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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1239071
審判番号 不服2008-8354  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-04 
確定日 2011-06-23 
事件の表示 特願2004- 66738「染毛剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開、特開2005-255569〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成16年3月10日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成19年11月28日付け 拒絶理由通知
平成20年1月17日 意見書
平成20年1月23日 手続補正書
平成20年3月5日付け 拒絶査定
平成20年4月4日 審判請求書
平成20年4月28日 手続補正書・手続補正書(方式)
平成20年5月12日付け 前置審査移管
平成20年7月11日付け 前置報告書
平成20年7月18日付け 前置審査解除
平成22年10月22日付け 審尋
平成22年12月24日 回答書


第2 平成20年4月28日付け手続補正書についての補正の却下の決定
1 本件補正
平成20年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の

「アルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤とからなり、第1剤及び/ 又は第2剤に下記成分(A)、(B)及び(C)を含有することを特徴とする染毛剤組成物。
(A)塩基性アミノ酸及び/又はその塩類
(B)ジメチルジアリルアンモニウム誘導ポリマー
(C)オリーブ油、ツバキ油、ヤシ油、パーム油、ラッカセイ油及びヒマシ油から選ばれる不乾性油」

「アルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤とからなり、第1剤及び/ 又は第2剤に下記成分(A)、(B)及び(C)を含有することを特徴とする染毛剤組成物(但し脱色剤を除く)。
(A)塩基性アミノ酸及び/又はその塩類
(B)ジメチルジアリルアンモニウム誘導ポリマー
(C)オリーブ油、ツバキ油、ヤシ油、パーム油、ラッカセイ油及びヒマシ油から選ばれる不乾性油」
とする補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)補正の目的の適否
上記補正は、「染毛剤組成物」について、「染毛剤組成物(但し脱色剤を除く)」に特定するものである。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項である「染毛剤組成物」を限定するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」といい、本件補正後の明細書を「本願補正明細書」といい、本件補正後の特許請求の範囲を「本願補正特許請求の範囲」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年法律55号改正附則第3条第1項により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定に適合するか否か)、具体的には、本願補正発明が、本願出願前に頒布された刊行物に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについて、以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1に記載された事項
本願の出願前である平成14年7月23日に頒布された刊行物である特開2002-205928号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「次の一般式(1)で表わされる非イオン界面活性剤
【化1】


(但し、式中mは0から100、nは1から100の整数である。)を含有することを特徴とする酸化染毛剤。」(【請求項1】)

(1b)「本発明にかかる非イオン界面活性剤の配合量は、酸化染毛剤及び脱色剤のアルカリ剤を含む第1剤中の0.01?40質量%が好ましい。」(段落【0009】)

(1c)「本発明の酸化染毛剤には上記の成分の他に、・・・動植物油脂、・・・シリコーン類、蛋白誘導体及びアミノ酸類・・・等を適宜配合することが可能である。」(段落【0013】)

(1d)「実施例4(酸化染毛剤)
第1剤 質量%
---------------------------------
本発明の非イオン界面活性剤A(実施例1と同じ) 10.0
本発明の非イオン界面活性剤B(実施例2と同じ) 10.0
・・・
・・・
ポリオキシアルキレン変性シリコーン 0.5
(信越化学工業(株)、KF-6011)
塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体 0.3
・・・
・・・
加水分解コラーゲン液 0.3
カチオン化加水分解ケラチン 0.3
カチオン化加水分解コムギたん白 0.3
・・・
・・・
ホホバ油 0.1
香料 0.5
・・・
アンモニア水(28%) 4.0
モノエタノールアミン 4.0
精製水 残余

第2剤
--------------------------------
過酸化水素水(35%) 17.0
・・・
・・・
精製水 残余」
(段落【0024】)

(1e)「実施例4記載の配合組成で酸化染毛剤を調製した。第1剤と第2剤を1:1の割合で混合し、使用したところ、染毛効果にすぐれ、べたつかず、さっぱりした官能特性を与えることが認められた。」(段落【0028】)

