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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1239055
審判番号 不服2007-28202  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-15 
確定日 2011-06-02 
事件の表示 平成10年特許願第518036号「ビニルエステルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年4月23日国際公開、WO98/16494、平成13年2月13日国内公表、特表2001-501961〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1997年10月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1996年10月15日(以下「優先日」という。)(EP)ヨーロッパ特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成18年11月20日付けで拒絶理由が通知され、平成19年5月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月15日に拒絶査定不服審判が請求され、請求書の手続補正書(方式)が平成20年1月24日に提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?8に係る発明は、平成19年5月11日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「アセチレンでカルボン酸をビニルエステルまで触媒変換する方法において、20個以下の炭素原子を有する少なくとも1種の第二カルボン酸および/または20個以下の炭素原子を有する少なくとも1種の第三カルボン酸をアセチレンと一緒に気相にて150?400℃の範囲の温度で、亜鉛と固体の不活性酸化物キャリアとからなる触媒に通過させることを特徴とする触媒変換方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定は、「この出願については、平成18年11月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶すべきものである。」というものであるところ、その「理由」の概要は、この出願の請求項1?9に係る発明は、その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<刊行物>
A 独国特許出願公開第3030044号明細書
B 特表昭59-501787号公報
C 米国特許第3285941号明細書
D 特開昭59-230644号公報
(上記刊行物をそれぞれ「刊行物A」、「刊行物B」…などとしている。)

そして、原査定の備考の欄に「刊行物Aには、アセチレン、カルボン酸を亜鉛-アルミナ触媒の存在下に気相で反応させてカルボン酸ビニルエステルを製造することが記載されている。…また、刊行物Cで、アセチレン、「第二カルボン酸」あるいは「第三カルボン酸」を亜鉛触媒の存在下に気相で反応させてカルボン酸ビニルエステルを製造することが記載されているから、この点からも、刊行物Aに記載の反応において、「第二カルボン酸」、「第三カルボン酸」を使用することに格別の困難性があるものとすることができない。」と記載されている。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明1は上記刊行物A,Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と判断する。
以下、詳述する。

1 刊行物の記載事項
刊行物A及び刊行物Cには、以下の内容の事項が記載されている。
(1)刊行物A(独国特許出願公開第3030044号明細書:1982年11月3日発行)
(引用箇所は、請求項を除き、ドイツ語明細書の見出し「Verfahren zur Herstellung von vinylestern」の頁を第1頁とした頁表示により特定した。内容は日本語訳で記載した。)
a-1「1.アセチレンとカルボン酸の、触媒により活性化された気相反応によるカルボン酸のビニルエステルの製造方法であって、触媒が、有効な2つの物質群からの少なくとも2つの物質の混合物を採用したもので、その少なくとも一つの物質は、不活性な触媒担体である物質であり、また、少なくとも一つの物質は、周期律表のIIB族元素の元素又は化合物であり、これら2つの物質群からの2つの物質の混合比が、容積で0.1から10であり、粒径が0.1mmから20mmであることを特徴とする。」(請求項1)

a-2「不活性な触媒担体として、次のものが挙げられる、種々の形態のアルミナ、例えばα-アルミナ、シリカ、活性炭、アルモシリケート、シリカゲル、…」(2頁18?25行)

a-3「周期律表のIIB族元素として、亜鉛、カドミウム、水銀が挙げられ、亜鉛、カドミウムが好ましく、特に亜鉛が好ましい。IIB族元素は、元素又は化合物である。化合物としては、例えば、酸化物又は塩、すなわち、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、…が挙げられる。」(3頁3?11行)

a-4「驚くべきことに、それぞれはビニルエステルの形成にほとんど活性を有しない2つの物質群からの、少なくとも2つの物質の混合物が、ビニルエステルの形成における高い触媒活性を示す。この発明の実施における温度範囲は、例えば、130から300℃、好ましくは170から230℃である。」(5頁1?7行)

a-5「カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸が挙げられる。」(6頁17?19行)

(2)刊行物C(米国特許第3285941号明細書:1966年11月15日発行)
(引用箇所は、英文明細書の記載箇所で特定した。内容は日本語訳で記載した。)
c-1「5.炭素数2から19の脂肪族モノカルボン酸のビニルエステルを製造する方法であって、気化したカルボン酸塩とアセチレンを、モル比1:1から30:1の気体混合物にして、カルボン酸亜鉛を分散した、加熱した液相に通し、該カルボン酸亜鉛を亜鉛濃度が1重量%と5重量%の間にある量で存在させ、該液相を200℃と300℃の間に保持し、そして、該気体混合物の該液相への供給速度を、該液相中のカルボン酸濃度を3重量%を超えないように制御し、該液相から得られた気体流出物を集め、その後、該気体流出物から脂肪族モノカルボン酸のビニルエステルを分離することからなる方法。」(4頁8欄65行?5頁9欄5行 請求項5)

