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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1237552
審判番号 不服2010-8096  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-16 
確定日 2011-05-26 
事件の表示 特願2004-337856「内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日出願公開、特開2006-144700〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本件出願は、平成16年11月22日の出願であって、平成21年3月23日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月25日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年10月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年1月13日付けの補正の却下の決定により平成21年10月30日付けの手続補正書による手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年4月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けで手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において同年11月15日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、平成23年1月17日付けで回答書が提出されるとともに同日付けで手続補足書による添付資料が提出されたものである。


【2】平成22年4月16日付けの明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成22年4月16日付けの手続補正を却下する。


[理 由]
1.本件補正の内容
平成22年4月16日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年6月1日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項1ないし5を、下記の(a)に示す請求項1ないし3へと補正することを含むものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
圧力リング2本、オイルリング1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれる内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せであって、
前記ピストンが、オイルリングが装着されるオイルリング溝にはピストン内部空間と連通するオイルドレン孔が貫通して設けられ、セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側からセカンドリング溝下面に跨るように開口し、該開口からピストン内部空間へ向けて下向きに直線的に傾斜させて連通する貫通孔として設け、前記オイルリング溝に係るオイルドレン孔を、該オイルリング溝底のピストン上下方向下部側からスカート部に跨るように開口し、かつ前記ピストン内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設けたピストンであり、
前記ピストンリングを、圧力リングであるファーストリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1が、0.002?0.004であり、セカンドリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1が、0.0041?0.0096であるピストンリングとすることを特徴とする内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せ。
【請求項2】
前記セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、ピストン外面側の開口がスラスト方向に加えて反スラスト方向にも位置するように設けたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せ。
【請求項3】
前記セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、ピストン外面側の開口がピン軸心に対して対称に位置するように設けたことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せ。」(下線部は審判請求人が補正箇所を示すために付したものである。)

(b)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
圧力リング2本、オイルリング1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれる内燃機関用エンジンのピストンであって、オイルリングが装着されるオイルリング溝にはピストン内部空間と連通するオイルドレン孔が貫通して設けられているピストンにおいて、
セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側からセカンドリング溝下面に跨るように開口し、ピストン内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設け、
前記オイルリング溝に係るオイルドレン孔を、該オイルリング溝底のピストン上下方向下部側からスカート部に跨るように開口し、かつ前記ピストン内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設けたことを特徴とする内燃機関用エンジンのピストン。
【請求項2】
前記セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側からセカンドリング溝下面に跨るように開口し、ピストン内部空間へ向けて下向きに直線的に傾斜させて設けたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用エンジンのピストン。
【請求項3】
前記セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、ピストン外面側の開口がスラスト方向に加えて反スラスト方向にも位置するように設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用エンジンのピストン。
【請求項4】
前記セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、ピストン外面側の開口がピン軸心に対して対称に位置するように設けたことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関用エンジンのピストン。
【請求項5】
圧力リング2本、オイルリング1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれる内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せであって、
前記ピストンを、請求項1ないし4のいずれかに記載のピストンとし、
前記ピストンリングを、圧力リングであるファーストリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1が、0.002?0.004であり、セカンドリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1が、0.0030?0.0096であるピストンリングとすることを特徴とする内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せ。」


2.本件補正の目的
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項5の発明特定事項である「セカンドリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1」の数値範囲に関して「0.0030?0.0096」を「0.0041?0.0096」と数値範囲の下限を補正し数値範囲を狭く限定するものであるから、請求項1に関する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。