(1f)「以上記載のごとく、本発明が、染毛効果及び脱色効果にすぐれ、べたつかず、さっぱりした官能特性を与える酸化染毛剤及び脱色剤を提供することは明らかである。」(段落【0033】)

(イ)刊行物2に記載された事項
本願の出願前である平成7年12月19日に頒布された刊行物である特開平7-330559号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「蛋白質加水分解物と、アミノ酸および/またはアミノ酸誘導体とを含有することを特徴とする染毛剤組成物。」(【請求項1】)

(2b)「請求項1記載の染毛剤組成物において、アミノ酸および/またはアミノ酸誘導体がグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、グルタミン、ピロリンカルボン酸およびこれらの塩の中から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする染毛剤組成物。」(【請求項3】)

(2c)「本発明の酸化染毛剤組成物においては、蛋白質加水分解物と、アミノ酸および/またはアミノ酸誘導体を配合しているので、染毛処理中に失われやすい蛋白質、アミノ酸を髪に補うことができる。このため、染毛効果を低下させることなく、染毛後のしっとりさ、滑らかさを維持するのみならず、蛋白質の溶出によるハリ、コシの損失を抑える効果を得ることができる。」(段落【0008】)

(2d)「配合例10 2剤型染毛料
<第1剤>
・・・
・・・
アミノ変性シリコン
(シリコ-ンSM-8702C:東レ・シリコ-ン社製)1.0
・・・
ケラチン蛋白加水分解物 0.1
アルギニン 0.1
・・・
・・・
イオン交換水 残 余
(製法)常温でイオン交換水に全成分を順次混合して溶解した。」
(段落【0031】)

(ウ)刊行物3に記載された事項
本願の出願前である平成14年4月16日に頒布された刊行物である特開2002-114643号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「(A)有機酸及び/又は有機酸塩、およびアルカリ剤からなるpH緩衝剤、および(B)小麦蛋白質加水分解物及び/又はシリル化蛋白質加水分解物からなることを特徴とする染毛用後処理剤。」(【請求項1】)

(3b)「アルカリ剤がL-アルギニンであることを特徴とする請求項1記載の染毛用後処理剤。」(【請求項2】)

(3c)「・・・アルカリ剤としてはL-アルギニンが色調変化を防ぎ、色持ちを向上させる点から最も好ましい。」(段落【0006】)

(3d)「本発明によれば、染毛処理した毛髪に適用することにより、染毛によるダメージを補修し、かつダメージの蓄積を未然に防ぐとともに、手触りおよび色持ちを改善させることができる。」(段落【0030】)

(ウ)刊行物4に記載された事項
本願の出願前である平成14年11月27日に頒布された刊行物である特開2002-338443号公報(以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(4a)「(A)塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、及び(B)動植物又は微生物由来の蛋白質加水分解物もしくはその誘導体から選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする染毛剤又は脱色剤組成物。」(【請求項1】)

(4b)「本発明の染毛剤組成物中には、上記成分の他に、通常化粧品分野で用いられる他の任意成分を本発明の効果を妨げない範囲で加えることができる。このような任意成分としては、・・・ヒマシ油、カカオ脂、ミンク油、アボガド油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、オリーブ油等の油脂類;・・・ポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン等のシリコーン誘導体;・・・等が挙げられる。なお、これらの成分中、染料類以外のものはそのまま脱色剤組成物にも用いることができる。」(段落【0026】)


(3)刊行物1に記載された発明
刊行物1の上記摘記事項(1d)には、酸化染毛剤組成物の具体的な実施例として、「塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、ホホバ油を含有する第1剤と、過酸化水素水を含有する第2剤とからなる酸化染毛剤」が記載されているところ、上記摘記事項(1d)からみて「第1剤」は「本発明の非イオン界面活性剤A(実施例1と同じ)」及び「本発明の非イオン界面活性剤B(実施例2と同じ)」を含むものであり、また、上記摘記事項(1b)の記載からみて、「本発明にかかる非イオン界面活性剤」は「アルカリ剤を含む第1剤」に配合されるものであるから、「第1剤」は「アルカリ剤を含む」ものであるといえる。
そうすると、刊行物1には、
「塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、ホホバ油を含有しアルカリ剤を含む第1剤と、過酸化水素水を含有する第2剤とからなる酸化染毛剤」
の発明(以下「引用発明」という)が記載されているといえる。

