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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1236790
審判番号 不服2007-19671  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-12 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2002- 49278「下水道汚泥の焼却灰を含むセメント用の硬化促進剤及びセメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月 2日出願公開、特開2003-246657〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年2月26日の出願であって、平成17年8月18日付けで拒絶理由が通知され、同年10月19日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成19年6月19日付けで拒絶査定された。
これに対し、同年7月12日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成22年1月5日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対する回答書が同年2月22日に提出された。
その後、平成22年7月28日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年9月22日に意見書とともに手続補正書が提出されている。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成22年9月22日付けで提出された手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項2に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「 【請求項2】 セメントと、粉砕して粉末度がブレーン比表面積値で5,000cm^(2)/g以上の下水道汚泥の焼却灰と、粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上で、軟焼生石灰、仮焼ドロマイト、消石灰又は膨張材のいずれかである生石灰含有物質及び/又は消石灰含有物質を含有する硬化促進剤とを含有してなり、下水道汚泥の焼却灰が、セメント100部に対して、10?50部、生石灰含有物質及び/又は消石灰含有物質が遊離石灰換算で1?15部であるセメント組成物。」

3.当審の拒絶理由
当審において、平成22年7月28日付けで通知した拒絶の理由の「2.特許法第29条第2項違反について」の概要は、請求項1?6に係る発明は、本願の出願の日前に頒布された「特開平11-171628号公報 」(引用文献4:以下「引用例4」という。)、「特開2001-354465号公報」(引用文献5:以下、「引用例5」という。)、「特開平8-333145号公報」(引用文献6:以下、「引用例6」という。)、「特開平11-79822号公報」(引用文献7:以下「引用例7」という。)、「特開平9-268084号公報」(引用文献8)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができない、というものである。

