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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800243 審決 特許
無効200580069 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効2007800196 審決 特許
無効2009800029 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1238559
審判番号 無効2008-800146  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-08-11 
確定日 2011-05-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4099537号「ハードゼラチンカプセル及びハードゼラチンカプセルの製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成21年 7月14日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10253号平成22年11月17日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4099537号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許は、平成1年7月4日に出願した特願平1-173668号の一部を平成10年4月30日に新たな特許出願とした特願平10-136055号の、さらに一部を平成15年8月14日に新たな特許出願とした特願2003-293373号として出願され、平成20年3月28日に設定登録されたものであり、本件無効審判の経緯の概略は、以下のとおりである。

平成20年 8月11日 無効審判請求
同年11月 7日 答弁書、訂正請求書提出(被請求人より。)
平成21年 1月15日 審尋(請求人、被請求人双方に対し。)
同年 1月30日 回答書(請求人より。)
同年 2月 2日 回答書(被請求人より。)
同年 3月 3日 上申書(被請求人より。)
同年 3月 3日 第1回口頭審理
同年 3月18日 上申書(請求人より。)
同年 3月18日 上申書(被請求人より。)
同年 7月23日 審決(訂正を認め、特許維持。以下、「先の審決 」という。)
同年 8月21日 知的財産高等裁判所へ出訴(請求人により。)
平成22年11月17日 判決(審決取消。)
平成23年 1月18日 審理再開通知(請求人に対し。)
同年 1月18日 審理再開及び訂正請求のための期間指定通知(被 請求人に対し。)
同年 1月21日 上申書(被請求人より訂正請求をしない旨の上申 。)


第2 訂正請求
上記訂正請求書による訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容は、上記訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。
2-1.訂正請求の趣旨
特許第4099537号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。

2-2.訂正の内容
特許請求の範囲の記載を
「【請求項1】
ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして#4000、#6000又は#20000のポリエチレングリコールを用い、かつその含有量がゼラチンに対して下記割合であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。
(イ)ポリエチレングリコール#4000の場合:3?15重量%
(ロ)ポリエチレングリコール#6000の場合:3?10重量%
(ハ)ポリエチレングリコール#20000の場合:0.3?5重量%
【請求項2】
ゼラチンを水に溶解した溶液に#4000、#6000又は#20000のポリエチレングリコールをゼラチンに対して下記割合で添加してジュリーを得た後、浸漬法により非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造し、このカプセルに吸水性又は吸湿性物質を充填することを特徴とする水感応性物質充填ハードゼラチンカプセルの製造方法。
(イ)ポリエチレングリコール#4000の場合:3?15重量%
(ロ)ポリエチレングリコール#6000の場合:3?10重量%
(ハ)ポリエチレングリコール#20000の場合:0.3?5重量%」
から
「【請求項1】
ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして#4000のポリエチレングリコールを用い、かつその含有量がゼラチンに対して3?15重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。
【請求項2】
ゼラチンを水に溶解した溶液に#4000のポリエチレングリコールをゼラチンに対して3?15重量%の割合で添加してジェリーを得た後、浸漬法により非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造し、このカプセルに吸水性又は吸湿性物質を充填することを特徴とする水感応性物質充填ハードゼラチンカプセルの製造方法。」
と訂正することを求め、加えて、これに伴い、本件明細書の段落【0012】、【0013】、【0016】、【0018】、【0019】、【0023】、【0026】、【0027】についても訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るために、訂正を求める。

2-3.訂正の適否の判断
上記訂正のうち特許請求の範囲についての訂正は、ポリエチレングリコール及びその含有量について、「(イ)ポリエチレングリコール#4000の場合:3?15重量%」、「(ロ)ポリエチレングリコール#6000の場合:3?10重量%」、「(ハ)ポリエチレングリコール#20000の場合:0.3?5重量%」という3つの選択肢の中から「(イ)ポリエチレングリコール#4000の場合:3?15重量%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の【0012】、【0013】、【0016】、【0018】、【0019】、【0023】、【0026】、【0027】についての訂正は、訂正後の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであり、不明瞭な記載の釈明を目的とするものである。
そして、これらの訂正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。
したがって、平成20年11月7日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項及び同条第5項で準用する第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3 本件発明
上記訂正の結果、本件特許第4099537号の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明(以下、各々、「本件発明1」、「本件発明2」といい、総称して「本件発明」という。)は、上記訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして#4000のポリエチレングリコールを用い、かつその含有量がゼラチンに対して3?15重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。
【請求項2】
ゼラチンを水に溶解した溶液に#4000のポリエチレングリコールをゼラチンに対して3?15重量%の割合で添加してジェリーを得た後、浸漬法により非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造し、このカプセルに吸水性又は吸湿性物質を充填することを特徴とする水感応性物質充填ハードゼラチンカプセルの製造方法。」


第4 当事者の主張、及び、提出した証拠方法
4-1.請求人の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法
請求人は、『特許第4099537号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。』との審決を求め、その理由として以下の<無効理由1?5>の理由を主張し、証拠方法としては下記の甲第1号証乃至甲第29号証を提出している。なお、請求人は、平成20年8月11日付け審判請求書の第21頁第18行?第22頁第12行に記載の「第36条第3項要件違反2」、同第23頁下から第11行?第4行に記載の「第36条第4項第1号要件違反2」、及び同第24頁下から第4行?第25頁第6行に記載の「第36条第4項第2号要件違反2」の主張、及び平成21年2月17日付け口頭審理陳述要領書の第29頁下から第10行?第30頁第2行の「第36条第3項要件違反4」及び同第30頁最下行?第31頁第5行の「第36条第4項第1号要件違反4」の主張を取り下げた。

<無効理由1>
本件特許発明は、甲第1?8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。すなわち、技術水準に鑑み、甲第1号証を読めば、本件特許発明の課題も、グリセリンを使用した当該課題の解決手段も、更には、この効果が十分ではないことも周知であったことが分かる。そして、甲第2号証や甲第5号証から、本件特許発明の課題を解決するために、ポリエチレングリコールを本件特許発明の規定量で使用することは、極めて容易に案出できたものである。よって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。

