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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1237813
審判番号 不服2007-29937  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-02 
確定日 2011-06-01 
事件の表示 特願2005-114615「インキ脱泡システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月 4日出願公開、特開2005-305432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年3月7日(パリ条約による優先権主張 2001年3月22日、米国)に出願した特願2002-61342号の一部を平成17年4月12日に特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成18年8月10日付けで拒絶理由が通知され(発送日 同年同月15日)、同年12月19日付けで意見書が提出され、平成19年7月31日付けで拒絶査定がなされ(発送日 同年8月7日)、これに対し、同年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年11月14日付けで審判請求の請求の理由に係る手続補正及び明細書の記載に係る手続補正がなされ、その後、平成22年4月6日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋(発送日 同年同月13日)が通知され、これに対する回答書が同年10月12日に提出されたものである。

2.平成19年11月14日付けの明細書の記載に係る手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年11月14日付けの明細書の記載に係る手続補正を却下する。[理由]
2-1.本件補正について
平成19年11月14日付けの明細書の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本願出願当初の特許請求の範囲の請求項1である
「液体を脱泡するための膜接触器であって、
インキを分布させるための孔のあいた中心チューブと、
該チューブを取り囲んでいる、端部を有する複数の中空繊維膜と、
該端部に位置するチューブシートと、
該複数の中空繊維膜と該チューブシートとを取り囲んでいる外殻と、
該膜の内面で限定される管腔側と、
該孔のあいた中心チューブと、該膜の外面と、該外殻とで限定される外殻側とを含んでなり、
該膜は、単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜であり、該スキンはインキとの接触のために前記外殻側上にある膜接触器。」

「液体を脱泡するための膜接触器であって、
インキを分布させるための孔のあいた中心チューブと、
該チューブを取り囲んでいる、端部を有する複数の中空繊維膜と、
該端部に位置するチューブシートと、
該複数の中空繊維膜と該チューブシートとを取り囲んでいる外殻と、
該膜の内面で限定される管腔側と、
該孔のあいた中心チューブと、該膜の外面と、該外殻とで限定される外殻側とを含んでなり、
該膜は、単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜であり、
該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく、該スキンはインキとの接触のために前記外殻側上にある膜接触器。」
と補正することを含むものであり、この補正事項について以下検討する。
(下線部は補正箇所を明示するため当審で付加した。)

本件補正後の請求項1の「該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく」は、本件補正前の請求項1の「単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜」について、「複合材料膜」でも「多層膜」でもないことをさらに特定するものであり、このことは本願の出願当初の明細書(以下、「本願当初明細書」という。)の【0017】に「膜は、有利には単層膜(例えば、複合又は多層膜ではない)であり」とあることから新規事項を追加するものでもないから、この補正事項は請求項に記載された特定事項を限定的に減縮することを目的とするものに該当する。
したがって、この補正事項は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて以下に検討する。

2-2.独立特許要件について
2-2-1.補正発明について
補正発明は、平成19年11月14日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される事項によって特定される次のとおりのものである。
「液体を脱泡するための膜接触器であって、
インキを分布させるための孔のあいた中心チューブと、
該チューブを取り囲んでいる、端部を有する複数の中空繊維膜と、
該端部に位置するチューブシートと、
該複数の中空繊維膜と該チューブシートとを取り囲んでいる外殻と、
該膜の内面で限定される管腔側と、
該孔のあいた中心チューブと、該膜の外面と、該外殻とで限定される外殻側とを含んでなり、
該膜は、単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜であり、
該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく、
該スキンはインキとの接触のために前記外殻側上にある膜接触器。」

