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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1239305
審判番号 不服2009-17257  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-15 
確定日 2011-06-30 
事件の表示 特願2008- 75542号「有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機発光媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日出願公開、特開2008-205491号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年7月3日(優先権主張 平成14年7月19日)を国際出願日とする特願2004-530527号の一部を平成20年3月24日に新たな特許出願としたものであって、平成20年11月28日付け、及び平成21年3月30日付けで手続補正がなされた後、平成21年6月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年9月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年9月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]平成21年9月15日付けの手続補正を却下する。
[理由1]
(I)補正後の本願の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光媒体層が、
(A)下記一般式(V)
【化1】



(式中、X^(3)は、置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、該縮合芳香族環基は、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、クリセン及びフルオレンの残基から選ばれ、該縮合芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数6?20のアリール基及びシアノ基から選ばれ、
Ar^(5)及びAr^(6)は、それぞれ独立に置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、該芳香族基は、フェニル基、ナフチル基、フェナンスリル基、ビフェニル基、ターフェニル基及びフルオレニル基から選ばれ、該芳香族基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基及びシアノ基から選ばれ、pは1?4の整数を示す。)で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物と、
(B)一般式(IV)
【化2】



(式中、Ar^(2)は、置換もしくは無置換の芳香族環基を示し、該芳香族環基は、ベンゼン、ピレン及びアントラセンの残基から選ばれ、該芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基及び炭素数3?6のシクロアルキル基から選ばれ、
A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のベンゼン又は2位でAr^(2)に結合するナフタレンの2価の残基を表し、該ベンゼンの置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、9-アントラセニル基、1-ピレニル基、9-フェナントリル基及び10-フェニル-9-アントラセニル基から選ばれ、
A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数3?6のシクロアルキル基を示し、A^(9)?A^(14)のうち少なくとも1つは縮合芳香族環を有する基である。)
で表される縮合環含有化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子。」
と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「(A)下記一般式(V)」「で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物」について、「X^(3)は、核炭素数10?40の置換もしくは無置換の縮合芳香族環基」であったものを「X^(3)は、置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、該縮合芳香族環基は、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、クリセン及びフルオレンの残基から選ばれ、該縮合芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数6?20のアリール基及びシアノ基から選ばれ」るものに限定し、同じく発明を特定するために必要な事項である「(A)下記一般式(V)」「で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物」について、「Ar^(5)及びAr^(6 )は、それぞれ独立に炭素数60?40の置換もしくは無置換の1価の芳香族基」であったものを「Ar^(5)及びAr^(6 )は、それぞれ独立に置換もしくは無置換の1価の芳香族基該芳香族基を示し、該芳香族基は、フェニル基、ナフチル基、フェナンスリル基、ビフェニル基、ターフェニル基及びフルオレニル基から選ばれ、該芳香族基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基及びシアノ基から選ばれ」るものに限定し、同じく発明を特定するために必要な事項である「(B)一般式(IV)」「で表される縮合環含有化合物」について、「Ar^(2)は、置換もしくは無置換の炭素数6?40の芳香族環基」であったものを「Ar^(2)は、置換もしくは無置換の芳香族環基を示し、該芳香族環基は、ベンゼン、ピレン及びアントラセンの残基から選ばれ、該芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基及び炭素数3?6のシクロアルキル基から選ばれ」るものに限定し、同じく発明を特定するために必要な事項である「(B)一般式(IV)」「で表される縮合環含有化合物」について、「A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のベンゼン、置換もしくは無置換のビフェニル、置換もしくは無置換のフルオランテン、置換もしくは無置換のコロネン、置換もしくは無置換のクリセン、置換もしくは無置換のピセン、置換もしくは無置換のカルバゾール、置換もしくは無置換のルビセン、又は2位でAr^(2) に結合するナフタレンの2価の残基」であったものを「A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のベンゼン又は2位でAr^(2) に結合するナフタレンの2価の残基」に限定し、また、「A^(9)?A^(11)」が「置換」「ベンゼン」のときの「ベンゼンの置換基」について、「炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、9-アントラセニル基、1-ピレニル基、9-フェナントリル基及び10-フェニル-9-アントラセニル基から選ばれ」るものに限定し、同じく発明を特定するために必要な事項である「(B)一般式(IV)」「で表される縮合環含有化合物」について、「A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数1?6のアルコキシル基、炭素数5?18のアリールオキシ基、炭素数7?18のアラルキルオキシ基、炭素数5?16のアリールアミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1?6のエステル基又はハロゲン原子を示」すものであったものを「A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数3?6のシクロアルキル基を示」すものに限定するものであり、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(II)特許法第29条第2項について
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-790号公報(以下「引用例1」という。)、特開2001-279237号公報(以下「引用例2」という。)、及び当審において新たに発見した特開2001-192651号公報(以下「引用例3」という。)には、次の技術的事項が記載されている。