3.本件補正の適否の判断(独立特許要件)
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。

3-1.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である実願平4-59166号(実開平6-14455号)のCD-ROM(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 少くとも2本の圧力リングと1本のオイルリングが夫々装着されるリング溝が設けられた内燃機関用ピストンにおいて、セカンドリング溝の溝底面とクランク室側を向いた面との間に貫通孔を設けたことを特徴とするピストン。」(【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の実施例のピストンの要部断面図である。
【図2】その実施例の高ブースト時の上昇オイルの戻し作用を説明する説明図である。
【図3】本考案と従来のピストンの夫々を使用してエンジンを運転した場合のオイル消費率を比較して示すグラフである。
【図4】本考案によるセカンドリング溝に設ける貫通孔の設け方を説明する図式図である。
【図5】本考案による貫通孔に連通するオフセット溝をセカンドリング溝の下側面に設けた状態を示す図式図である。
【符号の説明】
1 ピストン
3 トップリング溝
4 セカンドリング溝
5 オイルリング溝
6 トップリング
7 セカンドリング
8 オイルリング
10 シリンダ
11 クランク室に面する面
12 貫通孔」(【図面の簡単な説明】及び【符号の説明】)

(ウ)「【0002】
【従来の技術】
内燃機関用ピストンの外周には、燃焼ガスのシール性を確保する圧力リングと、シリンダとの間に適正な油膜を形成するオイルリングとが夫々に対応してピストンに設けられたリング溝に嵌装される。圧力リングは2本又はそれ以上とされることがある。
【0003】
さて、圧力リングが2本以上の場合、頂面側から2本目のセカンドリングのシール性が良好な場合、セカンドランド圧が上りトップリングの挙動に悪い影響を与えることがある。そこで、従来セカンドランド圧が上昇しないように制御する手段として、セカンドリングの合い口隙間寸法を、トップリングの合い口隙間寸法より大きくすることが行なわれてきた。しかし、セカンドリングの合い口隙間寸法を大きくすると、高ブースト時にオイルが上昇して、オイル消費が悪化するという問題が発生する。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、2本以上の圧力リングと1本のオイルリングを有する従来の内燃機関のピストンの上記の問題点にかんがみ、セカンドリングの合い口隙間寸法を大きくすることなく、セカンドランド圧を下げることのできるピストンを提供することを課題とする。」(段落【0002】ないし【0004】)

(エ)「【0007】
【実施例】
以下に、本考案の実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本考案の実施例のピストン1の要部の断面図である。ピストン1の外周面にはトップリング溝、セカンドリング溝及びオイルリング溝の3本のリング溝3、4、5が設けられ、その夫々にトップリング6、セカンドリング7及びオイルリング8が収装され、夫々の外周面はピストンの外周面と間隙を置いて囲繞するシリンダ10の内周面に圧接している。ここ迄に述べた構成は、従来のピストンと特に変るところはない。
【0008】
しかし、この実施例では、セカンドリング溝4の溝底面と、ピストンのクランク室を向いた面11との間に貫通孔12が穿設されている。」(段落【0007】及び【0008】)

(オ)「【0010】
又、高ブースト時、図2に示すように、貫通孔12は、オイルリング溝5からサードランド空間13、セカンドリング溝4、セカンドリング合い口へと上って行くオイルの戻り孔の役目も果す。
【0011】
したがって、本考案により、セカンドリング溝底面とクランク室に向いた面との間に貫通孔を設けたピストンと、合い口隙間の小さいセカンドリングとを組合せて使用することにより、オイル消費特に高ブースト時のオイル消費を著しく改善することが可能となる。」(段落【0010】及び【0011】)

(カ)「【0015】
又、図5に示す如く、貫通孔12に連通するように、セカンドリング溝の下側面に半径方向全幅に延びるオフセット溝14を設けるとオイルの戻しにさらに効果が得られる。」(段落【0015】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(カ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。

(キ)上記(1)の(ア)ないし(エ)並びに図1及び2の記載からみて、内燃機関用のピストン1には、圧力リングであるトップリング6及びセカンドリング7の2本、オイルリング8の1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれており、ピストン1とピストンリングの組合せがシリンダ10内で摺動されることがわかる。
また、圧力リングである前記トップリング6及び前記セカンドリング7にそれぞれ合い口隙間があることは明らかである。

