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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01T
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01T
管理番号 1238774
審判番号 不服2010-15118  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-06 
確定日 2011-06-15 
事件の表示 特願2003-422772号「スパークプラグ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日出願公開、特開2005-183189号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】手続の経緯
本願は、平成15年12月19日の出願であって、平成22年3月26日付けで拒絶査定がなされ(拒絶査定の謄本送達(発送)日 平成22年4月6日)、それに対して、平成22年7月6日付けで本件審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正(前置補正)がなされたものである。

【第2】平成22年7月6日付け手続補正の却下について
[補正却下の決定の結論]
平成22年7月6日付けの手続補正を却下する。
[補正却下の決定の理由]
1.平成22年7月6日付けの手続補正(以下「本件手続補正」という。)の趣旨
本件手続補正は、特許請求の範囲の全文を補正すると共に、明細書についても同趣旨の補正をするというものであるが、そのうち、特許請求の範囲についての補正は次のとおりである。
(1)<本件手続補正前>の特許請求の範囲
「【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
該絶縁体の軸孔の先端側に配設され、自身の先端に円柱状の第1貴金属チップを接合する中心電極と、
前記絶縁体の周囲を取り囲む主体金具と、
一端が該主体金具に結合され、他端部が前記第1貴金属チップの先端面と気中ギャップを隔てて対向する円柱状の第2貴金属チップが接合される第1接地電極と、
一端が該主体金具に結合され、他端が少なくとも前記絶縁体の側周面に対向するように配設され、前記中心電極の側周面と自身の他端面との間に沿面ギャップを形成する第2接地電極と、
を備え、
前記第2貴金属チップの前記第1貴金属チップの先端面に対向する対向面から前記軸線方向先端側に向かって直径1.0mm以下で、且つ、前記軸線方向の長さ0.4mm以上である部位を有し、
前記中心電極の側周面と前記第2接地電極の他端面との径方向の距離Fが1.4mm以上1.6mm以下であることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグにおいて、
前記第2接地電極は、前記主体金具に複数結合されることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項3】
請求項2に記載のスパークプラグにおいて、
前記スパークプラグを軸線方向先端側から軸線方向後端側に向かって見たときに、複数の前記第2接地電極のうち2個の前記第2接地電極は、該2個の前記接地電極の重心を結ぶ第1仮想線が、前記第1接地電極の重心と前記軸線とを通る第2仮想線と垂直に交わりつつ、前記軸線を通るように配置されていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスパークプラグにおいて、
前記気中ギャップの距離Mは1.0mm以上であることを特徴とするスパークプラグ。」
(2)<本件手続補正後>の特許請求の範囲
「【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
該絶縁体の軸孔の先端側に配設され、自身の先端に、先端面から前記軸線方向後端側に向かって直径1.0mm以下で、且つ、前記軸線方向の長さが0.4mm以上である部位を有する円柱状の第1貴金属チップを接合する中心電極と、
前記絶縁体の周囲を取り囲む主体金具と、
一端が該主体金具に結合され、他端部が前記第1貴金属チップの先端面と気中ギャップを隔てて対向する円柱状の第2貴金属チップが接合される第1接地電極と、
一端が該主体金具に結合され、他端が少なくとも前記絶縁体の側周面に対向するように配設され、前記中心電極の側周面と自身の他端面との間に沿面ギャップを形成する第2接地電極と、
を備え、
前記第2貴金属チップの前記第1貴金属チップの先端面に対向する対向面から前記軸線方向先端側に向かって直径1.0mm以下で、且つ、前記軸線方向の長さ0.4mm以上である部位を有し、
