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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1238605
審判番号 不服2009-11005  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-12 
確定日 2011-06-17 
事件の表示 特願2003-548918号「識別手段を有する薬剤カートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年6月12日国際公開、WO03/47665、平成17年4月28日国内公表、特表2005-511155号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I. 手続の経緯
本願は、平成14年12月5日(パリ条約による優先権主張 平成13年12月6日 (GB)グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)を国際出願日とする出願であって、平成21年3月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年6月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書の特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。


II. 平成21年6月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年6月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成21年6月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)により、明細書の特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。

「薬剤供給装置及び薬剤カートリッジの組合せ装置において、前記薬剤供給装置は複数のスイッチを含み、前記薬剤カートリッジは薬剤を収納するカートリッジハウジングと、前記ハウジングの一端内部に配置された移動可能なピストンと、前記薬剤カートリッジの外周の突出リング部材を具備し、前記突出リング部材は、使用時に前記薬剤供給装置の少なくとも一つのスイッチを作動させるのに充分な寸法であり、前記薬剤供給装置は前記複数のスイッチの内の特定のスイッチが作動されると前記薬剤カートリッジ内に存在している特定の薬剤を表示することを特徴とする組合せ装置。」(下線を施した部分は、補正された箇所を示す。)

(2)補正の目的の適否および新規事項の追加の有無
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「薬剤供給装置」を「複数のスイッチを含」み、その「複数のスイッチの内の特定のスイッチが作動されると前記薬剤カートリッジ内に存在している特定の薬剤を表示する」と限定するものであり、かつ、補正前の発明と補正後の発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

(3)独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(4)刊行物に記載された発明
1.原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開平6-154322号公報 」(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア: 「【技術分野】本発明は、フロントローディング医療用インジェクタ及びそれとともに用いられるシリンジに関し、特に、特殊な構造のシリンジが第1接続機構によりインジェクタのハウジングの前面に自在に接続され、同時にシリンジのプランジャが第2接続機構によりインジェクタ駆動部材に対して接続自在となるフロントローディング医療用インジェクタ装置に関する。」(【0001】)

イ: 「図1の装置は、第1接続機構28によってインジェクタ27のハウジング26の前面24の装着アセンブリ23の中へのフロントロードを可能とするシリンジ22を用いている。」(【0011】)

ウ: 「図1において、シリンジ22は、円錐領域部36を介して互いに連通している細長い管体32とこの管体32と同軸の放出注入領域部34とを有する。プランジャ38は、管体32の内部を自在に摺動するとともに、第2接続機構42にてインジェクタハウジング26の作動機構40と接続可能になっている。第2接続機構42は、ベース部材43を有するプランジャ38によって一部が形成される。」(【0013】)

エ: 「図2において、インジェクタハウジングの前面の装着アセンブリ23にシリンジが取り付けられると、シリンジの情報をシリンジ22から図1に想像線にて示すインジェクタコントローラ68に伝送するシステム67が構成される。この場合、システム67は、複数のバー70bが間隔を介して配置されたバーコードなどがシリンジに表示されたエンコード表示70と、インジェクタ27の例えば保持フランジ23fの一方に形成されたセンサ72と、からなる。シリンジ22が装着位置に向けて回転しているときに、センサ72はエンコード表示70を読み取って関連する信号をインジェクタコントローラ68に転送する。インジェクタコントローラ68は、信号を解読してインジェクタ装置20の機能を調整する。エンコード表示70に符号化された情報として、シリンジ22の大きさ、予めシリンジが充填されている場合は充填剤の内容、ロットナンバや日付または器具のキャビティ(cavity)番号などの製造情報、造影剤のフローレートや圧力などの推奨値、ならびにローディング・注入手順などが含まれている。エンコード表示70としては、複数のバー70bが配置されたバーコードに代えて、バーに相当する凹凸のある面70sとすることもできる。この面70sも、シリンジ22がインジェクタハウジングの前面24に装着されるときに、適宜のセンサ72により同様な方法で読み取ることができる。エンコード表示70に加えて、スロットや孔などの機械的に読み取り可能な表示方法、装着アセンブリのスイッチを動かすシリンジ22やプランジャ38の突出部、または文字やドットのように光学的に読み取り可能な表示を用いることができる。このような表示によって、使用されるシリンジのタイプに応じた情報をインジェクタの制御回路に送ることができる。」(【0017】)

オ: 「本発明のインジェクタ装置は、注入用に設計されているが、血管造影やその他の用途に対しても用いることができる。」(【0028】)

