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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1238050
審判番号 不服2010-5818  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-17 
確定日 2011-06-08 
事件の表示 特願2002-266575「分析対象物を検出するための試薬」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月3日出願公開、特開2003-185619〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年9月12日(パリ条約による優先権主張 平成13年9月14日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし10に係る発明は、平成20年11月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びに下記式:
【化1】

及びそれらの組み合わせ
(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)及びR^(9)は、同一又は異なり、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、環式、複素環式、ハロ、ハロアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、芳香族ケト、脂肪族ケト、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、スルホ、ジヒドロキシホウ素及びそれらの組み合わせからなる群から選択される)
からなる群から選択される媒介物
を含む、分析対象物を検出するための試薬。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献1)及び刊行物2(原査定の引用文献2)には以下の事項がそれぞれ記載されている。

(1)刊行物:特表平6-503472号公報
(1a)「1.レドックス系と、電気的導性粒子のペースト及びペースト化材料及び電荷移動仲介剤を含んで成る電極との間の電子移動を包含し、ここでのこの仲介剤が前記した一般式X(ここでその記号の定義は前記した通りである)の化合物である、生化学的方法。
2.前記仲介剤が、1,4-ジアミノ-2,3,5,6-テトラメチルベンゼン、N,N,N-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン-1,4-ビス(ジメチルアミノ)ベンゼン、1-ジメチルアミノ-4-モルホリノベンゼン、1,4-ジモルホリノベンゼン、1-モルホリノ-4-ピペリジノベンゼン、2,5-ジエチル-1,4-ビス(ジメチルアミノ)ベンゼン、1,4-ジピペリジノベンゼン、N-(4-モルホリノフェニル)ヘキサヒドロアゼビン、4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(=メチレングリーン)及びメルドーラブル-(=7-ジメチルアミノ-1,2-ベンゾフェノキサジニウム塩、例えば塩化物又は硫酸塩)である、請求項1に記載の方法。
3.前記仲介剤がペースト化材料の中で完全又は部分的に結晶状で存在している、請求項1又は2に記載の方法。
」(特許請求の範囲請求項1、2)
(1b)「分野
本発明は流体サンプルの少なくとも一成分、特にグルコース含有水性媒体、例えば体液、特に全血サンプル中のグルコースの濃度を測定するための生化学的方法、及びかかる方法において用いるための電荷移動仲介剤に関する。」(第2頁右上欄2?6行)
(1c)「グルコース含有水性媒体のサンプル中のグルコース濃度を測定するための方法の基礎は、グルコースと酵素グルコースオキシダーゼ(COD)との反応である。この酸化反応により生成する電子は仲介剤へと移動し、そして最終的にこのセンサー電極中の導性物質、例えばグラファイト粒子により捕獲される。このグルコースの酵素触媒化酸化はグルコン酸及び「還元型」のグルコースオキシダーゼ、即ち、少なくとも1個の官能基が還元されたグルコースオキシダーゼをもたらす。この還元型酵素は、「還元型」の仲介剤から電気的導性センサー電極への電子の譲渡により生成される酸化型の仲介剤と反応し、そしてこれによりグルコースオキシダーゼは還元型の仲介剤と共に再生される。この過程の中で生ずる電流はサンプル中に存在しているグルコース濃度に比例する。
この反応は以下の式により図式的に説明されうる:
グルコース+グルコースオキシダーゼ-FAD+H_(2)O→
グルコン酸+グルコースオキシダーゼ-FADH_(2) (I)
グルコースオキシダーゼ-FADH_(2)+2CTMox^(+)→
グルコースオキシダーゼ-FAD+2CTMred+2H^(+) (II)
2CTMred →2CTMox^(+)+2C^(-) (III)
(ここで、FADはグルコースオキシダーゼの酸化型のフラビンアデニンジヌクレオチド部分を表わし、FADH_(2)はグルコースオキシダーゼの還元型のフラビン-アデニンジヌクレオチド部分を表わし、CTMox^(+)は酸化型の仲介剤を表わし、そしてCTMredは還元型の仲介剤を表わす)。
この反応を表現する簡単な手段は:
グルコース+GOD →グルコン酸+GOD^(-) (IV)