a.引用例1
記載事項ア.第1ページ左下欄第4?10行
「2.特許請求の範囲
(1)二つの電極間に有機物薄膜層よりなる発光層を設けた電界発光素子において、発光層として正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物と電子輸送能を有する蛍光性有機化合物とからなり、かつ湿式製膜法で形成された混合体薄膜を用いたことを特徴とする電界発光素子。」

記載事項イ.第2ページ左下欄2?8行
「正孔輸送能を有する有機化合物としては、ポリビニルカルバゾールのような正孔輸送能に優れた高分子化合物や正孔輸送能に優れた低分子化合物が挙げられる。低分子化合物の例としては、トリフェニルアミン類、スチルベン誘導体類、オキサジアゾール類等が挙げられ、その具体例としては、たとえば以下のようなものが例示される。」

記載事項ア.及びイ.の記載内容からして、引用例1には、
「二つの電極間に有機物薄膜層よりなる発光層を設けた電界発光素子において、発光層として正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物であるトリフェニルアミン類と電子輸送能を有する蛍光性有機化合物とからなる電界発光素子。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

b.引用例2
記載事項ウ.
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐久性に優れた正孔輸送性化合物を開発し、輝度が高く、素子の保存耐久性に優れた有機発光素子を与えることにある。」

記載事項エ.
「【0009】まず、正孔輸送性を有する化合物骨格について説明する。正孔輸送性を有する基としては、当該分野では種々の構造の化合物が公知である。例えば、まず第一に1?3級窒素原子を有する化合物、すなわちアミン誘導体が挙げられる。その中でも、芳香族炭化水素あるいはヘテロ芳香族化合物が置換したアミンが好ましく、特にその中でも、3級アミンであってその置換基のすべてが芳香族炭化水素あるいはヘテロ芳香族化合物である化合物が好ましい。」

記載事項オ.
「【0019】
【化4】





c.引用例3
記載事項カ.
「【請求項1】下記一般式(1)で表される化合物からなる発光素子材料。
【化1】



式中、Ar^(11),Ar^(21),Ar^(31)はアリーレン基を表し、Ar^(12),Ar^(22),Ar^(32)は置換基または水素原子を表す。Ar^(11),Ar^(21),Ar^(31),Ar^(12),Ar^(22),Ar^(32)の少なくとも一つは縮環アリール構造または縮環ヘテロアリール構造である。Arはアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表す。」

記載事項キ.
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、発光特性、耐久性が良好な発光素子およびそれを可能にする発光素子用材料の提供にある。」

記載事項ク.
「【0055】
【化25】



【0056】
【化26】





記載事項ケ.
「【0069】次に、本発明の化合物を含有する発光素子に関して説明する。本発明の発光素子は、本発明の化合物を利用する素子であればシステム、駆動方法、利用形態など特に問わないが、本発明の化合物からの発光を利用するもの、または本化合物を電荷輸送材料として利用する物が好ましい。代表的な発光素子として有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を挙げることができる。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「二つの電極間に」「設けた」「有機物薄膜層よりなる発光層」、「電界発光素子」は、本願補正発明の「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層」、「有機エレクトロルミネッセンス素子」にそれぞれ相当する。
したがって、引用発明の「二つの電極間に有機物薄膜層よりなる発光層を設けた電界発光素子」は、本願補正発明の「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。

