で表されるオキシモケイ素化合物の特定量を含む、シリコーンシーラント組成物の発明が記載されている(摘示(2a))。上記「縮合性末端基」とは「ケイ素に結合した水酸基又はケイ素に結合したアルコキシ基、特にメトキシ及びエトキシ」である(摘示(2d))。また、オキシモケイ素化合物以外のそれぞれの成分についても、好ましい化合物の例と、使用量の記載がある(摘示(2d)(2e)(2f)(2g))。
そうすると、刊行物2には、
「ケイ素に結合した水酸基又はケイ素に結合したアルコキシ基、特にメトキシ及びエトキシである縮合性末端基を有するポリジオルガノシロキサン、1アルコキシ基あたり炭素原子数1?2個のケイ素に結合した1分子あたり少なくとも3個のアルコキシ基を有する架橋剤、充填材、及びシリコーンシーラント組成物の室温硬化を促進するチタン触媒からなる調製された室温加硫性シリコーンシーラントであって、上記架橋剤、充填材及びチタン触媒の量が、それぞれ、該シリコーンシーラントの合計重量を基準として、1?10wt%、5?50wt%、0.1?5wt%である上記室温加硫性シリコーンシーラントに、
前記シリコーンシーラントの全重量を基準として0.5?2wt%のオキシモケイ素化合物であって、単一のオキシモシラン又は複数のオキシモシランの混合物であって、前記オキシモケイ素化合物は一般式R_(x)Si(O_(x))_(y)(OR')_(z)(ここに、Rはメチル、エチル、ビニル又はフェニルであり、R'はメチル又はエチルであり、O_(x)はエチルメチルケトキシモであり、xは平均値0?2であり、yは平均値2?4であり、zは平均値0?2であり、x、y及びzの合計は4である)で示され、複数のオキシモシランの混合物は、1分子あたり2又はそれ以上のエチルメチルケトキシモ基を有するシラン分子を少なくとも80%有するもの、を加えることにより得られる生成物を含む、
熱い多孔性表面で加硫性のシリコーンシーラント組成物。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているということができる。