(ク)上記(1)の(ア)、(イ)及び(カ)並びに図1、2及び5の記載からみて、ピストン1において、オイルリング8が装着されるオイルリング溝5にはピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間と連通するオイルの戻り孔が、貫通して設けられ、セカンドリング溝4に係る貫通孔12は、セカンドリング溝4の溝底面のピストン上下方向下部側に開口され、該開口からピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間へ向けて下向きに直線的に傾斜させて連通する貫通孔として設けられ、前記オイルリング溝5に係るオイルの戻り孔は、該オイルリング溝5の溝底面のピストン上下方向中央に開口され、かつ前記ピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設けられていることがわかる。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明A」という。)が記載されているものと認められる。

「圧力リング2本、オイルリング8の1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれる内燃機関用のピストン1とピストンリングの組合せであって、
前記ピストン1が、オイルリング8が装着されるオイルリング溝5にはピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間と連通するオイルの戻り孔が貫通して設けられ、セカンドリング溝4に係る貫通孔12を、セカンドリング溝4の溝底面のピストン上下方向下部側に開口し、該開口からピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間へ向けて下向きに直線的に傾斜させて連通する貫通孔として設け、前記オイルリング溝5に係るオイルの戻り孔を、該オイルリング溝5の溝底面のピストン上下方向中央に開口し、かつ前記ピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設けたピストンであり、
前記ピストンリングを、圧力リングであるトップリング6に合い口隙間があり、セカンドリング7に合い口隙間があるピストンリングとする内燃機関用のピストン1とピストンリングの組合せ。」


3-2.対比
本願補正発明と引用文献記載の発明Aとを対比すると、引用文献記載の発明Aにおける「オイルリング8」は、その機能及び形状や構造からみて、本願補正発明における「オイルリング」に相当し、以下同様に、「ピストン1」は「ピストン」に、「内燃機関用のピストン1とピストンリングの組合せ」は「内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せ」に、「オイルリング溝5」は「オイルリング溝」に、「ピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間」は「ピストン内部空間」に、「オイルの戻り孔」はオイルリング溝に係る「オイルドレン孔」に、「セカンドリング溝4」は「セカンドリング溝」に、「貫通孔12」はセカンドリング溝に係る「オイルドレン孔」に、「セカンドリング溝4の溝底面」は「セカンドリング溝底」に、「セカンドリング溝4の下面」は「セカンドリング溝下面」に、「オイルリング溝5の溝底面」は「オイルリング溝底」に、「トップリング6」は「ファーストリング」に、「合い口隙間」は「合口隙間S1」に、「セカンドリング7」は「セカンドリング」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明Aにおける「セカンドリング溝4の溝底面のピストン上下方向下部側」は、「セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側を含むよう」という限りにおいて、本願補正発明における「セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側からセカンドリング溝下面に跨るよう」に相当する。
さらに、引用文献記載の発明Aにおける「オイルリング溝5の溝底面のピストン上下方向中央」は、「オイルリング溝底を含むよう」という限りにおいて、本願補正発明における「オイルリング溝底のピストン上下方向下部側からスカート部に跨るよう」に相当する。
さらにまた、引用文献記載の発明Aにおける「ピストンリングを、圧力リングであるトップリング6に合い口隙間があり、セカンドリング7に合い口隙間があるピストンリングとする」は、「ピストンリングを、圧力リングであるファーストリングに合口隙間があり、セカンドリングに合口隙間があるピストンリングとする」という限りにおいて、本願補正発明における「ピストンリングを、圧力リングであるファーストリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1が、0.002?0.004であり、セカンドリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1が、0.0041?0.0096であるピストンリングとする」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用文献記載の発明Aとは、次の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「圧力リング2本、オイルリング1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれる内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せであって、
前記ピストンが、オイルリングが装着されるオイルリング溝にはピストン内部空間と連通するオイルドレン孔が貫通して設けられ、セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側を含むように開口し、該開口からピストン内部空間へ向けて下向きに直線的に傾斜させて連通する貫通孔として設け、前記オイルリング溝に係るオイルドレン孔を、該オイルリング溝底を含むように開口し、かつ前記ピストン内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設けたピストンであり、
前記ピストンリングを、圧力リングであるファーストリングに合口隙間があり、セカンドリングに合口隙間があるピストンリングとする内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せ。」