(b)本願の明細書の段落【0078】には「特に、(A)成分化合物は正孔輸送性を有し、一方(B)成分化合物は電子輸送性を有することを考慮して、得られる素子の寿命と効率が最も良好となるように選定するのが望ましい。」と記載されており、該記載を参酌すると、本願補正発明の「(A)下記一般式(V)」「で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物」は、正孔輸送性を有する有機化合物であり、本願補正発明の「(B)一般式(IV)」「で表される縮合環含有化合物」は、電子輸送性を有する有機化合物であるといえる。
これに対して、引用発明の「正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物であるトリフェニルアミン類」は、「正孔輸送性を有するアリールアミン化合物」の概念に包含されるものである。また、引用発明の「電子輸送能を有する蛍光性有機化合物」は、「電子輸送性を有する有機化合物」の概念に包含されるものである。
したがって、引用発明の「正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物であるトリフェニルアミン類」と本願補正発明の「(A)下記一般式(V)」「で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物」は、「正孔輸送性を有するアリールアミン化合物」である点で一致し、引用発明の「電子輸送能を有する蛍光性有機化合物」と本願補正発明の「(B)一般式(IV)」「で表される縮合環含有化合物」は、「電子輸送性を有する有機化合物」である点で一致する。

上記(a)、(b)に記載したことからして、本願補正発明と引用発明は、
「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光媒体層が、正孔輸送性を有するアリールアミン化合物と、電子輸送性を有する有機化合物とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点(A)
正孔輸送性を有するアリールアミン化合物が、本願補正発明は、
(A)下記一般式(V)
【化1】



(式中、X^(3)は、置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、該縮合芳香族環基は、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、クリセン及びフルオレンの残基から選ばれ、該縮合芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数6?20のアリール基及びシアノ基から選ばれ、
Ar^(5)及びAr^(6)は、それぞれ独立に置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、該芳香族基は、フェニル基、ナフチル基、フェナンスリル基、ビフェニル基、ターフェニル基及びフルオレニル基から選ばれ、該芳香族基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基及びシアノ基から選ばれ、pは1?4の整数を示す。)で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物であるのに対して、引用発明の正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物であるトリフェニルアミン類は、そのような化合物ではない点。

相違点(B)
電子輸送性を有する有機化合物が、本願補正発明は、
(B)一般式(IV)
【化2】



(式中、Ar^(2)は、置換もしくは無置換の芳香族環基を示し、該芳香族環基は、ベンゼン、ピレン及びアントラセンの残基から選ばれ、該芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基及び炭素数3?6のシクロアルキル基から選ばれ、
A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のベンゼン又は2位でAr^(2)に結合するナフタレンの2価の残基を表し、該ベンゼンの置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、9-アントラセニル基、1-ピレニル基、9-フェナントリル基及び10-フェニル-9-アントラセニル基から選ばれ、
A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数3?6のシクロアルキル基を示し、A^(9)?A^(14)のうち少なくとも1つは縮合芳香族環を有する基である。)
で表される縮合環含有化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物であるのに対して、引用発明の電子輸送能を有する蛍光性有機化合物は、そのような化合物ではない点。

(3)当審の判断
上記相違点について検討する。
相違点(A)について
引用例2に記載された「HT-12」なるアリールアミン化合物は、本願補正発明の一般式(V)で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物のうち、X^(3)が無置換のアントラセンの残基で、Ar^(5)が無置換のフェニル基で、Ar^(6)が炭素数4のアルキル基が置換されたフェニル基で、pが2の整数であるアリールアミン化合物に相当する。
そして、引用例2の記載事項を参酌すると、引用例2に記載された「HT-12」なるアリールアミン化合物は、輝度が高く、素子の保存耐久性に優れた有機発光素子を与える正孔輸送性化合物として用いるものといえるから、引用例2に接した当業者であれば、引用発明の正孔輸送性を有するアリールアミン化合物として、上記「HT-12」なるアリールアミン化合物を採用することは、格別困難なくなし得ることである。
したがって、上記相違点(A)に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、引用例2に記載された発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