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、本願補正発明の「(B)ジメチルジアリルアンモニウム誘導ポリマー」は「アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体」を含むものであるから(本願補正明細書段落【0011】を参照)、引用発明の「塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体」は本願補正発明の「(B)ジメチルジアリルアンモニウム誘導ポリマー」に相当する。
また、本願補正発明の「酸化剤」は具体的な態様として「過酸化水素」を含むものであるから(本願補正明細書段落【0019】を参照)、引用発明の「過酸化水素水を含有する第2剤」は本願補正発明の「酸化剤を含有する第2剤」に相当する。
引用発明の「酸化染毛剤」は「脱色剤」ではないから、本願補正発明の「染毛剤組成物(但し脱色剤を除く)」に相当する。
また、本願発明の「染毛剤組成物(但し脱色剤を除く)」は、「(B)ジメチルジアリルアンモニウム誘導ポリマー」を「第1剤及び/又は第2剤」に含有するものであり、「第1剤」のみに上記(B)を含有する態様を含むものであるから、「第1剤」に上記(B)を含有する引用発明の「クリーム状酸化染毛組成物」も、「・・・第1剤と第2剤とからなり、第1剤及び/又は第2剤に、下記成分(B)を含有する・・・染毛剤組成物(但し脱色剤を除く)」に相当する。
さらに、 引用発明の「ホホバ油」は、本願補正発明の「(C)オリーブ油、ツバキ油、ヤシ油、パーム油、ラッカセイ油及びヒマシ油から選ばれる不乾性油」と「油性成分」である点で共通する。

したがって、両者は、

「アルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤とからなり、第1剤及び/又は第2剤に、下記成分(B)(C)を含有することを特徴とする染毛剤組成物(但し脱色剤を除く)。
(B)ジメチルジアリルアンモニウム誘導ポリマー
(C)油性成分」

という点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点1:「染毛剤組成物」の成分として、本願補正発明では、「(A)塩基性アミノ酸及び/又はその塩類」を含むのに対し、引用発明ではそのような構成がない点

相違点2:「染毛剤組成物」の油性成分として、本願補正発明では、「(C)オリーブ油、ツバキ油、ヤシ油、パーム油、ラッカセイ油及びヒマシ油から選ばれる不乾性油」を含むのに対し、引用発明では、上記「ホホバ油」を含む点

(5)判断
(ア)相違点1について
刊行物1の上記摘記事項(1c)には、「本発明の酸化染毛剤には上記の成分の他に、アミノ酸類・・・等を適宜配合することが可能である」ことが記載されている。
また、染毛剤や染毛前後の処理剤に添加する成分として、アルギニン、ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸は周知の物質である(例えば、刊行物2の上記摘記事項(2a)及び(2b)、(2d)を参照。刊行物3の上記摘記事項(3a)及び(3b)には、染毛後処理剤のアルカリ剤としてであるが「L-アルギニン」を添加することが、平成19年2月28日付け刊行物等提出書の刊行物2として示された特開昭56-77220号公報の特許請求の範囲には、染毛剤のアルカリ剤としてではあるが、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸を添加することが記載されている)。
さらに、刊行物2の上記摘記事項(2c)には、アミノ酸を配合する効果として、「アミノ酸・・・を配合しているので、染毛処理中に失われやすい・・・アミノ酸を髪に補うことができる。このため、染毛効果を低下させることなく、染毛後のしっとりさ、滑らかさを維持するのみならず、蛋白質の溶出によるハリ、コシの損失を抑える効果を得ることができる」ことが記載されている。
そうすると、引用発明において、染毛により失われやすいアミノ酸を補う、染毛後のしっとりさ、滑らかさを維持する等の目的で、塩基性アミノ酸を添加することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