4.引用例の記載事項
(1)引用例4
(ア)「下水汚泥焼却灰5?30重量%、塩素を含有したダスト0?10重量%、高炉スラグ微粉末10?50重量%、石膏3?15重量%、石灰0?8重量%およびセメント82?20重量%からなることを特徴とするセメント組成物。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(イ)「前記下水汚泥焼却灰を90μmふるい残分が0.5%以下になるように粉砕および/又は分級した下水汚泥焼却灰を用いることを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。」(特許請求の範囲【請求項2】)
(ウ)「請求項1および2に記載のセメント組成物を水と混練する際、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩素を含有したダストおよび石灰のうち1種類以上をセメント組成物100重量%に対して、0.5?10重量%の範囲で添加することを特徴とするセメント組成物の使用方法。」(特許請求の範囲【請求項3】)
(エ)「【発明が解決しようとする課題】下水汚泥焼却灰をスラグ、レンガ、軽量骨材などとして有効利用するには、莫大な設備投資と溶融あるいは焼成工程におけるエネルギーを多く必要とするために、広く普及していないのが現状である。また、セメントを製造する際の原料の一部としての利用は、セメント中のP_(2)O_(5)がある一定量以上になるとセメントの凝結時間が長くなるためにその使用量が制限され、多量に処理することは出来ない。さらに、セメント混和材あるいは、クリンカと石膏を粉砕してセメントを製造する工程に同時に下水汚泥焼却灰を添加して得たセメントも、凝結時間が長くなるという問題点があり、有効に活用することが出来ない。」(段落【0005】)
(オ)「【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態について説明する。本発明は、下水汚泥焼却灰中にはポゾラン反応性を有する成分(SiO_(2)、Al_(2)O_(3))とセメント水和を遅延する成分(P_(2)O_(5))があることに着目し、いかにして下水汚泥焼却灰の反応性を引き出し、且つP_(2)O_(5)によるセメントの凝結遅延を抑制するか鋭意研究し、本発明を完成するに至った。」(段落【0010】)
(カ)「下水汚泥焼却灰は、汚泥を凝集する工程で用いる凝集剤の種類によって、高分子凝集剤系と消石灰、酸化第二鉄系に大別される。凝集剤として消石灰と酸化第二鉄を用いる場合の焼却灰の化学成分は、高分子凝集剤に比べて、CaO、Fe_(2)O_(3)および塩素が多く含まれ、CaOはリン酸カルシウムとフリーライム(生石灰)の鉱物として存在している。したがって、消石灰、塩化第二鉄系は、水に対するリン酸の溶出が少ないのに対して、高分子凝集剤は、水に比較的速くリン酸が溶出し、セメントの凝結を遅延する。この遅延を抑制する材料としては、塩素を10%以上含むダストあるいは塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の塩化物が有効であり、また、石灰も下水汚泥焼却灰から溶出したリン酸をリン酸カルシウムとして固定し、セメントの水和を正常にする働きがあり有効な材料である。」(段落【0011】)
(キ)「石灰は、下水汚泥焼却灰のうち高分子凝集剤系の焼却灰を使用するときには水に溶出するリン酸の固定になくてはならないものである。消石灰、塩化第二鉄系の焼却灰の場合で焼却灰中にフリーライム(生石灰)がある一定以上含まれるときには、石灰は不要である。また、石灰は、塩素を10%以上含有したダストの場合と同様に、セメント組成物を混合するときに使用する場合と水と混練するときに使用する場合とがある。いずれの場合においても石灰の重量%の上限は、8重量%以下であり、好ましくは、2?5重量%である。したがって、本発明におけるセメント組成物中の石灰の重量%は、0?8重量%とした。」(段落【0016】)
(ク)「本発明に使用するセメントは、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、アルミナセメント、超速硬セメントであり、単独あるいは組み合わせて用いることができる。また、本発明におけるセメントの重量%は、82?20重量%であり、好ましくは、50?30重量%である。なお高炉スラグ微粉末とポルトランドセメントの代わりに、高炉セメントを用いることもできる。さらに、膨脹材や石灰石微粉末等の混和材を使用することも可能である。」(段落【0017】)
(ケ)「下水汚泥焼却灰は、一般にサイクロン灰と電気集塵機灰が混合されて発生するために比較的粗い粒子と非常に細かい粒子からなっている。粗い粒子は、ポーラスであるために吸水率が高く且つ水と混練した後の流動性が非常に悪い。そこで、下水汚泥焼却灰を多量にセメント組成物に使用するためには、ボールミル、ローラミル、バーテックミル等による粉砕、粉砕と分級、あるいは分級して微粉なものとして使用する必要がある。」(段落【0018】)
(コ)「セメント組成物と水を混練する際に使用する石灰の重量%は、セメント組成物100重量%に対して0.5?8重量%、好ましくは、2?5重量%である。さらに詳しく説明すると、下水汚泥焼却灰中のフリーライム量と水に溶出するリン酸の量、セメント組成物中の焼却灰の重量%によって最適な石灰重量%が決まる。ここで使用する石灰は、生石灰、消石灰のいずれでも使用できるが、取り扱いの容易な消石灰の方が望ましい。」(段落【0020】)
(サ)「[実施例]以下の実施例および比較例に用いた材料は次の通りである。
下水汚泥焼却灰 :川崎市入江崎総合スラッジセンターから発生した高分
(記号Ash) 子凝集剤系の焼却灰
化学成分SiO_(2) 32.7%,Al_(2)O_(3) 16.9%,
Fe_(2)O_(3) 9.6%,CaO 10.5%,
P_(2)O_(5) 19.4%,90μm残分14.5%
(記号AshF) :上記の焼却灰を試験室ボールミルで90μm残分0.
1%まで粉砕した焼却灰
塩素バイパスダスト:KClが約50%含むセメント工場から発生したダス(記号CID) ト
高炉スラグ微粉末 :ブレーン値6250cm^(2)/g、第一セメント社製
(記号BFS)
石 膏 :天然無水石膏ブレーン値5000cm^(2)/g、第一セ
(記号AG) メント社製
石 灰 :特号消石灰、奥多摩工業社製
(記号CH)
普通ポルトランドセ:第一セメント社製
メント(記号OPC)
CaCl_(2) 、KCl、NaClは試薬を用いた。」(段落【0022】)
(シ)「実施例および比較例のセメント組成物の配合重量%を図1の表1に記載した。

」(段落【0024】、【図1】)
(ス)「[実施例2]図1の表1に記載したセメント組成物の凝結時間とモルタル圧縮強さを図3の表3に記載した。図3の表3の結果から明らかなように、下水汚泥焼却灰はセメント凝結時間を長くし、特に粉砕した下水汚泥焼却灰は、遅延効果が大きい。塩素バイパスダストおよび消石灰は、本発明であるセメント組成物の凝結時間を短くする効果が認められた。圧縮強さは、粉砕した下水汚泥焼却灰の方が高いことから、下水汚泥焼却灰はポゾラン反応性を有していることが確認された。また、塩素バイパスダストは、本発明であるセメント組成物の材齢3,7日の初期強さを増進する効果が認められた。消石灰は、強さにほとんど影響しないことも確認された。

」(段落【0026】、【図3】)
(セ)「[実施例3]図1の表1に記載したNO.3のセメント組成物100重量%に対して、CaCl_(2)、KCl、NaCl、塩素バイパスダストおよび消石灰を1?5重量%添加した場合の凝結時間を図4の表4に記載した。図4の表4の結果から明らかなように、消石灰、CaCl_(2)、KCl、塩素バイパスダスト、NaClの順に凝結時間を短くする効果が大きいことが認められた。

」(段落【0027】、【図4】)

