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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63B |
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管理番号 | 1240094 |
審判番号 | 不服2009-3049 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-10 |
確定日 | 2011-07-11 |
事件の表示 | 特願2003-580151「船舶の重量を減らし、長手強度を最適化する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 9日国際公開、WO03/82665、平成17年 7月21日国内公表、特表2005-521589〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本件出願は、2003年3月28日(パリ条約による優先権主張2002年3月28日、フィンランド国)を国際出願日とする出願であって、平成20年11月26日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成21年2月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正(前置補正)がなされたものである。 上記補正は、補正前の請求項1および4に記載された「多くとも0.55、好ましくは多くとも0.5である」を、「多くとも0.55である」とするものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第4号の明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当し、適法なものである。 本願の各請求項に係る発明は、平成21年2月10日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項4には、次のとおり記載されている。 「【請求項4】 船舶は、液化天然ガス(LNG)又は他の対応する媒体を運搬するのに特に適した船舶であって、船舶(1)の少なくとも主要部の上に延びる甲板(3)及び船舶(1)の長手方向(A)に連続して配置されるいくつかのほぼ球形の貨物タンク(4)を有する船体(2)と、前記甲板(3)の上に実質的に延在する甲板室(5)とを備える船舶(1)において、 船舶(1)の船体(2)には、貨物タンク(4)の上部に配置された連続保護ケーシング構造(6)が設けられていて、 貨物タンク(4)の上部の保護ケーシング構造(6)の最上連続部の高さに対する船舶の底部から測定した高さの割合が、多くとも0.55であるように、船舶の前記甲板(3)が船体(2)上に配置され、 前記保護ケーシング構造(6)が、船体(2)に支持された前記甲板(3)及び/又は他の構造(7)に固定され、船体(2)の他の部分と共に、船舶の全強度の主要部を構成するように寸法決めされていることを特徴とする船舶(1)。」 2.引用文献の記載内容 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭52-051688号公報(以下「引用文献」という。)には、「球形タンクを搭載した低温液化ガス運搬船」に関し、次の技術事項が記載されている。 (a)「本発明はウエザーカバーを船体強度材として利用し、その一部、すなわち上甲板の横断面積の小さいタンク保持部を他の部分より重構造として補強することによつて、上述不連続性をなくし、もつて縦強度を満足させる構造とした低温液化ガス運搬船を提供するものである。・・・第1図は球形タンクを搭載した船体の構造を示し、・・・(6)は下部支持リング(4)下面で周方向等間隔に取付けられた支持チヨツクで、支持甲板(7)上に取付けられた支持台(8)上に適宜耐圧断熱材を介して滑動可能に載置される。・・・・(9)は船倉の底板、(10)は上甲板で、球形タンク頂頭部(11)が貫通突出する大きな開口部(12)を有している。(13)は球形タンクを覆つて上甲板(10)上に設けられたウェザーカバーで、第2図に示すように複数個の球形タンク(14)の全体を船首尾方向に縦通しで覆つている。 第3図において、(15)はウエザーカバー(13)の補強部分を示し、上甲板(10)の横断面積が前記開口部(12)の故に小さくなる各タンク保持部の中央部分(A)に対応する位置を他の部分より重構造として補強している。これにより上甲板(10)の強度的な不連続性をなくし、船体の縦強度を満足させる構造にしている。・・・従つて格別厚い上甲板を用いて船体の縦強度を満足させなくてもよいので工作上の問題点を解消できる。」 (公報第1頁左下欄第20行目?第2頁右上欄第1行目) (b)第1?3図の記載から次の事項が明らかである。 ・複数個の球形タンク(14)は船首尾方向に連続して配置されている。 ・ウェザーカバー(13)は船体に支持された上甲板(10)に固定されている。 これら記載事項及び第1?3図に記載された事項を総合すれば、引用文献には、次の発明が記載されているものと認められる。 「低温液化ガス運搬船であって、上甲板(10)及び船首尾方向に縦通しに連続して配置される複数個の球形タンク(14)を有する船体を備える低温液化ガス運搬船において、 低温液化ガス運搬船の船体には、複数個の球形タンク(14)の全体を船首尾方向に縦通しで覆うウェザーカバー(13)が設けられていて、運搬船の前記上甲板(10)が船体上に配置され、 前記ウエザーカバー(13)は上甲板(10)に固定され、ウエザーカバー(13)の補強部分(15)は各タンク保持部の中央部分(A)に対応する位置を他の部分より重構造として補強して、格別厚い上甲板(10)を用いて船体の縦強度を満足させなくてもよいことを特徴とする低温液化ガス運搬船。」 3.対比・判断 本願の請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用文献に記載された発明(以下「引用発明」という。)とを対比すると、次のことが明らかである。 ・引用発明の「低温液化ガス運搬船」が、本願発明の「船舶は、液化天然ガス(LNG)又は他の対応する媒体を運搬するのに特に適した船舶」および「船舶(1)」に相当する。同様に、「船首尾方向」が「船舶(1)の長手方向(A)」に、「複数個の球形タンク(14)」が「いくつかのほぼ球形の貨物タンク(4)」に、「船体」が「船体(2)」に、「ウエザーカバー(13)」が「連続保護ケーシング構造(6)」に、「上甲板(10)」が「甲板(3)」に相当する。 ・引用発明の「ウエザーカバー(13)」が、「複数個の球形タンク(14)の全体を船首尾方向に縦通しで覆う」は、本願発明の「連続保護ケーシング構造(6)」が、「いくつかのはぼ球形の貨物タンク(4)の上部に配置された」に対応する。 同様に、「ウエザーカバー(13)は上甲板(10)に固定され」は「保護ケーシング構造(6)が、船体に支持された前記甲板(3)及び/又は他の構造(7)に固定され」に、「ウエザーカバー(13)の補強部分(15)は各タンク保持部の中央部分(A)に対応する位置を他の部分より重構造として補強して、格別厚い上甲板(10)を用いて船体の縦強度を満足させなくてもよい」態様は「船体(2)の他の部分と共に、船舶の全強度の主要部を構成するように寸法決めされている」態様に対応している。 本願発明と引用発明との一致点と相違点は次のとおりである。 (1)一致点 「船舶は、液化天然ガス(LNG)又は他の対応する媒体を運搬するのに特に適した船舶であって、船舶の少なくとも主要部の上に延びる甲板及び船舶の長手方向に連続して配置されるいくつかのほぼ球形の貨物タンクを有する船体を備える船舶において、 船舶の船体には、貨物タンクの上部に配置された連続保護ケーシング構造が設けられていて、 前記保護ケーシング構造が、船体に支持された前記甲板及び/又は他の構造に固定され、船体の他の部分と共に、船舶の全強度の主要部を構成するように寸法決めされていることを特徴とする船舶。」 (2)相違点 (相違点1) 本願発明が「甲板(3)の上に実質的に延在する甲板室(5)」「を備える」のに対して、引用発明では、そのような構成について記載されていない点。 (相違点2) 本願発明が、「貨物タンク(4)の上部の保護ケーシング構造(6)の最上連続部の高さに対する船舶の底部から測定した高さの割合が、多くとも0.55であるように、船舶の甲板(3)が船体(2)上に配置され」ているのに対して、引用発明では、球形タンク(14)の上部のウエザーカバー(13)の最上連続部の船舶の底部から測定した高さと船体上に配置された上甲板(10)の船舶の底部から測定した高さの割合の数値が不明である点。 (3)相違点についての検討・判断 (相違点1)について 一般的には、液化ガス運搬船において、本願発明の甲板室(5)に相当する上部構造体を甲板の上に実質的に延在させて備える構成は周知な事項である。例えば、特開平9-24891号公報(図1)、実願昭63-164867号(実開平2-84793号)のマイクロフイルム(第1図)、特開昭60-176887号公報(第1図)を参照。 そうすると、引用発明に上記周知の事項を施して、本願発明の相違点(1)に係る構成とすることは、当業者にとって格別困難なこととはいえない。 (相違点2)について 上記に周知例としてあげた実願昭63-164867号(実開平2-84793号)のマイクロフイルムの第6頁第7行目?13行目には「カーゴタンクの上方を覆う上甲板を船長方向に連続し、かつ平坦に形成したので、同上甲板の船体縦強度部材としての効力を増大することができて、例えば125,000m^(3)積みの4タンクからなる液化ガス運搬船において、従来のものに比べて船殻重量を約1000ton軽減することができる。」と記載されている。ここで、「カーゴタンクの上方を覆う上甲板」は引用発明の「ウエザーカバー(13)」や本願発明の「連続保護ケーシング構造(6)」に相当するもので、この上甲板の船体縦強度部材としての効力を増大すれば船殻重量を軽減することができることが記載されている。 引用発明のものも、「ウエザーカバー(13)の補強部分(15)は各タンク保持部の中央部分(A)に対応する位置を他の部分より重構造として補強して、格別厚い上甲板(10)を用いて船体の縦強度を満足させなくてもよい」とするもので船体縦強度を増大しているから、結果として自ずと船殻重量を軽減することができることは上記の記載からみても当業者にとって自明であるといえる。 また、本願発明の「貨物タンクの上部の保護ケーシング構造の最上連続部の高さに対する船舶の底部から測定した高さ」と、「船体(2)上に配置され」た「甲板(3)」の「船舶の底部から測定した高さ」の割合が多くとも0.55である」との記載は,本願明細書の記載からみて、保護ケーシング構造及び下側船体が共に、全船体の長手強度を与えるのに主要なものとして寄与することにより、船体の重量を軽くすることができることを目的としたものであるが、甲板の底部からの高さを低くすればするほど船体の重心は低くなることは当該分野において技術常識であり(必要であれば、特開昭53-142786号公報第3頁左下欄第9?13行を参照)、甲板の底部からの高さを低くすれば船体の重量も軽くすることができることとなる。 すなわち、「貨物タンクの上部の連続保護ケーシング構造の最上連続部の高さ」に比し「甲板の高さ」の割合を低くすればするほど船体の重心は低くなるとともに、船体の重量を軽くすることができることととなり、本願発明における「多くとも0.55」という数値には臨界的意義がないことは明かである。 そうすると、引用発明において、船殻重量を軽減した結果として適宜数値を選定すればよく、「球形タンク(14)の上部のウエザーカバー(13)の最上連続部の船舶の底部から測定した高さと船体上に配置された上甲板(10)の船舶の底部から測定した高さの割合」を本願発明のように「多くとも0.55」とすることは当業者にとって格別困難ということはない。 以上のことから、引用発明において、周知の事項や技術常識を勘案して、本願発明の上記相違点(2)に係る構成とすることは、当業者にとって容易想到の範囲ということができる。 そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知の事項が有する効果の総和を超えるものではなく、当業者が予測し得た範囲内のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶されるべきものである。 そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-09 |
結審通知日 | 2011-02-15 |
審決日 | 2011-03-01 |
出願番号 | 特願2003-580151(P2003-580151) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B63B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大熊 雄治、加藤 友也 |
特許庁審判長 |
川向 和実 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 栗山 卓也 |
発明の名称 | 船舶の重量を減らし、長手強度を最適化する方法及び装置 |
代理人 | 吉田 裕 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 岩本 行夫 |