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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1238704 |
審判番号 | 不服2008-11308 |
総通号数 | 140 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-02 |
確定日 | 2011-06-13 |
事件の表示 | 特願2005-104183「コモンモードチョークコイル」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-286884〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成17年3月31日の出願であって,平成19年12月3日に手続補正書が提出されたが,平成20年4月3日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成20年5月2日に審判の請求がされるとともに,平成20年5月29日に手続補正書が提出され,その後,当審において平成22年10月26日付けで審尋がなされ,平成22年12月17日に回答書が提出されたものである。 第2 平成20年5月29日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 本件補正を却下する。 〔理由〕 1 本件補正の内容 (1)本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を補正する補正内容を含むものであるところ,補正前後の請求項1の記載は,次のとおりである。 ア【補正前の請求項1】 「複数のシート状の絶縁層と,複数のコイルとを交互に積層した積層構造体を有し, 前記複数のコイルは,少なくとも第1コイル部と,前記第1コイル部と一枚の前記絶縁層を挟んで隣り合い,前記第1コイル部と互いに磁気結合可能な第2コイル部とを有するコモンモードチョークコイルであって, 前記第1コイル部は,第1-1端部と第1-2端部とを有する第1コイルパターン部と,第2-1端部と前記第1-2端部に接続された第2-2端部とを有する第2コイルパターン部と,を有し, 前記第2コイル部は,第3-1端部と第3-2端部とを有し,前記第1コイルパターン部と磁気結合可能な第3コイルパターン部と,第4-1端部と前記3-2端部に接続された第4-2端部とを有し,前記第2コイルパターン部と磁気結合可能な第4コイルパターン部と,を有し, 前記第1コイルパターン部の第1コイルパターンは,前記第1-1端部と前記第1-2端部との間で渦巻状をなし,前記第2コイルパターン部の第2コイルパターンは,前記第2-1端部と前記第2-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし, 前記第3コイルパターン部の第3コイルパターンは,前記第3-1端部と前記第3-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし,前記第4コイルパターン部の第4コイルパターンは,前記第4-1端部と前記第4-2端部との間で,前記第3コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし, 該第1コイルパターン及び該第2コイルパターンの少なくともいずれか一方は,曲線からなる該渦巻状をなし,該第3コイルパターン及び該第4コイルパターンの少なくともいずれか一方は,曲線からなる該渦巻状をなすことを特徴とするコモンモードチョークコイル。」 イ【補正後の請求項1】(下線を付した部分が補正箇所) 「複数のシート状の絶縁層と,複数のコイルとを交互に積層した積層構造体を有し, 前記複数のコイルは,少なくとも第1コイル部と,前記第1コイル部と一枚の前記絶縁層を挟んで隣り合い,前記第1コイル部と互いに磁気結合可能な第2コイル部とを有するコモンモードチョークコイルであって, 前記第1コイル部は,第1-1端部と第1-2端部とを有する第1コイルパターン部と,第2-1端部と前記第1-2端部に接続された第2-2端部とを有する第2コイルパターン部と,を有し, 前記第2コイル部は,第3-1端部と第3-2端部とを有し,前記第1コイルパターン部と磁気結合可能な第3コイルパターン部と,第4-1端部と前記3-2端部に接続された第4-2端部とを有し,前記第2コイルパターン部と磁気結合可能な第4コイルパターン部と,を有し, 前記第1コイルパターン部の第1コイルパターンは,前記第1-1端部と前記第1-2端部との間で渦巻状をなし,前記第2コイルパターン部の第2コイルパターンは,前記第2-1端部と前記第2-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし, 