(2)引用例5
(ソ)「下水汚泥を焼却して得られる焼却灰を粉砕または分級により粒度調整してなる粒度調整焼却灰を混和材として混入して構成したことを特徴とするコンクリート。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(タ)「前記粒度調整焼却灰をセメント量に対して5?50%の範囲で混入して構成したことを特徴とする請求項1のコンクリート。」(特許請求の範囲【請求項2】)
(チ)「本発明に係るコンクリートは、前述の多くの問題点に鑑み開発された全く新規な発明であって、特に前述のようにコンクリートの中に混入される下水汚泥焼却灰の混入比率を高くして、極めて安価な下水汚泥焼却灰の消費量を多くすることが出来、かつ下水汚泥焼却灰の混入比率を高くした場合にも一定のワーカビリティを得ることが出来、しかもコンクリートを製造する際の作業性を著しく向上せしめることができる全く新しいコンクリートの技術を提供するものである。」(段落【0007】)
(ツ)「図5はモルタルにおける未処理焼却灰と粉砕焼却灰の置換量とフロー値を示す棒グラフ、図6はコンクリートにおける粉砕焼却灰利用率と水セメント比と骨材セメント比との関係を示す棒グラフ、図7は未処理焼却灰利用率と減水剤との関係を示すグラフ、図8は未処理焼却灰と粉砕焼却灰の利用率と水セメント比の関係を示すグラフ、図9は未処理焼却灰と粉砕焼却灰との利用率と減水剤添加率との関係を示すグラフである。

」(段落【0021】、【図5】?【図9】)
(テ)「先ず、本実施例を具体的に説明する前に、本発明で使用する下水汚泥を焼却して得られた下水汚泥焼却灰の特性について説明し、かつこのようにして得られた下水汚泥焼却灰をさらに粉砕して得られる粉砕焼却灰について説明する。
本発明の実施例で使用する下水汚泥焼却灰は、下水処理剤に石灰や塩化第二鉄を使用せずに、高分子凝集剤を使用して得られた次のような配合よりなる下水汚泥焼却灰を使用した。
二酸化ケイ素(SiO2) 40?50%
酸化カルシウム(CaO) 5?10%
酸化第二鉄(Fe2O3) 5?12%
酸化アルミニウム(Al2O3) 13?25%
酸化マグネシウム(MgO) 5?10%
五酸化リン(P2O5) 5?15%
酸化ナトリウム(Na2O) 0.5?3%
塩化物 0mg/kg
また、下水汚泥焼却灰の処理方法の相違例として例示すると、東京都下水道局新河岸処理場で発生した焼却灰A、及び東京都下水道局東部汚泥処理プラントで発生した焼却灰Bの成分分析結果は表1の通りであった。

」(段落【0022】?【0026】、【表1】)
(ト)「次に本発明の実施に当たって、コンクリートの製造に使用されている使用材料について説明すると以下の通りである。
セメントC:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製ρc=3.16)
細骨材S1:砕砂(埼玉県児玉郡上里町産ρs1=2.60、F.M=2.96)
細骨材S2:天然砂(埼玉県児玉郡上里町産ρs2=2.64、F.M=3.09)
粗骨材G:砕石6号(埼玉県児玉郡上里町産ρG=2.70、F.M=5.91)
膨張剤GP:アサノジプカル(太平洋セメント社製ρGP=3.00)
減水剤:マイティー150RX(高性能減水剤)
(花王社製)
焼却灰B:東京都新河岸処理場産(東京都下水道局ρashB=2.60)」(段落【0034】?【0035】)
(ナ)「・・・セメントに対する添加率(以下単に添加率と記す)5%、7%、10%、20%、30%、40%、50%の各割合で、粉砕焼却灰を添加した場合に・・・

」(段落【0042】?【0043】、【表4】)
(ニ)「コンクリートのワーカビリティについて、上記粉砕焼却灰を骨材に代えて添加した場合にコンクリートのワーカビリティに与える影響について試験した。一定のセメントワーカビリティを得るための水セメント比について、セメントに対する添加率5%、7%、10%、20%、30%、40%、50%の各割合で焼却灰を添加し、スランプが一定(目標スランプ:8cm±2cm)となるようにコンクリート配合Aを表7の如くになるような配合で試験を行った。・・・一方で、今度は粉砕しない未処理の焼却灰を骨材に代えて添加した場合にコンクリートのワーカビリティに与える影響について試験したところ、一定のセメントワーカビリティを得るための水セメント比について試験を行った結果、セメントに対する添加率5%、7%、10%、15%、20%の各割合で焼却灰を添加した場合に、スランプが一定となるためのコンクリート配合Bは表8の如くであった。・・・前述の表7と表8とを比較することによって、粉砕焼却灰を添加する場合と、未処理の焼却灰を添加する場合とでは、次のような差異があることが明らかである。即ち、減水剤を一定とし水セメント比を変化させる場合未処理の焼却灰を添加する場合は利用率が20%が限度であるのに対し、粉砕焼却灰を添加する場合には利用率が実用的には30%まで利用可能であった。

