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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1240138
審判番号 不服2010-7491  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-08 
確定日 2011-07-13 
事件の表示 特願2006- 50081号「平型回路基板用電気コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開、特開2007-227302号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年2月27日の出願であって、平成22年2月16日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年2月22日)、これに対し、同年4月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成22年4月8日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成22年4月8日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成22年1月5日付け手続補正書)に、
「【請求項1】
金属板の板面を維持したまま該金属板を加工して得られる端子が上記板面に直角な方向で間隔をもってハウジングにより複数保持され、該端子はほぼ平行な二つの腕体の対向縁にそれぞれ一つの突部が形成され、一方の端子に外力を加えて弾性撓みを生じせしめることで二つの腕体の突部同士間距離を狭めることにより、上記突部同士間で平型回路基板を挟持して該平型回路基板と端子とを電気的に接続せしめる電気コネクタにおいて、二つの腕体の突部は平型回路基板の挿入方向で同じ位置にあり、一方の腕体の突部が丸味をもち、他方の腕体の突部が尖鋭部を形成しており、上記外力を受けて弾性撓みを生じている一方の腕体は、弾性撓み量を減ずる方向に自由度を有していることを特徴とする平型回路基板用電気コネクタ。」
とあったものを、

「【請求項1】
金属板の板面を維持したまま該金属板を加工して得られる端子が上記板面に直角な方向で間隔をもってハウジングにより複数保持され、該端子はほぼ平行な二つの腕体の対向縁にそれぞれ一つの突部が形成され、一方の腕体に外力を加えて弾性撓みを生じせしめることで二つの腕体の突部同士間距離を狭めることにより、上記突部同士間で平型回路基板を挟持して該平型回路基板と端子とを電気的に接続せしめる電気コネクタにおいて、二つの腕体の突部は平型回路基板の挿入方向で同じ位置にあり、一方の腕体の突部が丸味をもち、他方の腕体の突部が尖鋭部を形成しており、一方の腕体が上記外力を受けて弾性撓みを生じているときに、該一方の腕体は、弾性撓み量を減ずる方向に自由度を有しており、上記尖鋭部は平型回路基板の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有し、該前縁と後縁とが別工程での打抜き加工により形成されていることを特徴とする平型回路基板用電気コネクタ。」
と補正(下線は補正箇所を示す。)するものである。

上記補正は、願書に最初に添付した明細書の段落【0040】を根拠として、「尖鋭部は平型回路基板の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有し、該前縁と後縁とが別工程での打抜き加工により形成されている」と限定すると共に、「一方の端子」を「一方の腕体」とし、「外力を受けて弾性撓みを生じている一方の腕体は」を「一方の腕体が上記外力を受けて弾性撓みを生じているときに、該一方の腕体は」と言い換えたものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2 刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平11-31561号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア 段落【0016】?段落【0018】
「【0016】この実施の形態のコネクタ1は、絶縁材料からなるハウジング2と、導電材料からなる複数の接触子3と、回動操作される回動部材4とを備えている。
【0017】ハウジング2は、大略直方体状に形成されており、長手方向(図1の左右方向)に沿う両側面側が開口されており、一方側の開口は、偏平電線の挿抜に合う形状をして偏平電線の挿入口5とされ、他方側の開口は、回動部材4による外部操作ための開口部6とされる。このハウジング2の内部の上下には、長手方向に沿って等ピッチで複数の保持溝7が形成されており、これら保持溝7に接触子3が収納保持されている。また、このハウジング2の長手方向の両端部の背面側には、回動部材4の両端の軸部4a,4aを案内する傾斜したガイド面2a,2aが形成されており、回動部材4の軸部4a,4aを、このガイド面2a,2aに沿って背面側から挿入し、このガイド面2a,2aを乗り越えてスナップフイットでハウジング2の凹溝(図示せず)に係合させることにより、回動部材4が、ハウジング2に回動可能に軸支されるようになっている。
【0018】接触子3は、金属板から打ち抜いて製作されたものであり、上下に対向する一対の接触片3a,3bと、それらを連結する連結部3cとを有している。上側接触片3aは、挿入口5から挿入される偏平電線に圧接される下方へ突出した接触部3a_(1)と、回動部材4の後述の圧接部4bにその周縁が圧接される隅部3a_(2)とを有し、下側接触片3bは、ハウジング2の挿入口5の下側の係止凹部2bに係止される係止部3b_(1)と、前記接触部3a_(1)との間で挿入された偏平電線を挟持する上方へ突出した接触部3b_(2)と、回動部材4の円弧状の回動支持部4cが係合する回動溝部3b_(3)と、回路基板に接続される結線部3b_(4)とを有している。」

