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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63H
管理番号 1237278
審判番号 不服2009-13707  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-31 
確定日 2011-05-19 
事件の表示 特願2004-503341号「プロぺラ軸」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月20日国際公開、WO03/95302、平成17年 8月18日国内公表、特表2005-524576号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、2003年(平成15年) 5月 7日(パリ条約による優先権主張 2002年(平成14年) 5月 8日、ノルウェー王国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年 3月24日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年 7月31日付けで本件審判請求がなされた。
一方、当審においても平成22年 4月12日付けで拒絶理由を通知し、これに対して、応答期間内である平成22年10月20日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたところである。
そして、この出願の請求項1?12に係る発明は、上記平成22年10月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
底面に接する実質的に水平なベース平面(6)と、中央長手方向に沿って延長する実質的に垂直な中心平面(7)を有する船殻(2)を有し、少なくとも1基のエンジン(3)と、少なくとも2本のプロぺラ軸(4)と、少なくとも2つのプロぺラ(5)から成る推進システムを備えた航洋排水型船舶(1)のためのプロぺラ軸配構であって、
前記各プロぺラ軸(4)を囲うスケグ(8)が設けられており、
前記各プロぺラ軸(4)は、前記ベース平面(6)からのプロぺラ軸(4)の離間距離が前記プロぺラ(5)から前記エンジン(3)に向かって前方方向に漸増するようにベース平面(6)に対して角度αをなして配置され、
前記プロぺラ軸(4)の少なくとも1つは、前記中心平面(7)からのプロぺラ軸(4)の離間距離がプロぺラ(5)からエンジン(3)に向かって前方方向に漸増するように中心平面(7)に対して角度βをなして配置されていることを特徴とするプロぺラ軸配構。」

2.引用例とその記載事項
平成22年 4月12日付け拒絶理由通知で引用した本願の優先権主張日より前に頒布された刊行物である特開昭49-111389号公報(以下「引用例1」という。)には、「双船尾船」に関し、図面とともに以下の事項(ア)?(キ)が記載又は示されている。

(ア)「本発明は、双船尾船に関し、特にバトツクフロー船型の長所を採り入れるようにした双船尾船に関する。
バトツクフロー船型は、肥大船において船尾部分から発生する渦をなくすことにより粘性抵抗を減少させ、これによつて推進性能を向上させる目的で開発された船型である。」(公報第1ページ右下欄第6行?第12行)

(イ)「上述の如く2軸バトツクフロー船型は、バトツクフロー船型本来の粘性抵抗の減少に加え、ボツシングやフイレツト抵抗の減少も達成されるなど種々の長所をそなえているが、これを特に超大型2軸船に適用しようとすると、次のような問題点がある。」(公報第2ページ右上欄第4行?第9行)

(ウ)「本発明は、双船尾船の船底に波浪衝撃を蒙ることなく、しかも機関室長さをできるだけ短縮して経済性を向上させ得るようにした双船尾船を提供することを目的とする。
このため本発明の双船尾船は、船尾部の左右船側面の間隔が後方に向かつて狭くなるとともに、同船尾部の外側部底面および中央のトンネル部の船底面が共に後方上りに傾斜し、船体中心面に関し左右対称に一対のプロペラをそなえ、各プロペラの前方にはプロペラ軸を囲むスケグが形成されて、これらのスケグの間に上記トンネル部が形成された双船尾船において、船体中心面に垂直な横断面と、上記外側部底面および上記トンネル部の船底面との各交線がほぼ水平で、上記横断面と上記船側面との交線がほぼ鉛直であり、船体後方より見たとき上記船側面と上記外側部底面との交線、上記外側部底面と上記スケグの外側面との交線および上記トンネル部の底面と上記スケグの内側面との交線がそれぞれ直線状を呈すると共に、これらの交線が船体中心面上の一点で交叉し、左右のプロペラ軸は船尾に向かつてその間隔が縮小するように配置され、且つ左右のスケグの中にそれぞれ左右のプロペラを駆動する主機を収容したことを特徴としている。
上述の本発明の双船尾船によれば双船尾部にバドツクフロー船尾が適用されるので、トンネル部船底の傾斜の増大による船尾船底(トンネル部)の波浪衝撃を大幅に軽減することができる。
すなわち船底の切り上げと船尾幅の減少とを共に行なう結果、船底の切り上げ角が大きいにも拘わらず、剥離が発生せず、粘性抵抗が小さくなつて、トンネル部船底の切り上げ角の増大をはかることができる。
またスケグ(船尾部材)の配置により、プロペラ軸が後閉じの状態になつているので、操縦性能の向上すなわちプロペラ推力による旋回モーメントの増大をはかることができる。
更にスケグの幅が前広がり傾向となつていることを利用して、この部分に主機が収容されるので、機関室の長さを短縮することができ、これにより船内の積荷容積を増大させ得る利点がある。」(公報第3ページ右上欄第7行?右下欄第10行)