相違点(B)について
引用例3に記載された、「(1-4)」なる化合物は、本願補正発明の一般式(IV)で表される縮合環含有化合物のうち、Ar^(2)が無置換のベンゼンの残基で、A^(9)?A^(11)がそれぞれ独立に、無置換の2位でAr^(2)に結合するナフタレンの2価の残基で、A^(12)?A^(14)が水素原子である化合物に相当する。同様に、「(1-8)」なる化合物は、本願補正発明の一般式(IV)で表される縮合環含有化合物のうち、Ar^(2)が無置換のベンゼンの残基で、A^(9)?A^(11)がそれぞれ独立に、置換ベンゼンの2価の残基で、該ベンゼンの置換基が9-アントラセニル基で、A^(12)?A^(14)が水素原子である化合物に相当し、「(1-9)」なる化合物は、本願補正発明の一般式(IV)で表される縮合環含有化合物のうち、Ar^(2)が無置換のベンゼンの残基で、A^(9)?A^(11)がそれぞれ独立に、置換ベンゼンの2価の残基で、該ベンゼンの置換基が1-ピレニル基で、A^(12)?A^(14)が水素原子である化合物に相当し、「(1-10)」なる化合物は、本願補正発明の一般式(IV)で表される縮合環含有化合物のうち、Ar^(2)が無置換のベンゼンの残基で、A^(9)?A^(11)がそれぞれ独立に、置換ベンゼンの2価の残基で、該ベンゼンの置換基が9-フェナントリル基で、A^(12)?A^(14)が水素原子である化合物に相当し、「(1-11)」なる化合物は、本願補正発明の一般式(IV)で表される縮合環含有化合物のうち、Ar^(2)が無置換のベンゼンの残基で、A^(9)?A^(11)がそれぞれ独立に、置換ベンゼンの2価の残基で、該ベンゼンの置換基が10-フェニル-9-アントラセニル基で、A^(12)?A^(14)が水素原子である化合物に相当する。
そして、引用例3には、「(1-4)」、「(1-8)」、「(1-9)」、「(1-10)」、「(1-11)」なる有機化合物は、発光特性、耐久性が良好な有機EL素子を可能にする電子輸送性材料として用いることが記載されているから、引用例3に接した当業者であれば、引用発明の電子輸送性を有する有機化合物として、上記「(1-4)」、「(1-8)」、「(1-9)」、「(1-10)」、「(1-11)」なる有機化合物を採用することは、格別困難なくなし得ることである。
したがって、上記相違点(B)に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、引用例3に記載された発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

また、本願の明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明の具体例として記載されているのは、(B)成分としてEM49,(A)成分としてEM111を用いた実施例9(【0106】、【表1】参照)だけであり、比較例は、(B)成分、(A)成分ともに本願補正発明とは異なる成分を用いて比較しているだけであるから、これらの具体例及び比較例から本願補正発明の効果が格別のものであるとは認め難い。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2、3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(III)特許法第36条第6項第1号について
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には、「(B)一般式(IV)」「で表される縮合環含有化合物」において、「式中、Ar^(2)は、置換もしくは無置換の芳香族環基を示し、該芳香族環基は、ベンゼン、ピレン及びアントラセンの残基から選ばれ、該芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基及び炭素数3?6のシクロアルキル基から選ばれ、A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のベンゼン又は2位でAr^(2)に結合するナフタレンの2価の残基を表し、該ベンゼンの置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、9-アントラセニル基、1-ピレニル基、9-フェナントリル基及び10-フェニル-9-アントラセニル基から選ばれ、A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数3?6のシクロアルキル基を示し、A^(9)?A^(14)のうち少なくとも1つは縮合芳香族環を有する基である。」ことが、発明特定事項として記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には上記縮合環含有化合物の具体例として記載されているのは、Ar^(2)が無置換のベンゼン残基で、A^(9)?A^(11)がそれぞれ独立に、置換ベンゼンの2価の残基で、該ベンゼンの置換基が1-ピレニル基で、A^(12)?A^(14)が水素原子である化合物を用いたもののみであり(【0106】、【表1】の実施例9参照)、この具体例とは化学構造が異なる縮合環含有化合物を用いた具体例の記載はない。
そして、上記縮合環含有化合物において上記の具体例以外の縮合環含有化合物については、上記の具体例のものと同様の効果を奏するかどうかは不明であり、また、上記の具体例のものと同様の効果を奏するであろうことを想起させる技術常識が存するものともいえない。
したがって、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないので、本件補正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


[理由2]
(IV)補正後の本願の請求項3に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3は、
「【請求項1】
一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光媒体層が、
(A)下記一般式(V)
【化1】



(式中、X^(3)は、置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、該縮合芳香族環基は、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、クリセン及びフルオレンの残基から選ばれ、該縮合芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数6?20のアリール基及びシアノ基から選ばれ、
Ar^(5)及びAr^(6)は、それぞれ独立に置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、該芳香族基は、フェニル基、ナフチル基、フェナンスリル基、ビフェニル基、ターフェニル基及びフルオレニル基から選ばれ、該芳香族基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基及びシアノ基から選ばれ、pは1?4の整数を示す。)で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物と、
(B)一般式(IV)
【化2】