GOD^(-)+CTMox^(+) →GOD+CTMred (V)
CTMred →CTMox^(+) +C^(- ) (VI)
である。
上記の一般原理に基づく電極は知られているが、これらは仲介剤の減少により生ずる問題に悩まされ、それはその酸化型の比較的高い水溶解度に原因する。
有意な程度の仲介剤の消耗は例えば以下の欠点、
(i)サンプルの媒体への仲介剤の迅速なる損失、起因して、一定のサンプルにおいて1回の測定しか実施できないこと;
(ii)測定の再現性は仲介剤の減少の程度が予測しにくいため悪く、そしてこれは、問題の電極に対するサンプルの暴露の経過時間及び実際の測定の性能に依存すること;
(iii)低グルコース濃度での感度が非常に悪いこと;並びに
(iv)センサー電極と対照電極との適用電位がやや高めでなくてはならず、水性サンプル中に存在している別の酸化しうる物質に由来する妨害をもたらすこと;
をもたらしうる。
センサー電極、適当な対照電極及び適当なカウンター電極を含んで成る適当な装置を利用する上記の原理に基づく体液、特に全血中の特定のグルコース濃度の有効且つ再現性のある測定にとっての予め必須な条件は、十分によく規定された量の仲介剤がこの測定にわたって存在していることにある。
センサー電極の中に存在している仲介剤の量は本発明の非常に重要な特徴である。この量は電極装置の寿命にわたり、水性サンプル中の酸化型の仲介剤の濃度が測定の際の酵素反応を制限せしめないことを保障するほど十分に高いべきである。」(第3頁左上欄10行?右下欄7行)
(1d)「本発明は水性媒体のサンプル、例えば体液のサンプル、例えば全血、血漿、血清、尿又は唾液のサンプル中の一定の化合物、例えばグルコース、セオフイリン、アルコール(エタノール)、ラクテート又はコレステロールの濃度を測定するための、一定の仲介剤の群を利用する上記した電気化学原理を基礎とする方法に関する。この仲介剤はその還元型において、水の中で例えば10mM以下の低い溶解度を有することを特徴とする。
・・・
この仲介剤は以下の特徴を有すべきである:
1)還元型における水中での低溶解度。
2)Ag/AgCL対照電極に対する-300?+400mVの酸化電位。
3)酵素反応及び電極反応における仲介剤の反応速度は全反応速度における律速段階となるべきでない。
4)これは安定でなくてはならない。
5)その他の反応に参加してはならない。」(第3頁左下欄9行?右下欄7行)
(1e)「一般式IXの化合物

(式中、R^(19)、R^(20)、R^(21),R^(22)、R^(23)、R^(24),R^(25),及びR^(26)は同一又は異なっており、そしてそれぞれは水素、ニトロ、ハロゲン(好ましくはクロロ)、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ又はモルホリールを表わし、そしてR^(27)は水素、アルキル又はジアルキルアミノアルキルを表わす)」(第4頁右下欄下から5行?第5頁左上欄3行)
(1f)「式IXの特定の好ましい化合物の例は、10-メチルフェノチアジン、4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(メチレングリーン)、3-ジメチルアミノフェノチアジン、3-ジメチルアミノ-10-メチルフェノチアジン、3-(モルホリン-4-イル)フェノチアジン及び2-クロロ-10-ジメチルアミノプロビルフェノチアジンである。」(第5頁左下欄16?21行)
(1g)「本発明に従う方法において好ましい酵素はグルコースオキシダーゼであり、これは分類ECl.1.3.4のオキシドリダクターゼ酵素である。しかしながら、オキシドリダクターゼである。その他の酵素、例えばセオフィリンオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ラクテートオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、I7-アミノ酸オキシダーゼ又はグルコレートオキシダーゼが利用されうる。」(第6頁左上欄4?10行)
(1h)「安定試験 一定の仲介剤を有するペーストの安定性は以下の方法を用いて決定できる:
該仲介剤をパラフィンに溶かす又は混合して、その後、グラファイトに結合させた酵素を加える。この混合物を均質にし、ペーストにする。このペーストをプラスト(plast)の電極ホルダーの中に充填し、通称スチックにする。これらのスチックを0及び10mMのグルコ-ス標準液を用いて試験し、グルコースに対するこれらのスチックの活性と特徴付ける。その後、このペースト含有スチックを一定の温度、例えば4、20、35及び54℃で保存する。一定の時間経過後、例えば1ケ月後、0及び10mMのグルコース標準液を用いてこのスチックを試験し、そして測定した活性値をはじめに測定した活性値と比較する。グルコースに対する測定値の変化が最も低いスチック中に存在しているかかる仲介剤が、問題の系(パスタ)において最も安定な仲介剤であると考えられる。
仲介剤の評価に関する標準方法1)GOD-固定化グラファイト、パラフィン及び仲介剤を含むペーストを調製する。もしこの仲介剤がパラフィン中で高い溶解度を有するなら、mLのパラフィン当り10mgの仲介剤を利用する。もしこの仲介剤がパラフィン中で低い溶解度を有するなら、mLのパラフィン当り50mgの結晶を利用して、グラファイトを加える前に均質な混合物を獲得しておく。得られるペーストをスチックの中に充填する。
