• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1240690
審判番号 不服2009-364  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-05 
確定日 2011-07-27 
事件の表示 特願2002-542301号「脈管内人工補綴物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年5月23日国際公開、WO02/39924、平成16年4月30日国内公表、特表2004-512920号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年11月19日(パリ条約による優先権主張 2000年11月17日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年1月4日付けで拒絶理由が通知され、平成20年7月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年9月30日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成21年1月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成21年2月4日付けで手続補正書が提出されたものである。


2.平成21年2月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年2月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成21年2月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】 身体通路の移植のための脈管内人工補綴物であって、前記人工補綴物は細長い管状壁を含んでおり、該管状壁は前記身体通路の断面を閉鎖する環状部を含んでおり、該環状部は第1多孔性部および非多孔性部を含んでおり、該非多孔性部は前記環状部の約150°?約250°の範囲を放射状に覆う脈管内人工補綴物。」(下線は補正箇所を示す。)

(2)補正の目的の適否
本件補正は、平成20年7月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の、「非多孔性部」によって「環状部」を「放射状に覆う」「範囲」を「約90゜?約270゜」から「約150゜?約250゜」と限定する補正であり、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであって、補正前の発明と補正後の発明とは、その産業上の利用分野及び解決しようとする課題を同一とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。

(4)刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された国際公開第98/25545号(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(訳文はパテントファミリーである特表2001-509700号公報の該当記載を援用する。)。
(a)「Technical Field
This invention relates to a purified tela submucosa covered prosthesis useful in promoting the resurfacing and repair of damaged or diseased tissue structures. More particularly, this invention is directed to stents having a layer of purified submucosa covering a surface of the stent, and their use in repairing damaged or diseased physiological vessels, particularly blood vessels.」(第1頁第1行?同第6行)
「技術分野
本発明は、損傷又は疾病組織構造物の再生及び修復を促進するのに有用な、精製粘膜下組織で被覆された人工器官に関する。更に詳細には、本発明は、ステントの表面を被覆する精製粘膜下組織層を有するステント及び損傷又は疾病のある生理学的脈管、特に血管の修復における使用に関する。」
(b)「Summary of the invention
The present invention is directed to an improved prosthetic device for repairing the wall or surface of damaged or diseased vessels. The prosthetic devices of the present invention can also be used in traditional PTA procedures to open narrowed or occluded vessels. In one embodiment, the prosthetic device comprises an elongated shaped expandable member having a luminal and exterior surface, and a layer of collagen-based matrix structure removed from a submucosa source fixed to at least one of the exterior and luminal surfaces of the member. The expandable member is typically a stent wherein expansion of the stent increases the circumference of said member, thus fixing the device at a predetermined location within the vessel.」(第6頁第20行?同第30行)
「発明の開示
本発明は、損傷又は疾病脈管の壁面又は表面を治療するための、改善された人工器官器具に関する。本発明の人工器官器具は、狭窄又は閉塞血管を広げるために、常用のPTA法においても使用できる。或る実施態様では、人工器官器具は、管腔面と外面を有する細長い形状の膨張性部材と、この部材の外面及び管腔面のうちの少なくとも一方の面に固着された、粘膜下組織源から採取されたコラーゲン系マトリックス構造物の層とからなる。膨張性部材は一般的にステントであり、ステントの膨張により前記膨張性部材の円周が増大し、斯くして、血管内の所定の位置に本発明の器具を固着させることができる。」
(c)「In one embodiment (FIG.8), an improved stent 13 comprises a conventional expandable stent 10, wherein only a portion of the exterior of the stent is covered with purified submucosa 11. Upon deployment of the purified submucosa covered stent, the purified submucosa covers an area of the original intimal surface of the vessel to provide a smooth, non-thrombogenic surface and separate flowing blood from the original internal surface of the vessel. For example, in one embodiment a portion of the exterior surface of the stent is covered with purified submucosa band delivered over an aneurysm such that the portion of the stent covered with purified submucosa is placed to separate the flowing blood and the aneurysm, thereby treating the aneurysm.」(第13頁第29行?第14頁第7行)
「或る実施態様(図8)では、改良されたステント13は常用の膨張性ステント19からなる。この場合、ステントの外面の一部分だけが、精製粘膜下組織11で被覆されている。精製粘膜下組織で被覆されたステントを配備すると、精製粘膜下組織は脈管の原内膜面の一部領域を被覆し、平滑で非血栓形成性の表面を供給し、脈管の原内膜面から血液の流れを分離する。例えば、或る実施態様では、ステントの外面の一部を、動脈瘤上に配送された精製粘膜下組織帯で被覆する。これにより、精製粘膜下組織で被覆されたステント部分は血流と動脈瘤を分離するように配置され、その結果、動脈瘤が治療される。」
(d)「In one embodiment(FIG.9), an improved stent 29 comprises a conventional expandable stent 10, wherein the exterior of the stent is covered with purified submucosa 11 except for at least a portion 30 of the exterior for placement in a vessel comprising a main lumen and at least one side branch, such that an uncovered portion 30 of the exterior is placed over a side branch thereby covering the original intimal surface while not covering the side branch.」(第18頁第12行?同第17行)
「或る実施態様(図9)では、改良されたステント29は常用の膨張性ステント10からなる。主管腔と少なくとも1つの側枝からなる脈管内に配置するための、外面の少なくとも一部分30を除いて、ステントの外面は精製粘膜下組織11で被覆されている。これにより、外面の非被覆部分30は側枝上に配置され、その結果、側枝を被覆しないが、原内膜面を被覆する。」

