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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1237513
審判番号 不服2008-5086  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-03 
確定日 2011-05-19 
事件の表示 平成11年特許願第504793号「新規ステロイド受容体コアクチベーターAIB1」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月23日国際公開、WO98/57982、平成14年 4月 2日国内公表、特表2002-510208〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1998年(平成10年)6月17日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年6月17日 米国)とする出願であって、その請求項1?52に係る発明は、平成19年10月17日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1?52に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そのうち、請求項1、10、20、30には、以下のとおり記載されている。

「1.高いストリンジェンシーにおいて配列番号:1の配列をもつDNAまたはその相補体とハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む実質的に純粋なDNA。」(以下、「本願発明1」という。)
「10.配列番号:2、3、4もしくは8のアミノ酸配列、または配列番号:2、3、4もしくは8のアミノ酸配列に対して保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列を有し、かつステロイド受容体コアクチベーター活性を保持する実質的に純粋なヒトポリペプチド。」
「20.組織試料において請求項1または2に記載のDNAの発現レベルを測定することを含む組織試料中の異常増殖細胞を検出する方法であって、正常な対照組織における遺伝子発現レベルと比べた場合の遺伝子発現レベルにおける増加が異常増殖細胞の存在を示す方法。」(以下、「本願発明20」という。)
「30.哺乳動物において癌細胞の増殖を減少させるための組成物であって、請求項10に記載のポリペプチドの発現を阻害する化合物と、薬学的に許容される担体と、を含む組成物。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の1996年に頒布された刊行物であるCancer Res.(1996)Vol.56, p.3446-3450(以下、「引用例」という。)には、
(i)「我々は、微小切断された染色体20qを包含する、均質に染色された領域から転写された配列を単離するために、染色体微小切断ハイブリッド選別法をここで使用した。この方法を用いて我々は、増幅された乳癌細胞株BT-474の20qから構築されたcDNAライブラリーから、3つの新規な増幅された遺伝子(AIB1、AIB3、AIB4と名付けた)を単離した。これら3つの遺伝子は、蛍光in situハイブリダイゼーションにより、20q11(AIB3とAIB4)と20q12(AIB1)にマッピングされた。我々の結果は、乳癌における20qの増幅パターンが疑いなく複雑であることを示し、腫瘍検体のさらなる特徴付けに役立つプローブを提供するであろう。」(第3446頁左欄要約の項第6行?第15行)、
(ii)「MCF-7、BT-474及びHS-578Bst細胞系は、American Type Culture Collectionから得られた。」(第3446頁右欄第11行?第12行)、
(iii)「増幅されたcDNAの単離.10^(5)のプラークのスクリーニングから、57の強くハイブリダイズするcDNAが特定され、プラークが単離され試験された。クロスハイブリダイゼーションにより、これらのクローンは13グループ(AIB1-AIB13(amplified in breast cancer)と名付けられた)に分けられた。各グループの代表的クローンは乳癌細胞系BT-474とMCF-7のサザンブロットでハイブリダイズされた。7グループ(22クローン)は反復配列を含みさらなる解析から排除され、2グループ(それぞれ単一クローン)は、試験した乳癌細胞系で単一コピーシグナルを生じた。3グループ(AIB1(24/57クローン)、AIB3(5/57クローン)、AIB4(4/57クローン))はサザンブロット解析で増幅されたゲノム制限断片とハイブリダイズした(図2A)。AIB1の増幅は、BT-474とMCF-7の両細胞系で観察されたが、AIB3とAIB4の増幅は、BT-474のみで観察された。
AIB1、AIB3、AIB4は、さらにノーザンブロット解析で特性化された。それらの増幅状態と一致して、AIB1の高レベル発現がBT-474とMCF-7の両方で観察され、AIB3とAIB4の高レベル発現は、BT-474細胞系のみで観察された(図2B)。複数組織ノーザンブロット解析が、正常組織でのこれら3つの遺伝子の発現を決定するために行われた(図3)。AIB1とAIB3の発現は、8つ全ての試験された組織において検出されたが、AIB4の発現は、脾臓と胸腺を除く全ての組織で見られた。
これら3つの遺伝子の20qにおける染色体位置を確定するために、それらの3´端のPCRプライマーが設計され、P1ライブラリーのスクリーニングに用いられた。AIB1のP1クローンは、FISHにより20q12に位置づけられた(図4A)。」(第3448頁左欄第17行?同頁右欄第3行)、
(iv)「染色体マッピング.増幅されたcDNAクローンは、自動蛍光配列決定法により配列決定された。オリゴヌクレオチドプライマーがそれから合成され、ヒトゲノムP1ライブラリーのスクリーニングに用いられた。AIB1のためのプライマーは、N8F1(TCATCACTTCCGACAACAGAGG)とN8R1(TGGGGGAAGCAGTCACATTAGGA)であった。」(第3447頁左欄下から第5行?左欄最下行)、
(v)「我々が特定した3つの遺伝子は、このアンプリコンの標的遺伝子候補として現在研究されている。それらの完全長DNA配列の決定だけでなく、腫瘍組織におけるそれらの増幅と発現のさらなる研究が、この問題に取り組むために必要であろう。しかしながら、候補遺伝子としての重要性以上に、それらは以前の乳癌における20qの疑いのない増幅された領域を特定するエントリープローブを明らかに提供した。」(第3450頁左欄第23行?第29行)、と記載されている。