エ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「(A)下式、
R R R
| | |
D SiO(SiO)_(x)Si D
| | |
R R R
〔上式中、各Rは脂肪族不飽和を含まず並びに1?18個の炭素原子を有する一価炭化水素、一価ハロ炭化水素及び一価シアノアルキル基からなる群より選ばれ、各Dはビニル基及び下式、
(R''O)_(3)Si Z
(上式中、各R''はメチル、エチル、プロピル又はブチルであり、Zは二価炭化水素基又は二価炭化水素基とシロキサン基の組み合せである)
の基からなる群より選ばれ、xはポリマーが25℃において0.5?3000Pa・sの粘度を有するような値であり、Dのビニル基の量は総末端ブロック基Dの0?40パーセントである〕
のポリマー」は、その「D」が「(R''O)_(3)Si Z」であってよく、その3個のアルコキシ基「R''O」は、「R''」が「メチル、エチル、プロピル又はブチル」であり、それはメトキシ、エトキシ、プロポキシ又はブトキシであり、そして、具体例においても、「トリメトキシシリルエチレン」で末端ブロックされたポリシロキサンが用いられているので(摘示(1h)(1i)(1j))、本願補正発明の「少なくとも2個のケイ素に結合したアルコキシ基(ここに、前記アルコキシはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、又はブトキシである)を有するケイ素原子を有する末端基を有するポリジオルガノシロキサン」に相当し、
引用発明の「(B)下式、
R'_(a)Si(OR'')_(4-a)
(上式中、R'はメチル又はフェニルであり、R''はメチル、エチル、プロピル又はブチルであり、aは0,1又は2である)
の架橋剤」は、そのアルコキシ基「OR''」は、「R''」が「メチル」又は「エチル」であってよく、それはメトキシ又はエトキシであり、「a」は「0」又は「1」であってよく、そのとき「4-a」は「4」又は「3」であり、そして、具体例においても、「メチルトリメトキシシラン」が用いられているので(摘示(1h)(1i)(1j))、本願補正発明の「1分子あたり少なくとも3つのケイ素に結合したアルコキシ基を有する架橋剤(ここに、前記アルコキシ基はメトキシ又はエトキシである)」に相当し、
引用発明の「(C)チタン触媒」は、「アルコキシ含有シロキサンもしくはシランの水分誘導反応の触媒化に有効であると公知」のものであり(摘示(1c))、該反応は、シリコーン組成物の硬化反応を意味するから、本願補正発明の「シリコーンシーラント組成物の室温硬化を促進するためのチタン触媒」に相当し、
引用発明の「(D)下式、
R^(3)
/
R^(5)_(p)Si(-O-N=C )_(n)
\
R^(4)
(上式中、R^(3) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、R^(4) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、R^(5) は1?18個の炭素原子を有する炭化水素であり、pは1又は2である;
特に、R^(3)、R^(4) 及びR^(5) がメチル又はエチルであり、pが1であり、nが3である;
特に、式
CH_(3)
/
CH_(3)Si(-O-N=C )_(3)
\
CH_(2)CH_(3)
のメチルトリオキシモシランである)
のオキシム化合物」は、「R^(3)、R^(4) 及びR^(5) がメチル又はエチルであり、pが1であり、nが3である」態様を含み、具体例においては、上記「メチルトリオキシモシラン」が用いられているものであるが(摘示(1i)(1j)及び上記ウ(ア))、下式
CH_(3)
/
(CH_(3))_(2)Si(-O-N=C )_(2)
\
CH_(2)CH_(3)
のもの、すなわち、ジメチルジオキシモシランでもよく(摘示(1e))、また、1種類の化合物を単独で用いなければならないものではないから、本願補正発明の「オキシモケイ素化合物」である「オキシモシラン又は複数のオキシモシランの混合物」であって、「一般式R_(x)Si(OX)_(y)(OR^(1))_(z)(ここに、Rはメチル又はエチルあり、OXはアルキルメチルケトキシモであり、但しこのアルキル基は炭素原子数1又は2であり、xは平均値が0?2であり、yは平均値が2?4であり、zは平均値が0であり、x、y及びzの合計は4である)で示され、前記オキシモシランの混合物は1分子あたり2又はそれより多くのアルキルメチルケトキシモ基を有するオキシモシラン分子を少なくとも80%有するもの」に相当する。その量は、上記(A)のポリマー100重量部に対し「0.5?4重量部」であり、シリコーン組成物の全重量に対する割合は、「充填剤」の使用量により変動するので一概にいえないものではあるが、摘示(1d)によれば、充填剤は、使う場合、「強化充填剤」は「約5?60重量部」、「増量充填剤」は「200重量部及びそれ以上」とされ、具体例においては、例3及び例4において、ポリマー100部、充填剤のヒュームドシリカ8部、架橋剤のメチルトリメトキシシラン7?8部、チタン触媒の2,5-ジ-イソプロポキシ-ビス-エチルアセトアセテートチタン2部、メチルトリオキシモシラン1部という割合であり、充填剤の使用量が少ないものが示されていることからすると、シリコーン組成物の全重量に対して、0.5?4wt%を少し下回る範囲までになると解される。
また、引用発明の「充填剤」は、本願補正発明の「充填材」に相当する。
そして、引用発明の「中性硬化シリコーン組成物」は、「チタン触媒」が「アルコキシ含有シロキサンもしくはシランの水分誘導反応の触媒化」に有効なもので(摘示(1c))、「水分の存在下硬化する組成物」であり(摘示(1h))、「硬く硬化するシーラントを与える」もので(摘示(1f))、製造時には各成分を「水分に暴露せず加え」るものであって(摘示(1g))、本願補正発明の、オキシモケイ素化合物を加えたあとの「室温加硫性シリコーンシーラント組成物」に相当する。
そして、引用発明の組成物の製造方法は、「ポリマー(A)を充填剤と混合し・・・架橋剤(B)、チタン触媒(C)及びオキシム化合物(D)を別々に加えてもよく、又は混合し混合物として加えてもよい」(摘示(1g))というものであるから、本願補正発明の「オキシモケイ素化合物を、室温加硫性シリコーンシーラント組成物に加える」態様を含んでいる。
そうすると、本願補正発明と、引用発明は、
「(I)オキシモケイ素化合物を、室温加硫性シリコーンシーラント組成物に加えること;
ここで、前記オキシモケイ素化合物は前記室温加硫性シリコーンシーラント組成物の全重量を基準として0.5?3wt%であり、
前記オキシモケイ素化合物はオキシモシラン又は複数のオキシモシランの混合物であって前記オキシモシランは一般式R_(x)Si(OX)_(y)(OR^(1))_(z)(ここに、Rはメチル又はエチルあり、OXはアルキルメチルケトキシモであり、但しこのアルキル基は炭素原子数1又は2であり、xは平均値が0?2であり、yは平均値が2?4であり、zは平均値が0であり、x、y及びzの合計は4である)で示され、前記オキシモシランの混合物は1分子あたり2又はそれより多くのアルキルメチルケトキシモ基を有するオキシモシラン分子を少なくとも80%有するものであり、
前記室温加硫性シリコーンシーラント組成物は、
少なくとも2個のケイ素に結合したアルコキシ基(ここに、前記アルコキシはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、又はブトキシである)を有するケイ素原子を有する末端基を有するポリジオルガノシロキサン;
1分子あたり少なくとも3つのケイ素に結合したアルコキシ基を有する架橋剤(ここに、前記アルコキシ基はメトキシ又はエトキシである);
充填材;
前記シリコーンシーラント組成物の室温硬化を促進するためのチタン触媒を含む
で得られたシリコンシーラント組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明は、上記「室温加硫性シリコーンシーラント組成物」が、さらに、「前記シーラント組成物の調製の間に形成されるメタノール又はエタノール副生物を含む」と特定されるのに対し、引用発明は、その特定がされていない点
(相違点2)
本願補正発明は、「次のことを含む少なくとも2つの内燃機関の部品の間にシールを形成する方法」であって、
「(II)(I)で得られたシリコーンシーラント組成物を少なくとも1つの前記部品に塗布し、この未硬化のシリコーンシーラント組成物が前記部品を少なくとも1つの他の前記部品に接合してなる限られた形態を有する組み立て体を形成すること;
(III)この組み立て体を、40℃を超える温度の下に置くこと;並びに
(IV)前記シリコーンシーラント組成物を完全に硬化させ、これによって少なくとも2つの前記部品が本質的に致命的な泡のない硬化したシリコーンシーラントで接合されてなる組み立て体を作ること。」
を含むと特定されるのに対し、引用発明は、その特定がされていない点