」(段落【0050】?【0054】、【表7】、【表8】)

(3)引用例6
(ヌ)「本発明の混和材の使用量は使用する目的により異なるが、通常セメントと混和材からなるセメント組成物(以下組成物という)100重量部中、3?15重量部が好ましく、5?12重量部がより好ましい。3重量部未満では十分な寸法安定性が得られない場合があり、15重量部を越えると過膨張する場合がある。」(段落【0012】)
(ネ)「ここでセメントとしては、普通、早強、超早強、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントにポゾラン物質を混合した各種混合セメント、並びに、アルミナセメント等が挙げられる。」(段落【0013】)
(ノ)「実施例1
流動化剤A10重量部に、表1に示す膨張物質と炭素質物質aからなる混和材を調製した。調製した混和材を、組成物100重量部中、9重量部使用し、・・・結果を表1に併記する。
<使用材料>
膨張物質α:カルシウムサルホアルミネート系、電気化学工業社製「デンカCSA#20」を粉砕した微粉末、ブレーン値6,100cm^(2)/g
膨張物質β:石灰系、秩父・小野田セメント社製「オノダエクスパン」を粉砕した微粉末、ブレーン値6,150cm^(2)/g・・・

」(段落【0017】?【0020】、【表1】)
(ハ)「実施例3
流動化剤A10重量部に、表3に示す膨張物質と炭素質物質からなる混和材を調製したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。・・・

」(段落【0024】?【0026】、【表3】)

(4)引用例7
(ヒ)「・・・(1)高炉スラグ粉末を70?98重量部含み、残部が、セメント、生石灰、及び消石灰の1種又は2種以上の無機物質に置換された水硬性物質100重量部・・・(3)(1)又は(2)記載の水硬性組成物に、更に、ポゾラン物質2?15重量部を含有してなる水硬性組成物、・・・」(段落【0008】)
(フ)「・・・生石灰、消石灰及び生石灰を含むセメント膨張材等も使用可能である。市販の生石灰を含むセメント膨張材としては電気化学工業社製商品名「デンカCSA」、秩父小野田セメント社製商品名「小野田エクスパン」、日本セメント社製商品名「アサノジプカル」、住友大阪セメント社製商品名「住友サクス」等が挙げられるが、これらを使用する場合は、粉末度が粗いので膨張させないために粉末度は3000cm^(2)/g以上に微粉砕したもの又は一部水和させたものを用いるのが好ましい。」(段落【0011】)
(ヘ)「ポゾラン物質は強度発現を助長する作用を示し、その配合量は、水硬性物質100重量部に対して2.0?15重量部である。好ましい配合量は3?12重量部、より好ましくは5?10重量部である。15重量部を超えて配合しても初期、及び長期強度の助長効果は増大しなく、また、未焼成の粘土鉱物等は単位水量を著しく増加させる場合もあるので好ましくない。2.0重量部未満では、初期、及び長期強度の助長効果が小さくなり好ましくない。」(段落【0023】)
(ホ)「・・・(4)生石灰(CaOという):試薬1級、ブレーン比表面積8000cm^(2)/gに粉砕・・・」(段落【0025】)

5.対比・判断
(a)引用例4には、記載事項(ア)に、「下水汚泥焼却灰5?30重量%、塩素を含有したダスト0?10重量%、高炉スラグ微粉末10?50重量%、石膏3?15重量%、石灰0?8重量%およびセメント82?20重量%からなる・・・セメント組成物。」が記載されている。この記載中の「下水汚泥焼却灰」について、記載事項(イ)に、「前記下水汚泥焼却灰を90μmふるい残分が0.5%以下になるように粉砕および/又は分級した下水汚泥焼却灰を用いる」ことが記載され、記載事項(シ)の【図1】によれば、実験NO.5に、AshF/OPC=15/53、すなわち、セメントOPC100部に対して粉砕した下水道汚泥焼却灰AshFを28.3部添加させる点が、実験NO.6に、AshF/OPC=15/48、すなわち、セメントOPC100部に対して粉砕した下水道汚泥焼却灰AshFを31.3部添加させる点が記載され、記載事項(セ)の「[実施例3]図1の表1に記載したNO.3のセメント組成物100重量%に対して、・・・消石灰を1?5重量%添加した場合の凝結時間を図4の表4に記載した。」という記載によれば、記載事項(シ)の【図1】の実験No.3には、AshF/OPC=15/55、すなわち、セメントOPC100部に対して下水道汚泥焼却灰AshFを27.3部添加させる点が、それぞれ記載されている。
(b)次に「石灰」について、記載事項(コ)に、「セメント組成物と水を混練する際に使用する石灰の重量%は、セメント組成物100重量%に対して・・・好ましくは、2?5重量%である。さらに詳しく説明すると、下水汚泥焼却灰中のフリーライム量と水に溶出するリン酸の量、セメント組成物中の焼却灰の重量%によって最適な石灰重量%が決まる。ここで使用する石灰は、生石灰、消石灰のいずれでも使用できるが、取り扱いの容易な消石灰の方が望ましい。」と記載され、記載事項(シ)の【図1】によれば、実験NO.5に、CH/OPC=2/53、すなわち、セメントOPC100部に対して消石灰CHを3.8部添加させる点が、実験NO.6に、CH/OPC=2/48、すなわち、セメントOPC100部に対して消石灰CHを4.2部添加させる点が記載され、記載事項(セ)の「[実施例3]図1の表1に記載したNO.3のセメント組成物100重量%に対して、・・・消石灰を1?5重量%添加した場合の凝結時間を図4の表4に記載した。」という記載によれば、記載事項(シ)の実験No.3と記載事項(セ)のCHの欄より、CH/OPC=1/55、3/55、5/55、すなわち、セメントOPC100部に対して消石灰CHを1.8部、5.5部、9.1部添加させる点が、それぞれ記載されている。また、記載事項(ス)に、「・・・消石灰は、本発明であるセメント組成物の凝結時間を短縮する効果が認められた。・・・」と記載され、記載事項(セ)に、「・・・図4の表4の結果から明らかなように、消石灰、CaCl_(2)、KCl、塩素バイパスダスト、NaClの順に凝結時間を短くする効果が大きいことが認められた。」と記載されていることから、この「消石灰」はセメント組成物の凝結時間を短縮させるためのもの、すなわち「凝結短縮剤」であるといえる。

