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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1237337
審判番号 不服2010-1384  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-21 
確定日 2011-05-16 
事件の表示 特願2004-149348「アンギュラ玉軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 2日出願公開、特開2005-331026〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成16年5月19日の出願であって、平成21年10月28日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年1月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書及び特許請求の範囲に対する手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成22年7月15日(起案日)付けで審尋がなされ、平成22年9月2日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

【2】平成22年1月21日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年1月21日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に対し、以下のような補正を含むものである。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。

(1)本件補正前の請求項1(平成21年10月16日付け手続補正)
「【請求項1】
内輪と外輪の両軌道面間に、保持器により回転自在に保持された複数の転動体を接触角を持って介在させたアンギュラ玉軸受において、前記内輪または外輪のいずれか一方の軌道面に近接して形成されたカウンタ部は、前記軌道面に隣接し、軸方向に対して所定の角度で傾斜する研磨仕上げの第一のカウンタ面と、その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達し、第一のカウンタ面の傾斜角より大きな傾斜角を持つ第二のカウンタ面とを有することを特徴とするアンギュラ玉軸受。」

(2)本件補正後の請求項1(平成22年1月21日付け手続補正)
「【請求項1】
内輪と外輪の両軌道面間に、保持器により回転自在に保持された複数の転動体を接触角を持って介在させたアンギュラ玉軸受において、前記内輪または外輪のいずれか一方の軌道面に近接して形成されたカウンタ部は、前記軌道面に隣接し、軸方向に対して傾斜角αを持つ研磨仕上げの第一のカウンタ面と、その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達し、第一のカウンタ面の傾斜角αより大きな傾斜角を持つ旋削仕上げの第二のカウンタ面とを有することを特徴とするアンギュラ玉軸受。」

2.補正の適否

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項について、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0015】、【0017】、及び図3の記載に基づき、本件補正前の「軸方向に対して所定の角度で傾斜する研磨仕上げの第一のカウンタ面」及び「傾斜角」を「軸方向に対して傾斜角αを持つ研磨仕上げの第一のカウンタ面」及び「傾斜角α」と限定し、同じく「第二のカウンタ面」を「旋削仕上げの第二のカウンタ面」と限定するものである。
すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
以上のとおり、上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明について

3-1.本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「【2】1.(2)」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

3-2.特許法第29条第2項の規定についての検討

3-2-1.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:特開2001-193745号公報

[刊行物1]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1(特開2001-193745号公報)には、「車輪軸受装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車の車輪を支持するための車輪軸受装置、より詳しくは、車輪軸受と等速自在継手をユニット化した、駆動車輪用の車輪軸受装置に関する。」

(イ)「【0005】これに関し、たとえば実願昭63-180721号公報には、図6(A)に示すように、ケージ8に内径側に突出した突起8aを設け、この突起8aを内輪9に設けた溝9aにはめこみ、搬送時のばらけ防止を図る技術が示されている。また、玉軸受一般としては、図6(B)に示すように、肩おとし内輪aの溝底近傍に凸部a2を設けて内輪a同士を非分離とすることが知られている。しかし、従来、軌道面a1、凸部a2、小端面a3を別々に研削していたため、次のような問題が存在した。
【0006】すなわち、軌道面a1の溝底径d1と凸部a2の外径d2との半径差δが内輪aを軸方向へ組み立てる時のかち込み代となるが、このかち込み代の公差は溝底径d1の公差と凸部外径d2の公差が累積したものとなるため、かち込み代δの公差は数十μmは必要であった。したがって、かち込み代δのばらつきが大きすぎてかち込み時にボールbに圧痕をつけてしまう可能性が大きい。それゆえ、外輪cを加熱することによりボール内接円径を大きくして内輪aを組み込む必要があった。・・・」