<無効理由2>
本件特許発明は、甲第2?9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。すなわち、技術水準に鑑みつつ、甲第9号証を読めば、本件特許発明の課題も、グリセリンを使用した当該課題の解決手段も、更には、この効果が十分ではないことも周知であったことが分かる。そして、甲第2号証や甲第5号証から、本件特許発明の課題を解決するために、ポリエチレングリコールを本件特許発明の規定量で使用することは、極めて容易に案出できたものである。よって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。

<無効理由3>
特許法第36条第3項要件違反1及び3の理由により、本件特許発明について、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載したものでないから、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第3号の規定により、無効とすべきものである。
(第36条第3項要件違反1)
本件特許の請求項1及び2には、必須成分として、#4000のポリエチレングリコールとそれ以外の各種ポリエチレングリコールを組み合わせて用いるものを含み得るが、本件明細書に実施例として記載されているのは、ポリエチレングリコールとして#4000のポリエチレングリコールのみを用いた場合だけであって、#4000のポリエチレングリコールとそれ以外の任意のポリエチレングリコールを組み合わせて用いる態様については記載されておらず、また、#4000のポリエチレングリコールとそれ以外の任意のポリエチレングリコールを組み合わせた場合にも、#4000のポリエチレングリコールのみを用いた場合と同等の所望の効果を奏し得ることについての試験データやそれと同視できる十分具体的若しくは合理的な説明が本件明細書になされていない。
(第36条第3項要件違反3)
日本薬局方によれば、#4000のポリエチレングリコール(収載名マクロゴール4000)の平均分子量は2600?3800と幅をもつものである。しかし、本件明細書の実施例には#4000のポリエチレングリコールを使用したことが記載されているにとどまり、当該実施例においていかなる分子量を有するポリエチレングリコールを使用したのか不明である。また、当該実施例で実際に使用した2600?3800と広範囲にわたる平均分子量の範囲内のある特定の分子量を有するポリエチレングリコール以外のポリエチレングリコールを用いた場合の発明についても、当該実施例で実際に使用したポリエチレングリコールを用いた場合と同等の所望の効果を奏し得ることを示す試験データやそれと同視できる十分具体的若しくは合理的な説明が本件明細書になされていない。

<無効理由4>
特許法第36条第4項第1号要件違反1及び3の理由により、本件特許発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第3号の規定により、無効とすべきである。
(第36条第4項第1号要件違反1)
<無効理由3>で述べたとおりである。
(第36条第4項第1号要件違反3)
<無効理由3>で述べたとおりである。

<無効理由5>
本件特許の請求項1及び2には、「#4000のポリエチレングリコール」とあるが、「#4000」が何を意味するのかが不明確であり、請求項1及び2の記載内容が技術的に明瞭でない。よって、本件特許の請求項1及び2は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載した項に区分していないから、特許法第36条第4項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第3号の規定により、無効とすべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:月刊薬事、1967、Vol.9、No.11、pp.127?132
甲第2号証:POLYMER、1983、Vol.24、June、pp.651?666及び抄訳文
甲第2号証その2:甲第2号証の抄訳文
甲第2号証その3:甲第2号証の抄訳文
甲第3号証:平成19年12月25日付け意見書
甲第4号証:平成19年12月25日付け手続補足書により提出された参考資料1
甲第5号証:KOLLOIDNIJ、JURNAL/Tom XXXVII、1975、YDK 668.317:678-19、pp.9?15及び訳文
甲第6号証:HARD CAPSULES、 DEVELOPMENT AND TECHNOLOGY、 p.39、 p.41、 p.54及び抄訳文、 1987、 London THE PHARMACEUTICAL PRESS
甲第6号証その2:甲第6号証の抄訳文
甲第6号証その3:HARD CAPSULES、 DEVELOPMENT AND TECHNOLOGY、 PP.46-48、 1987、 London THE PHARMACEUTICAL PRESS
甲第7号証:オランダ特許出願第7302521号明細書及び抄訳文
甲第8号証:欧州特許出願公開第110502号明細書及び抄訳文
甲第8号証その2:甲第8号証の抄訳文
甲第9号証:医薬品開発基礎講座XI 薬剤製造法(上)、pp.289?367、昭和46年7月10日、株式会社 地人書館
甲第10号証:平成10年特許願第136055号の拒絶査定に対する平成15年11月26日付け審判請求書手続補正書
甲第11号証:特開平3-80930号公報
甲第12号証:第十改正日本薬局方解説書、D-176?D-179、昭和58年10月15日第4刷発行、株式会社 廣川書店
甲第13号証:特開平1-121213号公報
甲第14号証:岩波理化学辞典第4版、pp.676?677、1993年6月10日第4版第8刷発行、株式会社 岩波書店
甲第15号証:Vysokomol. Soedin、 1974、 A16、 pp.1113?1124及び抄訳文
甲第16号証:広辞苑第1版、pp.1052?1053、昭和30年5月25日第1版第1刷発行、株式会社 岩波書店
甲第17号証:医薬品添加物ハンドブック、pp.838?839、2007年2月28日第1刷発行、株式会社 薬事日報社
甲第18号証:メルクインデックス第9版、pp.983?984、1976年、MERCK & CO.、 INC.
甲第18号証その2:甲第18号証の抄訳文
甲第19号証:欧州薬局方、pp.1118?1129、1997年
甲第19号証その2:甲第19号証の抄訳文
甲第20号証:平成21年2月10日付け実験成績証明書
甲第21号証:平成12年11月28日付け実験成績証明書
甲第22号証:特開昭61-100519号公報
甲第23号証:平成13年1月15日付け物件提出書(平成11年審判第35221号)
甲第24号証:平成21年2月7日付け実験成績証明書
甲第25号証:平成10年1月9日起案の特許異議の決定謄本(特願平1-173668号)
甲第26号証:平成14年1月15日起案の拒絶理由通知書(特願平10-136055号)
甲第27号証:特公昭36-3848号公報
甲第28号証:特許第2650578号公報
甲第29号証:平成7年2月10日付け特許異議答弁書(特願平1-173668号)