オ 判断

(ア)相違点1について
引用発明の中性硬化シリコーン組成物は、その成分の、ポリマー、架橋剤、チタン触媒、オキシム化合物及び充填剤が、上記エのとおり、本願補正発明のオキシモケイ素化合物を加えた室温加硫性シリコーンシーラント組成物の成分の、ポリジオルガノシロキサン、架橋剤、チタン触媒、オキシモケイ素化合物及び充填材と、一致するものであって、そのポリマーと架橋剤は、メトキシやエトキシのような「アルコキシ基」をもつものであり、そのチタン触媒は「水分誘導反応の触媒」であるから(摘示(1c))、組成物中に、副生するメタノールやエタノールを含むものと解される。
したがって、相違点1は実質的な相違点でない。

(イ)相違点2について

a 本願補正発明は、「少なくとも2つの内燃機関の部品の間にシールを形成する方法」であることと、「(II)(I)で得られたシリコーンシーラント組成物を少なくとも1つの前記部品に塗布し、この未硬化のシリコーンシーラント組成物が前記部品を少なくとも1つの他の前記部品に接合してなる限られた形態を有する組み立て体を形成すること」、「(III)この組み立て体を、40℃を超える温度の下に置くこと」及び「(IV)前記シリコーンシーラント組成物を完全に硬化させ、これによって少なくとも2つの前記部品が本質的に致命的な泡のない硬化したシリコーンシーラントで接合されてなる組み立て体を作ること」を、発明を特定するために必要な事項としている。