カ: 記載事項(ア)における「本発明は、フロントローディング医療用インジェクタ及びそれとともに用いられるシリンジに関し」との記載、記載事項(エ)における「予めシリンジが充填されている場合は充填剤の内容・・・などが含まれている。」との記載からして、医療用インジェクタ装置は、医療用充填剤が充填されたシリンジを有するものといえる。

キ: 記載事項(エ)における「エンコード表示70に加えて、スロットや孔などの機械的に読み取り可能な表示方法、装着アセンブリのスイッチを動かすシリンジ22やプランジャ38の突出部、または文字やドットのように光学的に読み取り可能な表示を用いることができる。このような表示によって、使用されるシリンジのタイプに応じた情報をインジェクタの制御回路に送ることができる。」との記載、記載事項(イ)における「インジェクタ27のハウジング26の前面24の装着アセンブリ23の中へのフロントロードを可能とするシリンジ22を用いている。」との記載からして、インジェクタ27の装着アセンブリがスイッチを有しており、また、シリンジ22の突出部が装着アセンブリ23のスイッチを動かすといえ、また、そのスイッチが動くことにより、使用されるシリンジ22のタイプに応じた情報をインジェクタ27の制御回路に送るといえる。

ク: 記載事項(ウ)における「シリンジ22は、円錐領域部36を介して互いに連通している細長い管体32とこの管体32と同軸の放出注入領域部34とを有する。プランジャ38は、管体32の内部を自在に摺動するとともに、第2接続機構42にてインジェクタハウジング26の作動機構40と接続可能になっている。」との記載及び【図1】に示されたシリンジ22の一端内部にプランジャ38が設けられている態様からして、シリンジ22の一端内部にプランジャ38が設けられ、プランジャ38は、シリンジ22内部を自在に摺動するといえる。

ケ: 記載事項(キ)における「シリンジ22の突出部が装着アセンブリ23のスイッチを動かす」との記載からして、シリンジ22の突出部は、装着アセンブリ23のスイッチを動かすことが可能な寸法であるといえる。

コ: 記載事項(キ)における「使用されるシリンジ22のタイプに応じた情報をインジェクタ27の制御回路に送る」との記載、記載事項(エ)における「エンコード表示70に符号化された情報として、シリンジ22の大きさ、予めシリンジが充填されている場合は充填剤の内容、ロットナンバや日付または器具のキャビティ(cavity)番号などの製造情報、造影剤のフローレートや圧力などの推奨値、ならびにローディング・注入手順などが含まれている。」との記載からして、使用されるシリンジ22のタイプに応じた情報として、充填剤の内容をインジェクタ27の制御回路に送るといえる。

これらの記載事項(ア)?(コ)を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「医療用インジェクタ27及び医療用充填剤が充填されたシリンジ22からなる医療用インジェクタ装置20において、前記医療用インジェクタ27の装着アセンブリ23がスイッチを有し、前記医療用充填剤が充填されたシリンジ22は医療用充填剤を収納する円錐領域部36、細長い管体32及び放出注入領域部34と、前記円錐領域部36、細長い管体32及び放出注入領域部34の一端内部に配置された摺動可能なプランジャ38と、前記医療用充填剤が充填されたシリンジ22の突出部を具備し、前記突出部は、使用時に前記医療用インジェクタ27の装着アセンブリ23のスイッチを動かすことが可能な寸法であり、前記医療用インジェクタ27は前記スイッチが動かされると前記医療用充填剤が充填されたシリンジ22内に存在している充填剤の内容をインジェクタ27の制御回路に送ることを特徴とする医療用インジェクタ装置20。」

2.前置審査における拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特表平9-511931号公報 」(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

サ: 「ポンプは、制御システムのプロセッサに接続されたディスプレイを含むことができる。適切なディスプレイプログラムをプロセッサに関連づけて、制御モジュールに検知されるカセットに応じて適切なディスプレイを作成することができる。ポンプ装置は、制御モジュールが正しいカセットであるかあるいは間違ったカセットであるかを識別すると、適当な可聴信号を発する可聴信号発生器を含むことができる。検知されたカセットが正しいか否かを示すために、視覚に訴える緑および/または赤色の発光ダイオードをポンプに備えることもできる。」(11頁20?26行)