前記中心電極の側周面と前記第2接地電極の他端面との径方向の距離Fが1.4mm以上1.6mm以下であることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグにおいて、
前記第2接地電極は、前記主体金具に複数結合されることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項3】
請求項2に記載のスパークプラグにおいて、
前記スパークプラグを軸線方向先端側から軸線方向後端側に向かって見たときに、複数の前記第2接地電極のうち2個の前記第2接地電極は、該2個の前記接地電極の重心を結ぶ第1仮想線が、前記第1接地電極の重心と前記軸線とを通る第2仮想線と垂直に交わりつつ、前記軸線を通るように配置されていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスパークプラグにおいて、
前記気中ギャップの距離Mは1.0mm以上であることを特徴とするスパークプラグ。」
(上記本件手続補正後の特許請求の範囲に記載された請求項1の発明を、以下「本願補正発明」という。なお、下線は、補正箇所を明示するために当審で加入した。)

2.本件手続補正が認められるべき要件
(1)上記の手続補正は、特許請求の範囲の請求項1で規定されている中心電極の態様に関して、上記下線部のとおりの限定事項を付加しようとするものであって、かかる補正は平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされることにより適用される、同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、同条第3項で規定される事項の範囲内でされたものと認められる。
(2)更に、本件手続補正が適法なものとされるためには、当該補正後の特許請求の範囲に記載されている発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同じく特許法第126条第5項の規定に適合すること)が必要であるので、以下でこの要件の可否について検討する。

3.引用例、その記載事項及び引用発明
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-313524号公報(以下「第1引用例」という。)には、次の事項が図1ないし図11の各図面と共に記載されている。
イ 「【0033】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。図1は本発明の実施形態に係るスパークプラグS1の全体構成を示す半断面図である。・・・
【0034】スパークプラグS1は、導電性の鉄鋼材料・・・等よりなる円筒形状の取付金具10を有しており、・・・取付金具10の内部には、アルミナセラミック(Al_(2)O_(3))等からなる絶縁体20が固定されており、この絶縁体20の先端部21は、取付金具10の一端から露出するように設けられている。
【0035】絶縁体20の軸孔22には中心電極30が固定されており、この中心電極30は取付金具10に対して絶縁保持されている。中心電極30は、例えば、内材がCu等の熱伝導性に優れた金属材料、外材がNi基合金等の耐熱性および耐食性に優れた金属材料により構成された円柱体で、図1に示すように、その先端面31が絶縁体20の先端部21から露出するように設けられている。
【0036】一方、接地電極40は、例えば、Niを主成分とするNi基合金からなる角柱より構成されており、根元端部42にて取付金具10の一端に溶接により固定され、途中で略L字に曲げられて、先端部41の側面(以下、先端部側面という)43において中心電極30の先端面31と放電ギャップ50を介して対向している。
【0037】ここで、図2に、スパークプラグS1における放電ギャップ50近傍の拡大構成を示す。上記のように放電ギャップ50を介して中心電極30の先端面31と接地電極40の先端部側面43とが対向して配置されており、これら中心及び接地電極30、40における放電ギャップ50に面する部位31、43には、貴金属チップ35、45がレーザ溶接により接合されている。」(第4頁第6欄第14行?第5頁第7欄第1行)
ロ 「【0046】一端側が接地電極40の先端部側面43にレーザ溶接された接地電極側チップ45は、他端側の先端面の断面積が0.12mm^(2)以上1.15mm^(2)以下であって且つ接地電極40の先端部側面43からの突出長さLが0.3mm以上1.5mm以下である。本例では、上記断面積範囲に対応して、直径Dが0.4mm以上1.2mm以下の円柱形状をなしている。」(第5頁第7欄第48行?同第8欄第4行)
