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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01R
管理番号 1240640
審判番号 不服2009-17047  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-14 
確定日 2011-07-22 
事件の表示 特願2007-136927号「コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月4日出願公開、特開2008-293746号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成19年5月23日の特許出願であって、平成21年6月9日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年6月17日)、これに対し、同年9月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、平成23年2月23日付けで当審にて拒絶理由通知がなされ、同年4月25日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年4月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「接続対象物及び相手接続対象物間を接続するコネクタにおいて、弾性体と、該弾性体上に配設された絶縁性のシート部材と、前記接続対象物及び前記相手接続対象物間を接続するよう前記シート部材上の所定位置に所定ピッチで配設された複数の導電体とを有し、前記導電体の各々は、前記接続対象物及び前記相手接続対象物にそれぞれ接触する部分の各々に、前記導電体の表面から突出している複数の突起を有し、前記シート部材は、前記シート部材の表面から前記導電体側に向けて先細のテーパ形状を呈して突出する複数の突起を有し、前記シート部材の前記突起により、前記導電体の前記突起が形成されており、前記弾性体の弾性変形により、前記シート部材と前記導電体とは前記接続対象物の接点部の表面及び前記相手接続対象物の接点部の表面に追従して変形し、前記複数の突起を独立して変位させることを特徴とするコネクタ。」