4-2.被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は審判請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する<無効理由1>?<無効理由5>は、いずれも理由がない旨主張し、下記の証拠方法を提出している。

<証拠方法>
乙第1号証:本件特許明細書の実施例で使用された「テスター産業製加圧試験機」を示す写真
乙第2号証:クオリカプス株式会社 松浦誠之介による平成20年10月27日付けの実験成績証明書
乙第3号証:クオリカプス株式会社 松浦誠之介による平成20年10月27日付けの実験成績証明書
乙第4号証:クオリカプス株式会社 松浦誠之介による平成20年10月27日付けの実験成績証明書
乙第5号証:日本油脂株式会社、「ニッサン ポリエチレングリコール」のパンフレット
乙第6号証:「9887の化学商品」、pp.414?415、昭和62年1月30日発行、化学工業日報社
乙第7号証:平成11年審判第35221号の審決書
乙第8号証:訂正2001-39124号審判の審決書
参考資料1:第十三改正日本薬局方第二部、pp.2484?2491、平成8年4月15日初版発行、株式会社 廣川書店
参考資料2:日本公定書協会編 化粧品原料基準 第二版注解 I、pp.937?951、1984年、薬事日報社
参考資料3:ファインケミカル、1985年5月15日、pp.9?10、「感光材料をサポートする化合物」
参考資料4:ライオン株式会社のパンフレット「ポリエチレングリコール」
参考資料5:三洋化成工業株式会社のパンフレット「PEG」
参考資料6:須藤 一 著、材料試験法、p.77、2002年4月1日改正2版6刷発行、株式会社 内田老鶴圃


