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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B64C
管理番号 1237287
審判番号 不服2009-22707  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-20 
確定日 2011-05-19 
事件の表示 特願2004-523217号「回転物体用の弱光レベル照明」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日国際公開、WO2004/009723、平成17年11月10日国内公表、特表2005-533716号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、2003年(平成15年) 7月22日(パリ条約による優先権主張 2002年(平成14年) 7月22日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年 7月10日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年11月20日に本件審判請求がなされた。
一方、当審において、平成22年 6月24日付けで拒絶理由を通知し、これに対して、応答期間内である平成22年10月26日に意見書が提出されたところである。
そして、この出願の請求項1?15に係る発明は、平成21年 3月 5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
ロータリーブレードを照明する方法であって、
ロータリーブレードに、プライマー層、次いで受動的にチャージされるフォトルミネセンス塗料を付与する工程を包含し、
活性化されると、該フォトルミネセンス塗料が、少なくとも5時間半発光する、方法。」

2.引用例とその記載事項
当審における平成22年 6月24日付け拒絶理由通知で引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平7-12661号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項(ア)?(ウ)が記載されている。

(ア)「【0021】この発明に従って塗装される物体は、表面圧力が測定または可視されることが望まれるものであれば何でも可能である。好ましくは、その物体は何らかの空力的適用を有するものであり、すべての型の翼、ロータ(たとえばヘリコプタの)、プロペラ、固定翼、タービン羽根、ナセル、全航空機および他のモデルにしにくい表面、ミサイルならびにその他同種類のものを含むであろう。

(イ)「【0031】偶然に、もし上述のルミネセンス膜で塗装される物体の表面がまず白色にされれば、発光ルミネセンスはもし表面が白色以外、たとえば黒色表面である場合より明るいことが発見された。実際に、ルミネセンスは膜が黒色表面を覆う場合はほとんど検出不可能である。動作の特定の理論に縛られることを望むものではないが、発明者は白色背景は反射表面を与え、それから非吸収された励起光はセンサを含む膜の中に散乱することが可能であると信じる。したがって、光はセンサ分子を励起する第2の機会を有する。増強効果は非常に大きく、光子の多くは膜の総内面反射特性のために膜を介する多数の通過を行なうと考えられる。センサからの発光もまた白色表面から散乱するので、検出器はより大きい信号を検出することが可能である。
【0032】裏塗りのための白色被覆の型の選択は重要である。いくつかの白色コーティングは空気および紫外線に延長して露光されると黒ずむことが観察されてきた。いくつかのコーティングは、ルミネセンス膜によって覆われると、励起光によるか、またはルミネセンス種(たとえばポルフィリン)との酸素の光化学作用で生み出された1重項酸素によるかのどちらかによって劣化されやすい。したがって、白色被覆は励起光に無感応であるべきであり、および/または1重項酸素消光剤が被覆に加えられるべきである。」

(ウ)「【0043】この発明の方法を実行するために、この発明に従うコーティング組成(つまり塗料)は上に説明された物体の表面上に塗装され、それから物体はコーティングに含まれたセンサの各々を励起する光の1つ以上の波長で照射される。励起または発光波長がセンサ毎に異なることは必要ではない。実際に、ある状況下ではコーティングに含まれるセンサの各々に対して共通の励起または発光波長を有することは好ましいかもしれない。しかしながら、共通の励起波長があれば、異なったセンサの発光波長は異なり、かつ別々に測定されるように適切に別個の最大値(たとえば20nm)を有しなければならない。代替的に、共通発光波長があれば、異なったセンサの励起波長は異なり、かつ適切に別個の最大値を有しなければならない。
【0044】好ましい実施例において、発光ルミネセンスは異なり、一定照度の間ビデオのような、検出装置の前で異なった干渉フィルタを回転することによって別々に測定される。その回転をコーティングのフラッシュ照明励起と調整することは代替の例を提供するかもしれないので、その結果ルミネセンスの各々の画像は異なったフラッシュでとることが可能である。フラッシュ照明の状況下で、フラッシュ毎に強度にいくらかの変動があるかもしれない。この場合に、システムはこれらの変動を補償するようにフラッシュから光の幾分かを受信することを検出器に許容するべきである。たとえば、光の幾分かを受信するフォトダイオードモニタはフラッシュ強度の変動性という問題を最小限にするために使用されるかもしれない。
【0045】
【画像捕捉および解析】その最も広い形態において、この発明は表面上の少なくとも1つのセンサのルミネセンスを検出し、次にそれを物体の表面上の圧力に関連させることができるようにルミネセンスの強度の測定を処理することによって表面上の圧力測定値を提供する。
【0046】一般に、圧力を測定するために使用される装置は、酸素含有気体が膜と接触している間膜の中のセンサを励起するための光源、膜に含まれるセンサによって発光されるルミネセンスの各々を検出するための手段および生データを好ましくは上に論じられた理論関係に従って酸素含有気体の圧力に関連づけられる強度の比率に処理するための手段とを含むであろう。」