(エ)「次に図面により本発明の実施例について説明すると、第6?9図は本発明の第1実施例としての双船尾船を示すもので、第6図はその船尾部縦断面図、第7図はその船尾部背面線図、第8図はその船尾部底面図、第9図はその上面図(平面図)である。
これらの図に示すように、船尾部船体1において外側船底面2a,2bとスケグ9a,9bの外側面の交線6a,6bおよびトンネル部船底面2cとスケグ9a、9bの内側面との交線7a,7bが、それぞれ船尾より見てほぼ直線をなしており、同じく船尾より見てほぼ直線をなす船底面と外側船底面との交線4a,4bと共に、一点5で交わつている。
また左右のスケグ9a,9bは船首に行くに従つて両側へ開き、かつ先広がりの形状となつており、各スケグ9a,9bの中に主機13a,13bが収容されている。
船体中心面17に関して左右対称に設けられた一対のプロペラ8a,8bの各プロペラ軸22a,22bは、船首に向かつて広がる配置すなわち船尾に向つて閉じる配置となつており、船体中心面17と角Ψ_(1)をなしている。
主機13a、13bとして一応デイーゼルエンヂンの形状が図示されているが、特に限定はなく、・・・。
船尾船底特にトンネル部船底の傾斜角はバトツクフロー船型の船尾と同様に15?20度或いはそれより大きい角度とし、船尾船底の波浪衝撃を軽減し得るに足る角度とする。
船尾部材すなわちスケグ9a、9bは第7図に示すものでは各外側面および内側面がほぼ垂直で、底面はほぼ水平となり、その間を円弧で結んだ形状となつているが、この部分の形状は外側船底面2a,2bおよびトンネル部船底面2cに沿つて上昇する流れを乱さない限り、必らずしもこれにこだわる必要はない。」(公報第3ページ右下欄第11行?第4ページ右上欄第11行)

(オ)「バトツクフロー船型では船尾底面が切り上ると共に船幅も縮小するため、水流の船尾に対する供給が充分で、船尾底面の切り上げ角が大きくなつているにもかかわらず、水流の剥離が生じない長所をもつているが、この長所が本発明の双船尾船型においては十分に利用されており、そのトンネル部は船尾切り上げと共に、トンネル幅が縮小するため、船尾船底の切り上げ角が大きいにも拘わらず、トンネル部の前後方向の断面積変化を少なくすることができる。その結果船尾船底の波浪衝撃が少なくなり、かつ平水中の推進性能の良好な双船尾船型が得られるのである。」(第4ページ左下欄第15行?右下欄第7行)

(カ)「第10?12図は本発明の第2実施例としての双船尾船を示すもので、第10図はその船尾部側面図、第11図はその船尾部背面線図、第12図はその船尾部底面図である。
・・・
前述の第1実施例では舵が2個設けられているのに対して、この第2実施例では、船体中心面17上に配置された1個の吊下げ型舵10をそなえており、他の部分については構造が同じで、全体として第1実施例の場合とほぼ同様の作用効果が得られる。
一般に超大型船においては方向安定性能が低下する傾向にあり、2軸1舵船においては特にその傾向が著るしいが、方向安定性を向上させるためにはこれに近接2軸1舵方式を適用することが望ましい。
すなわち左右のプロペラの相互間隔をl、プロペラ直径をD、舵の厚みをtとするとき、
D+t≧l≧D
となるように各プロペラ8a,8bを配置する。(第12図参照)
この場合プロペラ軸船22aが後閉じとなつているため、舵10の性能は小舵角においても、プロペラ後流内に舵がある1軸1舵船と同様の効果を期待することができる。」(第4ページ右下欄第19行?第5ページ右上欄第7行)

(キ)第6図?第8図から、「底面に接する実質的に水平な平面と、中央長手方向に沿って延長する実質的に垂直な船体中心面17を有する船体1」が看取できる。

これらの記載からみて、上記引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「底面に接する実質的に水平な平面と、中央長手方向に沿って延長する実質的に垂直な船体中心面17を有する船体1を有し、2基のデイーゼルエンヂンと、2本のプロペラ軸22a、22bと、2つのプロペラ8a、8bを備えた双船尾船のプロペラ軸の配置であって、
前記各プロペラ軸22a、22bを囲むスケグ9a、9bが形成されており、
前記各プロペラ軸22a、22bは、船首に向かって広がるように船体中心面17と角Ψ_(1)をなして配置されているプロペラ軸の配置」