(ウ)「【0007】そこで、本発明の目的は、従来の車輪軸受装置の上記問題点を解消し、かち込み代の設定を一定に保つことが可能で、初期すきま設定を極小化して予圧ばらつきを抑えることができる車輪軸受装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、内周に複列の軌道面を有し、車体に取り付けられる外方部材と、車輪取付けフランジを有し、前記外方部材との間に複列のボールを介在させて回転自在に支持された内方部材とからなり、前記内方部材が軌道面の溝底近傍に前記ボールの内接円径よりも大径の凸部を有し、かつ、前記内方部材の軌道面と凸部外周面と小端面を同時研削することによって前記内方部材の軌道面の溝底径と凸部の外径との半径差および軌道面の溝底から小端面までの芯差が所定の規格値内に規制されていることを特徴とする車輪軸受装置である。
【0009】軌道面と凸部外周面と小端面の同時研削により、工数が削減できるばかりでなく、公差のばらつきが小さく抑えられるので予圧ばらつき範囲を小さくできる。さらに、軌道面と凸部外周面と小端面に加えて、内輪の場合は肩、ハブ輪の場合はシールランドも同時研削することができる(請求項5、請求項6)。それにより、ハブ輪のシールランドあるいは内輪の肩の外周面が円周方向に走るリード目のない研削面となるため、シール性の向上が望める。」

(エ)「【0012】
【発明の実施の形態】まず、図2および図3に従って車輪軸受装置の構成を説明すると、この車輪軸受装置は車輪軸受と等速自在継手とからなり、車輪軸受は、外方部材10と、内方部材(30、40)と、両者間に介在する複列のボール20とで構成されている。
【0013】外方部材10は外周にフランジ12を一体に形成してあり、このフランジ12にて懸架装置のナックル68にボルト69で締結される。外方部材10の内周には複列の軌道面14を形成してある。
【0014】内方部材はハブ輪30と内輪40とで構成され、外方部材10の複列の軌道面14に対向する軌道面34,44をハブ輪30と内輪40に配分的に設けてあり、ボール20を介して回転自在に外方部材10に支持される。
【0015】ハブ輪30は、車輪を取り付けるためのフランジ31を外周に一体的に形成し、フランジ31の円周方向等分位置にハブボルト33を植設してある。フランジ31の基端部付近から軌道面34に至る部分はシール64のシールリップが摺接するシールランド32となる。内輪40はハブ輪30とは別体で、軌道溝の肩の一方をおとした肩おとし内輪の形態をしている。」

(オ)「【0020】次に、図1は内方部材(ハブ輪30または内輪40)の軌道面まわりの寸法関係を示す。・・・(中略)・・・。内輪40の場合、軌道面44の溝底径d1と凸部46の外径d2との半径差δがかち込み代である。軌道面44の溝底から小端面48までの距離Lが芯差である。
【0021】図4は内輪40の研削過程を示す。図示するような輪郭の総型砥石70を用いて、内輪40の肩42の外周面、軌道面44、凸部46の外周面、小端面48を同時研削することによって、それぞれの寸法ばらつきを極小にする。このようにすることで、内輪40の軌道面44の溝底径と凸部46の外径との半径差すなわちかち込み代δ、および、軌道面の溝底から小端面までの芯差ともに20μm以下に公差を抑えることが可能になった。アンギュラフィードとすることにより研削性が向上する。・・・」

(カ)図2の部材番号「22」は、発明の詳細な説明に部材の名称が記載されていないが、図6(A)に記載された「ケージ8」からみて、ボール20を回転自在に保持する「ケージ」すなわち「保持器」に相当するものと解される。

(キ)上記記載事項(エ)の段落【0015】及び図1からみて、内輪40は、軌道面44に隣接して肩おとしされた部分を有し、当該肩おとしされた部分は、凸部46、凸部46の斜面、及び小端面48に至る平坦面から構成され、上記記載事項(オ)の段落【0021】及び図4からみて、上記凸部46は総型砥石70によって研削されているが、上記凸部の斜面及び小端面48に至る平坦面は研削されていないものと解される。

そうすると、上記記載事項(ア)?(キ)及び図面の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「内輪40と外方部材10の両軌道面44,14間に、保持器により回転自在に保持されたボール20を介在させた車輪軸受装置において、内輪40は、軌道面44に隣接して肩おとしされた部分を有し、当該肩おとしされた部分は、凸部46、凸部46の斜面、及び小端面48に至る平坦面から構成され、上記凸部46は総型砥石70によって研削されているが、上記凸部の斜面及び小端面48に至る平坦面は研削されていない、車輪軸受装置。」

