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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E05B
管理番号 1236873
審判番号 不服2009-23121  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-25 
確定日 2011-05-09 
事件の表示 特願2000-108339「シリンダ錠」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月26日出願公開,特開2001-295516〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は,平成12年4月10日に出願されたものであって,平成21年8月21日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされ,その後,当審において,平成22年12月21日付けで拒絶理由の通知がなされたところ,平成23年2月21日付けで手続補正書が提出されたものである。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成23年2月21日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「中心軸線に沿って鍵孔を形成すると共に、この鍵孔を挟んで対峙するA、B二つの領域に、中心軸線に垂直で内側が鍵孔に連通する複数のスロットを中心軸線に沿って積層し、かつA、Bの領域毎にピッチをずらせて形成した内筒と、この内筒と回動可能に嵌合する外筒と、上記各スロットにおいて、鍵孔に挿入される鍵の幅方向に移動可能に案内され、一方向に付勢されると共に、鍵孔内に臨む内側端縁に係止段部を形成した複数のタンブラーとを有し、各側面を上記A又はBの何れかの領域に対応させた合鍵が鍵孔に挿入され、合鍵のA、Bの領域に対向する側面の棚部に形成された鍵溝が、各タンブラーの係止段部と、上記タンブラーの付勢方向とは反対方向の他方向から係合したとき、各タンブラーの両端が内筒と外筒との摺動面であるシアーラインに整合するようにし、以て、A、B二つの領域の一方における一のスロットとこれに隣接する他のスロットとの間に、対応する他方の領域のスロットを設けることにより、タンブラーの数を増大させたことを特徴とするシリンダ錠。」