シ: 「この発明は、薬剤注入システムのような液体圧送システムの制御モジュールに取付けたカセット自動識別システムおよび方法に関する。この識別システムは、薬剤の種類、薬剤の濃度、液体貯留容器の容量、またはポンプの1回の作動毎に圧送される薬剤の量、すなわちチューブのサイズなどに関するカセット上の目印を識別することができる。当該情報は、安全かつ効果的な医療にとって重要である。その情報が、目印識別システムなどによって自動的に制御モジュールに入力される結果、システムがより安全で効果的なものとなる。当該情報を人が入力する場合に比べて、誤りがより少なくなる。また、この目印識別システムは、不許可のカセットが取付けられると、ポンプを作動させないように使うことができる。
制御モジュールによって識別されるべき種々のカセットが提供されている。制御モジュールは、カセット上の突起との係合、カセットの存在による光信号の検知、または光信号の欠如、を含む種々の方法のひとつによって、カセットを識別する。カセットを識別するその他の構造と方法が提供される。」(13頁13?26行)

ス: 「次に、第1のカセット識別システム(70)を、カセット(26)に関連する目印と、制御モジュール(24)に関連する目印識別構造とを含めて図3に示す。カセット(26)上の目印は、基板(34)の上面(86)から上に突出した突起(84)を含む。制御モジュール(24)上の目印識別構造は、力を検知する複数の抵抗器(FSR(複数))を含む。FSR(72)は、突起(84)による接触を検知する。FSR(72)は、適切な信号を電気的接続(78)を介して制御システム(50)のプロセッサ(52)へ送る。
図3に示すように、第2のFSR(74)と第3のFSR(76)は、カセット(26)から延びる何れの突起とも係合していない。電気的接続(80)は、突起が検知されない状態を表す、第2のFSR(74)からの適切な信号を送ることができる。同様に、電気的接続(82)は、突起が検知されない状態を表す、第3のFSR(76)からの適切な信号を送ることができる。
カセット識別システム(70)は、少なくとも3個の異なるカセット(26)を識別することができる。」(17頁4?18行)

セ: 記載事項(シ)における「薬剤注入システムのような液体圧送システムの制御モジュールに取付けたカセット自動識別システムおよび方法に関する。」との記載からして、薬剤注入システムは、制御モジュールに取付けたカセット自動識別システムを有するものといえる。

ソ: 記載事項(ス)における「力を検知する複数の抵抗器(FSR(複数))を含む。FSR(72)は、突起(84)による接触を検知する。FSR(72)は、適切な信号を電気的接続(78)を介して制御システム(50)のプロセッサ(52)へ送る。
図3に示すように、第2のFSR(74)と第3のFSR(76)は、カセット(26)から延びる何れの突起とも係合していない。電気的接続(80)は、突起が検知されない状態を表す、第2のFSR(74)からの適切な信号を送ることができる。同様に、電気的接続(82)は、突起が検知されない状態を表す、第3のFSR(76)からの適切な信号を送ることができる。
カセット識別システム(70)は、少なくとも3個の異なるカセット(26)を識別することができる。」との記載からして、複数の抵抗器の内、異なるカセット毎に異なった突起を特定の抵抗器が検知することにより、複数の異なるカセットを識別するといえる。

タ: 記載事項(サ)における「適切なディスプレイプログラムをプロセッサに関連づけて、制御モジュールに検知されるカセットに応じて適切なディスプレイを作成することができる。・・・検知されたカセットが正しいか否かを示すために、視覚に訴える緑および/または赤色の発光ダイオードをポンプに備えることもできる。」との記載、記載事項(ソ)における「複数の抵抗器の内、異なるカセット毎に異なった突起を特定の抵抗器が検知することにより、複数の異なるカセットを識別する」との記載及び技術常識からして、薬剤注入システムは、複数の抵抗器の内、異なるカセット毎に異なった突起を特定の抵抗器が検知することにより、複数の異なるカセットを識別し、特定のカセットであるかを表示するといえる。

チ: 記載事項(シ)における「この識別システムは、薬剤の種類・・・などに関するカセット上の目印を識別することができる。」との記載及び記載事項(タ)における「検知されたカセットが特定のカセットであるかを表示する」との記載からして、薬剤注入システムは、カセット内に存在している特定の薬剤を有するカセットであるかを表示するといえる。

これらの記載事項(サ)?(チ)を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「複数の抵抗器の内、異なるカセット毎に異なった突起を特定の抵抗器が検知すると、カセット内に存在している特定の薬剤を有するカセットであるかを表示する薬剤注入システム。」