イ 段落【0022】?段落【0023】
「【0022】この実施の形態のコネクタ1では、図5(a)に示されるように、回動部材4を回動始点である起き上がり姿勢にしたときには、回動部材4の圧接部4bは、接触子3に圧接しておらず、接触子3の上側接触片3aと下側接触片3bとの間には、偏平電線を自由に挿抜できる間隔が確保されており、また、この状態では、回動部材4の圧接部4bが、回動中心P_(1)と前記接触子3の隅部3a_(2)の頂点P_(2)とを結ぶ線Lに対してその一方側(挿入口5側)にある。
【0023】この状態から回動部材4を、図5(b)に示されるように時計回りに回動操作すると、回動部材4の圧接部4bが、上側接触片3aの隅部3a_(2)の頂点P_(2)近傍の周縁に圧接して上側接触片3aを弾性変形させて上側接触片3aの接触部3a_(1)を、下方へ弾性変形させ、さらに、回動操作すると、図5(c)に示されるように、回動部材4の圧接部4bが、上側接触片3aの隅部3a_(2)の頂点P_(2)を乗り越えて上側接触片3aをさらに弾性変形させてその接触部3a_(1)を、下側接触片3bの接触部3b_(2)に近接させ、この状態では、両接触片3a,3bによって挿入口5から挿入された偏平電線を挟持できる状態となっている。」

ウ 段落【0027】?段落【0031】
「【0027】次に、以上の構成を有するコネクタ1に、偏平電線を結線する場合の手順および動作を、図6に基づいて説明する。
【0028】先ず、図6(a)に示されるように、回動部材4を、回動の始点、すなわち、上方に持ち上げた起き上がり姿勢とする。この起き上がり姿勢では、回動部材4の圧接部4bは、上側接触片3aの隅部3a_(2)の周縁に当接しておらず、この状態では、上側接触片3aの接触部3a_(1)と下側接触片3bの接触部3b_(2)との間隔は、FPC等の偏平電線8の肉厚とほぼ同寸法に設定されており、これによって、偏平電線8をハウジング2に対して円滑に挿抜できる開放状態とされる。なお、上側接触片3aの接触部3a_(1)と下側接触片3bの接触部3b_(2)との間隔は、FPC等の偏平電線8の肉厚よりも若干大きく設定してもよい。この開放状態において、偏平電線8を、矢符Aで示されるように、ハウジング2の内部に挿入する。
【0029】次に、図6(b)に示されるように、回動部材4を、時計回りに回動操作し、これによって、回動部材4の圧接部4bが、上側接触片3aの隅部3a_(2)の周縁に圧接し、上側接触片3aを弾性変形させてその接触部3a_(1)を、偏平電線8の上面に押圧させる。
【0030】さらに、回動部材4を、時計回りに回動操作することにより、図6(c)に示されるように、回動部材4の圧接部4bが、上側接触片3aの隅部3a_(2)の周縁を一層加圧し、上側接触片3aが弾性変形し、その接触部3a_(1)が偏平電線8の上面にさらに圧接し、上側接触片3aと下側接触片3bとの間で偏平電線8を挟持する。この状態では、回動部材4の圧接部4bが、上側接触片3aの隅部3a_(2)の頂点P_(2)を乗り越えた位置にあり、接触子3の弾性復元力によって結線状態を維持する方向(図6の右方向)への力が作用することになる。
【0031】その後、回動部材4を、時計回りにさらに回動操作して図6(d)に示されるように、回動の終点、すなわち、倒れ姿勢になると、接触子3の弾性復元力によって、回動部材4に作用する結線状態を維持する水平方向の力が一層大きくなり、ロック状態となる。」

エ 図1及び4には、上記記載事項(ア)の「ハウジング2の内部の上下には、長手方向に沿って等ピッチで複数の保持溝7が形成されており、これら保持溝7に接触子3が収納保持されている」(段落【0017】)との記載とあわせみて、接触子3が板面に直角な方向で間隔をもってハウジング2により複数保持されることが示されている。