3.対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1は、6835のヌクレオチドからなる配列番号:1の配列をもつDNAまたはその相補体、及びそれらと高いストリンジェンシーにおいてハイブリダイズするポリヌクレオチドのいずれかを含むDNAに係るものであり、本願明細書第5頁最下行の「配列番号:1は、ヒトAIB1cDNAの核酸配列および対応するアミノ酸配列を示す」及び第16頁第2行?第5行の「AIB1を特性化するため、全長cDNAをクロニーングしシークエンシングした。AIB1特異的プライマーN8F1(5’-TCATCACTTCCGACAACAGAGG-3’;配列番号:5)をビオチン化し、GENETRAPPER c DNA Positive Selection System(Gibco,BRL)を用いて、ヒト肺cDNAライブラリー(Gibco,BRL)からcDNAクローンを得るのに使用した。」との記載からみて、配列番号:1のDNA配列は、ヒトAIB1遺伝子の全長のcDNA配列である。
また、本願発明1はさらに、高いストリンジェンシーでその全長のDNAまたはその相補体にハイブリダイズする、どのような長さでもよいDNAをも包含するものである。
そこでまず、本願発明1のうちヒトAIB1遺伝子の全長のcDNA配列に係るものと、引用例に記載された事項を対比すると、上記引用例記載事項(i)の「増幅された乳癌細胞株BT-474の20qから構築されたcDNAライブラリーから、3つの新規な増幅された遺伝子(AIB1、AIB3、AIB4と名付けた)を単離した。」とあるAIB1は、ヒト乳癌細胞株BT-474由来であるからヒトAIB1遺伝子のcDNAであり、また、上記引用例記載事項(iv)にある、増幅されたcDNAを配列決定して設計した、AIB1に対するプライマーの1つであるN8F1(TCATCACTTCCGACAACAGAGG)は、本願明細書の上記記載中の、ヒト肺cDNAライブラリーからcDNAクローンを得るのに使用した、ビオチン化したAIB1特異的プライマーN8F1(5’-TCATCACTTCCGACAACAGAGG-3’;配列番号:5)と同じ配列であるので、本願発明1のヒトAIB1遺伝子と引用例に記載のAIB1とは、名前だけでなく同じDNA配列を有する遺伝子であると認められる。
そうすると、本願発明1と引用例に記載された事項は、ヒトAIB1遺伝子のcDNAに関するものである点で一致するが、前者では、全長のヒトAIB1cDNAをクローニングして、そのDNA配列が決定されているものであるのに対して、後者では、全長のヒトAIB1cDNAはクローニングされておらず、プライマーとして使用した一部のDNA配列しか記載されていない点で相違する。
しかしながら、遺伝子のcDNAの一部の配列が知られており、かつ、遺伝子の存在する細胞系あるいは組織が知られていれば、その細胞系または組織のcDNAライブラリーから、プライマー伸長法、PCR法等周知手段を用いて全長の遺伝子をクローニングすることは、本願優先日当時の技術水準から当業者であれば容易になし得たことであり、得られたDNAの配列を決定することも格別の困難なくなし得たことである。
してみると、上記引用例記載事項(v)にあるように全長の配列決定が望まれており、しかも、上記引用例記載事項(iv)に特異的プライマー配列が記載され、かつ上記引用例記載事項(ii)にあるようにATCCに寄託され容易に入手できるMCF-7、BT-474細胞株、及びヒト8つの組織で発現していることが記載されているヒトAIB1cDNAの全長をクローニングし、その配列を決定しようとすることは、本願優先日当時の技術水準からみて、当業者であれば容易に想到し得、かつなし得たことにすぎないものである。
そして、このように本願発明1に係る全長のAIB1cDNAをクローニングすることの強い動機付けがあり、しかもクローニング手段も上述の如く周知であり当業者にとって何ら困難なくなし得るものであった以上、その全長のDNAがコードするタンパク質が特定の活性を有するとしても、全長のcDNA配列を得ること自体の容易性を左右するものではなく、本願発明1は、引用例の記載に基づき当業者が容易になし得るものである。
さらに、本願発明1のうち、高いストリンジェンシーで全長のDNAとハイブリダイズする、どのような長さのものでもよいDNAを取得することは、全長のDNAを得ることさえ上述の如く容易であるのであるから、当業者にとってさらに容易であるといえる。
したがって、本願発明1は、引用例の記載に基づき当業者が容易になし得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