ハ 「【0052】貴金属チップは、その径が細いほど、また、接地電極からの突出長さが長いほど、放電ギャップにて発生する火炎核の成長を阻害しにくいと考えられる。そのため、火炎核の成長を阻害せずに良好な着火性を確保可能な貴金属チップの直径および接地電極からの突出長さについて、次のような判定試験を行った。
【0053】上記D、Lを種々変えたスパークプラグS1をエンジンに取り付け、判定方法は、アイドリング状態にある空燃比にて、空燃比を大きくしていき、2分間に点火ミスが2回以上発生する空燃比を限界値(着火限界空燃比)とした。評価エンジンは4気筒1.6リットル、エンジン回転数650rpmで実施した。
【0054】なお、限定するものではないが、この判定試験における中心電極側チップ35としては、例えば、直径D’が0.4mm、中心電極30の先端面31からの突出長さL’が0.6mmである円柱体(図3参照)を用い、放電ギャップ50は0.7mmとした。
【0055】この試験結果を図6に示す。着火限界空燃比は大きい方がそれだけ希薄燃焼可能であり、着火性が良くなることを意味する。図6からわかるように、接地電極側チップ45の直径Dが細くなるほど着火性は向上しているが、直径Dが1.3mmに太くなると大幅に着火性が低下している。
【0056】また、接地電極側チップ45の突出長さLが大きいほど着火性は向上しているが、その向上の度合は0.3mm以上で略飽和している。従って、図6から、良好な着火性を確保可能な接地電極側チップ45としては、直径Dが1.2mm以下(上記断面積が1.15mm^(2)以下に相当)であって接地電極からの突出長さLが0.3mm以上であることが必要なことがわかる。」(第5頁第8欄第38行?第6頁第9欄第24行)
ニ 「【0085】(他の実施形態)なお、本発明は、図10に示すような、中心電極30と火花ギャップすなわち放電ギャップ50を形成する主接地電極40に加え、絶縁体20の先端部21に対向している副接地電極40aを有するスパークプラグに対しても適用することができる。ここで、図10において、(a)は主接地電極40の側面方向から火花放電部を見た図であり、(b)は(a)のA矢視図である。
【0086】図10に示すスパークプラグにおいて、主接地電極40およびこれにレーザ溶接された貴金属チップ45に対して、上記実施形態と同様の構成を採用すれば、着火性を適切に確保しつつ、接地電極と貴金属チップとの接合性を向上させるとともに、耐カーボン汚損性も確保したスパークプラグを提供することができる。」(第8頁第13欄第10?23行)

【第1引用例に記載されている発明】
上記イ?ニの記載事項及び図10に示されている副接地電極40aの態様からみて、上記引用例には、
「導電性の鉄鋼材料等よりなる円筒形状の取付金具10を有し、この取付金具10の内部には、絶縁体20が固定されて、絶縁体20の軸孔22には中心電極30が固定されており、一方、主接地電極40は、根元端部42にて取付金具10の一端に溶接により固定され、途中で略L字に曲げられて、先端部41の側面(先端部側面)43において中心電極30の先端面31と放電ギャップ50を介して対向していて、中心及び接地電極30、40における放電ギャップ50に面する部位31、43には、貴金属チップ35、45がレーザ溶接により接合されていると共に、根元端部が取付金具10に固定され、先端部は絶縁体20の先端部21に対向している副接地電極40aを有するスパークプラグであって、
接地電極側貴金属チップ45は、他端側の先端面の直径Dが0.4mm以上1.2mm以下の円柱形状をなし、接地電極40の先端部側面43からの突出長さLが0.3mm以上1.5mm以下であり、
中心電極側貴金属チップ35は、直径D’が0.4mmの円柱体で、中心電極30の先端面31からの突出長さL’が0.6mmであるスパークプラグ」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)同じく原査定の拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-68032号公報(以下「第2引用例」という。)には、次の事項が図1ないし図16の各図面と共に記載されている。
ホ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・内燃機関が所定温度で所定回転数以上で回っている定常運転時は、スパークプラグの絶縁碍子の下方部分である脚長部は適度に焼け、燃焼室内部の絶縁碍子の下端面近傍の表面温度は500゜C程度に上昇する。このため、絶縁碍子の表面に付着したカーボンは焼き浄められて絶縁碍子の表面は清浄に保たれる。・・・しかしながら、内燃機関の温度が極端に低く、回転数も低い低負荷の場合は、絶縁碍子の表面の温度が上がらず絶縁碍子の表面に燃焼によるカーボンが付着蓄積して、いわゆる「くすぶり」の状態になる。これがさらに進むと・・・エンジンストールにいたる。・・・