これらの記載からみて、上記引用例1には、
「ヘリコプタのロータを発光する方法であって、
ヘリコプタのロータに裏塗りとしての反射表面を与える白色被覆後、光源からの光の照射により励起され発光するルミネセンス膜を塗装した、方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

同じく当審における拒絶理由通知で引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-31894号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項(エ)、(オ)が記載されている。

(エ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、蓄光性塗膜形成方法及びこの方法により得られた蓄光性塗装物に関する。」

(オ)「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の構成について詳述する。
【0007】第1の蓄光性塗膜形成方法
本発明の第1の蓄光性塗膜形成方法は、図1に示すように基材(11)上に、蓄光性顔料を含有した蓄光コート層(13)を形成した後、この蓄光コート層上に干渉性顔料を含有した干渉クリヤーコート層(14)を形成し、さらにその上にトップクリヤーコート層(15)を形成するものである。好ましくは、蓄光コート層(13)を形成する前に、淡彩色系ベースコート層(12)を形成しておく。
【0008】基材
上記基材としては、・・・。上記基材に直接または下地塗膜を介して、好ましくは淡彩色系ベースコート層を形成し、蓄光コート層、干渉クリヤーコート層、次いでトップクリヤーコート層を形成するが、塗装された蓄光性塗装物が自動車車体および部品の場合は、予め上記基材に脱脂、化成処理、電着塗装または各種プライマー塗装等による下塗り塗装による下地処理、下地塗装を施しておくのが好ましい。」

同じく当審における拒絶理由通知で引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である登録実用新案第3082136号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項(カ)?(ケ)が記載されている。

(カ)「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は一種の運送工具と交通施設に応用される夜間安全表示構造に係り、特に、発光材料の結合を運用した考案であり、発光材料の、夜間或いは雨天等の視界不良の環境で、光を釈放する特性を利用し、運転をさらに安全とする、安全表示構造に関する。」

(キ)「【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1の考案は、運送工具の外部に露出したパーツ或いは道路標線表面に発光層が設けられ、並びに発光層の表面に一層の発光層磨耗防止の耐磨ワニスが塗布され、該発光層が太陽光、灯光の発生する光エネルギーを吸収し、並びに夜間や暗い時に、吸収したエネルギーを可視光の形式で釈放し、運転時の視界を良好とすることを特徴とする、運送工具と交通施設に応用される夜間安全表示構造としている。
請求項2の考案は、前記発光層が、Al_(2) O_(3) 、SrCO_(3) 、HBO_(3) 、EUを適当な比率で組成してなる結晶体とされたことを特徴とする、請求項1に記載の運送工具と交通施設に応用される夜間安全表示構造としている。
請求項3の考案は、前記発光層に、樹脂、インク、繊維或いは塗料のいずれかが混入されたことを特徴とする、請求項1に記載の運送工具と交通施設に応用される夜間安全表示構造としている。
請求項4の考案は、前記耐磨ワニスが透明シリコン樹脂とされたことを特徴とする、請求項1に記載の運送工具と交通施設に応用される夜間安全表示構造としている。」

(ク)「【0006】
【考案の実施の形態】
上述の目的を達成するため、本考案は一種の運送工具と交通施設に応用される夜間安全表示構造を提供する。それは、夜間に光を発生する特性を有する発光材料を利用し、走行時に更に安全であるようにする。前述の発光材料は、太陽光或いは灯光照射時に、光エネルギーを吸収して蓄積保存し(この過程をトリガと称する)、トリガ停止後に、吸収したエネルギーを相当長い時間内に可視光の形式を以て釈放する。本考案は、運送工具の外部に露出したパーツ(例えばリム、プレート等)或いは道路標線表面に発光材料及びその他の必要な材料で組成された発光層を塗布し、並びに発光材料の表面をさらに一層の発光層の磨耗を防止する耐磨ワニスで被覆する。発光層が太陽光、灯光が発生する光エネルギーを吸収し、並びに夜間や暗い状態で、吸収したエネルギーを可視光の形式で釈放する特性を利用し、夜間や暗い時にセルフ発光することにより、表示の効果を達成し、走行の安全を高める。
【0007】
特に、本考案の運用するのは、トリガ停止後に、いかなるエネルギーも必要とせずに10時間以上もの発光を行える長時間効果の発光材料である。このほか、このような長時間効果の発光材料は、いかなる放射性元素も含まず、環境保護問題を形成しない。」