第5 当審の判断
5-1.上記判決の判断
本件発明に関し、上記判決では、以下のとおりの判断が示された。(なお、以下の判決の抜粋中、「被告」とは、本審決にいう「被請求人」のことである。)
「第4 当裁判所の判断
1 ・・・
2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について
(1) 本件発明について
ア 本件明細書(甲44)の記載を要約すると,以下のとおりである。
(ア) 医薬品の固形製剤の1つとして,ハードゼラチンカプセル剤があり,通常,ゼラチン皮膜で形成された,互いに一端の開いた帽状容体の内部に粉末,顆粒又は液状(油状)の医薬又は食品を所定量充填後,容体を同軸的に結合して完成する。
カプセル剤に使用するハードゼラチンカプセルは,通常,カプセル皮膜中に約13?15%程度の水分を保有しているが,10%以下になると皮膜の柔軟性が低下し,極めて脆くなるため,カプセル成形後における内容物充填作業でのカプセルの機械的取扱の際,ひび,割れ又は欠け等,カプセル皮膜に損傷を生じることがある。
かかる不都合を防止若しくは抑制する方策としては,ゼラチンを基剤とし,グリセリン又はソルビトール等の可塑剤を添加することが知られているが,これらの可塑剤をハードゼラチンカプセルの製造時に添加すると,その添加量によっては当該カプセル皮膜が柔らかくなりすぎたり,乾燥速度が遅くなることもあり,現実の使用に当っては種々の間題が残されているところ,その問題解決のためには,グリセリンに代えて,ポリオキシエチレンソルビトール若しくはポリエチレングリコール又はその両方を添加する方法が既に提案されていた。
(イ) 平均分子量200?600の範囲にある常温で液状のポリエチレングリコールは,優れた溶解作用と吸収性を有し,賦形剤として好適なものであるが,それ自体の吸湿性により,カプセル皮膜から水分を奪うため,経時的に割れを発生するおそれが多々ある。
また,ハードゼラチンカプセルは,水分に対して不安定な薬物を充填する場合,安定性確保のために水分を低めに保つ必要があるが,低水分下のゼラチン皮膜は割れを発生し易く,製剤化が困難である。
(ウ) 本発明は,吸水性又は吸湿性物質を充填した場合におけるハードゼラチンカプセルにおいて,皮膜の低含有水分下での機械的強度の脆さ及びこれらの物質の充填製剤化の困難性といった不都合を解消することを目的とする。
本発明は,かかる課題解決の具体的手段について検討し,ゼラチンを水に溶解した溶液に,#4000のポリエチレングリコールをゼラチンに対して,3?15重量%の割合で添加したジェリーを用いて,浸漬法にて非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造すると,課題を解決し得ることを見いだした。
この最適添加量を越えてポリエチレングリコールを使用すると,ゼラチン溶液は白濁してその粘度が急激に低下し,均一に混合することができなくなる。
また,最適添加量に満たない使用量では,目的とするカプセル皮膜の割れ防止効果を十分には発揮することができない。
なお,本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルには,従来のハードゼラチンカプセルと同様,所望によりその他の添加剤,例えば薬事法あるいは食品衛生法等で指定された食用色素や不透明化剤等を適宜添加することができる。
(エ) 実施例としては,#4000のポリエチレングリコールを,ゼラチンに対して1%,2%,3%,4%,5%,10%,15%,20%,25%の各重量%で添加して製造したカプセルに,分子量400のポリエチレングリコールを充填し,7日間保存した後,加圧試験機により5Kgの荷重をかけて,割れの発生の有無を確認する試験を実施したところ,1%では割れ数3個,2%では割れ数1個,3%ないし15%が割れなし,20%及び25%では,ゼラチンとの相溶性がなく,分離してしまい,カプセル皮膜を成形することができなかった結果が記載されている。
イ 本件発明の技術内容
以上の本件明細書の記載によると,本件発明は,吸水性又は吸湿性物質を充填した場合におけるハードゼラチンカプセルにおいて,皮膜の低含有水分下での機械的強度の脆さ及びこれらの物質の充填製剤化の困難性といった不都合を解消するため,ゼラチンを水に溶解した溶液に,#4000のポリエチレングリコールを,ゼラチンに対して3?15重量%の割合で添加したジェリーを用いて,浸漬法にて非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造することをその技術内容とするものである。
(2) 引用発明9について
ア 引用例9(甲9)の記載を要約すると,以下のとおりである。
(ア) カプセルの機械的性質は,可塑剤の種類とその添加量・含有水分などの影響を受けて変わるが,基本的には,基剤のゼラチンフィルムのレオロジー的な性質によって変化する。フィルムの粘性要素が小さいと,カプセルは脆く,外力によって破壊されやすくなる。また,低湿度の環境に保存すると,粘性要素が小さく,ガラス状となり,簡単に割れるようになる。弾性要素が小さいと,硬カプセルでは薬剤の充填工程の機械的な衝撃によって変形を生じやすくなる。
(イ) 実際に作られたカプセルの機械的性質の測定については,カプセルに与える荷重を連続的に増加させた場合のカプセルの変形量から,軟カプセルの柔軟性や硬カプセルのボディ底部の抵抗力を測定した例がみられる。
(ウ) ゼラチンは,水との親和性が大きく,カプセルは通常,9?15%の水分を含有し,保存湿度によってはこれが変化する。高湿度下に保存すると,カプセルは吸湿して軟化・変形し,また,カプセル剤同士やカプセル剤と容器壁との間に付着を生じたり,軟カプセル剤では継ぎ目が分離しやすくなる。内容薬剤が吸湿性の場合,カプセルや外気の水分が薬剤に移行してその分解を招き,さらにカプセル剤の崩壊が延長することもある。低湿度下に保存すると,カプセルは水分を失って柔軟性が減少し,脆く,壊れやすくなる。
(エ) カプセルは,通常,基剤であるゼラチンと,可塑剤であるグリセリンやソルビトールと,これらの吸着水とからなる。可塑剤の量は,硬カプセルでは数%以下,軟カプセルでは10?50%に及ぶが,いずれも添加量によってカプセルの硬さが調整される。カプセル製造において,種々の添加剤を用いるが,カプセルの成形及び品質に最も重要な役割を果たすのは可塑剤である。
(オ) カプセルの基本的強度は,カプセルと同一組成のシートを作り,このシートの粘弾性を,高分子フィルムの粘弾性測定装置によって,硬カプセルの底部の衝撃に対する抵抗力や軟カプセルの柔軟性などを測定する。
イ 引用発明9の技術内容
(ア) 以上の引用例9の記載によると,引用例9には,「グリセリン等の可塑剤をゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって,吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル」(引用発明9)が開示されており,本件発明1とは,吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセルである点において共通しているが,本件発明1は,#4000のポリエチレングリコールを特定の含有量で含むのに対し,引用発明9は,グリセリン等の可塑剤を含み,その含有量を特に規定していない点において,両者は相違するものである(以下「本件相違点」という。)。
(イ) また,以上の引用例9の記載によると,引用例9には,ゼラチンカプセルの機械的性質は,可塑剤の種類とその添加量・含有水分などの影響により変化するが,基本的には,基剤のゼラチンフィルムのレオロジー的性質によること,フィルムの粘性要素が小さいとカプセルは脆くなるところ,低湿度下では,粘性要素が小さくなって,外力によって破壊されやすくなること,カプセルの粘弾性のような基本的強度は,カプセルと同一組成のシートによって測定されるという知見が開示されている。