オ 図5及び6には、接触部3a_(1)及び3b_(2)が偏平電線8の挿入方向で同じ位置にあり、ともに丸味をもつことが示されている。

カ 図6(b)ないし(d)には、上記記載事項ウの「図6(c)に示されるように、回動部材4の圧接部4bが、上側接触片3aの隅部3a_(2)の周縁を一層加圧し、上側接触片3aが弾性変形し」(段落【0030】)及び「その後、回動部材4を、時計回りにさらに回動操作して図6(d)に示されるように、回動の終点、すなわち、倒れ姿勢になると、」「ロック状態となる。」(段落【0031】)との記載とあわせみて、回動部材4の回動操作に応じて、上側接触片3aの連結部3cから隅部3a_(2)側の部分が圧接によって弾性変形を生じているときに、上側接触片3aの連結部3cから接触部3a_(1)側の部分がハウジング2の内側の上壁から離間した状態を維持することが示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されている。

「金属板から打ち抜いて製作された接触子3が板面に直角な方向で間隔をもってハウジング2により複数保持され、該接触子3はほぼ平行な上側接触片3a及び下側接触片3bの対向縁にそれぞれ一つの接触部3a_(1)及び3b_(2)が形成され、上側接触片3aの隅部3a_(2)に回動部材4が圧接して弾性変形を生じせしめることで上側接触片3a及び下側接触片3bの接触部3a_(1)及び3b_(2)同士間距離を狭めることにより、上記接触部3a_(1)及び3b_(2)同士間で偏平電線8を挟持して該偏平電線8と接触子3とを電気的に接続せしめるコネクタ1において、上側接触片3a及び下側接触片3bの接触部3a_(1)及び3b_(2)は偏平電線8の挿入方向で同じ位置にあり、ともに丸味をもち、上側接触片3aの連結部3cから隅部3a_(2)側の部分が上記圧接によって弾性変形を生じているときに、上側接触片3aの連結部3cから接触部3a_(1)側の部分がハウジング2の内側の上壁から離間した状態を維持する偏平電線8用コネクタ1。」

(2)刊行物2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された実願平4-59385号(実開平6-17153号公報)のCD-ROM(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア 段落【0002】?段落【0003】
「【0002】
【従来の技術】
この種のFPC用の電気コネクタの従来例を図6に示す。この例の電気コネクタ1は、基板にマウントされるコネクタ本体2とそれに装着されるカバー部材3とからなり、コネクタ本体2は、その前部側にFPC4を挿入するための開口2aを有する箱形状とされ、内部にFPC4に接触せしめられる複数のコンタクト金具5が固定されている。
【0003】
コンタクト金具5は、コネクタ本体2に固定される基部5aと、この基部5aから立ち上がる立上部5bと、この立上部5bから上記基部5aに沿うように突出する押圧片部5cとを有し、押圧片部5cの先端部5dがFPC4に弾性的に接触せしめられるようにされている。また、コンタクト金具5の基部5a側には足部5eが突設され、この足部5eが図示されていない基板の配線パターンに接続される。なお、コネクタ本体2内には、足部5eが前側に形成されたコンタクト金具5と後側に形成されたコンタクト金具5とが互い違いに並置されて固定されている。」

イ 段落【0013】
「【0013】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面を参照しつつ説明する。
図1?図3は、本考案に係るFPC用の電気コネクタの一実施例を示し、この例の電気コネクタ10では、前述した図6,図7に示される従来の電気コネクタ1の各部に対応する部分には同一の符号を付して、それらの詳細な説明を省略ないし簡略化する。
本実施例の電気コネクタ10は、基板にマウントされるコネクタ本体2とそれに装着されるカバー部材3とからなっている。」

ウ 段落【0015】
「【0015】
コンタクト金具5は、図4をも参照すればよくわかるように、コネクタ本体2の底壁部に沿って固定される基部5aと、この基部5aから立ち上がる立上部5bと、この立上部5bから上記基部5aに沿う方向に突出して該基部5aとの間でFPC4を挟み得るようにされた押圧片部5cと、同じく立上部5bの上部から上記基部5aに沿うように突出してコネクタ本体2の天壁部に沿って固定される上片部5fと、を有し、基部5aの押圧片部5c側の端面にFPC4に食い込む所要数の咬歯5gが突設されている。また、コンタクト金具5の基部5a側には足部5eが突設され、この足部5eが図示されていない基板の配線パターンに接続される。なお、コネクタ本体2内には、足部5eが前側に形成されたコンタクト金具5と後側に形成されたコンタクト金具5とが互い違いに並置されて固定されている(図3も参照)。」