2-2-2.刊行物の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-84369号公報(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「特に、ポリ(4-メチルペンテン-1)系樹脂を膜素材とする膜壁に緻密層を有する中空糸不均質膜は酸素、窒素、炭酸ガス等のガスの透過性に優れ、疎水性が高く水蒸気バリヤー性に優れ工業用及び、医療用の気液ガス交換装置に最も好適である。中空糸膜の緻密層の形成位置に特に制限は無く、中空糸膜の外表面及び/又は内表面に形成していても良いが、特に中空糸膜の外表面に緻密層を形成しているポリ(4-メチルペンテン-1)系樹脂からなる中空糸膜は、血液の補体活性が低く、血液との親和性に優れ、且つ長期に亘り血漿リークが無く、ガス交換性能の低下も無く外部灌流型人工肺用として最も好適に適用される。また、ポリ(4-メチルペンテン-1)系樹脂は人工肺用として一般使用されているポリプロピレンと比較し素材自体のガス透過性が約10倍であり、本質的に中空糸膜壁を連通した微多孔部分でのみしかガス交換を行わないポリプロピレン微多孔膜と比較し、膜表面全体でガス交換を行うことができ極めて好ましい。
溶融法によるポリ(4-メチルペンテン-1)系樹脂を膜素材とする不均質膜については、例えば特願平5-6656号公報、及び特公平7-121340号公報に開示されている。」(【0033】、【0034】)
(刊1-イ)「図1は多孔のパイプの周りに中空糸膜シートを巻気付け、円筒状のハウジングに組み込んだ外部灌流型気液ガス交換装置のモデル図である。図中実線で示す矢印は液体の流れをモデル的に示している。図中6は樹脂封止部であり、ウレタン樹脂及び/又はエポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂等を使用し中空糸をハウジングに液密に支持固定している。中空糸膜は両封止樹脂の外側にその内側を開口している。人工肺として使用する場合は図中1より血液を中空糸簾を巻き付けた多孔パイプに流し入れる。血液は主にその多孔部より中空糸簾巻体の半径方向に均等に流れ、シート巻き体とハウジングの空間部を流れて図中2から排出される。この間、図中3より、例えば酸素混合ガスを適切な流量で中空糸内部に流し込み中空糸膜を介して血液に酸素を供給すると共に、血液から炭酸ガスを除去する。また、必要に応じて、例えば、多孔パイプの内部及び/又は外側にフィンタイプやチューブタイプ゜等の熱交換機構を付与する事ができる。図3に示す外部灌流型気液ガス交換装置のモデル図は中心の多孔パイプを中央の仕切で二つの部分に分割している事を特長としている。図中1より流し入れた液体は多孔パイプの多孔部より中空糸膜シート巻き体の中空糸間隔をクロスフローで半径方向に流れ、再び中空糸膜シートをクロスして多孔パイプ内に流入して図中2より流出する。
人工肺として使用する場合、血液を流すと同時に図3中3より酸素混合ガスを中空糸の内側に流し入れガス交換を行う事ができる。また、工業用途として脱気された水等を製造する場合、図3中の3及び/又は4から真空ポンプ等で中空糸内部を減圧し液体の脱気を行うことができる。」(【0044】、【0045】)
(刊1-ウ)「1,2 液体流入/流出口
3,4 ガス流入/流出口,脱気口
5 中空糸膜
6 封止樹脂部
7 多孔パイプ
8 中空糸膜シート縦糸
9 多孔パイプ 」(【符号の説明】)
(刊1-エ)「本発明の実施例で用いた多孔パイプの中心部に仕切を有する円筒型の外部灌流型ガス交換装置の構造モデル図」と題され、「図中矢印は液体の流れのモデルを示す」と記載された【図3】(8頁)には、上記摘示事項(刊1-イ)、同(刊1-ウ)に摘示されるように、符号「9」で示される「多孔パイプ」、符号「5」で示される前記「多孔パイプ」の周囲の多数の「中空糸膜」、図3に直接には符号「6」は示されていないが図1の符号「6」で示される部品と同一部品であることが明らかな「封止樹脂部」(上記(刊1-イ)では「樹脂封止部」と表記されている。)、図中の「矢印は液体の流れのモデルを示す」ことから「液体流入口」であることが明らかな符号「1」で示される部品と、同じく「液体流出口」であることが明らかな符号「2」で示される部品、符号「3」「4」で示される「ガス流入/流出口,脱気口」、上記の各部品を取り囲んでいる「円筒状のハウジング」、符号「3」「4」で示される「ガス流入/流出口,脱気口」と上記「中空糸膜」の左右両端側の上記「樹脂封止部」とが上記「ハウジング」内で連通していることを、各々見てとれる。
そして、「図中矢印は液体の流れのモデルを示す」ことから、図中の「矢印」に従えば、符号「9」で示される「多孔パイプ」の符号「1」で示される「液体流入口」から流入した「液体」は、符号「9」で示される「多孔パイプ」に設けられた多数の孔から出て、ケーシング内の、符号「5」で示される多数個の「中空糸膜」の外面上を移動しつつ流れ、再び符号「9」で示される「多孔パイプ」に設けられた多数の孔へ戻り、符号「9」で示される「多孔パイプ」の符号「2」で示される「液体流出口」から流出することがみてとれる。