(イ)相違点2について
毛髪処理剤に添加する油性成分として、ホホバ油の他、不乾性油であるオリーブ油やひまし油等は周知の成分であるから(例えば、刊行物4の上記摘記事項(4a)(4b)、平成20年3月5日付け拒絶査定で引用された特開2003-327512号公報の段落【0032】、特開2003-160446号公報の段落【0011】、特開2003-12473号公報の段落【0077】、【0118】の【表1】の他、特開2004-18505号公報の段落【0021】、特開平11-158048号公報の段落【0067】、特開昭63-135320号公報の第3頁左下欄第4行?右下欄第3行を参照)、引用発明において、ホホバ油に代えて、オリーブ油やひまし油等の不乾性油を添加することは当業者が適宜なし得たことといえる。

(ウ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果について、本願補正明細書の段落【0007】には、「本発明によって、染色性及び染色堅牢性に優れ、かつ毛髪損傷が極めて少なく、毛髪のコンディショニング効果や保湿性に優れた染毛剤組成物を提供することができる」と記載されている。

一方、刊行物1の上記摘記事項(1e)(1f)には、引用発明の酸化染毛剤について、染毛効果に優れることが記載されている。さらに、染毛剤組成物にアミノ酸等を添加することによる効果について、刊行物2の上記摘記事項(2c)には「染毛効果を低下させることな」い効果や、「染毛後のしっとりさ、滑らかさを維持する」、「ハリ、コシの損失を抑える」といった毛髪のコンディショニング効果や保湿効果が記載されている。
また、刊行物3の上記摘記事項(3c)(3d)には、「L-アルギニン」を「染毛用後処理剤」の「アルカリ剤」として用いるものではあるが、「L-アルギニン」の効果として「色調変化を防ぎ、色持ちを向上させる」効果が記載されている(さらに、平成19年2月28日付け刊行物等提出書の刊行物2として示された特開昭56-77220号公報の第2頁左下欄第19行?右下欄12行には、「本発明の酸化染毛剤は・・・第1剤にアルカリ剤として・・・塩基性アミノ酸を配合し・・・作用がおだやかである。・・・白毛を黒色から黒褐色ないし褐色に堅牢に染めることができ」ることが記載されている)。
さらに、毛髪の処理剤において、オリーブ油等の油性成分を添加することにより、コンディショニング効果を向上させることは周知のことであるから(この点について、例えば、平成20年3月5日付け拒絶査定で引用された特開2003-160446号公報の段落【0011】、特開2004-18505号公報の段落【0021】を参照)、本願補正発明の効果は、格別顕著な効果であるとは評価できない。

(6)請求人の主張
平成20年4月4日付け審判請求書についての平成20年4月28日付け手続補正書において、本願補正発明の「(A)塩基性アミノ酸及び/又はその塩類」を添加したことによる効果について、「(A)塩基性アミノ酸及び/又はその塩類を配合することにより、毛髪のコンディショニング性や染色性はもとより染色堅牢性に優れた効果を発揮することに特徴があります」と主張している。
しかしながら、上記(5)(ウ)でも述べたように、染毛剤組成物にアミノ酸等を添加することによる効果について、刊行物2の上記摘記事項(2c)には「染毛効果を低下させることな」い効果、さらに、刊行物3の上記摘記事項(3d)には、「色持ちを改善させる」効果が記載されており、アミノ酸には、「染色堅牢性」を向上させる効果があるといえる。
したがって、請求人のこの主張を採用することはできない。

また、これに関連して、請求人は、平成22年12月24日付け回答書において、刊行物2に記載された発明について、「文献2記載の発明において、所期の効果を発揮するためには、「蛋白加水分解物」と「アミノ酸および/またはアミノ酸誘導体」とを併用することが必須不可欠の条件なのであります」と主張している。
確かに、刊行物2に記載された発明は、「蛋白加水分解物」と「アミノ酸および/またはアミノ酸誘導体」とを併用するものであるが、本願補正発明においても、本願補正特許請求の範囲の請求項2の「更に、(D)・・・、ペプチド誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項1記載の染毛剤組成物」の記載や、実施例6の実施態様からみて、「アミノ酸」の他に「ペプチド誘導体」すなわち「タンパク質加水分解物」を併用する態様も予定していると認められるから、請求人のこの主張を採用することはできない。