3.刊行物について
(1)当審による拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-310140号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
a)「【請求項1】
接続対象物及び相手接続対象物間を接続するコネクタにおいて、前記接続対象物及び前記相手接続対象物の接触部に対応する部分に一対の突出部を形成した弾性体と、前記突出部及び前記突出部間を覆うフィルムとを有し、該フィルムには前記突出部に対応した位置に導体部が配設されており、前記突出部には複数の溝部が形成されており、前記フィルムは前記溝部に対応して形成した切り欠き部を有することを特徴とするコネクタ。」(【特許請求の範囲】。下線は当審にて付与。以下同様。)
b)「【技術分野】
本発明は、接続対象物及び相手接続対象物を相互に接続するコネクタに関する。」(段落【0001】)
c)「【発明が解決しようとする課題】
特許文献1は、樹脂フィルムに導電薄膜を形成した球体を埋め込む構造であり、球体を一つずつ樹脂フィルムへ挿入するため、量産性に劣りかつコンタクトの多芯数対応への展開が困難であるという問題がある。
また、特許文献2は、絶縁シートの両面へ粘着剤を配し、導電性繊維を縫い込む構造であり、縫い込み段階でミスをすると導電性繊維だけではなく、縫い込み孔の空いた絶縁シートを破棄する必要があるため、再試行性に劣るという問題がある。
また、特許文献3では、コンタクトが粘着性によってインシュレータに貼り付いているため、接続対象となる基板の端子への追従性を弱めてしまい、さらに粘着性面へ直接薄膜を形成しているため繰り返し嵌合性に劣るという問題がある。
それ故に、本発明の課題は、低接続圧、半田レス、かつ多数回の脱着を可能にして安定した接続を実現できるコネクタを提供することにある。
また、本発明の他の課題は、限られたスペースの中に小型、多芯数、狭ピッチで配置できるコネクタを提供することにある。」(段落【0008】?【0012】)
d)「【発明の効果】
本発明のコネクタによれば、導体部が設けられているフィルムを弾性体に保持することにより変形能力をもたせ、さらに接続対象物及び相手側接続対象物の接触部に対応するように配列することによって、接続対象物及び相手側接続対象物の接触部の配列に合わせた配置が可能となり、限られたスペースの中に小型、多芯数、狭ピッチで配置することができる。
また、本発明のコネクタによれば、弾性体を接続対象物及び相手側接続対象物の接触部のピッチあるいは配線幅に合わせた溝部によって弾性体の変形能力を向上させることができ、接続対象物及び相手側接続対象物の接触部の歪や反り、または導電部の微小な高さの違いに対して導体部のレベルでの接続安定性を実現できる。
また、本発明のコネクタによれば、接続対象物及び相手側接続対象物の接触部とは、フィルムに設けた導体部により面接触となるため、従来のコネクタよりもはるかに低接触力で、しかも接続の安定性を実現できる。
また、本発明のコネクタによれば、フィルムの導体部の間のフィルムをレーザーやプレスなどの方法でカットすることにより、導体部のレベルでの接続の安定性を向上させるこができる。
また、本発明のコネクタによれば、接続対象物及び相手側接続対象物の接触部との接続に半田を使用しないため、配列ミスなどによる多数回の脱着が可能となる。
さらに、本発明のコネクタによれば、低接触力かつ面接触を実現することにより、接続対象物及び相手側接続対象物の接触部を傷付けることなく接続することができることから、多数回の繰り返し嵌合性を向上することができる。」(段落【0014】?【0019】)
e)「【実施例1】
図1は本発明に係るコネクタの実施例1を示している。図2は、コネクタを分解した状態を示している。
図1及び図2を参照して、コネクタ1は、弾性体11と、この弾性体11に保持されている絶縁性のフィルム21と、フィルム21に配設されている導電性の導体部31とを有している。
弾性体11は、略長板形状を呈しており、導体部31が配設されているフィルム21を保持する保持面13と、保持面13に対向している平坦な基面14とを有している。
