• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1238182
審判番号 不服2008-9205  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-14 
確定日 2011-06-08 
事件の表示 平成 9年特許願第503576号「胃腸障害の予防及び治療のための医薬用及び食餌用処方」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月 9日国際公開、WO97/00688、平成11年 7月13日国内公表、特表平11-507934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,1996年6月19日(パリ条約による優先権主張1995年6月23日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成19年4月10日付けの拒絶理由通知書に対して,その指定期間内である同年10月17日付けで手続補正がなされたが,同年12月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年4月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年5月14日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年5月14日付けの補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年5月14日付けの補正を却下する。
[理由]

(1)補正の内容

平成20年5月14日付け手続補正書によりなされた補正(以下,単に「本件補正」という)は,特許請求の範囲の請求項1の記載を以下のとおりにすることを含むものである。
「【請求項1】
-少なくとも,1用量当たり10^(6)?10^(12)細胞の範囲の量の,CNCM I-1390株,CNCM I-1391株,CNCM I-1392株,CNCM I-1447株,及びATCC53103株から選択される乳酸桿菌又はエンテロコッカス・フェシウムSF68である腸内良性細菌株,
-1用量当たり0.5?10gの範囲の量のグルタミン,又はL-アラニル-L-グルタミン,グリシル-L-グルタミン及びグリシル-グリシル-L-グルタミンから選択されるポリペプチド
を含むことを特徴とする,胃腸障害の予防及び/又は治療のための医薬用組成物。」(以下,「本願補正発明」ともいう。)

一方,本件補正前の請求項1(平成19年10月17日付け手続補正書の請求項1)の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】
-少なくとも,1用量当たり10^(6)?10^(12)細胞の範囲の量の,CNCM I-1390株,CNCM I-1391株,CNCM I-1392株,CNCM I-1447株,及びATCC53103株から選択される乳酸桿菌又はエンテロコッカス・フェシウムSF68である腸内良性細菌株,
-1用量当たり0.5?10gの範囲の量のグルタミン,
を含むことを特徴とする,医薬用組成物。」

補正前後の請求項1の記載を対比すると,以下の2点において訂正されているものである。
(a)補正前の「グルタミン」を,補正後は「グルタミン,又はL-アラニル-L-グルタミン,グリシル-L-グルタミン及びグリシル-グリシル-L-グルタミンから選択されるポリペプチド」と改める。
(b)補正前の「医薬用組成物」を,補正後の「胃腸障害の予防及び/又は治療のための医薬用組成物」とする。
上記(a)については,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって,(b)については,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされている特許法(以下単に「旧特許法」という)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)引用刊行物
原審で引用された,本出願前に頒布されたことが明らかな刊行物A及びBには,それぞれ以下のことが記載されている。

刊行物A;CURR. THER. RES., CLIN. EXP., (1979) 26 (6) SECTION 2
p.967-981(拒絶査定で引用された引例2)
刊行物B;AMINO ACIDS, (1994) 7 P.231-243
(拒絶査定で引用された引例4)

(2-1)刊行物Aの記載事項(英文のため訳文で記載する。)
(A-1)第978頁第12?39行
「予備臨床観察
患者及び方法
予備臨床観察は,異なる下痢性障害を患っている患者14人(男性11人と女性3人,年齢22?82歳)で行われた。これらの臨床例は,以下の通りである。

SF68株は,各ゼラチン・カプセルごとに以下の構成を示す医薬品であるGF1930として使用された。
-凍結乾燥された形のエンテロコッカス型乳酸菌SF68株を少なくとも75百万含む。

結果
結果は全てのケースにおいて非常に満足できるものであって,以下のようにまとめられる。
- 下痢と腹痛,それは処置を始めて非常に強いものであったが,1?3(平均2)日後に,全てのケースで解消した。」
(2-2)刊行物Bの記載事項(英文のため訳文で記載する。)
(B-1)第236頁第13?21行
「最近,栄養剤が患者に対して供給されるとき,グルタミンが本質的な成分とみなされることが重要であることが示唆された。外生のグルタミンの,遊離,または,ジペプチド(…)の形での,人間及び動物に対する供給は,絨毛突起の増加又は維持を含む,腸機能を向上させること,および/または,腸全体にわたる細菌の移動を減少させることがすでに示されていた…。」
(B-2)第237頁左欄第12?14行
「腸内研究において,グルタミンは健康なボランティアによって経口ドリンクとして摂取され,体重あたり0.1g/kg(…)または体重あたり0.3g/kg(…)でも不利な反応を何も観察しなかった。」

