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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1236824
審判番号 不服2009-15123  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-20 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2004-69582「鉄骨露出型柱脚構造」拒絶査定不服審判事件〔平成17年9月22日出願公開,特開2005-256424〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成16年3月11日の出願であって,平成21年5月21日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月20日に審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,当審において,平成22年2月23日付けで審査官の前置報告書に基づく審尋がなされ,同年4月13日付けで回答書が提出された。

第2.平成21年8月20日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成21年8月20日付け手続補正を却下する。

[理 由]
1.手続補正の内容
平成21年8月20日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,
平成21年2月27日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を,
(補正前)
「【請求項1】
柱の土台となる柱型部の基礎コンクリート内に埋設されその上方が該基礎コンクリートの頂面から突出するアンカーボルトと,該アンカーボルトに挿通されて前記基礎コンクリート上に配置されその上部に建築物の柱が一体化されたベースプレートと,前記ベースプレートを前記基礎コンクリートとの間で締め付け固定するためのナットと,前記基礎コンクリート内に水平に配設されるフープ筋とを備え,前記基礎コンクリート上に前記ベースプレートを介して前記建築物の柱を固着する鉄骨露出型柱脚構造であって,
前記フープ筋を束ねる支持体となるフープ筋結束用建方筋を前記アンカーボルトの外方にこれと平行に配置し,前記フープ筋結束用建方筋を囲うように前記フープ筋を前記柱型部の外周端部に配置することによって前記アンカーボルトの定着耐力を大きくし,柱主筋を配置しないことを特徴とする鉄骨露出型柱脚構造。」から,
(補正後)
「【請求項1】
柱の土台となる柱型部の基礎コンクリート内に埋設されその上方が該基礎コンクリートの頂面から突出するアンカーボルトと,該アンカーボルトに挿通されて前記基礎コンクリート上に配置されその上部に建築物の柱が一体化されたベースプレートと,前記ベースプレートを前記基礎コンクリートとの間で締め付け固定するためのナットと,前記基礎コンクリート内に水平に配設されるフープ筋とを備え,前記基礎コンクリート上に前記ベースプレートを介して前記建築物の柱を固着する鉄骨露出型柱脚構造であって,
前記フープ筋を束ねる支持体となるフープ筋結束用建方筋を前記アンカーボルトの外方にこれと平行に配置し,前記フープ筋結束用建方筋を囲うように且つ該フープ筋結束用建方筋の鉛直線部が前記フープ筋の角部に位置するように該フープ筋を前記柱型部の外周端部に配置することによって前記アンカーボルトの定着耐力を大きくし,柱主筋を配置しないことを特徴とする鉄骨露出型柱脚構造。」(下線は,請求人が付した補正箇所である。)とする補正事項を含むものである。

上記補正事項は,補正前の請求項1におけるフープ筋の配置について,「フープ筋結束用建方筋の鉛直線部がフープ筋の角部に位置するように」との限定を付加するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで,補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,本件補正が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「改正前特許法」という。)第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか,について以下に検討する。

2.引用刊行物
刊行物1:特開2003-13458号公報

(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に日本国内において頒布された上記刊行物1には,次の事項が記載されている。
(1a)「【0002】
【従来の技術】構造物は,図12に示すように,・・・柱33,・・・柱の下部およびベースプレートからなる柱脚部39,柱脚部39の下部に構築される柱型部41に分けることができる。柱型部41は,図13に示すように,コンクリート43,アンカーボルト45,立上筋47,フープ筋49を備えている。」
(1b)「【0025】・・・標準的な配筋例の一例を図4,図5に示す。図4は中柱の柱型部縦断面図,図5は図4に対応する柱型部水平断面図である。・・・」
(1c)「【0031】・・・耐力検定は対象となる柱型部に実際に作用する応力と当該柱型部の耐力とを比較することよってなされる。なお,耐力検定は,軸力,曲げモーメント,せん断力について行われる。」
(1d)「【0037】・・・応力が耐力の範囲外にあり,判定がNOの場合には,・・・曲げモーメント不足,引張の軸力不足の場合には,立上筋の本数,径,規格等を変更する。・・・」
(1e)図4,5及び13には,上記(1a)の記載事項及び当業者の技術常識からみて,
柱型部のコンクリート内に埋設されたアンカーボルトの上方が,前記コンクリートの頂面から突出していること,
前記アンカーボルトの上方に螺合され,柱脚部のベースプレートを前記コンクリートとの間で締め付け固定するためのナットが具備されること,
立上筋が,フープ筋に内接してその支持体となり,前記アンカーボルトの外周側に対向するように配置されること,
フープ筋が,前記コンクリート内に水平に,前記立上筋を囲うように,且つ,前記立上筋の鉛直線部が前記フープ筋の角部に位置するように,前記柱型部の外周端部に配置されること,
柱脚部のベースプレートが,アンカーボルトに挿通されてコンクリート上に配置されその上部に構造物の柱が一体化されていることが,記載されている。