弾性体11には、長手方向を直交する幅方向の両側のそれぞれから突出している一対の突出部15が形成されている。突出部15は、基面14を延在されている平坦な突出基面14aと、保持面13から突出基面14の辺側へ向かって略円弧状に形成されている曲面15aと、曲面15aから突出基面14aに対して直交する方向で曲面15a及び突出基面14a間を接続している側面15bとを有している。
フィルム21は、弾性体11の保持面13全体を覆うように弾性体11に保持されている。複数の導体部31は、フィルム21の表面でフィルム21の長手方向に間隔をもち、かつフィルム21の長手方向を直交する幅方向において帯状のパターンとして配列されている。即ち、導体部31は、保持面13上にフィルム21を介して、一対の突出部15及び一対の突出部15間に対応して位置するような配線パターンとなっている。
一方側の突出部15上の導体部31は、配線基板としての接続対象物(図示せず)に接触する。また、もう一方側の突出部15は、配線基板としての相手接続対象物(図示せず)に接触する。即ち、接続対象物及び相手接続対象物間は、導体部31を介して相互に接続される。
弾性体11は、成型などの方法を用いて成型することができる。導体部31は、フィルム21上に金属薄膜をパターンニングすることによって得られる。この際、導体部31は、一対の突出部15及び一対の突出部15間に対応した位置に配設される。
金属薄膜をフィルム21上に設けるには、メッキやスパッタ、もしくはエッチングなどの微細加工技術を用いることで、数ミクロン単位で積層できる。さらに、導体部31は、フィルム21の長手方向において0.5mm以下の間隔をもって配列することができるので、狭ピッチ化が可能である。なお、フィルム21としては、FPC(フレキシブル・プリンテッド・サーキット)を採用することもできる。
弾性体11の保持面13には、フィルム21が追従するように貼り付け固定される。弾性体11の材料としては、主にシリコン系の耐熱性を有するゴムが望ましい。なお、弾性体11の材料としてはゲル材料としたものもある。
また、弾性体11とフィルム21との貼り付け方法は、接着剤あるいはカップリング剤を塗布することによって可能である。なお、弾性体11とフィルム21との貼り付けは、熱溶着を行うことによっても実現できる。フィルム21としては、ポリイミド樹脂、アラミド樹脂などの樹脂の一種を採用する。
図3は、図1に示したコネクタ1の応用例を示している。図4は、図3に示したコネクタの一部を断面して拡大した状態を示している。なお、図1乃至図3に示したコネクタ1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略する。
図3及び図4を参照して、コネクタ111は、弾性体11の突出部15に複数の溝部17が形成されている。弾性体13には、突出部15間に溝部17が曲面15a,側面15b及び曲面15aの近傍の保持面13の一部に、かつ導体部31に対向する部分を除く突出部15に形成されている。即ち、溝部17は、突出部15間に位置している。
弾性体11には、導体部31の長手方向におけるピッチに合わせた溝部17を形成することによって、これらの溝部17が弾性体11の幅方向である圧縮方向へ変形したときの弾性体11の逃げ部分となり、一定の荷重状態において変形能力を向上させる役目を果たす。
フィルム21には、弾性体13の保持面13へ保持するときに重ならないように弾性体13に溝部17を形成する。弾性体13は突出部15が溝部17によって凹凸形状となっていることから高い変形能力が得られる。なお、溝部17は、溝形状を変えることにより容易に変形能力を変えることができる。
図5は、コネクタの応用例を示している。図6は、図5に示したコネクタの一部を断面し拡大して示している。なお、図1乃至図4において説明したコネクタ11,111と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略する。
図5及び図6を参照して、コネクタ211は、図3及び図4に示したコネクタ111の溝部17に対向しているフィルム21を切り欠くことによって切り欠き部23が形成されている。
フィルム21には、切り欠き部23を形成することによって、導体部31間の弾性体11の変形量に独立性を持たすことで、接続対象物または相手接続対象物の歪や反り、または導体部31の微小な高さの違いに対して導体部31のレベルでの接続安定性を得ることが可能である。」(段落【0021】?【0037】)