(2)原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-298470号公報(以下、「刊行物2」という。)には次の事項が記載されている。
(刊2-ア)「【請求項1】 気体透過性を有し、内径が50?500μm、膜厚が10?150μmである中空糸膜内にインクを通液し、中空糸膜の外表面側を減圧することにより、インク中の溶存気体を除去することを特徴とするインクの脱気方法。」(【特許請求の範囲】)
(刊2-イ)「【発明の属する技術分野】本発明は、プリンター等に利用されるインクの製造工程において、その印刷物の解像度や鮮明さを損なう要因となったり、微細な気泡発生を引き起こす溶存ガスを、インク中から除去するためのインクの脱気方法及びインク脱気装置に関する。」(【0001】)
(刊2-ウ)「中空糸膜2は、気体透過性を有し、内径が50?500μm、膜厚が10?150μmの範囲内にある。内径及び膜厚がこの様な範囲内にある中空糸膜を用いることにより、中空糸膜モジュール内の圧力損失が低く、更に中空糸膜の振動等が起こっても、中空糸膜が破損することなくインクの脱気処理を行うことができる。この様な中空糸膜としては、多孔質の中空糸膜或いは非多孔質の均質層からなる中空糸膜を用いることができる。好ましくは、気体透過性の非多孔質層の両面に、多孔質層が配された三層構造を有する複合中空糸膜を用いると、インクのリークが無く、かつ溶存気体の除去効率に優れた、インクの脱気を行うことができる。
この様な複合中空糸膜の非多孔質層を構成するポリマー素材としては・・・ポリ4-メチルペンテン-1・・・等を用いることができる。
また、多孔質層を構成するポリマー素材としては・・・ポリ4-メチルペンテン-1・・・等のポリマーを用いることができる。
非多孔質層を構成するポリマー素材と、多孔質層を構成するポリマー素材との組み合わせについては特に限定されず、異種のポリマーはもちろん、同種のポリマーであっても構わない。」(【0018】?【0021】)

(3)原査定の拒絶の理由に周知例として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-317210号公報(以下、「刊行物3」という。)には次の事項が記載されている。
(刊3-ア)「【発明の属する技術分野】この発明は、液晶やインク、フォトレジスト液等の薬液中に溶解した気体を脱気するための薬液脱気装置および薬液脱気方法に関する。」(【0001】)
(刊3-イ)「本発明における隔膜は、薬液に対して非透過性かつ気体透過性のものが用いられる。たとえば・・・ポリ4メチルペンテン1多孔質中空糸膜などの多孔質中空糸膜、膜の厚み方向に微孔から無孔へと孔径分布のついた不均質中空糸膜、気体透過性素材(たとえば・・・ポリ4メチルペンテン1など)からなる均質(無孔)中空管状体、気体透過性材料(たとえば・・・ポリ4メチルペンテン1など)の薄膜を多孔質支持体上に形成した複合化膜などの気体透過性膜を用いることができる。」(【0014】)
(刊3-ウ)「実施例2
本実施例では、図2に示す装置を用いてインクジェットプリンタ用インクを脱気した。この装置では多孔質の中空糸からなる隔膜6が用いられ、図2(b)のように、隔膜6を介して溶存気体11が除去されるようになっている。装置の詳細、用いたインクジェットプリンタ用インク、脱気後の溶存ガス濃度については表1に示す。本実施例によれば、気泡や不純物の混入がなく、高効率の脱気を行うことができた。」(【0023】)

(4)本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-210146号公報(以下、「刊行物4」という。)には次の事項が記載されている。
(刊4-ア)「【請求項1】結晶性熱可塑性樹脂を中空糸状に溶融押出した後、延伸することにより得られる中空糸膜において、中空糸膜が外表面にのみ緻密層を有し、且つ膜内部に多孔質層を有することを特徴とする中空糸不均質膜。
【請求項2】結晶性熱可塑性樹脂が、ポリ-4メチル-1-ペンテンを主成分とすることを特徴とする請求項1記載の中空糸不均質膜。」(【特許請求の範囲】)
(刊4-イ)「本発明の中空糸不均質膜は・・・気体-液体系の分離膜(気液接触用膜)として・・・またボイラ-用水、半導体製造用超純水、発電用水等の水からの溶存酸素の除去、上水の脱酸素による赤水対策、純水中の溶存酸素や溶存炭酸ガスの除去、有機溶剤や酸アルカリ等脱気や脱泡・・・などの分野で利用される。」(【0002】)
(刊4-ウ)「また本発明の不均質膜を溶存気体脱気用隔膜として、例えば半導体の洗浄に欠かせない超純水の脱酸素や、ボイラ-の環水の脱酸素、・・・等に応用した場合、優れた脱気体性能を発揮する。」(【0056】)