【0004】さらに、特開昭59-71279号公報には絶縁碍子の側周面に対向して接地電極を配設したセミ沿面プラグが開示されている。このプラグでは、火花が絶縁碍子の表面に沿って走るため絶縁碍子の表面に付着したカーボンは焼き切られ、「くすぶり」の問題はあまり生じない。しかし、火花が絶えず絶縁碍子の表面に沿って走るため絶縁碍子表面が火花による損傷を受ける、いわゆる「チャネリング」の問題が生じる。このため、スパークプラグの寿命が短いという問題点があった。
【0005】そこで、本発明は、「くすぶり」に強く、かつ、長寿命で着火性にも優れたスパークプラグを提供することを目的とする。」(第3頁第3欄第3?37行)
ヘ 「【0018】
【発明の実施の形態】・・・
【0019】主体金具5の下端にニッケル合金からなる平行接地電極11が溶接により接合されている。平行接地電極11は中心電極2の先端面と軸方向に対向し、中心電極2と平行接地電極11とで主気中ギャップ(A)を形成している。ここまでは従来のスパークプラグと同じである。この実施の形態に係るスパークプラグでは平行接地電極11とは別に、2本のセミ沿面接地電極12、12を備えている。セミ沿面接地電極12はニッケル合金からなり、その一端が主体金具5の下端に溶接により接合され、他端の端面12Cが中心電極2の側周面2A若しくは脚長部1Bの側周面1Eに対向するように配設されている。2本のセミ沿面接地電極12はそれぞれ平行接地電極11から90゜ずれた位置に配設され、セミ沿面接地電極12どうしは180゜ずれた位置に配設されている。各セミ沿面接地電極12の端面12Cと中心電極12の側周面2Aとの間でセミ沿面ギャップ(B)をそれぞれ形成しており、各セミ沿面接地電極12の端面12Cと脚長部1Bの側周面1Eとの間でセミ沿面碍子ギャップ(C)をそれぞれ形成している。」(第5頁第8欄第9行?第6頁第9欄第2行)
ト 「【0021】絶縁碍子1の下端面1Dの高さ位置と、セミ沿面接地電極12の端面12Cの上端縁12Bの高さ位置との段差Eには、セミ沿面接地電極12の高さ位置により、図2(a)に示すようにセミ沿面接地電極12の上端縁12Bおよび下端縁12A(図2(b))が絶縁碍子1の下端面1Dよりも上方にある場合と、図3に示すようにセミ沿面接地電極12の上端縁12Bのみが絶縁碍子1の下端面1Dよりも上方にある場合と、図4に示すようにセミ沿面接地電極12の上端縁12Bが絶縁碍子1の下端面1Dよりも下方にある場合との3つの場合がある。いずれにしても、セミ沿面接地電極12の端面12Cの上端縁12Bおよび下端縁12Aの一方が、絶縁碍子1の下端面1Dの近傍の高さ位置にあることが好ましい。すなわち、段差Eは小さい方が好ましい。セミ沿面放電は鋭角で電界の集中するセミ沿面接地電極12の上端縁12Bおよび下端縁12Aから火花が飛ぶと考えられるから、上端縁12Bおよび下端縁12Aから飛ぶ火花を絶縁碍子1の下端面1Dに近づけ、絶縁碍子1の表面に堆積したカーボンを焼き切る自己清浄作用を強めるためである。」(第6頁第9欄第37行?同第10欄第6行)
チ 「【0022】(B≦2.2(単位はmm)とする根拠)図5はセミ沿面ギャップ(B)の距離Bと放電電圧との関係を示すグラフ図である。セミ沿面ギャップ(B)の距離Bと放電電圧との関係を評価するために、エンジンを使用してアイドリングからスロットルを全開してレーシングを行って、放電電圧を観察するアイドル→レーシング試験を行った。なお、スパークプラグは、平行接地電極11を主体金具5の溶接部から切断したものを使用した。また、使用エンジンは直列4気筒1.6リッターである。セミ沿面ギャップ(B)の距離Bが2.2mmを超えると放電電圧が25KVを超え、セミ沿面接地電極12と中心電極2との間で放電が発生する前に、中心電極2から主体金具5の絶縁碍子1の脚長部1Bの根本近傍に飛火する、いわゆるフラッシュオーバーが発生する可能性が出てくる。このため、セミ沿面ギャップ(B)の距離Bは2.2mm以下であることが必要である。」(第6頁第10欄第7?23行)
なお、図5には、セミ沿面ギャップ(B)の距離Bについて、1.4mmから2.2mmの間の放電電圧の変化が示されている。
リ 「【0030】次に、中心電極2の絶縁碍子1の下端面1Dからの突き出し量Hは4.0mm以下であること(H≦4.0)が好ましい。・・・図11は中心電極2の主体金具5の端面5Dからの出寸法を一定にした場合における、中心電極2の突き出し量Hと着火限界となる空燃比(A/F)との関係を示すグラフ図である。・・・使用したエンジンは直列6気筒2リッターのものであり、700rpmのアイドル運転で測定・・・スパークプラグの中心電極2の主体金具5の端面5Dからの出寸法(F+H)は6.0mmであり、セミ沿面ギャップ(B)の距離Bは1.7mmとした。」(第8頁第13欄第38行?同第14欄第5行)