第2.引用刊行物とその記載内容
刊行物1:実願昭62-167787号(実開平1-73266号)
のマイクロフィルム
刊行物2:特開昭50-14500号公報

1.当審における拒絶理由に引用され本願の出願日前に頒布された,上記刊行物1には,シリンダ錠に関して,図面とともに,次の記載がある。
(1a)「「考案の目的」
本考案は、…簡単な構造でタンブラの数増やし、キーの携帯性を損ねることなくピッキングを効果的に防止できるシリンダ錠を提供することを目的とする。」(明細書5頁14?19行)
(1b)「「考案の概要」
本考案は、ロータケースと、このロータケース内に回動自在に装着されたロータと、このロータの回動軸心に沿って形成されたキー挿入穴と、このキー挿入穴に沿って所定間隔で装着された複数のタンブラとを有し、該タンブラが、常時は上記ロータから突出してロータの回動を阻止する施錠位置に保持され、上記キー挿入穴に所定キーが挿入されたときにその刻みと係接して移動し、ロータ内の解錠位置に収まってロータの回動を許容するシリンダ錠において、ロータの回動軸線と交わる断面位置において、上記タンブラを、ロータからの突出位置を異らせて複数設けたことに特徴を有する。」(同書5頁20行?6頁13行)
(1c)「次に、第7図ないし第9図にしたがって、第三実施例について説明する。この第三実施例は、第一および第二実施例を組合せた変形例である。キー34は、第二実施例のように刻みを段違いの二列に形成し、かつ第一実施例のように二列の刻みを軸線と回転対称に形成してある。第8図図示のキー34において、35aはガイド面で、35b,35cが刻みであり、これらは段違に形成されると共に、軸線を軸として回転対称に形成されている。
ロータケース60およびロータ62の基本的構成は、第1図図示のロータケース10およびロータ12と同様である。ロータケース60に回動自在に装着されたロータ62には、キーガイド面64a、64bを有するキー挿入穴64が形成されている。
ロータ62には、その回動軸心と直交する断面位置(第7図)において、ロータ62に連通し、かつロータ62を貫通するタンブラ収納孔66、68が軸方向に位置を異らせて複数形成されている。つまり、タンブラ収納孔66、68は、それぞれキー挿入穴64に沿ってキー34の刻み35b,35cのピッチ、数に応じた所定間隔でそれぞれ複数形成されている。
タンブラ収納孔66、68には、それぞれタンブラ70、72が収納され、タンブラ収納孔66、68の上下開口端と対向するロータケース60の内壁には、タンブラ70、72がそれぞれ嵌入するロック溝61、…、61が形成されている。
各タンブラ70、72は、タンブラ収納孔66、68内に収納された解錠位置において、それぞれ両端がロータ62の外周面と同一面内に収まる形状に形成されている(第7図参照)。
タンブラ70、72の対向面には、それぞれ段部71、73が形成され、この両段部71、73とキーガイド面64a,64bによって形成される空間を通してキー34の出し入れが行なわれる。
また、各タンブラ70、72の外側には、それぞれ下端または上端がロック溝61に嵌入するように、タンブラ70、72をそれぞれ移動付勢する圧縮ばね74、74が装着されている。そして、タンブラ70、72は、常時一端がロック溝61内に嵌入した施錠位置に弾性的に保持されている。
左タンブラ70は段部71が下方に、右タンブラ72は段部73が上方にそれぞれ配置され、それぞれの段部71、73がキー34の刻み35b、35cと係接する係接面を構成している。この段部71、73は、キー挿入穴64に挿入されたキーの下または上の刻みとそれぞれ係接し、タンブラ70、72をそれぞれ圧縮ばね74に抗して相反する方向に移動、つまり、下降または上昇させる。
したがって、キーが所定のキー34であれば、すべてのタンブラ70、72がロック溝61から抜け出て解錠位置であるタンブラ収納孔66、68内にぴったり収まるので、ロータ62の回動が許容され、解錠できる。
しかし、キーが所定のキー34でない場合には、少なくともあるタンブラ70、72は下端がロック溝61内に嵌入し、またあるタンブラ70、72は上端がロック溝61内に嵌入するので、ロータ62の回動が阻止され、解錠できない。
このように第三実施例は、タンブラ数が従来のシリンダ錠のタンブラ数の2倍となり、しかも相反する二方向に突出するタンブラを有するので、ピッキングがより困難となる。また、キーの二列の刻みをそれぞれ独自に設定できるので、刻みの組合せが増加し、同一キーの出現する確率が低くなる。」(同書13頁19行?17頁11行)
(1d)そして,第7,9図から,ロータ62において,複数のタンブラ収納孔66,68が,その内側をキー挿入穴64に連通し,かつ,キー挿入穴64を挟んで対峙する二つの領域に形成されていることは明らかであり,また,第7,8図から,キー34の上記二つの領域に対向する側面の棚部には,タンブラ70,72の段部71,73に対して,当該タンブラ70,72の付勢方向とは反対方向の他方向から係合する刻み35b,35cが形成されていることは明らかである。

上記(1a)?(1d)の記載及び図面を含む刊行物1全体の記載並びに当業者の技術常識によれば,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「回動軸心に沿ってキー挿入穴64を形成すると共に,このキー挿入穴64を挟んで対峙する二つの領域に,回動軸心と直交する断面位置において内側がキー挿入穴64に連通する複数のタンブラ収納孔66,68を軸方向に位置を異らせて複数形成したロータ62と,このロータ62と回動可能に嵌合するロータケース60と,上記各タンブラ収納孔66,68において,キー挿入穴64に挿入されるキー34の幅方向に移動可能に案内され,圧縮ばね74,74によりそれぞれ移動付勢されると共に,対向面に段部71,73を形成した複数のタンブラ70,72とを有し,各側面を上記二つの領域の何れかの領域に対応させたキー34がキー挿入穴64に挿入され,キー34の二つの領域に対向する側面の棚部に形成された刻み35b,35cが各タンブラ70,72の段部71,73と,上記タンブラ70,72の付勢方向とは反対方向の他方向から係合したとき,各タンブラ70,72の両端がロータ62の外周面と同一面内に収まるようにし,以て,二つの領域に軸方向に位置を異らせて複数のタンブラ収納孔66,68を設けることにより,タンブラ70,72の数を増大させたシリンダ錠。」