(3)対比
刊行物Aには,エンテロコッカス型乳酸菌SF68株を少なくとも75百万含む製剤を下痢性障害に罹っている患者に服用させたところ,下痢と腹痛が解消したことが記載されている(A-1)。
これを薬剤の観点からみれば,「75百万のエンテロコッカス型乳酸菌SF68株を含む胃腸障害治療のための医薬用組成物」(以下,「引用発明」という。)が記載されているということができる。
ここで,本願補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「75百万」及び本願補正発明の「10^(6)?10^(12)細胞」は何れも菌の個数を意味するものと解されるから,両者は少なくともこの点においては重複するものである。
したがって,本願補正発明と引用発明とは「少なくとも,1用量当たり10^(6)?10^(12)細胞の範囲の量の,エンテロコッカス・フェシウムSF68である腸内良性細菌株を含む胃腸障害の治療のための医薬用組成物。」である点で一致し,次の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明は,さらに「1用量当たり0.5?10gの範囲の量のグルタミン,又はL-アラニル-L-グルタミン,グリシル-L-グルタミン及びグリシル-グリシル-L-グルタミンから選択されるポリペプチド」を含むものであるのに対して,引用発明はそのようなことが特定されていない点。

(4)判断
以下,上記相違点について検討する。
グルタミンは,代表的な栄養素であるアミノ酸の1つであることは広く認識されているところであり,さらに,刊行物Bに記載のように,腸機能を向上させることも知られているものである(B-1)。
そうすると,引用発明のように経口投与による胃腸障害の治療用組成物に対して,代表的な栄養素であるアミノ酸に含まれるものであって,しかも腸機能に対する向上作用が知られているグルタミンを併用してみることは,当業者が容易に想到することである。
次に,1用量当たり0.5?10gの範囲の量について検討する。
例えば,刊行物Bには,体重あたり0.1g/kg或いは0.3g/kgの経口摂取量で不利な反応が観察されなかったとされており(B-2),このことは体重50kgの人間であれば,5g?15g程度以下であれば副作用なく経口服用できることを意味するものであるから,この量を超えない範囲内で1用量あたりの含有量を調整することは当業者が容易になし得ることである。
なお,下記するように,本願明細書等において,そもそもグルタミンを本願補正発明に係る乳酸桿菌類と併用投与することによる効果について示されているとはいえない上,グルタミンの1用量あたりの含有量についても臨界的な意義が示されているということもできないので,この観点からも,グルタミンの含有量を「1用量当たり0.5?10gの範囲の量」とすることは当業者が容易になし得ることとせざるを得ないものである。

また,本願補正発明による効果に関しては,本願明細書及び審査審判の経過において提出されたデータは,本願発明に係る乳酸桿菌類とグルタミンとを含む経口剤が下痢等の胃腸障害に有効であることは示されているものの,グルタミンを含まない乳酸桿菌類単独のものとの比較がなされていないので,引用発明である乳酸菌SF68を含む胃腸障害治療薬に対して,本願補正発明に係る医薬組成物が格別予想外の効果を奏するものとすることができない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本願補正発明は,刊行物A及びBに記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成20年5月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1に係る発明は,平成19年10月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
-少なくとも,1用量当たり10^(6)?10^(12)細胞の範囲の量の,CNCM I-1390株,CNCM I-1391株,CNCM I-1392株,CNCM I-1447株,及びATCC53103株から選択される乳酸桿菌又はエンテロコッカス・フェシウムSF68である腸内良性細菌株,
-1用量当たり0.5?10gの範囲の量のグルタミン,
を含むことを特徴とする,医薬用組成物。」(以下,「本願発明」という。)

(2)引用刊行物
原審で引用された刊行物A及びB並びにそれらの記載事項は,上記2.(2)で記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,前記2.において検討した本願補正発明とは,以下の関係を有する発明となっている。
補正前後の請求項1の記載を対比すると,以下の2点において訂正されているものである。
(a)本願補正発明では「グルタミン,又はL-アラニル-L-グルタミン,グリシル-L-グルタミン及びグリシル-グリシル-L-グルタミンから選択されるポリペプチド」とされているものが,本願発明では単に「グルタミン」とされている。
(b)本願補正発明では「胃腸障害の予防及び/又は治療のための医薬用組成物」とされているものが,本願発明では単に「医薬用組成物」とされている
上記(a)については,上記したように,明瞭でない記載の釈明を目的とする補正であったといえるから,実質的にはその内容は変わりないものであり,また(b)については,本願補正発明は本願発明よりもさらに限定されたものとなっている。
そうすると,本願発明と比較してさらに限定された本願補正発明が,前記2.(4)に記載したとおり,刊行物A及びBに記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとされるのであるから,本願発明も同様な理由により,刊行物A及びBに記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたといえるものである。

4.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって,結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2011-01-06 
結審通知日 2011-01-11 
審決日 2011-01-25 
出願番号 特願平9-503576
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 元浩瀬下 浩一  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 平井 裕彰
内藤 伸一
発明の名称 胃腸障害の予防及び治療のための医薬用及び食餌用処方  
代理人 津国 肇  
復代理人 小澤 圭子  
復代理人 齋藤 房幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