<相違点>
(1)相違点1a
セカンドリング溝に係るオイルドレン孔の開口に関し、
本願補正発明では、「セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側からセカンドリング溝下面に跨るよう」に開口するのに対し、引用文献記載の発明Aでは、「セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側」に開口する点(以下、「相違点1a」という。)。

(2)相違点2a
オイルリング溝に係るオイルドレン孔の開口に関し、
本願補正発明では、「オイルリング溝底のピストン上下方向下部側からスカート部に跨るよう」に開口するのに対し、引用文献記載の発明Aでは、「オイルリング溝底のピストン上下方向中央」に開口する点(以下、「相違点2a」という。)。

(3)相違点3a
ファーストリングの合口隙間とセカンドリングの合口隙間に関し、
本願補正発明では、「ピストンリングを、圧力リングであるファーストリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1が、0.002?0.004であり、セカンドリングの合口隙間S1と、リング呼び径d1との比S1/d1が、0.0041?0.0096であるピストンリングとする」のに対し、引用文献記載の発明Aでは、ファーストリング及びセカンドリングのそれぞれの合口隙間とリング呼び径との関係が不明である点(以下、「相違点3a」という。)。


3-3.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1aについて
引用文献における、「貫通孔12に連通するように、セカンドリング溝の下側面に半径方向全幅に延びるオフセット溝14を設けるとオイルの戻しにさらに効果が得られる」(上記3-1.の(1)の(カ)の段落【0015】参照。)の記載及び図5からみて、当該引用文献における「貫通孔12」と「オフセット溝14」のセカンドリング溝4の溝底面の端部とを合わせて、「貫通孔12及びオフセット溝14のセカンドリング溝4の溝底面の端部」を本願補正発明における「セカンドリング溝に係るオイルドレン孔」に相当するものと認定することができるものであり、相違点1aに関し、本願補正発明と引用文献記載の発明Aとの実質的な差異はないものといわざるを得ない。
仮に、上記相違点1aのとおりの相違があるとしても、ピストンリングが組み込まれる内燃機関のピストンにおいて、ピストンリング溝の1つに係るオイルドレン孔を、ピストンリング溝底のピストン上下方向下部側からピストンリング溝下面に跨るように開口することは、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。必要があれば、例えば、特開2003-161203号公報の特に、段落【0014】及び【0022】並びに図3、特開平11-351055号公報の特に、段落【0023】及び図3、実願平2-41396号(実開平3-130958号)のマイクロフィルムの特に、明細書第2ページ第7行ないし第3ページ第1行及び第4図参照。)である。
そうすると、引用文献記載の発明Aにおいて、ピストンリング溝の1つであるセカンドリング溝に係るオイルドレン孔の開口について上記周知技術1を採用し、上記相違点1aに係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2aについて
ピストンリングが組み込まれる内燃機関のピストンにおいて、オイルリング溝に係るオイルドレン孔を、該オイルリング溝底のピストン上下方向下部側からスカート部に跨るように開口することは、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。必要があれば、例えば、原査定の拒絶の理由において例示した特開2000-345914号公報の特に、図2、同様に原査定の拒絶の理由において例示した特開平5-203055号公報の特に、図2、特開平10-37733号公報の特に、図4参照。)である。
そうすると、引用文献記載の発明Aにおいて、オイルリング溝に係るオイルドレン孔の開口について上記周知技術2を採用し、上記相違点2aに係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)相違点3aについて
ピストンリングにおける合口隙間やリング呼び径等はピストンリングとしての基本寸法である。そして、当該基本寸法は、当業者が必要に応じて適宜選択可能なものである(必要があれば、例えば、原査定の拒絶の理由において引用した特開平4-157262号公報の特に、第1ページ右下欄第15行ないし第2ページ左上欄第6行及び第5図参照。当該文献における「合口隙間s」とリング呼び径に相当する「ピストン径」との比は換算すると、ファーストリングに相当する「トップリング」では「0.0021?0.0025」であり、また、「セカンドリング」では「0.005?0.0067」であり、いずれも本願補正発明の数値範囲内に包含されるものである。また、特開平9-60726号公報の特に、段落【0023】ないし【0025】、【0056】、【0057】及び表17並びに図1参照。当該文献における「合口隙間」とリング呼び径に相当する「ボア径」との比は換算すると、ファーストリングに相当する「第1圧力リング」及びセカンドリングに相当する「第2圧力リング」ともに「0.0041」であり、「第1圧力リング」では本願補正発明の数値範囲の上限値に非常に近く、「第2圧力リング」では本願補正発明の数値範囲の下限値と一致している。)。
しかも、圧力リング2本、オイルリング1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれる内燃機関のピストンとピストンリングの組合せにおいて、ファーストリングの合口隙間よりセカンドリングの合口隙間を大きくすることは、従来から広く知られているように周知の技術(以下、「周知技術3」という。必要があれば、例えば、特開平4-157262号公報の特に、第2ページ左上欄第3ないし6行、特開平9-60726号公報の特に、段落【0003】参照。)である。
一方、本願補正発明における課題は、従来から広く知られていることである(必要があれば、例えば、特開平5-71420号公報の特に、段落【0002】、【0005】、【0007】及び【0008】並びに図32及び33、実願昭55-20167号(実開昭56-122748号)のマイクロフィルムの特に、明細書第1ページ第10行ないし第3ページ第3行及び第1図参照。)。
そうすると、引用文献記載の発明Aにおいて、上記周知技術3を採用し、上記相違点3aに係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項である。