なお、上記引用例記載事項(iv)に記載のAIB1のためのプライマーは、本願発明1の高いストリンジェンシーで配列番号:1のDNAまたはその相補体とハイブリダイズするDNAに他ならないから、本願発明1は特許法第29条第1項第3号に該当することも付言する。

(2)本願発明20について
本願発明20は、組織試料において請求項1または2に記載のDNA(以下、「AIB1」という。)の発現レベルを測定することを含む組織試料中の異常増殖細胞を検出する方法であって、正常な対照組織における遺伝子発現レベルと比べた場合の遺伝子発現レベルにおける増加が異常増殖細胞の存在を示す方法に係るものである。
これに対して、上記引用例記載事項(iii)には、AIB1の増幅及び高レベル発現が乳癌細胞系BT-474とMCF-7の両方で観察されたことが記載され、引用例の図2Bの説明中には、この高レベルの発現は、非悪性乳細胞系HS-578Bstでの発現レベルと比較したものであることが記載されているから、引用例には、AIB1の発現レベルが、悪性腫瘍細胞において、非悪性腫瘍細胞における発現レベルと比べて増加することが記載されている。
そこで、本願発明1と引用例に記載された事項を対比すると、両者は、試料におけるAIB1の発現レベルを測定すると、異常増殖細胞における発現レベルが、正常増殖細胞における発現レベルより増加していることに関するものである点で共通するが、前者では、試料が組織試料であり、その発現レベルの増加により組織試料中の異常増殖細胞を検出する方法であるのに対して、後者では、試料は細胞であり、組織試料については、腫瘍検体のさらなる特徴付けに役立つプローブを提供するであろうという示唆にとどまる点で相違する。
しかしながらそもそも、AIBとはamplified in breast cancerという意味の乳癌で高レベルに増幅及び発現する遺伝子であることを特徴とするものであるから、その遺伝子発現のレベルを組織試料中の異常増殖細胞の存在と関連付けることは、当業者の極めて自然な発想であるといえ、このことは、上記引用例記載事項(v)でも「乳癌における20qの疑いのない増幅された領域を特定するエントリープローブを明らかに提供した。」とあることからもうかがえるから、AIBの発現レベルを測定して組織試料中の異常増殖細胞の検出に用いることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、本願発明20において奏せられる効果も、引用例の記載から予測できない程の格別なものということはできない。
したがって、本願発明20は、引用例の記載に基づき当業者が容易になし得るものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