上記a?eの記載事項及び図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「接続対象物及び相手接続対象物間を接続するコネクタ1において、
接続対象物及び相手接続対象物の接触部に対応する部分に一対の突出部15を形成した弾性体11と、
突出部15及び突出部15間を覆う絶縁性のフィルム21と、
絶縁性のフィルム21に配設されている導電性の導体部31とを有し、
弾性体11は、略長板形状を呈しており、導体部31が配設されている絶縁性のフィルム21を保持する保持面13と、保持面13に対向している平坦な基面14とを有し 、
弾性体11には、導体部31の長手方向におけるピッチに合わせた溝部17が突出部15間に位置するように形成され、
絶縁性のフィルム21は、溝部17に対応して形成した切り欠き部23を有し、
導電性の導体部31は、弾性体11の保持面13上にフィルム21を介して、一対の突出部15及び一対の突出部15間に対応した位置に配設され、
フィルム21には、切り欠き部23を形成することによって、導体部31間の弾性体11の変形量に独立性を持たすことで、接続対象物または相手接続対象物の歪や反り、または導体部31の微小な高さの違いに対して導体部31のレベルでの接続安定性を得ることが可能であるコネクタ1。」

(2)同じく、当審による拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-88062号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の発明が記載されている。
a)「【産業上の利用分野】本発明は、電子回路の基板間のスタッキング接続に用いられるコネクタおよびこのコネクタを用いた基板実装方法、特に超並列計算機などの大規模なシステムを電子回路基板によって実装する際の基板実装方法に関する。」(段落【0001】)
b)「本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、水平方向や垂直方向の基板枚数拡張性や三次元実装時の接続の安定性を確保しつつ、大きな基板に多数の要素プロセッサを搭載して基板内配線の有利さを利用したローカル結合の強化と、垂直方向の基板間配線数確保を両立させ得る基板実装方法を提供することを目的とする。」(段落【0022】)
c)「フレキシブル基板には柔軟性があり、ゴム状の弾性体にも柔軟性があるので、対向する平行基板の表面に若干の凹凸があってもそれら柔軟性によって吸収される。また、厚いゴムを容易に用いることが可能なので、同じ大きさの凹凸に対して圧縮される比率を小さくすることができる。」(段落【0088】)
d)「(実施例1の具体的説明)図1は、本実施例のコネクタを示す。本実施例のコネクタ2は概略的には、フレキシブル基板部4とゴム部6の2つの部品から構成される。
図2は、図1のコネクタ2を構成するフレキシブル基板4の展開図である。本実施例では、1層の導体層を持つフレキシブル基板とするが、多層フレキシブル基板を用いても構わない。フレキシブル基板4には、両端部16に二次元的に配列される端子群(複数の端子10)と、これらの間を接続する配線群(複数の配線12)が具備される。フレキシブル基板4の配線12には一般に銅膜が用いられるので、導電性ゴムなどを用いたコネクタに比べ配線距離が長くなったとしても配線抵抗が少ない。
本実施例では、複数の端子10を、二次元的に配列している。二次元配列であるので、従来の平行露出配線のみからなるフレキシブル基板や導線をゴムに巻き付けたコネクタで接続できる一次元配列の端子群に比べて、より多くの端子を設けることが可能となる。また、端子10の配列を千鳥状の配列などにすれば、端子間配線12を直線的に引くことができる。よって、端子密度の向上や、特性インピーダンスの均一性の観点からも望ましい。
配線12の上部は、図中の斜線部のように絶縁被覆14で覆われていることが望ましい。この場合、端子10は導体を露出させる。
端子10の上にはハンダなどのバンブを載せ、他の部分より若干突出させて端子部に圧力が集中するようにしても良い。
図3は、図1のコネクタ2を構成するゴム部6の一実施例を示した図である。本実施例では、端子圧力を強化するために端子10の配置に合わせてゴム部6にもバンプ状の突起22を具備させているが、フレキシブル基板4の端子10側や接続を行うリジッド基板(図示せず)にバンプがついていれば、図4のようにゴム6側にはバンプ状突起も不要であり、さらに基板の平坦度や結合時の圧力によっては、ゴム6側にもフレキシブル基板4側にもバンプはなくてもよい。バンプを設けない場合は、フレキシブル基板4とゴム部6の接着を行うと接着性が良好になる。
本実施例では、図1や図2のようにフレキシブル基板部4には穴8を設け、ゴム部6には上面26から下面28を貫通する穴(図3では20,図4では24)を設けてあり、この穴どおしの位置を合わせてゴム部6の上面、下面とフレキシブル基板4の両端部とを夫々接着する。・・・
本実施例では、コネクタ2のゴム部6に、端子10の位置に合わせてバンプ状の端子圧力強化用突起22を設けているので、より変形しやすく、かつ圧力がかかった場合は、バンプ部分は他の部分より大きく変形するので、端子部10に圧力が集中して少ない圧力でも安定した接続が可能となる。
以上のように本実施例によれば、配線抵抗の少ない安価な構造の多ピンのコネクタを大量に用いて、通常の実装方式では基板間配線のための用いられてきたリジッド基板の周辺部を全く用いることなく、膨大な基板間配線を実現することができ、周辺部はこのような基板スタックなどを複数並べた大規模システムにおける基板スタック間の水平方向の接続のために用いることができる。」(段落【0090】?【0102】)

上記a?dの記載事項及び図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「接続の安定性を確保するために、二次元的に配列している複数の端子10の配置に合わせて、フレキシブル基板4の端子10側にバンプをつけたコネクタ。」

4.対比
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された発明の「接続対象物及び相手接続対象物間を接続するコネクタ1」は、その構成及び機能からみて、本願発明の「接続対象物及び相手接続対象物間を接続するコネクタ」に相当し、以下同様に、
「接続対象物及び相手接続対象物の接触部に対応する部分に一対の突出部15を形成した弾性体11」は「弾性体」に、
「突出部15及び突出部15間を覆う絶縁性のフィルム21」は、突出部15が弾性体11に形成されているために、絶縁性のフィルム21は弾性体11を覆っているといえることから、「弾性体上に配設された絶縁性のシート部材」に、
「絶縁性のフィルム21に配設されている導電性の導体部31」は、弾性体11の保持面13上にフィルム21を介して、一対の突出部15及び一対の突出部15間に対応した位置に配設されるとともに、長手方向において所定のピッチを有することから、「接続対象物及び相手接続対象物間を接続するようシート部材上の所定位置に所定ピッチで配設された複数の導電体」に、
「フィルム21には、切り欠き部23を形成することによって、導体部31間の弾性体11の変形量に独立性を持たすことで、接続対象物または相手接続対象物の歪や反り、または導体部31の微小な高さの違いに対して導体部31のレベルでの接続安定性を得ることが可能である」ことは、導体部31がフィルム21に配設されているために、導体部31とフィルム21とは、接続対象物及び相手接続対象物の動きに応じて一体的に変形するといえることから、「弾性体の弾性変形により、シート部材と導電体とは接続対象物の接点部の表面及び相手接続対象物の接点部の表面に追従して変形」することに、
それぞれ相当する。