そうすると,以上の記載事項及び当業者の技術常識からみて,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。
「柱脚部の下部に構築される柱型部のコンクリート内に埋設されその上方が該コンクリートの頂面から突出するアンカーボルトと,該アンカーボルトに挿通されて前記コンクリート上に配置されその上部に構造物の柱が一体化されたベースプレートと,前記ベースプレートを前記コンクリート間で締め付け固定するためのナットと,前記コンクリート内に水平に配設されるフープ筋とを備え,前記コンクリート上に前記ベースプレートを介して前記構造物の柱を固着する柱脚構造であって,
前記フープ筋に内接してその支持体となる立上筋を前記アンカーボルトの外周側に対向するように配置し,前記立上筋を囲うように且つ該立上筋の鉛直線部が前記フープ筋の角部に位置するように該フープ筋を前記柱型部の外周端部に配置する柱脚構造。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

3.対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「柱脚部の下部に構築される柱型部」が補正発明の「柱の土台となる柱型部」に相当し,以下同様に,「コンクリート」が「基礎コンクリート」に,「構造物」が「建築物」に,それぞれ相当する。
また,補正発明の「フープ筋結束用建方筋」は「フープ筋を束ねる支持体」で,かつ,「アンカーボルトの外方にこれと平行に配置」されるものであるところ,上記「フープ筋を束ねる」とは,本願明細書の段落【0023】の「フープ筋結束用建方筋6を囲むようにフープ筋7を所定の数だけ配筋する」との記載及び図1からみて,所定の数のフープ筋に内接してそれを支持することと解され,かつ,上記「アンカーボルトの外方にこれと平行に配置」するとは,同【0023】の「フープ筋結束用建方筋6がねじ節鉄筋より外周側に位置し,かつ対向するように配筋する」との記載及び図1からみて,アンカーボルトの外周側に対向するように配置することと解されるから,
補正発明の「フープ筋を束ねる支持体となるフープ筋結束用建方筋をアンカーボルトの外方にこれと平行に配置」することは,刊行物1記載の発明の「フープ筋に内接してその支持体となる立上筋をアンカーボルトの外周側に対向するように配置」することと,「フープ筋を束ねる支持体となる鉄筋をアンカーボルトの外方にこれと平行に配置」する点で共通する。
さらに,刊行物1記載の発明の「鉄骨露出型柱脚構造」と補正発明の「柱脚構造」は,「柱脚構造」である点で共通する。

そうすると,両者は,
「柱の土台となる柱型部の基礎コンクリート内に埋設されその上方が該基礎コンクリートの頂面から突出するアンカーボルトと,該アンカーボルトに挿通されて前記基礎コンクリート上に配置されその上部に建築物の柱が一体化されたベースプレートと,前記ベースプレートを前記基礎コンクリートとの間で締め付け固定するためのナットと,前記基礎コンクリート内に水平に配設されるフープ筋とを備え,前記基礎コンクリート上に前記ベースプレートを介して前記建築物の柱を固着する柱脚構造であって,
前記フープ筋を束ねる支持体となる鉄筋をアンカーボルトの外方にこれと平行に配置し,前記鉄筋を囲うように且つ該鉄筋の鉛直線部が前記フープ筋の角部に位置するように該フープ筋を前記柱型部の外周端部に配置する柱脚構造。」
である点で一致し,以下の点で相違している。