(式中、Ar^(2)は、置換もしくは無置換の芳香族環基を示し、該芳香族環基は、ベンゼン、ピレン及びアントラセンの残基から選ばれ、該芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基及び炭素数3?6のシクロアルキル基から選ばれ、
A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のベンゼン又は2位でAr^(2)に結合するナフタレンの2価の残基を表し、該ベンゼンの置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、9-アントラセニル基、1-ピレニル基、9-フェナントリル基及び10-フェニル-9-アントラセニル基から選ばれ、
A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基又は炭素数3?6のシクロアルキル基を示し、A^(9)?A^(14)のうち少なくとも1つは縮合芳香族環を有する基である。)
で表される縮合環含有化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子。

【請求項3】
(A)成分が、下記一般式(V-a)
【化4】



(式中、X^(3)は、置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、該縮合芳香族環基は、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、クリセン及びフルオレンの残基から選ばれ、該縮合芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数6?20のアリール基及びシアノ基から選ばれ、
Ar^(15)?Ar^(18)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数5?20のアリール基、炭素数3?6のシクロアルキル基を示し、g、h、i及びjは、それぞれ0?5の整数を示し、nは0?3の整数を示す。g、h、i、jが2以上の場合、複数のAr^(15)?Ar^(18)は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに結合して飽和もしくは不飽和の環を形成していてもよい。ただし、Ar^(15)?Ar^(18)のうち少なくとも1つは炭素数3?10の2級又は3級アルキル基である。)
で表されるアリールアミン化合物から選ばれた少なくとも一種である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」
と補正された。

「(A)下記一般式(V)」「で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物」について、「X^(3)は、核炭素数10?40の置換もしくは無置換の縮合芳香族環基」であったものを「X^(3)は、置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、該縮合芳香族環基は、ナフタレン、フェナントレン、フルオランテン、アントラセン、ピレン、クリセン及びフルオレンの残基から選ばれ、該縮合芳香族環基の置換基は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数6?20のアリール基及びシアノ基から選ばれ」るものに限定
本件補正は、本件補正前の請求項1の補正に加えて、本件補正前の請求項4に記載した発明を特定するために必要な事項である「一般式(V-a)」「で表されるアリールアミン化合物」について「A^(15)?Ar^(18)は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数7?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の炭素数3?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシル基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のアリールアミノ基、又は置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキルアミノ基を示し、g、h、i及びjは、それぞれ0?5の整数を示し、nは0?3の整数を示す。g、h、i、jが2以上の場合、複数のA^(15)?Ar^(18)は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに結合して飽和もしくは不飽和の環を形成していてもよい。ただし、A^(15)?Ar^(18)のうち少なくとも1つは置換もしくは無置換の炭素数3?10の2級又は3級アルキル基」であったものを「A^(15)?Ar^(18)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数5?20のアリール基、炭素数3?6のシクロアルキル基を示し、g、h、i及びjは、それぞれ0?5の整数を示し、nは0?3の整数を示す。g、h、i、jが2以上の場合、複数のA^(15)?Ar^(18)は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに結合して飽和もしくは不飽和の環を形成していてもよい。ただし、A^(15)?Ar^(18)のうち少なくとも1つは炭素数3?10の2級又は3級アルキル基」に限定するものであり、本件補正における請求項3に係る発明の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

そこで、本件補正後の請求項3に係る発明(以下「本願補正発明3」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(V)特許法第36条第6項第2号について
本件補正後の請求項3には、「一般式(V-a)」「で表されるアリールアミン化合物」において、「Ar^(15)?Ar^(18)が炭素数5?20のアリール基」である場合が発明特定事項として記載されている。
しかし、本件補正後の請求項3が引用する請求項1には、上記発明特手事項に対応する記載として、「(A)下記一般式(V)」「で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物」において、「Ar^(5)及びAr^(6)」が、「無置換の」「ビフェニル基」又は「ターフェニル基」が記載されている。すなわち、上記Ar^(5)及びAr^(6)が無置換のビフェニル基である場合は、本願補正発明3の「Ar^(15)?Ar^(18)が炭素数6のアリール基」である場合に相当し、また、上記Ar^(5)及びAr^(6)が無置換のターフェニル基である場合は、本願補正発明3の「Ar^(15)?Ar^(18)が炭素数12のアリール基」である場合に相当する。
したがって、本件補正後の請求項3が引用する請求項1に記載されているのは、本願補正発明3の発明特定事項である「一般式(V-a)」「で表されるアリールアミン化合物」において、「Ar^(15)?Ar^(18)が炭素数6又は12のアリール基」だけであり、それ以外の「Ar^(15)?Ar^(18)が炭素数5?20のアリール基」は記載されていないから、本件補正後の請求項3と請求項3が引用する請求項1の記載は整合しておらず本願補正発明3は不明確である。
よって、本願の特許請求の範囲には発明が明確に記載されておらず、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(VI)むすび
以上のとおり、[理由1]又は[理由2]に記載した理由により、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年9月15日付けの手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成21年3月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下同項記載の発明を「本願発明」という。)