3-2-2.対比

本願補正発明と引用発明を対比する。
上記刊行物1の図2に記載された車輪軸受装置は、複列の軸受であるが、それぞれの軸受は、単列の軸受としてみるとボール20が軌道面(44)と軌道面(14)に対して接触角をもっているアンギュラ玉軸受の一種であるから、引用発明の「車輪軸受装置」は、その構成からみて、本願補正発明の「アンギュラ玉軸受」に相当するものである。
そうすると、引用発明の「内輪40と外方部材10の両軌道面44,14間」は、その機能からみて、本願補正発明の「内輪と外輪の両軌道面間」に相当し、以下同様に、「保持器により回転自在に保持されたボール20を介在させた」は「保持器により回転自在に保持された複数の転動体を接触角を持って介在させた」に相当する。
また、引用発明の「肩おとしされた部分」は、その機能からみて、本願補正発明の「カウンタ部」に相当するから、「内輪40は、軌道面44に隣接して肩おとしされた部分を有し」は、「前記内輪または外輪のいずれか一方の軌道面に近接して形成されたカウンタ部」に相当する。
さらに、引用発明の「凸部46」は、「総型砥石70によって研削されている」ものであるから、具体的構成は異なるものの、少なくともその機能からみると「研磨仕上げの第一のカウンタ面」に相当し、同様に「凸部46の斜面、及び小端面48に至る平坦面」は、「第二のカウンタ面」といえるものである。
そうすると、引用発明の「凸部46、凸部46の斜面、及び小端面48に至る平坦面から構成され、上記凸部46は総型砥石70によって研削されているが、上記凸部の斜面及び小端面48に至る平坦面は研削されていない」は、本願補正発明の「前記軌道面に隣接し、軸方向に対して傾斜角αを持つ研磨仕上げの第一のカウンタ面と、その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達し、第一のカウンタ面の傾斜角αより大きな傾斜角を持つ旋削仕上げの第二のカウンタ面とを有する」と対比して、少なくとも「前記軌道面に隣接し、研磨仕上げの第一のカウンタ面と、その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達する第二のカウンタ面とを有する」限りにおいて共通するものである。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「内輪と外輪の両軌道面間に、保持器により回転自在に保持された複数の転動体を接触角を持って介在させたアンギュラ玉軸受において、前記内輪または外輪のいずれか一方の軌道面に近接して形成されたカウンタ部は、前記軌道面に隣接し、研磨仕上げの第一のカウンタ面と、その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達する第二のカウンタ面とを有する、アンギュラ玉軸受。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
上記第一のカウンタ面について、本願補正発明は、「軸方向に対して傾斜角αを持つ」のに対し、引用発明は、傾斜しているものか否か明らかではないが、図1からみて平行な平坦面である点。

[相違点2]
第二のカウンタ面について、本願補正発明は、「第一のカウンタ面の傾斜角αより大きな傾斜角を持つ旋削仕上げ」であるのに対し、引用発明は、「凸部46の斜面、及び小端面48に至る平坦面から構成され」、「研削されていない」が、旋削仕上げがなされているか否か明らかではない点。

3-2-3.判断

(1)相違点1について
本願補正発明の第一のカウンタ面が「軸方向に対して傾斜角αを持つ」点について検討するに、アンギュラ玉軸受の軌道面に隣接するカウンタ部に一定の傾斜角を設けることは周知事項(例えば、特開2003-232366号公報の図1、図4のカウンタボア,特開2003-314571号公報の図2の肩部6、及び実願昭63-134695号(実開平2-54925号)のマイクロフィルムの第1?3図のカウンタボア(5)、(6)を参照。)であり、第一のカウンタ面を引用発明のように平行な平坦面にするか、上記周知事項に例示したような何らかの傾斜角を有するものとするかは、カチコミ代との関連においてカウンタ面を具体化する手段の微差にすぎない。
また、本願補正発明の傾斜角αは、特定の角度を見いだしたことによって格別の効果を奏するというものではなく、本願の明細書の段落【0015】の記載にあるように「第一のカウンタ面16,16’の傾斜角は、カチコミ代tを持たせた設計とするために必要な角度として、前述の傾斜角α以下の大きさであればよい。」というものであり、上記周知事項に例示したカウンタ部の傾斜と異なるような技術的意義を有するものではない。
したがって、上記相違点1は、設計上の微差というべきであって実質的な相違点ではなく、かつ、新たな効果を奏するものでもない。

