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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04R |
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管理番号 | 1237012 |
審判番号 | 不服2009-10495 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-06-01 |
確定日 | 2011-05-11 |
事件の表示 | 特願2007- 12355「物理的音声発信特性に符合する全音域単体振動板」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月 7日出願公開、特開2008-182310〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願の手続の経緯は、以下のとおりである。 出願 平成19年 1月23日 拒絶理由通知 平成20年11月 6日 手続補正 平成21年 2月12日 拒絶査定 平成21年 3月 3日 審判請求 平成21年 6月 1日 拒絶理由通知 平成22年 7月30日 手続補正 平成22年11月 2日 第2 本願発明について 1.本願発明の認定 本願の各請求項に係る発明は、平成22年11月2日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1から請求項13までに記載した事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 物理的音声発信特性に符合する全音域単体振動板において、その振動板を結合したスピーカー構造は、 ボイスコイルと、 防塵キャップと、 結合構造と、を含むものであり、これにより、振動板は異なる位置に各種叩解度の材料を採用、その内一端縁から徐々に別の相対する端縁に向けて、材料の構造強度をスムーズな周波数幅で変化させ、高強度構造から徐々に低強度構造へ低減させることにより、全音域の音声発信の要求を満足させることを特徴とする物理的音声発信特性に符合する全音域単体振動板。」 2.当審が通知した拒絶理由の要旨 当審が平成22年7月30日付けで通知した拒絶理由の要旨は、本願発明は、特開平9-187094号公報(以下、「刊行物1」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 3.刊行物1に記載の発明 当審が拒絶の理由に引用した刊行物1には、図面とともに、次の(1)?(5)の事項が記載されている。なお、下線は当審において付したものである。 (1) 「【0009】そこで、本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、広い周波数帯域について該コーン紙における内部損失が充分なものとなされ、広い周波数帯域について良好な音響再生が行えるようになされたスピーカ装置の提供という課題を解決しようとするものである。」 (2) 「【0019】上記コーン紙1,2は、略々円錐形状のコーン部と、このコーン部の中央部の透孔を閉蓋する状態に該コーン部に取付けられたドーム形状のキャップ5とから構成されている。上記エッジ3には、上記コーン部の周囲部分が接合されている。 【0020】上記コーン紙1,2の中央部分には、後方側に向けて、ボビンが取付けられている。このボビンは、円筒状に形成され、前端部を上記コーン紙1,2の中央部に対して取付けられている。 ・・・(中略)・・・ 【0022】そして、上記ボビンの外周面部には、ボイスコイル8が接着されている。このボイスコイル8は、錦糸線(引き出し線)14を有して、巻回されて円筒状に形成されている。上記錦糸線14は、上記フレーム6に支持部材を介して設けられた入力端子15に接続される。 ・・・(中略)・・・ 【0025】ところで、上記コーン紙1、2は、上記ボイスコイル8の近傍となる内周部より外周部側に向けて連なる略々同心円状の複数の部分に分割されている。すなわち、このコーン紙1,2は、上記ボビンが取付けられる中央部分を構成する内周コーン紙1と、この内周コーン紙1の外周縁側にこの内周コーン紙1に連設される円環形状の外周コーン紙2とから構成されている。 【0026】そして、上記コーン紙1,2を構成する各部分は、内周側の部分が外周側の部分よりも内部音速が早くなされている。