b まず、「少なくとも2つの内燃機関の部品の間にシールを形成する方法」と特定した点及び「(II)(I)で得られたシリコーンシーラント組成物を少なくとも1つの前記部品に塗布し、この未硬化のシリコーンシーラント組成物が前記部品を少なくとも1つの他の前記部品に接合してなる限られた形態を有する組み立て体を形成すること」と特定した点について検討する。
引用発明の中性硬化シリコーン組成物は、硬化するシーラントの「通常考えられるそのような物質の用途すべてにおいて有効」とされるものであるところ(摘示(1f))、このような、液体の、硬化するシリコーンシーラント組成物が、内燃機関の部品の間にシールを形成するのに用いられることは、周知の事項である。例えば、
特開平8-73745号公報には、「自動車用特にエンジン周辺のシールとして・・・室温硬化性のシリコーンゴムを利用したFIPG・・・はシール部分に未硬化の液状シリコーンゴムを塗布し組み付けるものであり作業性に優れ、多種形状のシール部分にも対応できるものである」ことが(段落【0002】?【0003】)、
特開昭63-54486号公報には、「自動車工業においては、エンジン周辺をシールするにあたり室温硬化型シリコーンゴム組成物を未硬化の状態でシールすべき面に塗布し、圧着しつつ室温で硬化して、シール面の基材に接着したシリコーンゴム層を形成するシール方法が採用され」ることが(2頁左上欄)、
特開昭62-502410号公報には、「ペースト」(6頁右上欄)状のシリコーンシーラントが、「現場のガスケツト用シーラント」や「オイルパンガスケツト、バルブカバーガスケツト、水封、吸気シールなどのような種々のガスケツトとして種々の内燃機関に使用」されることが(6頁左上欄)、
特開平9-12892号公報には、現場成形ガスケット用シリコーンゴム組成物が、「オイルパンガスケット、オイルシールケースガスケット、オイルスクリーンガスケット、タイミングベルトカバーアッパーガスケット、タイミングロッカーカバーロアーガスケット等の自動車用ガスケット・・・の形成材料として好適である」ことが(段落【0023】)、
特開昭61-12778号公報には、「自動車のエンジン等において使用されるオイルパン等をシールする場合、一般にシリコーン系RTV接着剤等の流動性シール剤が用いられ」ることが(1頁左下欄)、
それぞれ記載されている。
そうすると、引用発明の中性硬化シリコーン組成物を、内燃機関の部品の間にシールを形成するのに用いること、そして、その際、シリコーンシーラント組成物を一方の部品に塗布し、他の部品に組み付けて、組み立て体として、硬化させることは、当業者が直ちに着想し得ることである。
また、組み立て体が「限られた形態を有する」との点は、上記(1)で検討したとおり、「『限られた形態』とは、硬化中のシリコーンシーラント組成物が湿分含有雰囲気に曝された少なくとも1つの小さな表面を有するものである。例えば、ガスケットの表面は全体のガスケット及び全体のシーラント表面に較べれば小さく、大気に曝され、非多孔質基体に接触している暴露された端を有する。本発明組成物は大気中の湿分に曝されることにより硬化するから、大気への暴露が必要である。」というものであるところ、引用発明の中性硬化シリコーン組成物も、上記エでみたとおり、水分の存在下硬化する組成物である。そうすると、引用発明の中性硬化シリコーン組成物を、内燃機関の部品の間にシールを形成するのに用いて、シリコーンシーラント組成物を一方の部品に塗布し、他の部品に組み付けて、組み立て体として、硬化させるにあたり、水分に曝される表面が存在するような、「限られた形態を有する」ものとすることは、当然に要求されることである。そして、上記文献に記載された各種のガスケットの組み立て体は、本願補正発明の「限られた形態を有する組み立て体」に相当するものである。
したがって、引用発明において、「少なくとも2つの内燃機関の部品の間にシールを形成する方法」と特定し、「(II)(I)で得られたシリコーンシーラント組成物を少なくとも1つの前記部品に塗布し、この未硬化のシリコーンシーラント組成物が前記部品を少なくとも1つの他の前記部品に接合してなる限られた形態を有する組み立て体を形成すること」と特定することは、当業者が容易に想到し得ることである。