2.同じく,上記刊行物2には,シリンダ錠の構造に関して,図面とともに,次の記載がある。
(2a)「第1図および第2図において、スリーブ1の軸方向に穿設された貫孔2に挿通される錠本体3は、中心部にキー4を挿入する断面偏平なキー挿入孔5を有し、このキー挿入孔5の断面長手方向に掛止片挿入孔6が形成されている。
上記掛止片挿入孔6は、錠本体3の軸方向中間部に間隔部7を形成する仕切壁8が突設されており、この仕切壁8により分割された各掛止片挿入孔6,6の長手方向両側壁、6a,6bに、1個の掛止片9の一側部が嵌入される掛止片案内溝10,10……が交互に位相を異にして千鳥状に配設されている。…」(2頁左上欄5?16行)
(2b)「本実施例においては、…キー4を挿入することにより掛止片9がそれぞれ錠本体3の直径方向に滑動するが、各掛止片9の一側が掛止片挿入孔6内の掛止片案内溝10に嵌合していることから、手前側の掛止片9に加わるキーの挿入圧力は案内溝10の側壁面で受けることになつて、後位の掛止片9に対し直接伝わらず、…各掛止片9を軽く滑動させることができる。…」(2頁左下欄20行?右下欄9行)



第3.対比・判断
1.本願発明と刊行物1記載の発明との対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の「回動軸心」が本願発明の「中心軸線」に相当し,以下同様に,「キー挿入穴64」が「鍵孔」に相当し,「回動軸心と直交する断面位置において」が「中心軸線に垂直で」に相当し,「タンブラ収納孔66,68」が「スロット」に相当し,「ロータ62」が「内筒」に相当し,「ロータケース60」が「外筒」に相当し,「キー34」が「鍵」或いは「合鍵」に相当し,「圧縮ばね74,74によりそれぞれ移動付勢され」が「一方向に付勢され」に相当し,「(タンブラ70,72の)対向面」が「(タンブラーの)鍵孔内に臨む内側端縁」に相当し,「段部71,73」が「係止段部」に相当し,「タンブラ70,72」が「タンブラー」に相当し,「(キー34の)刻み35b,35c」が「鍵溝」に相当し,「ロータ62の外周面と同一面内に収まる」が「内筒と外筒との摺動面であるシアーラインに整合する」に相当する。
そして,刊行物1記載の発明の「複数のタンブラ収納孔66,68を軸方向に位置を異らせて複数形成し」と本願発明の「複数のスロットを中心軸線に沿って積層し、かつA、Bの領域毎にピッチをずらせて形成し」とが「複数のスロットを中心軸線に沿って積層して形成し」で共通し,また,刊行物1記載の発明の「二つの領域」と本願発明の「A、B二つの領域」或いは「A、Bの領域」とが「二つの領域」で共通し,さらに,刊行物1記載の発明の「二つの領域に軸方向に位置を異らせて複数のタンブラ収納孔66,68を設ける」と本願発明の「A、B二つの領域の一方における一のスロットとこれに隣接する他のスロットとの間に、対応する他方の領域のスロットを設ける」とが「二つの領域に複数のスロットを設ける」で共通する。

そうすると,両者は,
「中心軸線に沿って鍵孔を形成すると共に,この鍵孔を挟んで対峙する二つの領域に,中心軸線に垂直で内側が鍵孔に連通する複数のスロットを中心軸線に沿って積層して形成した内筒と,この内筒と回動可能に嵌合する外筒と,上記各スロットにおいて,鍵孔に挿入される鍵の幅方向に移動可能に案内され,一方向に付勢されると共に,鍵孔内に臨む内側端縁に係止段部を形成した複数のタンブラーとを有し,各側面を上記二つの領域の何れかの領域に対応させた合鍵が鍵孔に挿入され,合鍵の二つの領域に対向する側面の棚部に形成された鍵溝が,各タンブラーの係止段部と,上記タンブラーの付勢方向とは反対方向の他方向から係合したとき,各タンブラーの両端が内筒と外筒との摺動面であるシアーラインに整合するようにし,以て,二つの領域に複数のスロットを設けることにより,タンブラーの数を増大させたシリンダ錠。」の点で一致し,次の点で相違する。