(2)相違点2について
本願補正発明は、適切なカチコミ代tを確保できるようにカウンタ部の全面を研磨仕上げする従来のアンギュラ玉軸受は加工時間がかかるとともに加工費が高騰するという問題があったことから、カウンタ部を研磨仕上げする加工時間や加工費を削減し得るアンギュラ玉軸受を提供することを課題としているものと解される(明細書の段落【0005】、【0006】)。そして、上記課題を解決する手段として、上記カウンタ部を第一のカウンタ面及び第二のカウンタ面により構成して、上記第一のカウンタ面のみを従来と同様に研磨仕上げとし、上記第二のカウンタ面は旋削仕上げとするとともに、上記二つのカウンタ面の具体的構成を特定したものである。
刊行物1に記載された実施例は、総型砥石70を用いて、内輪40の肩42の外周面、軌道面44、凸部46の外周面、小端面48を同時研削することによって、それぞれの寸法ばらつきを極小にしたものである。上記研削は、本願補正発明における「研磨仕上げ」に相当するものであるから、引用発明は、上記カウンタ部を第一のカウンタ面及び第二のカウンタ面により構成し、第一のカウンタ面のみを研磨仕上げとした点において、本願補正発明と同様に、「カウンタ部を研磨仕上げする加工時間や加工費を削減し得る」ものである。そして、本願補正発明は、第二のカウンタ面を研磨仕上げしていない点において引用発明と軌を一にするものであるところ、機械部品を旋削により形成した後、必要に応じて研磨仕上げすることは、例を挙げるまでもない周知事項にすぎないから、引用発明の第二のカウンタ面を旋削されたままの旋削仕上げとすることは、引用発明の形成手段を選択する上での微差に過ぎない。また、本願補正発明が第二のカウンタ面を旋削仕上げした点には、研磨仕上げをしていないということのほかに技術的意義は認められない。
次に、引用発明の第二のカウンタ面は、「凸部46の斜面、及び小端面48に至る平坦面から構成され」るものであるが、第一のカウンタ面に隣接する上記凸部46の斜面の斜面の傾斜角は、転動体を導く観点から、第一のカウンタ面の傾斜角より大きな傾斜角とすべきことは構造上明らかである。これにより、引用発明の第二のカウンタ面は、第一のカウンタ面に転動体を導くようにする機能を有するものであり、本願補正発明の第二のカウンタ面と差異がないものである。さらに、第一のカウンタ面が平行な平坦面か傾斜角を有するかにかかわらず、上記凸部46の斜面と小端面48に至る平坦面のそれぞれの軸方向の寸法は、内輪40の幅方向の寸法やカチコミ代の寸法に応じて適宜決定すべきものであって、本願補正発明と同様に、上記凸部46の斜面の軸方向の寸法を長くして第二のカウンタ面を形成するか、刊行物1の図1の実施例と同様に、凸部46の斜面と小端面48に至る平坦面を一定の長さとして第二のカウンタ面を形成するかは、設計事項にすぎない。このことは、本願の明細書の段落【0016】に、第二のカウンタ面の傾斜角が有する技術的意義として、「この第二のカウンタ面16b,16b’は、カチコミ代tを持たせた設計とするために必要な傾斜角とする必要がないので、例えばβ=4°とすればよい。この第二のカウンタ面16b,16b’の傾斜角は、前述した第一のカウンタ面16a,16a’の傾斜角αより大きければよい。」と記載されていることからも裏付けられる。
したがって、上記相違点2に係る本願補正発明の構成は、引用発明の第二のカウンタ面を適宜設計変更して当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
本願補正発明が奏する「適切なカチコミ代を確保するためには、軌道面と隣接した第一のカウンタ面を研磨仕上げするだけで済む。その結果、カウンタ部の全面を研磨仕上げする必要がなく、その第一のカウンタ面のみを研磨仕上げするだけでよいので、加工時間と加工費の削減を図ることができ、組立性の向上が図れ、安価なアンギュラ玉軸受を提供できる。」(本願の明細書の段落【0010】)といった効果は、いずれも刊行物1に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できるものである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年1月21日付け審判請求書において、本願補正発明における第一のカウンタ面は、軸方向に対して平行な平坦面ではなく、第一のカウンタ面が適切なカチコミ代を確保するために必要な傾斜角αを有することから、転動体の組み付け時に第一のカウンタ面がガイド機能を発揮することで、転動体の組み付けをスムーズに行うことが容易であり、転動体に傷がつき難くなることなどを挙げて本願は特許されるべき旨主張している(審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】の項参照)。
しかしながら、転動体の組み付け時に第一のカウンタ面がガイド機能を発揮することで、転動体の組み付けをスムーズに行うようにすることは、従来から考慮されていることであり、それ以上に何らかの効果があるとすれば、上記カチコミ代の寸法と特定の傾斜角α及び傾斜角(β)に有機的な関連が必要であるものと解されるところ、本願補正発明は、第二のカウンタ面の傾斜角(β)が第一のカウンタ面の傾斜角αより大きいという転動体を導くための必然的な構成を特定しているだけで、それ以外の関連構成は何ら特定していない。また、本願補正発明が第一のカウンタ面が適切なカチコミ代を確保するために必要な傾斜角αを有することは、上記周知事項に例示した従来のものと変わるところがないから、上記「(1)相違点1について」に示したとおり、審判請求人が主張する「転動体の組み付け時にその転動体が第一のカウンタ面がガイド機能を発揮する」といった機能は、引用発明に上記周知事項を適用して直ちに得られるものであるといわざるを得ない。
なお、審判請求人は、審尋に対する平成22年9月2日付けの回答書において、同旨のことを主張しているが、上記の判断を左右する主張ではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