ヌ 「【0032】次に本発明の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態では、上記第1の実施の形態に比して中心電極2の先端部の形状以外は変更ないので説明を省略し、異なる部分のみ説明する。図13はスパークプラグの中心電極2’、平行接地電極11、セミ沿面接地電極12の近傍を拡大して示す部分断面図である。・・・
【0033】(0.4≦D1≦1.6、(単位はmm)とする根拠)・・・先端径D1は0.4mmより小さいと、中心電極2’の先端部分に白金合金やイリジウム合金を用いても火花による電極消耗が大きくなり実用的でなくなる。
【0034】図14は中心電極先端径D1と主気中ギャップ(A)でのスパーク確率との関係を示すグラフ図である。曲線105は「くすぶり」時ではない正常時の主気中ギャップ(A)でのスパーク確率を示している。スパークプラグには中心電極の元径D2が2.6mm、主気中ギャップ(A)の距離Aが1.1mm、セミ沿面ギャップ(B)の距離Bが1.4mmのものを用いた。」(第8頁第14欄第32行?第9頁第15欄第9行)
ル 「【0036】(2.0≦D2、(単位はmm)とする根拠)中心電極の先端部の過熱を更に効果的に防止すると共に、セミ沿面ギャップ(B)において放電した場合における中心電極の消耗を抑制するためには、中心電極元径D2を太くすることが望ましい。また、中心電極元径D2を太くすることで電界の集中が緩和されることから、正常時におけるセミ沿面ギャップ(B)への火花発生割合を低減することができる。これをテストするため、主気中ギャップ(A)の距離Aを1.0mm、セミ沿面放電ギャップ(B)の距離Bを1.5mm、セミ沿面碍子ギャップ(C)の距離Cを0.5mmとし、中心電極元径D2を種々変化させた試料を用いて、エンジンに装着し、6000rpm×WOT(全開)耐久試験を行った後の中心電極側面の消耗量の最大値Δdによって評価を行った。」(第9頁第15欄第30?44行)
4.発明の対比
(1)本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「中心電極側貴金属チップ35」は、本願補正発明の「第1貴金属チップ」に、以下同様に「接地電極側貴金属チップ45」は「第2貴金属チップ」に、「取付金具10」は「主体金具」に、「放電ギャップ50」は「気中ギャップ」に、「主接地電極40」は「第1接地電極」に、「副接地電極40a」は「第2接地電極」に、それぞれ相当しており、それら相互の位置関係については、中心電極の側周面と第2接地電極(副接地電極40a)の他端面(先端面)との間に沿面ギャップを形成する点を含めて、引用発明と本願補正発明との間で基本的に相違するところがない。
そして、それぞれの発明における貴金属チップの直径と形状等についてみると、引用発明の中心電極側貴金属チップ35では「直径D’が0.4mmの円柱体で、中心電極30の先端面31からの突出長さL’が0.6mm」としており、これは本願補正発明の第1貴金属チップについての「先端面から前記軸線方向後端側に向かって直径1.0mm以下で、且つ、前記軸線方向の長さが0.4mm以上である部位を有する円柱状」という条件を満足するものである。また、引用発明の接地電極側貴金属チップ45では「先端面の直径Dが0.4mm以上1.2mm以下の円柱形状をなし、接地電極40の先端部側面43からの突出長さLが0.3mm以上1.5mm以下」としており、これを本願補正発明の第2貴金属チップについての「直径1.0mm以下で、且つ、前記軸線方向の長さ0.4mm以上」と対比すると、<直径が0.4mm以上1.0mm以下>、<軸線方向の長さ0.4mm以上>の重複する数値条件を認めることができる。
(2)上記の対比から、本願補正発明と引用発明との間の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]「軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
該絶縁体の軸孔の先端側に配設され、自身の先端に、先端面から前記軸線方向後端側に向かって直径1.0mm以下で、且つ、前記軸線方向の長さが0.4mm以上である部位を有する円柱状の第1貴金属チップを接合する中心電極と、
前記絶縁体の周囲を取り囲む主体金具と、
一端が該主体金具に結合され、他端部が前記第1貴金属チップの先端面と気中ギャップを隔てて対向する円柱状の第2貴金属チップが接合される第1接地電極と、
一端が該主体金具に結合され、他端が少なくとも前記絶縁体の側周面に対向するように配設され、前記中心電極の側周面と自身の他端面との間に沿面ギャップを形成する第2接地電極と、
を備え、