そして,当業者であれば,かかる知見に接した場合,低湿度の環境下ではゼラチンカプセルは外力によって破壊されやすくなること,粘性に優れたシートを与えるゼラチン基剤から製造されたゼラチンカプセルは,外力によって破壊されにくいことに加え,機械的強度を測定する粘弾性測定装置により硬カプセルの底部の衝撃に対する抵抗力を測定する記載等から,カプセルの外力による変形や破壊は,ゼラチン基剤の粘弾性と関連するものであると理解するものということができる。
したがって,当業者は,引用例9から,カプセルが外力により破壊されるか否かという耐衝撃性等の機械的強度も,カプセルと同一組成のフィルムで試験することができることを理解することができるというべきである。
この点について,医薬用硬質カプセルに関する特開昭61-100519号公報(甲22)においても,衝撃強度や引張り強度等の機械的強度について,ゼラチン基剤フィルムの状態で測定されているものであり,本件審決が「カプセルの機械的強度はフィルムの粘性要素と関連性を有しており,カプセルの機械的強度はカプセルと同一組成のフィルムで試験するものである」とするとおり,当業者における技術常識であったものということができる。
(3) 引用発明2について
ア 引用例2(甲2)は,昭和58年6月,旧ソビエト連邦において,雑誌「ポリマーレビュー」に掲載された,「固体ゼラチンの構造と特性及びそれらの改質の原理」と題する論文であるが,引用例2の記載を要約すると,以下のとおりである。
(ア) ゼラチンは,各種の物品及び材料の製造において,広く使用されるポリマー製品として特別な重要性を有する。
ゼラチンには,固有の有用な特性が数多くあるものの,望ましくない温度及び湿度条件下で発生する重大な欠点もある。その中には,低湿度及び高温下における固体ゼラチンの大きな脆性がある。かかる脆性は,ゼラチン物質の早期破壊を招くため,固体ゼラチンの性質改質の問題,第1に,可塑化の問題は,多くの検討がされた課題であるが,未だに完全に解決されていない。そこで,過酷な環境条件下でのゼラチン材料の脆性を減少させる能力を概説する。
(イ) ゼラチン高分子の立体構造が,ゼラチン製品の機械的特性に対して与える影響は,通常及び低湿度下でゼラチンがガラス状態であると,ゼラチン高分子中のらせん程度の減少が,常に固体ゼラチンの機械的特性を劣化させることを示唆する。
(ウ) 可塑剤を含み,水を含有しないゼラチンフィルムの衝撃耐性及び吸着特性に関する最近の詳細な研究から,図18(ゼラチンフィルムの可塑剤として,グリセリン等を含む冷ゼラチンフィルムの衝撃耐性の水蒸気圧に対する依存性を測定した図)から明らかなとおり,水分含量に依存する可塑化ゼラチンフィルムの衝撃耐性は,常に極大値を示す。どのような低分子量化合物のタイプ及び濃度並びにその吸着能力であろうと,極大値は同一の領域で起こる。研究した低分子量化合物のいずれもが,P/Po<0.5?0.6において可塑化作用を有さないこと,すなわち,これらの化合物を含むフィルムの衝撃耐性が,可塑剤を含まないゼラチンフィルムの衝撃耐性よりも低いか,あるいはせいぜい同等であった。低分子量化合物が可塑化作用を示し,ポリマー可塑化の典型的パターンが観察されるのは,限定された水分含量(?12%水分)においてのみである。水分の最低%は,ゼラチンに導入された低分子量化合物の性質に依存せず,研究した低分子量化合物のいずれもが,無水のゼラチンに対して,改質作用を有さない。
(エ) 親水性ポリマーによるゼラチンの改質は,限定された混和性を有するゼラチンとの混合物を形成するポリエチレングリコール(PEG)を用いて研究された。図19(ゼラチンフィルムの可塑剤として,PEG-300,3000,40000のポリエチレングリコールを含む冷ゼラチンフィルムの衝撃耐性の水蒸気圧に対する依存性を測定した図。添加量は,PEG-300がそれぞれ0%,5%,10%,20%,30%,PEG-3000がそれぞれ0%,1%,3%,5%,PEG-40000がそれぞれ0%,0.1%,1%である。)から明らかなとおり,水蒸気圧の関数として,PEG含有ゼラチンフィルムの衝撃耐性は極大値を示す。極大値の位置は,PEGの分子量及び濃度に依存し,系の最適なミクロ脱混合の度合いに対応する。水分含量が増加すると(P/Po>0.7),濁度から明らかとなるマクロ脱混合及び衝撃耐性が低下するが,衝撃耐性の濃度依存性は,高さや位置が,ポリマーの化学的性質及び分子量に依存する極大値としても示される。
(オ) 改質されたゼラチンは,技術的応用として,固相沈着法による写真乳剤の製造,疎水性物質のマイクロカプセル化,医薬及び各種産業において広く使用される。
本論文は,広範囲の温度及び湿度下における固体状態のゼラチンの構造と特性の解析から,ゼラチンの物理,機械的特性すべてに関わる特定の特徴を明らかにしたものである。
イ 引用発明2の技術内容
(ア) 引用例2の図18,19には,ゼラチンフィルムの可塑剤として,グリセリンやPEG-300,3000,40000のポリエチレングリコールが使用されることが開示されている。
そして,図18には,グリセリンを10%又は20%配合したゼラチンフィルムは,低湿度(P/Po<0.5?0.6)下において,フィルムの衝撃耐性が,グリセリン等の可塑剤を含まないものより低いか,せいぜい同等であることが開示されている。
他方,図19には,PEG-3000を1%,3%又は5%配合したゼラチンフィルムは,水蒸気圧が0から約0.8の範囲において,衝撃強度が向上することが開示されている。
(イ) 引用例2の図18及び19において,耐衝撃性を測定しているゼラチンフィルムが,ゼラチン単独のフィルムか,支持体上にゼラチン層を積層した複合フィルムであるかについては,当事者間に争いがある。
もっとも,被告は,衝撃強度試験であれば,支持体上に積層した状態のゼラチンフィルムであっても,その積層状態におけるゼラチンフィルム(ゼラチン層)の衝撃強度を測定することは十分可能であることを認めており,複合フィルムの状態であっても,支持体より強度が劣るゼラチン層の衝撃強度を評価することは,技術的に可能であると考えられる。
したがって,引用例2には,低湿度下(P/Po<0.5?0.6)では,可塑剤としてグリセリンを10%又は20%配合したゼラチンフィルムと比較して,可塑剤としてPEG-3000を1%,3%又は5%配合したゼラチンフィルムの方が,耐衝撃強度が改善されることが開示されているといえる。
なお,図18には,グリセリンを30%配合したフィルムの耐衝撃性についても記載されているが,引用例9において,可塑剤の量は,硬カプセルでは数%以下,軟カプセルでは10?50%とされていることからすると,当業者が,ハードゼラチンカプセルの製造において,当該記載に着目することはないものと考えられる。
ウ 小括
以上からすると,本件審決が,引用例2には,ゼラチン単独フィルムの耐衝撃強度の向上には,グリセリンよりも特定のポリエチレングリコールの方がよいことについて開示されているとは認められないとした判断は誤りといわざるを得ない。
この点について,被告は,引用例2に応用分野として例示されている「マイクロカプセル」は,カプセル剤とは全く異なるものであり,「医薬」という広範な指摘についても,直ちにハードゼラチンカプセルへの適用が記載されているということもできないなどと主張する。
しかしながら,引用例2は,「固体ゼラチンの構造と特性及びそれらの改質の原理」と題する論文で,ゼラチン自体の物理,機械的特性に関する一般的な知見を開示するものであって,特定の用途におけるゼラチンの性質に限定して記述されているものではない。実際,引用例2は,ハードゼラチンカプセルに関する専門書である引用例6(甲6)にも引用されており,ゼラチンカプセルの技術分野に属する文献であるということができる。被告の主張は採用できない。