(5)本願出願前に頒布された刊行物である特公平7-121340号公報(以下、「刊行物5という。)には次の事項が記載されている。
(刊5-ア)「【産業上の利用分野】本発明は特定の酸素/窒素の分離係数を有する中空繊維膜に関するものであり、ボイラー供給水脱酸素装置等用の気液接触装置、培養槽等に用いられるものである。」(【0001】)
(刊5-イ)「(実施例1)
メルトインデックス(ASTM D1238による)26のポリ-4-メチルペンテン-1を、直径6mmの円環型中空繊維用ノズルを用いて、紡糸温度290℃、引取速度300m/分、ドラフト380で溶融紡糸し、中空繊維を得た。この時ノズル口下3?35cmの範囲を温度25℃、風速1.5m/秒の風で冷却した。得られた中空繊維を温度35℃、延伸倍率(DR)1.05で、ローラー系を用いて連続的に非晶延伸し、次いで220℃、DR 1.1で熱風循環型恒温槽中に導入して5秒間滞留させる事により熱処理を行ない、引続き35℃、DR1.2の冷延伸、150℃、DR1.4の熱延伸、および200℃、DR0.93の熱固定を行なって、外径246μm、膜厚25μmの中空繊維膜を得た。この膜の内外表面を12,000倍のSEMで観察したところ、中空糸内表面には孔径約0.1μmの細孔が1cm^(2)当り約50×10^(9)個開口しているのが観測されるのに対し、外表面にはその1/50程度の開口しか存在しなかつた。この膜の気体透過性はQ(O_(2))=2.0×10^(-4)cm^(3)(STP)/(cm^(2)・sec・cmHg))α=1.09であり、第(1)式およびポリ4-メチルペンテン-1の特性値P(O_(2))=2.0×10^(-9)cm^(3)(STP)・cm/(cm^(2)・sec・cmHg)、α_(1)=4.1を用いて計算したエタノール遮断層(L)の厚みは0.53μmであつた。」(【0023】)

2-2-3.刊行物1に記載された発明の認定
i)刊行物1の視認事項(刊1-エ)、摘示事項(刊1-イ)、同(刊1-ウ)から、刊行物1には、「多孔パイプ9」、「多孔パイプ9」の周囲の多数の「中空糸膜5」、「封止樹脂部6」、「液体流入口1」「液体流出口2」「ガス流入/流出口,脱気口3,4」、上記各部品を組み込んだ「円筒状のハウジング」を有する「外部灌流型ガス交換装置」が記載されているということができ、当該「外部灌流型ガス交換装置」は、同(刊1-イ)に「工業用途として脱気された水等を製造する」と記載されることから、上記装置は「工業用途」として液体を脱気するものであり得ることがわかる。
そして、「液体流入口1」から流入した「液体」は、「多孔パイプ9」に設けられた多数の孔から出て、「円筒状のハウジング」内の多数個の「中空糸膜5」の外面上を移動しつつ流れ、再び「多孔パイプ9」に設けられた多数の孔へ戻り、「液体流出口2」から流出することが理解される。
ii)また、摘示事項(刊1-イ)に「図中6は樹脂封止部であり、ウレタン樹脂及び/又はエポキシ樹脂及び/又はシリコーン樹脂等を使用し中空糸をハウジングに液密に支持固定している。中空糸膜は両封止樹脂の外側にその内側を開口している」と記載され、視認事項(刊1-エ)から、「中空糸膜」の左右両端側に「樹脂封止部」があることから、「封止樹脂部6」は「中空糸膜5をハウジングに液密に支持固定」し、「中空糸膜5」はその両端を「封止樹脂の外側にその内側を開口」していることがわかる。
そして、同(刊1-イ)に「工業用途として脱気された水等を製造する場合、図3中の3及び/又は4から真空ポンプ等で中空糸内部を減圧し液体の脱気を行うことができる」と記載され、同(刊1-エ)から「ガス流入/流出口,脱気口3,4」と「樹脂封止部6」とが上記「ハウジング」内で連通していることがわかるから、「封止樹脂部6」は「中空糸膜5をハウジングに液密に支持固定」し、「中空糸膜5」はその両端を「封止樹脂の外側にその内側を開口」しているので、「中空糸膜5」は、その両端が「封止樹脂」の箇所で開口し、「ガス流入/流出口,脱気口3,4」からその内部を「減圧」されることが理解される。
iii)さらに、同(刊1-ア)には「特に、ポリ(4-メチルペンテン-1)系樹脂を膜素材とする膜壁に緻密層を有する中空糸不均質膜は酸素、窒素、炭酸ガス等のガスの透過性に優れ、疎水性が高く水蒸気バリヤー性に優れ工業用及び、医療用の気液ガス交換装置に最も好適である。中空糸膜の緻密層の形成位置に特に制限は無く、中空糸膜の外表面及び/又は内表面に形成していても良い」として、刊行物1に記載の上記「外部灌流型ガス交換装置」の「中空糸不均質膜」(単に「中空糸膜」とも表記されている。)は「工業用途」に用いることができ、その素材が「ポリ(4-メチルペンテン-1)系樹脂」であり、「中空糸膜の緻密層」が「中空糸膜の外表面」にあり得ることも記載されている。
iv)以上の上記i)?iii)の検討から、上記摘示事項(刊1-ア)?(刊1-エ)の記載を、その装置構造に着目して、補正発明の記載ぶりに則して表現すると、刊行物1には、