c 次に、「(III)この組み立て体を、40℃を超える温度の下に置くこと」及び「(IV)前記シリコーンシーラント組成物を完全に硬化させ、これによって少なくとも2つの前記部品が本質的に致命的な泡のない硬化したシリコーンシーラントで接合されてなる組み立て体を作ること」と特定した点について検討する。
刊行物2には、上記ウ(イ)のとおりの、引用発明2が記載されている。引用発明2のシリコーンシーラント組成物は、ケイ素に結合した水酸基又はケイ素に結合したアルコキシ基、特にメトキシ及びエトキシである縮合性末端基を有するポリジオルガノシロキサンと、特定の架橋剤と、充填材と、シリコーンシーラント組成物の室温硬化を促進するチタン触媒と、特定の化学式で表されるオキシモケイ素化合物を、それぞれ特定量で含むシリコーンシーラント組成物である。そして、上記「架橋剤」は好ましくは「メチルトリメトキシシラン」であり(摘示(2e))、上記「充填材」は「ヒュームドシリカ」であってよく(摘示(2f))、上記「チタン触媒」は「テトラブチルチタネート」や「2,5-ジイソプロポキシ-ビス-エチルアセト-アセテートチタン」(審決注:引用発明のチタン触媒として例示され例3及び例4でも用いられている「2,5-ジ-イソプロポキシ-ビスエチルアセトアセテートチタン」(摘示(1c)(1i)(1j))と同じ。)であってよく(摘示(2g))、上記「オキシモケイ素化合物」は「メチルトリ(エチルメチルケトキシモ)シラン」(審決注:引用発明の「メチルトリオキシモシラン」と同じ。)であってよいから(摘示(2c))、引用発明2は、引用発明と、そのポリシロキサンポリマー、架橋剤、チタン触媒、オキシモシランであるオキシム化合物、及び充填剤の成分及び使用量の範囲が重複するものである。しかも、引用発明2は、引用発明のうち本願補正発明と一致する態様と、重複している。
そして、引用発明2のシリコーンシーラント組成物は、「40℃又はそれ以上の温度」の「熱い多孔性基体に塗った後、これを大気の水蒸気に曝して硬化させ、熱い多孔性基体表面に接合したシリコーンシーラントにする」ことで、他の「多孔性表面」、「ガラス」又は「アルミニウムと」との接合に用いられ、その際、「オキシモケイ素化合物を使用しない場合に較べて硬化したシリコーンシーラント中の気泡の数と大きさが減る」(摘示(2h))、「オキシモケイ素化合物を添加しない他は同じシリコーンシーラントと較べて泡の数の減った熱い多孔性基体に結合したシリコーンシーラントをもたらす。形成される泡の数が減ることに加えて、形成される泡はサイズが小さい」(摘示(2b))というものである。
そうすると、引用発明のうち本願補正発明と一致する態様も、同様に、40℃又はそれ以上の温度の基体に塗布され硬化される場合に、泡の数と大きさが減った、硬化したシリコーンシーラントを与えるものと解される。
ところで、引用発明の中性硬化シリコーン組成物は、室温で硬化させることができるものであるが、硬化の温度は、室温に限らず当業者が実験等により適宜設定できるものである。そして、上記のように、引用発明のうち本願補正発明と一致する態様は、40℃又はそれ以上の温度の基体に塗布され硬化される場合に、泡の数と大きさが減った硬化したシリコーンシーラントを与えるものであるが、このことは、塗布される基体が熱い基体ではないが硬化が完了する前に40℃又はそれ以上の温度に曝される場合にも、泡の数と大きさが減った硬化したシリコーンシーラントを与えることを意味することは、当業者には明らかである。
そうすると、引用発明の中性硬化シリコーン組成物を、内燃機関の部品の間にシールを形成するのに用いて、シリコーンシーラント組成物を一方の部品に塗布し、他の部品に組み付けて、組み立て体として、硬化させるにあたり、40℃又はそれ以上の温度で硬化させるか、効果が完了する前に40℃又はそれ以上の温度とすることは、当業者が困難なく選択できることである。
したがって、引用発明において、上記bで検討した特定をしたうえで、「(III)この組み立て体を、40℃を超える温度の下に置くこと」及び「(IV)前記シリコーンシーラント組成物を完全に硬化させ、これによって少なくとも2つの前記部品が本質的に致命的な泡のない硬化したシリコーンシーラントで接合されてなる組み立て体を作ること」と特定することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)発明の効果について
本願補正発明は、「限られた形態の中で、特にシーラント組成物を限る基体が熱いときに、硬化するシーラント組成物中での泡形成の問題を排除すること」を目的とし(平成16年1月5日付け、平成20年3月3日付け及び同年8月4日付けの手続補正により補正された明細書の段落【0005】)、その実施例(同段落【0041】?【0053】)において、「泡形成」と「物性」について、「オキシモケイ素化合物の無いものと、オキシモケイ素化合物を含むものと比較して、表面泡形成及び内部ボイド形成の両方とも、本発明におけるオキシモケイ素化合物を加えることにより、減少し」、「物性は、対照とさほど変わらず」と評価される効果を奏するものである。
しかし、「泡形成」の点は、上記(イ)cのとおり、予測できる効果にすぎない。「物性」の点も、シリコーンシーラント組成物の組成がそもそも一致するものであるから同様の効果を奏すると解されるし、実際、刊行物2には、「本発明組成物の他の利点は、硬化生成物のモジュラスがオキシモケイ素化合物の使用によって増大しないことである。」と記載され(摘示(2h))、引用発明2及び引用発明のうち本願補正発明と一致する態様において、物性が、オキシモケイ素化合物の使用により、さほど変わらないことも、すでに知られた効果である。