<相違点>
二つの領域に複数のスロットを中心軸線に沿って積層して形成することについて,
本願発明が,複数のスロットを「A、B二つの領域の一方における一のスロットとこれに隣接する他のスロットとの間に、対応する他方の領域のスロットを設ける」,つまり,複数のスロットを「A、Bの領域毎にピッチをずらせて形成」するのに対して,
刊行物1記載の発明では,複数のスロット(タンブラ収納孔66,68)を二つの領域にそれぞれ軸方向に位置を異らせて形成するものの,それら二つの領域の複数のスロットを領域毎にピッチをずらせて形成するのか定かでない点。


2.相違点の検討
本願発明における上記相違点に係る構成とタンブラーの数を増大させることとの直接的な関連は明細書の記載から定かであるとはいえないが,本願発明において,上記相違点に係る構成を採用することの技術的意義は,明細書の段落【0010】に,「…ピッチをずらせてスロットを形成する理由は、ピッチを同一にするとスロットに挿入される…タンブラーが相互に接触して干渉するのでこれを防ぐためである。」と記載されていることから,タンブラーの数を増大させることにより,タンブラーが相互に接触して干渉することを,当該タンブラーが挿入されるスロットをピッチをずらせて形成するという上記相違点に係る構成を採用することで,防ぐようにしたということにあると解される。

そこで,刊行物2をみると,刊行物2には,錠本体3(本願発明の「内筒」に相当する。以下同様。)におけるキー挿入孔5(鍵孔)の断面長手方向に掛止片9(タンブラー)を挿入する掛止片挿入孔6を形成したシリンダ錠において,各掛止片挿入孔6の長手方向両側壁6a,6b側(鍵孔を挟んで対峙するA、B二つの領域)に掛止片9の一側部が嵌入される掛止片案内溝10(スロット)を交互に位相を異にして千鳥状に配設するようにした発明が記載されており,当該発明において,各掛止片案内溝10は,手前側の掛止片9に加わるキーの挿入圧力を後位の掛止片9に対し直接伝わらないように(上記(2b)の記載を参照。),即ち,掛止片9,9が相互に接触して干渉することを防ぐために,各掛止片9を1個ずつ案内するようにしたものである。
そして,刊行物2に記載のシリンダ錠は,第1図等を参照すると,錠本体3の軸方向に沿って複数の掛止片9が重なるように配置されているものであるから,上記「掛止片案内溝10を交互に位相を異にして千鳥状に配設する」との技術事項を採用することの技術的意義は,掛止片9の数を増大させることにより,掛止片9,9が相互に接触して干渉することを,当該技術事項を採用することで,防ぐようにしたということにあると解されるから,本願発明における上記相違点に係る構成は,シリンダ錠の技術分野において,本願出願前に,公知の技術であったものといえる。

してみると,刊行物1記載の発明に,刊行物2記載の発明の上記技術を採用することが,格別に困難であったとは認められないから,刊行物1記載の発明において,鍵孔(キー挿入穴64)を挟んで対峙する二つの領域にそれぞれ複数のスロット(タンブラ収納孔66,68)を形成するにあたり,刊行物2記載の発明の上記技術を採用し,二つの領域毎にピッチをずらせて形成するようにして,本願発明の上記相違点に係る構成を想到することは,当業者にとって容易にできたことである。


3.作用効果・判断
そして,本願発明の作用効果も,刊行物1,2記載の発明から,当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって,本願発明は,刊行物1,2記載の発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。



第4.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2記載の発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-16 
結審通知日 2011-03-17 
審決日 2011-03-29 
出願番号 特願2000-108339(P2000-108339)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 博之  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 山本 忠博
宮崎 恭
発明の名称 シリンダ錠  
代理人 飯田 岳雄  

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