3-3.特許法第29条の2の規定についての検討

3-3-1.先願明細書及びその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の平成15年6月20日に出願され、その出願後に出願公開された特願2003-177147号(特開2005-9643号)の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、「非分離型アンギュラ玉軸受」について、次の事項が記載されている。

(サ)「【請求項1】
外周部に軌道面が形成されてなる内輪と、内周部に軌道面が形成されてなる外輪と、内輪の軌道面と外輪の軌道面との間に組み込まれた複数の玉と、玉を保持する保持器とを有して構成され、内輪には軌道面を挟んだ軸方向両側に肩部が形成され、外輪には軌道面に対して軸方向一方側に肩部が形成されかつ他方側にカウンタボアが形成され、複数の玉の配列の外接円の半径とカウンタボアの最小径との差であるかかり代をW、玉の直径をDwとしたときに、
0.005 ≦ W/Dw ≦ 0.030
を満たすことを特徴とする非分離型アンギュラ玉軸受。」

(シ)「【0011】
一方、外輪5には、その内周面の軸方向中央部に、周方向にわたって延在する溝状の軌道面17が形成されている。そして、外輪5の内周面のうち軌道面17に対して一方側の領域には、軌道面17の内径が最小となる部分の径(最小径)と略内径が等しい円筒内面状の肩部19が形成されている。そして、外輪5の軌道面17の、肩部19と反対の側には、肩部19に対して内径を大きく形成されたカウンタボア21が形成されている。このカウンタボア21は、軌道面の縁部に隣接し、軸方向にわたって略一定の内径を有する平行部23と、この平行部23の軌道面17と反対側の端部から、外輪5の端面にかけて徐々に径を拡大して形成されたテーパ部25とを有して構成されている。」