エ 段落【0018】?段落【0020】
「【0018】
このような構成を有する本実施例の電気コネクタ10においては、FPC4の先端側をカバー部材3の挿入口3aを介してコネクタ本体2内に挿入し、その先端側に形成された接点部を各コンタクト金具5の押圧片部5cの下側に位置させ、この状態でカバー部材3を水平方向に摺動させて押付部3dをコンタクト金具5の上片部5fと押圧片部5cとの間に押し込む。それにより、図2に示される如くに、コンタクト金具5の押圧片部5cがカバー部材3の押付部3dに形成された傾斜押圧面3eに押圧されて下方に撓曲され、その先端部5dをFPC4に圧接させる。
【0019】
それにより、FPC4の先端部が押圧片部5cと基部5aとで挟圧保持されてFPC4とコンタクト金具5とが電気的に接続されるとともにFPC4がロックされる。このとき、基部5aに突設された咬歯5gがFPC4の先端部に食い込むようにされる。
【0020】
上述の如くの構成とされたもとでは、コンタクト金具5の基部5aと押圧片部5cとの間にFPC4を挟んだとき、基部5aの押圧片部5c側の端面に形成された咬歯5gがFPC4に食い込むので、FPC4は一旦ロック状態にされると、それが外方に引っ張られてもコネクタ本体2から極めて抜け難くされ、コネクタ本体2に確実に保持されることになる。」

オ 図1、2及び4ないし7には、上記記載事項ウ及びエの、基部5aに突設された咬歯5gがFPC4の先端部に食い込むとの記載とあわせみて、押圧片部5cの先端部5dが丸味をもち、咬歯5gが尖鋭部を形成しており、尖鋭部はFPC4の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有することが示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合し整理すると、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されている。

「押圧片部5cにカバー部材3の傾斜押圧面3eが押圧されて弾性的に下方に撓曲させることで押圧片部5c及び基部5aの先端部5d及び咬歯5g同士間距離を狭めることにより、上記先端部5d及び咬歯5g同士間でFPC4を挟持して該FPC4とコンタクト金具5とを電気的に接続せしめる電気コネクタ10において、押圧片部5cの先端部5dが丸味をもち、基部5aの咬歯5gが尖鋭部を形成しており、上記尖鋭部はFPC4の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有しているFPC4用電気コネクタ10。」

3 対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「接触子3」は本件補正発明の「端子」に相当し、以下同様に、「ハウジング2」は「ハウジング」に、「上側接触片3a及び下側接触片3b」は「二つの腕体」に、上側接触片3a及び下側接触片3bの「接触部3a_(1)及び3b_(2)」は、二つの腕体の「それぞれ一つの突部」に、「偏平電線8」は「平型回路基板」に、「コネクタ1」は「電気コネクタ」に、「偏平電線8用コネクタ1」は「平型回路基板用電気コネクタ」にそれぞれ相当する。

また、刊行物1に記載された発明の「弾性変形」とは、「回動部材4を、図5(b)に示されるように時計回りに回動操作すると、回動部材4の圧接部4bが、上側接触片3aの隅部3a_(2)の頂点P_(2)近傍の周縁に圧接して上側接触片3aを弾性変形させて上側接触片3aの接触部3a_(1)を、下方へ弾性変形させ」(段落【0023】)ることであり、本件補正発明の「弾性撓み」とは、「図3に示される閉位置まで、上記加圧部材20を時計方向に回動操作して水平とする。この閉位置に至ると、加圧部材20の回動被支持部22は縦長となる。この縦長の回動被支部22の縦方向寸法は、図1における凹湾部11B,回動支持部12E間の間隔よりも大きいので、上記端子10の上腕体11は右端の凹湾部11Bにて上方へもち上げられるように弾性撓み変形する。これにより、連結部13よりも左方では、上腕体11は、梃子の原理により、下方に弾性撓み変形する」(本願明細書段落【0036】)ことであるから、刊行物1に記載された発明の「弾性変形」は、本件補正発明の「弾性撓み」に相当する。
そして、刊行物1に記載された発明の「上側接触片3a」は、弾性変形するものであるから、本件補正発明の「一方の腕体」に相当し、同「下側接触片3b」は同「他方の腕体」に相当する。