すなわち、上記内周コーン紙1を形成する材料は、上記外周コーン紙2を形成する材料よりも、内部音速が早くなされている。内部音速が早いということは、ヤング率をEとし、密度をρとしたとき、√(E/ρ)が大きいということである。 【0027】このように、上記コーン紙1,2を構成する材料の内周側の部分を外周側の部分よりも内部音速を早くするには、これら各部分を、互いに異なる材料、または、互いに異なる叩解度のパルプにより形成することによって実現できる。」 (3) 「【0036】このようにして、上記金網18の中央部分(内周部分)に上記内周コーン紙1を形成するパルプ25が堆積され、該金網18の外周部分に上記外周コーン紙2を形成するパルプ23が堆積される。これらパルプ25,23は、上記金網18の中心部を中心とする円状の境界を介して接触している。これら各パルプ25,23は、上記境界においては、濡れた状態で互いに繊維を絡ませ合っている。 【0037】・・・(中略)・・・この成形型29は、図4中矢印Dで示すように、上記突起部30を上記金網18の形成する凹部内に嵌合させることにより、この金網18と共働して上記各パルプ25,23を挟んで加圧する。このとき、上記各パルプ25,23は、上記境界において、互いの繊維を絡ませ合ったまま互いに接合される。 【0038】そして、上記各パルプ25,23は、図5に示すように、略々上記コーン紙として形成される。そして、このコーン紙は、周縁部分31及び中央部分32を切除され、図6に示すように、所定形状のコーン紙1,2となる。」 (4) 「【0040】なお、このスピーカ装置におけるコーン紙は、図11に示すように、内周側より外周側に向けて3箇所の部分34,35,36に分割されたものとしてもよい。さらに、このスピーカ装置におけるコーン紙は、内周側より外周側に向けて4箇所以上の部分に分割されたものとしてもよい。【0041】これらの場合においても、上記コーン紙は、外周側より、順次、異なる材料、または、叩解度の異なるパルプにより抄紙されて形成され、内周側の部分が外周側の部分よりも内部音速が早くなされて形成される。」 (5) 「【0044】 【実施例】上述の如き構成を有する本発明に係るスピーカ装置を作成し、図10に示すように、50Hz乃至20000Hz以上に亘る周波数特性を測定した。」 以上を総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「円錐形状のコーン部と、上記コーン部の中央部の透孔を閉蓋する状態に該コーン部に取り付けられたドーム形状のキャップ5とから構成されたコーン紙1、2と、外周面部にボイスコイル8が接着され、上記コーン紙1、2の中央部に取り付けられたボビンとを有し、 上記コーン紙1、2は、中央部分を構成する内周コーン紙1と、上記内周コーン紙1の外周縁側の外周コーン紙2とから構成されており、上記内周コーン紙1と上記外周コーン紙2とは、互いに異なる叩解度のパルプにより形成されたものであって、上記内周コーン紙1を形成する材料は、上記外周コーン紙2を形成する材料よりも内部音速が早くなるようになされているものであり、ここで内部音速が早いということは、ヤング率をEとし、密度をρとしたとき、√(E/ρ)が大きいということであるものであり、 上記互いに異なる叩解度の各パルプは、境界において、互いの繊維を絡ませ合ったままに接合されるものであり、 上記コーン紙は、上記のように、内周側より外周側に向けて2箇所に分割されたものでも、また、3箇所に分割されたものでもよく、さらには、4箇所以上に分割されたものでもよいものであり、 50Hz乃至20000Hz以上に亘る周波数が測定対象となる周波数特性を備えたコーン紙。」 3.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明は、コーン紙が複数に分割されているものの、上記コーン紙を形成するパルプが、分割の境界において、互いの繊維を絡ませたままに接合されるものであるから、「単体振動板」ということができる。 また、50Hz乃至20000Hzに亘る周波数は、スピーカ分野において、人間のほぼ可聴領域をカバーするものであって、「全音域」ということができるから、50Hz乃至20000Hz以上に亘る周波数が測定対象となる周波数特性を備えたコーン紙である引用発明は、「全音域単体振動板」であるということができる。 そして、本願明細書の段落【0001】には、「単体振動板が高音、中音、低音の音質に関する全音域音声発信の要求を満たす『物理的音声発信特性に符合する全音域単体振動板』」と記されている一方、引用発明は、50Hz乃至20000Hz以上という低音、中音、高音に亘る音声発信をするものであるから、引用発明は、「物理的音声発信特性に符号する全音域単体振動板」であるということができる。 