前記第2貴金属チップの前記第1貴金属チップの先端面に対向する対向面から前記軸線方向先端側に向かって直径1.0mm以下で、且つ、前記軸線方向の長さ0.4mm以上である部位を有するスパークプラグ。」である点。

[相違点]本願補正発明では、中心電極の側周面と前記第2接地電極の他端面との径方向の距離(沿面ギャップ)Fが「1.4mm以上1.6mm以下である」としているのに対して、引用発明では沿面ギャップの具体的な数値についての言及はない点。

5.当審の判断
上記の[相違点]を検討すると、
第2引用例記載の「セミ沿面ギャップ(B)」は、上記の相違点にかかる「中心電極の側周面と前記第2接地電極の他端面との径方向の距離(沿面ギャップ)F」に相当するものである。
そして、同引用例では、「くすぶり」に強く、かつ、長寿命で着火性にも優れたスパークプラグとするために、上記のセミ沿面ギャップ(B)の距離Bについて、中心電極から主体金具の絶縁碍子の脚長部の根本近傍に飛火する、いわゆるフラッシュオーバーを回避するには「2.2mm以下であることが必要」としつつ、具体的な数値としては、1.7mm(記載事項リ)、1.4mm(記載事項ヌ)、1.5mm(記載事項ル)の各数値を挙げている。
そうすると、上記相違点で問題となっている、中心電極の側周面と前記第2接地電極の他端面との径方向の距離(沿面ギャップ)Fを「1.4mm以上1.6mm以下」とすることが格別困難とはいえず、引用発明に係るスパークプラグにおいても、上記第2引用例で指摘されている数値を適用して、本願補正発明に係るスパークプラグと同様の構成とすることは、当業者が容易になし得る程度の設計事項と認められる。
また、後述のとおり、本願補正発明の奏する作用効果についてみても、格別のものと評価することはできない。
したがって、本願補正発明は引用発明及び第2引用例の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.請求人の主張について
請求人は、審判請求の理由及び当審からの審尋に対する回答において、概要、次のような主張をしている。
(1)第1引用例では、「耐カーボン汚損性を確保する目的のために副接地電極を設けているものであり、本願請求項1に係る発明において第2接地電極を設けている目的とは全く異なり」、また、第1引用例には、「接地電極に接合された貴金属チップが細く且つ大きく突き出た構成のスパークプラグに特有の課題である、多重放電の発生に起因して第2貴金属チップの消耗が進みやすいという課題について、全く認識されておりません。」
第2引用例では、「くすぶりが発生したときに、セミ沿面ギャップでセミ沿面放電を生じさせて、絶縁碍子の表面に堆積したカーボンを焼き切ることを目的にセミ沿面接地電極を設けているものであり、本願請求項1に係る発明(本願補正発明)において第2接地電極を設けている目的とは全く異なります。
また、引用文献2(第2引用例)には、平行接地電極に貴金属チップを接合することが一切記載されていません。このため、接地電極に接合された貴金属チップが細く且つ大きく突き出た構成のスパークプラグに特有の課題である、多重放電の発生に起因して第2貴金属チップの消耗が進みやすいという課題について認識できる筈がありません。
このように、引用文献1、2(第1及び第2引用例)には、接地電極に接合された貴金属チップが細く且つ大きく突き出た構成のスパークプラグに特有の課題である、多重放電の発生に起因して第2貴金属チップの消耗が進みやすいという課題について全く認識されていません。」
(2)「請求項1に係る発明は、参考図1?10により明らかなように、引用文献1、2と比較した有利な効果であって引用文献1、2が有するものとは異質な効果を有していますので、この点においても、請求項1に係る発明の進歩性の存在を肯定的に推認すべきものであると思料致します。」
そこで、上記請求人の主張するところについて検討すると、
たしかに、第1及び第2引用例では、「接地電極に接合された貴金属チップが細く且つ大きく突き出た構成のスパークプラグに特有の課題」に係る、「多重放電の発生に起因して第2貴金属チップの消耗が進みやすい」という問題について、全く言及されていない。
しかし、第1及び第2引用例で言及されている、「耐カーボン汚損性」の確保や「くすぶり」への対処という課題は、本願補正発明にも共通するものといえる(本願明細書【0013】参照)上に、「接地電極に接合された貴金属チップが細く且つ大きく突き出た構成」と共に第2接地電極(副接地電極)を備えるスパークプラグ自体は第1引用例に開示がある。
そうすると、第1引用例に係る「副接地電極」や第2引用例に係る「セミ沿面接地電極」を設ける目的が、本願補正発明において「第2接地電極を設けている目的とは全く異な」るとまではいえない。