(4) 引用発明9に引用発明2を組み合わせることについて
ア 組合せの容易性について
(ア) 引用例2には,低湿度下(P/Po<0.5?0.6)では,可塑剤としてグリセリンを10%又は20%を配合したゼラチンフィルムと比較して,可塑剤としてPEG-3000を1%,3%又は5%配合したゼラチンフィルムは,耐衝撃強度が改善されることが開示されており,ポリエチレングリコールは,平均分子量で分類することが技術常識であること(甲34)からすると,PEG-3000のポリエチレングリコールとは,平均分子量3000のポリエチレングリコールを意味するものと認められる。
そして,引用発明9は,ゼラチンカプセルを低湿度下に保存した場合,カプセルが破壊されやすくなるという課題を有するものであり,また,引用例2は,前記のとおり,ゼラチンカプセルの技術分野に属する文献ということもできるから,引用発明9と同じ技術分野に属するものといって差し支えない。
したがって,引用発明9の,ハードゼラチンカプセルの低湿度環境におけるカプセルの破壊を改善する目的で,引用例2により開示された技術的知見に基づき,ハードゼラチンカプセルを製造するために用いるゼラチン基剤の可塑剤として,グリセリンに代えて,グリセリンよりも低湿度下において優れた耐衝撃強度を与えるPEG-3000,あるいはそれに類似するポリエチレングリコールをゼラチンに対して1?5%程度添加することは,当業者が容易に行い得ることであるものと認められる。
かかる添加割合は,本件発明における#4000のポリエチレングリコールの添加割合(3%?15%)と重複する範囲であり,可塑剤の量は,硬カプセルでは数%以下とされていること,ゼラチンフィルムの衝撃耐性は,添加されるポリエチレングリコールの平均分子量及び濃度に影響されることは,引用例2及び9に開示されているのであるから,添加量の上限及び下限は,当業者が実験等により,適宜設定し得る事項であるということができる。
(イ) 被告は,本件発明の「#4000のポリエチレングリコール」とは,日本薬局方収載のポリエチレングリコール4000(マクロゴール4000)であると主張し,本件審決も同様の認定をするところ,本件明細書には,#4000のポリエチレングリコールが日本薬局方収載のポリエチレングリコール4000であることは明記されておらず,また,本件基礎出願の公開特許公報(甲11)には,分子量によりポリエチレングリコールを特定する旨の記載があることなどからすると,本件明細書における「#4000のポリエチレングリコール」については,明確性の要件を充足しているかなお疑問が残るものであり,原告も,取消事由4として主張するものである。
もっとも,明確性の要件を充足するか否かはともかくとして,被告の主張を前提とすれば,「#4000のポリエチレングリコール」とは,日本薬局方(甲38)収載の,平均分子量が2600?3800のポリエチレングリコールであるから,PEG-3000,すなわち,平均分子量3000のポリエチレングリコールに類似するものとして,化学構造が共通し,平均分子量において重複する#4000のポリエチレングリコールを用いることは,当業者が容易に行い得ることである。
(ウ) 以上からすると,本件審決が,本件相違点について,グリセリン等の可塑剤に代えて引用例2又は5記載の特定のポリエチレングリコールを配合してみることは,当業者が容易に想到し得たとはいえないとした判断は誤りである。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は,カプセルの静圧荷重試験とフィルムの衝撃試験は,全く異なるなどと主張する。
しかしながら,先に指摘したとおり,カプセルの機械的強度は,支持体から分離して試験したか否かにかかわらず,カプセル基剤をゼラチンフィルムとした状態で評価できることは,当業者の技術常識といえるから,引用例2において,耐衝撃性の評価がフィルムでなされていることは,引用発明9に,引用例2に開示された技術的知見を結び付けることを阻害するものではない。
(イ) 被告は,本件発明において,カプセルで問題とされる機械的性質は,静圧荷重特性であって,耐衝撃特性ではないなどと主張する。
この点について,本件明細書には,本件発明が解決しようとする課題は,吸水性又は吸湿性物質を充填した場合におけるハードゼラチンカプセルにおける皮膜の低含有水分下での機械的強度の脆さといった不都合を解消することとされており,「機械的強度」とは,「カプセル成形後における例えば内容物充填作業でのカプセルの機械的取扱に際して,ひび,割れ又は欠け等のカプセル皮膜に損傷」が生じないための強度を意味すると記載されている。
そうすると,本件発明が問題とする「機械的強度」には,被告が強調するPTP包装からの取り出し時における静圧荷重のほか,「内容物充填作業でのカプセルの機械的取扱」の際,カプセル同士の接触,カプセルと充填装置の部品と接触することなどにより,カプセルに衝撃力が加わることをも当然想定しているものということができるから,むしろ,本件発明は,カプセルの耐衝撃性の向上も目的とするものと解される。
そして,本件明細書の実施例においては,静圧荷重を加える加圧試験機を用いて,カプセル割れ試験を行っているが,当該試験により評価される「カプセル割れ試験」も,引用例9に記載される粘弾性測定装置を用いて評価される「硬カプセルの底部の衝撃に対する抵抗力」も,いずれもカプセルに対して外力を加えた際に生じるカプセルの破損について評価する点において共通するものである。
引用例9には,カプセルの機械的性質は,基剤のゼラチンフィルムの性質によることも開示されているのであるから,当業者は,形状がフィルムの状態であったとしても,衝撃強度という外力を加えた際の強度に優れる材料であれば,当該基剤から形成されたカプセルについて,加圧試験機で測定されるカプセルの強度も,粘弾性測定装置を用いて評価されるカプセルの強度も,ある程度良好な結果となることを想定するものと解される。
(ウ) 被告は,本件発明と引用例9との相違点は,そもそも#4000のポリエチレングリコールをハードゼラチンカプセルに配合しているか否かという点であって,数値限定の有無のみではないから,臨界的意義は要求されないとも主張する。
しかしながら,先に指摘したとおり,引用例2による技術的知見を適用すれば,ハードゼラチンカプセルの基剤であるゼラチンに#4000のポリエチレングリコールを1?5%程度添加することは,当業者が容易に行い得ることである。
そして,本件発明において特定される#4000のポリエチレングリコールの配合割合「3?15重量%」は,引用例2により教示される1?5%の範囲と重複するものであり,本件明細書の実施例は,その添加効果の評価手段として,静圧荷重をかける加圧試験機を採用し,外力によるカプセルの破損が少ないことを確認したものにすぎない。
被告の主張はいずれも採用できない。
ウ 小括
以上からすると,低湿度下におけるハードゼラチンカプセルの機械的強度を向上するために,可塑剤として,#4000のポリエチレングリコールを3?15重量%の割合で添加することは,当業者であれば容易に想到し得るものということができる。
同様に,ゼラチンを水に溶解した溶液に,かかる割合で#4000のポリエチレングリコールを添加してジェリーを得た後,浸漬法により非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造する方法の発明である本件発明2も,当業者が,引用例9と引用例2により開示された技術的知見を組み合わせることにより,容易に想到し得るものということができる。
したがって,本件発明の進歩性を認めた本件審決の判断は誤りというほかなく,原告主張の取消事由2は,理由がある。」