前記第3コイルパターン部の第3コイルパターンは,前記第3-1端部と前記第3-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし,前記第4コイルパターン部の第4コイルパターンは,前記第4-1端部と前記第4-2端部との間で,前記第3コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし, 該第1コイルパターン及び該第3コイルパターンは,曲線からなる該渦巻状をなし,又は,該第1コイルパターン,該第2コイルパターン,該第3コイルパターン,及び該第4コイルパターンは,曲線からなる該渦巻状をなし, 前記第1コイルパターン部と,前記第3コイルパターン部とは,互いに対向し,前記第2コイルパターン部と,前記第4コイルパターン部とは,互いに対向していることを特徴とするコモンモードチョークコイル。」 (2)補正目的の適否 請求項1についての本件補正は,補正前の「該第1コイルパターン及び該第2コイルパターンの少なくともいずれか一方は,曲線からなる該渦巻状をなし,該第3コイルパターン及び該第4コイルパターンの少なくともいずれか一方は,曲線からなる該渦巻状をなすこと」を「該第1コイルパターン及び該第3コイルパターンは,曲線からなる該渦巻状をなし,又は,該第1コイルパターン,該第2コイルパターン,該第3コイルパターン,及び該第4コイルパターンは,曲線からなる該渦巻状をなし」と限定するとともに,補正前の磁気結合可能な各コイルパターン部の位置関係に関して,「前記第1コイルパターン部と,前記第3コイルパターン部とは,互いに対向し,前記第2コイルパターン部と,前記第4コイルパターン部とは,互いに対向している」との構成を限定する補正内容からなるものである。 そして,この補正は,補正前の請求の範囲に記載した発明特定事項を更に限定するものと理解できるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮に該当し,補正目的に適合する。 (3)そこで,以下に,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定を満たすか)について,検討する。 2 独立特許要件について (1)本願補正発明 本願補正発明は,上記1(1)イの請求項1の記載のとおりである。 (2)引用例の記載と引用発明 (2-1)引用例1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2005-26268号公報(以下「引用例1」という。)には,「積層コモンモードフィルタ」(発明の名称)に関して,図1?3とともに,次の記載がある(下線は当審で付加したもの。以下同様。)。 「【0011】 【発明の実施の形態】 以下添付図面を参照して,本発明に係るコモンモードフィルタの実施例を説明する。各図において,同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。実施例に係るコモンモードフィルタは,図1に示すように,平面内において渦巻状に巻回された一次コイル1と,同じく平面内において渦巻状に巻回された二次コイル2とを備える。 【0012】 上記一次コイル1と二次コイル2との間には,非磁性セラミックス層3が介装されている。非磁性セラミックス層3は,ほぼ正方形のシートであり,中央部分であって,上記一次コイル1と上記二次コイル2の渦巻の中心付近には,四角の窓4が穿設されている。 【0013】 二次コイル2の上方には,フェライトシート5が被せられる。フェライトシート5には,二次コイル2の引出線に対応してビアホール5A,5Aが穿設されており,フェライトシート5の上に載置される端子電極6,6の端部が上記ビアホール5A,5Aを介して接続されるように構成されている。 【0014】 また,一次コイル1の下方には,フェライトシート7が設けられ,一次コイル1がフェライトシート7上に載置される。フェライトシート7には,一次コイル1の引出線に対応してビアホール7A,7Aが穿設されており,フェライトシート7の下方に設けられる端子電極9,9の端部が上記ビアホール7A,7Aを介して接続されるように構成されている。 【0015】 端子電極6,6の上方には,複数枚のフェライトシート10が載置され,また端子電極9,9は下方に設けられる複数枚のフェライトシート11の上に載置されている。 【0016】 上記のように構成されている結果,本実施例の積層コモンモードフィルタは,複数枚のフェライトシート11の上に端子電極9,9が載置され,その上に端子電極9,9と一次コイル1とを絶縁するフェライトシート7が設けられ,このフェライトシート7の上に一次コイル1が載置される。 