「工業用途で液体を脱気する外部灌流型ガス交換装置であって、多孔パイプと、多孔パイプの周囲の多数の中空糸膜と、中空糸膜の両端が開口してその内部を減圧できるように中空糸膜をハウジングに液密に支持固定する封止樹脂部と、多数の中空糸膜と封止樹脂部とを取り囲んでいる円筒状のハウジングとを含んでなり、中空糸膜はポリ(4-メチルペンテン-1)系樹脂でなり、その緻密層が外表面にある外部灌流型ガス交換装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)

が記載されていると認められる。

2-2-4.補正発明と引用発明との対比
i)補正発明の「膜接触器」は「本発明は、インキの脱泡(又は脱ガス)の方法を指向する」(本願明細書【0011】)もので、インキという液体から脱気するためのものであり、引用発明の「外部灌流型ガス交換装置」も、同(刊1-イ)に「工業用途として脱気された水等を製造する」と記載されるように液体から脱気するためのものであるから、引用発明の「外部灌流型ガス交換装置」は補正発明の「膜接触器」に相当するといえる。
ii)引用発明の「多孔パイプ」は多数の孔を有し、上記「2-2-3.」i)で述べたように、液体が「多孔パイプ」に設けられた多数の孔から出て、「円筒状のハウジング」内の多数個の「中空糸膜」の外面上を移動しつつ流れ、再び「多孔パイプ」に設けられた多数の孔へ戻ることから、当該多数の孔は「液体を分布させる」ためのものといえるので、引用発明の「多孔パイプ」は、補正発明の液体を「分布させるための孔のあいた中心チューブ」である点で共通するといえる。
iii)引用発明の「多孔パイプの周囲の多数の中空糸膜」は、「中空糸膜」が「その両端」を有することから、補正発明の「チューブを取り囲んでいる、端部を有する複数の中空繊維膜」に相当するといえる。
iv)引用発明の「封止樹脂部」は、「中空糸膜の両端が開口してその内部を減圧できるように中空糸膜をハウジングに液密に支持固定する」ことで
「中空糸膜」が「ガス流入/流出口,脱気口」から「減圧」されるものである。
他方で、補正発明の「端部に位置するチューブシート」も、「中空繊維34は、中心チューブ26を取り囲み、チューブシート36を介して、チューブ26の軸に一般に平行に保持される。中空繊維34は、チューブシート(tube sheet)36を抜けて延伸し、接触器14のどちらかの端部のヘッドスペース(headspace)38と連絡し、その結果、ポート40と42で引かれた真空44は、ヘッドスペース38を経て、管腔側と連絡する。例えば、ポート40は、掃気ガスを導入するのにも使用でき、この掃気ガスは、連行ガスの除去を促進する」(本願明細書【0018】)と記載されており、「チューブシート」は「中空繊維」を「保持」し、「中空繊維」は、「チューブシート」を抜けて延伸し、「ヘッドスペース」と連絡し、「ポート40と42」で引かれた真空で減圧されるものである。
よって、引用発明の「中空糸膜の両端が開口してその内部を減圧できるように中空糸膜をハウジングに液密に支持固定する封止樹脂部」は補正発明の「端部に位置するチューブシート」に相当するといえる。
v)「ハウジング」は容器の「外殻」とも言い得ることから、引用発明の「多数の中空糸膜と封止樹脂部とを取り囲んでいる円筒状のハウジング」は、補正発明の「複数の中空繊維膜と該チューブシートとを取り囲んでいる外殻」に相当するといえる。
vi)補正発明では、本願明細書【0018】を参酌すれば「インキ22は、中心チューブ26の入口24を通って移動し・・・孔あき部(perforation)28を経てチューブ26を出る。次いで、インキ22は、中空繊維34の外面上を移動する。インキ22は・・・孔あき部28を経て、中心チューブ26に再突入し、インキ出口32を経てチューブ26を出る」が、その間に「中空繊維34は・・・ポート40と42で引かれた真空」で減圧されるものであり、「膜の内面で限定される管腔側」では減圧により脱気が行われることで気体のみ存在し、「孔のあいた中心チューブと、該膜の外面と、該外殻とで限定される外殻側」では気体を内包する液体が存在すると言い得る。
他方で、引用発明では、上記「2-2-3.」の検討から、「液体」は、「多孔パイプ」に設けられた多数の孔から出て、「円筒状のハウジング」内の多数の「中空糸膜」の「間隔をクロスフローで半径方向に流」れ、再び「多孔パイプ」に設けられた多数の孔へ戻る間に、中空糸膜内が減圧されることで、液体の脱気が行われるものであるから、減圧により脱気が行われることで気体のみ存在する「中空糸膜」の内面と、「多孔パイプ」と「中空糸膜」の外面と「円筒状のハウジング」とで限定される気体を内包する液体が存在する部分とが存在するといえる。
よって、引用発明の「中空糸膜」の内面は、補正発明の「膜の内面で限定される管腔側」に相当し、引用発明の「多孔パイプ」と「中空糸膜」の外面と「円筒状のハウジング」とで限定される部分は、補正発明の「孔のあいた中心チューブと、該膜の外面と、該外殻とで限定される外殻側」に相当するといえる。
v)引用発明では「中空糸膜はポリ(4-メチルペンテン-1)系樹脂でなり、その緻密層が外表面にある」ものであり、補正発明では「膜は、単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜であり、該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく、該スキンはインキとの接触のために前記外殻側上にある」ものであって、「緻密層」は「スキン」と言い得るし、膜の「外殻側上」は上記vi)で検討したように液体と接する膜の外表面であるから、両者は「中空繊維膜」の材質が「ポリメチルペンテン」であり「スキンが外殻側上にある」ことで共通する。
vi)以上から、補正発明と引用発明とは
「液体を脱泡するための膜接触器であって、
液体を分布させるための孔のあいた中心チューブと、
該チューブを取り囲んでいる、端部を有する複数の中空繊維膜と、
該端部に位置するチューブシートと、
該複数の中空繊維膜と該チューブシートとを取り囲んでいる外殻と、
該膜の内面で限定される管腔側と、
該孔のあいた中心チューブと、該膜の外面と、該外殻とで限定される外殻側とを含んでなり、
該膜は、スキンが外殻側上にあるポリメチルペンテン中空繊維膜である膜接触器。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>補正発明は、その用途が「インキ」を脱泡するためのものであるのに対して、引用発明は、「工業用途」に用いられるものではあるが「インキ」を脱泡するためのものとまでは特定されていない点。
<相違点2>補正発明では、ポリメチルペンテン中空繊維膜が、外殻側上に「単層の」スキン付きの「中空繊維微多孔質膜であり、該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく、該スキンはインキとの接触のために」前記外殻側上にあるのに対して、引用発明では、スキンが外殻側上にあるポリメチルペンテン中空繊維膜である点

