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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01T
管理番号 1238140
審判番号 不服2010-21575  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-27 
確定日 2011-06-10 
事件の表示 特願2001- 84216「スパークプラグ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 4日出願公開、特開2002-289319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成13年3月23日の出願であって、平成22年6月28日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月27日に審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成22年9月27日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月27日付手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。

「【請求項1】 中心電極(3,202)の火花放電ギャップ(g,gα)側に位置する先端部が直径0.7mm以下の貴金属発火部(31,105)とされ、かつ該貴金属発火部(31,105)が接合される中心電極母材(3f,202n)の熱伝導率が30W/m・K以上のNi合金にて構成されており、さらに、
前記中心電極(3,202)の内部には、前記中心電極母材(3f,202n)と接する形で、前記中心電極母材(3f,202n)よりも熱伝導率が良好な金属からなる良熱伝導芯材部(3c,202m)が配置され、
前記良熱伝導芯材部(3c,202m)の外径は、中心電極母材(3f,202n)及び前記良熱伝導芯材部(3c,202m)にて構成された電極本体部(3M)の外径の55?80%の範囲となっており、
前記電極本体部(3M)の外径は、1.5?3.0mmであり、
前記中心電極(3,202)は、先端面(3s)を含む表層部が少なくとも前記中心電極母材(3f)にて構成された前記電極本体部(3M)の前記先端面(3s)をチップ被固着面として、そのチップ被固着面(3s)に貴金属チップ(31’)を重ね合わせ、それら貴金属チップ(31’)とチップ被固着面(3s)の形成部位とにまたがる形にて前記貴金属チップ(31’)の先端面に到達せず且つ前記貴金属チップ(31’)側の構成金属の含有割合が40?60体積%である全周溶接部(10)を形成することにより接合された該貴金属チップ(31’)を前記貴金属発火部(31)となしたものであることを特徴とするスパークプラグ(100,400)。」

上記補正は、補正前の請求項1について、「中心電極(3,202)は、先端面(3s)を含む表層部が少なくとも中心電極母材(3f)にて構成された電極本体部(3M)の先端面(3s)をチップ被固着面として、そのチップ被固着面(3s)に貴金属チップ(31’)を重ね合わせ、それら貴金属チップ(31’)とチップ被固着面(3s)の形成部位とにまたがる形にて貴金属チップ(31’)の先端面に到達せず且つ貴金属チップ(31’)側の構成金属の含有割合が40?60体積%である全周溶接部(10)を形成することにより接合された該貴金属チップ(31’)を貴金属発火部(31)となしたものである」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-36856号公報(平成6年2月10日公開、以下、「引用例1」という。)には、「スパークプラグ」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0014】図2に示すごとく中心電極4は、クロム(Cr)や鉄(Fe)を含むインコネル600等のNi合金で、直棒径小部4Aをなす円柱状母材41と、母材41に埋め込まれたCuまたは銀(Ag)を主体とする良熱伝導性金属の芯42と、母材41の先端部に溶接された貴金属チップ6とからなる。
【0015】貴金属チップ6は、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、Irに稀土類酸化物を添加したもの、またはPtーIr合金材などからなり、中心電極4の直棒径小部4Aと同径の円柱である。図3に示すようにこの貴金属チップ6の溶接は、一発の熱量が2JのYAG(イットリウム、アルミニウム、ガーネット)レーザービームLBを間欠的に母材41の先端面43と貴金属チップ6との境界部を境界面に対し平行方向に照射し、これによって母材41の成分と貴金属チップ6の成分の溶け合った溶融凝固合金部7を作る。またこのレーザービームLBは、その照射面71が互いに重なる間隔で、母材41と貴金属チップ6の側面全周に渡って複数回照射される。
【0016】このとき、照射面71の上端L1は、貴金属チップ6の火花放電部端面61よりも0.1mm以上溶融凝固合金部7側に離れていることが必要である。これは、上端L1が端面61に0.1mmより近く照射されると、レーザービームLBの熱によって溶融し、貴金属チップ6の端面61のエッジ部62が溶融して丸みを帯びてしまい、放電電圧が高くなってしまうためである。
【0017】レーザー溶接によって作られた溶融凝固合金部7は、前述したように母材41の成分と貴金属チップ6の成分が溶け合っているために、線膨張率など両者の中間の物理特性を持っている。このため、溶融凝固合金部7を有するスパークプラグは、中心電極4の先端部分に高熱が加えられ熱膨張の差を原因とする貴金属チップ6と母材41との剥離などが発生しにくい特徴を持つ。
【0018】図2に示したようにこの発明のスパークプラグは、貴金属チップ6の直径をD、厚さをT、中心電極4の直棒径小部4Aの長さをL、溶融凝固合金部7の溶け込み深さをA、貴金属チップ6の半径をR、中心電極2の外周面での溶融凝固合金部7の幅をBとしたとき
0.5mm≦D≦1.5mm、0.3mm≦T≦0.6mm、0.2mm≦L≦0.5mm、R/3≦A≦R、0.3mm≦B≦0.8mm
となるように設定されている。」