更に、「貴金属チップが細く且つ大きく突き出た構成」のスパークプラグで多重放電が生じやすいことが従来知られていなかったのだとしても、貴金属チップの有無とは別に、スパーク(点火)プラグに多重放電が発生することや、多重放電が当該プラグの電極消耗に悪影響を及ぼすことは、既に本願の出願前に当該技術分野において広く知られており(特開2001-193622号公報、特開平8-121312号公報、特開平11-148452号公報、特開2001-12338号公報参照)、接地電極数の増加は一つの接地電極あたりの放電回数の減少につながることを考慮すれば、接地電極に接合された貴金属チップの消耗を抑制するという本願補正発明の奏する作用効果も、上記各引用例の記載事項等からは、当業者にとって到底想到しがたいというほどの評価ができるものではない。

7.独立特許要件の欠如に伴う本件手続補正の却下
上記検討から明らかなように、本願補正発明は、上記引用発明及び第2引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件手続補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同第126条第5項の規定に違反することになり、同第159条第1項において一部読み替えて準用する同第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

【第3】本願の発明について
1.本願の発明
平成22年7月6日付けの本件手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の発明は、本件手続補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
該絶縁体の軸孔の先端側に配設され、自身の先端に円柱状の第1貴金属チップを接合する中心電極と、
前記絶縁体の周囲を取り囲む主体金具と、
一端が該主体金具に結合され、他端部が前記第1貴金属チップの先端面と気中ギャップを隔てて対向する円柱状の第2貴金属チップが接合される第1接地電極と、
一端が該主体金具に結合され、他端が少なくとも前記絶縁体の側周面に対向するように配設され、前記中心電極の側周面と自身の他端面との間に沿面ギャップを形成する第2接地電極と、
を備え、
前記第2貴金属チップの前記第1貴金属チップの先端面に対向する対向面から前記軸線方向先端側に向かって直径1.0mm以下で、且つ、前記軸線方向の長さ0.4mm以上である部位を有し、
前記中心電極の側周面と前記第2接地電極の他端面との径方向の距離Fが1.4mm以上1.6mm以下であることを特徴とするスパークプラグ。」

2.引用例、その記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項及び引用発明は、上記【第2】の3.に記載したとおりである。

3.対比・判断
上記の本願請求項1の発明と、上記の【第2】で検討した本願補正発明とを比較すると、上記【第2】の2.(1)で指摘したところから明らかなように、本願請求項1の発明の構成に、上記下線部の限定事項を加えたものが本願補正発明にあたる。
そうすると、本願請求項1の発明を限定した発明である本願補正発明が、上記【第2】の3.以下に記載したとおり、上記の引用発明及び上記第2引用例の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願請求項1の発明も本願補正発明と同じく、上記引用発明及び上記第2引用例の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4.むすび
上記のとおり、本願請求項1に係る発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願請求項2以下に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-24 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-15 
出願番号 特願2003-422772(P2003-422772)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01T)
P 1 8・ 575- Z (H01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森本 哲也  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 栗山 卓也
小関 峰夫
発明の名称 スパークプラグ  
代理人 青木 昇  

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