「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光媒体層が、
(A)下記一般式(V)
【化1】



(式中、X^(3)は、核炭素数10?40の置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、Ar^(5)及びAr^(6)は、それぞれ独立に炭素数6?40の置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、pは1?4の整数を示す。)
で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物と、
(B)一般式(IV)
【化2】



(式中、Ar^(2)は、置換もしくは無置換の炭素数6?40の芳香族環基を示し、A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のベンゼン、置換もしくは無置換のビフェニル、置換もしくは無置換のフルオランテン、置換もしくは無置換のコロネン、置換もしくは無置換のクリセン、置換もしくは無置換のピセン、置換もしくは無置換のカルバゾール、置換もしくは無置換のルビセン、又は2位でAr^(2)に結合するナフタレンの2価の残基を表し、A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数1?6のアルコキシル基、炭素数5?18のアリールオキシ基、炭素数7?18のアラルキルオキシ基、炭素数5?16のアリールアミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1?6のエステル基又はハロゲン原子を示し、A^(9)?A^(14)のうち少なくとも1つは縮合芳香族環を有する基である。)
で表される縮合環含有化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-790号公報(先の「引用例1」)、特開2001-279237号公報(先の「引用例2」)、及び特開2002-50481号公報(以下「引用例4」という。)には、次の技術的事項が記載されている。

a.引用例1
記載事項ア.第1ページ左下欄第4?10行
「2.特許請求の範囲
(1)二つの電極間に有機物薄膜層よりなる発光層を設けた電界発光素子において、発光層として正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物と電子輸送能を有する蛍光性有機化合物とからなり、かつ湿式製膜法で形成された混合体薄膜を用いたことを特徴とする電界発光素子。」

記載事項イ.第2ページ左下欄2?8行
「正孔輸送能を有する有機化合物としては、ポリビニルカルバゾールのような正孔輸送能に優れた高分子化合物や正孔輸送能に優れた低分子化合物が挙げられる。低分子化合物の例としては、トリフェニルアミン類、スチルベン誘導体類、オキサジアゾール類等が挙げられ、その具体例としては、たとえば以下のようなものが例示される。」

記載事項ア.及びイ.の記載内容からして、引用例1には、
「二つの電極間に有機物薄膜層よりなる発光層を設けた電界発光素子において、発光層として正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物であるトリフェニルアミン類と電子輸送能を有する蛍光性有機化合物とからなる電界発光素子。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

b.引用例2
記載事項ウ.
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐久性に優れた正孔輸送性化合物を開発し、輝度が高く、素子の保存耐久性に優れた有機発光素子を与えることにある。」

記載事項エ.
「【0009】まず、正孔輸送性を有する化合物骨格について説明する。正孔輸送性を有する基としては、当該分野では種々の構造の化合物が公知である。例えば、まず第一に1?3級窒素原子を有する化合物、すなわちアミン誘導体が挙げられる。その中でも、芳香族炭化水素あるいはヘテロ芳香族化合物が置換したアミンが好ましく、特にその中でも、3級アミンであってその置換基のすべてが芳香族炭化水素あるいはヘテロ芳香族化合物である化合物が好ましい。」

記載事項オ.
「【0019】
【化4】



【0020】
【化5】





c.引用例4
記載事項カ.
「【請求項1】正極と負極の間に発光物質が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該素子が3つ以上の環構造を含む炭化水素芳香族縮合環で置換されている三置換ベンゼン骨格を有する有機蛍光体を含むことを特徴とする発光素子。
【請求項2】三置換ベンゼン骨格を有する有機蛍光体が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【化1】