【0017】 一次コイル1の上方には,非磁性セラミックス層3を介して二次コイル2が設けられ,上記二次コイル2の上方には,フェライトシート5を介して端子電極6,6が設けられ,この端子電極6,6の上方には,複数枚のフェライトシート10が載置されている。 【0018】 端子電極6,6の端部は,フェライトシート5と複数枚のフェライトシート10の端縁まで延びており,外部と電気的接続が可能となっている。また,端子電極9,9の端部は,フェライトシート7と複数枚のフェライトシート11の端縁まで延びており,外部と電気的接続が可能となっている。 【0019】 以上のように構成された積層コモンモードフィルタは,内部を透視して示した平面図は図2の如くなり,二次コイル2(一次コイル1も同様に)が平面内において渦巻状に巻回されている。そして,図2のI-I’線による断面図である図3に示すように,一次コイル1と二次コイル2における個々の導体が,非磁性セラミックス層3と隣接し,マイナーループの発生が抑制される。そして,一次コイル1と二次コイル2の磁束20は図3に示すように結合が高まり,コモンモードフィルタとして好適な特性を示す。」 (2-2)引用発明 上記の記載と引用例1の図1を対応付けると,一次コイル1及び二次コイル2は,直線からなる矩形の渦巻状に巻回されているので,引用例1には,次の構造を有する積層コモンモードフィルタが開示されていることが理解できる(以下,引用例1に開示された発明を「引用発明」という。)。 「複数枚のフェライトシート11の上に端子電極9,9が載置され,その上に端子電極9,9と一次コイル1とを絶縁するフェライトシート7が設けられ,このフェライトシート7の上に直線からなる矩形の渦巻状に巻回された一次コイル1が載置され,一次コイル1の上方には,非磁性セラミックス層3を介して直線からなる矩形の渦巻状に巻回された二次コイル2が設けられ,上記二次コイル2の上方には,フェライトシート5を介して端子電極6,6が設けられ,この端子電極6,6の上方には,複数枚のフェライトシート10が載置されている積層コモンモードフィルタ。」 (2-3)引用例2 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-199327号公報(以下「引用例2」という。)には,「コイル部品」(発明の名称)に関して,図1?2,8?10とともに,次の記載がある。 「【0003】以下,図面を参照しながら従来のコイル部品について説明する。図8は従来のコイル部品を示し,図9は従来のコイル部品のコイルパターンが形成された第1のコイルシート,図10は前記第1のコイルシートと隣接して積層される第2のコイルシートを示す。図において,1は絶縁体シートで,その一方の面にはコイルパターン2が孔3を中心にして渦巻状に形成され,孔3の周縁近傍における端部2aに設けられたスルーホール部2bで裏面と導通している。第1のコイルシートのスルーホール部2bは隣接して積層される第2のコイルシートの端部2aと電気的に導通する。このように構成されたコイルシートの積層体の孔3を貫通するようにE型のフェライトコアを取り付け,最終的に図8に示すようなコイル部品4が完成される。5はコイル部品4の端子である。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来のコイル部品の構成では,より大きなインダクタンスを得るためにコイルの巻数を増やしていくと投影面積が大きくなり,特にコイルパターン部を印刷,導電体箔,蒸着,スパッタなどの方法で形成した薄い導電体を用いた場合にはコイルの抵抗値を小さくするためにコイルパターンの断面積を大きくしようとすると導電体幅は広くなり,1シート当たりの巻回数を増やすと部品としてのサイズは大きくなってしまう。さらに巻回数が多くなるほど1ターン当たりの導電体の長さは長くなり,抵抗値が大きくなり,コイル部品としての性能が低下するという課題を有していた。 【0005】本発明は,このような課題を解決するもので,より小型のコイル部品を提供することを目的とするものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】この課題を解決するために本発明は,絶縁体シートと,このシート上に形成された導電体のコイルパターンからなるコイル部品であって,前記コイルパターンは中心部から外側へ向けて巻回された第1のコイルパターンと,第1のコイルパターンと同一面上に形成され,第1のコイルパターンと同一方向に巻回された第2のコイルパターンがその最外周部で電気的に接続されているものである。 【0007】この構成によって,絶縁シート上に形成されるコイルパターンは実質的に2つの部分に分割されるため,同一巻回数の単一のコイルに比べてコイルの導電体長が短くなることにより,抵抗値が小さくなりかつ面積も小さくなる。また,第1のコイルパターンと第2のコイルパターンの巻線方向を同一とすることにより,コイルに通電したときに生じる磁界の方向は絶縁シート面に対して互いに逆方向になり結果として単一の閉じた磁路を形成することとなる。」 