2-2-5.相違点の検討
(1)相違点1について
i)例えば、刊行物2の摘示事項(刊2-イ)には、「印刷物の解像度や鮮明さを損なう要因となったり、微細な気泡発生を引き起こす溶存ガスを、インク中から除去する」ことが記載され、同(刊2-ウ)には、そのために「気体透過性の非多孔質層の両面に、多孔質層が配された三層構造を有する複合中空糸膜」を用いること、「非多孔質層」と「多孔質層」の材質が「同種のポリマーであっても構わ」ず、それが「ポリ4-メチルペンテン-1」であり得ることが記載されている。
また、刊行物3の摘示事項(刊3-ア)にも、「インク・・・等の薬液中に溶解した気体を脱気する」ことが記載され、同(刊3-イ)には、「たとえば・・・ポリ4メチルペンテン1多孔質中空糸膜などの多孔質中空糸膜、膜の厚み方向に微孔から無孔へと孔径分布のついた不均質中空糸膜、気体透過性素材(たとえば・・・ポリ4メチルペンテン1など)からなる均質(無孔)中空管状体、気体透過性材料(たとえば・・・ポリ4メチルペンテン1など)の薄膜を多孔質支持体上に形成した複合化膜などの気体透過性膜を用いる」ことが記載されていることから、インキの脱泡(脱気)のために、「ポリメチルペンテン」からなる中空糸膜を用いることは周知技術であるということができる。
ii)ここで、刊行物2の中空糸膜は摘示事項(刊2-ア)に「中空糸膜内にインクを通液し、中空糸膜の外表面側を減圧することにより、インク中の溶存気体を除去する」ものであり、また、刊行物3の中空糸膜は摘示事項(刊3-ウ)に「多孔質の中空糸からなる隔膜6・・・を介して溶存気体11が除去される」ものであり、共に中空糸膜内にインキを通液し、中空糸膜の外側を減圧するインキからの脱泡を行うものであり、これに対し引用発明は、中空糸膜の外側に液体を通液し、中空糸膜内を減圧して液体の脱泡を行うものだから、両者は、中空糸膜の内外を流通する流体が互いに相違する。
しかし、引用発明と同様に中空糸膜の外側に液体を通液し、中空糸膜内を減圧して液体の脱泡を行うことも例えば特開平11-114310号公報(【図2】、【0007】)、特開平10-43505号公報(【図1】、【図2】、【0008】、【0009】)に記載されるように周知技術である。
そして、中空糸膜内に液体を通液すれば流速が低いから処理量を増やそうとすれば圧力損失が高くなり、逆に、中空糸膜外に液体を通液すれば液体を通液するための構造を別途要するため装置構造が複雑化してコスト高になることは技術常識であって(必要なら特開平11-179167号公報【0003】?【0007】を参照)、どちらの形式を選択するかは必要に応じて設計的になされるものというべきである。
iii)したがって、「ポリメチルペンテン」からなる中空糸膜を用いてインキの脱泡(脱気)を行うことは周知技術であり、液体であるインキを中空糸膜内外のどちらに通液させるかは設計的事項といえる。
iv)すると、上記周知技術でのインキの脱気のための中空糸膜の材質と、引用発明の工業用途の液体の脱気のための中空糸膜の材質とは、同じ「ポリメチルペンテン」であり、中空糸膜という構造をとることも両者で共通することから、当該中空糸膜に要求される圧力の変化、膜の配向、膜の物理的性質等の機能性質は両者で類似するものということができる。
そうであれば、工業用途として「ポリメチルペンテン」からなる中空糸膜を用いて液体を脱気する引用発明において、引用発明と同じく「ポリメチルペンテン」からなる中空糸膜を用いてインキの脱気を行う刊行物2、3の記載に代表される周知技術を適用し、中空糸の外側にインキを通液し中空糸膜内を減圧して脱気を行うようにすることに格別の困難性は見いだせない。