(ここでR^(1)?R^(3)はそれぞれ、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、メルカプト基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、複素環基、ハロゲン、ハロアルカン、ハロアルケン、ハロアルキン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基の中から選ばれる。Ar^(1)?Ar^(3)はそれぞれ、無置換または置換のターフェニル基、無置換または置換のフルオレン基、無置換または置換のフェナンスレン基、無置換または置換のアントラセン基、無置換または置換のピレン基、無置換または置換のペリレン基の中から選ばれる。)
……
【請求項4】該有機蛍光体が電子輸送材料であることを特徴とする請求項1記載の発光素子。」

記載事項キ.
「【0009】本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、発光効率が高く、高輝度で色純度に優れた発光素子を提供することを目的とするものである。」

記載事項ク.
「【0016】本発明において発光材料は、3つ以上の環構造を含む炭化水素芳香族縮合環で置換されている三置換ベンゼン骨格を有する有機蛍光体を含む。炭化水素芳香族縮合環部分が蛍光性を有し、ベンゼン骨格で連結される構造である。蛍光スペクトルと分子の共役長には相関があり、炭化水素芳香族縮合環の環構造が小さいと共役長も短く、紫外領域の蛍光スペクトルを有することになる。炭化水素芳香族縮合環の蛍光スペクトルが可視領域にあるためには、3つ以上の環構造を含むことが必要である。
【0017】3つ以上の環構造を含む炭化水素芳香族縮合環としては特に限定されるものではないが、ターフェニル、クオーターフェニル、キンキフェニル、セクシフェニル等のパラフェニレン誘導体、フルオレン、ビフェニレン、、ジヒドロアントラセン、ジベンゾスベラン、トラキセン、トリプチセン等の脂肪族芳香族縮合環誘導体、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、ペリレン、フルオランテン、クリセン、コロネン等の芳香族縮合環誘導体等があげられる。中でも、ターフェニル、フルオレン、フェナンスレン、アントラセン、ピレン、ペリレンが好ましい。」

記載事項ケ.
「【0026】三置換ベンゼン骨格を有する有機蛍光体はドーパント材料として用いてもかまわないが、優れた電子輸送能を有することから、ホスト材料として好適に用いられる。」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「二つの電極間に」「設けた」「有機物薄膜層よりなる発光層」、「電界発光素子」は、本願発明の「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層」、「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。
したがって、引用発明の「二つの電極間に有機物薄膜層よりなる発光層を設けた電界発光素子」は、本願発明の「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。

(b)本願の明細書の段落【0078】には「特に、(A)成分化合物は正孔輸送性を有し、一方(B)成分化合物は電子輸送性を有することを考慮して、得られる素子の寿命と効率が最も良好となるように選定するのが望ましい。」と記載されており、該記載を参酌すると、本願発明の「(A)下記一般式(V)」「で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物」は、正孔輸送性を有する有機化合物であり、本願発明の「(B)一般式(IV)」「で表される縮合環含有化合物」は、電子輸送性を有する有機化合物であるといえる。
これに対して、引用発明の「正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物であるトリフェニルアミン類」は、「正孔輸送性を有するアリールアミン化合物」の概念に包含されるものである。また、引用発明の「電子輸送能を有する蛍光性有機化合物」は、「電子輸送性を有する有機化合物」の概念に包含されるものである。
したがって、引用発明の「正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物であるトリフェニルアミン類」と本願発明の「(A)下記一般式(V)」「で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物」は、「正孔輸送性を有するアリールアミン化合物」である点で一致し、引用発明の「電子輸送能を有する蛍光性有機化合物」と本願発明の「(B)一般式(IV)」「で表される縮合環含有化合物」は、「電子輸送性を有する有機化合物」である点で一致する。

上記(a)、(b)に記載したことからして、本願発明と引用発明は、
「一対の電極と、これらの電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機発光媒体層が、正孔輸送性を有するアリールアミン化合物と、電子輸送性を有する有機化合物とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点(A)
正孔輸送性を有するアリールアミン化合物が、本願発明は、
(A)下記一般式(V)
【化1】



(式中、X^(3)は、核炭素数10?40の置換もしくは無置換の縮合芳香族環基を示し、Ar^(5)及びAr^(6)は、それぞれ独立に炭素数6?40の置換もしくは無置換の1価の芳香族基を示し、pは1?4の整数を示す。)
で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物であるのに対して、引用発明の正孔輸送能を有する電子供与性有機化合物であるトリフェニルアミン類は、そのような化合物ではない点。