カ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができるものではない。

キ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書を補正した平成20年8月4日付けの手続補正書において、以下の主張をしている。
(i)「本願請求項1に記載の方法は、本願発明の限定された構造を有するシリコーンシーラント組成物を用いて内燃機関の部品を接合してなる限られた形態を有する組み立て体を形成する、という引用文献1?3(審決注:引用文献1は刊行物1に同じ。引用文献3は刊行物2に同じ。)には開示されていない構成を有する。
シリコーンシーラント組成物を硬化させて部品を相互に接合するためには、空気の湿分に曝すことが必要である。限られた形態においては、RTVシリコーンシーラント組成物の曝された端は、硬化組成物の全体積に較べて小さい。それ故、蒸発するメタノール又はエタノールは大気中に逃れるのが困難である。このように、RTVシリコーンシーラント組成物を限られた形態を有する組み立て体に適用することを妨げる事情があることに御注目いただきたい。」(4頁12?20行)
(ii)「本願段落[0004]に記載されるように、その中に泡を有するシーラント組成物、例えば流し込みガスケット(in-place-gasket)(FIPG)は低下した物性をもたらすことがあり、これは漏れのような故障につながる。本願請求項1に記載の発明は、請求項1で規定される限定された構造を有するシリコーンシーラント組成物を用いて内燃機関の部品を接合してなる限られた形態を有する組み立て体を形成することによって、硬化するシーラント組成物中での泡形成の問題を排除することができ、高い性能を有する組立体を提供することができる、という顕著な効果を奏するものとなっている。」(4頁21?27行)
そこで、(i)の点について検討する。まず、「限られた形態」は、上記(1)及び(2)オ(イ)bで検討したとおり、段落【0008】に「本発明にとって、『限られた形態』とは、硬化中のシリコーンシーラント組成物が湿分含有雰囲気に曝された少なくとも1つの小さな表面を有するものである。例えば、ガスケットの表面は全体のガスケット及び全体のシーラント表面に較べれば小さく、大気に曝され、非多孔質基体に接触している暴露された端を有する。本発明組成物は大気中の湿分に曝されることにより硬化するから、大気への暴露が必要である。」の意味である。段落【0037】に「限られた形態において、RTVシリコーンシーラント組成物の曝された端は、硬化組成物の全体積に較べて小さい。それ故、蒸発するメタノール又はエタノールは大気中に逃れるのが困難である。」と記載されるようなものであるとしても、上記オ(イ)bのとおり、液体の、硬化するシリコーンシーラント組成物が、内燃機関の部品の間にシールを形成するのに用いられることは、周知の事項であり、そこでの各種のガスケットの組み立て体は、本願補正発明の「限られた形態を有する組み立て体」に相当するものであるから、RTVシリコーンシーラント組成物を限られた形態を有する組み立て体に適用することを妨げる事情があるとの請求人の主張は、採用できない。
次に、(ii)の点については、上記オ(ウ)で検討したとおりであり、本願補正発明が、泡形成と性能の点で顕著な効果を奏するものとはいえないから、この主張も採用できない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成20年8月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年1月5日付け及び平成20年3月3日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記第2の1(補正前)を参照。)。

2 原査定の理由
拒絶査定の拒絶の理由である平成19年11月29日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由の概要は、この出願の発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平2-284984号公報(刊行物1に同じ。)
引用文献2:特開平6-340739号公報
引用文献3:特開平8-48967号公報(刊行物2に同じ。)

3 刊行物の記載事項

ア 刊行物1:特開平2-284984号公報
刊行物1に記載されている事項は、上記第2の2(2)イ(ア)に示したとおりである。

イ 刊行物2:特開平8-48967号公報
刊行物2に記載されている事項は、上記第2の2(2)イ(イ)に示したとおりである。

4 刊行物に記載された発明
刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)及び刊行物2に記載された発明(以下、「引用発明2」という。)は、上記第2の2(2)ウ(ア)及び同(イ)に記載したとおりのものである。

5 対比・判断
本願発明は、上記第2の1に記載したとおり、本願補正発明における「限られた形態を有する組み立て体」の「限られた形態を有する」と限定する特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項をすべて含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2の2(2)に記載したとおり、その出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、その出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-26 
結審通知日 2010-11-30 
審決日 2010-12-13 
出願番号 特願平9-71688
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子松原 宜史  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齊藤 真由美
井上 千弥子
発明の名称 シール形成方法  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 志賀 正武  

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