(5)対比・判断
本願補正発明の「薬剤」は、医療用であることは明らかであるとともに、本願補正発明の「薬剤」と引用発明1の「医療用充填剤」とは、「医療用剤」という概念で共通しており、またその構造または機能からみて、本願補正発明の「薬剤供給装置」、「薬剤を収納する」、「薬剤カートリッジ」、「薬剤供給装置は複数のスイッチを含み」及び「薬剤供給装置は前記複数のスイッチの内特定のスイッチが作動される」と引用発明1の「医療用インジェクタ27」、「医療用充填剤が充填された」、「医療用充填剤が充填されたシリンジ22」、「医療用インジェクタ27の装着アセンブリ23がスイッチを有し」及び「医療用インジェクタ27は前記スイッチが動かされる」は、「医療用剤供給装置」、「医療用剤を収納する」、「医療用剤カートリッジ」、「医療用剤供給装置はスイッチを含み」及び「医療用剤供給装置はスイッチが作動される」という概念でそれぞれ共通する。

本願補正発明と引用発明1を対比すると、その構造または機能からみて、引用発明1の「医療用インジェクタ装置20」及び「円錐領域部36、細長い管体32及び放出注入領域部34」は、本願補正発明の「組合せ装置」及び「カートリッジハウジング」に、それぞれ相当する。

本願補正発明の突出リング部材は、突出する部分を備えていることは明らかであることから、本願補正発明の「突出リング部材」と引用発明1の「突出部」は、「突出部」である点で一致する。さらに、装着アセンブリ23が、医療用インジェクタ27の一部であることは明らかであるから、本願補正発明の「突出リング部材は、使用時に前記薬剤供給装置の少なくとも一つのスイッチを作動させるのに充分な寸法であり」と、引用発明1の「突出部は、使用時に前記医療用インジェクタ27の装着アセンブリ23のスイッチを動かすことが可能な寸法であり」は、「突出部は、使用時に前記医療用剤供給装置のスイッチを作動させるのに充分な寸法であり」という概念でそれぞれ共通する。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、本願補正発明と引用発明1とは次の点で一致する。
(一致点)
「医療用剤供給装置及び医療用剤カートリッジの組合せ装置において、前記医療用剤供給装置はスイッチを含み、前記医療用剤カートリッジは医療用剤を収納するカートリッジハウジングと、前記ハウジングの一端内部に配置された移動可能なピストンと、前記医療用剤カートリッジの突出部を具備し、前記突出部は、使用時に前記医療用剤供給装置のスイッチを作動させるのに充分な寸法であることを特徴とする組合せ装置。」

そして、両者は次の相違点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、「医療用剤」が、「薬剤」と限定されているのに対して、引用発明1では、そのように特定されていない点。

(相違点2)
本願補正発明では、薬剤供給装置は、「カートリッジの外周の突出リング部材を具備」するのに対して、引用発明1では、「カートリッジの突出部を具備」する点。

(相違点3)
本願補正発明では、「薬剤供給装置は複数のスイッチを含み」、薬剤供給装置は、「前記複数のスイッチの内の特定のスイッチが作動されると前記薬剤カートリッジ内に存在している特定の薬剤を表示する」のに対して、引用発明1では、「医療用インジェクタ27の装着アセンブリ23がスイッチを有し」、医療用インジェクタ27は、「前記スイッチが動かされると前記医療用充填剤が充填されたシリンジ22内に存在している充填剤の内容をインジェクタ27の制御回路に送る」点。

以下、相違点について検討する。

(相違点1について)
引用例1に、「本発明のインジェクタ装置は、注入用に設計されているが、血管造影やその他の用途に対しても用いることができる。」(記載事項(イ))と記載されていることからして、血管造影以外の用途にも適用することが示唆されている。
そして、医療用であり、かつ注入用装置の用途として、薬剤を注入させる装置は、ごく一般的なものであることから、引用発明1及び引用例1に記載された事項に基いて、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
装置の設計において部材の形状や配置について変更を試みることは当業者が必要に応じて適宜行う設計事項といえるから、引用発明1のシリンジの突出部を、シリンジの外周に、リング状に設けることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項にすぎない。