相違点(B)
電子輸送性を有する有機化合物が、本願発明は、
(B)一般式(IV)
【化2】



(式中、Ar^(2)は、置換もしくは無置換の炭素数6?40の芳香族環基を示し、A^(9)?A^(11)は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のベンゼン、置換もしくは無置換のビフェニル、置換もしくは無置換のフルオランテン、置換もしくは無置換のコロネン、置換もしくは無置換のクリセン、置換もしくは無置換のピセン、置換もしくは無置換のカルバゾール、置換もしくは無置換のルビセン、又は2位でAr^(2)に結合するナフタレンの2価の残基を表し、A^(12)?A^(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数3?6のシクロアルキル基、炭素数1?6のアルコキシル基、炭素数5?18のアリールオキシ基、炭素数7?18のアラルキルオキシ基、炭素数5?16のアリールアミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1?6のエステル基又はハロゲン原子を示し、A^(9)?A^(14)のうち少なくとも1つは縮合芳香族環を有する基である。)
で表される縮合環含有化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物であるのに対して、引用発明の電子輸送能を有する蛍光性有機化合物は、そのような化合物ではない点。

(3)当審の判断
上記相違点について検討する。
相違点(A)について
引用例2に記載された「HT-12」、「HT-13」、「HT-14」なるアリールアミン化合物は、本願発明の一般式(V)で表される炭素数100以下のアリールアミン化合物のうち、X^(3)が核炭素数10?40の無置換の縮合芳香族環基で、Ar^(5)及びAr^(6)が、それぞれ独立に炭素数6?40の置換もしくは無置換の1価の芳香族基で、pが2の整数であるアリールアミン化合物に相当する。
そして、引用例2の記載事項を参酌すると、引用例2に記載された「HT-12」、「HT-13」、「HT-14」なるアリールアミン化合物は、輝度が高く、素子の保存耐久性に優れた有機発光素子を与える正孔輸送性化合物として用いるものといえるから、引用例2に接した当業者であれば、引用発明の正孔輸送性を有するアリールアミン化合物として、上記「HT-12」、「HT-13」、「HT-14」なるアリールアミン化合物を採用することは、格別困難なくなし得ることである。
したがって、上記相違点(A)に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、引用例2に記載された発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

相違点(B)について
引用例4には、発光素子に3つ以上の環構造を含む炭化水素芳香族縮合環で置換されている三置換ベンゼン骨格を有する有機蛍光体を含有させること、3つ以上の環構造を含む炭化水素芳香族縮合環としてはフルオランテン、クリセン、コロネンがあげられること、該有機蛍光体が電子輸送材料であることが記載されており、上記フルオランテン、クリセン、コロネンで置換されている三置換ベンゼン骨格を有する有機蛍光体は、本願発明の一般式(IV)で表される縮合環含有化合物のうち、Ar^(2)が置換もしくは無置換の炭素数6の芳香族環基で、A^(9)?A^(11)が、それぞれ独立に、無置換のフルオランテン、クリセン、コロネンの2価の残基で、A^(12)?A^(14)が水素原子である化合物に相当する。
そして、引用例4には、上記フルオランテン、クリセン、コロネンで置換されている三置換ベンゼン骨格を有する有機蛍光体は、発光効率が高く、高輝度で色純度に優れた発光素子を提供することが記載されているから、引用例4に接した当業者であれば、引用発明の電子輸送性を有する有機化合物として、上記フルオランテン、クリセン、コロネンで置換されている三置換ベンゼン骨格を有する有機化合物を採用することは、格別困難なくなし得ることである。
したがって、上記相違点(B)に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、引用例4に記載された発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

また、本願の明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の具体例として記載されているのは、(B)成分としてEM49,(A)成分としてEM111を用いた実施例9(【0106】、【表1】参照)だけであり、比較例は、(B)成分、(A)成分ともに本願発明とは異なる成分を用いて比較しているだけであるから、これらの具体例及び比較例から本願発明の効果が格別のものとは認め難い。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-27 
結審通知日 2011-05-06 
審決日 2011-05-17 
出願番号 特願2008-75542(P2008-75542)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
伊藤 幸仙
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機発光媒体  
代理人 大谷 保  

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