また、本願補正発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明A及び周知技術1ないし3から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


3-4.まとめ
したがって、本願補正発明は、引用文献記載の発明A及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


【3】本願発明について
1.本願発明の内容
平成22年4月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし5に係る発明は、平成21年6月1日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、前記【2】の[理 由]の1.(b)の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。


2.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献(実願平4-59166号(実開平6-14455号)のCD-ROM)の記載事項は、前記【2】の[理 由]の3.の3-1.の(1)及び(2)に記載したとおりである。

(2)前記【2】の[理 由]の3.の3-1.の(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明B」という。)が記載されているものと認められる。

「圧力リング2本、オイルリング8の1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれる内燃機関用のピストン1であって、オイルリング8が装着されるオイルリング溝5にはピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間と連通するオイルの戻り孔が貫通して設けられているピストン1において、
セカンドリング溝4に係る貫通孔12を、セカンドリング溝4の溝底面のピストン上下方向下部側に開口し、ピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設け、
前記オイルリング溝5に係るオイルの戻り孔を、該オイルリング溝5の溝底面のピストン上下方向中央に開口し、かつ前記ピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設けた内燃機関用のピストン1。」


3.対比
本願発明と引用文献記載の発明Bとを対比すると、引用文献記載の発明Bにおける「オイルリング8」は、その機能及び形状や構造からみて、本願発明における「オイルリング」に相当し、以下同様に、「ピストン1」は「ピストン」に、「内燃機関用のピストン1」は「内燃機関用エンジンのピストン」に、「オイルリング溝5」は「オイルリング溝」に、「ピストン1のクランク室に面する面11に囲まれた内部空間」は「ピストン内部空間」に、「オイルの戻り孔」はオイルリング溝に係る「オイルドレン孔」に、「セカンドリング溝4」は「セカンドリング溝」に、「貫通孔12」はセカンドリング溝に係る「オイルドレン孔」に、「セカンドリング溝4の溝底面」は「セカンドリング溝底」に、「オイルリング溝5の溝底面」は「オイルリング溝底」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明Bにおける「セカンドリング溝4の溝底面のピストン上下方向下部側」は、「セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側を含むよう」という限りにおいて、本願発明における「セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側からセカンドリング溝下面に跨るよう」に相当する。
さらに、引用文献記載の発明Bにおける「オイルリング溝5の溝底面のピストン上下方向中央」は、「オイルリング溝底を含むよう」という限りにおいて、本願発明における「オイルリング溝底のピストン上下方向下部側からスカート部に跨るよう」に相当する。