(2)相違点2について
刊行物1に記載された周知技術についての文献(摘示事項(刊1-ア)を参照)である刊行物4、5の摘示事項をみると、まず、摘示事項(刊4-ア)には「外表面にのみ緻密層を有し、且つ膜内部に多孔質層を有」する「ポリ-4メチル-1-ペンテン」からなる「中空糸不均質膜」が記載され、同(刊4-イ)、同(刊4-ウ)には、該「中空糸不均質膜」を「気体-液体系の分離膜」として用いて「脱気や脱泡」をさせることが記載されている。 また、摘示事項(刊5-イ)には、「ポリ-4-メチルペンテン-1を、直径6mmの円環型中空繊維用ノズルを用いて、紡糸温度290℃、引取速度300m/分、ドラフト380で溶融紡糸し、中空繊維を得た。この時ノズル口下3?35cmの範囲を温度25℃、風速1.5m/秒の風で冷却した。得られた中空繊維を温度35℃、延伸倍率(DR)1.05で、ローラー系を用いて連続的に非晶延伸し、次いで220℃、DR 1.1で熱風循環型恒温槽中に導入して5秒間滞留させる事により熱処理を行ない、引続き35℃、DR1.2の冷延伸、150℃、DR1.4の熱延伸、および200℃、DR0.93の熱固定を行なって、外径246μm、膜厚25μmの中空繊維膜を得た」ことが記載され、「この膜の内外表面を12,000倍のSEMで観察したところ、中空糸内表面には孔径約0.1μmの細孔が1cm^(2)当り約50×10^(9)個開口しているのが観測されるのに対し、外表面にはその1/50程度の開口しか存在しなかつた」と記載されることから、この「中空繊維膜」は「ポリ-4-メチルペンテン-1」からなり、「外表面」のみが緻密で、「内表面」が多孔質であるものと言い得る。
そして、摘示事項(刊5-ア)から、この「中空繊維膜」は「ボイラー供給水脱酸素装置等用の気液接触装置・・・等に用いられる」もので、液体の脱気に用いられるものと言え、「外表面」のみが緻密であるということは「外表面」にだけに単一で緻密層が存在することを意味すると言える。
すなわち、外表面に単一の緻密層を有し、内部に多孔質層を有する構造のポリ-4メチル-1-ペンテンからなる中空糸膜を液体からの脱気に用いることは、例えば刊行物4,5に記載されるように周知技術であるということができる。
そして、上記構造の外表面の単一の緻密層は、補正発明の「単層のスキン」に相当し、また、上記構造は「複合材料膜でも多層膜でもな」いものであることは明らかであり、上記「(1)相違点1について」で述べたように、中空糸膜の外表面の緻密層を液体の通液側にすることは設計的なことに過ぎず、液体を「インキ」とすることは上記「(1)相違点1について」に記載したとおりである。
してみると、相違点2の補正発明の構造は、上記刊行物4,5として刊行物1に記載があったものと言うことができるから、相違点2は実質的な相違点とはいえないとも言い得るし、少なくとも、引用発明1のポリメチルペンテン中空繊維膜の構造として、刊行物4、5の記載に代表される周知技術である「単層のスキン付き」の「中空繊維微多孔質膜であり、該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく、該スキンはインキとの接触のために前記外殻側上にある」構造を適用することに格別の困難性は見いだせない。