2)ペーストの活性は、循環電圧計の中で測定し、ここで電流は、電位の関数(CV運動曲線)として測定する。5種類の濃度のグルコース、即ち、0、5、10、15及び20mMを測定する。得られる結果に基づき、以下を評価する:
a)仲介剤がグラファイト電極により酸化及び還元されうるか、
b)仲介剤が還元型GODであることができるか、
c)利用すべき、電極にとっての最適電位、
d)グルコース濃度の関数としての直線性応答が問題の仲介剤の濃度を用いて獲得できるか、
e)仲介剤の濃度を最適化できるか。
3)最適電位での時間の関数として応答を測定する。グルコース濃度に対する安定な応答を示す時間間隔を評価する。
4)問題のペースト中の仲介剤の安定性を決定する。
サンプル相中の仲介剤の濃度はBioelectrochemisty and Bioenergetics 8(1981)、103-113に記述の方法を用いて決定
できる。」(第7頁左上欄10行?右上欄20行)
(1i)「実施例1
以下の手順によりグルコースオキシダーゼ(GOD)(E.C.1.1.3.4.)をグラファイト粒子上に固定化した:10gのグラファイトを空気中100℃で24時間酸化させた。この表層酸化粒子を、0.1Mの酢酸緩衝液(pH4.76)100mL中の500mgの1-シクロへキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-P-トルエンスルホン酸塩で2時間活性化し、次いでほぼ中性のpHとなるまで蒸留水で洗い、そして乾かした。この活性化グラファイトを、80,000IUのGOD及び4%のグルタルアルデヒドを含む0.01のリン酸緩衝液(pH7.3)30mLと16時間4℃で混合し、乾かし、そして均一な粒子を得るために48メッシュに通した。
5%のメチレングリーン(4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン)を含むパラフィン油1gをGOD修飾化グラファイト2gと慎重に混ぜて均一なパスタを得た。
このパスタをプラスックロッドの中に充填し、それにおいて、新たによく規定された電極領域を導入するために、これは薄い断面スライスが切断されることが可能である。各測定の前、この電極表層は再生せしめた。利用できる有効電極面積は3mm^(2)である。
有効電極の試験において、Ag補助電極及びAg/AgCL対照電極が利用される。循環電圧計において、仲介剤の再酸化に由来する触媒電流-50mVで始まり、そして50?400mVで安定となることが観察された。この電流は利用したグルコースの濃度に比例した。
クロノアンペロメトリーは電位を適用してから30?60後に集積電流を利用して100mVで実施した。40mMのグルコースまでの直線性が得られた。電流は500mA/(sec^(2)mM)であった。このシグナルは溶液中の酸素濃度に影響されなかった。メチレングリーンを有さない対照パスタは、異なるグルコース濃度により影響されなかった。
実施例2
特定の仲介剤間の比較。
実施例1と同し手順を利用して表中のデーターが得られた。
以下の略後を用いている:メチレングリーンー=MG、メンド-ラブルー=MB、1-ジメチルアミノ-4-モルホリノベンゼン= MDMP、1.4.-ジモルホリノベンゼン=BMP、1.4-ジピベリジノベンゼン=BPP、1-モルホリノ-4-ピベリジノベンゼン=MPP。
・・・
実施例3
特定の仲介剤の安定性試験。
実施例1と同じ基礎的手順を利用してデーターを得た。進行を促進するために、特定の仲介剤を有するロッドを異なる温度で保存し、これは新たな分析学的性質を示すことができる。
実施例2と同し略語を用いた。
・・・
スライス間及びロッド間の再現性を考慮すると、全てのパスタは35℃で少なくとも70日以内は安定である。54℃でのデーターより、4℃で安定性は少なくとも2年であろうことが外挿できる。」(第7頁右下欄下から2行?第8頁右下欄3行)

(2)刊行物2:特開平8-334490号公報
(2a)「【請求項1】補酵素類であるジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、ジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADPH)又はそれらの類似体の電気化学的再生に適切な電極であって、該電極表面に、置換又は非置換の、3-フェニルイミノ-3H-フェノチアジン類及び3-フェニルイミノ-3H-フェノキサジン類の群から選択されるメディエーター化合物の1種又はそれ以上を含有するメディエーター機能が付与されていることを特徴とする電極。
【請求項2】メディエーターが、式(IV)又は式(V):
【化1】

(式中、R_(1) 及びR_(2) は、メディエーターの酸化-還元(レドックス)電位を調節するか、メディエーターの溶解性を変化させるか、又はポリマー若しくは固体支持体にメディエーターを共有結合させる部位として機能する、置換基である)で示される、請求項1記載の電極。
【請求項3】 R_(1) 及びR_(2) が、同一でも異なっていてもよく、水素、低級アルキル、アリール、ハロ、ハロアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、芳香族及び脂肪族ケト、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、ジアルキルアミノ、アミノアルキル、スルホ及びジヒドロキシボロンよりなる群から選択され、ここで脂肪族及び芳香族基は置換されているか又は非置換である、請求項2記載の電極。