・「【0022】中心電極2での溶融凝固合金部7の溶け込み深さAを、貴金属チップ6の半径Rの1/3以上、R以下の深さである理由を図6に示す。図6は、2000cc、6気筒のガソリンエンジン、5500rpm×スロットル全開1分とアイドリング1分のサイクリックパターン耐久テストで、溶融凝固合金部7の溶け込み深さAを変化させたときの貴金属チップ6の脱落するまでの繰り返し数を示す。このグラフの(あ)は溶け込み深さAがR/5よりも小さく、(い)は溶け込み深さAがR/5?R/4、(う)は溶け込み深さAがR/4?R/3、(え)は溶け込み深さAがR/3?R/2、(お)は溶け込み深さAがR/2?2R/3、(か)は溶け込み深さAが2R/3?3R/4、(き)は溶け込み深さAが3R/4?R、(く)は溶け込み深さAがRよりも大きいときである。
【0023】このグラフから分かるように、溶け込み深さAが(え)のR/3?R/2以上深いときは10000サイクルの繰り返しでも脱落が生じなかった。しかし、(く)は脱落が生じなかったが、溶融凝固合金部7の交差する中央部71にブローホールを生ずるため好ましくない。
【0024】溶融凝固合金部7の幅Bを0.3mm以上としているのは、0.3mmよりも小さいと、レーザービームLBの入熱不足で、上記貴金属チップ6の直径Dの1/5以上である溶け込み深さの条件を満たすことができずに、剥離し易くなってしまうためである。また、溶融凝固合金部7の幅Bを0.8mm以下としているのは、0.8mmよりも大きくなってしまうと貴金属チップ6の火花放電部端面61のエッジ部62までも溶融させてしまう恐れがあり、入熱過大となって、溶融凝固合金部7にブローホールやクラックが発生してしまうことがあるからである。また、望ましくは0.4mm以上、0.5mm以下がよい。」

これらの記載によると、引用例1には、

「中心電極は、Ni合金の円柱状母材と、母材の先端部に溶接された直径Dが0.5mm≦D≦1.5mmである貴金属チップと、母材に埋め込まれたCuまたは銀(Ag)を主体とする良熱伝導性金属の芯とからなり、母材の先端面と貴金属チップとの境界部を境界面に対し平行方向に、貴金属チップの端面のエッジ部が溶融しないように、レーザービームLBを間欠的に照射し、母材の成分と貴金属チップの成分の溶け合った溶融凝固合金部を形成して貴金属チップを溶接したスパークプラグ。」の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2-2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-37674号公報(平成7年2月7日公開、以下「引用例2」という。)には、「スパークプラグ」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【請求項1】ニッケルを用いた耐熱耐蝕性の電極母材と、
この電極母材に接合されたイリジウムあるいはルテニウムを用いた耐火花消耗性の貴金属部材とを備えたスパークプラグにおいて、
前記電極母材は、熱伝導率が30W/m・K以上に設けられたことを特徴とするスパークプラグ。」