これらの記載を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例4には、「セメントと、粉砕および/又は分級した下水汚泥焼却灰と、生石灰又は消石灰のいずれかを用いた凝結短縮剤とを含有してなり、下水汚泥焼却灰がセメント100部に対して27.3部、28.3部、31.3部、生石灰又は消石灰が1.8部、5.5部、9.1部、3.8部、4.2部であるセメント組成物。」(以下、「引用4発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願発明と引用4発明とを比較する。
(c)引用4発明の「粉砕および/又は分級した下水汚泥焼却灰」は、本願発明の「粉砕して粉末度がブレーン比表面積値で5,000cm^(2)/g以上の下水道汚泥の焼却灰」と、「粉砕した下水道汚泥の焼却灰」である点で共通する。
(d)引用4発明の「生石灰又は消石灰」は、本願発明の「粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上で、軟焼生石灰、仮焼ドロマイト、消石灰又は膨張材のいずれかである生石灰含有物質及び/又は消石灰含有物質」と、「生石灰含有物質又は消石灰含有物質」である点で共通する。
(e)引用4発明の「凝結短縮剤」は、「生石灰又は消石灰」を用いていることから、本願発明の「生石灰含有物質又は消石灰含有物質を含有する」「硬化促進剤」であるといえる。
(f)引用4発明の「下水道汚泥焼却灰」は、セメント100部に対して27.3部、28.3部、31.3部配合させていることから、その配合量は、本願発明のセメント100部に対し、下水道汚泥の焼却灰を10?50部配合させることと、27.3部、28.3部、31.3部で一致する。
(g)引用4発明の「生石灰又は消石灰」は、セメント100部に対して1.8部、5.5部、9.1部、3.8部、4.2部配合させていることから、その配合量は、本願発明1のセメント100部に対して1?15部配合させることと、1.8部、5.5部、9.1部、3.8部、4.2部で一致する。

以上のことから、両者は「セメントと、粉砕した下水道汚泥の焼却灰と、生石灰含有物質又は消石灰含有物質を含有する硬化促進剤とを含有してなり、下水道汚泥の焼却灰が、セメント100部に対して、27.3部、28.3部、31.3部、生石灰含有物質又は消石灰含有物質が1.8部、5.5部、9.1部、3.8部、4.2部であるセメント組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A
本願発明では、「下水道汚泥の焼却灰」の粉末度が「ブレーン比表面積値で5,000cm^(2)/g以上」のものを用いるのに対し、引用4発明では、かかる事項について特定されていない点。

・相違点B
本願発明では、「生石灰含有物質又は消石灰含有物質」として、「粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上」で「軟焼生石灰、仮焼ドロマイト、消石灰又は膨張材のいずれか」であるものを用いるのに対し、引用4発明では、かかる事項について特定されていない点。

・相違点C
本願発明では、「生石灰含有物質又は消石灰含有物質」が「遊離石灰換算で1?15部となる」ように配合するのに対し、引用4発明では、「遊離石灰換算」について特定されていない点。