「【0009】以下,本発明の実施の形態について,図面に基づいて説明する。先ず,図1および図2に基づき,第1の実施の形態について説明する。図において,11は絶縁体シートで,厚さ12μmのポリ-フェニレンサルファイドのフィルムからなり,その一方の面には,厚さ9μmの銅箔を貼り合わせた後にエッチングにより形成した第1のコイルパターン12,第2のコイルパターン13が孔14,15を中心にしてそれぞれ同一方向に渦巻状に形成され,第1のコイルパターン12,第2のコイルパターン13は最外周部で互いに電気的に接続されている。16,16は前記孔14,15を貫通するように絶縁体シート11に取り付けられたC型のフェライトコアである。 【0010】本実施の形態では第1,第2のコイルパターン12,13の幅を0.8mm,隣合う導線部の間隔を0.2mm,孔14,15を図示のように2.5mm×4.5mmとしており,第1のコイルパターン12を3ターン,第2のコイルパターン13も3ターンの計6ターンで外周部に絶縁部を0.5mmとると抵抗値は0.41Ω,面積は220.8mmであった。同様に前記従来のコイル部品を作成すると抵抗値は0.55Ω,面積は271.25mmであった。従来のコイル部品に対して本実施の形態のコイル部品は面積が81.4%,抵抗値が74.5%であり,大幅な性能向上を達成することが可能となった。 【0011】以上のように本実施の形態によれば,第1のコイルパターン12と第2のコイルパターン13を同一方向に巻回し最外周部で電気的に接続することにより,コイルパターン長を短縮し,シートの面積を小さくすることができ,より低抵抗で小型のコイル部品が得られる。」 (2-4)引用例3 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-58323号公報(以下「引用例3」という。)には,「コイル部品」(発明の名称)に関して,図1?2とともに,次の記載がある。 「【要約】 【課題】 直流抵抗Rを下げたままでインダクタンスを上昇させ,素子サイズの小型化を同時に実現することができるコイル部品を提供する。 【解決手段】 基板と,この基板の上に形成された少なくとも2個以上の近接するスパイラル形状部を備える導電性薄膜パターンと,を有するコイル部品であって,前記近接するスパイラル形状部は,当該スパイラル形状部の中心を通過する磁束の方向が互いに逆方向になるように構成されており,前記スパイラル形状部を構成するパターンの幅をL,隣接するパターンの間隔をSとした場合,スパイラル形状部が互いに近接するエリア側における(L_(1 )+S_(1 ))の値を,スパイラル形状部の遠方エリア側における(L_(2 )+S_(2 ))の値よりも小さくしてなるように構成する。」 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,インダクタンスを上昇させるために巻線回数Nを増やすと,素子面積が大きくなり,チップサイズの小型化に対応できないという問題が生じる。この一方で,素子面積を変えずに巻線回数Nを増やすためにパターンの幅(導電幅)Lを狭くすると素子の直流抵抗Rが増加してしまうという問題が生じる。このように直流抵抗Rを下げたままでインダクタンスを上昇させ,しかも同時に素子サイズの小型化を実現することは重要な課題であるものの,実際にその課題を解決する手段は困難を極め,具体的な解決手段の提案はなされていないのが実状であった。」 「【0013】 【発明の実施の形態】以下,本発明のコイル部品の実施の形態について詳細に説明する。 【0014】図1および図2には,本発明のコイル部品の第1の実施の形態が示されており,図1はコイル部品1の平面図,図2は図1のA-A断面矢視図である。 【0015】図1に示されるように,基板5の上には2個の近接するスパイラル形状部10および20を備える導電性薄膜パターン30が形成されている。スパイラル形状部10および20は,本実施の形態の場合,図面の中央部の近接部で連結された一繋がりの導電性薄膜パターン30となっている。 【0016】スパイラル形状部10および20の中央部には,配線取り出し用の電極10a,20aが形成されている。さらに,基板5の左右端部方向には,電極パッド41,45がそれぞれ形成されている。配線の一例を挙げると,電極パッド41から取り出し用の電極10aに配線が行われ,取り出し用の電極10bから電極パッド45に配線が行われる。その結果,図示のごとくスパイラル形状部10とスパイラル形状部20との電流方向は逆になり,図2に示されるようにスパイラル形状部10およびスパイラル形状部20の中心部を通過する各々の磁束(α)および磁束(β)の方向は互いに,逆方向になる。これにより,図2に示されるような磁路Mが形成される。」 (3)本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点 ア 本願補正発明と引用発明を対比する。 (ア)引用発明の「端子電極9,9と一次コイル1とを絶縁するフェライトシート7」及び「フェライトシート5,10,11」は,本願補正発明の「シート状の絶縁層」に相当する。 (イ)引用発明の「非磁性セラミックス層3」もまた,「一次コイル1の上方には,非磁性セラミックス層3を介して直線からなる矩形の渦巻状に巻回された二次コイル2が設けられ」ているので,一次コイル1と二次コイル2とを絶縁する必要性から,本願補正発明の「シート状の絶縁層」に相当することは明らかである。 (ウ)引用発明の「フェライトシート7の上に直線からなる矩形の渦巻状に巻回された一次コイル1が載置され,一次コイル1の上方には,非磁性セラミックス層3を介して直線からなる矩形の渦巻状に巻回された二次コイル2が設けられ」た「積層コモンモードフィルタ」は,引用例1の図1からも明らかなように,本願補正発明の「複数のシート状の絶縁層と,複数のコイルとを交互に積層した積層構造体」であって,「前記複数のコイルは,少なくとも第1コイル部と,前記第1コイル部と一枚の前記絶縁層を挟んで隣り合い,前記第1コイル部と互いに磁気結合可能な第2コイル部とを有するコモンモードチョークコイル」に相当する。 (エ)引用発明の「直線からなる矩形の渦巻状に巻回された一次コイル1」は,引用例1の図1からも明らかなように,本願補正発明の「前記第1コイル部は,第1-1端部と第1-2端部とを有する第1コイルパターン部」及び「前記第1コイルパターン部の第1コイルパターンは,前記第1-1端部と前記第1-2端部との間で渦巻状をなし」た構成に相当する。 (オ)引用発明の「直線からなる矩形の渦巻状に巻回された二次コイル2」は,引用例1の図1からも明らかなように,本願補正発明の「前記第2コイル部は,第3-1端部と第3-2端部とを有し,前記第1コイルパターン部と磁気結合可能な第3コイルパターン部」及び「前記第3コイルパターン部の第3コイルパターンは,前記第3-1端部と前記第3-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし」た構成に相当する。 (カ)引用発明の「一次コイル1の上方には,非磁性セラミックス層3を介して渦巻状に巻回された二次コイル2が設けられ」た構成は,引用例1の図1からも明らかなように,「一次コイル1」と「二次コイル2」が,互いに対向しているので,本願補正発明の「前記第1コイルパターン部と,前記第3コイルパターン部とは,互いに対向し」た構成に相当する。 イ 以上によれば,本願補正発明と引用発明とは, 「複数のシート状の絶縁層と,複数のコイルとを交互に積層した積層構造体を有し, 前記複数のコイルは,少なくとも第1コイル部と,前記第1コイル部と一枚の前記絶縁層を挟んで隣り合い,前記第1コイル部と互いに磁気結合可能な第2コイル部とを有するコモンモードチョークコイルであって, 前記第1コイル部は,第1-1端部と第1-2端部とを有する第1コイルパターン部を有し, 前記第2コイル部は,第3-1端部と第3-2端部とを有し,前記第1コイルパターン部と磁気結合可能な第3コイルパターン部を有し, 前記第1コイルパターン部の第1コイルパターンは,前記第1-1端部と前記第1-2端部との間で渦巻状をなし, 前記第3コイルパターン部の第3コイルパターンは,前記第3-1端部と前記第3-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし, 前記第1コイルパターン部と,前記第3コイルパターン部とは,互いに対向していることを特徴とするコモンモードチョークコイル。」 である点で一致し,次の点で相違する。 《相違点1》 本願補正発明は,「前記第1コイル部は,第1-1端部と第1-2端部とを有する第1コイルパターン部と,第2-1端部と前記第1-2端部に接続された第2-2端部とを有する第2コイルパターン部と,を有し」,「前記第1コイルパターン部の第1コイルパターンは,前記第1-1端部と前記第1-2端部との間で渦巻状をなし,前記第2コイルパターン部の第2コイルパターンは,前記第2-1端部と前記第2-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし」ているのに対して,引用発明は,「渦巻状に巻回された一次コイル1(本願補正発明の「第1コイルパターン部」に相当。)」を備えているが,本願補正発明の「第2コイルパターン部」に相当するパターンを備えていない点。 