したがって、上記両者の一致点および相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「接続対象物及び相手接続対象物間を接続するコネクタにおいて、弾性体と、該弾性体上に配設された絶縁性のシート部材と、前記接続対象物及び前記相手接続対象物間を接続するよう前記シート部材上の所定位置に所定ピッチで配設された複数の導電体とを有し、弾性体の弾性変形により、シート部材と導電体とは接続対象物の接点部の表面及び相手接続対象物の接点部の表面に追従して変形するコネクタ。」

[相違点]
本願発明では、導電体の各々は、接続対象物及び相手接続対象物にそれぞれ接触する部分の各々に、導電体の表面から突出している複数の突起を有し、シート部材は、シート部材の表面から導電体側に向けて先細のテーパ形状を呈して突出する複数の突起を有し、シート部材の突起により、導電体の突起が形成されており、複数の突起を独立して変位させるのに対して、刊行物1に記載された発明は、当該発明特定事項を具備しない点。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。
コネクタの技術分野において、接続対象物との安定した電気接続を得ることを目的として、1つの接触部を複数の独立して変形し、配線に形成される自然酸化膜等を突き破る、先細のテーパ形状の微少突起を有する導電層により形成して、接続対象物の接触部と多点接続させることは、本願の出願前に周知の技術事項である(例えば、特開2007-67316号公報の粒体12上に形成した「導電層13」(段落【0032】?【0035】、【0044】)や、特開平11-354221号公報の多数の金属粒子41を含んで覆う「めっき層42」(段落【0014】?【0016】)や、特開平7-320825号公報の複数の「突出部123」(段落【0032】)を参照。)。
したがって、刊行物1に記載された発明のコネクタ1において、接続対象物及び相手接続対象物の接触部との安定した電気接続を行うために上記周知の技術事項を適用して、各導体部31の接続対象物及び相手接続対象物にそれぞれ接触する部分に、導体部31の表面から突出し、先細のテーパ形状を呈し、独立して変位する複数の微小突起を形成することは、当業者が容易になし得たものである。

ここで、本願発明と刊行物2に記載された発明とを対比する。
刊行物2に記載された発明の「二次元的に配列している複数の端子10」は、所定の間隔で配置されていることから、本願発明の「所定位置に所定ピッチで配設された複数の導電体」に相当し、以下同様に、
「フレキシブル基板4」は「シート部材」に、
「端子10側に」は「表面から導電体側に向けて」に、
「バンプをつけ」ることは「突起が形成」されることに、
それぞれ相当する。
したがって、刊行物2に記載された発明は、
「接続の安定性を確保するために、所定位置に所定ピッチで配設された複数の導電体の配置に合わせて、シート部材の表面から導電体側に向けて突起が形成されるコネクタ。」と言い換えることができる。
そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、コネクタという同一の技術分野に属し、接続安定性を確保するという同一の課題を解決する発明である。
ゆえに、上記適用に際して、導体部31の微小突起の形成は、導体部31への微小突起の直接形成によるもの、微小粒子の埋設によるもの、絶縁性のフィルム21に設けた微小突起により形成によるもの、のいずれかであるから、接続の安定性を確保するという共通の課題を解決するための刊行物2に記載された発明に接した当業者であれば、導体部31の複数の微小突起を、フィルム21の表面から導電体側に向けて突出する複数の微小突起により形成する程度のことは、適宜なし得たものである。
また、本願発明の奏する効果についてみても、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。
ゆえに、本願発明は、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?2に記載された発明お
よび周知の技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-18 
結審通知日 2011-05-25 
審決日 2011-06-07 
出願番号 特願2007-136927(P2007-136927)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 哲男  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長崎 洋一
稲垣 浩司
発明の名称 コネクタ  
代理人 佐々木 敬  
代理人 福田 修一  
代理人 池田 憲保  

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