上記相違点A?Cについて検討する。
・相違点Aについて
引用例4には、記載事項(ケ)に、「下水汚泥焼却灰は、一般にサイクロン灰と電気集塵機灰が混合されて発生するために比較的粗い粒子と非常に細かい粒子からなっている。粗い粒子は、ポーラスであるために吸水率が高く且つ水と混練した後の流動性が非常に悪い。そこで、下水汚泥焼却灰を多量にセメント組成物に使用するためには、ボールミル、ローラミル、バーテックミル等による粉砕、粉砕と分級、あるいは分級して微粉なものとして使用する必要がある。」と記載されている。また、記載事項(ス)における表3の実験NO.2と実験NO.3を比較すると、粉砕した下水汚泥焼却灰AshFを使用した実験NO.3の方が水量が少なくなっている。そうすると、引用例4には、水量を抑えつつ、多量にセメント組成物へ添加させるために、下水汚泥焼却灰を粉砕することが開示されているといえる。
一方、引用例5の記載事項(テ)の【表1】には、粉砕した下水汚泥焼却灰の粉末度がブレーン値で10250cm^(2)/g(焼却灰A)、または、11300cm^(2)/g(焼却灰B)である点が記載され、記載事項(ト)には、セメントに、下水汚泥焼却灰(焼却灰B)と膨張剤GPを含有する点が記載されている。また、記載事項(ニ)によれば、粉砕焼却灰を骨材に代えて添加した場合の【表7】の粉砕焼却灰利用率と水量Wとの関係と、粉砕しない未処理の焼却灰を骨材に代えて添加した場合の【表8】の未処理焼却灰利用率と水量Wとの関係とを比較すると、焼却灰の添加率5%、7%、10%、20%において、粉砕焼却灰を添加した場合は、水量Wが順に179(配合No.a-5)、182(同a-7)、184(同a-10)、203(同a-20)であるのに対し、未処理焼却灰を添加した場合は、水量Wが順に184(配合No.b-5)、189(同b-7)、191(同b-10)、220(同b-20)であり、いずれも粉砕した下水汚泥焼却灰を添加した方が水量Wを低減できることが示され、水量Wが同じ場合(配合No.a-10とb-5)、未粉砕の下水汚泥焼却灰よりも粉砕した下水汚泥焼却灰の方が多く添加できる点が示されている。
【表7】、【表8】における「ASH-B」は、記載事項(ト)の「焼却灰B:東京都新河岸処理場産(東京都下水道局ρashB=2.60)」という記載、記載事項(テ)の「東京都下水道局新河岸処理場で発生した焼却灰A、及び東京都下水号局東部汚泥処理プラントで発生した焼却灰B」という記載からみて、「焼却灰B」(東京都下水号局東部汚泥処理プラント産)あるいは「焼却灰A」(東京都下水道局新河岸処理場産)であるといえ、「焼却灰B」であれば、記載事項(テ)の【表1】より、ブレーン値は11300cm^(2)/gであり、「焼却灰A」であれば、記載事項(テ)の【表1】より、そのブレーン値は10250cm^(2)/gであるといえる。
そうすると、引用例5には、下水汚泥焼却灰の粉末度がブレーン値で10250cm^(2)/g、または、11300cm^(2)/gとなるように粉砕することにより、一定のワーカビリティを得るという目的でみると、水量Wを低減させ、下水汚泥焼却灰の添加量を多くさせることが開示されているといえる。
本願発明の「ブレーン比表面積値で5,000cm^(2)/g以上」という特定事項について、本願明細書の段落【0007】に、「本発明の焼却灰は、粉砕してブレーン比表面積法(JIS R 5201に準じて測定)による粉末度を5000cm^(2)/g以上とするのが好ましく、6000cm^(2)/g以上がより好ましく、8000?15000cm^(2)/gがさらに好ましい。5000cm^(2)/g未満では、焼却灰の単位水量の増加を抑制する効果は小さいので好ましくない。
また、15000cm^(2)/gを超えても焼却灰の単位水量の増加を抑制する効果やポゾラン活性作用が飽和に達し強度の増加は示されなくなり、これ以上の粉砕は不経済となるので好ましくない。」と記載されており、ブレーン値とブレーン比表面積値は同じものであるから、引用例5の「ブレーン値で10250cm^(2)/g、または、11300cm^(2)/g」となるように粉砕することは、上記「ブレーン比表面積値で5,000cm^(2)/g以上」であり、さらに好ましい値である「8000?15000cm^(2)/g」の範囲内である。
そして、引用例4と引用例5とでは、セメントに粉砕した下水汚泥焼却灰を配合させるという技術分野が共通し、かつ、下水道焼却灰の添加量を多くするという課題も共通するから、引用4発明の粉砕した下水汚泥焼却灰として、単位水量を低下させるために、引用例5の粉末度がブレーン値で10,000cm^(2)/g程度の下水汚泥焼却灰を用いることは適宜なし得ることであり、本願発明のようにブレーン比表面積値で5,000cm^(2)/g以上に特定することは、当業者が容易になし得ることである。