以上から、補正発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?5に代表される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、その余の点について検討するまでもなく本件補正は却下すべきものである。

3.本願発明について
3-1.本願発明
平成19年11月14日付けの明細書の記載に係る手続補正は前記「2.」のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、本願出願当初の特許請求の範囲の請求項1?8に記載される事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「液体を脱泡するための膜接触器であって、
インキを分布させるための孔のあいた中心チューブと、
該チューブを取り囲んでいる、端部を有する複数の中空繊維膜と、
該端部に位置するチューブシートと、
該複数の中空繊維膜と該チューブシートとを取り囲んでいる外殻と、
該膜の内面で限定される管腔側と、
該孔のあいた中心チューブと、該膜の外面と、該外殻とで限定される外殻側とを含んでなり、
該膜は、単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜であり、該スキンはインキとの接触のために前記外殻側上にある膜接触器。」

3-2.刊行物の記載と引用発明
刊行物1?5について、上記「2-2-2.刊行物の記載」の(1)?(5)に、それぞれ記載のとおりである。
引用発明は「2-2-3.刊行物1に記載の発明」に記載のとおりである。

3-3.本願発明と引用発明との対比
本願発明は、前記「2.」で検討した補正発明において、「該膜は、単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜であり、該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく」とされていた事項の内の「該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく」を削除して、「該膜は、単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜であり、」と拡張するものであるから、本願発明は補正発明を拡張する発明と言える。
すると、本願発明の特定事項を全て含む補正発明が上記「2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?5に代表される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、補正発明と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-4.請求人の主張について
請求人は、刊行物1に記載の発明は、「人工肺」への利用を企図し、「血液に酸素を供給し、二酸化炭素を除去するためのガス交換装置」に係る発明であるから、インキから空気あるいはガスを除去する装置に関する本発明とは、圧力の変化、膜の配向、膜の物理的性質(例えば、孔径、孔の分布、孔の形状、膜の構造等)において、全く異なる考慮を要するものであるから、刊行物1に記載の発明から本発明を想起し得るものではない旨を主張する。
しかしながら、刊行物1に記載の発明は上記したように「工業用途として」も用いられるものであり、また「人工肺」に用いられるものであったにせよ、上記のように膜の構造材質が同様であるものが工業用途に用いられる以上、その用途における上記出願人の主張する膜の各種性質も「人工肺」と同様なものであると推認されるから、刊行物1に記載の発明を工業用途、特にインキのからの脱泡に適用できることを想起し得ないとする請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、回答書において補正案を提示し、補正の機会を設けることを希望しているので、この補正案について検討しておく。
当該補正案は、補正発明において、「液体」、「単層のスキン付きのポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜であり、該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく」を、それぞれ「インキ」、「単層のスキン付きのポリメチルペンテン非対称性中空繊維微多孔質膜であり、該膜は複合材料膜でも多層膜でもなく」とするものである。(下線部は変更箇所であり当審で付記した。)
これらについて検討するに、前者については、「液体」を「インキ」とすることは、上記のように「インキ」への適用に格別な点が認められない。
また、後者については、この補正案部分の根拠となる記載は「非対称な中空繊維微多孔質膜」(本願明細書【0011】)とのみしか見いだせない。
そこで、「非対称性」の意味について考察するに、例えば特開平9-94447号公報には「本発明の薬液供給装置の中空糸膜モジュ-ルに使用する中空糸膜の膜構造は・・・多孔質膜の表面に実質的に連通した孔の無いスキン層を有する構造等の非対称構造・・・ここで云う非対称膜とは、膜構造が均一ではない不均質膜、多孔質膜と均質膜を張り合わせる等により作られる複合膜等、構造が対称で無い膜の総称である」(【0013】)であると記載され、この中空糸膜構造は補正発明のそれと同じものと考えられるところ、当該構造について「非対称構造」と称されているので、上記補正案の「非対称性」は補正発明の構造を文言を変えて表現したものということができるから、当該補正案の発明も実質的には何ら補正発明と変わるものではないといえる。
したがって、上記補正案を認めても、当該補正案の発明に対する判断は補正発明に対する判断と変わらないので、補正の機会を新たに設けることはできない。

3-5.むすび
以上のとおり、本願発明は刊行物1に記載された発明及び刊行物2?5に代表される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-28 
結審通知日 2011-01-04 
審決日 2011-01-17 
出願番号 特願2005-114615(P2005-114615)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 忠宏須藤 康洋中村 敬子  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小川 慶子
中澤 登
発明の名称 インキ脱泡システム  
代理人 田中 玲子  
代理人 山田 勇毅  
代理人 北野 健  
代理人 大野 聖二  
代理人 森田 耕司  

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