《相違点2》 本願補正発明は,「前記第2コイル部は,第3-1端部と第3-2端部とを有し,前記第1コイルパターン部と磁気結合可能な第3コイルパターン部と,第4-1端部と前記3-2端部に接続された第4-2端部とを有し,前記第2コイルパターン部と磁気結合可能な第4コイルパターン部と,を有し」,「前記第3コイルパターン部の第3コイルパターンは,前記第3-1端部と前記第3-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし,前記第4コイルパターン部の第4コイルパターンは,前記第4-1端部と前記第4-2端部との間で,前記第3コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし」ているのに対して,引用発明は,「渦巻状に巻回された二次コイル2(本願補正発明の「第3コイルパターン部」に相当。)」を備えているが,本願補正発明の「第4コイルパターン部」に相当するパターンを備えていない点。 《相違点3》 本願補正発明は,「前記第2コイルパターン部と,前記第4コイルパターン部とは,互いに対向している」のに対して,引用発明は,本願補正発明の「第2コイルパターン部」及び「第4コイルパターン部」に相当するパターンを備えていない点。 《相違点4》 本願補正発明は,「該第1コイルパターン及び該第3コイルパターンは,曲線からなる該渦巻状をなし,又は,該第1コイルパターン,該第2コイルパターン,該第3コイルパターン,及び該第4コイルパターンは,曲線からなる該渦巻状をなし」ているのに対して,引用発明は,一次コイル1(本願補正発明の「第1コイルパターン部」に相当。)及び二次コイル2(本願補正発明の「第3コイルパターン部」に相当。)が,直線からなる矩形の渦巻状をなしている点。 (4)相違点についての検討 (4-1)相違点1?3について ア 引用例2には,コイル部品において「コイルパターンは中心部から外側へ向けて巻回された第1のコイルパターンと,第1のコイルパターンと同一面上に形成され,第1のコイルパターンと同一方向に巻回された第2のコイルパターンがその最外周部で電気的に接続されている」構成によって,抵抗値が小さくなりかつ面積も小さくなり,コイルに通電したときに生じる磁界が閉磁路を形成することとなることが記載されている。 イ 引用例3にも,「基板と,この基板の上に形成された少なくとも2個以上の近接するスパイラル形状部を備える導電性薄膜パターンと,を有するコイル部品であって,前記近接するスパイラル形状部は,当該スパイラル形状部の中心を通過する磁束の方向が互いに逆方向になるように構成」したものを基本構造として,直流抵抗Rを下げたままでインダクタンスを上昇させ,素子サイズの小型化を同時に実現することができるコイル部品を得ることが記載されている。 ウ 上記ア,イの引用例2,3の2つのコイルパターンの形態は,本願補正発明の第1コイル部にかかる「前記第1コイル部は,第1-1端部と第1-2端部とを有する第1コイルパターン部と,第2-1端部と前記第1-2端部に接続された第2-2端部とを有する第2コイルパターン部と,を有し」,「前記第1コイルパターン部の第1コイルパターンは,前記第1-1端部と前記第1-2端部との間で渦巻状をなし,前記第2コイルパターン部の第2コイルパターンは,前記第2-1端部と前記第2-2端部との間で,前記第1コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし」ている形態,又は本願補正発明の第2コイル部にかかる「前記第2コイル部は,第3-1端部と第3-2端部とを有」する「第3コイルパターン部と,第4-1端部と前記3-2端部に接続された第4-2端部とを有」する「第4コイルパターン部と,を有し」,「前記第3コイルパターン部の第3コイルパターンは,前記第3-1端部と前記第3-2端部との間で」「渦巻状をなし,前記第4コイルパターン部の第4コイルパターンは,前記第4-1端部と前記第4-2端部との間で,前記第3コイルパターンと同方向に巻かれた渦巻状をなし」ている形態に相当する。 エ そして,引用発明においても,一次コイル1及び二次コイル2について,それぞれコイルとしての性能向上を図ることは当然の要請であって,上記引用例2,3のように抵抗値を小さく,面積を小さく,閉磁路を形成し,直流抵抗Rを下げたままでインダクタンスを上昇させた方が好ましいことは明らかであるから,引用発明において,上記引用例2,3の2つのコイルパターンの形態を,一次コイル1及び二次コイル2にそれぞれ適用することは,当業者が直ちに想起し得ることである。 オ また,引用発明のような積層コモンモードフィルタ(コモンモードチョークコイル)においては,一次コイル1と二次コイル2との磁気結合を高めることが必要であるから,上記引用例2,3の2つのコイルパターンの形態を一次コイル1及び二次コイル2に適用する際に,2つ目のコイルパターン同士(本願補正発明における,第2コイルパターン部と第4コイルパターン部)を磁気結合可能とし,互いに対向させることは,当業者が当然に採用する構成にすぎないといえる。 