さらに、請求人は、平成20年4月4日付け審判請求書についての平成20年4月28日付け手続補正書において、本願補正発明の「(C)オリーブ油、ツバキ油、ヤシ油、パーム油、ラッカセイ油及びヒマシ油から選ばれる不乾性油」を配合したことによる効果について、「本願明細書の【表1】にある実施例1と、実施例と比較して不乾性油(オリーブ油)のみ配合していない比較例4とを比較しますと、比較例4では染色堅牢性と保湿感において実施例1に劣る結果となっています。後者の保湿感は審査官が指摘するコンディショニング効果を示すに過ぎないのですが、前者の染色堅牢性については、決して公知の技術からは導出し得ないものであると確信しております」と主張している。
この点について検討すると、本願補正明細書の段落【0033】の【表1】の実施例1と、実施例1とは「オリーブ油」が添加されていない点でのみ異なる比較例4とを対比すると、「染色堅牢試験」で実施例1が「○」で比較例4が「△」である点で相違する。
この「染色堅牢性評価基準」について、本願補正明細書の段落【0026】、【0027】の「20名の被験者によって目視により染色状態を観察した」ときの「染色堅牢性評価基準」をみると、「○:良好 染色状態に違いがないと答えた被験者が15名以上」、「△:普通 染色状態に違いがないと答えた被験者が5名以上15名未満」との評価である。そうすると、「○」と「△」の評価はあくまでも相対的なものであり、本願補正発明と引用発明との間の「染色堅牢性」の程度の差は明らかではない。
また、本願補正発明の「(C)オリーブ油、ツバキ油、ヤシ油、パーム油、ラッカセイ油及びヒマシ油から選ばれる不乾性油」を用いた場合と、同じ油性成分である引用発明の「ホホバ油」を用いた場合との効果の差異も明らかでない。
したがって、本願補正発明において、「(C)オリーブ油、ツバキ油、ヤシ油、パーム油、ラッカセイ油及びヒマシ油から選ばれる不乾性油」を配合したことによって、引用発明に比べて格別顕著な効果が奏せられるものとは評価することができない。

(7)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年法律55号改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年4月28日付け手続補正書は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成20年1月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「アルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤とからなり、第1剤及び/ 又は第2剤に下記成分(A)、(B)及び(C)を含有することを特徴とする染毛剤組成物。
(A)塩基性アミノ酸及び/又はその塩類
(B)ジメチルジアリルアンモニウム誘導ポリマー
(C)オリーブ油、ツバキ油、ヤシ油、パーム油、ラッカセイ油及びヒマシ油から選ばれる不乾性油」

2 原査定の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された以下の刊行物である引用文献1?4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものである。

1.特開2002-205928号公報
2.特開平07-330559号公報
3.特開2002-114653号公報
4.特開2002-338443号公報

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(上記「刊行物1」に同じ)の記載事項は、「第2 平成20年4月28日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(2)刊行物に記載された事項」に記載したとおりであり、引用発明は同「(3)刊行物1に記載された発明」に記載したとおりである。

4 対比・判断
前記「第2 平成20年4月28日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(1)補正の目的の適否」で検討したように、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものである。

そうすると、本願発明の構成要件の全てを含むさらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明は、前記「第2 平成20年4月28日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(4)対比」?「(5)判断」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明にに基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これを包含する本願発明も、同様の理由により、本願の出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから、その余のことについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-21 
結審通知日 2011-04-26 
審決日 2011-05-09 
出願番号 特願2004-66738(P2004-66738)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金子 亜希  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 穴吹 智子
杉江 渉
発明の名称 染毛剤組成物  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 山本 博人  
代理人 村田 正樹  
代理人 伊藤 健  
代理人 高野 登志雄  
代理人 有賀 三幸  
代理人 中嶋 俊夫  

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