・・・
【請求項7】 メディエーターが、3-(4′-クロロ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-ジエチルアミノ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-エチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-トリフルオロメチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-メトキシカルボニル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-ニトロ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-メトキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、7-アセチル-3-(4′-メトキシカルボニルフェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、7-トリフルオロメチル-3-(4′-メトキシカルボニル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-ω-カルボキシ-n-ブチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-アミノメチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-(2″-(5″-(p-アミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾリル))フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-β-アミノエチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、6-(4′-エチルフェニル)アミノ-3-(4′-エチル-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、6-(4′-〔2-(2-エタノ-ルオキシ)エトキシ〕エトキシフェニル)アミノ-3-(4′-〔2-(2-エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-〔2-(2-エタノールオキシ)エトキシ〕エトキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジンホウ酸、3-(3′,5′-ジカルボキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(4′-カルボキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジン、3-(3′,5′-ジカルボキシ-フェニルイミノ)-3H-フェノキサジン、3-(2′,5′-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジンジスルホン酸及び3-(3′-フェニルイミノ)-3H-フェノチアジンスルホン酸からなる群から選択される、請求項1記載の電極。」
(2b)「【0005】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】NADHは、1ボルトオーダーの高い過電圧によってのみ、種々の塩基電極材において直接的に酸化される。しかし、この過電圧は、NADHから電極への電子の移動を媒介する機能物を電極表面に吸着させることにより、減少させることができる。このような媒介物(メディエーター)は、典型的に、過剰の過電圧を要さずに電気化学的に再酸化されて、電気化学的再生の副次的システムとしてそれ自体が有用となる材料から選択される。この目的に適切な種々のメディエーターが公知である。米国特許第4,490,464 号には、発明の背景として、フェナジンメトスルフェート(PMS);フェナジンエトスルフェート(PES);チオニン及び1,2-ベンゾキノンのようなメディエーターが記載されている。この特許は、NADH、NADPH又はそれらの類似体の酸化を触媒するために、ヘテロ原子を有するか又は有しない、少なくとも3個、好ましくは4個以上の縮合芳香族環からなる縮合芳香族環系を、メディエーターとして電極表面に付与することにより改質された電極についてさらに記載している。さらに詳細には、この特許はアルキルフェナジニウムイオン、フェナジニウムイオン、フェナジノン、フェノキサジニウムイオン、フェノキサジノン、フェノチアジニウムイオン又はフェノチアジノンのいずれか1つを含む構造的要素による、補酵素又はそれらの類似体との電子の交換について記載している。」
(2c)「【0028】本発明において有用なメディエーターは、一般式(IV)及び(V)で示されている。合成され、試験された該化合物類の構造は、アラビア数字で番号をつけて、表1の第1欄に示す。表1の第2?7欄は実施例III 及びIVに記載したメディエーターの評価の結果を要約したものである。」
(2d)「【0047】実施例IV(プリント電極上のメディエーターの評価)