5-2.判断
5-1.に示すとおり、上記判決には、本件発明の進歩性を認めた先の審決の判断は誤りである旨の判断が示されている。
そして、この判断は、上記判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を構成するものであると解されるから、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、当合議体を拘束する。そうすると、本件発明は、上記判決にいう引用例9(甲9)及び引用例2(甲2)すなわち本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証及び甲第2号証、に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は無効理由2により無効とすべきものである、とするほかはない。


第6 むすび
以上のとおり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、その他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ハードゼラチンカプセル及びハードゼラチンカプセルの製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、水感応性物質を充填するための非フォーム状ゼラチンハードカプセル、及び水感応性物質を充填した非フォーム状ハードゼラチンカプセルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品の固形製剤の1つとしてハードカプセル剤がある。このものは、通常ゼラチン皮膜で形成された互いに一端の開いた帽状容体の内部に粉末、顆粒又は液状(油状)の医薬又は食品を所定量充填した後、それら容体を同軸的に結合して完成される。
【0003】
このハードゼラチンカプセル剤は、製剤化のし易さと医薬活性成分の矯味及び/又は矯臭作用による服用のし易さから近年広く利用されている。
【0004】
ところで、このカプセル剤に利用される前記ハードゼラチンカプセルは、一般に当該ゼラチン皮膜中の含有水分が少なくなると極端にその機械的強度が低下するといった欠点を持っている。すなわち、既存のハードゼラチンカプセルは、通常そのカプセル皮膜中に約13?15%程度の水分を保有しているが、これが10%以下になると皮膜の柔軟性が低下してきわめて脆くなる。従って、カプセル成形後における例えば内容物充填作業でのカプセルの機械的取扱に際して、ひび、割れ又は欠け等のカプセル皮膜に損傷を生じることがある。このような不都合を防止もしくは抑制するための方策としては、日本薬局方にも記載されているとおりゼラチンを基剤とし、これにグリセリン又はソルビトール等の可塑剤を添加することが知られているが、これらの可塑剤をハードゼラチンカプセルの製造時に添加すると、その添加量によっては当該カプセル皮膜が柔らかくなり過ぎたり、またその乾燥速度が遅くなることもあり、現実の使用に当っては種々の間題が残されている。
【0005】
以上のような背景から前記可塑剤の添加による難点を解消する手段として、前記グリセリンに加えてポリオキシエチレンソルビトールもしくはポリエチレングリコール、またはその両者を添加する方法が既に提案されている(特許文献1:特公昭33-5649号公報参照)。
【0006】
【特許文献1】
特公昭33-5649号公報
【0007】
しかしながら、かかる特公昭33-5649号公報の提案は、分子量200?800のポリエチレングリコールを添加することによりゼラチン皮膜の強度と乾燥性の向上を目的として案出されたものであるが、このゼラチン皮膜はソフトカプセルに関するものである。
【0008】
一方、周知のとおり近年における液状物用カプセル充填機と同封緘機の開発によって、ハードゼラチンカプセルへ液状物を充填したカプセル剤も実用化されている。
【0009】
ところで、平均分子量が200?600の範囲にある常温で液状のポリエチレングリコールや中鎖脂肪酸トリグリセライドは、共に優れた溶解作用と吸収性を有し、賦形剤として好適なものであるが、前者はそれ自体の吸湿性によりカプセル皮膜から水分を奪うために、また後者はカプセル皮膜の材質を脆くする性質を持っており、従って、これらの賦形剤を充填したハードカプセルは経時的に割れを発生する不安が多々あり、前記のソフトカプセルの場合と異なり現実にはその使用が敬遠されているような状況である。また、公知のハードゼラチンカプセルにおいては、水分に対して不安定な薬物を充填する場合、安定性確保のために水分を低めに保つ必要があるが、前述したとおり低水分下のゼラチン皮膜は割れを発生し易く製剤化が困難となるのを避け得ない。
【0010】
以上要するに従来公知のハードゼラチンカプセルは、吸水(湿)性があるような物質を充填したときには、そのカプセル皮膜の機械的強度の低下による割れ、柔軟性不良また脆性化の発現といった難点を持っていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みて提案されたものであって、吸水性又は吸湿性物質を充填した場合における上記ハードゼラチンカプセルにおける皮膜の低含有水分下での機械的強度の脆さ、及びこれら物質の充填製剤化の困難性といった不都合を解消し、これら水感応性物質充填用のハードゼラチンカプセル、及びこのハードゼラチンカプセルにこれら物質を充填した水感応性物質充填カプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題解決のための具体的手段について鋭意検討した結果、ゼラチンを水に溶解した溶液に#4000のポリエチレングリコールをゼラチンに対して3?15重量%の割合で添加したジェリーを用いて浸漬法にて非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造し、このカプセルに吸水性又は吸湿性物質を充填することにより、カプセル皮膜中の含有水分量が少なくてもカプセルの機械的強度が高く、吸水性又は吸湿性物質の充填によるカプセル皮膜の機械的強度の低下による割れもなく、柔軟性不良、脆性化の発現といった難点、不都合を解消し得るものであることを見出した。
【0013】
即ち、本発明は、ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして#4000のポリエチレングリコールを用い、かつその含有量がゼラチンに対して3?15重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル、及び
ゼラチンを水に溶解した溶液に#4000のポリエチレングリコールをゼラチンに対して3?15重量%の割合で添加してジェリーを得た後、浸漬法により非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造し、このカプセルに吸水性又は吸湿性物質を充填することを特徴とする水感応性物質充填ハードゼラチンカプセルの製造方法を提供する。
【0014】
上記手段を採用することにより、ハードゼラチンカプセルのカプセル皮膜の含有水分が少ない低水分下でも充分な柔軟性と優れた機械的強度を持った非フォーム状ハードゼラチンカプセルに、分子量200?400の低分子ポリエチレングリコールのような吸湿性賦形剤や中鎖脂肪酸トリグリセライド等水感応性物質を上述した難点や不都合なく充填した非フォーム状ハードゼラチンカプセルを提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造時及び吸水性賦形剤である低分子ポリエチレングリコール等の水感応性物質を充填した場合の使用時における割れの発生が少ない非フォーム状ゼラチンハードカプセルを得ることができ、確実かつ良好に水感応性物質充填ハードゼラチンカプセルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルは、ゼラチンに#4000のポリエチレングリコールを所定量添加したものであり、また本発明の水感応性物質充填カプセルの製造方法は、まず、ゼラチンを水に溶解した溶液に上記ポリエチレングリコールを添加してジェリーを得た後、浸潰法により非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造し、このカプセルに水感応性物質を充填するものである。
【0017】
本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルとは、欧州特許公開公報第110502号に記載のあるような気泡入りのハードカプセルではなく、カプセル皮膜中には気泡等の「泡」を実質的に含まない、通常のハードゼラチンカプセルを意味する。
【0018】
本発明において使用されるポリエチレングリコールは、#4000のポリエチレングリコールである。このポリエチレングリコール#4000の添加量は組成物中のゼラチンに対して3?15重量%とされる。
【0019】
上記ポリエチレングリコールの最適添加量を越えてポリエチレングリコールを使用すればゼラチン溶液は白濁し、その粘度が急激に低下してポリエチレングリコールを均一に混合させることができなくなり、いわゆるコアセルベーションを惹起する。もちろんこの状態で均一なカプセル皮膜を成形することはできない。また、前記添加量に満たないポリエチレングリコールの使用量では目的とするカプセル皮膜の割れ防止効果を充分には発揮することができない。
【0020】
本発明において水感応性物質とは、例えば分子量200?600のポリエチレングリコールのような吸湿性あるいは吸水性のある物質をいう。
【0021】
なお、本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルには、従来のハードゼラチンカプセルの場合と同様に所望によりその他の添加剤、例えば薬事法あるいは食品衛生法などで指定された食用色素や不透明化剤等を適宜添加することができる。
【0022】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
(1)ゼラチンジェリーの調製
(a)ジェリー:A
ゼラチン7kgに精製水14Lを加え、約1?2時間放置して吸水膨潤させる。ゼラチンが充分に膨潤した後、60℃に加温し、撹拌してゼラチンを均一に溶解させる。更に、予め市販の#4000のポリエチレングリコールの50重量%水溶液を上記ゼラチン溶液中にそれぞれ0.14、0.28、0.42、0.56、0.7、1.4、2.1、2.8、3.5kgずつ加えて撹拌し、その粘度を調整した後、常法どおり脱泡処理してジェリーを得る。
【0024】
(2)ハードゼラチンカプセルの製造
上記(1)で得たポリエチレングリコール含有のジェリーのゼラチン濃度を27重量%に調整した後、該溶液を約60℃に保持して通常の浸漬法によるカプセル製造機によりそれぞれサイズ3号の非フォーム状ハードゼラチンカプセルを得る。
【0025】
(3)カプセル割れ試験
上記(2)で得たポリエチレングリコール含有ハードゼラチンカプセルと従来公知のカプセルを対照カプセルとして、各々カプセルに分子量400のポリエチレングリコールを充填しバンドシールして7日間保存した後、これを横方向に置いてテスター産業製加圧試験機で静圧荷重5kgをカプセル全体に徐々に加え、その時の割れの発生を確認し、表1に示すような結果を得た(供試カプセル数はそれぞれ50個)。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すとおり、#4000のポリエチレングリコールを本発明で規定する割合で含有したハードゼラチンカプセルは、たとえ皮膜中の含有水分量が適正値より少なくなっても皮膜の割れは全く認められない。
【0028】
(4)溶状試験
前記ジェリー:Aによる本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルと前記対照カブセルについて日本薬局方規定の標準条件で、37±1℃に加温した精製水を用いた溶状試験を行い、表2に示す結果を得た(供試カプセル数5個)。
【0029】
【表2】