カ したがって,引用発明において,本願補正発明のように「第2コイルパターン部」及び「第4コイルパターン部」に相当するパターンを備え,相違点1?3の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。 (4-2)相違点4について ア コイル部品において,渦巻状のコイルパターンの形状を,直線からなる矩形の渦巻状と曲線からなる渦巻状との間で,相互に変更することは,以下の拒絶査定で例示された周知例1,2にも示されるように周知技術であり,当業者であれば,引用発明において,直線からなる矩形の渦巻状のコイルパターンを,曲線からなる渦巻状のコイルパターンに変更することに格別の困難性は認められない。 周知例1:特開2004-47849号公報(「【0007】すなわち,本発明は,円形状又は矩形状のスパイラルで形成される平面コイルと,該平面コイル全体の上下部及びコイル・パターン間を埋めるフェライト磁性層とからなる平面磁気素子・・・」,図3?6には,円形状又は矩形状のスパイラルで形成される平面コイルが記載されている。) 周知例2:特表2003-532285号公報(「 図11A,BおよびCは,本発明の好ましい実施形態に基づく巻線パターンの異なる3つの例の平面図である。これらのパターンは,直線渦巻き形パターン148,丸コーナ152を有する直線渦巻き形パターン150,および曲線渦巻き形パターン154である。丸コーナを有する直線パターン150および曲線パターン154は,渦巻き形巻線の全体プレート領域を減らし,同時に必要な巻数を提供すことによってトレース・キャパシタンスをより低くすることに役立つ。さらに,丸コーナまたは曲線渦巻きは,製造プロセス中の巻線の2つの導電性セグメント間の短絡の確率の低減に役立つ。」(18頁18行?25行),図11参照。) イ なお,請求人は,審判請求書の【請求の理由】及び回答書などにおいて,コイルパターンを曲線からなる渦巻状としたことによる効果(2つのコイルパターン部間に寄生する浮遊容量の減少等)を主張しているが,このような効果については,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されていない。仮に,主張する効果が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の記載から当業者が推論できるとしても,当業者が当該技術分野の技術常識に基づいて予測し得る程度の効果であって,格別の効果とは認められない。 ウ そうすると,引用発明において, 一次コイル1(本願補正発明の「第1コイルパターン部」に相当。)及び二次コイル2(本願補正発明の「第3コイルパターン部」に相当。)のパターンを曲線からなる渦巻状とすることは,当業者が適宜なし得たことである。 (5)したがって,本願補正発明は,引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (6)独立特許要件についてのむすび 以上のとおり,請求項1についての補正を含む本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記のとおり,本件補正は却下されたので,本願発明(本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)は,前記第2,1(1)アに摘記したとおりのものである。 2 引用例の記載と引用発明 引用例1?3の記載及び引用発明は,前記第2,2(2)で認定したとおりである。 3 対比・判断 前記第2,1(2)で検討したように,本願補正発明は,本件補正前に記載した発明特定事項を更に限定するものである。 そうすると,本願発明の構成要素をすべて含み,これを更に限定したものである本件補正発明が,前記第2,2(4)及び(5)で検討したように,引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,この限定をなくした本願発明も,同様の理由により,引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 結言 以上のとおり,本願発明(請求項1に係る発明)は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-04-15 |
結審通知日 | 2011-04-18 |
審決日 | 2011-05-02 |
出願番号 | 特願2005-104183(P2005-104183) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岸本 泰広、近藤 聡 |
特許庁審判長 |
齋藤 恭一 |
特許庁審判官 |
松田 成正 小野田 誠 |
発明の名称 | コモンモードチョークコイル |
代理人 | 北澤 一浩 |
代理人 | 市川 朗子 |
代理人 | 若林 邦彦 |
代理人 | 小泉 伸 |