また、刊行物1に記載された発明の接触子3が「金属板から打ち抜いて製作され」ることは、結果として、金属板の板面を維持したまま該金属板を加工して得られることになるから、刊行物1に記載された発明の「金属板から打ち抜いて製作された」は、本件補正発明の「金属板の板面を維持したまま該金属板を加工して得られる」に相当する。

また、刊行物1に記載された発明の「上側接触片3aの隅部3a_(2)」、「上側接触片3aの連結部3cから隅部3a_(2)側の部分」及び「上側接触片3aの連結部3cから接触部3a_(1)側の部分」は、上側接触片3aの一部分であるから、本件補正発明の「一方の腕体」に相当する。

また、刊行物1に記載された発明の「回動部材4が圧接して」は、上側接触片3aの隅部3a_(2)に外力を加えることになるから、本件補正発明の「外力を加えて」に相当し、そうすると、刊行物1に記載された発明の「上側接触片3aの隅部3a_(2)に回動部材4が圧接して」は、本件補正発明の「一方の腕体に外力を加えて」に相当する。

また、本件補正発明の「一方の腕体が上記外力を受けて弾性撓みを生じているときに、該一方の腕体は、弾性撓み量を減ずる方向に自由度を有しており」に関して、請求人は「この自由度を有していることは、明細書の段落[0036]で上腕体(一方の腕体)が弾性撓みするという記載、この撓みを生じたときに、上記突部の部分がハウジングの上壁から離間していて、上腕体の弾性により弾性撓み量を減ずる方向である上方へ変位する自由度を有している図3から明らかであり」「上記弾性撓み状態で、平型導体が不用意に外力を受けて、例えばハウジング外へ延出している部分でもち上げられたとき、該平型導体は他方の腕体の突部(尖鋭部)を中心にして傾き、その傾きによる上下方向での平型導体の両面間距離(平型導体の厚み方向に対して斜めの方向となり厚みより大きい距離である)が変動しても、他方の突部は定位置にあって、上記一方の腕体はその増大方向の距離変動を許容するように撓み量を減ずる方向(上方へ)変位する。したがって、他方の腕体の突部は平型導体から外れないばかりか、傾いた平型導体にも適切な接圧を維持し、不用意な平型導体へのもち上げ力がなくなったときには、また元の状態に戻れる」(平成22年1月5日付意見書)と述べており、これを踏まえると、刊行物1に記載された発明の「上側接触片3aの連結部3cから隅部3a_(2)側の部分が上記圧接によって弾性変形を生じているときに、上側接触片3aの連結部3cから接触部3a_(1)側の部分がハウジング2の内側の上壁から離間した状態を維持する」は、上側接触片3aが弾性変形を生じているときに、接触片3a_(1)がハウジング2の上壁から離間しているものであるから、本件補正発明の「一方の腕体が上記外力を受けて弾性撓みを生じているときに、該一方の腕体は、弾性撓み量を減ずる方向に自由度を有しており」に相当する。

したがって、両者は、
「金属板の板面を維持したまま該金属板を加工して得られる端子が上記板面に直角な方向で間隔をもってハウジングにより複数保持され、該端子はほぼ平行な二つの腕体の対向縁にそれぞれ一つの突部が形成され、一方の腕体に外力を加えて弾性撓みを生じせしめることで二つの腕体の突部同士間距離を狭めることにより、上記突部同士間で平型回路基板を挟持して該平型回路基板と端子とを電気的に接続せしめる電気コネクタにおいて、二つの腕体の突部は平型回路基板の挿入方向で同じ位置にあり、一方の腕体が上記外力を受けて弾性撓みを生じているときに、該一方の腕体は、弾性撓み量を減ずる方向に自由度を有している平型回路基板用電気コネクタ。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本件補正発明は、一方の腕体の突部が丸味をもち、他方の腕体の突部が尖鋭部を形成しており、上記尖鋭部は平型回路基板の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有し、該前縁と後縁とが別工程での打抜き加工により形成されているのに対し、
刊行物1に記載された発明は、二つの腕体の突部がともに丸味をもつ点。