上記(b)の「或る実施態様では、人工器官器具は、管腔面と外面を有する細長い形状の膨張性部材と、この部材の外面及び管腔面のうちの少なくとも一方の面に固着された、粘膜下組織源から採取されたコラーゲン系マトリックス構造物の層とからなる。膨張性部材は一般的にステントであり、ステントの膨張により前記膨張性部材の円周が増大し、斯くして、血管内の所定の位置に本発明の器具を固着させることができる。」との記載事項、並びに、上記(c)の記載事項、上記(d)の記載事項、及び、上記(c)及び(d)で説明している図面図8、図9の図示内容からみて、人工器官器具は細長い管状の壁を含み、該細長い管状の壁は脈管の原内膜面を被覆する環状の部分を含んでいるといえ。
そして、上記(c)の記載事項、上記(d)記載事項、及び、図面図8及び図9の図示内容を合わせてみると、前記環状の部分は精製粘膜下組織で被覆された部分と該精製粘膜下組織で被覆されていない多孔性の部分を含んでおり、前記精製粘膜下組織は前記環状の部分を放射状に被覆しているといえる。

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、引用刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「脈管内に配置する人工器官器具であって、前記人工器官器具は細長い管状の壁を含んでおり、該管状の壁は前記脈管の原内膜面を被覆する環状の部分を含んでおり、該環状の部分は精製粘膜下組織で被覆された部分および前記精製粘膜下組織で被覆されていない多孔性の部分を含んでおり、該精製粘膜下組織で被覆された部分は前記環状の部分を放射状に被覆する脈管内に配置する人工器官器具。」(以下、「引用刊行物1記載の発明」という。)

(5)対比・判断
(イ)本願補正発明と引用刊行物1記載の発明とを対比すると、その構造又は機能からみて、引用刊行物1記載の発明の「脈管」は、本願補正発明の「身体通路」に相当し、以下同様に、「配置」は「移植」に、「人工器官器具」は「脈管内人工補綴物」に、「細長い管状の壁」は「細長い管状壁」に、「脈管の原内膜面」は「身体通路の断面」に、「被覆する」は「閉鎖する」に、「環状の部分」は「環状部」に、「精製粘膜下組織で被覆された部分」は「非多孔性部」に、「精該精製粘膜下組織で被覆されていない多孔性の部分」は「第1多孔性部」に、「被覆する」は「覆う」に、それぞれ相当する。
(ロ)引用刊行物1記載の発明の「脈管内に配置する人工器官器具」は本願補正発明の「身体通路の移植のための脈管内人工補綴物」に相当する。

そこで、本願補正発明と引用刊行物1記載の発明とは、
「身体通路の移植のための脈管内人工補綴物であって、前記人工補綴物は細長い管状壁を含んでおり、該管状壁は前記身体通路の断面を閉鎖する環状部を含んでおり、該環状部は第1多孔性部および非多孔性部を含んでおり、該非多孔性部は前記環状部を放射状に覆う脈管内人工補綴物。」という点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願補正発明は、非多孔性部によって環状部を放射状に覆う範囲を約150°?約250°と限定しているのに対して、引用刊行物1記載の発明は、上記限定を有していない点。