(相違点3について)
引用発明2の「薬剤注入システム」は、「薬剤供給装置」といえる。
引用例2に、カセットの突起を検知することにより、「適切な信号を電気的接続(78)を介して制御システム(50)のプロセッサ(52)へ送る。」(記載事項(ス))と記載されていることからして、引用発明2の「抵抗器」は、「スイッチ」であるといえる。
さらに、スイッチが作動されることによって、突起の検知が行われることは明らかであり、引用発明2の「複数の抵抗器の内、異なるカセット毎に異なった突起を特定の抵抗器が検知する」は、「複数のスイッチの内の特定のスイッチが作動される」であるといえるから、引用発明2は、

「複数のスイッチの内の特定のスイッチが作動されると、人体に適用する医療用剤を保持する装置内に存在している特定の薬剤を有する人体に適用する医療用剤を保持する装置であるかを表示する薬剤供給装置。」
といえる。

ところで、引用発明1の「医療用充填剤が充填されたシリンジ22」と引用発明2の「カセット」とは、「人体に適用する医療用剤を保持する装置」という概念で共通するとともに、引用例1の「センサ72はエンコード表示70を読み取って関連する信号をインジェクタコントローラ68に転送する。インジェクタコントローラ68は、信号を解読してインジェクタ装置20の機能を調整する。エンコード表示70に符号化された情報として、シリンジ22の大きさ、予めシリンジが充填されている場合は充填剤の内容、ロットナンバや日付または器具のキャビティ(cavity)番号などの製造情報、造影剤のフローレートや圧力などの推奨値、ならびにローディング・注入手順などが含まれている。」(記載事項(エ))との記載、引用例2の「薬剤の種類、薬剤の濃度、液体貯留容器の容量、またはポンプの1回の作動毎に圧送される薬剤の量、すなわちチューブのサイズなどに関するカセット上の目印を識別することができる。当該情報は、安全かつ効果的な医療にとって重要である。」との記載からして、引用発明1,2は、医療用剤の情報を得て、適切な処置を行いたいという技術的課題を有する点で一致するといえる。

してみると、医療用インジェクタ(薬剤供給装置)はスイッチを含み、医療用充填剤が充填されたシリンジ(薬剤カートリッジ)の突出部を具備し、スイッチが動かされると医療用充填剤が充填されたシリンジ(薬剤カートリッジ)内に存在している医療用充填剤(薬剤)が特定のものであることを医療用インジェクタ(薬剤供給装置)に伝達するように構成された引用発明1において、医療用剤の情報を得て、適切な処置を行うために、引用発明2に係る「複数のスイッチの内の特定のスイッチが作動されると、人体に適用する医療用剤を保持する装置内に存在している特定の薬剤を有する人体に適用する医療用剤を保持する装置であるかを表示する」構成を採用することに格別の困難性は見出せない。
そして、医療用剤の情報を得て、適切な処置を行うために、引用発明1に引用発明2を適用した場合に、「薬剤カートリッジ内に存在している特定の薬剤を表示する」ようにすることは、当業者が必要に応じて成し得る設計変更の範囲内にとどまる。

以上によれば、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人が主張するように、仮に本願補正発明において、「突出リング部材」を「カートリッジの周囲表面と一致する第一内部表面と第二外部表面によって画定される」と限定しても、引用発明1のカートリッジの内周面をピストンが摺動することを鑑みれば、引用発明1のカートリッジの第一内部表面も該カートリッジの周囲表面と一致するといえるから、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえ、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである



III.本願発明について
平成21年6月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年2月10日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「薬剤供給装置及び薬剤カートリッジの組合せ装置において、前記薬剤供給装置は少なくとも1つのスイッチを含み、前記薬剤カートリッジは薬剤を収納するカートリッジハウジングと、前記ハウジングの一端内部に配置された移動可能なピストンと、前記薬剤カートリッジの外周の突出リング部材を具備し、前記突出リング部材は、使用時に前記薬剤供給装置の少なくとも一つのスイッチを作動させるのに充分な寸法であることを特徴とする組合せ装置。」


(1)刊行物に記載された発明
上記II.(4)に示したとおり。

(2)対比・判断
本願発明は、前記II.で検討した本願補正発明の特定事項「薬剤供給装置」は、「複数のスイッチを含」み、その「複数のスイッチの内の特定のスイッチが作動されると前記薬剤カートリッジ内に存在している特定の薬剤を表示する」事項を、本願補正発明から省いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.(5)に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?11に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-20 
結審通知日 2011-01-25 
審決日 2011-02-07 
出願番号 特願2003-548918(P2003-548918)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 望月 寛  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 内山 隆史
増沢 誠一
発明の名称 識別手段を有する薬剤カートリッジ  
代理人 特許業務法人ウィンテック  

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