引用発明の「ドーム形状のキャップ5」は、「コーン部の中央部の透孔を閉蓋する」ものであるから、防塵の機能を有するものであって、本願発明の「防塵キャップ」に相当する。 そして、コーン紙とボイスコイルと防塵キャップとは、互いに接着ないしは取り付けられたものであるから、結合構造により結合されているということができる。 そうすると、引用発明は、「振動板を結合したスピーカ構造は、ボイスコイルと、防塵キャップと、結合構造とを含む」ものであるといえる。 引用発明は、内周コーン紙と外周コーン紙とで叩解度を異ならせるものであって、内周側のコーン紙は外周側のコーン紙よりも内部音速が早い材料で形成されているものであり、内部音速が早いということは、ヤング率をEとし、密度をρとしたとき、√(E/ρ)が大きいということであるものであって、すなわち、材料の強度が高いものであるから、本願発明と引用発明とは、“振動板には、異なる位置に叩解度の異なる材料が採用され、その内一端縁から徐々に別の相対する端縁に向けて、材料の構造強度が変化するもの”であって、高強度構造から徐々に低強度構造へ低減させるものである点で一致する。 また、上記したように、引用発明は、50Hz乃至20000Hz以上という低音、中音、高音に亘る音声発信をするものであるから、「全音域の音声発信の要求を満足させる」ものであるということができる。 したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し相違する。 <一致点> 「物理的音声発信特性に符合する全音域単体振動板において、その振動板を結合したスピーカー構造は、 ボイスコイルと、 防塵キャップと、 結合構造と、を含むものであり、これにより、振動板は異なる位置に各種叩解度の材料を採用、その内一端縁から徐々に別の相対する端縁に向けて、材料の構造強度を変化させ、高強度構造から徐々に低強度構造へ低減させることにより、全音域の音声発信の要求を満足させることを特徴とする物理的音声発信特性に符合する全音域単体振動板。」である点。 <相違点> 本願発明は、振動板の材料の構造強度を「スムーズな周波数幅」で変化させているのに対して、 引用発明は、振動板の材料の構造強度を「スムーズな周波数幅」で変化させているものではない点。 4.相違点に対する判断 引用発明の振動板は、内周側より外周側に向けて2箇所に分割されたものでも、また、3箇所に分割されたものでもよく、さらには、4箇所以上に分割されたものでもよいものであるから、製造工数が増えることをいとわなければ、分割数をどのようにでも増やし得るものであり、分割数を増やせば、振動板の構造強度の変化の度合いが小さくなることは明らかである。 ここで、仮に、構造強度がステップ的に変化するものであるならば、ボイスコイルによって駆動されて発生する振動板の機械振動は、構造強度がステップ的に変化する境界において反射を伴うものであるから、当業者であれば、そのような反射を抑制するために、なだらかな変化を求めることは、技術常識である。 また、引用発明の振動板の各領域を形成する各パルプは、境界において、互いの繊維を絡ませ合ったままに接合されるものであるから、そもそも、構造強度は、ステップ的に変化するものではなく、緩やかな変化でもって構造強度が変わるものである。 それらを踏まえると、引用発明において、振動板の材料の構造強度をステップ的に変化させるのではなく、スムーズな周波数幅で変化させるようにすることに格別な困難性があるとすることはできない。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-12-01 |
結審通知日 | 2010-12-07 |
審決日 | 2010-12-21 |
出願番号 | 特願2007-12355(P2007-12355) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04R)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 新川 圭二 |
特許庁審判長 |
吉村 博之 |
特許庁審判官 |
千葉 輝久 溝本 安展 |
発明の名称 | 物理的音声発信特性に符合する全音域単体振動板 |
代理人 | 竹本 松司 |
代理人 | 杉山 秀雄 |
代理人 | 湯田 浩一 |
代理人 | 魚住 高博 |
代理人 | 手島 直彦 |
代理人 | 白石 光男 |