・相違点Bについて
引用例4には、記載事項(オ)に、「本発明は、下水汚泥焼却灰中にはポゾラン反応性を有する成分(SiO_(2)、Al_(2)O_(3))とセメント水和を遅延する成分(P_(2)O_(5))があることに着目し、いかにして下水汚泥焼却灰の反応性を引き出し、且つP_(2)O_(5)によるセメントの凝結遅延を抑制するか鋭意研究し、本発明を完成するに至った。」と記載されており、「下水汚泥焼却灰」には「ポゾラン反応性を有する成分」が含まれていることから、引用例4の、セメントに下水汚泥焼却灰を配合させることは、セメントにポゾラン反応性を有する物質を配合させることであるといえる。
一方、引用例6には、記載事項(ヌ)に、「通常セメントと混和材からなるセメント組成物」と記載されている。この「通常セメント」について、記載事項(ネ)に、「ここでセメントとしては、普通、早強、超早強、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントにポゾラン物質を混合した各種混合セメント、並びに、アルミナセメント等が挙げられる。」と記載されており、「通常セメント」として「ポルトランドセメントにポゾラン物質を混合した混合セメント」が例示されているといえる。
次に「混和材」について、記載事項(ノ)には、「流動化剤A10重量部に、表1に示す膨張物質と炭素質物質aからなる混和材を調製した。」と記載されるとともに、「膨張物質α:カルシウムサルホアルミネート系、電気化学工業社製「デンカCSA#20」を粉砕した微粉末、ブレーン値6,100cm^(2)/g
膨張物質β:石灰系、秩父・小野田セメント社製「オノダエクスパン」を粉砕した微粉末、ブレーン値6,150cm^(2)/g」と記載されている。前記「膨張物質α」として用いられる電気化学工業社製「デンカCSA♯20」は、本願明細書の段落【0018】にも「膨張材(市販膨張材の微粉砕品、電気化学工業(株)製商品名デンカCSA♯20)、f-CaO量20.0%
c-1:比表面積6100cm^(2)/g(粉砕品)」と例示されていることからみて、この「電気化学工業社製「デンカCSA♯20を粉砕した微粉末、ブレーン値6,100cm^(2)/g」の「膨張物質α」は、本願発明の「粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上」の「生石灰含有物質又は消石灰含有物質」に相当することは明らかである。また、「膨張物質β」として用いられる秩父・小野田セメント社製「オノダエクスパン」は、引用例7の記載事項(フ)に、「市販の生石灰を含むセメント膨張材としては・・・秩父小野田セメント社製商品名「小野田エクスパン」」と記載されており、「オノダエクスパン」と「小野田エクスパン」は同じ商品だといえるから、この「秩父・小野田セメント社製「オノダエクスパン」を粉砕した微粉末、ブレーン値6,150cm^(2)/g」の「膨張部室β」は、本願発明の「粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上」の「生石灰含有物質又は消石灰含有物質」に相当することは明らかである。
これらの記載から、引用例6の上記「通常セメントと混和材からなるセメント組成物」は、「ポルトランドセメントにポゾラン物質を混合した混合セメントと、粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上の生石灰含有物質又は消石灰含有物質を含む混和材からなるセメント組成物」であるといえる。
また、引用例7には、記載事項(ヒ)に、「(1)高炉スラグ粉末を70?98重量部含み、残部が、セメント、生石灰、及び消石灰の1種又は2種以上の無機物質に置換された水硬性物質100重量部・・・(3)(1)又は(2)記載の水硬性組成物に、更に、ポゾラン物質2?15重量部を含有してなる水硬性組成物」と記載されており、この「水硬性組成物」には、「セメント、生石灰、及び消石灰の1種又は2種とポゾラン物質」が含有されているといえる。この「生石灰、及び消石灰」について、記載事項(フ)に、「生石灰、消石灰及び生石灰を含むセメント膨張材等も使用可能である。市販の生石灰を含むセメント膨張材としては電気化学工業社製商品名「デンカCSA」、秩父小野田セメント社製商品名「小野田エクスパン」、日本セメント社製商品名「アサノジプカル」、住友大阪セメント社製商品名「住友サクス」等が挙げられるが、これらを使用する場合は、粉末度が粗いので膨張させないために粉末度は3000cm^(2)/g以上に微粉砕したもの又は一部水和させたものを用いるのが好ましい。」と記載され、記載事項(ホ)に「生石灰(CaOという)・・・ブレーン比表面積8000cm^(2)/gに粉砕」と記載されているから、この「ブレーン比表面積8000cm^(2)/gに粉砕」された「生石灰」は、本願発明の「粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上」の「生石灰含有物質又は消石灰含有物質」に相当することは明らかである。
これらの記載から、引用例7の上記「(1)高炉スラグ粉末を70?98重量部含み、残部が、セメント、生石灰、及び消石灰の1種又は2種以上の無機物質に置換された水硬性物質100重量部・・・(3)(1)又は(2)記載の水硬性組成物に、更に、ポゾラン物質2?15重量部を含有してなる水硬性組成物」は、「セメントと、ポゾラン物質と、粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上の生石灰含有物質又は消石灰含有物質を含有してなる水硬性組成物」であるといえる。
そして、引用例4と引用例6、7とでは、セメントにポゾラン物質と、生石灰含有物質又は消石灰含有物質を配合させるという技術分野が共通し、かつ、凝結硬化を促進させるという課題も共通するから、引用4発明の生石灰含有物質又は消石灰含有物質を、引用例6、7のように粉末度がブレーン比表面積値5,000cm^(2)/g以上とし、相違点Bに係る本願発明の特定事項を想到することは、当業者が容易になし得ることである。