c-2「この改良法は、出発物質として種々のカルボン酸グループを採用することができるが、気化できることが必要である。300℃以上の温度でほとんどのカルボン酸は分解するので300℃以下で気化することのできるモノ-及びジ-カルボン酸がこのプロセスによりビニルエステルを調製する出発物質として最も好ましいものである。好適な酸の例として、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、ステアリン酸、安息香酸等が挙げられる。一般に、20を超える炭素を有するカルボン酸は、気化する前に熱分解する傾向にある、したがって、このプロセスにふさわしい出発物質ではない。」(2頁4欄37?51行)

c-3「非常に重要なカルボン酸群であって出発物質として好ましいものは、カルボキシ基のα位又はβ位に三級及び/又は四級炭素を有するカルボン酸群であり、特に、三級または四級炭素がカルボキシル基に直接結合した飽和脂肪族モノカルボン酸である。これらのカルボン酸は分枝鎖を有しているので、その沸点が同じ炭素数19以下の分枝していないものより一般に低く、それゆえ、これらのα-分枝の酸は、この改良された製法の好ましい出発物質である。α-分枝カルボン酸ビニルエステルは、化学的安定性が良好なので、商業的に重要であり、特に炭素数9から19のものの製造方法において特に重要であると認識される。」(2頁4欄52?68行)

2 刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「アセチレンとカルボン酸の、触媒により活性化された気相反応によるカルボン酸のビニルエステルの製造方法」であって、その触媒として、「不活性な触媒担体である物質」及び「周期律表のIIB族元素の元素又は化合物」の「2つの物質の混合物を採用したもの」を用いる方法が記載されている(摘記a-1)。その「不活性な触媒担体」として「アルミナ、シリカ、アルモシリケート」等が挙げられ(摘記a-2)、「周期律表のIIB族元素」の特に好ましいものとして「亜鉛」が挙げられ(摘記a-3)ている。そして、アセチレンとカルボン酸とは「触媒により活性化された気相反応による」のであるから、両者は一緒に気相にて上記触媒を通過すると認められる。その反応の好ましい温度範囲は「170から230℃」(摘記a-4)であるとされている。
以上によれば、刊行物Aには、
「アセチレンとカルボン酸の、触媒により活性化された気相反応によるカルボン酸のビニルエステルの製造方法において、カルボン酸をアセチレンと一緒に気相にて、170から230℃の範囲の温度で、亜鉛と、アルミナ、シリカ、アルモシリケート等の不活性な触媒担体とからなる触媒を通過させるカルボン酸のビニルエステルの製造方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

3 本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「アセチレンとカルボン酸の、触媒により活性化された気相反応によるカルボン酸のビニルエステルの製造方法」は、本願発明1の「アセチレンでカルボン酸をビニルエステルまで触媒変換する方法」に相当し、また、引用発明における不活性な担体である「アルミナ、シリカ、アルモシリケート等」は固体の酸化物であるから、本願発明1における「固体の不活性酸化物キャリア」に相当する。さらに、引用発明における反応温度「170?230℃」は、本願発明1における「150?400℃の範囲の温度」に包含される。
以上によれば、本願発明1と引用発明とは、
「アセチレンでカルボン酸をビニルエステルまで触媒変換する方法において、カルボン酸をアセチレンと一緒に気相にて150?400℃の範囲の温度で、亜鉛と固体の不活性酸化物キャリアとからなる触媒に通過させる触媒変換方法。」
である点において一致し、以下の点において相違するといえる。

本願発明1は、「カルボン酸」が「20個以下の炭素原子を有する少なくとも1種の第二カルボン酸および/または20個以下の炭素原子を有する少なくとも1種の第三カルボン酸」であるのに対し、引用発明は、そのようなカルボン酸に特定されない点