4.特許法第36条第4項及び同条第6項第1号違反について
(1)原審の拒絶の理由の概要
平成18年7月12日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項32には、「32.哺乳動物にAIB1の発現を阻害する化合物を投与することを含む、哺乳動物における癌細胞の増殖を減少させる方法。」と記載され、そして、平成19年10月17日付手続補正により請求項32は補正され、対応する請求項30には、以下のとおり記載されている。
「30.哺乳動物において癌細胞の増殖を減少させるための組成物であって、請求項10に記載のポリペプチドの発現を阻害する化合物と、薬学的に許容される担体と、を含む組成物。」(以下、「本願発明30」という。)
「請求項10に記載のポリペプチド」を、請求項10を読み込んで以下「AIB1」というと、本願発明30は、AIB1の発現を阻害する化合物を含む、哺乳動物において癌細胞の増殖を減少させるための組成物に係るものであり、補正前の請求項32の治療方法に係る発明が、補正後に治療用組成物に補正されたものである。
一方、原審の拒絶の理由の一つは、本願が、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、その概要は、請求項32には、AIB1の発現を抑制することにより癌細胞の増殖を減少させる方法が記載されているが、一方、発明の詳細な説明には、AIB1に関する具体的データとしては、実施例1において、全長配列(図1)、腫瘍細胞系で増幅し、発現が増加していること(図2)、及びAIB1の発現がERリガンド依存トランス活性化を増加すること(図3)が示されているのみで、実施例2には既知の配列情報との比較によるAIB1のドメイン推定が、実施例3?7には検出方法やスクリーニング方法等の一般論が記載されているだけである。実施例1により、腫瘍細胞においてAIB1が増幅し、発現が増加することまではわかっても、当該増幅や発現増加が腫瘍の原因であるとは直ちにはいえず、当該発現を抑制すれば腫瘍にどのような影響が出るかについては実際に実験をしてみなくてはわからないことであるから、請求項32に記載の発明は、発明の詳細な説明に当業者が実施をすることができる程度に記載されておらず、同様の理由により、請求項32に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載されていない、というものである。

(2)本願明細書の記載
本願明細書のAIB1に関する記載の概略は上記(1)のとおりであるが、AIB1の発現を阻害する化合物及び治療用組成物についての記載は、本願明細書の第12頁下から第2行?第13頁第12行であって、「本発明はまた、哺乳動物、例えば、ヒト患者を治療する方法も包含する。例えば、哺乳動物においてステロイドホルモン応答性癌細胞、例えば、エストロゲン応答性乳癌細胞の増殖を減少させる方法は、哺乳動物にAIB1の発現を阻害する化合物によって行われる。その化合物は、細胞においてAIB1をコードするDNAの転写を減少させる。あるいは、本化合物は細胞においてAIB1mRNAのAIB1遺伝子産物への翻訳を減少させる。例えば、AIB1mRNAのAIB1遺伝子産物への翻訳は、mRNAをAIB1mRNAに相補的なアンチセンスポリヌクレオチオドと接触させることによって阻害される。
哺乳動物の乳癌においてER依存転写を阻害する方法は、AIB1ポリペプチドまたはそのペプチド擬似体の有効量を哺乳動物に投与することにより実施される。ポリペプチドはAIB1/ER相互作用を阻害するのが好ましく、より好ましくは、ポリペプチドはER相互作用ドメイン;PASドメインまたはAIB1のbHLHドメインを含んでいる。そのようなポリペプチドはERに結合することによって、AIB1がERに結合するのを阻害し、それによりER依存性転写を阻害する。」と記載されているが、一般的な記載にとどまり、具体的に阻害する化合物を製造し、その化合物を用いて癌細胞減少を確認するための薬理試験を行ったことは記載されていない。