したがって、本願発明と引用文献記載の発明Bとは、次の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「圧力リング2本、オイルリング1本からなる3本リング構成のピストンリングが組み込まれる内燃機関用エンジンのピストンであって、オイルリングが装着されるオイルリング溝にはピストン内部空間と連通するオイルドレン孔が貫通して設けられているピストンにおいて、
セカンドリング溝に係るオイルドレン孔を、セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側を含むように開口し、ピストン内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設け、
前記オイルリング溝に係るオイルドレン孔を、該オイルリング溝底を含むように開口し、かつ前記ピストン内部空間へ向けて直線的に連通する貫通孔として設けた内燃機関用エンジンのピストン。」

<相違点>
(1)相違点1b
セカンドリング溝に係るオイルドレン孔の開口に関し、
本願発明では、「セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側からセカンドリング溝下面に跨るよう」に開口するのに対し、引用文献記載の発明Bでは、「セカンドリング溝底のピストン上下方向下部側」に開口する点(以下、「相違点1b」という。)。

(2)相違点2b
オイルリング溝に係るオイルドレン孔の開口に関し、
本願発明では、「オイルリング溝底のピストン上下方向下部側からスカート部に跨るよう」に開口するのに対し、引用文献記載の発明Bでは、「オイルリング溝底のピストン上下方向中央」に開口する点(以下、「相違点2b」という。)。


4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1bについて
引用文献における、「貫通孔12に連通するように、セカンドリング溝の下側面に半径方向全幅に延びるオフセット溝14を設けるとオイルの戻しにさらに効果が得られる」(上記3-1.の(1)の(カ)の段落【0015】参照。)の記載及び図5からみて、当該引用文献における「貫通孔12」と「オフセット溝14」のセカンドリング溝4の溝底面の端部とを合わせて、「貫通孔12及びオフセット溝14のセカンドリング溝4の溝底面の端部」を本願発明における「セカンドリング溝に係るオイルドレン孔」に相当するものと認定することができるものであり、相違点1bに関し、本願発明と引用文献記載の発明Bとの実質的な差異はないものといわざるを得ない。
仮に、上記相違点1bのとおりの相違があるとしても、ピストンリングが組み込まれる内燃機関のピストンにおいて、ピストンリング溝の1つに係るオイルドレン孔を、ピストンリング溝底のピストン上下方向下部側からピストンリング溝下面に跨るように開口することは、前記【2】[理 由]3.3-3.(1)のとおり、周知の技術(周知技術1)である。
そうすると、引用文献記載の発明Bにおいて、ピストンリング溝の1つであるセカンドリング溝に係るオイルドレン孔の開口について上記周知技術1を採用し、上記相違点1bに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2bについて
ピストンリングが組み込まれる内燃機関のピストンにおいて、オイルリング溝に係るオイルドレン孔を、該オイルリング溝底のピストン上下方向下部側からスカート部に跨るように開口することは、前記【2】[理 由]3.3-3.(2)のとおり、周知の技術(周知技術2)である。
そうすると、引用文献記載の発明Bにおいて、オイルリング溝に係るオイルドレン孔の開口について上記周知技術2を採用し、上記相違点2bに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

また、本願発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明B、周知技術1及び周知技術2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明B、周知技術1及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-28 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-12 
出願番号 特願2004-337856(P2004-337856)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
P 1 8・ 575- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 西山 真二
柳田 利夫
発明の名称 内燃機関用エンジンのピストンとピストンリングの組合せ  
代理人 小林 英一  
代理人 小林 英一  

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