4 相違点についての検討
本願発明1のカルボン酸の炭素数は、下限の明記はないものの、その構造からは4個が下限であるといえる。
引用発明のカルボン酸について、刊行物Aには、「カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸が挙げられる」(摘記a-5)と、低級の第一カルボン酸が例示されるものの、これらに限定されるとする記載もなく、特に特定されているとはいえない。
ところで、刊行物Cは、アセチレンとカルボン酸を亜鉛を含む触媒を用いたカルボン酸のビニルエステルの製造法について記載するものであり、詳細には、気化した炭素数2から19のカルボン酸とアセチレンとの混合気体を、亜鉛触媒を分散させた200℃と300℃の液相中で反応させてカルボン酸のビニルエステルを製造する方法について記載するものである(摘記c-1)。そのカルボン酸は、摘記c-2に「出発物質として種々のカルボン酸グループを採用することができるが、気化できることが必要」で「300℃以上の温度でほとんどのカルボン酸は分解するので300℃以下で気化することのできるモノ-及びジ-カルボン酸」が「最も好ましい」とされ、「一般に、20を超える炭素を有するカルボン酸は、気化する前に熱分解する傾向にある」から「ふさわしい出発物質ではない」とされている。
したがって、引用発明もカルボン酸を気相で反応させるものであるから、その出発物質のカルボン酸を、低分子量のものも含み得る、「20個以下の炭素原子を有する」ものとすることは、当業者にとって格別のことではない。
さらに、刊行物Cには、「非常に重要なカルボン酸群であって出発物質として好ましいものは、カルボキシ基のα位又はβ位に三級及び/又は四級炭素を有するカルボン酸群であり、特に、三級または四級炭素がカルボキシル基に直接結合した飽和脂肪族モノカルボン酸である。」(摘記c-3)との記載がある。すなわち、アセチレンとカルボン酸とを亜鉛を含む触媒存在下にカルボン酸のビニルエステルを触媒変換する方法におけるカルボン酸として、本願発明1でいう第二、第三カルボン酸が好ましいことが刊行物Cに示されている。
そうすると、引用発明のカルボン酸を、刊行物Cに亜鉛触媒存在下でアセチレンによるビニルエステル化が可能で、好ましいとされる第二、第三カルボン酸であって、「20個以下の炭素原子を有する」ものとすることは、当業者にとって何ら困難なことではない。
そして、本願発明1の効果は、カルボン酸として第二、第三カルボン酸を使用してビニルエステルを生成できた、というにすぎないものであり、刊行物A,C及び技術常識から予測の範囲内のものであって、格別の効果といえるものではない。

5 請求人の主張について
(1)請求人は、平成20年1月24日に提出された審判請求書の補正書において、以下の主張をしている。
ア「刊行物Aには、アセチレンと、酢酸、プロピオン酸のような第一カルボン酸とを気相中、亜鉛-アルミナ触媒の存在下で反応させてカルボン酸ビニルエステルを製造することが記載されているが、本願方法のように、第二及び/又は第三カルボン酸を使用して、これとアセチレンとを気相中、150?400℃の高温下で亜鉛と固体の不活性酸化物キャリアとからなる触媒に通過させる触媒変換方法は記載も示唆もされていないので、刊行物Aの方法は、第二及び/又は第三カルボン酸をカルボン酸ビニルエステルに変換できない。」(3.(2)「(2-1)刊行物Aの発明との対比)」の項)

イ「刊行物Cには、アセチレンと第二又は第三カルボン酸のようなカルボン酸との気相混合物を、200?300℃に保持した、亜鉛のような分散触媒を含有する高沸点液相中に通して反応させるカルボン酸ビニルエステルの製造方法が記載されている。
刊行物Cに記載の反応は液相反応であり、従来の気相型反応とは異なると認識している(第2欄第11?21行参照)。
刊行物Cの実施例I?IVでは、カルボン酸は液相触媒に通している。
さらに、刊行物Cで述べているように、従来の気相型反応は高変換率及び高選択率で行なう能力はなかった。しかも液相触媒によっても、刊行物Cでは、ビニルエステルの収率は80?95%(第2欄第18?21行)であり、またビニルエステルへの選択率は、実施例I?IVに示されるように、最大96.1%であるのに対し、本願の亜鉛と固体不活性酸化物キャリアとからなる触媒による気相型反応ではビニルエステルへの選択率は、実施例に示したように、96.1%を充分に超え、最大99.2%に達し、また酸基準での転化率は最大98.4モル%に達することが可能である。
したがって、刊行物Cの記載からは、例えば刊行物Aに記載されるような気相型反応では達成できなかった高変換率、高選択率を得るために、刊行物Cの液相型反応による触媒変換方法を本願のような気相型反応による触媒変換方法に変えることは予想できない。」(3.(2)「(2-3)刊行物Cの発明との対比」の項)

(2)検討
(ア)アの主張について
刊行物Aは、「カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸が挙げられる。」(摘記a-5)と記載するものの、請求人が主張する「第一カルボン酸」に限定されるわけではない。また、反応温度については、刊行物Aにおいても、「好ましくは170から230℃」(摘記a-4)であり、請求人のいう「150?400℃の高温下」に包含されるから、両者の相違点とはいえないことは、上記3において示したとおりである。
刊行物Aには、「第二及び/又は第三カルボン酸を使用」することの明示の記載はないが、請求人が主張する「刊行物Aの方法は、第二及び/又は第三カルボン酸をカルボン酸ビニルエステルに変換できない」とする記載も示唆もない。請求人の「変換できない」とする主張は根拠がないものである。むしろ、下記(イ)で示すとおり、変換できることが知られているのである。
そして、上記4において示したとおり、アセチレンでカルボン酸をビニルエステルまで触媒変換する方法におけるカルボン酸として、刊行物Cに「第二及び/又は第三カルボン酸」は好ましいとされるものなのであるから、当業者にとって、引用発明のカルボン酸を「第二及び/又は第三カルボン酸」とすることは、格別困難なことではない。
したがって、請求人のアの主張は採用することができない。