・「【0009】
【発明の作用】電極母材に接合された貴金属部材で火花放電が発生すると、貴金属部材が配された燃焼室内が燃料の燃焼(爆発)によって高温に上昇するとともに、火花放電の発生熱によって、貴金属部材の温度が上昇するように作用する。しかるに、貴金属部材の熱は、熱伝導率の高い電極母材に引かれ、結果的に貴金属部材の温度上昇が抑えられる。
【0010】
【発明の効果】請求項1の発明は、上記の作用で示したように、貴金属部材の温度が、熱伝導率の高い電極母材に引かれて温度上昇が抑えられる。このため、貴金属部材に使用されるイリジウムあるいはルテニウムの酸化揮発消耗が抑えられ、結果的に貴金属部材の消耗が抑えられる。また、請求項2の構成により、貴金属部材の熱引きが良くなり、電極消耗をより低減することができる。さらに、請求項3の構成により、高温強度がインコネル600程高い材料でなくても、十分強固な接合性を得ることができる。」

・「【0014】貴金属部材4は、イリジウム、イリジウムに希土類酸化物等を添加したイリジウム合金、ルテニウム、ルテニウムに希土類酸化物等を添加したルテニウム合金を用いたもので、電極母材2と貴金属部材4との接合面の全周に、レーザー溶接によって溶融凝固合金部9が形成されて、電極母材2に強固に接合されている。
【0015】〔製造方法〕次に、上記中心電極1における電極母材2と、貴金属部材4との接合方法を、図2の(イ)、(ロ)、(ハ)を用いて説明する。
(イ)まず、良熱伝導金属8が封入され電極母材2を形成する。この電極母材2は、切削加工あるいは塑性可能によって、円錐部6および小径部7等が形成されるとともに、先端面3と内部の良熱伝導金属8の間隔が1.5mm以内に設けられる。
(ロ)次に、直径0.8mm、厚さ0.5mmの円板状に形成された貴金属部材4を、小径部の先端面3の中心に搭載する。
(ニ)続いて、治具10によって貴金属部材4を電極母材2方向へ押しつけた状態で、電極母材2と貴金属部材4との接合面の全周に、例えばYAGレーザー溶接機を用いてレーザービームLBを間欠的または連続的に放射して、接合面の全周に電極母材2と貴金属部材4の溶融凝固合金部9を形成する。これによって、電極母材2と貴金属部材4とが、溶融凝固合金部9を介して強固に接合される。」

(2-3)同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-159853号公報(平成5年6月25日公開、以下「引用例3」という。)には、「スパークプラグ」に関する発明が開示されており、そこには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0006】
【実施例】図1は、この発明にかかるスパークプラグ100を示す。このスパークプラグ100は、先端面に接地電極1を溶接した円筒状の主体金具2の内部に、軸孔31付き絶縁碍子3を嵌着し、軸孔31に中心電極4を嵌め込んでなる。接地電極1は、15.0重量%のクロム(Cr)、8.0重量%の鉄(Fe)を含むNi合金製で断面矩形状の棒状を呈する耐蝕性Ni合金製母材11に、良熱伝導性金属芯12を配した複合材10を略L字形に曲げ、主体金具2の先端面に溶接して設けられている。
【0007】絶縁碍子3は、後端側頭部32、径大の中間胴部33、および径小で外径が浅いテーパーを有する先端側脚長部34からなる円柱状を呈し、内部には段35を介して先端側が径小となっている断面円形の前記軸孔31が設けられている。中心電極4は、15.0重量%のCr、8.0重量%のFeを含むNi合金製で直径2.5mmの円柱状母材41、および該母材41の軸心部に同心的に埋め込まれたCuまたはAgを主体とする直径1.8mmの良熱伝導性金属の芯42を備えた複合材40を備える。該複合材40の先端面には、その中心に設けた穴43に基部51が埋め込まれて円柱状貴金属チップ5が溶接されている。複合材40は、前記絶縁碍子3の先端から突出した部分が、径小先端部4Aおよびテーパー部4Bとなっており、前記軸孔31との嵌合した基部側部分4Cは、中心電極外周と軸孔内周3Aとの隙間tを、0.025mm?0.075mmに設定してある。また、前記軸孔31の先端には前記隙間tより大きい隙間の先端部4Dが長さ約1?3mmに亘って設けられ、絶縁碍子先端の自己清浄作用を高めている。
【0008】複合材40は、先端部4Aが直径1.0mm?1.8mmの径小に成形され、チップ5は、直径0.3mm?1.2mmのチップ5を0.3mm以上突出している。またチップ5は、母材41との嵌合面3が全周にわたってレーザー溶接されるとともに、チップ5と芯42とは接触するか、または両者の間隔Lは0.5mm以内となるように近接して配されている。」