平成22年 4月12日付け拒絶理由通知で引用した本願の優先権主張日より前に頒布された刊行物である実願平3-43241号(実開平4-127098号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、「2機・2軸船における減速機の取付け構造」に関し、図面とともに以下の事項(ク)が記載されている。

(ク)「【0002】
【従来の技術】
一般に、2台のエンジンが搭載されると共に各エンジン毎にプロペラ軸が接続された、いわゆる2機・2軸船では、図2,図3に示すように、エンジン1が後側を下方に向かう傾斜状に船舶10に機関台4を介して搭載され、エンジン1に減速機3を介して接続されるプロペラ軸7も後端側を下向きの傾斜状に船底部5を貫通して配設されている。・・・」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「プロペラ軸の配置」は本願発明の「プロペラ軸配構」に相当し、以下同様に、「平面」は「ベース平面」に、「船体中心面17」は「中心平面」に、「船体1」は「船殻」に、「デイーゼルエンヂン」は「エンジン」にそれぞれ相当する。
また、本願発明の「少なくとも1基のエンジンと、少なくとも2本のプロぺラ軸と、少なくとも2つのプロぺラから成る推進システムを備えた航洋排水型船舶のためのプロペラ軸配構」と、引用発明の「2基のデイーゼルエンヂンと、2本のプロペラ軸22a、22bと、2つのプロペラ8a、8bを備えた双船尾船のプロペラ軸の配置」は、「少なくとも1基のエンジンと、少なくとも2本のプロぺラ軸と、少なくとも2つのプロぺラから成る推進システムを備えた船舶のためのプロペラ軸配構」である限りにおいて共通し、そして、引用発明の「前記各プロペラ軸22a、22bを囲むスケグ9a、9bが形成されており」は、本願発明の「前記各プロぺラ軸を囲うスケグが設けられており」に相当し、さらに、引用発明の「前記各プロペラ軸22a、22bは、船首に向かって広がるように船体中心面17と角Ψ_(1)をなして配置されている」は、本願発明の「前記プロぺラ軸の少なくとも1つは、前記中心平面からのプロぺラ軸の離間距離がプロぺラからエンジンに向かって前方方向に漸増するように中心平面に対して角度βをなして配置されている」に相当する。
そうすると、両者は、
「底面に接する実質的に水平なベース平面と、中央長手方向に沿って延長する実質的に垂直な中心平面を有する船殻を有し、少なくとも1基のエンジンと、少なくとも2本のプロペラ軸と、少なくとも2つのプロペラから成る推進システムを備えた船舶のためのプロペラ軸配構であって、
前記各プロペラ軸を囲うスケグが設けられており、
前記プロぺラ軸の少なくとも1つは、前記中心平面からのプロぺラ軸の離間距離がプロぺラからエンジンに向かって前方方向に漸増するように中心平面に対して角度βをなして配置されているプロペラ軸配構」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

<相違点1>
プロペラ軸配構の対象となる船舶が、本願発明では、「航洋排水型船舶」であるのに対して、引用発明では、「双船尾船」である点。

<相違点2>
本願発明では、「各プロぺラ軸は、ベース平面からのプロぺラ軸の離間距離がプロぺラからエンジンに向かって前方方向に漸増するようにベース平面に対して角度αをなして配置され」ているのに対して、引用発明では、そのような構成を備えていない点。

4.相違点の検討・当審の判断
<相違点1>について
引用発明は、摘記事項(イ)、(カ)により超大型船にも適用されることが示唆されているから、引用発明において、超大型船としては周知の航洋排水型船舶とすることに格別の困難性はない。

<相違点2>
上記引用例2には、摘記事項(ク)と図2,図3からみて、
「2台のエンジンが搭載されると共に各エンジン毎にプロペラ軸が接続された2機・2軸船において、エンジンに接続されるプロペラ軸7を後端側を下向きの傾斜状に船底部を貫通して配設されたもの」が記載されているものと認められる。
してみれば、引用発明及び引用例2に記載された事項は、いずれも2機・2軸の船舶のプロペラ軸の配設構造に関するものである点で共通していることから、引用発明の実質的に水平な平面(ベース平面)とプロペラ軸の配置関係に引用例2に記載された事項の船底部に対して傾斜したプロペラ軸の配置関係を対応させて適用することにより、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、上記相違点1,2を併せ備える本願発明の作用効果について検討してみても、引用発明、上記引用例2に記載された事項から予測されるものであって、格別のものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-06 
結審通知日 2010-12-14 
審決日 2010-12-27 
出願番号 特願2004-503341(P2004-503341)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 友也  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 藤井 昇
田口 傑
発明の名称 プロぺラ軸  
代理人 飯田 伸行  

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