そうすると、上記記載事項(サ)、(シ)及び図面の記載からみて、先願明細書には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。
「外周部に軌道面が形成されてなる内輪と、内周部に軌道面が形成されてなる外輪と、内輪の軌道面と外輪の軌道面との間に組み込まれた複数の玉と、玉を保持する保持器とを有して構成された非分離型アンギュラ玉軸受において、外輪には軌道面に対して軸方向一方側に肩部が形成されかつ他方側にカウンタボア21が形成され、このカウンタボア21は、軌道面の縁部に隣接し、軸方向にわたって略一定の内径を有する平行部23と、この平行部23の軌道面17と反対側の端部から、外輪5の端面にかけて徐々に径を拡大して形成されたテーパ部25とを有して構成されている、非分離型アンギュラ玉軸受。」

3-3-2.対比

本願補正発明と先願発明を対比する。
先願発明の「外周部に軌道面が形成されてなる内輪」は、その機能からみて、本願補正発明の「内輪」に相当するものであり、以下同様に、「内周部に軌道面が形成されてなる外輪」は「外輪」に相当し、「玉」は「転動体」に相当し、「非分離型アンギュラ玉軸受」は「アンギュラ玉軸受」に相当し、「カウンタボア21」は「カウンタ部」に相当し、「平行部23」は「第一のカウンタ面」に相当し、「テーパ部25」は「第二のカウンタ面」に相当するものである。
そうすると、先願発明の「外周部に軌道面が形成されてなる内輪と、内周部に軌道面が形成されてなる外輪と、内輪の軌道面と外輪の軌道面との間に組み込まれた複数の玉と、玉を保持する保持器とを有して構成された非分離型アンギュラ玉軸受」は、実質的に、本願補正発明の「内輪と外輪の両軌道面間に、保持器により回転自在に保持された複数の転動体を接触角を持って介在させたアンギュラ玉軸受」に相当し、以下同様に、「外輪には軌道面に対して軸方向一方側に肩部が形成されかつ他方側にカウンタボア21が形成され」は「前記内輪または外輪のいずれか一方の軌道面に近接して形成されたカウンタ部」に相当する。
先願発明の「このカウンタボア21は、軌道面の縁部に隣接し、軸方向にわたって略一定の内径を有する平行部23」は、本願補正発明の「前記軌道面に隣接し、軸方向に対して傾斜角αを持つ研磨仕上げの第一のカウンタ面」と対比して、少なくとも「前記軌道面に隣接する第一のカウンタ面」である限りにおいて共通するものである。
先願発明の「この平行部23の軌道面17と反対側の端部から、外輪5の端面にかけて徐々に径を拡大して形成されたテーパ部25」は、本願補正発明の「その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達し、第一のカウンタ面の傾斜角αより大きな傾斜角を持つ旋削仕上げの第二のカウンタ面」と対比して、少なくとも「その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達し、第一のカウンタ面より大きな傾斜角を持つ第二のカウンタ面」である限りにおいて共通するものである。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「内輪と外輪の両軌道面間に、保持器により回転自在に保持された複数の転動体を接触角を持って介在させたアンギュラ玉軸受において、前記内輪または外輪のいずれか一方の軌道面に近接して形成されたカウンタ部は、前記軌道面に隣接する第一のカウンタ面と、その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達し、第一のカウンタ面より大きな傾斜角を持つ第二のカウンタ面とを有する、アンギュラ玉軸受。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

[相違点A]
本願補正発明は、第一のカウンタ面が「軸方向に対して傾斜角αを持つ研磨仕上げ」であり、第二のカウンタ面が第一のカウンタ面「の傾斜角α」より大きな傾斜角を持つ「旋削仕上げ」であるのに対し、先願発明は、第一のカウンタ面が「軸方向にわたって略一定の内径を有する平行部23」であり、第二のカウンタ面がこの平行部23の軌道面17と反対側の端部から、外輪5の端面にかけて徐々に径を拡大して形成されたテーパ部25であって、第一のカウンタ面より大きな傾斜角を持つものの、旋削仕上げか否か明らかでない点。