プリントされたセンサーカードと、グラファイト/炭素作用電極及び銀/塩化銀参照電極からなる、プリント電極の実験を実施した。グラファイト/炭素電極に用いたインキは、No.423SS(Acheson Colloids Co., Port Huron, MI)であり、銀/塩化銀参照電極には、15?25%AgClと混合したNo.427SS銀インキ(販売元上記と同じ)を用いた。電極の表面部分は、0.03cm^(2) であった。
【0048】サイクリックボルタンメトリー実験を、プリント電極上で、グラファイト電極上で実施したと同様に実施した。図1では、0.6mMの化合物18の、pH=7.0の0.6mMPIPES緩衝液のみの中で測定した場合と、5mMNADHの存在下での場合とのサイクリックボルタモグラムを示した。NADHの存在下、電圧26mVにおける電流の増加は、NADHにより還元されたメディエーターの酸化によるものである。このメディエーターは、これがNADHを酸化してNAD^(+)にするときに還元され、ついで、電極において電気化学的に再酸化される。実際、このメデイエーターは、NADHを直接に酸化するのに必要な電位よりもかなり低い電位においてその電気化学的酸化を促進した。図2では、直接に(メディエーターなしに)プリント電極上で酸化した場合の、NADHの典型的サイクリックボルタモグラムを示した。より高いピーク電位(443mV)が明らかであった。
【0049】グルコース濃度を測定するバイオセンサーは、酵素であるグルコースデヒドロゲナーゼが、グルコースをグルコノラクトンに酸化する際にNAD^(+) を還元してNADHにすることを利用している。メディエーターによるNADHからNAD^(+) への電気化学的再酸化が、該グルコース濃度に比例する電流を生じさせる。
【0050】典型的グルコースバイオセンサーは、以下のようにして製造した。:25mMのKClを含有するpH=7.0のリン酸緩衝液100mM中メディエーター4mMの溶液を調製し、5%スルフィノール(Surfynol, Air Products and Chemicals, Inc., Allentown, PA)1.96g、NAD(0.32g)、グルコースデヒドロゲナーゼGDH(Toyobo)0.70g、pH=7.0の0.5M PIPES緩衝液1.44g及び脱イオン水5.5mlからなる同量の溶液で希釈した。混合物1.75μl をセンサー領域に塗布し、室温で放置して乾燥し、約20分乾燥した。この電極を小さなキャピラリー挿入部(gap)を有するフォーマット中に組み入れ、グルコース水溶液で処理して表1の6欄に記載した電位で電流を測定した。これを、グルコースを各0、50、100、200及び500mg/dl の濃度で含む試料に関して行い、グルコース濃度に対する電流の最小二乗法により得られた直線(lisine line)の傾斜が、各メディエーターの相対感度(μA/グルコースmg/dl)を表していた。傾斜が大きくなるにしたがって、メディエーターの性能は良好になる。これらの傾斜は、表1の最終欄に示した。
【0051】図3は、化合物18に関して、100mV及び300mVの電位においてグルコース濃度に対する電流をプロットしたものを示す。」
(2e)表1には、各メディエーターの評価が示され、センサー上のグルコース滴定として、E^(0)_(ox) 、電位100mVで測定した場合の傾斜、電位300mVで測定した場合の傾斜が示されている。

3 対比・判断
刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a)(1b)(1c)(1f)(1i))から、刊行物1には、
「グルコースオキシダーゼ-FAD、及び電荷移動仲介剤としてフェノチアジン系化合物である4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンを含むグルコース濃度を測定するのためのペースト」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「グルコースオキシダーゼ-FAD」は、「FAD」がフラビンアデニンジヌクレオチドの略称で、これが酵素と結合しているものであり(上記(1c))、本願発明の「フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素」は、「フラビンタンパク質」が、本願明細書段落【0017】によるとフラビン補因子を含有する酵素であるから、両者は相当関係にある。
(イ)刊行物1発明の「電荷移動仲介剤」である「4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン」と、本願発明の「【化1】(省略)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物」とは、フェノチアジン系の媒介物である点で共通する。
(ウ)刊行物1発明の「グルコース濃度を測定するのためのペースト」は、分析対象物であるグルコースの濃度を測定するための試薬として機能するものであるから、本願発明の「分析対象物を検出するための試薬」に相当する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
フラビンタンパク質、キノンタンパク質及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酵素、並びにフェノチアジン系の媒介物を含む、分析対象物を検出するための試薬である点。

(相違点)