(3)当審の判断
医薬、治療用組成物という用途発明においては、一般に、物質名、化学構造だけからその用途を予測することは困難であるから、出願時の技術常識及び出願当初の明細書に記載された作用の説明等からでは、含有成分がその医薬用途として機能することが推認できない場合には、明細書に有効量、投与方法、製剤化方法が記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途として使用できるか否かを知ることはできないので、明細書に特定の薬理試験の結果である薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途を裏付ける必要がある。
これを本願明細書についてみると、上記(2)に記載のように、薬理試験方法及び薬理データどころか、有効量、投与方法、製剤化方法についても何ら具体的に記載されておらず、“AIB1の発現を阻害する化合物”が癌治療の医薬用途に使用できる程度に、本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

これに対して審判請求人は、平成19年10月17日付意見書に参考資料1?7を添付して、本願優先日以前に、癌細胞において過剰発現されている遺伝子の発現を減少させることにより当該癌を治療することは、当業者に知られている旨主張している。
しかしながら、参考資料1?7に示されているのは、HER2/neu、c-myc、erb-2のような癌遺伝子や、EGFR、TGF-βのような成長因子に関連したものだけで、これら遺伝子の発現を減少させると癌細胞が減少することが示されているが、本願発明30のAIB1のような核内受容体コアクチベーター遺伝子のような、癌細胞において過剰発現されているどのような遺伝子であっても、その発現を減少させることにより当該癌を治療できることが示されているわけではなく、またそのようなことが、本願出願時の技術常識であるともいえないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

しかも、上記引用例記載事項(iii)にあるように、本願発明30のAIB1は、試験した8つ全ての正常組織においても発現しているのであるから、例えば、その発現を阻害する化合物を生体内に投与した場合、癌細胞のみならず正常細胞に対しても作用してしまう可能性が高く、癌治療薬として使用することができるように記載されているというためには、投与量、投与方法等きめ細かい調整が必要であるから、少なくとも動物実験による追認を必要とすることは、当該技術分野における技術常識である。
したがって、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願発明30の“AIB1の発現を阻害する化合物”が癌治療の医薬用途に使用できる程度に、本願の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

さらにいえば、本願発明30の“AIB1の発現を阻害する化合物”として、本願明細書には上記(2)に記載のように、アンチセンスポリヌクレオチド及びペプチド疑似体が例示されているにすぎず、それ以外のAIB1の発現を阻害する化合物を見つけるためには、当業者といえども過度な実験、試行錯誤を要するものであるばかりか、そもそも、アンチセンス配列として遺伝子の発現を抑制する機能を有するためには、AIB1の核酸配列と特異的にハイブリダイズするだけではなく、例えば、転写、翻訳を制御する領域等の効果的に発現抑制できる領域にハイブリダイズすること、適切な長さを有すること、及びヌクレアーゼで分解されない配列を有すること等のさまざまな要素を備えていることが必要であり、配列情報のみからアンチセンス配列として有効な位置が確定できないことは、本願出願前の技術常識であったといえ、アンチセンスポリヌクレオチドを用いた場合の本願発明30についてすら本願発明の詳細な説明には、その実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえないものである。
以上の理由により、本願発明の詳細な説明には、本願請求項30に記載の発明を当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められず、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、同様の理由により、本願発明の詳細な説明には本願請求項30に記載の発明が記載されておらず、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1及び20に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願は、本願請求項30に記載の発明について、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-22 
結審通知日 2010-12-27 
審決日 2011-01-07 
出願番号 特願平11-504793
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 深草 亜子
鵜飼 健
発明の名称 新規ステロイド受容体コアクチベーターAIB1  
代理人 清水 初志  
代理人 新見 浩一  
代理人 小林 智彦  
代理人 渡邉 伸一  
代理人 井上 隆一  
代理人 刑部 俊  

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