(イ)イの主張について
まず、刊行物Cは、刊行物Aに記載された方法において、「カルボン酸」を20個以下の炭素原子を有する第二及び/又は第三カルボン酸とすることが容易想到であることを示す根拠として示したものであり、請求人が主張する「刊行物Aに記載されるような気相型反応では達成できなかった高変換率、高選択率を得るために、刊行物Cの液相型反応による触媒変換方法を本願のような気相型反応による触媒変換方法に変える」ための根拠として示したものではない。
刊行物Cの記載によれば、従来技術のアセチレンでカルボン酸をビニルエステルまで気相で触媒変換する方法は、カルボン酸の炭素数が増加すると収率が低く、高温となることによりポリマーが生成しやすくなると認識されている(1頁1欄27?33行)こと、炭素数5未満の脂肪酸系列の最も低級のものの製造用と認識されている(同欄27?41行)こと、刊行物Cの請求の範囲に記載の発明は液相で触媒変換する方法であることが認められる。
しかしながら、刊行物Cには、気相法において、カルボン酸の炭素数が増加すると好ましくないこと、低級のカルボン酸が使用されることは示されるが、第二及び/又は第三カルボン酸を使用できないことが示されるわけではない。むしろ、刊行物Cには、すでに述べたとおり、液相で触媒変換する方法についてではあるが、「これらのカルボン酸は分枝鎖を有しているので、その沸点が同じ炭素数19以下の分枝していないものより一般に低く、それゆえ、これらのα-分枝の酸は、この改良された製法の好ましい出発物質である。」(摘記c-3)と、気化の観点からカルボン酸として好ましいことが示されており、この点は気相で触媒変換する方法についても同様にいえることである。
なお、刊行物Cの、従来技術のアセチレンでカルボン酸をビニルエステルまで気相で触媒変換する方法は「炭素数5未満の脂肪酸系列の最も低級のものの製造用」との認識は、必ずしもこの出願の優先日における当業者の認識であるとまではいえない。例えば、米国特許第2932663号明細書(この出願に係る国際調査報告書に提示されたもの)は、アセチレンでカルボン酸をビニルエステルまで気相で触媒変換する方法を記載するものであるが、ここには、炭素数が(5個以上を含む)2?7個の脂肪族カルボン酸を気相で触媒転換することが記載されている(本願発明1に包含される、炭素数の第二カルボン酸である、1-メチルペンタン酸(炭素数6。例8)や、2-メチルカプロン酸(炭素数7。例2,3,4)を、アセチレンと亜鉛塩担持触媒存在下、220℃(例3)ないし240℃(例2,8)の気相で製造した具体例が記載されている。)。したがって、刊行物Cの上記記載は、引用発明において「20個以下の炭素原子を有する少なくとも1種の第二カルボン酸および/または20個以下の炭素原子を有する少なくとも1種の第三カルボン酸」とすることが容易想到でない、とすることはできない。
また、本願発明1の効果について、請求人は、「本願の亜鉛と固体不活性酸化物キャリアとからなる触媒による気相型反応ではビニルエステルへの選択率は、実施例に示したように、96.1%を充分に超え、最大99.2%に達し、また酸基準での転化率は最大98.4モル%に達することが可能」なもの、「刊行物Aに記載されるような気相型反応では達成できなかった高変換率、高選択率を得る」ものである旨主張すると認められる。
しかしながら、上記「高変換率、高選択率」の根拠とされる各実施例には、本願発明1のうちの特定のカルボン酸について、特定の触媒を特定の条件で実施した場合における酸基準での転化率や選択率が示されるのみである。このような触媒変換反応における酸基準での転化率や選択率は、カルボン酸の相違の他、反応条件(特に触媒)等の相違により大きく影響されることを考慮すれば、これら実施例の効果をもって、本願発明1全体が格別の効果を奏するとすることはできない。
よって、請求人のイの主張も採用することができない。

6 まとめ
したがって、本願発明1は、この出願の優先日前に頒布された刊行物A、Cに記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この出願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-16 
結審通知日 2010-09-07 
審決日 2010-12-27 
出願番号 特願平10-518036
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 松本 直子
橋本 栄和
発明の名称 ビニルエステルの製造方法  
代理人 奥村 義道  

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