(相違点1)
柱脚構造が,補正発明では「鉄骨露出型」であるのに対して,刊行物1記載の発明では特に型が規定されておらず,鉄骨露出型か否か不明な点。

(相違点2)
フープ筋を柱型部の外周端部に配置することによって,補正発明では,「アンカーボルトの定着耐力を大きく」するとしているのに対して,刊行物1記載の発明では,該定着耐力が大きいとは特に規定していない点。

(相違点3)
補正発明では,フープ筋を束ねる支持体となる鉄筋が,「フープ筋結束用建方筋」であって柱主筋としての機能を有しておらず,柱脚構造として「柱主筋を配置しない」のに対して,
刊行物1記載の発明では,フープ筋を束ねる支持体となる鉄筋として「立上筋」が用いられており,該立上筋が,上記(1d)の記載事項からみて,柱主筋の機能を有している点。

4.判断
(相違点1について)
上記相違点1について検討するに,建築物の柱脚構造として鉄骨露出型のものは例示するまでもない周知技術であって,該周知技術を刊行物1記載の発明の脚注構造に適用することになんら不都合はない。
そうすると,刊行物1記載の発明と上記周知技術から,上記相違点1に係る事項とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(相違点2について)
上記相違点2について検討するに,刊行物1記載の発明は,柱型部の配筋について,「フープ筋を束ねる支持体となる鉄筋をアンカーボルトの外方にこれと平行に配置し,前記鉄筋を囲うように且つ該鉄筋の鉛直線部が前記フープ筋の角部に位置するように該フープ筋を柱型部の外周端部に配置」したものである点で,補正発明の柱型部の配筋と概ね変わらないものである。
そうすると,刊行物1記載の発明も,上記配筋によって,補正発明と同様に「アンカーボルトの定着耐力」が大きくなっていると考えられるから,上記相違点2に係る事項は,実質的な相違点には当たらないものである。

(相違点3について)
上記相違点3について検討するにあたって,まず,柱型部において,アンカーボルトとは別に,個別の柱主筋が必須であるかを検討するに,
アンカーボルトに柱主筋の機能を付与して,フープ筋を前記アンカーボルトの外方に配置することが周知技術であることを考慮すると(例えば,特開平3-87420号公報の特に2頁右下欄1?6行,3頁右上欄12行?同頁左下欄1行,同頁左下欄13?18行,第1?3図の記載,及び,特開平9-310353号公報の特に段落【0020】,図1?2の記載を参照されたい。),柱型部において,個別の柱主筋に変わる構造があれば,これを省くことが可能であることは容易に理解される。
そして,柱型部にある各鉄筋への強度の配分は,柱型部に必要な耐力が付与される範囲で適宜なされるべきものであって,上記のようにアンカーボルトに柱主筋の機能を付与することが周知技術であることを考慮すれば,刊行物1記載の発明において,アンカーボルトに柱主筋と同等の強度を付与し,それにともなって立上筋の強度を落として,柱主筋としての機能を省くことは,当業者が適宜着想し得ることである。
そうすると,刊行物1記載の発明において,立上筋を,柱主筋の機能を省いてフープ筋の支持体としての「フープ筋結束用建方筋」とし,結果として,柱脚構造に「柱主筋を配置しない」ことに想到することは,当業者が容易に想到し得たことである。
してみれば,刊行物1記載の発明と上記周知技術から,上記相違点3にかかる事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,補正発明が奏する効果は,刊行物1記載の発明及び周知技術から予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえない。

したがって,補正発明は,刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

5.本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記[補正の却下の決定の結論]のとおり,決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記第2.のとおり却下されたので,本願の請求項1?3に係る発明は,平成21年2月27日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記第2.1.の(補正前)に記載されたとおりのものである。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物1には,上記第2.2.(1)で示したとおりのものが記載されている。

3.対比・判断
本願発明は,上記第2.で検討した補正発明を特定する事項から,上記第2.1.で示した限定を省いたものに相当する。
そうすると,本願発明を特定する事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する補正発明が,上記第2.で検討したとおり,刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-10 
結審通知日 2011-03-15 
審決日 2011-03-28 
出願番号 特願2004-69582(P2004-69582)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新田 亮二  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 山本 忠博
宮崎 恭
発明の名称 鉄骨露出型柱脚構造  
代理人 一色国際特許業務法人  
代理人 一色国際特許業務法人  

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