そこで、上記相違点について検討する。
引用刊行物1の上記(c)の「例えば、或る実施態様では、ステントの外面の一部を、動脈瘤上に配送された精製粘膜下組織帯で被覆する。これにより、精製粘膜下組織で被覆されたステント部分は血流と動脈瘤を分離するように配置され、その結果、動脈瘤が治療される。」という記載事項、及び(d)の「主管腔と少なくとも1つの側枝からなる脈管内に配置するための、外面の少なくとも一部分30を除いて、ステントの外面は精製粘膜下組織11で被覆されている。これにより、外面の非被覆部分30は側枝上に配置され、その結果、側枝を被覆しないが、原内膜面を被覆する。」という記載事項から、引用刊行物1記載の発明において、「非多孔性部によって環状部を放射状に覆う範囲」は、身体通路で覆う必要のある部分(動脈瘤等の患部)と、覆ってはいけない部分(側枝部分)の配置に応じて適宜設定されるものであり、当業者が患者の身体通路の状態に応じて適宜選択し得る設計的事項である。
よって、引用刊行物1記載の発明において、患者の身体通路の状態に応じて、非多孔性部によって環状部を約150°?約250°の範囲で覆うように設定することは当業者が容易に想到し得るものである。

なお、本願補正発明は、非多孔性部によって環状部を放射状に覆う範囲を約150°?約250°と限定しているが、当該限定に関する本願の発明の詳細な説明の記載は、段落【0054】に「好ましくは、 非多孔性部25は、約90°?約270°、より好ましくは約150°?約250°、最も好ましくは約180°?約240°の範囲で、管状壁15の環状部の放射状弧を覆う。」とあるのみであり、非多孔性部の範囲を、約150°?約250°に限定する理由は記載されていない。

そして、本願補正発明において、非多孔性部の範囲を、約150°?約250°に限定することによる各別な作用効果もまた本願の発明の詳細な説明には記載されていないから、本願補正発明による効果も、引用刊行物1記載の発明から当業者が予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1記載の発明に基いて、当業者が設計的事項を適宜設定することで容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年7月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 身体通路の移植のための脈管内人工補綴物であって、前記人工補綴物は細長い管状壁を含んでおり、該管状壁は前記身体通路の断面を閉鎖する環状部を含んでおり、該環状部は第1多孔性部および非多孔性部を含んでおり、該非多孔性部は前記環状部の約90°?約270°の範囲を放射状に覆う脈管内人工補綴物。」


4.刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された国際公開第98/25545号(引用刊行物1)の記載事項は、上記「2.(4)」に記載したとおりである。


5.対比・判断
本願発明は、上記「2.(1)」の本願補正発明における非多孔性部によって環状部を放射状に覆う範囲について約150°?約250°を約90°?約270°とするものである。
そうすると、本願発明と引用刊行物1記載の発明との相違点は、上記「2.(5)」での本願補正発明と引用刊行物1記載の発明との対比を参照すると、次のようになる。
(相違点)
本願発明は、非多孔性部によって環状部を放射状に覆う範囲を約90°?約270°と限定しているのに対して、引用刊行物1記載の発明は、上記限定を有していない点。
そして、上記相違点は上記「2.(5)」で検討したように、身体通路で覆う必要のある部分(動脈瘤等の患部)と、覆ってはいけない部分(側枝部分)の配置に応じて適宜設定されるものであり、当業者が患者の身体通路の状態に応じて適宜選択し得る設計的事項であるから、引用刊行物1記載の発明において、患者の身体通路の状態に応じて、非多孔性部によって環状部を約90°?約270°の範囲で覆うように設定することは当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明において、非多孔性部の範囲を、約90°?約270°に限定することによる各別な作用効果もまた本願の発明の詳細な説明には記載されていないから、本願発明による効果も、引用刊行物1記載の発明及び周知の技術から当業者が予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1記載の発明に基いて当業者が設計的事項を適宜設定することで容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2011-02-23 
結審通知日 2011-03-01 
審決日 2011-03-14 
出願番号 特願2002-542301(P2002-542301)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 成彦  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 黒石 孝志
関谷 一夫
発明の名称 脈管内人工補綴物  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 勝村 紘  
代理人 河野 哲  
代理人 風間 鉄也  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 峰 隆司  
代理人 村松 貞男  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 中村 誠  
代理人 福原 淑弘  
代理人 野河 信久  
代理人 峰 隆司  
代理人 村松 貞男  
代理人 勝村 紘  
代理人 風間 鉄也  
代理人 白根 俊郎  
代理人 白根 俊郎  
代理人 野河 信久  
代理人 中村 誠  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 哲  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