・「【0012】複合材40の断面積に対する母材41の断面積の割合は、50%以上70%以下に設定されている。この数値限定は、図3および図4に示すグラフから判る様に、70%以上であると熱伝導面積が少なく熱引きが不十分となり、プレイグニッションが発生し易くなることによる。また、50%以下であると高温時(最高800℃程度)に熱膨張の大きい芯42により母材41が受ける引張の熱応力が大きくなりすぎ、母材41が変形するなどの問題が生じる。さらに母材41は、低温時(大気温度)には逆の熱応力を受ける。この冷熱の繰り返しにより、母材41が劣化し経時的に機械的強度が低下する。」

(3)対比
本願補正発明と引用例1記載の発明を対比すると、後者における「貴金属チップ」は、前者における「貴金属発火部(31,105)」に相当し、後者における「母材の先端部に溶接された直径Dが0.5mm≦D≦1.5mmである貴金属チップ」と、前者における「中心電極(3,202)の火花放電ギャップ(g,gα)側に位置する先端部が直径0.7mm以下の貴金属発火部(31,105)」とは、「中心電極の火花放電ギャップ側に位置する先端部が細径化された貴金属発火部」である点で共通する。
また、後者における「円柱状母材」は、前者における「中心電極母材」に相当し、後者における、「母材の先端部に」「貴金属チップ」が溶接された「Ni合金の円柱状母材」は、前者における「貴金属発火部が接合される中心電極母材」は「Ni合金にて構成されて」いることに相当する。
また、後者における「良熱伝導性金属の芯」は、前者における「良熱伝導芯材部」に相当し、後者において、「中心電極」は「母材に埋め込まれたCuまたは銀(Ag)を主体とする良熱伝導性金属の芯とから」なることは、前者において「中心電極(3,202)の内部には、中心電極母材(3f,202n)と接する形で、中心電極母材(3f,202n)よりも熱伝導率が良好な金属からなる良熱伝導芯材部(3c,202m)が配置され」ていることに相当する。
また、後者における「母材の先端面」は、前者における「先端面を含む表層部が少なくとも中心電極母材にて構成された電極本体部の先端面」に相当し、後者における「母材の先端面と貴金属チップとの境界部を境界面に対し平行方向に、貴金属チップの端面のエッジ部が溶融しないように、レーザービームLBを間欠的に照射し、母材の成分と貴金属チップの成分の溶け合った溶融凝固合金部を形成して貴金属チップを溶接した」構成は、前者における「中心電極は、先端面を含む表層部が少なくとも中心電極母材にて構成された電極本体部の先端面をチップ被固着面として、そのチップ被固着面に貴金属チップを重ね合わせ、それら貴金属チップとチップ被固着面の形成部位とにまたがる形にて貴金属チップの先端面に到達」しない「全周溶接部を形成することにより接合された該貴金属チップを貴金属発火部となした」構成に相当するといえる。