フェノチアジン系の媒介物が、本願発明では、「【化1】(省略)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される媒介物」であるのに対して、刊行物1発明では、「4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン」である点。

そこで、上記相違点について検討する。
刊行物2には、グルコースデヒドロゲナーゼの補酵素としてNADH、NADPHを用い酸化還元反応によりグルコースを分析する際に、メディエーター化合物、つまり媒介物として、本願発明で用いる化合物と同じものである、置換又は非置換の、3-フェニルイミノ-3H-フェノチアジン類及び3-フェニルイミノ-3H-フェノキサジン類の群から選択される化合物を用いることが記載され、実施例IVには、本願発明の実施例で用いられた媒介物Iと同じ化合物である化合物18を媒介物として用い、その結果が図1に示され、NADHを直接に酸化するのに必要な電位よりもかなり低い電位においてその電気化学的酸化を促進したと記載されている(上記(2d))。さらに、表1には、化合物18のセンサー上のグルコース滴定として、E^(0)_(ox)が-14mV、電位100mVで測定した場合傾斜が0.0848、電位300mVで測定した場合傾斜が0.0962であることが示され、傾斜が大きくなるにしたがって媒介物の性能が良く感度は高いことが記載されていることから(上記(2d))、化合物18は、グルコースデヒドロゲナーゼの補酵素としてNADHを用いた系において、媒介物として優れたものであるということができる。さらに、表1には、その他の媒介物についても、E^(0)_(ox)や傾斜が示されている。
そして、フェノチアジン系の媒介物は、NADHやFADを用いた系の媒介物として、本願優先日前に周知のものであったことは、NADHについては、刊行物2の従来技術、FADについては、刊行物1及び特開平10-10130号公報(【0010】)に記載されるとおりであり、さらに、NADH、FADのいずれを用いた系であっても、媒介物に求められる性能として、刊行物1及び2に記載されるように、センサーとしたときの感度や電位が適切であること、さらに、刊行物1に記載されるように安定性が良いことが挙げられることは、本願優先日前の周知事項である。
そうすると、刊行物2に記載されたNADHを用いた系において、化合物18等の表1に示された3-フェニルイミノ-3H-フェノチアジン類及び3-フェニルイミノ-3H-フェノキサジン類から、所望のE^(0)_(ox)や傾斜を有する化合物を選択して、刊行物1発明の4-ニトロ-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンに代えて用いることは当業者が容易になし得たことといえる。
そして、本願発明の効果について検討すると、酵素、補酵素や補因子、及び媒介物を用いたセンサに対して環境安定性が求められることは、刊行物1(上記(1d)(1h))に記載されるとおりであり、また、電子線等による滅菌に対する耐性が求められることは、例えば、国際公開第00/49940号の第13頁4?9行(対応日本語公報特表2002-537566号公報の【0034】)に、酵素化学等のセンサの材料は、電子線滅菌に耐えられるものであることが記載され、国際公開第01/21827号の第21頁19?20行(対応日本語公報特表2003-510570号公報の【0065】)に、センサーを袋に入れ放射線滅菌することが記載されているように、本願優先日前周知の事項であるから、刊行物1発明の媒介物として、刊行物2に記載のものを採用した際に、環境安定性及び電子線等による滅菌に対する耐性を評価することは当然に行うべきことであり、これらの評価を行うことにより、酵素-FAD及び選択した媒介物それぞれが本来有している特性に由来する結果が得れらるたもといえる。
また、本願明細書の段落【0042】に、図3から、PQQ処方は、電子線照射に対して極めて良好な耐性を示し、NAD処方は不十分な耐性を示すとしているが、いずれの処方も媒介物はMLBで共通しており、異なるのは補酵素或いは補因子の部分であるから、電子線照射耐性の違いは、媒介物によるというよりは、PQQかNADかの違いによると理解するのが相当であり、本願発明の媒介物を用いたことによる効果と考えられる根拠は示されているとはいえない。さらに、仮に、本願明細書で電子線耐性及び環境安定性が試験されたものは、PQQ-グルコースデヒドロゲナーゼと特定の媒介物Iを用いた系であり、両者の組合せによる予想外の効果があるというのであれば、この特定の系のみについてであり、その効果は本願発明の構成に対応した効果とはいえいない。
以上のとおり、本願発明の効果は、予想外のものとはいえず、格別顕著なものともいえない。

4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-04 
結審通知日 2011-01-11 
審決日 2011-01-26 
出願番号 特願2002-266575(P2002-266575)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大竹 秀紀  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
竹中 靖典
発明の名称 分析対象物を検出するための試薬  
代理人 津国 肇  
復代理人 齋藤 房幸  
復代理人 田中 洋子  

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