4 当審の判断
そこで、相違点について検討する。
本件補正発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、刊行物2に記された発明の「コンタクト金具5」は本件補正発明の「端子」に相当し、以下同様に、「押圧片部5c」は、弾性的に下方に撓曲するから、本件補正発明の「一方の腕体」に相当し、「基部5a」は「他方の腕体」に、押圧片部5c及び基部5aの「先端部5d及び咬歯5g」は、二つの腕体の「突部」に、「FPC4」は「平型回路基板」に、「電気コネクタ10」及び「FPC4用電気コネクタ10」は「電気コネクタ」及び「平型回路基板用電気コネクタ」にそれぞれ相当する。

また、刊行物2に記載された発明の「押圧片部5cにカバー部材3の傾斜押圧面3eが押圧されて」は本件補正発明の「一方の腕体に外力を加えて」に相当し、同「弾性的に下方に撓曲させる」は同「弾性撓みを生じせしめる」に相当するから、刊行物2に記載された発明の「押圧片部5cにカバー部材3の傾斜押圧面3eが押圧されて弾性的に下方に撓曲させる」は本件補正発明の「一方の腕体に外力を加えて弾性撓みを生じせしめる」に相当する。
そうすると、刊行物2に記載された発明は、「一方の腕体に外力を加えて弾性撓みを生じせしめることで二つの腕体の突部同士間距離を狭めることにより、上記突部同士間で平型回路基板を挟持して該平型回路基板と端子とを電気的に接続せしめる電気コネクタにおいて、一方の腕体の突部が丸味をもち、他方の腕体の突部が尖鋭部を形成しており、上記尖鋭部は平型回路基板の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有している平型回路基板用電気コネクタ。」と言い換えることができる。

刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、「一方の腕体に外力を加えて弾性撓みを生じせしめることで二つの腕体の突部同士間距離を狭めることにより、上記突部同士間で平型回路基板を挟持して該平型回路基板と端子とを電気的に接続せしめる電気コネクタ」である点で共通し、刊行物1に記載された発明の「一方の腕体」と刊行物2に記載された発明の「一方の腕体」とは弾性撓みを生じることでも共通するから、刊行物1に記載された発明の「一方の腕体」及び「他方の腕体」に、刊行物2に記載された発明の「一方の腕体の突部が丸味をもち、他方の腕体の突部が尖鋭部を形成しており、上記尖鋭部は平型回路基板の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有している」を適用して、刊行物1に記載された発明の「一方の腕体」及び「他方の腕体」において、「一方の腕体の突部が丸味をもち、他方の腕体の突部が尖鋭部を形成し、上記尖鋭部は平型回路基板の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有し」とすることは、当業者が容易になし得ることである。

また、本願の出願前に、尖鋭部が2つの縁を有し、該2つの縁が別工程での打抜き加工により形成されることは、周知の技術事項(例えば、特開平4-363056号公報の図6の第1のパンチ27及び第2のパンチ28で形成される角部21、特開2005-80392号公報の図7のスロット打ち抜きを行った後、円形にブランク打ち抜きをして形成される磁極部114参照。)である。

そうしてみると、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明を適用するに際し、前記周知の技術事項に基づいて、刊行物1に記載された発明において、「前縁と後縁とが別工程での打抜き加工により形成されている」とすることも、当業者が容易になし得ることである。

また、全体としてみても、本件補正発明の奏する効果は、刊行物1及び2に記載された発明並びに前記周知の技術事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに前記周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成22年1月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

3 対比及び当審の判断
本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本件補正発明において、「尖鋭部は平型回路基板の挿入方向前方と後方にそれぞれ位置する前縁と後縁とを有し、該前縁と後縁とが別工程での打抜き加工により形成されている」との限定を省き、「一方の腕体」を「一方の端子」と、「一方の腕体が上記外力を受けて弾性撓みを生じているときに、該一方の腕体は」を「外力を受けて弾性撓みを生じている一方の腕体は」としたものである。

そうしてみると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに相当する本件補正発明が、前記「第2〔理由〕3及び4」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明並びに前記周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-18 
結審通知日 2011-05-19 
審決日 2011-05-31 
出願番号 特願2006-50081(P2006-50081)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 哲男  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 松下 聡
冨岡 和人
発明の名称 平型回路基板用電気コネクタ  
代理人 藤岡 徹  

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