したがって、両者は、「中心電極の火花放電ギャップ側に位置する先端部が細径化された貴金属発火部とされ、かつ該貴金属発火部が接合される中心電極母材はNi合金にて構成されており、前記中心電極の内部には、前記中心電極母材と接する形で、前記中心電極母材よりも熱伝導率が良好な金属からなる良熱伝導芯材部が配置され、前記中心電極は、先端面を含む表層部が少なくとも前記中心電極母材にて構成された前記電極本体部の前記先端面をチップ被固着面として、そのチップ被固着面に貴金属チップを重ね合わせ、それら貴金属チップとチップ被固着面の形成部位とにまたがる形にて前記貴金属チップの先端面に到達しない全周溶接部を形成することにより接合された該貴金属チップを前記貴金属発火部となしたものであるスパークプラグ。」である点で一致し、次の各点において相違する。

[相違点1]
「先端部が細径化された貴金属発火部」について、本願補正発明においては、「先端部が直径0.7mm以下の貴金属発火部」であるのに対して、引用例1記載の発明においては、「直径Dが0.5mm≦D≦1.5mmである貴金属チップ」である点。

[相違点2]
「中心電極母材」について、本願補正発明においては、「熱伝導率が30W/m・K以上のNi合金にて構成されて」いるのに対し、引用例1記載の発明においては、単に「Ni合金」とされている点。

[相違点3]
本願補正発明においては、「良熱伝導芯材部の外径は、中心電極母材及び前記良熱伝導芯材部にて構成された電極本体部の外径の55?80%の範囲となっており、電極本体部の外径は、1.5?3.0mm」であるのに対し、引用例1記載の発明においては、中心電極の外径、及び、芯の外径の割合が不明な点。

[相違点4]
「全周溶接部」について、本願補正発明においては、「貴金属チップ側の構成金属の含有割合が40?60体積%である」のに対し、引用例1記載の発明においては、「母材の成分と貴金属チップの成分の溶け合った」とされている点。

(4)判断
相違点1について検討すると、本願明細書段落【0005】に「中心電極の火花放電ギャップ側に位置する先端部が直径0.7mm以下に細径化された貴金属発火部を有するものに係るものであり」と記載されているように、先端部が直径0.7mm以下であること自体に特徴があるわけではなく、また、引用例1記載の発明においても、直径Dは0.5mm≦D≦1.5mmと重複する範囲があるので、該相違点1に関する事項が、当業者にとって格別なものであるとは認められない。

相違点2について検討すると、引用例2には、本願補正発明、あるいは引用例1記載の発明におけると同様の、良熱伝導金属が封入された、ニッケルを用いた耐熱耐蝕性の電極母材について、貴金属部材の熱を、熱伝導率の高い電極母材で引き、貴金属部材の温度上昇を抑えるために、該電極母材の熱伝導率を30W/m・K以上とすることが記載されており、例示される貴金属部材の直径が0.8mmであることを考慮しても、該技術を、引用例1記載の発明に適用し、該相違点2に係る構成とする程度のことは、当業者にとって容易に想到し得ることである。

相違点3について検討すると、引用例3には、直径0.3mm?1.2mmのチップが先端に溶接され、良熱伝導性金属の芯を備えた複合材について、複合材の断面積に対する母材の断面積の割合は、50%以上70%以下に設定されており、該数値限定は、70%以上であると熱伝導面積が少なく熱引きが不十分となり、プレイグニッションが発生し易くなること、また、50%以下であると高温時に熱膨張の大きい芯により母材が受ける引張の熱応力が大きくなりすぎ、母材41が変形するためであることが記載されており、また、【0007】には、中心電極の外径を2.5mm、良熱伝導性金属の芯の外径を1.8mm(中心電極の外径の72%)とすることも記載されており、該構成を、引用例1記載の発明に適用し、該相違点3に係る構成とすることが、当業者にとって、格別に想到困難なことであるとは認められない。