(ケ)「【0008】
【実施例】
図1は本考案の好ましい実施例の側面断面図である。本考案は運送工具と交通施設に応用される夜間安全表示構造であり、それは運送工具の外部に露出したパーツ10或いは道路標線表面に一層の発光層20を塗布した後に、さらに発光層20の表面に一層の耐磨ワニス30を塗布し、そのうち、発光層20は、Al_(2) O_(3) 、SrCO_(3) 、HBO_(3) 、EUを適当な比率で組成してなる結晶体とされ、完全に放射性物質を含まず、高輝度持久発光特性を有する。耐磨ワニス30は透明シリコン樹脂の類の材料或いはその他の保護膜を形成可能な材料とされ、発光層20が直接外部に露出するのを防止し、発光層20が擦られてその発光効果に影響が出るのを防止する。
【0009】
発光層20の特性は以下のとおりである。
1.発光層の総α比活動度、総β比活性度はいずれも土壌や糧食より小さく、人体に対して安全無害である。
2.発光時間が長い。即ち受光トリガ後に、10時間以上の発光を維持可能で、例えば日中太陽のトリガ後に、夜間から明朝まで発光を持続する。
3.輝度が高い。即ち発光層の開始輝度(トリガ停止後30秒から1分)でリン光材料使用のものの数倍以上の輝度を達成する。
4.熱安定性が良好である。高温500度以下で、本材料の発光性能には影響がなく、且つ温度が低くなるほど発光性能が良好となる。」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ヘリコプタのロータ」は、回転するものであるから、本願発明の「ロータリーブレード」に相当し、引用発明の「発光」は、本願発明の「照明」に相当し、本願発明の「ロータリーブレードに、プライマー層、次いで受動的にチャージされるフォトルミネセンス塗料を付与する工程を包含し」と、引用発明の「へリコプタのロータに裏塗りとしての反射表面を与える白色被覆後、光源からの光の照射により励起され発光するルミネセンス膜を塗装した」とは、「ロータリーブレードに、被覆層、次いで受動的にチャージされるフォトルミネセンス塗料を付与する工程を包含し」ている概念において共通する。
そうすると、両者は、
「ロータリーブレードを照明する方法であって、
ロータリーブレードに、被覆層、次いで受動的にチャージされるフォトルミネセンス塗料を付与する工程を包含した、方法」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

<相違点1>
被覆層が、本願発明では、「プライマー層」であるのに対して、引用発明では、「裏塗りとしての反射表面を与える白色被覆」であり、ロータリーブレードの生地に直接施された「プライマー層」であるか否かが明確でない点。

<相違点2>
本願発明は、「活性化されると、フォトルミネセンス塗料が、少なくとも5時間半発光する」のに対して、引用発明には、そのような言及がない点。

4.相違点の検討・当審の判断
本願発明の課題は、フォトルミネセンス塗料を用いて回転するロータリーブレードを夜間でも視認できるようにして作業員などの危険を防止するためのものであるのに対して、引用発明には、そのような課題についての言及はないが、蓄光部材を用いて回転部材を夜間でも視認できるようにして危険を防止することは、本願出願前に周知の課題である(必要があれば、登録実用新案第3008677号公報の【請求項2】、段落【0015】、特開2001-59238号公報の【請求項1】、【請求項2】、段落【0023】、図3を参照のこと。)。

以下、上記相違点について検討する。
<相違点1>について
上記引用例2には、蓄光コート層を施す前に、下塗り塗装としてプライマー塗装を施すことが記載されており、本願発明でいう相違点1の構成は、引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2>について
活性化されると、蓄光性の塗料が、5時間半以上発光することは、本願の優先権主張の日前に周知の技術であり(必要があれば、特開平10-216296号公報の段落【0014】、登録実用新案第3029703号公報の段落【0002】、【0003】、上記引用例3の摘記事項(ク)、(ケ)を参照のこと)、本願発明でいう相違点2の構成は、上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

そして、上記相違点1、2を併せ備える本願発明の作用効果(特に、地上での事故を防止するが、航空機が探知されにくいロータリーブレードの弱光レベル照明を提供すること。)について検討してみても、引用発明、上記周知の課題、上記引用例2に記載された事項、及び上記周知技術から予測されるものであって、格別のものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明、引用例2に記載された事項、及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-06 
結審通知日 2010-12-14 
審決日 2010-12-27 
出願番号 特願2004-523217(P2004-523217)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B64C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 悟史  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 田口 傑
藤井 昇
発明の名称 回転物体用の弱光レベル照明  
代理人 進藤 卓也  

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