3-3-3.判断

(1)相違点Aについて
本願補正発明の第一のカウンタ面が「軸方向に対して傾斜角αを持つ研磨仕上げ」である点について検討するに、アンギュラ軸受のカウンタ部は、軌道面に隣接して一定の傾斜角を設けて研磨仕上げをすることが周知事項(例えば、上記刊行物1の記載事項(オ)の段落【0021】及び図4や特開2001-289254号公報の段落【0027】及び図10を参照。)であるから、第一のカウンタ面を先願発明のように平行にするか、上記周知事項に例示したような何らかの傾斜角を有するものとするかは、カチコミ代との関連においてカウンタ面を具体化する手段の微差にすぎない。
さらに、機械部品を研磨仕上げにより形成すること、及び旋削仕上げにより形成することは、いずれも例を挙げるまでもない周知事項にすぎないから、第二のカウンタ面を研磨仕上げとするか旋削仕上げとするかは、表面仕上げ手段を選択する上での微差に過ぎない。また、本願補正発明が第二のカウンタ面を旋削仕上げした点には、研磨仕上げをしていないということのほかに技術的意義は認められない。
したがって、上記相違点Aは設計上の微差というべきであって実質的な相違点ではなく、かつ、新たな効果を奏するものでもない。

(2)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、先願発明と実質的に同一である。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年1月21日付け審判請求書において、先願発明の平行部23が軸方向に対して平行な平坦面であるのに対して、本願補正発明の第一のカウンタ面は、軸方向に対して平行な平坦面ではなく、軸方向に対して傾斜角αを有する傾斜面であり、先願発明と本願補正発明とでは構造が明らかに異なることなどを挙げて本願は特許されるべき旨主張している(審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】の項参照)。
確かに、上記第一のカウンタ面は具体的な形状が異なるものではあるが、第一のカウンタ面が平行な平坦面であるか、何らかの傾斜角を有する傾斜面であるかということは、上述のとおり、カウンタ面を具体化する手段の微差にすぎない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

4.むすび

以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、本願補正発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、本願補正発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、他の補正事項を検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成22年1月21日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成21年10月16日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
内輪と外輪の両軌道面間に、保持器により回転自在に保持された複数の転動体を接触角を持って介在させたアンギュラ玉軸受において、前記内輪または外輪のいずれか一方の軌道面に近接して形成されたカウンタ部は、前記軌道面に隣接し、軸方向に対して所定の角度で傾斜する研磨仕上げの第一のカウンタ面と、その第一のカウンタ面に隣接して前記内輪または外輪のいずれか一方の端面まで達し、第一のカウンタ面の傾斜角より大きな傾斜角を持つ第二のカウンタ面とを有することを特徴とするアンギュラ玉軸受。」

2.特許法第29条第2項の規定についての検討

2-1.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、上記【2】3-2-1.のとおりである。

2-2.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明の「軸方向に対して傾斜角αを持つ研磨仕上げの第一のカウンタ面」及び「傾斜角α」を「軸方向に対して所定の角度で傾斜する研磨仕上げの第一のカウンタ面」及び「傾斜角」と拡張し、同じく「旋削仕上げの第二のカウンタ面」を「第二のカウンタ面」と拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-2-2.対比」、及び「【2】3-2-3.判断」に示したとおり、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記のとおり構成を拡張した本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.特許法第29条の2の規定についての検討

3-1.先願明細書及びその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の平成15年6月20日に出願され、その出願後に出願公開された先願明細書及びその記載事項は、上記【2】3-3-1.のとおりである。

3-2.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明の「軸方向に対して傾斜角αを持つ研磨仕上げの第一のカウンタ面」及び「傾斜角α」を「軸方向に対して所定の角度で傾斜する研磨仕上げの第一のカウンタ面」及び「傾斜角」と拡張し、同じく「旋削仕上げの第二のカウンタ面」を「第二のカウンタ面」と拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-3-2.対比」及び「【2】3-3-3.判断」に示したとおり、先願発明と実質的に同一であるから、上記のとおり構成を拡張した本願発明も同様の理由により、先願発明と実質的に同一である。

4.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項1に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2011-03-22 
結審通知日 2011-03-23 
審決日 2011-04-05 
出願番号 特願2004-149348(P2004-149348)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 勇  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 倉田 和博
山岸 利治
発明の名称 アンギュラ玉軸受  
代理人 熊野 剛  
代理人 田中 秀佳  
代理人 城村 邦彦  

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