相違点4について検討すると、本願明細書段落【0025】には「溶融割合が40体積%未満となった場合、溶け込み深さdが不足しがちとなり、発火部31の耐剥離性能の低下を招くことにつながる。他方、上記溶融割合が60体積%を超えると、高融点である貴金属チップ側の溶融量を増大させるために、レーザービームによる入熱量の増加を余儀なくされ、溶接部幅wの過剰な増大ひいては発火部厚さhの不足につながる」との記載がある。一方、引用例1には、レーザー溶接によって作られた溶融凝固合金部は、母材の成分と貴金属チップの成分が溶け合って、線膨張率など両者の中間の物理特性を持っていること(段落【0017】)や、溶融凝固合金部の溶け込み深さがR/3?R/2以上深いときは10000サイクルの繰り返しでも脱落が生じなかったこと(段落【0023】)、溶融凝固合金部の幅が0.3mmよりも小さいと、レーザービームLBの入熱不足で、貴金属チップの直径Dの1/5以上である溶け込み深さの条件を満たすことができずに、剥離し易くなってしまうこと、溶融凝固合金部の幅Bが0.8mmよりも大きくなってしまうと貴金属チップの火花放電部端面のエッジ部までも溶融させてしまう恐れがあること(段落【0024】)が記載されている。該記載より、引用例1記載の発明においても、溶融凝固合金部の溶け込み深さや貴金属チップの厚さにに配慮してレーザービームLBの入熱を決めているものと認められるが、上記本願明細書段落【0025】の記載を参照すると、引用例1記載の発明においても、溶融割合は、適切なものになっているものと認められる上、チップと中心電極母材とを略半分ずつの体積割合で溶融させること自体も、特別なことであるとは認められず、該相違点4に係る構成が、当業者にとって、格別に想到困難なものであるとは認められない。

そして、本願補正発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1記載の発明、および、引用例2、3の記載事項から当業者が予測し得る程度のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1記載の発明、および引用例2、3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成22年9月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】 中心電極(3,202)の火花放電ギャップ(g,gα)側に位置する先端部が直径0.7mm以下の貴金属発火部(31,105)とされ、かつ該貴金属発火部(31,105)が接合される中心電極母材(3f,202n)の熱伝導率が30W/m・K以上のNi合金にて構成されており、さらに、
前記中心電極(3,202)の内部には、前記中心電極母材(3f,202n)と接する形で、前記中心電極母材(3f,202n)よりも熱伝導率が良好な金属からなる良熱伝導芯材部(3c,202m)が配置され、
前記良熱伝導芯材部(3c,202m)の外径は、中心電極母材(3f,202n)及び前記良熱伝導芯材部(3c,202m)にて構成された電極本体部(3M)の外径の55?80%の範囲となっており、
前記電極本体部(3M)の外径は、1.5?3.0mmであることを特徴とするスパークプラグ(100,400)。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3とその記載事項は、前記の「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明において、「中心電極(3,202)は、先端面(3s)を含む表層部が少なくとも中心電極母材(3f)にて構成された電極本体部(3M)の先端面(3s)をチップ被固着面として、そのチップ被固着面(3s)に貴金属チップ(31’)を重ね合わせ、それら貴金属チップ(31’)とチップ被固着面(3s)の形成部位とにまたがる形にて貴金属チップ(31’)の先端面に到達せず且つ貴金属チップ(31’)側の構成金属の含有割合が40?60体積%である全周溶接部(10)を形成することにより接合された該貴金属チップ(31’)を貴金属発火部(31)となしたものである」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1記載の発明、および引用例2、3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1記載の発明、および引用例2、3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明、および引用例2、3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-13 
結審通知日 2011-04-14 
審決日 2011-04-26 
出願番号 特願2001-84216(P2001-84216)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森本 哲也  
特許庁審判長 丸山 英行
特許庁審判官 小関 峰夫
栗山 卓也
発明の名称 スパークプラグ  
代理人 菅原 正倫  

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