・相違点Cについて
引用例4の記載事項(コ)には、「セメント組成物と水を混練する際に使用する石灰の重量%は、セメント組成物100重量%に対して0.5?8重量%、好ましくは、2?5重量%である。さらに詳しく説明すると、下水汚泥焼却灰中のフリーライム量と水に溶出するリン酸の量、セメント組成物中の焼却灰の重量%によって最適な石灰重量%が決まる。」と記載されている。前記「フリーライム」とは「遊離石灰」のことであるから、引用例4には、下水汚泥焼却灰中の遊離石灰量と水に溶出するリン酸の量に応じて使用する石灰量を決めていることが開示されているといえる。
一方、引用例6の記載事項(ヌ)には、「本発明の混和材の使用量は使用する目的により異なるが、通常セメントと混和材からなるセメント組成物(以下組成物という)100重量部中、3?15重量部が好ましく、5?12重量部がより好ましい。」と記載され、記載事項(ノ)には、「調製した混和材を、組成物100重量部中、9重量部使用し、」と記載されている。これらの記載から、通常セメントと混和材からなるセメント組成物100重量部中、セメントが91重量部、混和材が9重量部であるといえる。
また、記載事項(ノ)の【表1】によれば、混和材100重量部中、膨張物質αを20部、40部、60部、80部配合させる点が記載され、記載事項(ハ)の【表3】によれば、混和材100重量部中、膨張物質αを10部、30部、50部、70部、90部配合させる点が記載されている。これらの記載から、混和材9重量部中、膨張物質αは0.9重量部、1.8重量部、2.7重量部、3.6重量部、4.5重量部、5.4重量部、6.3重量部、7.2重量部、8.1重量部配合されているといえるから、引用例6には、膨張物質α/セメントが0.9/91、1.8/91、2.7/91、3.6/91、4.5/91、5.4/91、6.3/91、7.2/91、8.1/91、すなわち、セメント100部に対して膨張物質αを1部、2部、3部、4部、5部、6部、7部、8部、9部配合させる点が記載されているといえ、この「膨張物質α」として用いられる電気化学工業社製「デンカCSA♯20」は、上記相違点Bの検討で述べたとおり、本願明細書の段落【0018】に例示されている「膨張材(市販膨張材の微粉砕品、電気化学工業(株)製商品名デンカCSA♯20)、f-CaO量20.0%」であるから、前記膨張物質αを1部、2部、3部、4部、5部、6部、7部、8部、9部配合させることは、その遊離石灰換算量が0.2部、0.4部、0.6部、0.8部、1.0部、1.2部、1.4部、1.6部、1.8部であり、本願発明の遊離石灰換算で1?15部となるように配合することと、1.0部、1.2部、1.4部、1.6部、1.8部で一致する。
そして、引用例4から、石灰量は適宜決めることといえるし、引用例6に本願発明の範囲のものが示されているから、引用4発明の生石灰含有物質又は消石灰含有物質を、引用例6のように遊離石灰換算で1.0部、1.2部、1.4部、1.6部、1.8部配合させることで、相違点Cに係る本願発明の特定事項を想到することは、当業者が容易になし得ることである。

なお、引用例4には、記載事項(カ)に、「石灰も下水汚泥焼却灰から溶出したリン酸をリン酸カルシウムとして固定し、セメントの水和を正常にする働きがあり有効な材料である。」と記載され、記載事項(ス)に、「消石灰は、本発明であるセメント組成物の凝結時間を短くする効果が認められた。」と記載されており、セメントの凝結硬化を遅延する成分であるリン酸塩を含んだままの焼却灰に生石灰又は消石灰を主成分とする硬化促進剤を添加することによりセメントの凝結硬化を促進させるという本願発明の効果も、当業者であれば予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願発明は、引用例4?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例4?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-14 
結審通知日 2011-03-15 
審決日 2011-03-28 
出願番号 特願2002-49278(P2002-49278)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武重 竜男胡田 尚則  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 吉川 潤
木村 孔一
発明の名称 下水道汚泥の焼却灰を含むセメント用の硬化促進剤及びセメント組成物  

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