【0030】
表2の結果からも明らかなように、本発明の非フォーム状ハードゼラチンカプセルは対照カプセルに比べて皮膜の溶解時間に遅延は認められない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の非フォーム状ゼラチンハードカプセルは、吸水,吸湿性物質を良好に充填することができ、これら水感応性物質を充填した医薬や食品に用いることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールをゼラチンに配合して得られるハードゼラチンカプセルであって、前記ポリエチレングリコールとして#4000のポリエチレングリコールを用い、かつその含有量がゼラチンに対して3?15重量%であることを特徴とする吸水性又は吸湿性物質を充填するための非フォーム状ハードゼラチンカプセル。
【請求項2】
ゼラチンを水に溶解した溶液に#4000のポリエチレングリコールをゼラチンに対して3?15重量%の割合で添加してジェリーを得た後、浸漬法により非フォーム状ハードゼラチンカプセルを製造し、このカプセルに吸水性又は吸湿性物質を充填することを特徴とする水感応性物質充填ハードゼラチンカプセルの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-03-16 
結審通知日 2009-07-03 
審決日 2009-07-14 
出願番号 特願2003-293373(P2003-293373)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 星野 紹英中田 とし子田村 聖子岩下 直人  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 上條 のぶよ
内藤 伸一
登録日 2008-03-28 
登録番号 特許第4099537号(P4099537)
発明の名称 ハードゼラチンカプセル及びハードゼラチンカプセルの製造方法  
代理人 小島 隆司  
代理人 石川 武史  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 重松 沙織  
代理人 箱田 篤  
代理人 新谷 雅史  
代理人 重松 沙織  
代理人 石川 武史  
代理人 小島 隆司  
代理人 小林 克成  
代理人 小林 克成  
代理人 渡辺 光  

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